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「人形の家  (GS)」

犬雀 (2005-06-15 23:01)
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『人形の家』


「あー。暇だ…」

美神令子除霊事務所のソファーに寝っころびながら欠伸をするのは横島忠夫。
この事務所唯一の男手である。
だからといって特に頼りにされているというわけでもない。
文珠という特殊能力や霊波刀を使えるという稀有の霊能力者でありながら、肝心なときはギャグに走るという性格ゆえに未だに荷物持ちとか丁稚とか言われていたりする。
本人も特にその評価を気にしてないようだ。

もっとも彼をよく知る人々は彼が本当にいざとなったら状況を簡単にひっくり返すほどのポテンシャルを持っていることを知っている。
いみじくもほんの一時だけ彼の恋人だった少女が評した「ワイルドカード」という評価は静かに定着しつつあった。

だが平常時は単なる役立たず。おまけにセクハラ小僧。
故に那須の温泉三泊四日という事務所の慰安旅行にも関わらずこうして一人留守番を命じられたのである。

令子にしても連れて行く気はあったのだが、出発当日、念のためと思って彼のカバンをチェックしてみれば、出るわ出るわ、バチカン御用達のスターライトスコープから登攀用のザイル、はては吸盤手袋までその用途がある特殊な犯罪を犯すために使用されると思われるグッズの数々。

リフレッシュのための温泉旅行が「対覗き殲滅作戦」へと変化したらたまらんと、血涙とともに縋りつく横島を鉄拳で沈黙させ留守番を命じたのだ。

おキヌやシロは残念そうだったが怒髪天をついている令子に逆らえるわけもなく、「お土産買ってきますね」と血の海に横たわる横島に苦笑いと共に声をかけただけで出発してしまった。
女の子たちにとって温泉ブームはまだ継続中らしい。

そんなわけで横島は事務所に一人でいるわけである。
最初はこれ幸いにと令子の私室へ入ってお宝を物色しようかとも考えたが、人工幽霊の存在を思い出してそれも断念した。人工幽霊が自分から告げ口をするとは思えないが、聞かれたら答えるのは確実である。
何しろ令子と人工幽霊は所有者と所有物の関係なのだ。
さすがの横島もまだ命は惜しいらしい。

「あー。暇だ…」

今日何度目になるかわからない無気力な呟きに「暇なら家に帰れば」とは思いつつも人工幽霊も相手になってあげようかと思う。
この少年は好き嫌いがはっきりしているがその基準が人と違う上にそれを隠そうとしない。
嫌いなものには正々堂々?と嫌いと言う。
西条などはその良い例だろう。
反対に一度受け入れたものは人外であろうとなかろうと無条件に認める。
それが人工幽霊には面白くて仕方ない。

大抵の人間は喋る家など気味悪がってリラックスできないか、またはまったく存在しないように振舞うだろうが、この少年はもうこれでもかって言うぐらいリラックスしており、それでいてちゃんと人工幽霊のことも意識していた。

先ほども「ぷすぅ〜」と異音とともに尻からスカトールとメタンの混合気体を放出したかと思ったら人工幽霊に「すまん。臭った?窓開ける?」と照れ笑いしたりするのだ。

『いえ、私は臭いを感じませんから』と答えてもしきりに恐縮する姿は不思議であり好ましいものだった。

だから人工幽霊は人工幽霊なりに彼に答えようと思った。

『退屈でしたら私と何かゲームでもしますか?』

「ゲーム?何を?」

『そうですねぇ…しりとりなんかどうです?』

「却下…お前としりとりなんかしたら負けるの確定じゃん。お前頭いいし…」

あっさり拒否されて驚く人工幽霊。
頭がいいと評価されたのは初めてだ。体の中に不思議なものが沸き起こるのを感じる。
それは照れという感情だと言うことは肉体を持たない人工幽霊にはわからないことだった。

『では将棋とかチェスはどうです?』

「さらに却下。頭脳系のゲームで勝てる気がせん。それにどうせお前が5八歩とか言って俺が二人分コマ動かすんだろ?すっげー虚しい。」

『ですが、私は肉体がないのでそういう遊び方しか出来ませんが…』

どことなく沈んだ口調に横島の心にも罪悪感が芽生える。
なんとかしてやろうか?と無い知恵振り絞って考えたのはある意味突拍子も無い案だった。

「お前って確か機械とかにとり憑けたよな。」

『はい。ですがゲーム機にとりつくといってもこの事務所にそんなものはありませんが?』

「いやそうじゃなくって…人形とかにも憑けるのか?」

『出来ますがこの家には人形も無いですけど?』

「うーむ」と考え込む横島だったが彼の思考回路は単純である。
無いなら作る…実に明快だ。

「ちょっと待ってろ」と言うなり彼は呆気にとられる人工幽霊を残して事務所を飛び出て行った。


待つこと小一時間ほどで戻ってきた横島の背中にはでっかい風呂敷包みがある。

『横島さん…まさか犯罪行為に?』

「あほう。ちょっと材料を学校に貰いに行ってただけだ。」

古典的な泥棒スタイルに突っ込む人工幽霊に横島は苦笑いで返すと、よっこいせと背中の包みを下ろした。

『これは?』

「ああ。紙粘土だ。二、三日前に美術の授業で使ってな。余ってないか?って聞いたらくれた。」

横島が風呂敷から取り出したのは石膏の型とかに使う白い紙粘土である。

『こんなに大量に余っていたんですか?』

「いや〜それがなぁ。「何に使う」って聞かれたから「芸術です」って答えたらこんなにくれた。パチ物の方で助かったぞ。」

『パチ物?』

「ドッペルゲンガーの方の暮井先生だよ。あの先生は芸術って言う言葉に弱いからな〜。」

『なるほど』と納得する人工幽霊。どうやら横島はこの紙粘土で人形を作るらしい。
確かにその量は等身大の人形を作るぐらいはあった。

「で、希望はあるか?どんな形に作って欲しいとか?」

不意に聞かれて戸惑う人工幽霊である。
自分が仮初とはいえ肉体を持つなんて考えたことが無いのだから無理も無い。
しばらくデーターを検索してみたが、こんな場合の回答は用意されていなかった。

『特に無いですね…でも出来れば人型がいいです。』

「おっけー。ところで性別は女でいいな?」

『私には性別はありませんからどちらでも構いませんが…スポーツとかなら男同士の方がよくありませんか?』

「大却下!男なんぞ作る気にはならん。」

(だったら聞かないでください…)とは思うが口には出さない。確かに横島の性格からして彼が男の人形を作るのは無理そうだ。
女の人形というのも怪しいが。そもそも彼はそんなに美術の成績が良いとは聞いてない。

『大丈夫ですか?』と聞いてみると「まかせろ」と帰ってくる。
その返事に人工幽霊は自分が少しワクワクしているのを感じ始めていた。

そんなことにはお構い無しに横島はどこからか持ってきたビニールシートを広げ、その上にありったけの紙粘土を置くと静かに目を閉じ集中を始めた。

(何が始まるんでしょうか?)とワクワクと見守る人工幽霊の前で横島は高らかに叫んだ。

「煩悩全開!!!」

30分後…。


「ふー。出来た…」

『横島さん…あなたって時々凄いですね…』

「ああ、俺もそう思う…」

偉業をなし遂げた後の爽やかな汗を拭う横島と呆気にとられたと言った声音の人工幽霊。
確かに横島の前に立っているのはそっち方面でオークションにかければ高値間違いなしの美少女フィギュア。その造形は非の打ち所もなく、清楚な感じのおとなし目の顔にパッチリした大きな目。そして腰まである長い髪は今にもたなびきそうに躍動感に満ちている。胸の隆起も素晴らしい上に胸から腰にかけての曲線も美しい。
これで色がついていれば値段は倍って感じである。
芸術品とはその材質の安っぽさもあってちょっと違う感じもするが、確かに別な方面から見ればこれもまた立派な芸術品であった。

『いや感服しました…。ところでどなたがモデルなのですか?』

不思議そうな人工幽霊の言葉に横島はポリポリとばつが悪そうに頭を掻いた。

「すまん…なんだか色々と混じった…」

『はあ…』

彼のストライクゾーンの広さに呆れる人工幽霊。
言われて見れば人形には令子とかおキヌとかルシオラとかがの面影がある。
それでも自分のために人形を作ってくれた横島の気持ちが嬉しいのかその声は弾んでいた。

『ではこの人形に憑依すれば宜しいのですね?』

「あー。ちょっと待て。さすがにこのままじゃ殺風景だしな。」

そう言って横島は文珠を一個取り出すと人形に当てる。
「『色』でいいかな?」と一人呟いて発動させてみれば人形はまるで生きているかのように瑞々しい姿となる。

『おおっ!』と感嘆の声を上げる人工幽霊。
横島はとりあえず天井に向かって笑みを向けると「やってみろ」と人形を指差した。

『はい!』

返事をする間も惜しんで人工幽霊は人形に憑依する。
ところがいくら待っても人形は動き出さない。

「どうした?」と声をかけてみれば人形(人工幽霊)は目を閉じたまま口も開けずにどこからか声を出す。

『動けません…』

「うわっ!きしょっ!!」

『そんなぁ…』

無表情な人形が口も開かずに声を出すさまは確かに気持ち悪い。
なまじリアルなだけにその不気味さはかなりのダメージを与えてくる。
「うーむ」と首を捻っていた横島だがポンと一つ手を打つともう一個の文珠を取り出した。
今度の文珠には『人』という文字が浮かんでいる。

「ちょっとまってろ」と言うなり横島は文珠を発動させた。
文珠の光が事務所を包み、それが消えたとき横島の前に立つ人形に変化が起こる。

ゆっくりとその豊な胸が上下し始め、そして薔薇の花びらを思わせる唇が開くに合わせるかのように目も薄っすらと開き始めた。

「どうだ?」と聞かれても人工幽霊にはよくわからない。
何しろ人を模した肉体を持つのは初めてのことだ。
確かに以前、令子のところにオーナーになってくれと依頼に出かけたときは人のふりをしていたが、それは単に霊体の上に服を羽織っただけに過ぎない。
言ってみれば実体の無い透明人間である。
それが今は紙粘土製とは言え柔らかで瑞々しい色彩に満ちた肉体を持っているのだ。
戸惑うなと言う方が無理だろう。

「なんだか…新鮮ですね…世界が急に広がったというか…」

首を振って見ればその動きに合わせて髪も揺れるし胸も弾む。
それが面白くて人工幽霊はクスクスと笑った。
そんな彼女の姿が面白かったのか横島も微笑んでいる。
感激して自分の体を見回している人工幽霊の邪魔をしないように残っていた粘土だのシートだのを片付け始めれば突然人工幽霊が普段は絶対に上げないような素っ頓狂な悲鳴を上げた。

「きゃあぁぁぁぁぁ!」

「ぬおっ!ど、どうした?」

「わ、わ、私は裸ではありませぬか!」

「だってなぁ…着衣像って難しいんだよ。煩悩的に…」

煩悩的という言葉に身の危険を感じる人工幽霊はその豊な胸を両手で抱きしめるようにして隠す。

「お、襲う気ですね?!!」

「襲わん襲わん」

「なぜですか?!こんなにナイスバディなのに?!!」

本当は襲って欲しいのかお前は?とは思うがそれを口に出すわけには行かない横島である。

「粘土に欲情する趣味は無い!」

「まさか粘土を差別するんですか?!横島さんらしくもない!」

「差別って言うか…上半身はいいんだが…」

そう言って横島はばつが悪そうに視線をそむけた。

「え?」

「流石の俺でもその下半身ではフォローできん…」

頬を染めて目を逸らす横島を不思議に思いながらも視線を落として自分の下半身を見ればそこはツルッペタ。

「え?え?え?何で?!これだけ他の部分が精密なのに?」

「仕方ないじゃん…モザイク取れてないのしか見たことないし…」

なるほど横島君の情報源は意外と健全?だったらしい。
その言葉に人工幽霊はわずかに肩を落とした。

「はあ…残念です…」

「残念なのか?」

「ええ…画龍点睛を欠くと言いますか…。」

「そっか…じゃあ一緒に叫ぶか?」

「はい…」

頷く人工幽霊の手を取って横島は近くの窓を開けると人工幽霊と顔を見合わせ「せーの」と意気を合わせて叫んだ。

「「ビ〇倫の馬鹿あぁぁぁぁぁ!!!」」

意味不明な絶叫に電線に止まっていた雀がポタポタ落ちる。
そんなものは無視して横島は清々しい笑顔を人工幽霊に向ける。

「あー。いい八つ当たりだった。なかなかやるな人工幽霊。」

「いえいえ。横島さんこそ…ところでその人工幽霊って呼び方は止めてくれませんか?」

「なんで?」

「だって折角こんな素晴らしい体を頂いたのです。心機一転この体にふさわしい呼ばれ方をしたいです!」

両手をブンスカ振って抗議する人工幽霊。
それに合わせて豊な乳がプンスカと揺れる。

「んー。だったら人工子ちゃんでどうだ?」

「それはちょっと…」

「んじゃ幽霊子ちゃん?」

「安直すぎです!もっとこう人間らしく!」

「スジコちゃん?」

「それもまあ悪くないですけど…」

でも不満らしい。

「ぬ?ならばタラコちゃん?」

「魚卵から離れてください!!」

「すまん腹減ってきたもんで…ていうか、お前に希望ってのはないのかよ?」

「私ですか?…そうですねぇ…西洋では住居に住む妖精のことをプラウニーと呼ぶそうですからプラウでどうですか?」

「呼びづらいな…フラウにしようや。」

「馬鹿なアムロ……」

「何?」

「あああ…なんでもありません!!うにょっ!」

妙な電波を拾ったか人工幽霊は意味不明の発言を誤魔化そうとパタパタと手を振って、おもっいっきりバランスを崩したのだろう前のめりに万歳したまま顔から床にこけた。

そのままの体勢でピクピクしている人工幽霊に声をかける横島。

「おーい大丈夫かぁ?」

「だ、だいじょうぶでふう〜。すっごく痛いでひゅけどぉ〜」

なんとか起き上がった人工幽霊だったがいかに文珠の力で人っぽくなっていたとしても元は粘土、当然それなりのダメージはある。

「鼻が無くなっているぞ…ついでに胸も…」

「ええええ!直ひてくだひゃい!」

「あー。はいはい。ある程度の力が加わると潰れたり変形したりするのか…つーか痛みもあるの?」

「ありまひゅ〜」

鼻を押さえて涙目の人工幽霊である。
涙は出るが血は出ないらしい。
苦笑しつつもそのままにしておくわけにもいかず、横島は人工幽霊の鼻のあたりをつかんだ。

「んじゃちょっと我慢しろや!」

「いひゃい!いひゃい!!」

目から涙をとばしながらジタバタと暴れる人工幽霊の鼻が元に戻っていく。

「暴れるなってーの!ほら直ったぞ…」

「ありがとうございます〜。できればついでに乳もなんとかしてください〜。」

「わかったから泣くなってーの…。ほれ胸よこせ。」
すっかりぺったんになった胸に手を伸ばそうとすれば人工幽霊は胸を隠して体を捻る。
気のせいか顔も体も赤くなった気がする。

「も、揉むんですか?!!」

「揉むって言うか捏ねねーと直らんだろ!」

何を言っているんだとは思うがそうしないと直らないと語気を強めれば観念したのか人工幽霊は両手を下げて目を閉じ胸を突き出した。

「優しくしてね…」

「あーはいはいっと…」

なんとも奇妙な展開だなぁとは思いつつも元の形にするべく胸の粘土をこねくりまわせば、身悶える人工幽霊。その口からは熱い吐息が漏れ始める。

「うっ!あっ!はぁ〜ん!」

「妙な声を出すなっ!!」

「だって〜切ないですぅ〜」

鼻が潰れて痛いなら胸を揉まれれば気持ちいいというのは当然かも知れない。
揉みすぎれば痛いだろうが、幸いにもそこまで酷くは潰れていなかったようだ。

「粘土が何を言うか…ほら、出来たぞ。」

「あ、ありがとうござ…えええ!!」

「今度は何だっ?!」

「ち、ちちくびがありません!」

「ちちくび言うな!」

「でもぉ〜。ぐす…」

細かいところにこだわる人工幽霊に横島も呆れ顔だ。
それでも例え粘土とはいえ美少女に泣かれれば彼に拒否するという選択肢は無い。

「あーわかったから…ほれ出せ…」

「は、はい…」と恐る恐る突き出した胸の先っぽあたりをいきなりつままれて驚く間もなく横島は形を作り始めた。

「うにゅ?う……あ?…う…うん…あはぁ…よ、横島さ〜ん…そ、そんなつまないで〜。」

「そうは言われても…」

そうしなきゃ形にならないと続ければ目元をトロンとさせ始める人工幽霊。
その口からは甘い声が漏れ始める。

「Oh…Ah…come on…my god…めきゅっ!」

「なんでいきなり外人になるかっ?!!つーかお前はっちゃけすぎっ!!」

横島の鉄拳突っ込みを脳天に受けて涙目になる人工幽霊は首をプルプルと振って彼に抗議する。

「ええええ?やめちゃうんですかぁ?!!ヒドイっ!私を弄んだのね?!!」

「人聞きの悪いことを言うなぁぁぁ!!」

「だって〜。横島さんだって煩悩が上がっているじゃありませんかぁぁ!」

「言うなぁぁぁ!俺は欲情などしとらん!下半身の無い相手に欲情する虚しさがお前にわかるかぁぁぁ!」

「ぐすっ…でしたら横島さんと同じものをつければ……って見事に煩悩が鎮火しましたね?」

「クリティカルに想像しちまったじゃねーか…」

なんだか全ての力を失ったかのように地面に膝をつく横島を不思議そうに見下ろす人工幽霊は小首を傾げた。
まだまだ彼女にはわからないことだらけである。

「はぁ…人体というのは不思議なものですねぇ…」

「とにかく色々と精神衛生に悪いから服着ろ、服!」

「とは言っても服なんか持ってませんし…」

「おキヌちゃんから借りろ!こそっと返せばわからんだろう!」

「ですね♪では早速…おきゃっ!」
「危ねっ!」

一歩前に進もうとしてまたこけかける人工幽霊を横島はすんでのところで抱きとめた。
あのままこけられていればまた先ほどの不思議展開を繰り返さねばならないとなれば彼の反射速度もあがるというものである。


「ふえ〜。またこけるかと思いましたぁ〜。」

「つーか歩けないのか?」

「肉体を持って歩くのは初めてですし…それに二足歩行というのは難しいんですっ!」

「しゃあないなぁ…ほれ」と横島は彼女の前にしゃがむと背を向けた。
しばらくその意味がわからなかったがやがて該当するデーターを検索できたのだろう。
人工幽霊は頬を染め華の様な笑顔を見せる。

「え、おんぶですか?」

「ああ、その程度なら潰れたり形が変わったりせんだろ。ほれさっさとしろ!」

「はいっ♪」

なんだか文珠のせいで粘土とはいえ微妙に人間的な感触のある裸の美少女を背負いつつ歩く横島とその背で照れくさそうに笑いながらも彼の首にしがみつく人工幽霊。
はたから見ればラブラブカップルに見えないこともないが真実は天と地だ。
それでも何とかおキヌの部屋の前につくと横島は人工幽霊を優しく下ろし、彼女におキヌの部屋から身に合うものを選んでくるように言った。
さすがの彼もおキヌの部屋に無断で入るのは気が引けるらしい。
どうにも彼のボーダーラインはわかりづらいものである。

しばらく待っているとおキヌの部屋から情けない人工幽霊の声が聞こえてきた。

「横島さーん!」

「どうした〜」

「スカートとパンツは良いんですが…胸が合いませ〜ん!」

「うわ…おキヌちゃんが聞いたら怒るぞ〜。」

「どうしましょう〜?」

「美神さんの部屋に行くしかないなぁ…」

「はーい。」

次の目的地は令子の部屋。
今度もおんぶかと思いきやおキヌの部屋で少しは歩いたことから自信をつけたか人工幽霊は歩いていくという。
それでもこけたら大変と横島は彼女の手を握った。

またまた頬を染める人工幽霊とそれなりに苦労しつつ令子の私室前についてみれば当然のごとく鍵がかかっている。
だがそんなものではトレジャーハンターたる横島を阻むことは出来ないのだ。

「ふふふ…この程度の鍵で阻止したつもりとは俺も甘く見られたものだ…」

横島はどこからか取り出した針金をカチャカチャと操作して鍵穴を弄り回す。
それを興味深げに見ている人工幽霊。

「手馴れてますねぇ…」

「うむ…毎日のようにしばかれながら身につけた技術だからな。」

などと会話しているうちに鍵はカチリと音を立ててその役目を放棄した。
誰も居ないことは知っていたが抜き足差し足で忍び込む人工幽霊と今度は横島。

「えーと。美神オーナーは確かあっちの隠し扉に勝負パンツとブラが…」

「そうなのかっ?!」

「はい。んじゃいってきます〜。横島さんに開けさせると後で枚数確認が大変ですからっ!」

思わぬお秘密の漏洩に色めき立つ横島に軽く頷くと人工幽霊はトテトテとそちらに向かって歩き出した。

「くっ!読まれたか…」と唇を噛む横島の戯言を背中で聞きながら人口幽霊は壁際に隠されたスイッチをあさる。

「えーと…確かここのスイッチをっ?!!」

カチっと嫌な音がした瞬間、物陰から飛び出した矢がまっすぐに人工幽霊の眉間を射抜いた。

「どうしたっ?」

「横島さ〜ん。頭に矢が刺さったように痛いぃぃぃ!!」

「刺さっとるがな…つーかあの人は俺を殺す気かっ?!!」

「痛い痛いぃぃぃ!!」

頭に矢を刺したまま泣きじゃくる人工幽霊の手をとって横島は長居は無用とドアに駆け出す。それでもとりあえず壁にかかっていた私服を手にするあたりはやはり手馴れているのだろう。

「と、とにかく目的のブツを奪取して逃走するぞ!」

「は、はひぃぃぃぃ!!」

こうしておキヌの部屋からスカートと令子の部屋から上着と下着を奪取することに成功した二人は一目散に応接室に逃げ込むことが出来たのだ。
ミッションコンプリートである。

「なんとか一段落したな…。」

「もう散々です…ぐす…」

応接間で人工幽霊の額に刺さった矢を抜き穴をを塞ぐ横島が溜め息をつく。
人工幽霊はといえば奪取した服を着ながらも涙ぐんでいる。
こんな経験はしたことがないのだから仕方ないと言えば仕方ない。
それでも一段落すれば気も抜けると言うものだ。

「そういや腹減ったなぁ…カップ麺かなんか無いか?」

「タマモさんの隠し金庫の中にありますけど…またどんな罠が…」

先ほどの矢を思い出したのか身を震わせる人工幽霊に横島も頷いた。

「そっかぁ…それはイヤだなぁ。」

明らかに落胆したかのような横島に彼女はなんとなくオドオドした様子で話しかけた。

「あの…私が作りましょうか?」

「作れるのか?」

「おキヌさんの見てましたから。」

「んじゃ頼むわ簡単なもので良いから。」

「はい♪」

ニッコリと笑って厨房に向かう人工幽霊を見送って待つことしばし、なんだが悲鳴や炸裂音のようなものが聞こえたかも知れないが無視を決め込む横島の前にちょびっと煤けた人工幽霊がトレーと一緒に戻ってきた。

「出来ました♪」

「あれお前の分は?」

「私は粘土ですから。それよりも玉子焼きと味噌汁しか作れませんでしたけど食べてみてください。」

横島の前にトレーを置いて嬉しそうな様子の人工幽霊だが横島の顔色は悪い。
何しろトレーの上にあるのは食べ物とは見えないものばかりである。
見ているだけで出来るほど料理は甘くないのだ。

「…ちなみに聞くが…どれが玉子焼きだ?」

「これですけど?」

彼女が指差したのは黒い塊。ところどころ黄色いところを見れば玉子焼きなのだろう。

「ほほう…この黒い塊がなぁ…」

「あ、味は問題ないはずですっ!」

「米は?」

「あ、はいはい。今よそいますね。たくさん食べてください!」

茶碗に盛られたのもやっぱり黒い塊。

「これは?」

「ご飯です…けど…」

「俺には炭化した何かの種にしか見えんが?」

「でもお米は炊飯器で炊いたので問題があるとすればそれは炊飯器の責任かと…」

「水は入れたか?」

「水…ですか?」

「もういい…わかった…」

キョトンとした彼女の顔に全てを諦めた横島である。
人生には諦めも肝心なのだ。
だが流石にこれを食うのは命にかかわるとまず食えそうな玉子焼きに箸をつける。
その様子を両手を頬に当ててワクワクしながら見ている人工幽霊。

「どうですっ!美味しいでしょ♪」

「まあ…コゲをよけて中身を食えば食えんことは無い…けど…殻が口に刺さってすっげー痛い…」

「カルシウムは体にいいのです!」

拳を握って力説しても…。

「少なくともこういう摂取の仕方をするもんじゃない!俺はニワトリかっ?!!」

と返されてしょんぼりと下を向く。
だがすぐに立ち直ると少しだけ遠慮がちに今度は茶色い液体を横島に差し出した。

「あ…だったらお味噌汁は…」

恐る恐るといった顔で自分を覗き込む少女に横島も笑みを返そうとするその顔は味噌汁に箸を入れた途端に固まった。

「ああ…ところで箸が味噌汁に突き刺さるのは何故だ?」

「あれ?あれ?まだ味噌が溶けてない?」

「……どんだけ入れたんだよ…」

「全部…かな…」

「死ぬわぁぁぁぁ!!!」

「ご、ごめんさないっ!!」

トレーで頭を隠す少女に苦笑いを浮かべると横島は諦観したかのように言った。

「ふう…やかんを持ってきてくれ…」

「ふえ?」

「お湯足せば飲めるだろ…」

「は、はいっ!」

文句を言いながらも味噌汁と玉子焼きもどきを食べる横島を幸せそうに見つめる人工幽霊である。

その後もトランプだの花札だのと遊び呆ける二人。
事務所という霊的な場所のせいか文珠の効果は驚くほど長持ちした。

そんな中で自分の体を使って遊ぶのがよほど楽しいのか人工幽霊はよく笑った。
つられて横島も笑う。
たとえ人形だと言っても美少女と二人っきりで遊んでいて楽しくないはずはないのだ。

そんな楽しい時間もやがて終わりが来る。

いつの間にか夜は更け気がつけば時計の長針と短針が一つになろうかという時間。
今日は一日色々とあった。

「あー。なんかもうこんな時間だなぁ…。そろそろ帰るわ。」

窓の外を見ながら呟く横島に無言のまま顔を伏せる人工幽霊である。
その華奢な肩が細かく震える。

「ん?どうした?」

「ひ、ヒドイですっ!こんな広い事務所に女の子を一人にする気ですか?!」

「事務所ってお前そのものだろ?」

「今は違いますっ!」

「んじゃどうしろと!」

「泊まっていってくださいっ!」

「なんですとっ?!」

「だってぇ〜」

横島の服の裾を握り締めウルウルと潤んだ目で見つめてくる人工幽霊。
本当にこれがあの人工幽霊壱号かとは思えないほどの変わりぶりだ。
今までは寂しいとか怖いなんていったことがないのだから。
だから一瞬驚いたもののぐずり出す少女の姿を笑みをもって見つめ返す横島である。

「あー。わかったわかった…。つーかお前も本体にもどれよ。」

「イヤです。今日はこの姿で最後までいますっ!」

「はいはい…んじゃ俺はソファーで寝るから。お前も適当なところで戻れよ。」

「はいっ♪」

そして横島はいつも深夜の除霊の後などに使っている応接間のソファーベッドと毛布を準備し、夜のハミガミからトイレも済ませ、上着だけを脱ぐとベッドへと身を滑らせた。
目を閉じ「今日は色々とあったなぁ…」と思いながらゆっくりと目を開け横を見て嘆息する。

「…なんでお前が隣に寝ている…」

「添い寝です。」

「頼んでない…」

「そんな…い・け・ず♪」

ほっぺたをチョンとつつかれて脱力する横島。
どっと疲労が体にのしかかってきた気がする。

「だーっ!!寝るっ俺は寝るっ!!」

「はーい。」

そして応接室は闇に包まれた…。

しばらくすると暗い室内に少年の寝息が聞こえ始める。
さすがなんだかんだ言っても死線をかいくぐったGSである。見習いだけど。
休めるときには休むというのは徹底しているのだろう。
単に寝つきがいいだけと言う話もあるが…。

静かに寝息を立てる少年の横で人工幽霊は微笑んだ。
聞いていないとは思いながらも彼女は自分の思いを口に出す。

「横島さん…あなたは本当に不思議な人です。事務所の女性たちがあなたに惹かれる訳がやっと私にもわかったような気がします…。」

建物としてあったときには気がつかなかった少年の温もりを体で感じながら人工幽霊は少年を起こさないように体を起こしその顔を覗きこむ。

「もし許されるなら…」

体の各部が軋み始めていた。どうやら文珠のタイムリミットが近いらしい。
ポタリと少年の顔に雫が落ちた。
自分が涙を流しているのに驚いた人工幽霊だったが、すぐにその顔は笑顔に変わる。
そして…ぎこちなくなった体を動かして自分の唇を少年のそれに重ねた。

ボーンと時計が一つ鳴って彼女の初恋は終わった。


草木も眠る丑三つ時、どこで鳴るのかタイヤの音が怒りも露に凄まじく…

「横島あぁぁぁぁぁぁ!!!」

ドゲンとドアを蹴り開けて入ってきたのは令子である。
その後ろには息を切らせたおキヌたちも続いていた。

そう…令子のトラップが作動した時、警報も彼女の携帯に伝えられていたのである。
よりにもよって秘密の下着倉庫が荒らされていると知らされた令子が怒りの形相も凄まじく温泉からとんぼ返りしてきたのであった。

「殺すっ!必殺と書いて必ず殺すっ!!」

殺意満々で飛び込んだ令子は応接間のソファーの上に眠る少年を発見するとその頭蓋を粉砕すべく神通棍を振り上げて…そのまま硬直する。

「あの…美神さん穏便に…あれ?どうし…ま…し…た…」

令子を止めようとしたおキヌとその後ろで身を震わせていたシロタマも同様に固まった。

口を押さえてワナワナと震えていたおキヌが辺りはばからない声で絶叫した。

「横島さん!そんな!まさか!魔人形なんてぇぇぇぇ!!」

「おキヌちゃん落ち着いてっ!シロたちも見ちゃ駄目っ!!」

「あああああ…しかもそれ私のスカートぉぉぉ!!そんなっ!ここに本物がいるのにっ!!」

錯乱するおキヌの声に少年はやっと目覚めた。
本当にGSか?というぐらいの危機感の無さである。

「あれ?美神さん帰ってくるのは明後日じゃなかったっすか?」

なんだか状況がつかめずキョトンとした顔を見せる横島。
つい数分前までその命が風前の灯だったということには気がついていなうようだ。
そんな少年に令子は優しく笑った。

「そ、そうね…ちょっと用事を思い出してさ…と、ところで横島君?」

「は、なんすか?」

ソファーに横たわったまま横島は返事をする。どうやらまだ寝ぼけているらしい。
見事に自分の置かれた状況に気がついていない。
そう…自分に抱きついているものなど彼の思考には無いのだ。

「うーんとね…つ、疲れていない?」

「いえ…眠いっすけど疲れているってほどでは…」

「そ、そう…」

なんだかもうシドロモドロの令子にかわっておキヌが叫んだ。

「横島さん!その人形は何ですかっ!!」

「人形?……ぬおっ!こら起きろフラウ!!」

「「「名前までっ!!」」」

絶叫する令子たちに横島はやっと自分の置かれている立場に気がついた。

「ち、違うっ!誤解っ!そ、そんな痛い子を見る目で俺を見んといてぇぇぇ!!」

「うんうん…わかるからね…ごめんね。あんたがそこまで追い詰められているって気がつかなくて…」

ハンカチで目元を拭う令子。

「横島さん…可哀想…」

もうこっちは完全に憐憫の視線を向けてくるおキヌ。

そして今ひとつ状況がつかめないシロタマはそんな応接室を覗き込んで無言で頷きあっている。

「違うんやぁぁぁぁ!!」

絶叫する横島の声を聞きながら人工幽霊は声を出さずにひたすら謝り続けるのだった。

(ごめんなさい横島さん…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…)


これが美神令子除霊事務所の黒歴史とされた「第一次煩悩少年人形愛事件」の真実である。

                                   おしまい


後書き
ども。犬雀です。
いやもうなんというか…シリアス書くのに詰まったからって気分転換にこんなん書いてどうする自分…。なんだか本文が異様に長くなったので短編のほうのレス返しは次の機会にまとめていたしますです。

すんません…犬、壊れてます。

では…

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