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「世界はそこにあるか  第13話 (GS)」

仁成 (2005-06-06 21:40/2005-06-08 06:45)
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タマモは香港の街を歩いていた。


戸籍のない彼女にはパスポートはなく、はるばる変化で飛んでやってきたのだ。

そもそも飛行機代もない。


食費だけは、横島の2週間分の生活費を貰っているのである程度あり、こちらに来る前に油揚げだけは大量に買ってきている。

味気ないとも思うが、最低でもこれがあれば、十分だ。


原始風水盤の事を探りに来たわけだが、彼女は香港に来たことがないので、とりあえずあちこち回ってみる。


“知らない”ということで横島の足を引っ張るわけには行かないからだ。


これから起こる数々の事件は、今の彼女が生まれる前のもの。

だからこそ知る必要がある。


横島がGS試験を受けていたときも、人骨温泉や他にもいろいろと訪れていたのだ。


それから風水師の行方不明に関する情報を集めようとするが、見た目少女である彼女が簡単に得られるはずがない。

そもそも時期が早いので、“風水師が多数行方不明なっている”という事件にまで発展していないのだ。

しょうがないので、行方不明に関するものではなく、とりあえず香港の優秀な風水師をピックアップしていく。


それを手に入れるのにも苦労したが、さらに一人一人を正確に把握していくだけでもかなり時間がかかり、そろそろ横島が妙神山を下りてくる時期になっていた。

なにせ確認している途中で、この人は行方不明になっているんじゃないか、という者も出てくるのだ。


出来ることならなるべく、殺されるのも阻止したかったが、風水師がいつどこで殺されるのか、彼女も横島も知らないのでどうしようもない。

ちょうど調べていた者が殺されそうになる、なんて偶然も起こらない。

横島か美神がいれば起こったのかもしれないが、彼女は事件誘引体質ではないのだ。


さらに、何人かを助けてどうなるんだ、というジレンマもないことはないが、さすがに黙って見ていることは出来ない。


そろそろ日本に一度帰ろうかと思っていた時、

彼女はある一人の目つきの悪い日本人と出会ったのだった。


世界はそこにあるか  第13話


れーこちゃんは泣き疲れたらしく、横島の腕の中でうとうととし始めたので、再びソファで寝かせることにした。

彼女に毛布をかけてやると、横島もソファに腰を下ろす。

美神は疲れ果てた様子で床にへたり込んでいる。

「ありがと。助かったわ、横島君」

よほど切羽詰っていたのか、素直に礼を言う。

「まあ、俺も帰ってきて最初の仕事が、泣いているれーこちゃんをあやすことだなんて、思いもよりませんでしたけど」

普通はれーこちゃんがいることすら、思いもよらないことだ。

「それで今どういう状況なんですか?」

説明を求める。

彼が知っていなければ、目の前に美神がいながら、さらにれーこちゃんもいるという状況ははっきり言って異常だ。

「まあ私もいまいち掴めてないんだけど……」

掴めていないながらも、今分かっている事を彼に説明していく。

美神の母親がおそらく時間移動能力者であること。

彼女が何かに追われていること。

そしてれーこちゃんを守るために美神に彼女を託したこと。

「それはかなり複雑というか、厄介ですね」

「そうね。詳しい話も聞けなかったし……」

これからのことを考えると、気が重くなり美神は黙り込む。

『何か、魔族のようなものがここを監視しているようだな。
殺気がないから仕掛けては来ないのだろうが。いや、相手がプロなら殺気なぞ出さないか……。どうする?』

「えっ!? ほんと!」
「本当か!」

さすが心眼というべきか。

やはり、視るといった事にはかなりのものがある。

『ワレとて横島とともに成長しておるのだ。
本来の能力を考えればこのぐらいは当然であろう』

その言葉を聞いて、さらに美神は考え込む。

悠長に考えていたが、どうやら事態はかなり予断を許さないらしい。

「とりあえず今日は、彼女をベットに運ぶからここのソファで寝てちょうだい。
それから修業の成果を正確に把握しておきたいわ。
……成長したんでしょうね?」

心眼の言葉や彼の様子から成長したことぐらいはわかっている。

「えぇーと……、まず新しく出来るようになったのがこの栄光の手ですね」

そう言って、栄光の手を霊波刀状に変える。

「なんて言うか陳腐なネーミングね」

こんなことを言っているが、美神は内心驚いていた。

霊波刀を作れる人間は少ないのである。
試験中に心眼がこいつは収束に才能が有るなんて言ってたけど、伊達じゃないわね、なんて考えている。

「後は試験中に使ってたサイキックソーサーが強化されまして、それとその応用でこんなことが出来るようになりました」

横島の周りを霊気の玉が数個ふよふよと浮かぶ。
数自体はそんなに出していない。

剣術の基礎も少々、と付け足しておく。

「基本が前衛で、やり方によっては中衛も可、か。
その玉は自由自在に操れるの?」

「まあ、ある程度は」

「やるじゃない。……まあ合格ね。
何よりお金がかからなそうっていうのがいいわ!」

美神が最後のところを声高に叫ぶ。

それを聞いて横島とおキヌが苦笑する。

だが美神としてはかなり複雑な気持ちだった。

彼から感じられる霊力は美神のライバルと言われている、小笠原エミとほとんど同じぐらいに感じられるからだ。

前にはなかった安定性を身につけている。

高校生でここまで出来るのなら、いずれ美神に匹敵、あるいは追い越すかもしれない。

彼女が彼を気に入っていたのは確かだが――そうでなければこんなセクハラ小僧、とっくにクビにしているだろう――そう考えると、彼に対して暗い思いを抱いてしまう。

だが美神はすぐさまそんな考えを振り払った。


自分は美神令子だ。
そんな器の小さい人間ではない。

彼を万能の天才と言われている自分と組み合わせれば、可能性は莫大に広がる。

見習いとして彼に除霊を教えれば、さらに稼ぐことも可能なのだ。


とにかく今はれーこちゃんを狙ってくる奴をどうにかするのが先である。

「私はとりあえず休むわ。人口幽霊一号あとはお願いね」

『分かりました』

主人の言葉に返事を返す。

「あんたも今は休んどきなさいよ。
あとおキヌちゃん、こいつが変なことしないようにしばらく見張っといて」

美神がれーこちゃんを抱えて、部屋を出て行く。

「は〜い」

「この状況でそんなことしませんって!」

美神は振り返ることなく、彼の叫びは部屋に響くだけだった。


「あんたがタマモか?」

黒いコートを着た男が、道端で突然タマモに話しかける。

タマモは反射的に身構えるが、見た顔だと分かって力を抜いた。

今は当然初対面だが、彼は何度か横島のアパートにやってきていて、そこにいたタマモも何度か会っていたのだ。

「あなたは?」

「俺は雪之丞ってんだ。小竜姫にある事件を依頼されてな、とりあえずあんたを探して一緒に調査しろっていわれたんだが……。
本当にこんなガキだとはな」

雪之丞が呆れたように言う。

ヤバイ事件を小竜姫に押し付けられただけでも憂鬱なのに、さらにこんな子供と一緒に、と言われてはそうなるのも仕方ないだろう。

もちろんタマモの実力は申し分なく、さらに先に事件を調べ始めていて、資料も揃っているという、この上ない助っ人なのだが。

だがタマモは最後の言葉に少しカチンとくる。

そもそも彼は横島の部屋に、“タマモの”カップうどんをたかりに来ていた存在である。
横島の友人という一点が、それを中和していたに過ぎない。

「あなた、GS試験で横島に負けたんでしょう。完膚なきまでに!
なら偉そうなこと言わないでちょうだい!」

「なっ!! あれはピートとの戦いで消耗していて……。
今度やれば負けん! いや、俺が勝つ!」

「何? 男のくせに言い訳? 底が知れるわねっ!
それにその根拠のない自信は何よ!?」

雪之丞が言い返せずに、唸りながら睨みつける。

こんな女の子にいいように言われては、さぞかし悔しいだろう。

それに今の自分では彼に勝てないことも分かっている。

ならばどんな修行をしてでも、勝てるようになってみせる、というのが彼の性格なのである。

今回の調査も、ヤバイならそれを利用してやるまで、と意気込んでいるのだ。

客観的にみれば、前向きで、非常に好ましい性格である。

だがとてもじゃないが、タマモに口では勝てそうになかった……。

「ぐっ……! とりあえず俺について来い!」

雪之丞が前にずんずんと歩いていく。

「どこに行くのよ?」

「こっちだよっ!」

少し後ろを振り返ると、また先に歩き出す。

タマモはやれやれといった感じで彼についていった。


朝になり、美神が起きてくると、横島はれーこちゃんと遊んでいた。

「起きてからずっと相手してくれてたの?」

明らかに寝起きといった顔で美神が尋ねる。

「横島さんって、子供と遊ぶのとっても上手なんですよ」

「私はそういうのダメ。
子供なんかみんな滅びれば、世の中もっと楽しくなると思うっ!」

かなり危険な思想をきっぱりと言い切る。

そのあとも枕を振り回しながら、叫びまくっている。

彼女自身が、子供以外の何物でもなかった。

ひとしきり暴れると、何かを思い出したように受話器を取り、どこかに電話をかけ始める。

「どこに電話してんです?」

「親父よ!」

横島の問いに少し不機嫌そうに答える。

「もしもし、東都大学動物行動学教室?
美神公彦をお願いします。いえ、私美神教授の娘です」


話を終え、受話器を置くと、今から東都大に行くことを告げる。

「れーこも行く!」

れーこちゃんも行きたがったが、人口幽霊一号から、昨日事務所に進入しようとした妖怪がいることが報告された。

「バンダナの言った通りね……。
私は東都大に行ってくるから、れーこちゃんを見てて。
絶対に外にでたらダメよ!」

そう言って出て行った。


しばらく部屋で遊んでいたが、飽きたらしく、れーこちゃんがぐずり始める。

「じゃあ俺はそろそろ行くか」

横島はいつものかばんに除霊道具を詰め始めた。

「どうしたんですか?」

「いや、美神さんほとんど何も持っていってなかったし、襲われたらやばいだろ」

「あぁ! それもそうですね!」

横島は準備を終えると、バンダナをはずした。

「心眼、あとはよろしくな」

『任せろ』

「れーこも行く!」

横島まで出て行きそうになり、れーこちゃんも行きたがる。

『まあ待て……。行く前にワレの面白い話を聞いてからでも遅くはない。
おキヌどのも聞きたいだろ?」

「えっ!? はい! わー、聞きたいなー」

急に振られて、一瞬戸惑ったが、すぐに話をあわせる。
若干棒読みだが……。

れーこちゃんはまだ不満そうだったが、どんな話なのかも気になるようだ。

『うむ……。では話すぞ。
人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀。
地球の周りには、巨大なスペースコロニーが数百基浮かび……』

ものまねも完璧だ。
れーこちゃんもおキヌも分からないというのに、芸が細かい。

そしてその隙に、横島は事務所をあとにするのだった。


美神は一人、母親からの手紙を読んでいた。

父の公彦に託されていたものだ。

母の苦言に苦笑していると、敵を示す記述を見つける。

「それじゃ、あの羽は……!」

事務所の前に落ちていた羽を思い出す。

「死ね!! 美神令子!」
「人面鳥!」

羽の弾丸が美神に迫る。

「どっせーーいっ!」

だが次の瞬間、羽の弾丸はサイキックソーサーに撃ち落される。

「大丈夫っすか!?」

「横島クン!!」

事務所にいるはずの彼がなぜここにいるのか分からず、混乱する。

「これ、除霊道具です」

横島が背負っていたバッグを手渡す。

「あ、ありがと……。って違う!
何であんたこんなとこにいんの!? れーこちゃんは?」

「れーこちゃんはおキヌちゃんと心眼が見ています!」

「あほかぁぁぁーーっ!!!」

美神が叫び、横島を殴りつけるが、敵に狙われているにも拘らず、バンダナと幽霊が面倒見ていると分かれば、しょうがない事であろう。

「人口幽霊一号の結界がありますし、心眼もついてるから大丈夫っすよ」

横島が殴られた頬を押さえながら、言い訳する。
一応心眼は彼の師である。

「あたしを無視するんじゃない!」

ハーピーの言葉に再び緊張感が戻る。

「とりあえずこいつを倒すわよ!
私が霊体ボウガンで狙うから、横島君は私を守りつつ相手を牽制して!」

「了解!」

さすがにライフルは入っていない。

「フッ! こうなったら二人まとめて殺してやるじゃん!」

そう言って、羽の弾丸をいくつも放ってくる。

だが横島はサイキックソーサーでそれをすべて防ぐ。

あの雪之丞の連続霊波砲もある程度防げていたほどだ。
彼の動体視力はかなりのものである。

「ナイスよ!」

ハーピーの攻撃の隙を突いて、美神も霊体ボウガンを発射するが、ハーピーにひらりと避けられてしまう。

空中での動きはかなり早い。

さすがに、前回美神に相打ちを覚悟させただけのことはある。
なかなか強敵だ。

「そんなのあたしには当たらないじゃん。
いい加減あきらめて、殺されなさい!」

再び、今度は美神だけを狙って投げつける。

だが横島が当然阻止した。

「今度はこっちだ!」

横島から霊気の玉が4つ飛び出し、ハーピーの周りを舞い始める。

「行けっ!」

霊気の玉の一つ一つが、あらゆる方向から攻撃をかける。

「ぐっ……! この……ッ!!」

ハーピーは何とかかわしていくが、徐々に対応できなくなっていく。

「見えた! そこぉッ!」

あぁ! この技作ってよかった……! っていう瞬間である。

ハーピーが前方から来た玉をかわした瞬間、彼女の後頭部を衝撃が襲う。

「今ですっ!」

「よしっ!!」

美神が放った霊体ボウガンの矢がハーピーの左肩と、腹部に命中した。

その隙を見逃さず、用意していた対悪魔用の退魔護符を使う。

「悪魔よ退け!
生まれ出でたる暗き冥府へと帰るがいい!!!」

「ぐわっ!!」

ハーピーの体が空間に吸い込まれるように、消えていった。

それを見て、横島はその場に座り込む。

「よくやったわ、横島クン」

美神が笑顔で、彼に手を差し伸べる。

防御に牽制と、彼の働きはまさに注文通りだったからである。

「でも早く事務所に帰らないと……。
他にもあいつの仲間がいるかもしれないし」

横島はハーピーだけだと分かっているが、よく考えれば、敵が彼女だけとは今の段階では断定できないのだ。

そこに思い至り、彼もすぐさま立ち上がる。

二人はコブラで、急いで事務所へと帰った。


二人が事務所へ帰り、部屋へ入ると、れーこちゃんとおキヌが熱心に心眼の話を聞いていた。

『そこで去り際に仮面の男は言ったのだ。「マスクをしている訳が分かるか…私は過去を捨てた男なのだよ」とな。そして妹は彼の名前を泣きながら叫ぶしか出来なかったわけだ』

「それで!それで!」
「それでどうなったんですか?」

二人は彼らが帰ってきたのにも気付かず、続きを催促する。

だが心眼は横島と美神が帰ってきたのに当然気付いている。

『ふむ……。とりあえずここまでにしておこうか。
二人が帰ってきたようだ』

「えぇ〜っ」
「そんなー、もっと話してくださいよ」

れーこちゃんだけでなく、おキヌまで不満の声をあげる。

その安穏とした空気と、今までの緊張感のあまりの差に美神は脱力する。

何とかソファに座り込むと、最後の気力を振り絞り、こう言った。


―――いいから続きを話してあげなさい、と。


あとがき
「タマモさん、ホンコンですよ T」←今回のサブタイトル
ハーピー戦なんか飾りです。偉い人にはそれが(ry
いやそれはそれで書いてて楽しかったけど……w

隊長はハーピー編ではさらっと流します。
あとはれーこちゃんを迎えに来たところを少し書くだけです。

次回はどうしようか。鬼道を出すか、学校にいくか……。
まあサブタイトルは「タマモさん、ホンコンですよ U」なんですけどw

今回も読んでいただきありがとうございます。


>casaさん
除霊委員会だとー! メゾピアノなんてもの凄い飛ばす気でしたよw
横島なんてホントにピート僻んでただけだしw
重圧に応えて、次回か、もう少ししたら出します。


>皇 翠輝さん
彼女が原始風水盤を使って何をするのか、もしくは何もしないのか
作者にも分かりませんw って何が出来るんだ?


>柳野雫さん
ゆっきー登場しました。
彼はタマモとほぼ同時期(彼のほうが少し遅いかな)にホンコンに渡っています。


>こうゆうさん
いえ、思ったことはレスしていただけると嬉しいです。
彼の嫌いな考えとは、目的のために出る犠牲はしょうがない、さらにそれが元々敵方ならなおさらだ。というものです。
もし美神が犠牲になれば彼女は助けたかもしれません。
この横島はヨコシマンじゃないので、現実にみんなを助けることが出来るなんて思っていません(いえ、YOKOSHIMAN!は大ファンなんですけど)

実際かなり厳しいところを突かれたと思っています(苦笑)


>ヴァイゼさん
じゃあとりあえず、雪之丞とのラブ米を(爆)
三人の残りは小竜姫? でも彼女は香港ではほとんどツノだから……w


>文・ジュウさん
シロの横島への態度は不自然にならないようには一応しました。
まあ全く師匠らしいことをしていないのに、先生と呼び続けていたのですから、何かあるのかもしれません。


では。

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