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▽レス始

「心眼は眠らない(GS)」

hanlucky (2005-06-30 03:17)
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あれから、一年以上もの月日が流れていた。

「――タイガー寅吉!!」
「は、はい!!」

先生に呼ばれ、その場に立ち上がる。
既にクラスの半分が立ち上がっていた。
次々に人の名が呼ばれていき、次はハ行となる。

「――ピエトロ=ド=ブラドー!」
「はい!!」

ピートが皆に倣って立ち上がる。
式は順調に進んで行き、今、証を受け取る儀式の最中である。
ハ行、マ行が終わり彼の番が近づいてくる。
彼の隣の人が立ち上がり、いよいよだ。

「……横島忠夫!!」
「はいっ!!!」

彼は今日、卒業する。


――心眼は眠らない――


式も無事に終わり、皆が片手に卒業証書を入れた筒を持ち、友達と話し合っている。
これからも友達でいようね。
春休み何処へ行くよ?
あ〜まだ大学決まってね〜。
大学でも頑張れよ!

「あ! 横島さん、何処に行ってたんですか?」
「ん、いやな。色々迷惑とかかけてたし、先生達にお礼をな……」

ああ、なるほどと納得するピート。
横島は、そんなピートの学ランのボタンが全て無い事に気付く。

「けっ! 相変わらず、おもてになるようで……」
「そんな事、言わないで下さいよ! 第一、ほら!」

ピートが、横島の後ろから近づいてくる者が居る事を告げる。

「ピート君! 折角、最後に脅かそうとしたのに、邪魔しないで欲しいわ!!」
「おう、愛子か? 卒業おめでとう!」
「えぇ、ありがとう。」

愛子の周りには机が見えない。
愛子の本体は机のため、それからは離れる事は出来ないはず。
それは文珠を使用しても、難しい。
仮に出来たとしても、一時凌ぎにしか出来ない。

「横島クンのおかげよ。ありがとう。」
「気にすんな。どうしてもって言うなら、体で――」

ごつん♪

「もう! 相変わらず、ムードってものを分かってないわね!!」
「おま、え……机で…殴るか?」

何処から取り出したか、愛子の手に机が現れる。
原理は簡単だ。
愛子が身に着けている首飾り。
其処に一つの文珠がはまっている。
刻まれた文字は《空》。
横島は其処になにもない《空》っぽの空間を創り、その中に愛子の本体を出し入れ出来るようにした。
もちろん机全てを入れては、其方に行ってしまうので、僅かに机の脚が出るようにしている。

「愛子ってこれからは先生を目指すんだっけな?」
「えぇ、そうよ。毎日が青春な学園を私が作って見せるわ!」
「どうせなら、俺はお前と性春を――」

バキッ♪

「体罰は……いかんのじゃ……?」
「人が夢を語っているんだから、邪魔しないの!……そうそう、これ、一つ貰って行くわね。じゃぁ、友達が待ってるからまたね!」

照れ隠しなのか、復活した横島をもう一度ダウンさせて、ボタンを一つ貰っていく。
愛子も横島達と過ごした高校生活で多くの友達が出来た。
そして今、此処を卒業し、自分の夢を目指そうとしている。

「思えばこの一年、色々な事がありましたよね。」
「そうか?」

とぼける横島。
ピートも深くはつっこまない。
聞いてくれるだけでいい。
唯、お礼が言いたいだけだ。

「人も、妖怪も、神も、悪魔も関係ない。徐々にですが、共存の道を歩んでいますよ。それにこの一年で周りの人たちも大分色々な事があったじゃないですか!? 先生は日本GS協会会長にいきなりの大抜擢!……タマモさんなんて、今ではトップアイドルですし。」
「まぁ、あの時は凄かったよな〜……いきなりGS協会の幹部連中が汚職やらなんやらで、首が飛んだからな〜。」

アシュタロスが引き起こした大地震の際、多くの妖怪が無償で復旧の手助けをしてくれた事があってか、一年足らずで様々な、妖怪の雇用に関する条例や法案等が可決されていった。
傷ついた家族にヒーリングをかけてくれる妖怪や魔族。
倒壊した建物の中に取り残された人々の救出。
世界の中でも、特に地震の被害が大きかった日本が、ここまで早く持ち直したのは間違いなく彼らのおかげだった。
唐巣が会長になってからは、妖怪の社会進出が今まで以上に活発になる。

「タマモも、何だかんだいって、今の仕事が気に入ってんだろうな〜。」

タマモについてはその美貌から、単純にスカウトの眼にとまり、暇つぶしで始めたのが表上の理由だ。
まぁ、裏では、誰かに命令されたやされていないやら。

だが、一つここで疑問が浮かび上がる。
何故、傾国の怪物と呼ばれるタマモが大手を振って歩けるのか?
それは、ただ単純に横島の知り合いと思われているからだ。
日本の官僚達は恐れている。
――横島忠夫に手を出すな。
これは日本の官僚達の暗黙の了解となっている。
願えば、たった一人で、世界を傾かせる横島に比べれば、タマモなど相手にならない。
いや、横島が神魔達との繋がりが深い事も考えれば、手を出すなど普通の神経では考えられない。
厄介なのは、横島がどれほど強大な力を持っていようが、端から見れば二十歳にも満たない若きGSだという事。
そんな若造に国が頭が上がらないという事を知られるわけにはいかなかった。
よって政府が取った案は、表上は協力関係であった。

「でも、何で彼らは人間達を助けてくれたんでしょうね。」

ピートはその答えを知っている。
手伝ってくれた妖怪達は揃って、ある男と出会ったと言った。
だが、あえてこの隣の男から答えを聞いてみたかった。

「さぁな。何かあったんだろ? 別にいいじゃん。人が隔たりなく、神や魔族や妖怪と暮らせる世界って……まぁ、今はまだ日本の極一部だけどな……」

彼は誓っているのだろう。
世界中が、そうなっていけばいいのに、と。

「そうですね。僕も共存のために、オカルトGメンで頑張ります!!」
「おう。」

そろそろ行くか? と正門の方へ向かう横島とピート。

「あれ? そういえばタイガーは?」
「……魔理ちゃんとお祝いするって言うから、沈めといた。」
「そ、そうですか……」

冷や汗を流しながら、正門を潜る二人。

「――せーの!!」

だが、その瞬間――

「「「「「「「「横島、卒業おめでとう!!」」」」」」」」」
「「「「「「「「「横島先輩、卒業おめでとうございます!!」」」」」」」」」

同級生や、後輩達から、先生達から卒業おめでとうという声が。
唖然とする横島と、実は知っていたピート。

「え?…あ……ありがとうございました!!!」

一番の問題児だったから。
一番の人気者だったから。

「皆、横島さんが好きなんですよ。」
「なんか……まぁ、悪い気はしない、かな?」

皆に手を振ってから、学校を出る。
最後の最後に気合の入る事をしてくれる。

「それじゃ、僕はこっちなんで……」
「あぁ、じゃあ、またな。」

ピートと別れ、一人その場で空を見上げる。
青く澄んでいるこの空。

「さぁて、今日は何処へ行くんだ?」

アシュタロスの超魔力を、自分のものとした横島に文珠の制限など無きに等しい。
GS協会の連中の首を飛ばしたのも、もちろん横島が文珠を使いまくって汚職などを暴露させたからだ。
そして今日もまた、何時もの様に人と共存できそうな者へ会いに行く。


《遭/遇》


頭の中を真っ白にしてテレポートをする横島。
後は横島次第。
新たな出会いをものにするのも、しないのも……


『――目標は何時ものように、転移をしました。』

横島には監視がつけられていた。
もちろん横島は気付いている。

『了解。ただ今、ヒャクメが居場所を確認しているので、お前はそのままその地域の警備を任せる。』
『了解しました。』

だが、この監視は横島を守るもの。
横島の力を付けねらう者達から、彼を守るもの。
そして、この地域周辺には多くの神魔が警備について横島の知り合いを影から護衛していた。
よって、この神族も、横島を守るというよりは横島の知り合いを護衛する役割の方が主だった。

何故、神魔達がこのような事をしているのかというと、やはり横島はもう、自分達では手がつけられない、下手をすれば、世界の危機が訪れると判断されたようだ。
よって、日本政府と同じように下手に横島に手を出すよりは、表向きは協力的にしておこうという事になったらしい。


そんな神魔達に指示を送っている上層部はというと……


「……見つけたのね! 横島さんの現在地はN国、座標は……」

横島が転移すると、何時ものようにヒャクメの出番が来る。
それを指揮官に通達する。
指揮官は、その報告を受け取ると、しばらくは様子見という判断を下す。

「全く、何時もの事だけど、横島さんは働き過ぎよ! 付き合わされる私の身にもなって欲しいのね!!」
「そう腐るな。アイツはアイツで、頑張っているんだ。ならば私達が応援してやらねばならんだろうが。」

ヒャクメの後ろに控えていたワルキューレが宥める。

「はいはい、ワルキューレ中佐殿……」
「それは嫌味か?」

大尉だったワルキューレもアシュタロスの事や、今の役職などのおかげで中佐まで昇進していた。
此処には居ないが、弟のジークについても大尉まで昇進している。

「大体、私情が絡みすぎているのね。今の指揮官殿は……」

此処で指揮をとっているのは、アシュタロスの事件の際、逆天号を後少しという所まで追い詰めた功労者。
彼女は、今では竜神内で数少ない超加速の使い手。

「そもそも、そんなに横島さんを守ってあげたいなら、直接――」


超加速。


「五月蝿いですよ、ヒャクメ。」


「い、いきなりとは酷いのね〜〜〜!!?」

動転するヒャクメを尻目に、しっかり敬礼をするワルキューレ。

「異常はありません!――小竜姫様!」
「ふ〜〜……様付けはやめてって言ってるでしょ?」
「悪いが、癖なだけにどうしようもない。」

妙神山の管理人のはずの小竜姫が何故此処に?
理由は、横島の安全のためだった。
むしろアシュタロスが横島に取り込まれたことによって、味方に引き入れる、静観、抹殺、と様々な案が出されている。
それほどまでに横島はこの世界において不安定要素である。
そう、それは世界のバランスを崩壊させるほど。

武闘派の一部は、断固、横島を永久封印すべきと言っているが、今の横島が素直に言う事を聞くとは思えない。
かといって、力ずくになれば横島の勝利だろう。
だが、横島の周りの人間はそうは行かない。
雪之丞や、鬼道でも神魔が相手ではかなり厳しい。
上級クラスに襲われればお終いだ。
もう分かるだろう。
多重超加速が使用できるといって、それでも守りきれなかったら……
世界は終極を迎える可能性も出てくる。

小竜姫は横島達をそういう者達から守るために、あえて斉天大聖の弟子という立場を利用して穏健派の皆をまとめる事にした。
そして、現在の流れまで持っていく事に成功する。

「……それで、今日も?」

ヒャクメが、小竜姫が何時ものように確認を取る。

「えぇ、確かに生きているはずなのよ……アシュタロスの事件での功績を考慮して封印も解かれている……でも、やっぱり……」

小竜姫が行っていた場所、それは竜神界の宝物庫。
そこで彼女と会っていた。

「アシュタロスが死んでいない今、バランスを保つためにも、あの方の復活は必要なはず……第一、老師と、竜神王様の術は成功しているはずなのに、未だに目覚める気配はない……今日は横島さんの卒業式だったのに……」

アシュタロスが死んでいない今、もし彼女ほど神族の消滅は、バランスを崩す。
だが、それは運任せで考えた場合の事。
そこで活きてくるのが、猿神と、竜神王が彼女へ掛けた術。
それはアシュタロスが使用した術と非常に似ている。
覚えているだろうか?
アシュタロスは偽の肉体が死滅すれば、本体に精神が戻った事を。
運が良かったのは、天龍がまだまだ未熟だった事だろう。
おかげで彼女の精神体は全て抜き取られる事はなく、僅かな精神体が結晶内に残ったままだった。
それを猿神と竜神王は利用した。
結晶内の精神体を回復させていき、彼女が死ねば、残された精神体へ戻るように術を施す。

「……あなたはいつになったら、目覚めるのですか?」

本来なら祝眼を発動させたため、魂が足りず復活はありえなかった。
しかしそれも、ヨコシマの手助けもあり、それを回避する事に成功したはず。

「……もしかして、あの方は自ら目覚めようとしないの?」
「え?」

それは単純に思いついただけ。
理由はない。
たまたま思いついただけ。
だけど、それなら何故、彼女は目覚めようとしない?

「でも……? 分かるって言うの?」

それは最も真実に近い答え。

「……横島さんは大丈夫なんですね。」


話は横島の元へ戻る。

「ふ〜〜、今日は普通かな〜……」

あの後、他にも数箇所を回った横島だったが、協力的だったのは回った内の一箇所だけだった。
だが、それでもいい方だろう。
運が悪い時は、全ての場所で戦闘しなくてはならないのだから。

「あ! そういえば、今日は事務所にあつまるようにって言ってたな……やっぱ卒業祝いか?」

危ない危ないと、事務所へ走っていく横島。
別にテレポートをすればいいだけの話だが、そこら辺は妙な拘りを持っているらしい。

「えっほ、えっほ……」

流れていく街並み。
あの大地震から既に一年と数ヶ月。
街は蘇っていく。

「やっほー横島さん、今からバイトかい?」
「おい、横島! パピリオちゃんはどうした!?」
「べスパちゃんや、ルシオラちゃんは最近、見ないけど何しているんだい?」

あの災害から人々は立ち上がっていた。
横島も自分の持てる力全てを復旧にささげていった。
だから此処に笑顔がある。

「ちーす! 横島忠夫、此処に参上っす!!」

事務所に到着した横島はその勢いのまま、オフィスへと向かっていく。

ぱーん!
 ぱんぱーん!

クラッカーが鳴る。
そして、おめでとう。

「全く……アンタが無事高校を卒業できるなんてね……」
「いや〜。俺も出来るとは思ってなかったっすよ!」

「横島さん、おめでございます。」
「ありがとう、おキヌちゃん。」

「先生、よく分からないけど、おめでとうでござる!」
「……お前にはもう少し、教養が必要だな。」

美神、おキヌ、シロといつもの面子。
だが、横島の妹である三姉妹が見当たらない事を尋ねると……

「え? あ、え〜と……そろそろ時間ね、おキヌちゃん。」
「はい。」

おキヌがリモコンを操作して、テレビをつける。
時刻はぴったり。
テレビに写っているのは、今や人気アイドルのタマモ。
その美貌と、強烈な個性で今やゴールデンタイムにレギュラー番組を持つほどだ。

『それじゃ、今日のゲストなんだけど……実は今日は芸能人じゃなくて、私の知り合いよ。じゃ、出て来て。』
「――ぶぅぅぅぅううううう!? な、なんでやねん!?」

ジュースを飲んでいた横島が盛大に吹き出す。
もう分かるだろう。

『横島家、長女のルシオラです。』
『次女のべスパです。』
『三女のパピリオでちゅ。』

ちなみに大樹と百合子の了承は取っている。
三姉妹は正式に横島家の人間になっていた。

『今日、彼女達は、彼女達のお兄さんに言いたい事があるみたいなので、私はこの場を提供しました。皆も聞いて欲しいの……これは人と人じゃない者達の共存への道の架け橋だから……』

タマモは後ろへと下がり、スポットライトが三姉妹を照らす。
そして、ルシオラは深呼吸をしてから、思いを声に出し始める。

『兄さん、見ていますか? 私達が出会ってから、一年半の月日が流れようとしています。初めて出会ったとき、私達と兄さんは、悪い魔族と若きGSでした。』

ルシオラは続けていく。
初めて出会った日の事を。
そして、それから横島と過ごした日々を。
其処に、人と魔族という関係はない。
唯、この地球上で生きている者同士の触れ合い。
それはあの魔神が、そして横島が求めた一つの答え。
共通された一つの結果。

『兄さんは最後まで私達を守り抜いてくれました……そして、私達に絆を与えてくれました……忠夫兄さん……本当にありがとう。』
「ルシオラ……べスパ……パピリオ……こちらこそな。」

最後に三姉妹がカメラに向かってお辞儀をする。
そして、横島もまたテレビの向こうに居る三姉妹へと感謝の念を送る。
これは横島へのメッセージと同時に、横島の夢を皆に伝えたかった。
分かり合える。
皆、心があるのだから。

『……この世界は遥か昔、人はあらゆる種族と共に生きていたわ……何時の間にかしら? 人は人としか生きられなくなったのは?』

タマモは悲しそうな表情をして、カメラの向こうに居る皆に訴えかける。

『彼女達は、敵と味方という垣根を越えて、分かり合えたわ。そして、私も人と妖孤という壁を越えるために、頑張っている。』

自分は妖孤だ。
でも、それがどうした?

『だからお願い。少しずつでいい……ゆっくりでいいから、知って欲しいの……私達は人間が好きだって!!』


「……タマモの演技のせいで、感動が薄れたな。」

タマモの演技を見て、ジンマシンが出そうな横島。
どうせ、心の中ではあっかんべーとしているに違いない。

「でも感謝しなさい。こういった地道な活動が世論を動かすんだから……」
「分かってますよ……」
『それじゃ、次のコーナーね。今週の音楽ランキング、まずは――』

テレビを消す美神。
それじゃ、これからがパーティーの本番だ。

「とりあえず、いつもの所でぱーっと騒ぐわよ!!」

おーっという掛け声と同時に、皆は魔鈴が営んでいるお店へと向かう。
そして、そこではいつもの面子や、横島のクラスの連中が既に騒いでいた。

「おー横島! とりあえず、めでてぇじゃねえか!!」
「何か適当だな、雪之丞。」

「横島はん、おめでとう。」」
「やぁ、裏切り者の六道さんじゃないですか?」
「き、きっついな〜。」

「ほれ、マリア! アレとソレ、保存できるやつはしっかりキープじゃぞ!!」
「お前らは、いっつもそれやな〜……」

飲めや歌えや、どんちゃん騒ぎ。
しばらくすると、からんからんとドアの鐘が鳴り、誰かが来店してくる。

「ルシオラ!! べスパ!! パピリオ!! ってタマモも!?」
「も!って何よ? 私がきちゃ悪い?」

収録が終わったのか、三姉妹とタマモが到着する。
横島と三姉妹は先ほどの事があったため、照れくさいがいつまでもそうしているわけにもいかず、とりあえず軽い挨拶をかわす。

「え〜と……よ! おつか――ぶふっ!?」
「あ!? ヨコシマ!?」
「ルシオラちゃん!! さっきのお話、俺達、感動しちゃったよ!!」
「タマモさん、サイン下さい!!」

横島のクラスメイトや、そこらの浮遊霊が三姉妹やタマモに群がる。
そして、その集団に踏みつけられ群集に消えた横島。

「く……あいつら、後でぶっとばす……」
「何、ぶっそうな事言ってんのよ。」

何とか向けだした横島はカウンターに居る美神に声をかけられる。

「まぁ、いいわ……ここ、空いてるわよ?」
「あ、はい。」

何か話しがある事を感づく横島。
何となく美神が不安そうな顔をしているのは気のせいではないはずだ。

「……………………」
「え〜と……美神さん?」

グラスに入ったお酒を一杯飲み、美神は口を開く。

「これから、どうするつもり?」
「これから……?」
「――高校を卒業して、例えば、既に一人前と認めてもらっている君は、独立する事も出来るって事さ。」

突然、西条が美神を挟んで横島の反対の席に座る。
確かに横島は既にこの一年間の間に、一人前と認めてもらった。

「まぁ、肝心な事は別に独立がどうとかではないよ……君はこれから何をするんだい?」
「俺は…………」

美神や西条が言いたいことは分かった。
横島の夢。
横島が目指す世界。
それを叶えようと思うなら、今が美神除霊事務所を去るときだろう。
ここは優しすぎるから。

「ねぇ、横島クン。」
「はい。」

美神が横島の方を向く。

「はっきりしなさい! あなたは、自分の夢を追い求めるんでしょ?」
「……はい。俺は……誓いましたから……」

美神は横島の瞳を見て、やっぱりと思いながら、グラスに口を付ける。
この感情が何か、知っている。
寂しい。
だからといって横島の夢を潰す事など自分に出来るわけがない。

「でも、美神さん。俺は……」
「何? つまらない事言ったらぶっ飛ばすわよ。」

折角我慢しようというのだ。
我侭を言わず、カッコいい女を演じようとしているんだ。
それを壊すというならぶっ飛ばす。

「俺にとって帰るべき場所はここっすから……疲れたら、遊びに来てもいいっすよね?」
「……お土産持参なら許す。」

とりあえず飲もう。
彼の門出を祝おう。
全く……今日はいい日だ。

「……もし、妖怪を退治しなくていい世の中になったら、GSも廃業ですかね?」
「さぁね……その時は、また新しい商売でも考えるわよ……いくら、私がお金が好きでも、アンタの夢が大事だって事ぐらいわかるわよ……」

GSという商売が無くなる事はないだろう。
だが、確実に除霊といったものは減っていく。

「横島クン……そのね……私も暇になったら、アンタの夢ってやつに乗ってあげてもいいわよ……」

でも、それはいい事なのだ。
美神は思う。
そんな世界があるというのなら、それはそれでいいだろうと。

「………………勝手に酔いつぶれているんじゃないわよ。」

隣の少年も、兄のように慕っていた男も、自分を残して泥酔している。

「……ったく……まぁ、いっか………………」

彼は今日、卒業する。


学校から、


この街から、


そして、


美神除霊事務所から……


しかし、彼らの絆は決して消えたりしない。


(あ〜〜……これって夢だよな……)

妙に日常間溢れる夢だ。
何時ものオンボロのアパートでテレビを眺めている自分。
だったら、何故、夢と分かるのか?

「よぉ、久しぶり。」
「あぁ、元気にしてたか?」

居るはずの無い彼女が居る。
だから、これは夢だ。
横島は大丈夫だから。
それが分かる彼女が此処に居るわけが無い。

「まぁ、ただ、今日は節目の日だからな……ただ単に祝いの言葉を言いに来ただけだ……おめでとう。」
「ありがとな。」

夢の中、アパートの中で横島と彼女は言葉を交わす事もなく、ただのんびりと時間を過ごす。

「……俺、大丈夫だから。安心しろよ……」
「知っている。この文珠からお主の《心》が伝わってくるからな。」

横島が最後に手渡した文珠は《心》。
横島の心を守ってくれたのは彼女だ。
だったら、その心、くれてやっても惜しくは無い。
故に彼女には、横島が元気に生きているかが分かる。

「ただ、大変なのはこれからだぞ……」
「そだな……でも、何とかなるって……大丈夫だと思ってるから、お前は俺に説教しに来ないんだろう?」
「ふ、そうだな……」

ゆっくりと時間が過ぎていく。
多分、これは最後の一休みだから。

「……それじゃ、そろそろ行くわ。」
「あぁ。」

玄関の方へ向かう横島。
ノブを回して、扉を開く。

「……気合入ったぜ……一番祝って欲しかった奴から祝ってもらえたからな……」

返事はない。
そうだろうな。
アレはただの夢だから。
本物に会うのはまだ先だ。


――始まりはGS試験。


       それが彼女との出会い。


――では、終わりは?


       それはまだ分からない。


――でも、これだけは言える。


       「今日も頑張るか!」


心眼は……


――心眼は眠らない・完――

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