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「トップブリーダーは楽じゃない(GS)」

犬雀 (2005-06-13 19:45)
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『トップブリーダーは楽じゃない』


「先生!これを見るでござる!!」

「やかましい!」

「ぎゃん!」

一枚のチラシをかざして飛びついてくるシロを拳の一撃で沈める横島。
脳天に容赦ない一撃をくらって沈みこんだ頭を、追い打ちとばかりに握り締めた拳でグリグリと抉りこむようにこねくりまわされて悲鳴をあげるシロ。
いつもとはちょっと違う光景におキヌもタマモも驚いた目を向けている。

「な、何をするでござるか…先生…」

「何をじゃねぇぇぇぇ!!」

頭を押さえたまま「ほえ?」ってな顔をするシロに横島は手にしていたものを突きつけた。
それは一本の爪楊枝。
ますますわけがわからんと首を傾げるシロの前で横島は炎を背負って仁王立ちする。

「いいか!今週は美神さんが精霊石の買い付けでお出かけなわけだ!」

「それは知っているでござるよ!」

「ふむ…だったら俺がバイトも無いのにここに居る理由は何ぞや!え?言うてみい!!」

「ご、ご飯をたかりに来たんでござろう…きゃん!」

核心をついた台詞を吐いたシロの頭上に今度はチョップが落ちた。
「えぐう…」と頭を庇って涙ぐむシロに横島が畳み掛ける。

「そう。バイトが二週間も無い以上、今月の俺の生活費は致死レベルまで落ちる。そんな俺の生命線はおキヌちゃんが作ってくれるおいしい晩御飯しかないのだ!これは理解できるな?!!」

「先生がむやみにえっちぃ本とか買わねば…うきゃん!」

なにやら要らぬ秘密を暴露しそうになった愛弟子に鉄拳をかませて口を封じつつ周囲を見渡せば、「おいしい」と言われて嬉しさのあまりお盆を抱えたまま身悶えしているおキヌは聞いていなかったようだ。
ほっと息を吐きつきながら嫌な視線を感じてふと見ればジト目でこっちを見ているタマモと目があったりして…。思わず額に汗しながらも聞いてみたくなるのは漢としては理解できる。出来るったら出来るのだ。

「な…なんだ?タマモ…」

「別に〜。あんただって年頃の男の子だから仕方ないでしょ〜。そんなもんとやかく言う気はないわ〜。」

「うわぁぁぁぁ!やめてくれえぇぇぇ!!年下のしかも美少女からそういうことに理解を示されるとすっげー立つ瀬がねぇぇぇぇ!!」

「な、なにを馬鹿なこと言っているのよ!」

文句を言いつつもタマモの顔は赤い。もっとも恥ずかしさのあまり七転八倒している横島にはそんなことに気を回す余裕は無かったが。
面白くないのはシロである。
自分はいきなり殴られたのにおキヌもタマモも誉められているのだ。
それに自分が怒られた理由がまだ説明されていないことに気がついた。

「ところで何で拙者が殴られなきゃならんかったのでござるか!!」

抗議の声に横島も羞恥の檻からやっと抜け出すと再び暗い目をシロに向けた。
その目に怯むシロ。

「な、なんでござるか…」

「さて…シロよ。食うだけで精一杯の俺にとってだな羊羹のような甘味はまさに贅沢品なわけだ…理解できるな?」

「は、はいでござる!」

思わず尻尾を股間に挟むシロに横島は歌うような口調で語り出す。

「折角食後におキヌちゃんが切ってきてくれた羊羹…まさに小豆と砂糖のコラボレーション…今度はいつ会えるか知れぬと一切れ一切れ大切に食べていた羊羹…だがなどれほど甘美な時にも終わりは来るのだよ…そして最後の一口を別れの無常感と感謝とともに味わおうとしたまさにその時!!」

ビシッと指差され思わず一歩後退するシロに突きつけられるは魂からの弾劾。

「お前が飛びついたおかげで最後の一切れ飲み込んじまったじゃねえかぁぁぁ!!」


今にも血涙を零さんばかりに絶叫する横島に少女たちは一斉にこけた。
それでもなんとか立ち直って見れば床に跪いて身も世もあらずと泣きじゃくる横島がいて、もうどうしていいんだかわからなかったりして。
タマモが見かねたのか横島に近づくとその肩にそっと手を置く。

「あのね…ヨコシマ…私の羊羹あげるからもう泣かなくてもいいわよ…」

その口調はこけて泣く幼稚園児をあやす保母さんのように優しい。
慈愛に満ちたタマモの言葉に横島はゆっくりと涙に濡れた顔を上げる。

「ほ、本当か…」

「うん…わたしお揚げ以外はそんなに執着ないし…きゃっ!」

タマモの台詞は突然抱きついてきた横島によって途切れた。

「タマモ!お前はなんていい奴なんだぁぁ!!」

「あー。羊羹一つでそこまで感謝されるってのも凄く複雑なんだけど…」

抱きつかれたままポリポリと頬を掻けば、呆然と自分を見つめるシロと前髪に隠れた目をキラリと光らせているおキヌがいる。

「ひっ!」

なんだか背筋に冷たいものが走ったタマモは慌てておキヌにパスを出した。

「お、おキヌちゃんも羊羹くれるかもよ!」

「マジか!」

今まで抱きついてたタマモを放り出し一挙動で今度はおキヌの手を握る横島。
まさに節操なしの見本のような師匠の姿に涙するシロと何とも複雑な表情のタマモであった。


「んでいったい何のようだったんだよ。」

タマモの羊羹を堪能し、おキヌの羊羹はラップに包んで明日の朝飯のおかずにしようとポケットに入れた横島は目の前で沈んでいるシロに声をかける。

情けない師匠の姿と、自分の分の羊羹を横島にチラシを見せる前に一口で食ってしまったためタマモのパスに反応できなかったことで落ち込んでいたシロだったが、横島の言葉に目に輝きをとり戻して満面の笑みとともに一枚のチラシを彼の眼前に突きつけた。

「あ?なんじゃこれ?」と突きつけられたチラシを見る横島の顔に怪訝な表情が浮かぶ。

「全国異種ペット…コンクール…これがどうかしたのか?」

「これに出るでござる!!」

『「「えーっ!!」」』

シロの言葉に驚いたのはおキヌとタマモ、それと人工幽霊壱号。

「シ、シロちゃん…いつの間に横島さんとペットと飼い主の関係に…」

再び前髪の影から鋭い眼光を発するおキヌ。その手にしていたお盆がギッチョンと嫌な軋み方をする。

『シロさん…そのプレイは流石にまだ早いのでは?』

どこでそういう知識を仕入れているのか知らないが結構博識な人工幽霊壱号。

「シロ…あんた人狼の誇りはどこへ行っちゃったの…」

同じ犬属?として情けなさのあまり一筋涙をこぼすタマモにおキヌたちの反応に戸惑っていたシロが噛み付いた。

「違うでござる!タマモもこれを見てみればわかるはず!」

今度はビシリとタマモに突きつけられるペットコンクールのチラシ。
投げやりな視線を向けたタマモの目がある一文を読んだ途端に真剣な顔へと変わる。

「な、なんですって!優勝者にはそのペットの好きな食べ物がそれぞれ一年分?!!」

「そうでござる!!肉でもドッグフードでもタマモの好きな『キツネ官兵衛孝高』でも何でも一年分でござるよ!もし優勝すれば拙者も里へ仕送りが出来るんでござる!!」

「シロ!あんた出なさい!!」

最近のマイブームである高級カップ麺がタダで一年分手に入るかも知れないと聞かされたタマモの目にもいつしかシロと同じ輝きが宿っていた。
爛々と目を輝かせて迫ってくるタマモにシロはキョトンとした顔を見せる。

「何を言っているでござるか?タマモも出るんでござるよ?」

「へ?」

「よく見るでござる!」

シロが指差したところを読めばそこには出場資格が書いてあった。

「えーと…ペットの持ち込みは三匹…って…わ、わたしもペットになれとっ?!!」

「ふりだけでござる。相手はたかが犬っころ。人狼の拙者に勝てるわけがござらん!」

得意満面といった様子で力瘤をためてみせるシロにおキヌが不思議そうな目を向けた。

「勝てるって…毛並みとか見るんじゃないの?」

確かに普通のペットコンクールとは犬の毛並みとか姿勢をみるものだ。
場合によってはフリスビーを受け止めたり、飼い主と一緒にチューブだ階段だとかを走りぬけたりするのもあるようだが、おキヌにはそれがどういう違いなのかというところまでの知識はない。
だからシロが「おキヌ殿もよく見るでござる!」と突き出したチラシに目を凝らしてみて驚くのも無理は無いのだ。
だってそこには…。

「異種ペット格闘コンクールうぅぅぅ!!」

「しかも勝ち抜き戦でござるから拙者が先鋒で出ればタマモまで出番はござらん。」

なるほど熊をも正拳一発で沈黙させたことのあるシロなら相手が伝説の土佐犬であっても勝ちは固いだろう。

「でも三匹って…あと一匹は?」

チラシを読み進めておキヌの口から出た疑問にニヤリ…とシロは普段無邪気な顔に彼女らしくない邪笑を浮かべた。

「拙者に考えがあるでござる…ところで先生は?」

チラシを見てからというもの無言のままの横島にようやく気がつくシロ。
どうやらかなり舞い上がっているようだ。
横島はどこか悲しげな表情で天井を見上げていたが名前を呼ばれてようやく気がついたのかゆっくりとシロタマに視線を向ける。

「なあ…シロ、タマモ、勝ったらドッグフードとカップ麺半分くれよな…賞金山分けでいいからさぁ…」

『「「「ドッグフードもっ?!」」」』

「あれだって一応たんぱく質だし…」

食うらしい…人としての尊厳を捨て始めている横島の姿に涙を隠せない狐と狼と人工幽霊。それでも賞金独り占めと言い出さないあたりがこの少年らしいかも知れないとクスリと笑った。

おキヌはといえばチラシを見たままほんわかとトリップしている。
その視線が「優勝賞金100万円」のところにあるか、それとも副賞の「四国巡礼ペアの旅招待券」にあるかはさしもの人工幽霊壱号にもわからなかった。


兎にも角にもシロに引っ張られる形で異種ペット格闘コンクールに出ることになった事務所のメンバー。
シロは最近は穏やか目の除霊仕事しかなかったためにストレスが溜まっていたのか、申し込み手続きから厄珍のところにまで出かけて車の手配やゲージの準備などを一手にこなしている。

だが詳しい内容は飼い主として参加する横島にまで秘密にするという徹底振りだ。
何となく厄珍が影で糸を引いている気もするが目先の賞品に目がくらんだ横島たちはさほど気にしなかった。
気にする暇はなかったといった方が正しいかも知れない。
それほどシロの動きは素早かったのだ。

ただ一つ気になるとすれば、おキヌが時折天に向かってガッツポーズをしてみたり、はたまた横島の顔を見ては顔中を真っ赤に染めて「いやんいやん」と身をくねらせたりすることだったが、それがどういう意味なのかは横島にはわからなかった。
タマモの話によれば横島が居ないときにシロと打ち合わせと称しておキヌの部屋に入り浸っているらしい。
だが中でどんな相談がなされているかはタマモも知らないようだった。


そしてついに「全国異種ペット格闘コンクール」の開催日がやってきた。


全国津々浦々から集まった腕自慢ペット自慢の飼い主たち。
年に数度、漢たちや一部の婦女子の皆さんが萌えを極めるために集まる会場は飼い主の側に置かれた大小様々なペットゲージによって足の踏み場も無い。
中にはどうみても檻だろ?って大きさのものや水槽もあったりするが、飼い主たちの作戦なのだろう、厳重に隠されてどんなペットが入っているかは見えなかった。

そんな騒然とした会場前で待ち合わせをしていた横島とタマモの前に一台のトラックが止まる。
トラックの助手席から降りてきたのは厄珍だった。

「よう。坊主。今日は頑張るアルね」

「ああ、今年一年の食生活と…それ以外の生活がかかっているからな。死ぬ気でやるさ。」

「その意気アル。ところで早速だがキツネのお嬢ちゃんは車の中のゲージで待機するね。シロちゃんはとっくに待機しているアルよ。」

「わかったわ。あれそういえばおキヌちゃんは?」

キツネの姿に戻りつつタマモが聞けば厄珍は「さあ?今日は会ってないあるよ」と目を逸らせた。
その様子に不審なものを感じる横島である。
考えてみれば厄珍が自分のメリットにならないことをするはずがないのだ。

「なあ…まさかとは思うがまた変なクスリとか試してないよな。」

「そんなこと言われるのは心外アルね。ささ、そろそろ受付が始まるアルよ!」

あからさまではあるんだが、今ひとつ確証をつかめず一抹の不安を残したまま受付を済ませる横島。

氏名を告げるだけというあっさりした受付を済ませると間もなく開会式が始まった。

何箇所かに分かれた闘技場のあちこちでそれぞれのペットたちの熱い戦いが始まる中、ついに横島たちの番がやってくる。

アナウンスされて闘技場に出た横島の前に立ちふさがるのはマッチョの巨漢。
その後ろにはゆうに人一人が入れる水槽型のケージが三つある。
腕組みして笑うマッチョの顔になんとなく見覚えがある気のする横島だった。


「ふははは。小僧。この蛮玄人と緒戦で合うとはお前も運の無い奴だな!」

「はぁ?」

まだ思い出せない横島。彼の脳には筋肉男を記憶するスペースなぞ無いのだから仕方ない。もっとも蛮の方も目の前の少年のことを思い出していないようだ。
案外似たもの同士かもしれない。

「ふははははは。なんだか知らんがムカツク顔をしたガキだ。お前には50%の力で相手をしてやるから感謝するがよい!」

「相手をするのはお前じゃねーだろ…」

横島がジト目で返した瞬間、審判から始め!の合図が飛んだ。

「くっ!なんかわからんが行けっシロ!!」

「わうん!!」

合図とともに飛びさがった横島は闘技場外のシロのゲージをの蓋を開ける。
すかさず飛び出してくる狼形態のシロ。やる気は充分だ。

対する蛮玄人も水槽ゲージの蓋を倒した溢れる水とともに出てくるのは…。

「ふははははは。そんな犬っころ。俺のペット「ホオジロザメのサメハダちゃん」の前では無力だ!!」

「サメをペットにするなぁぁぁ!!」

絶叫する横島に蛮は勝ち誇った視線を向ける。

「ふん。異種ペット格闘にサメは駄目というルールはない!さあ降参しろ!さもなくばお前のペットは食われるぞ!!」

「あー…その前に…お前のペットが死にかけているんだが…」

「何っ?!!」

慌てて闘技場を見れば確かにピチピチと出てきたサメがぐったりしていたりして。

「なんと!どうしたサメハダちゃん!!」

「魚類を陸に上げれば弱るのは当然だろうがあぁぁぁぁ!!!」

「しまったぁぁ!!戻れ!サメハダちゃん!」

「戻れるかぁぁぁ!!」

横島の言葉にポンと手を叩いて納得した蛮は大慌てでサメハダちゃんを救おうと駆け寄ったが…。

「お、齧られた…。まあペットと飼い主に愛があれば死ぬことはないか…多分…」

闘技場の惨劇から目を逸らしつつ呟く横島にシロも「くうーん」と同意したのであった。
こうして緒戦は対戦相手戦闘不能(死ななかったらしい。さすが筋肉)となり横島たちの勝ちとなった。

その後も色々なペットと戦う横島とシロの師弟もといペットと飼い主コンビ。
だが流石は人狼のシロに他のペットが勝てるはずも無く。目論見どおり先鋒のシロだけで順調に勝ち進みついに決勝戦となった。

相手はしゃくれた顎がプリティな厳ついおっさんである。
黒文字でくっきりと闘魂と刺繍された真っ赤なタオルを首に巻いたおっさんに観客からのコールが響く。
その腰に巻かれたチャンピオンベルトは彼が前年の勝者であることを語っていた。

「大丈夫かシロ?疲れてないか?」

「わふわふ!」(大丈夫でござる!)

多少の疲れはあるもののまだまだ行けそうなシロに横島は全てを託した。

「行けっ!シロ!!」

「わうん!」

対するおっさんもゲージの蓋を開ける。

「アントニオ!君に決めた!」

出てきたのは目つきの悪い虎縞の猫。どうみても雑種であるが纏う闘気は本物だ。

「わおーん!」
(狼が猫に負けるわけにはいかん!!)

電光石火に突っ込むシロにアントニオは咥えていた草をぺっと吐き捨てた。
シロ渾身の体当たりがアントニオに炸裂し、軽量の猫など吹っ飛ばされるかと思いきや、闘技場では突っ込んできたシロの頭をがっしりと小脇で受け止め不敵に笑うアントニオの姿。

「なにぃ!」と驚く横島の方をチラリと見てアントニオはフロントヘッドロックを決められジタバタもがくシロを高々と抱え上げた。

「ブレンバスター!!」

横島の驚きの叫びに応えるかのように抱えたシロを脳天から床に叩きつけ間合いをとるアントニオ。

脳天を打ったシロがヨロヨロと立ち上がりざま、軽く跳躍し彼女の後頭部を刈るような蹴り一発。

「延髄斬り!」

アントニオはもんどりうって倒れるシロをの首と両足を手で掴むとその背に膝をのせグルリとひっくり返す。

「わふぅぅぅぅぅぅ!」

引き絞られた弓のように締め上げられて悲鳴をあげるシロ。イヌ科に背骨系のストレッチ技はかなりきつそう。

「弓矢固め?!!って本当にあれは猫か?どう見ても骨格的に無理だろうがっ?!!」

それを言ったら延髄斬りも無理っぽいんだが…とにかく唖然としてる横島にアントニオの飼い主のおっさんが高らかに笑う。

「ふははははは。少年よ。そんなことも知らんのか?昔から言うだろう『ペットは飼い主に似る』とな!!」

「似るのベクトルが違いすぎじゃぁぁぁ!!」

「そんなことより少年。そろそろギブアップした方がいいぞ?」

おっさんの言葉に「へ?」と闘技場に目を戻せば確かにシロはアオに変わりそうな按配だった。

「わーっ!シロ!ギブアップしろおぉぉぉ!!」

横島の声が聞こえたかシロは無念そうに「ギブアップでござる…」と告げた。

ゴングが鳴り勝者を称える歓声が響く中。ヨロヨロと闘技場を降りてくるシロ。
負けたのが悔しかったのかエグエグと泣いている。

「お前は頑張ったさシロ…」

「先生〜…」

感極まって抱きつくシロをよしよしと撫でていて横島は気がついた。
シロがさっきから人語を話していることに。

慌ててあたりを見ても誰も不思議とは思っていないようだ。
頭に疑問符を浮かべた横島の表情から何かを察したのか対戦相手のおっさんが微笑んでくる。

「何か疑問か少年?」

「はぁ…犬が喋ることに疑問は無いんですか?」

「特に無い。」

「は?」

「我らペットを愛するもの、その愛ゆえに意志の疎通は出来る。言葉など問題ではない!!」

おっさんの台詞に「おーっ!」と湧く会場。どうやら皆の気持ちも一つらしい。

なんだか不思議空間に巻き込まれた気のする横島におっさんはニヤリと野太い笑みを見せた。

「君とペットの愛がそれだけ深いということだ!」

「そうでござる!!先生と拙者の愛は不動でござる!!」

思わず叫ぶシロに観客もおっさんもウンウンと頷く。
なんだか激しく間違っている気もするが、とにかく反則負けではないようだ。
それに横島たちにはまだタマモが居る。
勝負の行方はまだわからない。

タマモのゲージに声をかけて見ると相棒が負けたことで闘志に火がついたかやる気満々といった返事が返ってきた。

こうしてついに第二戦が始まることとなった。

勝ち抜き戦にも関わらずおっさんはアントニオにゲージに戻した。
勝ち抜きにはこだわらないらしい。それだけ次のペットにも自信があるということだろう。

闘気溢れるタマモに横島はこそっと耳打ちする。

「相手はプロレス技の使い手だ。接近戦は不利だぞタマモ。」

「わかったわ。遠距離からの攻撃でけりをつける!」

再び告げられる始めの合図。

「行けっ!タマモン!!」

「おっけー!」

蓋が開くととも飛び出すタマモ。よりキツネらしくするために一本尻尾の普通キツネに化けているという念の入れようだ。
もっともこの空間ではあまり意味がない気もする。
喋る犬でさえ受け入れる彼らペット愛好家にとって尻尾の数など問題ではないだろう。

とにかく普通のキツネのつもりで飛び出すタマモにおっさんも二番目のゲージの蓋を開ける。

「行くのだ!カメちゃん!」

無言で飛び出してくるのはミドリガメ。
だが大きさが尋常じゃない。っていうかもうアレはミドリガメじゃない。
何しろ横島よりでかいのだ。

「でかっ!」と驚くタマモに目掛けて尻に火がついたかのような勢いで突っ込んでくるミドリガメ。
早さもカメとは思えない。

「くっ!」と咄嗟にかわして距離をとったタマモは口から必殺の狐火を放った。

自分のペットが灼熱の炎に包まれているというのにおっさんは冷静だった。
反対に横島の方があせる。
相手のペットを死なせるのは寝覚めが悪すぎる。

「おっさん!ギブアップせんとカメが死ぬぞ!」

おっさんは横島の声にも無言の笑みを見せるだけ。
なぜなら…

「うそっ!」

タマモの声に闘技場に目を戻せばミドリガメは大きく口を開けタマモの狐火を全て飲み込んでいたのだ。

「なんじゃアレはっ?!!」

突っ込む横島におっさんは再び高笑い。

「家のミドリガメは変わっていてなぁ。火とか石油が好物なのだ。」

「そんなカメどこに売っているかっ!!」

「トレーニング中に海で拾った。」

「ぜってーミドリガメじゃねぇぇぇ!!!」

「何を言う。見ての通りカメだろうが…たまたま好き嫌いが激しいに過ぎん!!」

おっさんの言葉にわく観客たちの前でミドリガメは全ての火炎を飲み込むとその手足をスポンと引っ込める。

あまりの展開にボーッと見ていたタマモの前でカメの甲羅に開いた手足の穴からジェット噴流のように火が噴き出した。

「え?」

流石に我に返ったタマモが反応する間もなく、激しく回転しながら突っ込んできたミドリガメのタックルがタマモを吹き飛ばす。

「あきゃぁぁぁぁ!!」

衝撃に変化がとけ美少女の姿で場外まで吹っ飛ばされるタマモを抱きとめる横島。
「大丈夫か?!!」と見ればグルグル目で気絶しているものの怪我は無いようだ。

「ほっ」と胸を撫で下ろしてふと気がつく。
さすがに喋る犬はいいとしてもキツネが人に変われば反則負けは必至と思って首をすくめても審判もおっさんも何も言わない。
それどころかウンウンと頷いて感動の涙を流している。

「あの…不思議とか思わないんですか?」

恐る恐る聞く横島におっさんは滝のように感動の涙を流しながら激しく首を振った。

「何を言うか少年!愛情込めたペットが人の姿になってあーんなことやこーんなことをしてくれるってのは漢の浪漫だろう!君のペットへの愛が深いことまたまた確認させてもらったぞ!!」

熱いおっさんの言葉に審査員も審判も観客さえもウンウンと頷いている。

ペット道の深遠を垣間見てなんだかどうでもよくなってきた横島。
頼みの綱のシロもタマモも敗れた今、横島の後ろにあるのは厄珍が用意した大き目のゲージだけ。中身は彼も知らない。
だが…わかる…このゲージが禁断のパンドラの箱と同等の威力を持つものだということが…。
ていうか話の展開上それしかないじゃないか…。

おっさんは躊躇する横島を不思議そうに見ている。
いつの間にかミドリガメは引っ込んでおり、次のゲージに手をかけているところからすれば次の相手もかなりヤバイ生き物だろう。

「棄権しますか?」と聞いてくる審判に「はい」と答えようとしたとき、観客席にいた厄珍が絶叫した。

「心配ないね坊主!次は絶対に勝てるあるね〜!!」

「本当だろうな!!」

「ワタシが今まで嘘ついたことがあるあるかぁぁ?!!」

「その台詞がすでに嘘だぁぁぁ!!」

「頼むあるね〜!もし棄権したらトラックとゲージのレンタル料請求するね〜!!」

「ぐわ…痛いところを…」

厄珍の説得というか脅迫についに屈した横島は審判に続行の意志を示した。
対戦相手のおっさんが満足げに笑う。

「うむ…棄権すれば敗北確定。だが立ち上がり続ければ勝機はある。そして最後に残ったペットの居たほうが勝者であるこの戦い。まだ君にも勝機はあるのだ。」

「はい…」

頷いた横島は審判の開始の合図とともに運を天に任せてゲージの蓋を跳ね上げた。

「行ってくれ!おキヌちゃん!!」

「はいっ!」

「ああっ!やっぱりかぁぁぁ!!」

予想通りの展開にがっくりと膝をつく横島。
それとは裏腹に楽しげに飛び出してくるおキヌ。
その姿は漢の夢であるバニーさん。ちょっと胸元が厳しいかも知れないが網タイツといい、白い尻尾といい、ウサ耳といいツボはきっちり押さえている。
服装ゆえか頬を赤く染めてはいるものの普段の清楚な彼女からは考えられないハジケぶりだ。
湧き上がる観客!
萌える漢の魂背に受けて燦然と闘技場に立つおキヌを厄珍がビデオからカメラからありとあらゆる機材を駆使して記録しまくる。

流石にペットの闘いにバニーさんは反則負けだろうと、なんとなくホッとする横島だったがおっさんは微動だにせず闘技場を見つめるだけ。
そしてついにおっさんの口が動いた。

「うむ…今度は端から人化したウサギか…。うむ!良し!その意気や良し!!」

「なんでじゃぁぁぁぁ…」

突っ込む横島の声にも力が無い。

だがそんな横島のことなぞお構いなしにおっさんは最後のゲージの蓋を開けた。

「行くのだ!ハッちゃん!!」

中から出てきたのは巨大なタコ。
やっぱり横島より大きいし…すでに怪獣と言って良いだろう。

「ひっ!」

流石にヌルヌルの生き物はいやだったかおキヌの顔が恐怖に歪む。
そんな彼女とは逆にむちゃくちゃ高まる会場のボルテージ&煩悩。

もしかしたらバニーさんと触手の絡みが見られるかもと会場には漢たちの発するエナジーが嵐となって吹き荒れる。
そして当然、その中心にいる少年もその萌えエナジーを一身に受けていた。

(のおぉぉぉぉ!おキヌちゃんがバニーで触手でヌルヌルでえぇぇぇぇ!!)

自分の想像に冥府魔道に落ちかけた横島の耳に届くおキヌの声。

「ひーーーーん。横島さーーーん。助けてぇぇぇ!!」

見ればヌルヌルと近寄ってくるタコに追い詰められているおキヌの姿。
その姿に少年の心の中で「萌え」と「理性」が激しくぶつかりあう。

そしてついにあふれ出した煩悩と霊力は会場に満ちた不可解なエナジーと共鳴しピカと火花を散らせて会場もろとも大爆発した。


後日帰国した美神の前に会場修理費の請求書が届き、シロ、タマモ、おキヌがしこたま叱られてお小遣いや肉、お揚げ抜きになったのは言うまでも無い。

横島?

彼の行方は知られていない。
ただ某山の修行場に匿われているという噂が聞こえてきた気もするが、その修行場の管理人が固く口を閉ざしているので真偽は定かでないそうだ。

『窮鳥懐に入れば猟師もこれを射ず』


                                                                おしまい


後書き
ども。犬雀です。
えー。ちょっとシリアス風味の短編書いてたら行き詰って…。
そんなときに画像掲示板のmoru様の素敵な四コマ見つけまして。
最後のコマのタマモ見てたら電波拾いました。
なんであんなに面白い四コマがこんな壊れ話になるのか…という突っ込みはなしということで。
Moru様…見てらしたらすんません  orz
では…

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