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「世界はそこにあるか  第14話 (GS)」

仁成 (2005-06-11 21:50/2005-06-12 22:09)
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事務所には横島、美神、おキヌ、れーこちゃん、心眼、

そして美智恵がいた。


横島と美神が帰ってきてから数時間後に、再び落雷とともにやってきたのだ。


久しぶりに逢えた母親。


それにも拘らず、美神は美智恵に甘えることもなければ、世間話なんかをして盛り上がることさえない。

ただ、美智恵から事情を聞き、こちらで起こったことを話しただけ。


他人の前で母に甘えるなど、自身のプライドが許さないのかもしれない。

久しぶりに、そして突然逢えた母に戸惑い、うまく会話が出来なのかもしれない。


だが根本の原因はおそらく彼。


怒りを発しているわけではない。

まして憎しみなど滲み出てもいない。


だが単純に彼は不機嫌だった。

それをなんとかみんなに隠そうとしているところが、さらに空気をおかしくしてしまっている。


吹っ切っているくせに、そういうところを隠すことも出来ない。

……戻る前は出来ていたはずなのに。

もう終わった事と、これからの事との違い。


何とも不器用なことだな、と心眼は心の中で嘆息した。


美神と美智恵の話が一通り終わったようだ。


「彼は?」

横島に目線を向けながら、美神に尋ねる。

もちろん彼とともに、ハーピーを倒したということは聞いているので、キチンと紹介して欲しい、ということだ。


「最近うちで、助手から見習いになった横島クンよ」

「どうも」


美神が紹介すると、横島は美智恵に向かって軽く頭を下げる。

やはりいつもの彼ではないが、美神もそれを咎めない。


「少し二人で話したいんだけどいいかしら?」

「いいっすよ」

美智恵からの提案に、あっさりと同意する。

「何よ話って!?」

美神が食い付くが、ほとんど形だけといった感じで、迫力が感じられない。

美智恵は彼女に曖昧な笑みを浮かべると、彼と二人で別の部屋へと入っていった。


「とりあえずお礼を言うわ。
令子と一緒に戦ってくれて、あの子のことを守ってくれてありがとう」

美智恵がまっすぐに横島の目を見る。

「いえ……」

なんと答えていいのか分からない。

ただ褒められすことをしたという意識などなかった。

彼が美神と共に戦うのは当たり前のことだから。

「近くで見ていれば分かるかもしれないけど、令子は強く見えて心は弱いところのある子だわ。これからも貴方にあの子を支えて欲しいのよ。
令子も君を気に入ってるみたいだし」

「じゃあなんで……ッ!!!」


―――なんであの人を一人ぼっちにしたんですか!!?


すぐさまそう言い返しそうになるが、何とか口を閉ざす。


母親がいなくなっても父親が近くにいたのなら、それも耐えられるかもしれない。

だが彼女の父は特異体質で近くにおらず、中学生という多感な時期に独りになることが彼女にとってどれだけのことだったか。


一人ぼっちは――孤独とは違う。

孤独はそれを感じる人によって作られるが、一人ぼっちはそれを押し付けれられた人のところに存在する。

だから――孤独を愛する人はいても、一人ぼっちを好きな人なんていない。


「人は…変わっていきますよ……」

何とかそれだけ口から出す。

「そうね……。人は強くもなれれば、弱くもなるわ」


―――違う。


彼の言いたかったことはそういうことではなかったが、そこを彼女に言うこともなく、また言葉を紡いでいく。


「ならあの人を強くしたのは貴女かもしれないけど、弱くしたのも貴女でしょ」

「そうかも…そうかもしれないわね……」

美智恵は複雑な表情で黙り込む。

もう将来、死んだことにして隠れることを決めているのだろうか。

横島も何も言うことなく、彼女の顔を見つめていた。


横島との話の後、美智恵はれーこちゃんとともに落雷で帰っていった。

れーこちゃんが帰り際に、「ばいばい、よこちま!」と笑顔で言ってくれたのが彼にとっては何より嬉しかった。

それとともに、最後に嫌な思いをさせてしまったことが何より恥ずかしかった。


横島はアパートへの帰り道を歩いている。

とぼとぼという形容がまさしく相応しいといった感じだ。

「なんていうかさ…、あれだよな…………」

今の彼の気持ちは、心眼にはよく分かっている。

『戯れ言か……?』

「そう……」

横島大きくため息をつく。

それは冬の空気で白く染まり、すぐに消えていった。


世界はそこにあるか  第14話


タマモが雪之丞と出会って、それなりの月日が流れた。

結局日本には帰っていない。

もう少し帰らない、と横島に連絡を入れたときはかなり心配していたが、雪之丞と一緒と分かって少し軟化していた。

タマモも彼と長い間会えないのは辛かったが、そうも言っていられない。

たまに自分の近くにいるのが横島ではなく、この目つきの悪い男だと改めて認識すると溜息が出るが、タマモは彼が嫌いではない。

からかいがいのあるやつだと思っていた。

言うなればシロと同じか。

彼には自分が妖怪であることや、横島の部屋に住んでいることは、会ってすぐの頃にすでに伝えてある。

その時、「言っとくけど、あんたより強いからね」と言って、また雪之丞と言い争いになったりもしたが、さすがに見た目少女である彼女に勝負を挑んだりはしなかった。

雪之丞も彼女が只者でないことには気付いている。

戦闘面では彼女が隠しているので測りかねてはいたが、彼女が作ったという資料を見ればただの少女でないことぐらい分かる。

精緻にして――さらに正確。

これにより調査はかなりスムーズに進んだといえる。

さらにタマモが横島と親しいというのも好都合だった。

彼女とともにいれば、かなりの確率で横島に会える。

彼との再戦を望む雪之丞にとって、それはかなり心躍ることだった。


二人は調査の末、ついに「針」を作る現場を突き止めた。

海の近くの、とある倉庫である。

倉庫に置かれた荷物の陰に隠れていると、ゾンビが風水師と思われる者を引っ張っており、その後ろから勘九郎が歩いてくる。

「くっ……、やっぱ勘九郎か……!」

雪之丞が小声で呟く。

タマモからそうらしいとは聞いていたが、実際に見るとやはり衝撃は大きい。

だがタマモは「静かにしてなさいっ!」といった感じで彼の口を押さえつけ、向こうの様子をうかがう。

「風水師のウォンさんね?
ある方が特殊な風水盤を作るのに、貴方のような優秀な風水師の協力が欲しいのよ」

勘九郎が目の前の男に語りかけた。


「いい? 私が勘九郎の注意を逸らすから貴方は針を奪って、あの人を連れてここから逃げてちょうだい」

「なっ! 勘九郎は俺が!」

雪之丞がすぐさま言い返す。

やはり元親友のやっていることに責任を感じているのだろう。

「何言ってんのよ。
私じゃあの人を連れて逃げるなんて出来ないでしょう!?
それにここでの最優先の目的は、勘九郎を倒すことじゃなくてあの針を奪うことなんだから。その次はあの人の確保」

彼女の正論に雪之丞は不満ながらも黙る。

あの人の確保を最優先にしたいところだが、ここで針を奪取できなければ、次に現場を突き止めるまで何人殺されるか分からない。

それにタマモには両方やる自信があった。

「じゃああとは飛び出すタイミングだからね。
ミスしないでよ……!」

雪之丞は、なにかタマモにすべて仕切られているような気がして――気がするどころか、事実彼女がすべて決めている――気に入らなかったが、今はやるべきことに集中することにした。


ゾンビがナイフを取り出す。

これで彼を殺し、血を出すつもりだろう。

「今よッ!」

タマモの声が倉庫に響き渡り、二人が飛び出す。

「はっ!!!」

雪之丞が霊波砲を放ち、ゾンビを風水師から離す。

うまくコントロールされた一撃だ。

さらに拳でゾンビを殴りつける。

「なっ……! 雪之丞!!」

それを見て、すぐに勘九郎が雪之丞に詰め寄ろうとするが、当然のようにタマモが彼の前に立ちはだかった。

「先に行くぜっ!」

雪之丞は針を持ち、風水師を引っ張って倉庫から出て行く。

「どきなさい! お嬢ちゃん!」

勘九郎がタマモに向かってつっこんでくる。

「サイキック猫だまし!」

勘九郎目の前で光が爆ぜる。

横島の技を真似した、狐火の変化技だ。

名前まで一緒にしているのはご愛嬌というものだろう。

「ぐわっ!!!」

強烈な光に目を押さえる。

よほどの実力差がないと、正面からの力押しでタマモに勝つのは難しい。

さらにタマモに戦う気がないのだからなおさらだ。


勘九郎がようやく目を開けることが出来るようになったとき、倉庫に雪之丞とタマモの姿はどこにもなかった。


「ねえ、あんた。給料いくらがいい?」

事務所でおキヌの淹れたコーヒーを飲んでいると、突然美神が口を開いた。

一瞬何のことか分からなかったが、すぐに妙神山に行く前に彼女に給料のアップを頼んでいたことを思い出す。

ハーピーとの戦いのあとも、何度も仕事をしてきたが、タマモがいないため何とか生活できていたのですっかり忘れていた。

一応500円には上がっているし。

美神は覚えていたが――彼女が金に関することを忘れるはずがない――こちらから言うのも気恥ずかしく、今まで言い出せなかったのだ。

「いくらぐらいに……」

「あんたが決めていいわよ。ただし、常識の範囲でね」

常識って何だよ!? と横島は美神の言葉に恐怖する。

彼女がこちらに委ねた以上、変な額を言えばどんな目にあうか分からない。

「じゃ、じゃあ……、2550円ぐらいで……」

妙神山に行く前の十倍。

多すぎるかとも思ったが、こういう交渉で最初に多すぎるぐらいに言うのは基本なので、びくつきながらも言ってみる。

品物を値切るときでも、自分でも安すぎると思っている金額を最初に言うと、最終的に安くなる可能性が高い。

「分かったわ。じゃあ今日から2550円ね」

「へっ!?」

以前のように間の抜けた声を出してしまう。

ここからが大阪人の腕の見せ所だと思っていたからだ。

とりあえず気持ちを落ち着けるために、マグカップに残っていたコーヒーを一気に飲み、おキヌにおかわりを頼む。

実は美神は5000円くらいなら認めてやろうと思っていたので、彼の心配は全くの杞憂だったのだ。

とりあえず2550円がGS見習いとしては決して高くないことを、誰か彼に教えてあげて欲しいものである。


この数日後、タマモからそろそろ針を奪う予定だ、という連絡が横島に入る。

いつ針が教会に届いてもいいように気を引き締める。

みんなを巻き込むには、横島の部屋や美神事務所より、顔の広い唐巣の教会のほうがいい。

とりあえず、特に生活が変わるわけでもないのでいつものように事務所に行ったり、まじめに学校に行ったりして過ごす。


そんなある日、事務所に行くと六道親娘が騒いでいる。

「横島クン、さっそくで悪いけど今から冥子の家に行くわよ」

美神が溜息を吐きつつ、呆れ顔でそう言う。

この親娘のどたばたに巻き込まれるのはもうたくさんだ、といった顔だ。

横島も異論は全くなかったので、冥子の家に向かうのだった。


「鬼道政樹です。よろしゅうお願いします」

和服を着て、髪を後ろで束ねた男が挨拶する。

すっきりとした顔立ちの、なかなかいい男である。

「ここは若い人たちに任せて、私は退散を〜〜」

「お見合いじゃないって言ってるでしょ〜〜〜!」

相手のあまりにシリアスな様子に、冥子はビビリまくっていた。


それから鬼道が式神を出し、「戦いに負ければ自分の式神を相手にさしだす」というルールが確認される。

冥子はそれでさらにビクついているが、母親の方は余裕だ。

「ねえ、美神さん」

「ん?」

横島が美神に話しかける。

「あの鬼道とかいう奴の霊力じゃ十二神将を全部自分のものにして、操るなんて今は無理じゃないんすか?」

「よく分かってるじゃない。冥子は普段はあんなだけど、天才の家系である六道の名前は伊達じゃないわ。彼じゃ扱えて5匹か6匹ってとこね」

「じゃあ冥子ちゃんの母親はそれを分かってるってことすか?」

「当然でしょうね。
じゃなきゃこんなリスクの高い決闘するわけないじゃない。
ホント、とんだ茶番に巻き込まれたわ」

美神は心底やれやれといった感じだ。

だが問題はそれを聞いていた鬼道である。

「ウソやっ! ボクは復讐のために今までの人生のすべて捧げて、死ぬほど修業してきたんや! そんなわけあるかいっ!!」

そう言って鬼道は夜叉丸を冥子にけしかける。

横島にできるのはここまで。

見習いの彼では六道家の決闘をどうこうするなんて出来ない。

だがこのままでは鬼道があまりに哀れだと思っているだけである。


案の定というべきか、6匹吸収した時点で、暴走しているわけではないが扱いきれなくなってくる。

「くっ……! やっぱりあいつらの言う通りなんか……!?
復讐でけへんのやったら、生きとってもしゃあないのに……!!!」

もはや意地だ。

「これからどんだけ修業しても無理なんすか?」

もうこの辺りでいいだろうと、横島が美神に尋ねる。

あとは美神が、「可能性が無いことは無いんじゃない?」とでも言えば、鬼道もさすがに戦いをやめるだろう。

「うーん……っていうかさ、あそこまで覚悟してるんだったら、冥子を殺せばいいのよ。
そうすればさ、十二神将はおば様に戻るだろうけど、これからおば様に娘でもできないとそこから行き場所ないんだから。まあ、おば様の年を考えたらそうなるは可能性は高いじゃない? それで六道の直系は断絶だし。
ねっ、冥子にも六道家にも復讐できてるじゃない」

「ねって、そこまでえげつねえこと聞いてませんよ……」

あんまりな言いように、横島は思いっきり引いていた。

冥子は一応彼女の友達だろうに。

「ひどいわ、令子ちゃん〜〜!!」

冥子も半泣きだ。

それを聞いて、さすがにそこまでしたくないと思ったのか、鬼道が夜叉丸をしまう。

「…もうええわ。でもいつか……!」

「美神さん!!!」

鬼道の声が突然遮られる。

「ピート! それにあんた……!」

そこにはぼろぼろのピートと、ふらふらの雪之丞がいた。

「ちょっとなんでここに!? それにその怪我!」

「えっとここは人工幽霊一号に聞いて……。
ってそれはいいんです! 唐巣先生が石に! 何とか僕のことを逃がしてくれて……。勘九郎がこれを持って香港に来いって……!」

「ちょっと何のことか分からないわよ!」

詳しい事情を聞こうと、美神はピートに詰め寄った。

「なんでお前がここにいんだよっ!」

横島は足に力の入っていない雪之丞のコートを掴み、前後にがくがくと揺らす。

彼と一緒のタマモはどうしたのか。

それが聞きたかった。

「は…腹減った……」


雪之丞は……五日油揚げしか食べてなかった。

というかタマモが、命の次に大事な油揚げを分けてあげていることに、彼は心から感謝すべきだろう。


あとがき
相方「隊長は流すんとちゃうかったん?」
仁成「最近ちょっとこの話がシリアスだって忘れてるような気がしまして」
「単純にお前がSS書くんに慣れてきただけやろ。前回のファーストか? あれはなかなかよかったんちゃうん? 話の大筋に絡んでるわけでもなかったし」
「あれは私もおもしろかったと思ってるんですけど」
「じゃあええやん。GS美神の醍醐味はコミカル&シリアスやろ。それも比率5対1ぐらい」
「まあそうなんですけど、とりあえず今回は全体を真面目路線にしてみました。いえ、私は隊長のアンチではありませんし、この話の大筋がそういう方向にいくこともないんですけど」
「ふーん、まあええわ。とりあえず最後までいってくれれば」
「ええ」


変な小話が入りましたが、まあこういう感じです。
次回はやっと香港です。
前回鬼道か学校かということでしたが、鬼道に。
学校はタマモ出したいんで。(学校の話のほうが早くできた罠)

今回も読んでいただきありがとうございます。


>高足蟹さん
心眼は横島の忠実なる相方です。彼がボケればツッコミ、ボケが必要だと感じればボケますw 
更新に関しては皆さんに忘れられないように頑張っています。
今のところ週2です(基本は金・土と日・月)


>さきさん
彼の、そして私の知識です(キッパリ)


>文・ジュウさん
美智恵とコンタクトさせました。どうでしょう?
アンチもそれほどきついものにならない予定です。


>casaさん
いいですよねー、ファースト。
あれは一応ファンネルです。サイキックファンネル。


>柳野雫さん
実際ケンカばっかしてます。
タマモにとっていいおもちゃなんでしょうw


>MAGIふぁさん
やっぱ吹っ飛んじゃいましたか。
そうならないようにあとがきでタマモ話を強調したんですけどw


>ヴァイゼさん
私も欲しいですよ。
さらにツッコミ、ボケの両方こなせますし。


>響さん
心眼のキャラが変な方向に立ってきてますが、主人公食うほどですか!
他のSSではほとんどいじられず、安定度ナンバー1なのにw


>なまけものさん
ものすごい話術です。紙芝居なんか目じゃありません。


では。

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