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「除霊部員シリーズ幕間話 「北海道夜話」(後編 夜に這う) (GS+オリ)」

犬雀 (2005-06-22 18:21)
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『夜に這う』


なんだか燃え尽きた感のある女性陣を尻目に手早く晩御飯の準備をしていくシュマリとキムンカムイ、そして小熊と小狐たち。
とは言ってもバーベキューだから食材を切るぐらいである。

すっかり気の抜けた女性陣が風呂から出てみるとすでに準備は整っていた。

宴の料理はシンプルながらも素材の味が生きていて素晴らしい。
特にキャベツやタマネギなどの野菜とシャケの半身に味噌風味のタレを塗って焼いたチャンチャン焼きなる料理は豪快であった。

その横では網の上で焼けて口を開けたホタテ貝に小狐がちょっとずつ醤油を垂らしている。
そんな微笑ましい光景にさすがの女性陣たちも何とか我を取り戻した。

宴半ばにしてキムンカムイが酒瓶を取り出してくる。
一応、軽い食事を済ませて床に戻った天本のかわりに名目上の引率者となった魔鈴がちょっとだけ眉を顰めるが「これは神酒(ソーマ)だ!」と山の神様に笑顔で言われれば拒否も出来なかった。
神酒と言うわりにはコンビニの袋から出てきた気もするし、値札もついていたが、神様が率先して盛り上がってしまったんだから仕方ない。

次々と注がれる酒にまずおキヌが沈没し、小熊たちに抱えられて部屋へと連れて行かれた。

それ以外の女性陣は皆アルコールには強いようだった。
大人の魔鈴、神様の霧香やモモ、ユク、それに妖怪の愛子やアリエスが人間の酒に強いのは理解できるのだが意外だったのは小鳩である。
酒精に顔を赤く染め、匂うような色気をかもし出しながら注がれるままに杯を重ねているのだが酔っている素振は無い。
どうやら長年の粗食生活で肝機能が鍛えられていたらしい。

そしてもう一人、ケロッとしているのは唯。
酒を水のように飲みながらも顔色にいささかの変化も無い。
もしかしたらどっかから漏れているのかも?と思わせるうわばみ振りだった。

対する男性陣は神様はともかくとして滅法酒に弱かった。
ピートは日本酒とはソリが合わないのかフラフラしながら「ケケケケ」と笑い始めるし、タイガーは泣き上戸なのかその図体に似合わぬ量の酒に飲まれて「ワッシはどうしてこんなに影が薄いんじゃぁぁ」とキムンカムイに泣きついている。

横島はといえばまあまともな方だった。
最近は時々、令子の晩酌につき合わされていたせいなのかも知れない。

それでも少年らしい顔ながら目元を赤く染める様に女性陣がグビリと喉を鳴らす。
何か微妙なツボに入ったようだ。

やがて食べ物や酒もきれ、宴もお開きになった。
後片付けはシュマリやキムンカムイとその眷属がやるというのに甘えて横島たちはそれぞれ宛がわれた部屋へと戻っていった。

だがそれなりに酔いの回った横島には「なぜ自分だけがタイガーたちと別室で、しかも本館から離れたちょっと不便な離れ」を宛がわれたのかということまで考えることが出来なかったのである。


部屋に戻った少女たち。
すでに爆睡しているおキヌとおっとりしている小鳩以外はなにやら不穏な空気をかもし出していた。

先陣を切って口を開くのはトラブル大好きカッパ姫様のアリエスだった。
ほんのりと目元を赤く染めながらもその視線は獲物を追い詰めるために考え込むハンターのものだったりする。

「さて…後一時間もすれば忠夫様もお休みなるはずですわね…」

「えう。そうですねぇ。」

こちらは唯。顔は素面なんだが目が血走っている。
愛子はそんな二人が良くないことを考えているのにとっくに気がついていた。

「何をしようと言うのかしら?」

警戒心丸出しの愛子の声にアリエスは妖艶な笑みを見せながら拳をグッと握り締めて宣言する。

「夜這うのです!!」

ホントーにこのエロガッパは…と愛子の肩から力が抜ける。
だがそんな愛子にはお構いしないにアリエスはいつの間にか用意されていた?演壇の前に立つとスポットライトを浴びながら拳を振り上げて演説を始めた。

「旅行先!それは男女のラブラブイベントを発生させる重要なポイント!かつて多くのカップルが旅先でその開放感ゆえに結ばれたのです!普段はエッチくてもいざとなったら空気を読めない忠夫様とて今ならばその開放感に身を委ねるは必定!!今宵をただの惰眠を貪るためだけに消費するなぞ許されるのでしょうか?!否!許されはしないのです!!」

「おー!」と手をあげて応える唯だが状況がわかっているかどうかは怪しい。
なぜなら彼女の頭の上にはハテナマークがフワフワと漂っているのだから。
アリエスの演説はまだ続く。

「しかし!しかしであります!!忠夫様が私たちの部屋に来てくれるでしょうか?いいえ…様々なシミュレーションの結果、答えはNOであります!ならば!ならば敵が来ないのに篭城などもってのほか!!こちらから打って出るのが戦士の本懐というものでありましょうぞ!!よってわたくしは精鋭一名による奇襲作戦を提案するものであります!!」

もう後半はわけわかんねーことになっているが、その迷演説にヤンヤの喝采を送る唯。
どうやら意味は解らないなりにアリエスに賛成のようだ。

愛子には理解できた。(こいつはマジだ…ほっとけばマジで夜這う気だ)と言うことが。

時折壊れるとはいえ良識派のおキヌが寝ている今となってはアリエスの暴走を止めるのは自分と小鳩しかいない。監督者たる魔鈴は別室にいるのだからと考えて小鳩を見れば彼女も真剣な目で考え込んでいた。

顔を赤く染め頬に手を当てて考える小鳩の頭の中では天使と悪魔が討論会を始めていた。

(そんな…横島さんの所に夜這いに行くだなんて…そりゃあ魅力的な話かもしれないけど…やっぱり小鳩には…)

ためらう小鳩に金髪美乳の悪魔が囁く。

(おほほほほほ。でしたらわたくしが先に頂きますわよ〜)

反対側から貧乳オチビの天使も囁く。

(うけけけけ。我慢は体に毒ですぜぃ…)

両方から誘惑されて戸惑う小鳩の良心。

(そ、そうかな…やっぱり私も参加した方が…って…何で?何で悪魔と天使の意見が合うの?!!……えええええ!アリエスさんに唯さん?!!)

小鳩の心の中でデフォルメされたコスプレアリエスと唯が手を取り合って踊り出した。

((こっちへおいで〜))

(いやぁぁぁぁぁ!!私の心に入ってこないでえぇぇぇぇぇ!!!私をマヌケに誘わないでえぇぇぇぇ!!!)

両手で頭を抱えてしゃがみこみブンスカと首を振る小鳩の周りを飛び回る天使と悪魔。

((うけけけけけけけけ))

「いやぁぁぁぁぁ!!…あふう…」

呆然と見ている愛子の前で小鳩は頭を抱えて叫んだかとおもったら、虚ろな目をしてみせてカスミソウの花のように儚い笑顔を見せパッタリと倒れた。

「ちょ?!小鳩ちゃん!!どうしたの?!こ、これは精神汚染!!」

慌てて愛子が抱き起こしても小鳩は「あは…あは…」と笑うだけ。
どうやら精神に負荷がかかりすぎて倒れたらしい。
とりあえず命に別状はないようだと安心しながらも、おそらくはその元凶であると思える二人をキッと見据える愛子である。

「な、何をしたの?!」

「えう?私は別に何もしてませんよぅ?」

「わたくしもですわ?」

キョトンと顔を見合わせる唯とアリエスからは嘘をついているという気配は感じられない。
だったらなぜ?と言いかけた愛子を遮るかのようにアリエスがポツリと呟いた。

「あー。そういえば迷うのは良くないって心の中で応援したような…」
「私もですっ!」

「それよぉぉぉぉ!!なにを考えているのあんた達はっ!」

時折、鼻から魂飛び出させる二人ならではの芸当だったのか、それとも無駄に強い精神力の現われか、とにかく小鳩の精神に影響を与えちゃったらしい。
絶叫する愛子に二人は小首を傾げて呟いた。

「何を考えてるって言われても…強いて言えば「受け」でしょうか?」

「受け?」と怪訝な表情になる愛子に唯が追い討ち。

「ウケ!」

そして二人で声を合わせて…。

「「うけけっ!!」」

「殴るっ!絶対に殴るっ!!そこを動くなぁぁぁ!!」

本気でプッツンして突っ込もうとする愛子の足がピタリと止まる。
「え?」と体に力を入れても愛子の体はある場所を境に一歩も前に進めなくなっていた。

「これは?!」

驚く愛子にアリエス勝利の高笑い。

「おーっほっほっほっ。愛子様、あなたのスタン〇…ゲフンゲフン…その女体が本体の机から半径二メートルしか離れられないのを知らないわたくしだと思いましたの?」

「な、何をしたのっ!」

焦る愛子だがやはり一歩も前に進めない。

「おほほほほ。愛子様が小鳩様に気を取られている隙に本体の足をこの「ぺとぺとカッパ液」で床に接着させていただきましたっ!!」

「なんてことすんのよぉぉぉぉぉ!!!」

人望どころか友達無くすぞカッパ姫…。

「あ、ご安心下さいませ。明日の朝には取ってさしあげますから。今日はごゆっくりお休みくださいな…クスクスクス」

「ううっ…こんな手に…」と跪く愛子をアリエスは優しく慰めた。

「すみません愛子様…ですが愛は闘いでもあるのです…かつてカッパ族の将軍も言っていましたわ…「ジオンに兵なし!!」と…」

「嘘よぉぉぉ!!」

涙を振りまきながら絶叫する愛子にアリエスは魅惑の交換条件を突きつけた。
そりゃあもうニッコリと天使の笑みを見せながら。

「まあまあ…二番手はお譲りしますから…」

「ぐすっ…わかったわ…」

いつの間にか丸め込まれた愛子ちゃん。いと哀れ…。
だけど人望無くても洗脳技術に長けたアリエス相手では純真な愛子では太刀打ちできないのである。
しかし反論は意外なところからやってきた。

「待ちなせい!私がいることを忘れていませんか?!」

愛子が二番なら下手すれば私は三番?となっては流石の唯も黙っていられなかったのだろう。その小さな体から闘気を滲ませてアリエスに迫る。
そんな唯をアリエスはただ黙って見つめていた。

「う?」

もしや何か罠が?と身構える唯にアリエスはにっこりと笑う。

「ですがねぇ…どうせ唯様はそろそろタイマーが作動しますでしょ?」

「タイマーって何ですかっ?!」

「だって唯様って0時以降に起きていられたことないそうじゃありませんか…。お仕事の時も0時前に帰ってきているんでしょ?」

問題外と言いたげなアリエスに唯は不敵に笑う。

「ふっふっふ…私が何の準備も勝算も無いと思いましたかぁ?」

「え?」

怪訝な顔になるアリエスに唯は自分のカバンから取り出した何かを突きつけた。

「こ、これは!紫マムシ&ハイメガスッポンパワードリンク!!しかも徳用1リットル瓶!!」

驚くアリエス。無理も無いその瓶はすでにカラだったのであるから。
唯の目が血走っていたのはコイツのせいらしい。

「えうっふっふっ…これを飲み干した今の私には睡魔なぞ敵ではありませんぜぃ…」

不敵に笑う唯にアリエスも一瞬の自失からかえってニヤリと笑い返す。

「甘いですわね…唯様…そのドリンクの本来の用途は眠気覚ましじゃありませんわよ…」

「えう?」と首を傾げる唯にアリエスは懐から取り出した一枚の生写真を見せ付けた。

「えいっ!忠夫様のお宝写真!!」

どんな写真か愛子からは見えなかったが、それを見せられた唯の表情が真っ赤に染まったかところを見ればヤバイ写真なんだろう。
確かにカテーテルの時に撮るチャンスはいくらでもあったのだし。

「え…えうぅぅぅぅ…えうっ?!!」

茹でタコをはるかに超えるほど赤面していた唯のコメカミからプシッと噴き出すの一筋の鮮血。強壮ドリンクを一気飲みして臨界だった血圧にコメカミの血管が耐え切れなくなったようだ。

「ああっ!唯ちゃん!!」

「ち、血がっ!血がっ!!」

噴水よろしく血を吹きながらジタバタと暴れていた唯にアリエスはコップを差し出した。

「唯様!このままで失血死ですわ!これで血を受け止めてっ!!」

「はいですっ!」

器用にも噴き出す血をコップで受け止めるもののすぐに一杯になりそうな勢いだ。

「唯様!自家輸血!自家輸血!!」

いつの間にかナース服に着替えたアリエスが唯の血管に管つきの針を刺した。
お姫様、医療技術もあるらしい。まったく得体の知れない女王である。

しかし圧がかかっている訳でもないので血はなかなか唯の体に戻らない。
それにじれてついに叫ぶ唯。

「こんなんで間に合いますかっ!!」

力んだ拍子にプチッと反対側のコメカミからも出血し、さしもの唯もぱったりと倒れた。
まあ…この子だから体中の血が抜けても死にはしないだろう。


気絶したせいか出血も止まった唯を見下ろすアリエス。
ついに彼女をはばむ敵はいない。

ルンルンと小躍りしながらドアに近づいていくアリエスを唇を噛んだまま見送る愛子。
洗脳は解けたっぽいがかといって動くことも出来ないのだ。

「では〜。行って参りますね。終わったら呼びに戻りますわ…でも…」

そこでアリエスはイヤンバカンと身をくねらせた。

「一晩中だったらどうしましょう〜♪」

ウキウキとドアを開けたアリエスの喉元にスルリと巻きつくのは黒い服を着た人物の右手。
「へ?」と思う間もなくコキュってな感じの音がしたかと思うとアリエスはクタリと白目むいて崩れ落ちる。

「な?」

呆気にとられる愛子だが無理も無い。
ドアが開いた途端に黒覆面と黒い全身タイツ…体のラインから見て女性だろう…が現れてピンク色の妄想に舞い上がっていたカッパ姫を一撃で落としたのだ。

口を開いたまま見つめている愛子に向けて謎の人物は覆面を外した。
中から出てきたのは目元のほくろも特徴的な美女。魔鈴さんだった。

魔鈴は愛子ににっこりと笑うと気絶しているアリエスを軽々と布団に放り込む。

「ふう…一応、私が監督者代理ってことになっているんですから。あんまり羽目を外されても困ります!」

説得抜きの実力行使に出たらしい。
最も屁理屈得意のアリエスにはそっちのほうが有効であるには違いないのだけど。

「あの…魔鈴さんその格好は?」

なんかもうどーでも良くなってきた気もするが聞いておきたい愛子ちゃんは好奇心旺盛なお年頃。

そんな愛子に答える魔鈴さんも何となく顔を赤らめている。

「これですか?昔、着ていた服なんですけど…まだ似合います?」

似合うとか似合わないとかのレベルじゃなくて違和感がありすぎ。
まるでこれから何処かに忍び込む特殊工作員といった魔鈴の姿に愛子ははたと気がついた。しばし考えてゆっくりと声を出す。

「魔鈴先生…」

「先生っ?!!」

先生と呼ばれたのが嬉しかったのか満面の笑みを見せる魔鈴に愛子は心の中でガッツポーズをしたが、そんなことはおくびにも出さずに注意深く言葉を選んで続けていく。

「魔鈴先生のおっしゃるとおりです。この子たちは私がちゃんと朝まで見張ってますから…どうせ動けませんし…」

「はい。お願いしますね。」

「ですけど…まさかとは思いますが魔鈴先生自ら風紀を乱すような真似はなさいませんよね…」

「うっ?!!」

突然自分に向けられた矛先に目に見えてうろたえだす魔鈴先生。
その格好から見てどこかに忍び込む気だったのは一目瞭然なんだが、まさか教師扱いを逆手に取られるとは流石の彼女にも予想外だったのだろう。

「な・さ・い・ま・せ・ん・よ・ね!!」

言葉を濁そうとする魔鈴に愛子が一語一語迫力込めた追い討ちを決める。
しばらく苦悩していた魔鈴だったがついにこっくりと頷いた。

「はい…」

その様子を満足げにみやる愛子。
どことなく肩を落として部屋を出て行く魔鈴の後姿に、これでとにかく勝者はいなくなったと安堵したのであった。
唯に意識があれば、もしかしたらだけどもう一本釘をさせたんだけどね。


だって…

愛子たちの部屋のドアを閉める魔鈴の顔に笑みが浮かぶと彼女はポツリと呟いたのである。

「愛子さん…『それはそれ!これはこれ!!』ですよ…。」

アリエスがうつったか妙にルンルンしながら横島の部屋へと向かおうとする魔鈴。
しかし彼女も忘れていた。
この地に潜む獣の影のことを。

「あっの角を曲っがればスイートルームっ♪」

即興で作った鼻歌を楽しみつつ進む魔鈴の視界に飛び込んできたのは一匹の小鹿。
体の横の白い斑点が可愛いそれはアニメの小鹿のようにつぶらな瞳を彼女に向けてくる。
その仕草は、今日一日で色々とトラウマは背負ったものの動物大好きお姉さんである魔鈴の心にクリティカルヒットした。

「うっ…か、可愛い…」

ヨロヨロと近寄ろうとする魔鈴の脳裏に昼間の悪夢が蘇る。
だが鹿の神であるユクはスレンダーとは言え美少女である。
仮に化けてもダメージは少ない。しかも昼間のあざらしもキツネも熊もみんな成獣であったのだ。

「だ、大丈夫よ…ね…」

誰に言うでもなく呟いて魔鈴はヨロヨロと小鹿に近づいていく。
近づくにつれて目を輝かせ始める魔鈴に小鹿は少し怯んだかに見えたが、彼女に抱きしめられるまで大人しくしていた…そう…何かの使命を帯びていたかのように。

「ああ〜。可愛いぃぃぃ!!」

魔鈴が歓喜の声と共に頬ずりした瞬間、小鹿の後ろでカチリと何かが外れた音がしたかと思うと白いガスが湧き上がる。

「こ、これって催眠ガス?!くっ…私ともあろうものがこんな初歩のトラップに…」

即効性のガスを思いっきり吸い込んでパタリと倒れる魔鈴さんの口から安らかな寝息が漏れ始めた。

やがてガスが薄れたころに廊下の影から現れる三つの影。
霧香にモモにユクである。

「やったね霧香ちん…」

「ええ…こんなにうまく行くとは思ってませんでしたけど…」

「ふふふ…私の眷属のおかげ…」

「あの子は大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。催眠ガスですから後遺症もありません。」

「ふふふ…どこからそんなものを…」

「秘密です…そんなことより行きますよ皆さん!めくるめく桃源郷へ!!」

「「おーっ!!」」

いきなりの過激プレイなのかそれとも順番はすでに打ち合わせ済みなのか、やたら息のあった三人はいそいそと横島の居る離れへと向かう。

そして離れへ続く渡り廊下に足をかけた瞬間、渡り廊下が爆ぜた。

「「「うきゃぁぁぁぁ!!」」」

おそらくは地雷だろう。
足元からの爆発に巻き込まれて宙を舞う三人。

ほどよく焦げてポテポテポテと地面に落ち、ピクピクと痙攣する美女たちにヨロヨロと廊下の影から現れた魔鈴のかすれた声がかけられた。

「…もしや…と思って…愛子ちゃんのところに行く前に仕掛けたトラップが役に立ちましたね…」

そして魔鈴はニッコリと笑うと…そのままパタリと倒れ今度こそ本当に夢の世界に旅立って行った。

こうして勝者の無い戦いは終わりを告げたのである。


翌朝、近くの川まで移動してきた轟沈に乗り込む一同を手だの尻尾だのを振って見送る動物たちと神々たち。
そんな中にしょんぼりとしながらも手を振る霧香やユク、モモがいた。
あまりに元気のその無い様子に思わず近づく横島。

「また来ますから、そんときもご馳走してください。」

その言葉にパッと顔を輝かせる三人が口を開くより早く、キムンカムイが豪快に笑うと横島の肩をその大きな手でバシバシと叩いた。

「うわっはははは。おう!いつでも来いや!待っているぜ!!」

そして横島の背中をドンと押す。

「ほら!お嬢ちゃんたちが待ってるぜ!早くいってやれ!!」

「はい!」

かくして横島は一同にペコリを頭を下げると轟沈へ走り出した。

残されたのは、別れのシーンと再会の約束を横取りされて口をパクパクと開けながら呆然としている女神たち。

ついに轟沈が川に消え、あたりに静けさが戻るとキムンカムイは一同の方を振り返った。

「さあ、俺らも山へ帰るぞ…ってどした?」

「「「お前という奴はあぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

絶叫とともに空気の読めなかったキムンカムイを袋叩きにする女神たちを、キタキツネの神は頭を抱えながら見つめているしかなかった。


それから暫くの間、鹿や牛に追い回される羆がやたらめったらと観光客に目撃されて「北海道の草食獣は強い!!」と言う新たな地元伝説が生まれそうになったのである。


おまけ


轟沈の艦内食堂でピートが横島に話しかける。

「いいんですか?ずいぶんあっさりお別れしてきましたけど。」

そんなピートに轟沈食堂名物「轟沈パフェ」を食いながら横島は不思議そうな目を向けた。

「ん?だってまたすぐこれるじゃん。たしか修学旅行は北海道だろ?」

「そうでしたのー」

タイガーも三杯目のパフェを食いながら頷く。
なるほどと笑顔を見せるピート。彼にしても北海道の自然神との交流は色々と学べそうなことが多くて楽しみなのであろう。

だが…食堂の一角でどんよりとした空気を発している女性陣はと言えば…

「えう…北海道に修学旅行とは…」

昨日の出血の手当てのつもりかコメカミに梅干を貼り付けた唯。

「まずいですわね…」

君は修学旅行に関係ないだろアリエス。

「「ぐすっ…私たちはお留守番…」」

「修学旅行で芽生える恋…青春だわっ!」

小鳩とおキヌがハンカチを濡らす横で盛り上がる愛子。

「引率は必要ですよね!」

決意の表情も新たに拳を握る魔鈴さん。
そろそろ本気でお店が危なくなってきてませんか?

様々な妄想を繰り広げる女性たちを抱えたまま轟沈は一路東京へと向かう。


こうして横島を巡る紛争の火種は鎮火しないままになったのだ。
カワ太郎がいればこう言っただろう。

「人、それを「問題の先送り」と言う!!」と…。


後書き
ども。犬雀です。
えー。遅れました。すんません。
これが本編終了前の北海道であったことということで…。
本編や外伝を読んでない方置いてきぼりで…平謝りであります。

正直、長編を書いても完結させる自信が無いので後は短編とかメインになります。
次あたりはメドさんと除霊部のからみなんかが書きたいなとは思ってます。

では…

1>アズラエル様
初めましてです。GF…犬の脳内設定ではサイズであります。

2>帝様
新作は他の短編と平行して書いていく予定であります。

3>ジェミナス様
はいです。実はピートたちのことはすっぽりと霧香さんの頭から抜けてました。
彼女も潜在的なマヌケ要員であります。最初はそういうオチにしようと思っていたんですが…アリエスが暴走かましてくれやがりまして…。

4>ヴァイゼ様
今回の貧乏くじはヒグマの神様でありました。
短編はそうですね…メドさんメインのと、カオスとかその辺のネタがありますです。
雪さんも当然ですね。ただ彼はちょっと壊しにくいかもw

5>なまけもの様
はい。アリエスの本名です。元々アリエスの元ネタはパタリロなもので。
ダークですか…ふーむ…雨が降ればまた書くかも知れません。
でも今の在庫はギャグだけです。シリアス書けない…orz

7>柳野雫様
何かに夢中になると他が見えなくなりますので…つーかピートもタイガーも最初っから眼中に無かったかも(酷)
しばらくは短編に専念するつもりであります。

8>紫苑様
マヌケ空間は犬の全作品に共通してますのでw

9>ザビンガ様
おっぱいはお嫌いですか?犬は大好きです。特盛りならなお良し!であります。

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