「やめろ!! やめてくれ!!」
無力だ。
ただ見ている、ただ見せ付けられているだけ。
自分と同じ姿をした者が、仲間を傷つけていく。
自分が磨いてきた技が、仲間の血を流す。
「アシュタロス、止めろ!! お前の目的は達成されたんだろ!? だったら、いいじゃねえか!! 皆を見逃してくれ!!」
今、出来る事。
それは祈るだけ。
皆が死にませんように。
俺が、皆を殺さないように。
「こんな事のために俺は強くなったんじゃねえ!! ただ、俺は……俺は!! ちくしょうーーー!!!」
辺り一面闇の中、唯ぽつんと横島という光が激情に身を任せ、輝く。
足りない。
『褒美に受け取ってくれないか? 君は、私がこの手で殺す第一号だ!!』
「――!? お前、まさか…………」
光が足りない。
『そして、私は今度こそ、新たな境地へ――はぁぁぁぁぁああああああああ!!!』
「アシュタロス!? 美神さん、逃げて!!」
この闇を照らすには、この横島<光>だけでは足りなさ過ぎる。
「………………しん……がん?」
ならば、手を貸そう。
我が光が、主を照らそう。
――心眼は眠らない その75――
「……あ。」
急に体が動かなくなった。
でも、何か違う。
怖くない。
ただ、暖かい。
「何だ?……気持ちが安らいでいく……」
知っている。
この光が誰か、俺は知っている。
「……心眼。お前が……え?」
『……今なら感じる。ほんの僅か、ほんの少しの鼓動を……横島……お前はそこに居るんだろ?』
彼女の声が響く。
優しい、全てを包み込んでくれる声。
そうだ。
俺をここまで、導いてきてくれた声だ。
何も恐れる事はない。
今は、この光の中で休んでもいいんだろ?
「――ボケ!!」
眼を瞑りそうになった瞬間、再び自分を罵倒して気合を入れなおす。
「違うだろ!! 止めろ、心眼!! お前、何、考えてやがる!?」
不味い。
こういう時の勘だけは外れたことはない。
「コイツは俺が何とかする!! だから、お前はとっとと傷を治しやがれ!!」
悠闇の胸から流れる血。
やったのは俺達だ。
「許さねえからな……絶対、死なせねえ……」
意識はしっかりしている。
冷静になった。
考えろ。
どうすれば、アシュタロスから意志を奪える。
『――『術者の大切な者を復活させるために、術者の命を差し出すもの』だ。』
そして、最悪の一言。
何をふざけた事を?
誰が、喜ぶ。
誰が、頼んだ!
「ふざけんな!! そんな事、絶対阻止してやる!!」
悠闇の眼が此方を見つめている。
吸い込まれそうだ。
その瞳に誘われるように、横島の魂が鼓動する。
『さぁ、そろそろお別れだ。一足先に、あの世で待っているぞ。』
「っ!? ま、待てよ……頼むから…さ………」
辺りは闇だけだった。
そこにぽつんと佇むたった一つの横島<光>だった。
だが、今は違う。
無数の光が辺りを照らす。
横島を包み込むように、横島を安心させるように。
出口なら此方にあると、無数の光が示してくれる。
『……ふふ、別に全てを託すわけではない。そうだ――』
「お願い、だ…………このままじゃ俺、お前に何一つ……」
こっちだ。
横島……お前が帰るべき場所はこっちだ。
迷ったなら、この光を頼りにしてくれ。
そう、光が囁いてくれる。
『――横島の心は我が守る!』
「――!? 俺の……心を……守る?」
光が闇を照らす。
そして、中庸へと。
これで、五分だ。
『そなたを祝福する、横島!!』
暖かい光に包まれる。
「…………俺を守って死んだ、か。」
未来から来た自分はそう言った。
「……俺の心を守って…………」
彼女は守ってくれた。
横島の心を。
彼女は示してくれた。
ならば応えなくてはならない。
だから、今は…………泣くな。
「…………………………この大馬鹿野郎。」
涙を拭け。
そして、決めろ。
俺達の物語に終幕に相応しい舞台を。
「……なぁ、心眼。やっぱ、あそこが一番じゃね?」
世界が変化する。
ここは現実じゃない。
ここは『本来』は、俺とアシュタロスだけの世界。
「……懐かしいな。」
場は体育館みたいな所へ移動し、中央には黒い線で引かれた四角形が一つある。
”大丈夫だ! 案ずるな! このような敵に倒される、そなたではない!!”
それが彼女の初めての言葉。
”もーヤケクソじゃああ!! 横島忠夫バーニングファイヤーパンチ!!”
後にサイキックスマッシュと呼ばれる技もここで覚えた。
”そ、そくし……?”
”『即死』というのは即座に死ぬ事を言う。”
”そんなこたーわかっとる!!!”
下らないやり取りも、この時からあった。
横島は霊力を溜めるために、妄想させられたりもしていた。
「そういや、あの時の俺って、無茶苦茶言われていたよな〜」
思わず思い出し笑いをしてしまう。
”おぬしが本当は全然大した事は無いザコでアホで無能だと悟らせるな!!”
自分の主人だと言うのに、歯に衣着せぬ言葉。
それほどまでに、あの時の横島は情けなく、自分勝手で、弱かった。
「……なぁ、心眼。俺、あの時からどれだけ前に進めたかな?」
黒い線で囲まれた四角形の中に入っていく横島。
後は、対戦相手を待つだけだ。
「よくわかんねえんだよ。だから、ここではっきりさせる。俺達が初めて出会った場所――GS試験会場で。」
相手はとびっきりだ。
これ以上の敵など考えられない。
「――ここは君が選んだ場所かな?」
「来たか……アシュタロス。」
そう、相手は俺の姿をしたアシュタロス。
俺の幻影だ。
だから、越えなくちゃならない。
俺は俺自身の影を越えてみせる。
「で、ここはどのような場所なのかな?」
「ここは……………てめえがくたばる場所だ。」
「ほぅ……」
そして、居続けよう。
それは悠闇が最も望んだ事。
俺が俺で居る事だ。
「決着つけようぜ。この戦い、俺とお前が戦わなくちゃ終わらない!」
「その通りだ。そして決めようではないか……どちらが最後の勝利者か!!」
互いに構えを取る。
能力は互いに同じ。
横島と、アシュタロス。
光か闇の違いなだけだ。
「思えば、君と悠闇クンには最後までしてやられたよ!!」
横島の栄光の手が、アシュタロスの栄光の手とクロスする。
光の刃と、闇の刃が十字を描き、その衝撃が、両者の後ろへと現れる。
「完全勝利だと思いきや、君を吸収した事によって、人一人殺せなくなるとはな!!」
お互いが、同じ手を打つ。
横島とアシュタロスは同時にサイキックソーサーを投げつけて爆破。
目の前の視界は遮られた。
仕掛けるなら、今。
「だが、いいだろう……私がここで勝利すれば、全てがうまくいく!!」
「……いい事教えてやろうか、アシュタロス?」
「何……?」
此処で、初めて横島とアシュタロスが違う行動を取る。
アシュタロスが双文珠を発動させようとする中、横島は何もしない。
だが、横島の眼に迷いはない。
「俺とお前は同じなんだ。だから、文珠ってのはな――」
《自/爆》
「――発動の早いやつが勝つ。」
アシュタロスの右腕を焼き尽くさんと、業火が舞い上がる。
暴発だ。
「ぐっぅぅぅ!? な、何故だ!?」
「これは俺とお前の違い……二つあるうちの一つだ。」
此処に来て横島は、距離を詰める。
「俺は文珠使い……文珠の扱いなら誰よりも知っている。」
そうだ。
どれだけの文珠を生成したか。
どれだけの文珠を使ったか。
「負けられねえんだよ!! アイツが見ているんだ!!」
「この強さ……いいだろう!! ならば、私は私の強さを見せよう!!」
文珠が使えないと判断したのか、アシュタロスは横島を翻弄するように、右へ左へと、フェイントを入れながら、裏を取る。
「俺の心眼は……目覚めている。」
「やはり、そう簡単にはいかないか!」
だが、それは読んでいる。
フェイントなど意味はない。
アシュタロスは分かっているのだろうか?
『心眼』と『神眼』の違いを。
「確かにお前は神眼を手に入れたんだろう……だがお前は心眼を持っていない!!」
「それが――どうした!!」
文珠の使い方なら横島の方が上だろう。
だが、根本的な力の使い方はアシュタロスが遥かに上回っている。
アシュタロスの重過ぎる一撃は、横島のガードを貫き、弾き飛ばす。
「ぺっ!…………神眼が、相手の全てを見極めるモノだっていうんなら……心眼は……」
血反吐を吐きながらも立ち上がる横島。
負けるわけにはいかない。
ここまで導いてくれた皆のためにも、倒れるわけにはいかない。
「心眼は自分を信じるって事だ!!」
「それがどうしたっていうのだ!?」
横殴りに横島をぶっ飛ばす。
その一撃が横島の意識を刈り取ろうとするが……言っただろう?
自分を信じているって。
「お前にはわかんねえよな……俺は自分を信じているんだよ……」
まただ。
アシュタロスの一撃が横島に迫ってくる。
だが、もう一度もらってやるほどお人よしではない。
先ほどの二発はわざと喰らってやっただけだ。
「俺はお前に勝てる……そう、信じている。」
横島の手に握られた一つの文珠。
刻まれた文字は《王》。
「《王》だと……? 何を考えている?」
アシュタロスは警戒したのか、そのまま横島の方へ向かわず距離をとる。
そう、その位置だ。
アシュタロスはミスを犯した。
もう横島に力は残されていない。
アシュタロスが戸惑わず、今の一撃を横島に向けたなら、それで勝敗は決しただろう。
「何より、皆が勝手に信じて待っているからな……全く、人気者は辛いって奴か?」
横島が苦笑した瞬間、アシュタロスを囲むように、光り輝く三角形が発生する。
「――!? これはいったっ!?」
三角形を形成する三点、それは横島が最初に居た位置の《耳》、其処からアシュタロスに殴り飛ばされた位置の《口》、そして横島の現在地の《王》の三つ。
「さて、ここで問題です。《耳》と《口》と《王》を使って一つの漢字を作りなさい。一体何が出来るでしょう?」
そして、横島は答えを言う。
「正解は《聖》……俺がさっき浴びた光だ……お前も味わえよ。」
《耳》 《口》
《王》
文珠は無限の可能性を秘めている。
横島は《耳》《口》《王》の三つで三角形の《聖》なる結界を創った。
その光は、先ほど悠闇からもらった光と同等。
アシュタロスも唯ではすまない。
「ぐぅぅぅぅう!? な、何だ、これは!?」
呼吸困難に襲われたように苦しみだす。
当然だ。
横島は、唯、純粋に聖なる光をイメージした。
結界となったのは配置上、そうなっただけ。
この光には、彼女の思いと横島(ヨコシマ)の思いが詰まっている。
その思い。
だれが相手だろうが負けるわけにはいかない。
「色々言いたいことはあるんだけどな。だけど、もう終わらせようぜ!」
「ちっ!」
幕を下ろそう。
この光と闇の決闘に、終止符を打とう。
「私の……我が怨念!! この程度の光で消せるものか!!!」
「なっ!? そんな!?」
だが、闇は光を許せない。
お前のせいで俺は悪役をやらされた。
「確かに終わらせよう!!――私の勝利でな!!」
「間に合わない!?」
文珠の発動は間に合わない。
これがそうだ。
これがアシュタロスだ。
この執念が、人類をここまで追い込んだ。
そして今、横島に渾身の一撃を与えようとしている。
だが、横島は――
「――何、負けそうになってやがる?」
一人ではない。
「はぁぁぁああああああ!!!」
「ヨコシマ!?」
「誰だろうが、我が一撃!! 止められるものか!!!」
突然、目の前に現れたヨコシマ。
いや、彼は常に横島の傍に居た。
今、現れたのはこれが山場だと見極めたのだろう。
「くっ!? 流石は……アシュタロスかよ!?」
サイキックソーサーを最大展開で、アシュタロスの拳を防ぐ。
だが、無常にも盾は破壊され、死へ誘う一撃がヨコシマを貫こうとする。
それは再現だ。
先ほどの悠闇とアシュタロスのように……
「――借りは返すぞ。」
ブチっと何かが切れる音がする。
横島の体がブレ、ヨコシマの横へと並ぶ。
そして手を前へ伸ばし、力を共鳴させる。
「力を合わせろ、ここで決める……」
「けっ、誰にもの言ってやがる?」
二人の力が共鳴し、目の前の嵐を押し返す。
究極の魔体すら滅ぼした最強コンビは伊達ではない。
「はぁぁぁああああああああ!!!」
「ハァァァアアアアアアアア!!!」
二人の光がアシュタロスを闇から、引きずり出す。
さぁ、今だ。
「いけ!!」
ヨコシマの喝を背に、横島は疾走する。
そして、時は二人の世界を作り出す。
「……なぁ、アシュタロス?」
世界がスローモーションのようにゆっくり流れる。
そんな中、横島は親友にでも話しかけるようにアシュタロスへ声をかける。
その様子にアシュタロスも若干の戸惑いを感じている。
「俺、思ったんだよ……もしかしたら、俺が世界の敵で、お前が世界の味方だったかもしれないなって。」
偶然、横島は世界を守る側へ回っただけ。
偶然、アシュタロスは世界を壊す側へと回っただけ。
コインの裏と表が簡単に変わるように、もしかしたら……ありえたかもしれない。
彼らの立場が正反対の世界が。
「……横島……その道がどれほど険しいかわかってて進むのか?」
横島の右腕がアシュタロスへと迫る。
アシュタロスに避ける力は残っていない。
仁王立ちして、膝をつかないのは魔神の誇りがそうさせるだけ。
そして、横島の腕はアシュタロスへ届く。
「アシュタロス……俺はお前とは違う。お前は世界を一度壊して、創り直すと言ったよな……」
右手に握りこまれた二つの双文珠が輝く。
これが横島が出した答えだ。
「俺は違う! そんな事しなくても出来るはずだ!!」
アシュタロスは殺さない。
これは横島自身の誓いだ。
「お前は俺の中で見とけ……俺が必ず、この世界を変えてやる!!」
《完/全》《融/合》
「そして未来を変えて見せる!!」
未来横島は、双文珠を使えなかった。
横島は未来を変えるために、力を手にする。
運命なんて、宇宙意思なんて必要ない。
未来は自分の手で作り出す。
「……ふっ、まぁ、せいぜい私に寝首をかかれないように気をつけ給え……」
と、言いながらもアシュタロスの顔は何故か、嬉気に見える。
やってみせろ。
俺に見せてみろ。
いや、俺に見せてくれ。
「嘘つけよ……お前が俺の意識を奪うとしたら、それは一つだけ――俺が諦める事だ。」
そうだ。
だから誓いだ。
諦めればそこで横島は終わり、再びアシュタロスが現れる。
自分自身への戒めのために、アシュタロスを己の中へと入れる。
そして、これは同時に自分を助ける方法でもあった。
アシュタロスは言った。
自分が死ねば、抑止力である横島も死ぬ。
だからそれを逆手に取ったわけだ。
アシュタロスは死んでいない。
だから、横島も死なない。
「……ヨコシマ」
「……なんだよ?」
最後の最後で、道をこじ開けてくれたもう一人の自分。
思えば、彼女とコイツには世話のかけっぱなしだった。
「野郎と話をする暇があったら、さっさと行けよ……ほれ、待ってるぞ。」
「あぁ、ありがとうな……居るんだろ?……………なぁ、心眼。」
そうだ。
あの光は彼女。
横島が自身を乗り越えた戦いの立会人。
光は横島の前に集まり、彼女が姿を現す。
「………………横し、ま!?」
「この大馬鹿野郎!!!」
横島は悠闇を抱きしめながら、罵倒する。
そして、涙が溢れてくる。
「…………すまなかった。お主にこんな思いをさせて……」
場が静まる。
残された時は少ない。
だが今は……この温もりを感じていたい。
「……なぁ、横島?」
「ん?」
二人の距離が開き、最後の会話が始まる。
「我がお主に使った祝眼。それの効果が何か、わかるか?」
「俺の心身共に、完全回復させるんじゃねえのか?」
そうだ。
おかげで、増幅器によって蝕まれていた横島の肉体も既に完全回復している。
失明したはずの右目もだ。
だが、悠闇は首を横に振る。
「いいや、少し違う。我はおぬしを祝福したのだ。横島が元気でありますように……横島が幸せで居られますように、と。」
「俺が……幸せに……?」
横島にとっての幸せとは何だろう?
「なぁ、横島……おぬしにとっての幸せとは何だ?」
「それは……あの日々に帰りたい……あそこが俺にとっての居場所だから……」
「あぁ、そうだな。」
あの日々が懐かしい。
「だから――「今度は俺がカッコつける番だな。」」
「ヨコシマ!?」
横島が胸を押さえて、苦しみだす。
我慢しろ。
俺がお前の望む日常へと帰る手伝いをしてやる。
「全く、俺の目の前でイチャイチャしやがって……どうせこのままじゃ長く持たんしな。だから最後ぐらい好き勝手にやらせてもらうぜ。」
「ヨコシマ……」
胸を抑えながら、ヨコシマは横島に近づく。
よく見てみればヨコシマの姿がぼやけて見える。
それはそうだろう。
元々は南極でアシュタロスに壊されたのを無理やり動かしたに過ぎない。
先ほどまで動いた事事態が奇跡に等しい。
ヨコシマはにやっとした笑顔を悠闇に見せて、今、再び最後の力を振り絞る。
どうせ、南極で消えた命。
どうせ、この魂は消える。
ならば、せめて――
「俺が横島の魂をフォローする。完全に横島の魂に従属する形になってな……そして、心眼……お前の魂を出来る限り、お前に返す!」
納得してもらうつもりはない。
俺は自分勝手なんだ。
このまま無駄死にだけはしたくない。
「いいさ……俺はせいぜい妹達の姿をコイツの中から見守らせてもらう……それに、あのくそ野郎の監視もしなくちゃいけないしな。」
悠闇がヨコシマを止めようとする前に、ヨコシマはそれを完成させる。
最後ぐらい、おいしい役目をやらせて欲しいってもんだ。
「やっぱ横島には何かと厄介ごとが降りかかるしな……誰か見守ってくれる奴がいないと安心できないと思わないか……なぁ、心眼。」
こうしてヨコシマは横島の中へと消えていく。
横島と悠闇に希望を託し……
「…………どいつもこいつもカッコつけやがって……」
「ふん。おぬしが、人の事言えるか?」
中々痛い所をついてくる。
「だが……一番の大馬鹿者は我かもしれぬな。」
「全くだ……だから責任とって最後まで足掻けよ!」
悠闇の姿が薄れていく。
時間がきたようだ。
「あぁ、そなたみたいに足掻いてみるとしよう……」
満足するのはやめた。
まだここはゴールではない。
まだ先がある。
ならばここで終わるわけにはいかない。
「俺も頑張るよ……神が神様でなくなるような世界がを……魔族が魔でなくなるような世界を……人が全ての生き物と共存できるような世界を……必ず!」
それは夢物語か?
いいや、違う。
諦めない限り、可能性はゼロではないのだから。
「おぬしなら出来るさ。まぁ、無茶はするなよ……」
横島ならどれだけ時間がかかろうとも必ずやり遂げるだろう。
問題は、彼はいつも無茶をする所だ。
「安心しろ!! これは自分のためでもあるんだから……人と神様の恋が禁断の関係にならなくなるような世界を必ず創ってやる!!」
結局、行き着くところはそこかと悠闇を呆れさせる。
「おぬしという男は全く……だが、それぐらいがちょうどいいかもな。」
だが、それでこそ横島忠夫だ。
「今度会った時は、お前もハーレム要員の一員だからな!! 覚悟しとけよ!!」
「ふ〜〜……分かった分かった……好きにしろ。ただし、お主の夢が実現出来たらな。」
凄まじい条件付きとはいえ、あっさりOKする悠闇。
本当にいいのだろうか?
「よっしゃーーー!!! 今の言葉、忘れんな!? ぜってー創ってやるからな!! 俺の煩悩パワーを舐めた事を後悔させてやる!!」
調子づく横島。
やはり、ご褒美があるとないでは、やる気が凄まじく違ってくる。
「ほれ、これを持っててくれよ!」
「何だ……? 唯の文珠だが……?」
唯の文珠ではない。
今では、これが最後の文珠だ。
「それはな、俺がアシュタロスに融合される前に俺の霊力だけで生成された最後の文珠だ……」
最後の一つ。
だからこそ、彼女に受け取ってもらいたかった。
「やっぱりさ……最後に思いつく文字ってこれしかなかったんだよな……ダメ?」
悠闇は首を横に振る。
これは自分が守り抜いたもの。
自分はこれが欲しかったのかもしれない。
「これがある限り、我が迷う事はないな……」
――そして、時は来た。
「心眼……いいや――『悠闇』!――今度は悠闇として会おうな!」
「――!? 言ってくれる……だが、そうだな。横島よ……次、我と会うとき、我は心眼ではなく、一竜神として会おう。」
一瞬俯く悠闇。
この顔を横島に見られるわけには行かない。
何とか気を静め、顔を上げる。
「約束だぜ。」
「約束だ。」
景色が変わっていく。
やっと終点みたいだ。
横島は遥か上へと上っていく光を見つめながら、この流れに身を任す。
「……くん!!」
声が聞こえる。
「……よこしまくん!!」
あぁ、ここが俺が俺で居られる場所だ……
「横島クン!? 横島クン!!」
帰ってきたからには、まず最初に言わなくちゃいけない言葉がある。
「……ただいま、皆。」
――心眼は眠らない その75・完――