『Ringu』
進級を賭けたテストだの補習だのでバイトに来れず、二週間ぶりに横島が事務所を訪れてみれば、そこには満面の笑みを湛えた令子が待っていた。
「あ、横島君。待ってたのよ。久しぶりね。元気だった?」
上機嫌でイスを勧めてくる令子に横島は遠くナルニアにいる両親の顔を思い浮かべながら死を覚悟する。
それほどまでに今日の令子は長期で休んだ横島に優しかったのだ。
何しろ令子手ずからアイスコーヒーを出してくるという歓待振りである。
彼がかってのピートの言葉を思い出しても仕方ない。
自分が接待すればするほど顔色が悪くなっていく横島に、一瞬だけ眉を潜めながら令子は「今ね。ケーキを焼いているの。ちょっと待ってて。退屈だったらビデオでも見ていると良いわ。」と言って部屋を出て行った。
しばらく待ってみたが令子が戻ってくる様子はない。
気がつけばいつもは騒がしいシロや暇があれば応接室で本を読んでいるタマモ、それにもう学校から帰ってきているはずのおキヌの姿もない。
それどころか人工幽霊までが沈黙しているのだ。
嫌な予感が体中を駆け巡る。
それを振り払おうとコーヒーを一口含み、ふとテーブルに目を落とせばビデオのリモコンがある。
沸き起こる不安感を振りほどくかのように横島はビデオのスイッチを入れた。
♪チャッチャッチャッチャッチャン
軽快な音楽とともに始まったのは何の変哲も無い幼児番組。
デフォルメされたペンギンの着ぐるみが音楽に合わせて軽快に踊っている。
ピエロのように動き回り、時にはコケたりする姿はひのめでも居れば手を叩いて喜ぶであろうコミカルさだった。
10分程度でビデオが終わると、バタンと応接室のドアが開き笑顔のままの令子を先頭に申し訳なさそうな顔をしたおキヌたちが入ってきた。
先ほどの予感がますます強まって汗をかき始める横島に令子はニッコリと笑う。
「見たわね。」
「見たってビデオっすか?」
「うん♪」
機嫌よく笑う令子の影ではおキヌが申し訳なさそうに手を合わせている。
シロもタマモもばつが悪そうな、それでいてどこかホッとした顔をしていた。
遅ればせながら警鐘を鳴らし始める横島の生存本能。
「ま、まさか…今のって…」
震える横島の肩に手を乗せて令子は席につくように促すと自分もその前に座る。
「まあ落ち着いて聞いてよね。」
そう言うと令子はおキヌに自分の分と横島のおかわりのアイスコーヒーを持ってきてと頼んだ。
「はあ…」と頷きながらも顔色は悪いままの横島である。
おキヌが持ってきてくれたアイスコーヒーで唇を湿らせてから令子は真実を告げた。
「アレはね…呪いのビデオなのよ。」
「やっぱりかぁぁぁぁ!!見たら死ぬってあれっすかぁ?!!あんたと言う人は俺を殺す気ですかっ!そんなに俺が憎いかコンチクショー!!せめて死ぬ前に乳の片っ方だけでも揉ませろぉぉぉ!!」
「落ち着けっ!!」
ソファーから自分に目掛けて飛び掛ってくる横島を、カウンターのストレートで撃沈すると令子はどっかと自分のイスに腰を下ろした。
「大丈夫よ。」
「そんな根拠の無い言い方で信じられるかぁぁぁ!いつっすか?!いつ呪いは発動するんすか?一週間?俺の命はあと一週間なのかっ?!」
「あー…んーと…今夜かな?」
「当日決済っ?!死刑囚より酷え!!ちぇぇぃ!せめて死ぬ前に一人前の男にっ!!」
「だから落ち着けって!死ぬわけじゃないわよ!私たちだってちゃんと生きているでしょうが!!」
錯乱したところを令子に怒鳴りつけられて目を丸くする横島。
「へ?みんなも見たんすか?」
不思議そうな横島の台詞におキヌもシロタマもゲンナリした顔で俯いた。
もちろん令子もである。
「いったいこのビデオって何なんですか?」
彼女たちの表情に恐怖というよりやるせなさを感じた横島は令子に尋ねた。
苦虫を噛み潰したような顔の令子。
それでも重い口を開く。
「何って…呪いのビデオなんだけどね。はっきり言って呪い自体はセコイのよ。命には別状ないの。でも…」
「でも?」
「鬱陶しいのよ!毎晩毎晩子供の悪戯みたいなことをネチネチとっ!!」
思い出したのかくわっと目を見開く令子である。
どうやら相当陰湿な悪戯をされたらしい。
「はぁ?」
「拙者は寝ている間におでこに「犬」と書かれたでござる…」
シロが溜め息をつきながら下を向けばタマモもうんざりした口調で呟いた。
「私はお揚げの中にワサビを入れられていたわ…」
「おキヌちゃんは?」
黙って下を見ているおキヌに聞けば頬を染める元幽霊の少女。
「ベッドの下の本を机の上に並べられて……」
「本?」
「あ?いえ!何でもないんですっ!!」
顔を赤く染めてパタパタとお盆を振るおキヌ。
彼女のベッドの下にある本が非常に気になるが、もしかしたら自分の布団の下と同じなのか?と横島が妄想に突入しかけた時に令子が溜め息を漏らした。
「私はね…下着を全部洗濯されていたわ…しかも脱水前の状態で放置されて…」
「なんとっ!そんなことをしたらシルクが痛んじゃうじゃないですかっ!」
「そうなのよねぇ…って…待て…なんであんたが私の下着の材質を知っている…」
拳にオーラを込め始める令子に横島君必死に弁解する。
「え?あ、あははは…嫌だなぁ…美神さんほどの美女がつけているならシルクに決まっているじゃないっすか…」
「そ、そう…ま、まあいいわ…」
美女と言われてテレたのか頬を染める令子。
隠そうとはしているのだろうが顔がにやけている。
そんな令子を羨ましそうに見ながら呟くおキヌとシロ。
「どうせ私は化繊です…」
「拙者は木綿でござるな…」
聞かなかったふりをして横島は令子に話を戻した。
「でもそんなの美神さんなら祓えるんじゃないですか?」
「それがねー。ちょっと無理なのよ…。」
「はあ…じゃあエミさんに頼むとか…」
「誰がっ!アイツに借りなんか作りたくないわっ!」
「んじゃなんで俺に見せたんすかっ?!美神さんでも無理なものを俺が祓えるわけないでしょうが!」
「それなら大丈夫よ。横島君なら出来るわ。」
その言葉に横島は歓喜の笑みを浮かべて立ち上がると腰を落としてジャンプ一番。
「美神さん…ついに…ついに俺を認めてくれたんすねっ!こうなったら将来の展望などを一つのベッドで朝まで語り明かし…おぐっ!!」
「そういう意味じゃないっ!」
撃墜された…つくづく学習能力が無い男である。
それでも不死身なのは相変わらずで鼻を押さえながらも立ち上がる横島。
「だったら何で…」
そんな横島に令子は表情を真剣なものに戻して尋ねた。
その表情は嘘をついたら狩る!とハッキリ告げている。
「横島君一つ聞くわよ…あなた…ロリコンじゃないわよね。」
「はあ?何をいきなり…」
「いいから答えなさいっ!」
「出来れば同い年か上がいいですけど…」
「そんなっ!年下じゃ駄目なんですか?!!」
「先生っ!拙者は?拙者は?」
うろたえるおキヌとすがりつくようなシロに横島は苦笑いを向けた。
「いや…おキヌちゃんはともかくシロはまずいだろう…」
「そんなぁ…おっぱいはおキヌ殿よりあるでござるのに…」
「そうなんかっ?!…ってそうじゃなくてだな…せめてあと5年は成長してくれんと…」
「ふーん…じゃあ小学生高学年は?」と令子。
「犯罪でしょうがそれはっ!!」
「んじゃ中学生」今度はタマモ。
「む…今後の成長に期待ということで…」
「高校生…」なんだか幽霊時代に戻ったかのような声のおキヌ。
「オッケーですよっ!特にスク水っ!!」
「はいはい。あんたの特殊な嗜好はどうでもいいわ。でもだったらやっぱり横島君が適任ね。」
横島君の趣味にちょっと引き気味の令子だったが、真顔に戻してデッキから取り出したビデオを横島に手渡した。
「いったいなんなんすか?」
「今夜わかるわよ。とにかく今夜はこのビデオと一緒にアパートに帰りなさい。何かあったらすぐに連絡するのよ。」
「本当に命の危険は無いんですよね。」
「私を信じてくれないの?ぐすっ…令子泣いちゃうかも…」
多分に演技なのだろうが背後から抱きつかれれば横島には拒否の選択肢はないのだ。
だって…ねえ。
「ああっ!乳が背中に…耳に息がっ!」
「お願い♪」
「不肖横島!誠心誠意呪いと対決させていただきます!!」
ほら…。
そんなこんなで横島の部屋。
呪いのビデオをセットし、テレビの前に座り込んでいる横島である。
おキヌが持たせてくれた弁当も食ってしまえば後は寝るしかないが、寝てしまえば除霊は出来ないと必死に目を開けている横島の耳に時計の音だけが響いてくる。
やがて横島に唐突に睡魔が襲い掛かる。
激しい睡魔はどう見ても普通のものではない。
咄嗟に隠し持っていた文珠に『醒』と浮かべて握り締める横島。
そしてついにビデオの時刻表示が0:00を示した時、異変は起きた。
操作してもいないのに勝手に電源が入るビデオとテレビ。
テレビは暫く砂の嵐を映していたが、ビデオが回り始めると昼間見た幼児番組を映し出す。
寝たふりをしながらも薄目で画面を見ていると、昼間は陽気に踊っていたペンギンがゆっくりと画面の中でこちらに近づいてきていた。
昼間見た時にはそんなシーンは無かったのだから、これが呪いの発動なのだろうと薄目で画面を見つめる横島の前で、ペンギンはゆっくりとテレビの画面から出てこようとしていた。
その右手と言うか右ヒレには鋭利な輝きを放つカミソリが握られている。
(命に別状ないって言ってたやんかぁぁぁ!!)
心の中でここに居ない令子に突っ込む横島の前でペンギンはテレビから半身をのぞかせた状態で動きを止めていた。
どうやら事務所に比べてテレビが小さいせいで尻がつかえたらしい。
ペンギンは何とか尻を引っこ抜こうとジタバタしはじめた。
ジタバタジタバタ…としばらく暴れていたが綺麗にはまったせいか全然抜けない。
それでも必死に暴れていたペンギンだがついにがっくりと肩を落とすと、涙交じりの声で横島に話しかけてきた。
「そこの男の人…助けて欲しいお…」
「アホかぁぁぁ!!何で俺を殺そうとしている奴を助けにゃならんのじゃぁぁぁ!!」
たまりかねて絶叫する横島にペンギンはヒッと小さく叫んで身を震わせる。
その拍子にポタリと落ちたカミソリを部屋の隅に蹴っ飛ばして横島は霊波刀を発動させた。
「さあ!今、このGS見習い横島忠夫が成敗してやるわ!!」
目の前に霊波刀を突きつけられてペンギンはガタガタと震えだすと情けない泣き声を上げた。
「ヒドイお!りんぐぅは人殺しなんかしないお!!」
「りんぐぅ?」
「わたしの名前だお…」
「そりゃまた両方に喧嘩売っとる名前だなぁ…」
「そんなことは良いから助けて欲しいお!このままだと恥ずかしすぎるお!!」
「夜中に勝手にテレビから出てくるペンギンに同情したやるいわれは無いっ!!」
「そんなこと言わないで助けて欲しいお!助けてくれないと「このお兄ちゃんに襲われる~!」って叫ぶお!!」
「勝手に叫べ!人語を話すペンギンの言うことを信じる奴がどこにいるかっ!」
「そんな台詞はこれを見てから言うお!」
言葉と同時にペンギンはそのヒレで器用に頭をつかむとヌペッと引き抜いた。
どうやら見た目の通り着ぐるみであったらしい。
その下から出てくるのは長い黒髪をして目の大きな美少女の素顔。
だけどどう見ても小学校の5、6年生。
もしこの娘に叫ばれて人でも来た日にゃ、横島君の手が後ろに回るのは火を見るより明らかだった。
「ぐわ…」
一転して不利になる横島君にりんぐぅと名乗った少女は涙目で訴えてくる。
「早く助けて欲しいお!じゃないと叫ぶお!!」
「わ、わかった!」
横島君に選択肢は無かった。
えっちらおっちらと悪戦苦闘すること15分程でりんぐぅと名乗った少女はテレビから抜け落ちる。
「ふー」と息を吐きつつ額の汗を拭う横島にりんぐぅは器用にも正座するとペコリと頭を下げた。
「助かったお。お兄ちゃんはいい人だお。」
「呪いにいい人って言われるのもなぁ…」
「でも人に助けてもらったらちゃんとお礼しなさいと貞〇おばちゃんも言っていたお?」
「あの有名人と知り合いなんか?」
「知らない人だお」
「そっか…まあ良いけど…」
脱力する横島にりんぐぅはニッコリと笑う。
子供っぽい可愛さを浮かべた笑顔に横島はふと違和感を感じた。
「そもそもお前は何なんだ?」
「りんぐぅは呪いだお?」
「どんな?」
「えーと…確か…悪戯するペンギンが居たら面白いだろうなぁ…って考えた人が適当にやったら出来ちゃった呪いだったような気がするお…。んで、りんぐぅの担当になったんだお!」
「誰だよ…そんなピンポイントな呪いを考え付いた馬鹿は…」
「知らないお…」
ヒレで頭をかきかきする少女の目に嘘の輝きは無い。
どうやら本当に何かの偶然で生まれた呪いらしい。担当というのがよく解らないが、聞いてしまえば怖い答えが返ってきそうだったので横島は話題を変えた。
「んで…結局、お前はどういう呪いなわけなんだ?」
「えーと…ビデオを見た人はそれを誰かに見せない限りは毎晩、りんぐぅが悪戯をしにくるという呪いだお。」
「カミソリ持ってたやん」
「髪の毛を剃ろうと思っていたお!」
「それは前にやられたし…」
呪いの雛人形にツルッパゲにされたこともある横島である。
髪の毛は元に戻ったとはいえ、あんな思いは二度とごめんだった。
けど少女の反応はちょっとズレていた。
「そんな!危なくネタが被るところだったお!!」
驚愕の表情を浮かべるりんぐぅに冷たい視線を向ける横島。
「パクリの塊みたいなお前が言う台詞か?」
「ヒドイお!ヒドイお!!」
両ヒレを振り回して抗議してくるりんぐぅを軽くあしらいつつも気になることがある。
「それにしたって何でお前みたいなヘッポコな呪いを美神さんが解呪出来んかったんだろ?」
率直過ぎる横島の言葉にガビーンと効果音を顔に貼り付ける少女の目に涙の固まりがこみ上げてくる。
「ヘッポコ……ううっ…人が気にしていることを…あの女の人たちはりんぐぅの姿を見た途端に攻撃できないって言い出したお。」
「…そういやおキヌちゃんとかは可愛いものとか子供好きだしなぁ…」
「うん。髪の黒い女の人が亜麻色の髪の人を必死に止めてくれたお。あの時はもう駄目かと思ったから凄く助かったお!」
「マテや…お前はそういう恩がありながら悪戯をし続けたわけか?」
「う…だ、だって…それがりんぐぅの存在価値だお!」
「ほほう…つまり結局は俺にも悪戯をしようというわけだ…」
ジトッとした視線を向けてくる横島に少女は必死でヒレを振った。
「だって!だって!りんぐぅはそのために存在するんだお!…ちょ!ちょっと待つお!その縄はなんだお?!」
…しばし過激な描写が続いたとお思い下さい…
「ううっ…児童虐待だお…」
布団に包まれ荒縄でぐるぐる巻きにされて、ちくわの中から飛び出たチーズのような表情で泣くりんぐぅ。
「やかましい。人聞きの悪いことをぬかすな!」
「でも布団蒸しはないと思うんだお~!」
「お前を自由にしていたら俺が安心して寝れないだろうが!!」
「暑いんだおー!苦しいんだおー!!」と頭を振ってジタバタと暴れるが横島もここで譲る気は無い。
「んじゃ悪戯しないと誓え!」
「後ろ向きに善処するお…」
目を逸らす少女に横島君プッツンである。
「蒸れてしまえっ!!」
「酷いおー!」
その時、りんぐぅが登場するとともに電源が切れていたビデオが再びカチリと動き出す。
「む?またお前の仕業か?」
「知らないお?」
身構える横島の前でビデオは録画のランプをつけながら回り出した。
思い当たったのかポンと手を打つ横島。
「おおっ!そういや今日は深夜番組の「ドキっ巨乳だらけの相撲大会ぽろりもあるよ!」を予約していたんだった。」
その言葉を聞いたりんぐぅの顔がたちまち青ざめた。
「ま、待つんだお!そんなことをされたらりんぐぅのお家がっ!!」
「は?お前ってビデオに住んでいたのか?」
「決まっているお!早く止めるお~!!」
「む、すまん!」
慌てて操作しようにもリモコンがどこにあるかわからない。
オタオタしているうちについにテープが切れたのか巻き戻り始めた。
「だおぉぉぉぉぉぉ!!!」
簀巻きのまま泣き崩れるりんぐぅにさすがに罪悪感を覚える横島。
ポリポリと頭をかきながらも縄を解いてやるとりんぐぅは一目散にテレビに向かって駆け出し画面に頭を突っ込んで叫んだ。
「再生するお!!」
「わ、わかった!!」
枕の下になっていたリモコンで操作すると画面の中からりんぐぅの悲鳴が聞こえてくる。
「だおぉぉぉぉぉ!りんぐぅのお家にお相撲さんが一杯だおぉぉぉぉ!!」
「何っ!まさか巨乳ってのは男なのか?!」
「お相撲さんは普通男だおっ!」
「騙されたぁぁぁ!!」
テレビから頭を抜いてガックリと膝をつくりんぐぅの横で横島も膝をつく。
案外似たもの同士かも知れない。
やがてりんぐぅは涙に濡れた顔をあげるとピシっとヒレを横島に向けた。
「責任取るお!」
「責任ってどうやって!」
「ここに住ませるお!」
「待てい!そしたら俺は永遠に悪戯され続けるのか?!」
「家主には悪戯なんかしないお!」
今度はどうやら本当っぽい。
呪いの本体がお相撲さん番組に上書きされて色々と追い詰められているようだ。
気の毒とは思うが横島は中々ウンとは言わない。
そりゃあこんな少女といきなり同棲を始めるなんてことになったら色々と差し障りがあるだろう。意外に常識的な思考をする時もあるようだ。
「ぬ…だが…ペンギンと同棲しているとなると世間の目が…それにここはペット禁止だし。」
「脱げばいいお!」
「脱げるんか?」
「当たり前だお!背中をみるんだお!」
言われてりんぐぅの後ろに回ってみれば確かにファスナーがある。
ヤレヤレと溜め息をつく横島。
「んじゃ脱げばいいだろ…」
「お兄ちゃんはアホだお!この手でどうやって背中のファスナーを下げれるんだお!」
「アホって何じゃい!…つーか、んじゃお前どうやってファスナー閉めたんだ?」
「そ、それは企業秘密だお…」
「あー。もう面倒くせぇ…脱がすぞ!」
「お兄ちゃん…いきなりなんてわたし怖い…でも、お兄ちゃんなら「やかましい!」…だおっ!」
いらんことを言うりんぐぅの頭に拳を落として横島は背中のファスナーを下ろした。
中からヌペッと現れたのはやはりローティーンの少女だった…だったんだが…。
「またまた待て…なんでスク水なんだ?」
「着ぐるみの中は暑いからに決まっているからだお!」
「余計蒸すだろ…」
普通は蒸す。もっとも横島とて着たことは無いから見た目の判断ではある。
「でも他に着るものがないんだお…」
「俺もないしなぁ…」
「んじゃこれで我慢するお」
ニパッと笑うとこれが元は呪いの一種だとは思えないほど可愛かったりする。
だけど横島君のストライクゾーンからは外れていたようだ。
「なんか嫌な予感がするんだよなぁ。」
「何を訳のわかんないことを言っているんだお!兎に角今日はもう遅いから寝るお!」
「寝るって俺はどこに寝ればいいんだよ!」
「レディに床で寝ろと言うのかお?」
「わかったよ…でもタオルケットは寄越せよ。」
さも当然という風情で自分の布団に寝っころがるりんぐぅに横島は優しく声をかけた。
さすがにここまで来れば彼女が悪戯をする気がなくなっているぐらいのことはわかる。
その声音に安心したのが少女はニパッと笑うと手を振った。
「了解だお…んじゃお休み~…すぴー」
「はやっ!」
あまりの寝つきのよさに驚いたものの、横島とて色々あって疲れているのには変わりない。
苦笑いしながらりんぐぅにタオルケットをかけてやると、少し離れたところにごろりと寝転んだ。
鼻からちょうちん出しそうな勢いですぴょすぴょと寝ている少女の姿に横島の顔に優しい笑みが浮かぶ。
「妹ってのはこんなもんなのかもな…」
離れたところに居る妹分を思い出しながら横島は静かに目を閉じる。
一人っ子の彼にとっては妹という存在は新鮮だった。
「そのうちパピリオにも会いに行かなきゃなぁ…」
誰にとも無く口に出すと、それに答えるかのように少女がクシュンとクシャミをする。
起き出して少女が寝相の悪さゆえに吹っ飛ばしたタオルケットをかけなおしてやってから、横島は再び横になると目を閉じた。
「まあいいさ…明日でも美神さんに相談しよう…」
そして彼もゆっくりと睡魔に身を委ねていった。
翌朝、横島の身を案じて朝一番にやってきた事務所の面々は、スク水の少女と寄り添って暢気に大口を開けて寝ている少年の姿を目撃することになる。
早朝の町内に美女の怒声と少年の断末魔が響きわたることになったのは言うまでも無い。
りんぐぅ?
彼女はまだ横島のところに居るそうだがそれはまた別のお話。
おしまい
後書き
ども。犬雀です。
さて、とりあえず書き溜めていたギャグ短編分はこれで全部終わりです。
後は今、こそこそと書いている奴がありますが、発表できるのはいつになるか…。
除霊部アフターの短編「その後のメドさん」になるか壊れ人工幽霊物の「人形の反乱」になるか、それともまだ題名も決まってない奴のプロットを進めるか…。
うーむ…しばらく考えますです。
とにかく今は長編を書く余裕が無いので短編続き物形式で色々と試してみたいと思います。今後ともご贔屓くださいますよう平にお願いいたします。
では
1>ヒロヒロ様
使ったら横島君は確実に死んでるでしょうなぁ(笑)
2>Yu-san様
あはは。確かに。でもおキヌちゃんにストリーキングをやらせると犬はきっと呪い殺されますです(笑)
3>偽バルタン様
全治1週間だったと密偵に放った雀が言ってました(笑)
4>tomo様
一発ネタですんで改訂版はちょっと…(笑)
でもエロイおキヌちゃんは書いてみたいです。もちろんギャグで。
6>柳野雫様
笛はロケットの形をしていたそうです(笑)
7>リーマン様
あのまま終わらせようかとも思ったんですが…やはり無理でした(笑)
8>とろもろ様
カオスとアース様は茶飲み友達という噂が(大嘘)
9>なまけもの様
いつも過分なお褒めありがとうございます。
とりあえず書いていることは書いていますが投稿は未定であります。
なるべく雨降りはSS書きに専念することにいたしますので気長にお待ち下さいませ。