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▽レス始

「月に吼える 第五話(GS)」

maisen (2005-06-27 23:35/2005-06-27 23:47)
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「――――そういう訳でさ、GS助手って形で雇ってもらうことになったよ」

「――――ああ。――――だいじょーぶだって!」

「――――え、なに?戸籍?作っといたって・・・んな、どうやって?!」

「――――あー、母上の実家の方から、ねぇ。まぁ、あんまり頼りたくはないんだけど」

「――――へ?学校?!行けって・・・んな無茶な?!」

ビクっ!

「――――サー・イェッサー!キチントカヨイマス!だからお仕置きだけは勘弁してください」

「うん、ありがと。またね―――――――百合子さん」

がちゃん

「さってと、―――なになに、養子って事で登録してあんのか。えーと」

ごそごそ

「・・・・・よこしま―――――『横島 忠夫』、か。なんかしっくりくる・・・のかな?」

がちゃん

「――――おー、どうだった?」

「・・・・うーん。大丈夫だとは思うけどねぇ。姉さんの子供だし」

「あー。確かになぁ。あの人の息子だもんなぁ。何処に行っても死にゃあしないとは思うが」

「相変わらずうちの実家苦手みたいだし」

「まぁ、長女が連れてきたお相手が、なぁ?」

「人狼ってーのは良いのよ。うちの家系なんて人外なんか―――アレだし。人狼は情が深っていうし、

なにより、姉さんすごく幸せそうだったし」

「そこまでは良かったんだがなぁ。何せ――――

「なんていうか―――――


―――――――名前が『ポチ』だもんねぇ(なぁ)」」


 ひとまず東京に着いた後、美神達と別れ、まず犬飼―――――いや、ここでは彼の偽名、「横島忠夫」と呼ぶことにしよう。―――横島忠夫が一番初めにやった事といえば、住居の確保と、母親の妹である横島百合子と連絡をとることであった。

 幸い住居の方は里から持ち出した資金でも見つける事ができたし、叔母とのコンタクトもうまく行った。

 後は―――――――――


「さて、GS美神除霊事務所、か・・・。初出勤と行きますか!」


 ―――――――――とりあえず生き残ることだとおもう。


――GS美神除霊事務所――

「ちわーっす!!」

「あ、犬飼さん」

 意気揚揚と出勤してきた横島を出迎えてくれたのは、幽霊ながら箒で部屋の掃除をしているおキヌ。
だてに何百年も幽霊をやっているわけでなく、こういった仕事も得意分野である。

「あ、おキヌちゃん。―――うーむ、流石、家事万能なんだねぇ」

「え、えへへへー」

 頬を染めながら照れる美少女に、おもわず「是非俺の嫁さんにー!」と言い出しそうになったが、いまは優先事項が他にある。

「あ、それと俺、色々あって戸籍ができたんで、そっちを名乗ることにしたんだ。横島、横島忠夫っての。改めてよろしく!」

「あ、はい、よろしくお願いします。横島さん」

「それと、美神さんは?」

「美神さんなら、今書斎にいらっしゃると思いますよ?」

 雇い主と、色々と話さなければならないことがある。――――特にお給料とか。


「へぇ・・・横島、ねぇ」

「はい。おば―――百合子さんが色々と、手配してくれて」

「――――何者よ、その百合子さんって?」

「・・・・・・・・・・・・・さぁ?」

 ジト目で横島を睨む美神と、何故か止まらない汗を流しながら見返す横島。
 
「・・・・・・・・・・・・・・まぁいいわ。ところで、あんたの給料だけど、ちょうどいいわね。今から除霊に行くから、そこでの働きを見て決めさせてもらうわ」

「――――――――はい?」

 とりあえず、汗は引いたが、今度は冷や汗が流れ出したことを感じる横島であった。


「で、今日の仕事はここ!ギャラは5千万。たいした金額じゃないから手早く済ませましょ」

「うわー、おっきなビルですねー」

「そうだなー」

 背中に巨大なリュック、両手にはスーツケースのようなものを持ちながら、全く疲れた様子を見せない横島と、その隣でビルを見上げて声を上げるおキヌ。

なんとも緊張感のない一行である。

「しっかし5千万でたいした金額じゃないって、GSって儲かる職業なんやなー」

「すっごいんですよねー? 5千万って」

「さぁ?なんせ金に殆ど縁がないところで過ごしとったからなー。どれくらいのもんやら」

 なにせ住んでいた場所が外界とは隔絶された人狼の里である。お金が必要になることもなかったし、使ったのも今回のアパート確保が初めての横島である。金銭感覚など無いに等しい。

「むぅ・・・・これならこの仕事の頑張り次第では、給料も期待できるかもしれん!」

「私も初めてのお仕事ですから、頑張ります!」

 初仕事と気合を入れる2人を余所に、依頼人と交渉していた美神は上機嫌で戻ってきた。

「ラッキー、報酬さらに5千万上乗せですって!勤労意欲が湧いてくるわねー。さあ、行くわよ、あんた達!」

「ういっす!」

「はい!」


GS美神除霊事務所――――出動


とりあえずビル内に入った美神達は、ロビーを通り抜け、非常階段へと向かう。

「あれ?エレベーターっての使わないんですか?」

「上で悪霊が暴れてるのよ?あんな閉鎖空間に入ってのこのこ上がっていくわけにはいかないでしょ?それに今回は荷物持ちもいるんだし」

「俺がいなかったらどうしたんですか?」

 そのまま非常階段を32階までひたすら登りつづける。浮いているおキヌや、手ぶらの美神はともかく、どう見ても大人一人より重そうな荷物を持ったまま、汗もかいていない横島は、さすが人狼、といったところか。

「さーて。最低限の装備で階段使うか、それとも最大限の装備で危険を冒してエレベーターを使うか。そんな大荷物もって階段上がってたら、除霊に入る前に疲れきっちゃうわよ」

「へえー、すごいです美神さん!」

「だ・か・ら、横島くんっていう荷物持ちもできる助手ってのは、けっこう重要なのよ?」

「まぁ、これくらいならまだまだ平気ですけど、「も」って言うのはなんですか?」

「へっ?・・・あ、着いたわよ。32階社長室。ここね、準備はいい?!」

「はい!」

「ういっす!」

「横島君、神通棍を!」

「えーっと・・・」

荷物を降ろし、背中のバッグから言われた道具を取り出す横島。

「これですね!」

「よし、行くわよ――――――――


――――こうして、3人組での初除霊が


 3・・・2・・・1・・・GO!」


――――幕を開けたのである。


 勢い良く部屋の中に突入したものの、悪霊の姿はなくあたりに広がるのは瓦礫とガラスの破片、高級そうなソファーやテーブルなどの内装の無残な姿ばかり。少なくとも、かなりの破壊力を持った悪霊であることは間違いないだろうが、なにせ情報が少なすぎる。 ―――せめて先発のGSが生き残ってくれていれば、もう少しましな体勢で望めたものを!

 と、胸の中で毒づく美神であった。

 もちろん後ろの2人にはそのことを伝えてはいない。ただ、大変危険な悪霊であるとしか。―――この程度でビビってもらっては、せっかくの助手(しかも結構使えそう)がいなくなってしまうではないか!―――というのは建前で、その本音は、いまだその胸の中。

 ―――油断はあった。これでも日本でトップレベルのGS。そうそうそこらの悪霊に負けはしない。

 しかもたかだか5千万―――上乗せで一億にはなったが―――の仕事である。そんなに心配することもないだろう、という。


―――――――ガラガラガラッ!!


 そんな美神を余所に、先制したのは――――悪霊であった。


「うわっ!」

「―――っ!しまった!荷物!」

 横島が身を軽くする為に、と部屋の外に置いてきたバッグ。見事に裏目となって、悪霊に崩された天井によってその道具への道はあっさりと閉ざされてしまったのである。

「ウケッ・・・ゥケケケケケッ!」

「人格が崩壊しているタイプか・・・一番厄介な手合いね・・・」

 突然虚空に現れた、うつろな眼窩を持った髑髏を中心にナニカが集まったかと思うと、数瞬後には今回の除霊対象である悪霊が出現していた。


「交渉は・・・無駄のようね。なら、このGS美神令子が―――


キンッ!


―――極楽へ


澄んだ音を立てて伸びる神通棍


―――いかせてあげるわっ!」


―――だが


ガキィン!!


 鈍い音と共に打ち負けたのは、

「ケーーーーーーっ!!」

「うそっ!強い―」

「美神さんっ!」

 美神のくり出した神通棍であった。


「くっ!精霊石よっ・・・!」

カッ!

 美神のネックレス、「精霊石」が閃光のような光を放つと共に、跳ね飛ばされる勢いのまま離脱、距離をとると、そのまま壁の裏に転がり込む。

「いたたたた・・・、やっばいわねー。神通棍じゃ歯が立たないわ」

「・・・・えーと、まずいっすか?」

「下手するとあんたと私が死んじゃうくらいには、ね」

「・・・・・・・・・・・・え"」

「一億じゃ安すぎるわねー」

「大丈夫!死んでも生きられます!―――ちょっと死ぬほど苦しいけど」

「まだ死にたかないわいっ!」

「・・・・・しょーがないわねー。横島君!」

「は、はいっ!」

「あんた囮やんなさい」

「・・・・・・・はっ?」

 突如、脈絡もなく美神の口から紡がれたその言葉に固まる横島。

「えーと、美神さん?」

「なによ!早くしなさいってーの!あんた人狼の血引いてんだから、それぐらいわけないでしょう?!」

「ええと、2人の間にナニカ誤解があるようですが・・・」

「誤解も何もあるかーっ!男ならとっとと行けー!!」

げしっ!

「ちょっとまてー!!」

「おキヌちゃん!すこし派手なのやるから離れてて!」

「は、はい!」

 横島を蹴り出し、おキヌに一声かけた後、美神は深い集中に入る。それと共に額の前に垂直に構えられた神通棍には、大きな霊力が溜められていった。

 一方その頃横島は―――

「ぎゃー!!死ぬーーー!死んでまうーー!!」

ドガンっ!

「けーッケッケッケ!」

ズゴンっ!

「うひーっ!!」

 父とその親友に真剣で毎日のごとく斬りかかられる事により極限まで鍛えられた回避能力と

バゴンっ!

「ケーーーーーーーーーーッ!」

 半人狼としての瞬発力でひたすら交わしつつ―――――――見事な囮っぷりを見せていた。

 ―――どこまでも締まらない避けっぷりだったが。


「・・・・・・・・ふぅ。ようやく動きに慣れて来た。人格が壊れてるって―だけあって、動きが単調で助かった〜」


―――たしかに、知性がない為フェイントなんて使わないし、攻撃パターンも単純なものだ。しかし、それを補ってあまりある力と速さ。それがあったればこそのGS第一陣全滅であったし、トップレベルのGSに厄介といわせる理由である。

 それを短時間で「慣れた」という横島忠夫―――いや、犬飼 忠夫と呼ぶのがふさわしいか―――。

伊達に人狼の里1、2を争う剣士の訓練につき合わせられた訳ではない。


「犬塚のおっちゃんの居合に比べれば――――


 悪霊のが伸ばした右手を皮一枚で左側に踏み込みかわしつつ、次の回避に繋げる為の移動を開始する。かわして、動く。かわして、動く。かわして―――


 ――――いや、比べる事さえ、必要ないっ!」


「―――――横島さん・・・すごい、すごいっ!」


 どれだけ時間がたったのか。実際には、2分も経っていなかったろう。

「良くやったわ、横島君!」

そして直視できないほど光り輝く神通棍をもったGS美神が―――

「後は任せなさい!このGS美神が、極楽へ――――


とどめの一撃を


―――――いかせてあげるわっ!!」


悪霊の額に振り下ろした。

―――――ズゴンっ!!


「いやー、なんとか全員無事に済んで良かったわ」

「無事じゃないでしょっ!」

「とっとと離れないあんたがわるいんでしょーが」

「だからってまとめてふっとばすこたぁないでしょーに!」

「いいじゃなーい♪もう傷なんか殆どふさがっちゃったんでしょ?さっすが人狼の超回復って感じよねー♪」

「もう、美神さんったら」

「だいたいとっとと霊波刀を使えば、もっと楽だったでしょーに」

「・・・・・・・え?」

「ん、なに?」

「・・・・・・・・・・使えないっす。霊波刀。つーか、霊力自体使えないっす」

「・・・・・・・・はぁ?!」

 初めて霊力がまともに使えないと知った美神が、真っ青になりながらも「ま、まぁとりあえずそこそこ使えるみたいだし、給料はこれくらいね」といって美神が示した額は―――――


――――――――事務所にいる時の食事と、仕事中の食事、それから歩合給での骨付き肉(横島はこれに一番喜んだ)、時給250円(相場を知らない横島は、とりあえず頷いておいた)であった。


その夜――――

「東京ってところは、星もまともに見えんのか・・・・・」

無事に?初出勤を終えて食事も食べさせてもらい、安アパートに帰り着いた横島はそれを見上げながら一人呟く。

「GSねぇ・・・確かに、命懸けの仕事だ、ありゃ」

空には星が見えずとも―――――――

「でも・・・・」

――――――――細い、細い、まるで裂け目のような月が浮かんでいる。

「・・・・・・・ゾクゾクしたなぁ」

その体の震えは、恐怖でなく

「あんなもんばっか相手にしてるから、GSってのは強いのかな?」

狼の、本能。戦うものとしての、本質。自分に来るとは思いもよらなかった――――

「・・・・・・・・また、ああいうのがでるのかなぁ?」

――――――――武者震い

「・・・・・・・・寝よ」

畳に直接寝転がって、天井をの向こうの月を眺めながら、目を閉じる。

「シロ、タマ、元気でやってるかなぁ・・・・・・・・。まさか、あんなに吹っ飛ばされるとは思わんかったしなぁ。ま、しばらくしたら里の皆のところにも顔見せにぐらいもどらにゃならん、か」

月は、ただ、そこにある。


――――人狼の里・長老の家――――

「・・・・・・・ふぅぅぅぅ」

 深い、ふかぁ〜い溜息をついたのは、人狼の里最高齢にして、周囲の者達から長老として慕われるこの里の長。

「ぐびぐびぐびっ!・・・・・・・・しろぉぉぉぉ〜。ぐしぐし」

 部屋の隅で酒をあおって家出した娘の名を呼んでは、また盃に酒を手酌で注ぐことをひたすら繰り返している泣き上戸、犬塚家の大黒柱。

「沙耶・・・」

縁側に座って「もう少しだったのに、誰かに殴られたせいで川の向こうの妻に再会できなかった」と嘆いているのは犬飼家のポチさん。

「おめでとうっ!生きてるってすばらしいっ!!」

「ああっ、この幸せを皆で分かち合うんだっ!!」

「そっちもおめでとー!あっちにありがとー!!」

「おおおおおっ!飲め―!全部飲むんだーー!!」

「「「「おうっ!!!」」」

庭では奇跡の生還を果たした者達が車座になってひたすら宴会をやっている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜」

―――――長老は、ただ、おも〜い溜息を吐き出した。


ビュゴウっ!

「ここはどこでござるかーー!!なんで吹雪いてるでござるかー―!!」

「きゅ〜ん」

「ああっ!ねるんじゃない狐ぇっ!!」

「・・・・・・・・コン」

「寝たらもうおきれないでござるよーーーー!!」

「・・・・・・・・・・コン」

「兄上に会わずに逝く気かぁぁぁぁっ!!!」

「っ!コーーーーーーーーーン!」

「よっし!もう少しでカマクラができるでござる!手伝うでござるよ!」


シロ・タマ現在地―――――南アルプス 標高2800メートル地点


「兄上ーーーーーーーーーーーーー!!」

「コーーーーーーーーーーーーーーーン!」


 ・・・・・・・・・・おっと、すまないね、来客に気付かないとは、大分集中していたようだ。

 これかい?ま、私の「お仕事」の一つってところかな?気にすることでもないよ。あっても気付きもしないけど、ないとすっごく困るもの。「そういうもの」だよ、これは、ね。

 さてさて、彼らも動き始めたことだし、こっちも少し忙しくなるかもしれないねぇ。とはいっても、別に干渉するわけじゃぁないし、したくとも、できはしない。ただ、見てるだけ、さ。手助けどころか、アドバイスさえできやしない。

 ――――歯痒く感じた頃もあったけど、もはや昔の話だね。・・・・・・・・女性に歳をきいちゃぁいけないよ?まぁ、今、「私」が女性であるだけかもしれないけどね。

 クスクスクス・・・もし、男の「シュレーディンガー」っていうのに出会えたら、聞いてみるといいよ。

 ―――――――――居るか居ないかは、さて、答えは自分で探すのが一番さ。

 ―――――――――言っただろう?私は、そういうものだって。

 ―――――――――それでは、良い夢を


---アトガキッポイナニカ---
 はいすいませんmaisenです。^^;

 今回はGS美神除霊事務所初出動の巻、ということで。

 楽しんでいただければ幸いです。

 いつもいつも感想ありがとうございます。おかげでやる気と書く気だけは充填されております。

 あとは文才も充填できればなぁ^^;

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