「あら?」
小竜姫は大勢の人間達の中で、見知った顔を見つけた。
少し前に自分が壊してしまった修行場、それを直す為に集ってくれた者達。
様々な人間が居るので、それなりに多色に染められた髪が目に入る。
その中でも目立つ赤い髪。
「貴方は帰らなかったんですか?」
「はい、ちょっと生活苦しいんで……ここでバイトして行きます」
そこに居たのは、赤髪の横島だった。
実際は人数が多いだけで、それなりの生活を送っている。
だが……赤髪時の給料は雀の涙。
自分が出ている間は本を買う事も、ジュースを買うのも苦しい。
ツルハシ片手に赤髪は工事現場の仲間の指示に返事を返していた。
下手すると他のベテランの者達よりもその動きは良い。
「……」
その姿を見、小竜姫は複雑そうな表情を見せる。
ジッと見つめる小竜姫の視線に気付き、横島は手を止めた。
「あ……あの?」
あまり女性にジッと見られる事が無いので、横島はいつもの様に飛びつくタイミングを失ってしまった。
その表情があまりにも真剣なせいか、目を逸らす事すら出来ない。
「おーい、横島!そろそろ弁当食うぞー」
「ちょっとなら分けてやるよ、こっちこーい」
聞こえてきた声に反応し、真紅の髪は漆黒の色へと変化して行った。
まるで小竜姫から逃げる為に。
「え?本当?」
声を発した仲間の方へ小走りで向かう横島を見、小竜姫は小さく微笑んだ。
だが、その笑みも……すぐに鋭い眼差しに変わってしまったが。
「あっ……いけない」
自分の表情の変化に気付き、小竜姫は軽く自分の頬を叩いた。
軽く頬に紅葉が残ってしまったが、表情から険しさは消えた。
「……邪気に満ちた……神聖な人間……か」
横島は、仲間から弁当を分けて貰いつつ……考えていた。
何故、自分が崩壊した修行場でバイトをしているのか……を。
普段ならば途切れっぱなしの記憶が、今回は一部ではあるが繋がっている。
けれどおかしい。
記憶の中の自分は『工事のバイトをしなければ、生活苦しくてやってけねぇ!』と思っている。
だが、他のバイトをしなくても良い位の貯えはちゃんとあるのだ。
矛盾している記憶と思い。
ウインナーを口に銜え、横島は悩んでいた。
「ん~……分かんないなぁ」
「どうしたんだ?」
弁当を分けてくれた仲間が声をかけてくれる。
その言葉に返事を返すのも忘れ、横島は考え続けた。
考えつつも、自分に配給された弁当はしっかりと食べていた。
分からないといえば、小竜姫の事もだ。
何故自分を見る時だけ、あんなに険しい表情をするのだろうか?
自分が何かしたのか?
それとも……自分じゃない存在が何かしたのか?
『聞けば良い』
背後で、小さく声が聞こえる。
「え?」
反射的に振り向くも、そこには誰の姿も無い。
あるのは……瓦礫の山のみ。
「……よぉし!!」
疑問で頭がパンクしそうになっていた横島だったが、一つ解決させる事にした。
自分の記憶の喪失と矛盾は、今に始まった事では無い。
不安なのだが、ずっと考えていると……どうしても『考えてはいけない』とブレーキがかかってしまう。
なので、今回は小竜姫の問題をどうにかしよう。
「ごちそうさまでした!!」
そう言うと、横島はゴミ袋の中に弁当を突っ込み。
「小竜姫ぁー!!!」
力いっぱい走り出した。
その姿を見た仲間達はにこやかに。
「いや~……やっぱり子供が一人居ると雰囲気が和むなぁ」
「本当本当」
……横島が高校生なのは、ちょっと頭から消えている様子。
「小竜姫様!!」
「っ!!」
目の前に出現した横島に、小竜姫は目を丸くさせる。
気配が近寄って来ているのは分かったのだが、まさか横島とは思って無かったのだ。
反射的に手は腰の剣に伸ばされていた。
もう少しでも近くに寄っていれば抜刀していたかもしれない。
その身に宿す邪気に反応して。
「な、何ですか……?横島さん」
剣から手を離し、出来るだけ普通に話し掛ける小竜姫。
最も……その表情は歪んでいたが。
「…………小竜姫様……もしかして、オレの事……嫌ってます?」
先程の勢いは何処へ行ったのか。
悲しげな表情を浮かべて小竜姫へと問いかけた。
「へ?嫌ってる……?」
突然の事に、小竜姫は首を傾げた。
横島は両手の人差し指を絡ませあい、視線を漂わせる。
「あの……いつも、オレを見る時だけ……怖い顔してるから……」
「こわい……かお」
小竜姫は自分の頬に手を当て、軽く撫でてみた。
鏡が無いので分からないが、今もそんな顔をしているのだろうか?
「あの……もしもオレや、オレじゃない人が気に触る事しちゃったんなら……謝ります。
だから……だから」
漂わせていた視線を上げ、横島は小竜姫の顔を見つめた。
『ココロ』が違うだけで、これ程までに……表情は変わるのか。
上げた顔は、小学生程度の子供にしか見えなかった。
涙を必死に堪え、訴える姿は見ている者の心に衝撃を与える。
この子に、こんな悲しげな表情を自分がさせてしまったのか?
強く抱き締め、この悲しみを癒してやりたい。
その表情は、見た者にそう感じさせた。
「嫌わないで……」
その言葉と共に、小竜姫は自らの腰よりも頭を下げた。
「申し訳ありません、横島さん!!」
「ふえ?」
まさかこんな反応が来るとは思ってなかったので、横島は驚いてしまう。
それでも構わず、小竜姫は続けた。
「私は神族です、どうしても禍々しい邪気の気配に敏感で……知らず知らずの内に敵意を向けてしまうんです」
小竜姫の言葉に、横島は小さく首を傾げ。
「……えぇ!!?オレって変ですか!?」
『禍々しい邪気』が一体どんなモノなのかは分からない。
だが想像の中では『黒くて~もやっとしてて~くらーい感じ!』と想像した。
ショックを受ける横島に小竜姫は訂正を加える。
「いえ……魔族と同じ位の邪気と……神族と同じ位の聖気を貴方からは感じるんです。
相反する筈の二つを……同時に……」
違いすぎる二つの要素。
最も、それはカードの裏表の様な関係にも近い関係。
違いすぎるから、近い。
近すぎるから、遠い。
光あれば、闇が出来。
闇があるから、光が存在出来る。
「えっと……」
頭を抱え、横島は悩む。
軽く脳内は混乱状態になっていた。
それでも、とりあえず小竜姫は謝罪して頭を下げてくれた。
「小竜姫様は……『オレ』の事、嫌ってる訳じゃないんですよね?」
「はい」
しっかりとした返事を聞き、横島の肩からは力が抜けた。
「良かったぁ……別に嫌われてる訳じゃないんだ……」
その笑顔は、邪気を消し去る程の力を持っていた。
神である小竜姫ですらも、一瞬ふら付いてしまう程の……
「それじゃあ、オレ!仕事に戻りますね」
知りたい事は聞けたので、満足げに横島は現場へと戻って行った。
残されたのは……小竜姫のみ。
「……まるで、赤ん坊の様に純粋な人ね……」
あれだけ光に満ちていれば、悪霊等が惹かれて寄ってきてしまう。
だが、同時に感じる禍々しい邪気によって抑制されている。
なので人よりもちょっと物の怪に好かれる程度になっていた。
「……あれは……一種の結界?」
ならば、それを作り出したのは……一体誰?
「今度……ヒャクメでも呼んで、見て貰おうかな……?」
小竜姫は走って行った横島の背を見、軽く微笑んだ。
もうその表情に険しさは無い。
第十三話 終
小竜姫様とちょっと仲良くなれました。
今後の展開にヒャクメが絡めるのか……ちょっと不安と期待で胸一杯です。
……って言うか、あのキャラ動かせるのかなぁ……??
ここ最近は全然小説を書いたり読んだりして無いので、久しぶりの小説にちょっと脳内で混乱が起きました。
……というより、ビデオデッキにビデオが詰まって出てくれなくて。
精神的余裕が無かったって方が大きいんですけどね。
給料もちゃんと貰える様になったし……ビデオデッキをDVDのに変えようと思案中です。
nao様>横島1/2……(水を被ってタダヨになるシーンが過ぎる)
見てぇ……いやいや、レスに関係無いや。
これからは小出しながらも横島の事を明らかにしたいと思います。
少しでも楽しみにして貰えるように頑張ります。
紫苑様>お久しぶりです、忘れて無くて光栄です。
FFはセブン位しかちゃんとやった事が無いので分かんないですが、あーいう言葉なんですか?
これからも挫けず頑張らせて頂きます。
jgf様>そのまさかです。
右示様>懐かしいです、ついこの間開催されたオンリーイベントに自分は行きましたよ。
けれどまだまだGS世界のままで絡みません。
タイトルの???に明記されるまでは……そこはあまり触れないで下さい。
それと同時に、触れて貰えると物凄く嬉しい天邪鬼な自分が居ます。
あの常軌を逸した人が上手く表現出来るかは……分かりませんが。
柳野雫様>ここの横島君はあいも変わらず、こんな感じです。
色々と裏はあります、作ります。
脳内では既にGS試験のシーンを書きたくてウズウズしてるんですが、まだまだ書けません。
その楽しみを良い意味で裏切れるよう、頑張らせて頂きます!