『その後のメドさん 前編』
とある都内の橋の下。
妖しい儀式をする美少女が一人。
魔法陣と思われる文様を地面に書き込んでいるが、それはどうみても子供の落書きのようにしか見えない。
それでも美少女は何とかいびつながらも魔法陣を完成させた。
普通こういうものを発動させるには黒ヤギとかニワトリとか生贄がいるのだが、美少女にはそんなものを用意することが出来なかった。
しかたなく近くでボーッとしていた雀に小石を投げてやると石はスコーンと快音を立てて雀を昏倒させる。
気絶した雀を魔法陣の中央に置き、必死に記憶を辿って召還の呪文を唱えようとする少女。
とある事情で魔道に関する知識を失った彼女には正確な呪文はとうてい思い出せそうにない。それでもかすかな記憶を頼りに怪しげな呪文を唱えるうち、陣の中央から黒煙が上がったのは彼女にとって僥倖と言えるだろう。
頑張れば奇跡は起きるのだ。
黒煙はしばし陣の真上で漂っていたが、やがて一つの形を取り出す。
それは凶相とでも言うべき人の表情を持つ狼の顔。
狼は唸るように口をゆがめ歯をむき出している。
その口が開くとそこからは獣の唸り声ではなく、搾り出すような男の声があふれ出した。
「誰かと思ったらアシュタロスの手下だったメドーサではないか…」
不機嫌なのか言葉に唸り声を混じえる獣の顔にメドーサは跪く。
「お久しぶりですマルコキアス様」
彼女が呼び出したのは魔界でも実力者の一人と言われる魔王マルコキアス。
狼の顔を持つ魔王はギリリと歯を噛み鳴らす。
その音に伏せたままのメドーサの肩の辺りがピクリと震えた。
「うむ。久しいな。生き返ったという話は聞いていたが…」
「はい。実はそのことでマルコキアス様にご相談が…」
「ふん…アシュタロスの野郎が滅んだから今度は俺に鞍替えしようってわけか?」
「いえ…」
目を伏せたままのメドーサをじっと見つめる宙に浮かんだマルコキアスの顔。
その牙が再びギリリと鳴る。
「用があるなら早くしてくれないか?ちと今取り込み中でな…」
「実は…とある理由で魔力を失いました。このままでは魔界に帰ることも出来ません。恐れ多いことですが、マルコキアス様のお力をお借りしたく…」
「うくくくく…ま、魔力をよこせということか…」
「はい…」
マルコキアスは口の端を歪めて笑った。
「無理だな。話には聞いていたが今のお前は残りカスだ。魔力を受け入れる器ではない。」
メドーサの願いを一言で拒否する魔王。また牙がギリリと何かをこらえるかのように鳴る。必死に食い下がるメドーサの額に汗が滲む。
「で、でしたら魔獣をお貸しください。」
「魔獣だと?」
意外な申し出に興味を持ったか魔王は聞き返してくる。
魔王の興味を引けたことに、かすかに安堵の息を漏らすとメドーサは伏せた顔を地に付けて懇願した。
「はい。人界にどうしても恨みを晴らしたい男がおります。」
「ふん…お前が滅んだ元になったという小僧か?」
「はい…」
「報酬は?」
「え?」
顔を上げるメドーサに魔王は嘲笑の形に歪んだ口を見せ付けた。
「お前も魔族だったなら知っているだろう。我らが報酬もなしに動けるかどうか…しかも今はデタントの時期だ迂闊なまねは出来ん。うくっ…固いっ…」
「は、はい…。あの…今は持ち合わせが無いので…出世払いとかで…」
「あほう…」
何だか情けないメドーサの台詞に怒ったのかマルコキアスの顔が朱に染まった。
再び平伏するメドーサは魔法陣の中央でピクピクともがいている雀を指差した。
「でしたら…その雀とか…」
「お前は俺を舐めているのか?こんなもん一通話分にもならんわ!」
ホッと胸を撫で下ろす雀。通話料金にもならないなら命は大丈夫だろう。
というか今の魔法陣は魔界との長距離通話用だったらしい。
「で、ですが…」
情けなくもかしこまるメドーサを哀れと思ったか、それとも単に早く話を終わらせたかったか魔王は大きく息を吐いた。
「くっ…わかった。犬の魔獣を貸してやろう。」
「ケルベロスですか?」
三つ首の地獄の番犬は自分も前に使役したことがある。
もっともアレはダミーのようなものだったが、それでも横島たちに反則技で倒されている。不意をつかねば横島を倒すことは出来ないとは思うが、それでも居ないよりはマシだ。
だがマルコキアスは苦しげに首を横に振った。
「そんなもん貸せるわけがないだろうが。俺まで上に睨まれるわ!」
「ではヘルハウンド?」
口から炎を吐く地獄の犬。強力だがケルベロスよりは劣る。
何しろケルベロスは神話にも登場する魔獣なのだ。
しかし魔王はそれにも首を振る。
今度はなんだかホッとした表情だった。
「あー違う…そんな高いもの貸せるか」
何がかはわからないがヘルハウンドは高いらしい。
レンタル料だろうか?
「あの…だったら…」
さて他に犬の魔獣などいただろうか?と首を傾げるメドーサに魔王は血走った目を向けた。
「うむ。ウナギと犬の魔獣でな、その名もウナギイ〇」
「遠慮します!」
全力をもって拒否するメドーサに魔王は残念そうに呟いた。
「美味いのに…」
「食うんですか?!」
「俺は喰わんが…くくっ…だ、だがこれ以上の譲歩は出来ん…」
「あー…もういいです…」
何だか泣きたくなってくるメドーサである。
そんな彼女に魔王は優しく語りかけた。
魔王の癖に優しいとは奇妙だが、まあとにかく優しかった。
「そうか…まあ人間界での暮らしもきっと良いことがあるさ。気を落とすな。」
「ありがとうございます…」
「うむ…達者で暮らせよ…あ、そうそう」
「何ですか?」
「今度呼び出すときは…便所に居る時は避けてくれんか…とは言ってもそんな場面は二度と無いだろうがな…」
凄まじくばつの悪そうな魔王の台詞に飛び上がるメドーサ。
先ほどからの微妙な表情の変化は…まあ、そういうことだったのだろう…。
「す、すみませんでしたっ!!」
「あー。まあ気を落とさずにな…ほら歌にもあるだろ。『必ず最後に悪は勝つ』って…」
魔王さんどうやら微妙に覚え違いをしているらしい。
もうどうでもよくなったのかメドーサの肩が落ちる。
「はい…」
ガックリと肩を落とすメドーサに同情の視線を向けながら魔王は消えた。
すっかり崩れた魔法陣から逃げ出す雀を見ながらメドーサは理解した。
自分が魔界からも見捨てられたことを…。
「ぐすっ…これからどうしたら…」
暗くなった橋の下でメドーサは一人すすり泣いた。
「「「見失ったぁぁ?!」」」
横島の部屋を訪ねてきた美智恵の一言に驚く一同。
飯時だったのかちゃぶ台の周りにはいつものメンバーが揃っている。
横島の右で御飯をよそっているのは、机の付喪神、元学校妖怪、今は横島の隣で友人と同居し半分主婦妖怪化している愛子。身にまとったピンクのエプロンが似合っている。
本体の机は中に異空間を作り出せ、学校一つくらいのものは内部に格納できることから横島たち除霊部員の母艦として使われ始めているというちょっと可哀想な立場にある。
その隣には見た目は小学校高学年か中学生、でも戸籍年齢は三十代、実年齢は高校生の天野唯。こんななりだが霊力で廃品ロボットを使役したり、カブトムシの怪人に変身したりと多彩な技を持っている。でも学校の成績は悪いし胸も無い。欠点だらけではあるが妙に憎めない少女である。
横島の高校で起きたとある事件で彼と知り合い、その後はなし崩しに横島の隣に住むようになったという変わった経歴を持つ娘だ。
横島の正面には金髪美少女が座って、目の前に並べられた粗末なりに美味しそうなおかずを親の仇でも見るかのような目で凝視している。
彼女はカッパ族の女王であるアリエス姫。
水系統の多彩な術を使いこなすが人望は無い。
ところかまわずその美乳を放り出すという困った癖がある。
横島の煩悩こそが衰退していくカッパ族を救うかも?という話の中で、彼の股間を凝視して横島にほれ込んだというヒロインとしてはいきなり失格になりそうな出会いを経てここにいる。
そんな彼女の横で微笑むのは横島の隣の住人である花戸小鳩。
彼女自身は霊能者ではないが元貧乏神の貧と元気な病人である母親と一緒に暮らしている。
家事全般をこなすし学校の成績も良い。
貧乏神と暮らしていて極貧生活の中で燃費が良くなったか、粗食の割りに良く育った肢体をしている。特に胸は最近Fの壁に届いたらしい。
現在は除霊部のマネージャーみたいなことをしている。
そして台所から現れたのは除霊部のコーチとして参加している美女。
「現代の魔女」の異名を持ち魔法料理店のオーナーでもある魔鈴めぐみである。
失われた魔法の使い手であると同時にどうみても近代兵器を魔法と称して使いこなす。
かなり複雑な過去がありそうだが、彼女に年とか過去とか聞いたものはいない。
というか聞いたものは横島の担任のように例外なく不幸な目に会っている。
異常なほどの動物好きで魔界にある自宅では魔鳥を飼っている。
店の方は使い魔の黒猫がいるが最近、魔鈴がこっちに入りびたりなので頭を抱えているそうだ。それでも経営が悪化しないというのはそれだけ彼女の腕が良いということだろう。
そしてその中心に居るのは我らが煩悩小僧の横島忠夫である。
美智恵が報告してきたことにポカンと口を開けている様は、彼がかなり優秀なGSであるとはとても見えない。もっとも本人にもそんな自覚があるかどうかは疑問である。
一同はしばらく呆然と美智恵を見ていたが、年長者である魔鈴がコホンと咳払いをして美智恵に席を進める。
小鳩が慌てて自分の座布団を美智恵に差し出すが、それを笑顔で辞退して彼女は先を続けた。
「そうなのよ。この間の幽霊列車事件で一応メドーサはGメン預かりになったんだけど」
そこで言いにくそうに言葉を切る美智恵に愛子はお茶を出しながら聞いてみた。
「釈放ってことは…無罪放免ですよね。あれほどの大事件を引き起こしておいてですか?」
愛子の問いにコクリと頷く美智恵の顔にはかすかに疲れの色がある。
「そうなんだけどねぇ…」
苦虫を噛み潰した美智恵の表情に魔鈴は理解した。
つまり政府があの事件そのものを隠蔽したがっているということだろう。
だからと言って魔族を勝手に処分するというわけにもいかず「無かったこと」にしようとしたがっているのかも知れない。
だが奇妙だ。人間界はともかく神界まで、かっては神族の指名手配犯だったメドーサを野放しにすることに同意したというのか?
魔鈴の疑問の表情を読み取ったのか美智恵は溜め息混じりに答えた。
「それがねぇ…前の戦いの時にメドーサって滅んでいるでしょ。その時に神界の手配も取り消されているらしいのよね…。で、復活したと言っても今のメドーサははっきり言って一般人並みなのよ。魔力も霊力もね。」
「はあ…」と頷くしかない横島である。
確かに幽霊列車の車掌は乗っ取られた慰謝料代わりに「魔力やスキル」を奪ったといっていた。だがそれでもメドーサはメドーサだ。
神族が野放しにする理由がわからない。
「つまり神族の判断としては「今のメドーサは別人であり危険でないから再手配をする必要は無い」ってことなのね。」
いつの間にか横島の後ろから声がする。
振り返ってみれば横島によって覗きの神とされて涙にくれた神族の調査官ヒャクメがお箸とお茶碗持って立っていた。
「なのねって…どっから入ったんだ?」
「窓からなのね。」
横島に悪びれた様子も無く答えるヒャクメ。手にした箸や茶碗からすればちゃっかり晩飯を食っていくつもりらしい。
横島から聞かされているのか、彼女を知らないはずの少女たちもヒャクメと違和感なく挨拶や自己紹介をしている。
もっとも少女たちの幾人かの表情は「へー。これが「あの」ヒャクメ様」といったものだったけど。
「あの」ってのは「どの」ことをさすかと言えば次の横島の台詞が物語るだろう。
「むう…さすが覗きの守護神…」
「ひ、ひどいのねー。でも許すのね♪」
以前は「覗き神」と言われて泣き崩れたヒャクメであるが今回はグレードアップしているのにも関わらず機嫌が良い。
「なんだか嬉しそうだな。」
「横島さんが北海道に呼んでくれたおかげで北海道の神様が私に神社を造ってくれることになったのね!」
押さえきれない喜びゆえか、ハイテンションではしゃぐヒャクメに横島は不審の目を向けた。
「神社?」
「そうなのね。これで私の神格も上がるのね!みんなもヒャクメ神社に参拝にきてね!初詣はヒャクメ神社で決まりなのね!!」
話を振られても「はぁ」としか答えようがない。
だいたい参拝と言ってもどこへ行けばよいのやら。
「どこにあるんだよ…」
「えーと…確か知床半島の一番端っこ…」
そこは熊も行かない秘境だぞヒャクメ。参拝客は諦めろと窓から覗いていた雀が呟いたがヒャクメには聞こえない。もっとも聞こえないほうが彼女も幸せだろう。
「で、どういうことなんですの?」
「つまり…なんていうか…その…いわゆる一つのお役所仕事というか…」
アリエスの問いかけにヒャクメはうってかわったかのように言葉を濁した。
その様子に美智恵も重ねて溜め息をつく。
「はぁ…どこも同じね。」
人間界は神界と魔界を恐れて事件そのものの存在を抹消しようとし、魔界も神界も今となってはたかが小物の魔物一匹でいたずらに緊張を増すつもりもなく、謀らずも三界一致で「無かったことにしよう」という話になったらしい。
いい加減といえばいい加減だが危険性の無い元魔物と今の調和を天秤にかけたのだろう。問答無用で処分されなかっただけメドーサも幸せだったかも知れない。
そのような物騒な方向に三界の判断が向かわなかったということは、もしかしたら何か別な意志が働いたのかも知れないが、それはいかに美智恵であっても聞ける話ではないだろう。
「だからといって大丈夫なんですか?」
また横島を狙われたらと肩を震わせながら小鳩が聞いてきたのにたいし、ヒャクメはあっさりとした笑顔を向けた。
「それは大丈夫なのね。今のメドーサは本当に一般人と変わらないのね。」
ヒャクメの言葉に美智恵も頷く。しかしその視線は何かを誤魔化すかのように天井辺りを彷徨っている。
「勿論、監視はつけていたわよ。」
「そうですか…」
「だったら安心」と言いかけた横島の言葉が途中で止まった。
コホンと咳払いして美智恵の目をじっと見つめる。
相変わらず天井を見上げながらダラリとコメカミに汗をかく美智恵。
「なんで過去形なんすか?」
「ちっ…」
「は?」
なんだか舌打ちが聞こえたような…。
「あ、え?た、大したことは無いわよ…んーとね…実はね…見失っちゃった…てへ♪」
「てへ♪ですむかぁぁぁぁぁ!!」
ペロリと舌を出して惚ける美智恵に横島が絶叫突っ込み。
なんだか前に比べてGメンの隊長さん性格が軽くなった気がする。
「いやん。そんなに怒っちゃ美智恵泣いちゃう…」
「泣きまねが似合う年っすかぁぁぁ!」
拳二つを口元に当てて身をくねらせる美智恵に思わず禁断のキーワードを放つ横島だったが…。
ズドン!と言う轟音にその突っ込みはかき消された。
見れば手のひらサイズの黒い金属をこちらに向けて美智恵が微笑んでいる。
だけどそれはハッキリ言ってコロス笑み。
ガクガクブルブルと震える横島たちに口の端だけでニヤリと笑い、まだ紫煙の立ち昇る金属製の道具を懐にしまう美智恵。
「あら…ごめんなさい。年のせいか銃の引き金が軽くて軽くて…」
(年は関係ないでしょぅがぁぁぁぁ!!)
思っても口に出せない突っ込みもある。ていうか突っ込めば次は確実に死ねる予感のする横島である。
そんな横島の心の動きを見透かしたか美智恵がニヤリと笑った。
「いやぁねぇ。実弾なんか使うわけないでしょ。ペイント弾よ。」
ケラケラとお茶目に笑う美智恵だったが、愛子が木製の玄関ドアを指差してポツリと呟やく声を聞き青ざめた。
「ドア貫通してますけど…」
「え゛?」
ペイント弾とはいえ古い横島のアパートの安物ドア程度は貫通する威力があったらしい。
直撃しても死にはしないだろうけど…まあ、この面子でやばそうなのは小鳩ぐらいだろうし。
「あ、あはは…ちょーっと火薬が多かったかしらねぇ…」
「気をつけてください…」
笑って誤魔化す美智恵に文句を言いながら流れ弾で誰か怪我していたりしたら大変とドアを開けた愛子がピシリといきなり硬直する。
「愛子さんどうしました?」
不思議に思って魔鈴がかけた声にギシギシと関節軋ませて振り返る愛子。
その顔色は紙より白い。
「ひ、人が…」
「「「「え゛…」」」」
その報告に息を呑む一同だったがいち早く再起動したのは美智恵だった。
「横島君パス!」
「え?」
美智恵が投げ渡してきたものを咄嗟に受け止めてみれば、それは先程の銃。まだ銃身がちょびっと熱い。
ホヘっと首を傾げた横島が美智恵を見ればやれやれと言わんばかりに額の汗を拭く美智恵と目があう。
「ふー…これであなたも共犯者♪」
「なんでじゃぁぁぁぁ!!」
とんでもねー状況に追い込まれて泣き叫ぶ横島に美智恵は指を咥えて上目遣い。
また年甲斐も無くとか言ったら今度こそ命は無いだろう。
「うーっ…どうせ義理の息子になるんだから一蓮托生ということで…」
「いきなり人を冤罪に巻き込むなぁぁぁ!!」
下手なサスペンス映画顔負けの強引展開で犯罪者にされかけてはたまらんと絶叫する横島には美智恵の言葉の前半部分は聞こえてないようだ。
仮に聞こえていたとしても意味不明であるのは変わらないわけだが。
追い詰められたか美智恵の目がちょっとヤバ目の光を放ち始める。
「くっ…こうなったら目撃者を一網打尽に…」
「罪に罪を重ねるなぁ!」
「け、けど…明日の朝一番の便で公彦さんに会いに行く予定なのに…久々の夫婦の会話を邪魔する気なの?…ぐすん…」
どうやらこの間の文珠によるギックリ腰の治療が謀らずも夫婦仲を円満な方向に導いたようだ。
もしかしたらひのめに姉妹がまた増えるかも知れない。
「ぐすんぐすん」と愚図り続ける美智恵の背後から遠慮がちに唯が声をかけてくる。
「えう~。ここにも警察関係者がいるんですけどぉ…」
言われて見れば確かに唯は城南警察署で非常勤勤務である。
唯の能力の一つ「物と会話する」が犯罪捜査では有効であるからだ。
パッと美智恵の顔から血の気が引いた。
そんな美智恵の肩に優しく手を乗せる唯。
「…美神先輩、ここは自首するです。お上にも慈悲はあるです。」
「う…うえーん。殺す気は無かったんです安〇さん…」
泣き崩れる美智恵にもらい泣きしながら唯は優しく話しかけた。
「うんうん…わかっていますです…さあ行きませう…」
「待って…せめて一目、娘に会わせてっ!」
「う…アリさんちょっと遠回りして署まで行ってくれんかです。」
「〇浦さん…あなたは甘すぎますわ…。」
なんだかアリエスまで刑事役になっていたらしい。
室内に微妙な空気が流れてみれば最近めっきり突っ込み役の少年がプルプルと小刻みに震えていたりして。
「はぐれた刑事ドラマを繰り広げるなぁぁぁ!!」
「へあっ!」、「痛だっ!」、「くえっ!」
ガンゴンガンと横島君かなり本気の拳突っ込みを受けて頭を押さえて蹲る三人。
美智恵さんすっかりこっちの時空の住人となったようである。
そんな当然過ぎる横島君の鉄拳にウンウンと頷いていた魔鈴がハッと肝心なことを思い出した。
「そ、そんなことより負傷者の介護を!」
そうだったと我に返った愛子が倒れている人物を抱き起こす。
慌てて飛んできた魔鈴がその顔を覗きこみ真っ赤に染まった顔面を見て叫んだ。
「衛生兵!衛生へーい!!」
「は、はい!」
またまたいつの間にかナース服に着替えたアリエスが飛んでくると、魔鈴から倒れている人物を受け取りその顔を汚す赤いねばねばした液体を拭う。
そしていそいそと心音だのなんだのとバイタルチェック。
なかなか手馴れた様子である。そういえばこのカッパの姫様は医療技術を持っていたのだった。
「こ、これは…」
「死んでるの?」
恐る恐る聞く愛子にアリエスはゆっくりと首を振った。
「いえ…多分空腹で気絶したのではと…」
その説明を裏付けるかのように少女のお腹が「グルルルルル」と激しく鳴った。
「ああっ!私は無実だったのね!」
どうやら最悪の事態は回避できたと喜ぶ美智恵に小鳩が小声で突っ込んだ。
「でもペイント弾は直撃してますよ。」
「………ふー。お味噌汁が美味しい…」
「それはお茶ですし…ってちっとは責任を感じなさいっ!」
うそ臭い呟きで湯飲みを啜る美智恵に横島が突っ込めば美智恵さんたちまち涙目。
「ぐす…横島君が虐める…」
「あーもう!このおばはんは!!」
「何か言った?」
髪の毛を掻き毟りながら禁断の言葉を口にしちゃった横島のコメカミに触れる冷たい金属の感触。どうやら予備を隠し持っていたらしい。
そして暗黒のオーラを含んだ美智恵の声。
地雷を踏んで死地に落ちた少年を助けるつもりか魔鈴が強引に話に割り込んできた。
「とにかくこの少女を部屋に運びませんと…」
「女?!!美人か美少女なんか?!!」
女と聞いて一挙動で玄関まで飛んでくる横島に呆れながらもアリエスがとりなした。
「はいはい…それは後でゆっくり全部剥いて確認しましょうね。忠夫様。」
アリエスの言葉に頭が冷えたのか横島は担ぎこまれる少女を心配そうな目で見つめたが…。
「う…わかった…って…ちょ!まて!こいつメドーサじゃないか?!!」
「そうですわよ。言ってませんでしたかしら?」
「聞いてないわぁぁ!!」
結構暢気なアリエスに横島君マジ突っ込み。
そんな横島を魔鈴は冷静に宥める。
この辺りは流石に大人の貫禄というところだろうか?
「まあまあ積もる話は中でゆっくりと…」
「積もってないぃぃ!!」
もう神経が限界寸前の横島君だった。
こうして行方不明だったメドーサは横島たちの活躍で無事?に保護された。
気絶したメドーサを中心に考え込む一同の後ろでは神界の調査官が茶碗とお箸を持ったまま涙ぐんでいる。
「ぐす…わたしナチュラルに忘れられているのね…」
まあヒャクメだし…。と神族の少女の呟きを聞いた一同の心は一つになったのであった。
続く
後書き
ども。犬雀です。
はい。除霊部の新章ということになります。
前にも言いましたが長編は完結させる自信が無いので、中編(前中後編)ぐらいの量でこまめに続けていく予定であります。
我侭な言い分ではありますがご容赦下さいませ。
これとは別の短編とかも投稿できるよう頑張ります。
では次回はメドさんの処遇がどうなるかを中心に。
さてメドさんはどこに住んでどこで働くんでしょうねぇ…。
では…
1>義王様
歴史的闘いですか。なるほどw
2>御汐様
わはは。つーかネタ元を知っている方がいたとは驚きであります。
さすが御汐様と言わせて頂きます。
3>ヴァイゼ様
魔鈴さんの過去ですか。一応かって「シオサバの魔鈴めぐみ」と恐れられた…ということは考えてありますが、さて本編に出るでしょうか?w
4>紫苑様
ふむ…そういう展開も面白そうですな。メモメモと。
5>柳野雫様
修学旅行編はメドさんにけりがついてからとなります。もうちょっとお待ちください。
でもその前にアリエスのシリアス書きたいなぁとかw
6>ザビンガ様
普通はヒグマは強いですけどね。こと繁殖期の牛とか鹿も侮れないのです。
と牛に追いかけられた経験のある犬は思うのですorz
7>なまけもの様
ピンクっすか…うーむ…なんとか前向きに善処しますです。
書く練習せねばw