「・・・・・・忠夫よ」
「ん?なんだよ親父?」
――ちゃいまんがな!そんなわけあらへんやろ!
「お前ももうすぐ大人だ・・・」
「んー、そうかなー」
――ピッ ホームラン!クワタ、マウンド上に崩れ落ちました―!
ぱたぱたぱた
「・・・霊刀は出るようになったのか?」
「んにゃ。欠片もでね―よ」
――ピッ ワハハハハ なるほどなーってそんなわけあるかい!
「・・・・・・刀の腕は少しは上達したのか?」
「おう、隣の犬塚のおっちゃんの全力切りをかわせたぞ。反撃した瞬間カウンター 喰らったけど」
「犬塚が?珍しいな、あやつが稽古とはいえ本気で切りかかるとは」
「・・・・・・イヤ、マァ、ホラ、ネェ」
「・・・・・・・・・・またサボっておったか」
――ピッ 逆転!逆転勝利ですっ!これで優勝に王手がかかりました!
――ピッ ワハハハハ
――ピッ それでは今日のヒーローインタビューで
――ピッ それでは失礼しました―!
「・・・・・忠夫よ」
「・・・・・・・なんだ、親父」
「やきゅうをみせろ」
「ことわる」
「なぜだっ!「何故もクソもあるかいっ!ボールが飛ぶたびに尻尾振るな!飯にほ こりが入るんじゃっ!」・・・むぅ」
「全く・・・そんなだから外の人間に犬だとかいわれる―――
キンッ ヒュバッ バシッ (父鯉口を切り一気に斬りつけ 忠夫真剣白羽取る)
―――うおおおおっ!いきなり切りつけるんじゃねぇクソ親父!!」
「犬ではないっ!!誇り高き狼だーー!!」
「だぁぁっ!聞いちゃいねぇ!」
改めまして皆様、ご機嫌いかがでございましょうか?私、シュレーディンガーと名乗るモノでございます。
はてさて、先立って見つけたこの世界。そろそろ歯車が動き出したので覗いてみれば、やっぱりその中心にいるのは横島――いえ「犬飼 忠夫」ではございませんか。この存在、全く、よほど世界に好かれているようで。
それはさておき、今回のお話は彼が16歳、・・・そう、青年と呼ばれるくらいに成長した頃から始まります。はてさて、どんな騒ぎが起きることやら。なんと言っても、彼は何処まで行ってもトラブルに巻き込まれる典型的な「存在」ですからねぇ。
――月の明るい夜・犬飼家・何故かボロボロになっている居間にて――
「っててて。ちくしょー!親父の奴、本気でやりやがって、ってあー!TV壊れてるじゃないかっ!」
ガサリ、と音を立てて瓦礫の中から動き出したのは、和装をした一人の青年――といっても、少々見た目は奇異に写るかもしれない。彼には大きな白い尻尾と犬の耳・・・いやいや、狼の耳がついているのだから。
とまれ、ボロボロの格好のまま彼はすたすたと歩き出すと――その歩みは全く無傷なもののそれに見えたが――彼の部屋の襖を空けた。
ガラッ
「・・・あ〜あ、これで外と中を繋ぐ最後の線も切れちまったか。さーて、どうすっかな〜」
畳の上にもう何年もそのままです、と言った感じに引いてある草臥れた布団の上に寝転びながら、彼は、忠夫は考えていた。
(母上が死んでから4年・・・。4年我慢した。母上の妹の百合子さん――おばさんと言ってマジで殺(や)られかけた。間違ってないのに。何でだ?――とも連絡をつけた。)
布団に寝転がったままで、部屋の隅にちょこんと置いてあるバッグに視線をやる。
(出て行く準備はできてる。外の人間が着てる服も手に入れたし、少しだけどお金もある)
視線を天井に戻し、そのまま屋根を突き抜けて高く、高く―――
そこにある月を見るかのように―――
(―――決行は次の新月。明け方にこそっとでてくのが一番楽やな)
体が疼く。ムズムズと、今から楽しみでしょうがない。外の世界、2度目の世界。初めて覗いたのは母に連れられてであった。百合子さん以外の「母の家族」とやらは、こちらを見る目が嫌悪に溢れてて、二度と会いたくないとしか思えない人たちだと子供心に思ったものであったが。
(それでも、外は外だ。狭い里じゃなく、1日中歩いても端っこになんかつかないくらい広い場所。)
なんとなく体の中で湧き上がる思いが溢れそうで、布団から起き上がると頭でも冷やすつもりで縁側に立ってみる。
(そして――)
いや、溢れさせるな。もしこぼした思いで誰かにばれたらどうする。やっとの思いでもらった通行手形、没収されては目も当てられない。今となっては同じことを全く計画性もなくやろうとしてあっさり迷子になった3年前の自分を思い出す。
(あんときゃほんとに怒られたっけかー。親父に、犬塚さんと奥さん。長老や他の皆も)
――狼は群れを大事にするものだ!その仲間が大変なことになっているのかもしれないのだぞっ!心配しないわけがなかろうがっ!!
(流石にそッこーで謝ったんだよなぁ。長老のあの言葉も効いたけど――)
――兄上、置いていくの?シロを、おいてっちゃうの?
(あんな目で見られちゃあなぁ――年上としては、謝らん訳にはいかんだろ)
記憶に残るのは、3年前の隣の夫婦の子供の顔。2歳年下の元気いっぱいの人狼の子だ。
昨日も散歩に誘いに来たが、あの顔が一番印象的だ。
(すまんな、シロ。だが、今回お前を連れて行くわけにはいかんのだっ!)
なぜならば―――
(俺は・・・俺はっ!
―――――嫁が欲しいんじゃーーーーー!!!
ってはぁっ!!思いっきり声に出してもうたー!」
・・・どうやら、あっさりと、じつにあっさりと溢れたようである。
「まずっ!決行か?しらばっくれるか?ちくしょー!失敗し「ワオーン・・・」・・・ん?」
どこからともなく響いてくる遠吠。いや、何処からともなくではなく―――
「拙者も――!!」
「拙者もーー!!」
「嫁が欲しいぞーー!!」
「ちっくしょーー!!」
「なんで人狼は女性が少ないんだーー!!!」
「ばっきゃろー!!!」
「沙耶ー!!」
「肉くいて―!!」
「ワオーン!!」
「嫁が欲しいよーーー!!」
里中の独り者達の家からであった。
(・・・ああ、同士達よ)ホロリ
なんとなく涙腺が緩んでしまう忠夫である。
――――妻の名を叫ぶ実の父親は無視するらしい。
「―――さて」
とまれかくあれ次の新月の晩。忠夫は最後の準備をしていた。
「それじゃ、行って来るよ、母上」
返事は返らない。この世界でも、よっぽどの例外でもない限り成仏した者には会えない。
それでも、挨拶はしていくべきだと思った。
「何時帰ってくるか分からないけど・・・・それでも、帰ってくるから。来年の命日には帰れないかもしれないけど、許してくれるかな?」
最後まで、ほんとに最期の最期まで笑顔で逝った母であった。それ以外を思い出にしたくないと言った母であった。
「―――いってきます」
だから。
「また今度、だよ。母上」
出かける挨拶は、精一杯の、笑顔を見せて。
「さってと。長老は犬塚さんちで今朝送ったお酒でも飲んでるはずだし」
ちなみにそのお酒、彼の父が床下に、天井に、壁の中にと隠していたもの全てを見つけ出してこっそり長老宅の前に「おすそ分けです、犬塚と一緒にどうぞ 犬飼より」と手紙をつけて置いてきた物である。
――――別に嘘ではない、が、彼の実父にばれたときが・・・まぁ、それは置いておこう。
「ということは、シロも巻き込まれてこない、はず」
もしくは、とっとと寝かしつけられてるか。
「親父は玉葱食わせたからしばらく動けないはずだし」
下手すればそのまま動かなくなりそうではある。
「今日の見張りの位置は確認済み、と」
―――人狼の超感覚が最も恐れるものではあるが、守るものである里の中には自分の匂いが充満しているし、身体能力も(逃げ足限定ではあるが)忠夫の方が上。最初のスタートで突き放してしまえば、追いつけない公算が高い。
「・・・よし、いくぞっ!嫁探しじゃぁっ!!」
―――――おい、何か聞こえたぞっ!!
―――――あっちだ!あっちからだぞ!
―――――良し、回り込め、挟み撃ちだ!!
「ぎゃーっす!!またやってもうたーっ!!」
---アトガキッポイナニカ---
はいすいませんmaisenにてございます。
ようやく里を出ることができました。
残念ながら里からでて外の世界でのお話となります、最も原作沿いに進めるつもりではありますが。
感想をいただくことができてうれしく思っております。皆さん、ありがとうございました。
それでは〜^^ノシ