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「月に吼える 第弐話(GS)」

maisen (2005-06-26 21:09/2005-06-26 23:06)
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「―――里から抜けたものがいるぞっ!」

「―――誰だっ!?誰が抜け出したんだ!?」

「―――忠夫だ!犬飼さんとこの忠夫だよっ!!」

「―――なにぃ!?あの野郎、親子揃って外で嫁を見つけるつもりだなっ!」

「―――くそッ!・・・・・・させてなるかぁ!只でさえポチさんのときは悔しい思いをしたんだ!」

「―――そうだ!ずるいぞ犬飼家!と言うわけでポチのところに殴りこみだぁ!」

「「「「おうっ!!」」」」


 そのころ、里の中、犬塚宅では長老と犬塚家の父が差し向かいで盃を交わしていた。外の喧騒が聞こえぬわけでもなかろうに、いたってのんびりとした様子である。
 長老は、なみなみと注がれた酒盃をちびり、と一舐めすると、聞こえるかどうかと言った小さな声で対面の男に話し掛けた。

「・・・ようやく決心しよったか。あやつに通行手形を渡したのが1年前。よもやここまで待つとはおもわなんだよ」

40代半ばの、引き締まった相貌を持つ男と、齢80とも90とも見える老人。その二人が交わす言葉も少なく、只、杯を重ねる様子は一種儀式にも似た雰囲気をかもし出していた。

「・・・分かっておったとも。あやつが里を出たいと願っていたことは。―――しかし、しかしだ。あの子もかわいい孫のようなもの。せめて群からはぐれても生きていけるだけの力を持つまでは、と、そう思っておった」

それまで能面のようだった表情を僅かに綻ばせ、

「・・・3年前じゃ。迷子になって、やっと見つけ出して、ひたすらおびえているものかと思えば―――


とうとう堪え切れずに吹き出しながら、


 ―――くくっ 「楽しかった!友達もできたし、それにずっとずーっとひろいんだよ!?なんで皆外に出ないの?」等と言い出す始末。・・・・・・感じてしまったよ。もはや、この子は絶対に止まらん―――

止められんと、な」

それでも瞳に寂しさを秘めながら。

「この年になって、ああいう輝きを見せられると言うのは―――堪えるぞ?まるで、自分が化石のように思えてしまった。もはや変わらぬ、変化できぬ形になってしまったと、な」

更に、その奥にまた別の感情を秘めながら。

「―――寂しくもある。じゃが、楽しみじゃよ。老い先短いこの身に、いったい何を見せてくれるのか。もはや、ワシ等では想像もつかん。・・・先が見えないことを楽しみだと思うのは、―――何時振りかな?」


人は、それを


「―――頑張れよ、我が


――――――――憧れと言うのだろう。


 ―――可愛い孫よ」


「・・・どうした、犬塚。お主、この酒を楽しめんと言うのは酒に対する冒涜じゃぞ?」

「・・・・・・・――――――ヒック。」

「・・・・・・・・そうか。おまえ、酒に弱かったのじゃったな。」

「・・・・・・しろぉ〜〜、お前は嫁になぞ出さんぞ〜〜。ぐしぐし」

「・・・・・・しかも泣き上戸か」

ドタドタドタドタッ

「―――ん?」

「―――ヒック?」

バンっ!!

けたたましい足音と共に、先ほどまで「犬飼家に殴り込みじゃぁ〜〜!」と気炎を上げていた青年たち

がなだれ込んでくる。

「どうした、さわがしいぞ。一人の若者の旅立ちくらい静かに送ってやらぬか」

そう、また新たに満たした酒をあおりながら静かに尋ねる。

「ちょちょちょ長老っ?!犬飼さんが!?」

「犬飼がどうした?」

「犬飼さんが玉葱食べて逝きかけてますっ!?」

ブホッ

長老の口先からアルコールの霧が生まれ、泥酔してぐでんぐでんの犬塚がその霧に包まれる隣の家で。

「沙耶・・・今逝くよ・・・」

1匹の人狼が亡き妻と再会を果たそうとしていた。


「わーはっはっは!!平安京にエイリアンの術ー!!」

 ざくざくざくっ!

「ぎゃー!こらー!忠夫ーー!!後で覚えていろよーー!!!」

 一方その頃、人狼の里に程近い森の中では、忠夫と追手の熾烈な?戦いが繰り広げられていた。

「引っかかる方があほなんじゃー!!ここまで来て捕まってたまるかいっ!!」

「ばっかやろーー!!」

 至近に迫った追っ手を発見した忠夫は、ゲリラ顔負けの罠の数々と、その機動力でひたすら追っ手を

翻弄していた。

―――時には落とし穴に引っ掛け
―――時には真っ黒に塗ったロープを足元に張り
―――時には干し肉の中に匂いが漏れないように背脂で包んだ玉葱を仕込む

 この様々な罠に引っかかり(特に最後)、追っ手はほぼ壊滅状態となっていた。

「ふっふっふ。情報を制す俺は戦いを制す!鼻が鈍いからって自分達の場所がわからんと決め付けたお

前らの負けじゃーー!!」

「クゥーン」

「おお、ありがとな、タマ。お前の鼻のおかげで助かったよ」

 その傍らには1匹の獣の姿があった。何を隠そう、3年前にできた「友達」とはこの獣である。
 迷子になって、一人で途方にくれていたとき、何処からともなく現れて、慰め、食べ物を探してくれ

て、分け合って食べ、一緒に寝て、里まで心を守ってくれた忠夫の恩人なのだ。

「さーて、あとはあそこに行って最後の仕掛けをしたら完璧だな」

そういって、獣を肩に乗せ歩き出す。


―――――――その獣のお尻からは


「さぁ、もう一頑張りだ!」

「コン!」


―――――――9本の金色の尾がたなびいていた。


 はてさて3度目の対面となりましたか。「シュレーディンガー」と申します。
 おやおや、この「せかい」なかなか複雑なこととなっておりますなぁ。とはいえ、これより先を語る

のはまさしく風情を知らぬもの。いやいや、楽しみを奪われると言うことは、私にとって死活問題とも

なりますので、ここは口を閉ざすのが最も良いと感じただけですとも。別に他意はございません。
 紛らわしい話し方は私の存在理由そのものともなりますので。私はただの語り手にございます。干渉

せず、及ぼさず、只、只観測する―――いや、見て楽しむ、と言った方が私としても「楽しい」ですな。

 相変わらず彼の周りには人外がこぞって集まってくるようで。とはいえ、彼を慕うもう一人の少女が(彼本人は気付いておりませぬが)このまま黙っている?――――そんなバカな!それではあまりにも楽しくない!ならば、彼女は追いかけるでしょう!それが「彼」と「世界」の約束事ですから!――――

―まぁ、別名「お約束」とも言われるものですが、・・・・・・そういっては、「風情」がないでしょう?

それではまた会える時まで

―――――――――――良い夢を。


---アトガキッポイナニカ---

と言うわけで第弐話をお送りしましたmaisenです。

皆様感想ありがとうございます^^

おかげでどんどん指が動く動くというw

ひとまずこれにて里での彼のお話は軽く幕引き。次回からは本編に入れる・・・といいなぁ

まぁ、頑張ってみますのでよろしくおねがいします^^ノシ

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