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「除霊部員と幽霊列車 最終話(前編) (GS+オリキャラ)」

犬雀 (2005-05-28 20:18)
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最終話  「旅立ちの時」(前編)


次の日、横島たちは普段どおりに学校へと出かけた。
さすがに長期に渡って休むわけにもいかず、来週から臨時休校が解除されるとの報告を受け教師達が補習やカリキュラムの見直しなどで忙しく動き回る職員室の中に目的の人物はいた。
最初に彼らを除霊委員に任命した音楽教師である。
彼女にこれまでの経緯を簡単に説明し、砂津川の遺した譜面を渡すと音楽教師は難しい顔で譜面を眺めていたが、「一週間時間をくれれば何とか演奏できるわ。」と承諾してくれた。

「お忙しいのにすみません。」と頭を下げる愛子に音楽教師はなんでもないと手を振るともう一度譜面に目を落とす。

「それにしても…これって凄い曲よ。演奏のしがいがあるわ。」

教師と言うより一人の音楽家の顔で譜面を見つめる彼女の様子は横島たちに安心感をもたらした。

翌週になり学校が始まると、除霊部と吹奏楽部が共同で大規模な除霊実習をするという噂が流れ、それぞれの部活の練習は見物人たちで溢れかえった。
その中には軍服を着た人物も混ざっていたが、今更、そんなことでうろたえるような生徒はこの学校にはいない。何しろ部外者であるカッパの女王様がセーラー服で平然と参加していても気にも留めてないのだ。つくづく常識はずれの学校である。

そんな規格外の生徒や教師たちですら驚かせたのは除霊部の練習でグラウンドを走り回るスクラップ=ドッグの雄姿。
三メートルはあろうかと言う鉄の兵士が人間と変わらない挙動で走り回って見たり、脚部のローラーでダッシュしてみたりするのを見れば無理も無いだろう。

やがて一通りの訓練が終わったスクラップ=ドッグが横島たちの前に戻ってくる。
ハッチからヌペッと顔を出した唯に小鳩がスポーツ・ドリンクを手渡した。
「どもです!」と元気一杯の唯に横島が感心したといった様子で話しかける。

「しかし凄いな。唯ちゃんと人工幽霊のコンビネーションは。」

「そうですね。私だけじゃ出来ない動きをフォローしてくれて助かりますぅ!」

『私が担当しているのは火器管制と多少の運動制御だけですよ。』

「でもそれだけでも見違えましたよ。」

霊波砲の訓練をしていたピートも横島の意見に賛成のようだ。

「元々、唯ちゃんって運動能力には問題があったものねぇ…」

「えう!愛子ちゃんヒドイです!それでは私が運動音痴みたいではありませんかっ!」

唯の抗議に愛子はひんやりとした視線を向けた。

「ふーん。唯ちゃんこの間の100mのタイムは?」

「う…37秒…ですぅ…」

「それが今は5秒ですけんノー。やっぱり凄い進歩じゃー」

「人工幽霊も馴染んできたんだろ?」

『ええ。この体は実に素晴らしい!ただ…』

「何かあるんですか?」と小首を傾げて無邪気に聞いてくる小鳩に人工幽霊はカメラアイを一瞬だけ向けると、まるで目を逸らせるかのように再び正面に戻した。

『実は最近なんですが…小鳩さんの胸部を見ると…何だか切なくなってきまして…。なんと言いますか巨乳を見れば心が騒ぐと言いますか…カメラアイからオイルが漏れるのです。』

「「「へ?」」」と首を傾げる一同に「それはね」と声をかけてきたのは『アーマーノ・トルーパー』の生みの親。いつの間にかやってきていた科学部部長赤城だった。

「わかるんですか?」

赤城はピートに対してさも当たり前といった顔で答える。

「唯ちゃんの霊力の影響を受けているうちに唯ちゃんが伝染ったのよ。」

「あー。つまり唯様の「巨乳に対する妬み僻み」が人工幽霊様に伝染したと…」

「そんな…巨乳なんて恥ずかしいです…Fになりましたけど…」

「えふっ!」

照れながらもさり気無く自慢する小鳩とビグザムとボールほどの絶望的な戦力差を示されて動転する唯。
同じものを食っていて小鳩の胸はすくすくと成育しているのに、なにゆえ自分の乳は頑固にも成長を拒否するのかと悲しくなる。

『ああっ!唯さんからまたまた未知のパワーが!そうかコレが嫉妬パワー!!』

何やらいらんことまで学習しつつある人工幽霊の様子に嫌な予感を感じてしまう愛子。
そんな愛子を不思議そうに見ていた横島がここには居ない部員のことを思い出した。

「あ、そういえば加藤さんや摩耶ちゃんは?」

横島の問いに赤城はニヤリと笑う。

「加藤君たちはノイエ・汁の量産化、摩耶ちゃんはそのプロジェクトの監督に行っているわ。」

聞かなきゃ良かったと思う横島だった。


そんなこんなで特に問題もなく一週間が過ぎ、ついに吹奏楽部による交響曲「戦場」が演奏される日。
本来、室内で行うはずの演奏だが音楽教師の発案で校庭で演奏することとなり、「薔薇の園」や放送部、新聞部が主体となって校庭に会場を設営する。
実にこういうことに手馴れているあたり、この学校がお祭り好きであると言う証拠かも知れない。

勿論、美神美智恵の指揮の下、結界車両が校庭の外周に設置され、同時に重装備をしたGメンの職員が待機する車両も目立たぬように配置された。
美智恵本人は来賓席に座り、インカムを通して指示をする手はずになっている。
西条はどういうわけかこの学校に入ることを頑なに拒んだため外の指揮車両にて待機中である。
来賓席には美智恵が招待した砂津川の弟も来ていた。
そして彼女の横には車椅子に乗った天本と付き添いの白井医師が座っている。
天本の顔色は一週間前に比べて幾分良くなっているように見えたが、美智恵は白井医師に軽く目を向けただけで特に何も言おうとはしなかった。

万が一に備えて除霊部員と魔鈴、そして美神令子除霊事務所から見学の名目でおキヌやシロ、タマモがついでにカトちゃんが来賓席のすぐ側に席を設けられ、そこに座って着々と進んでいく準備を見ている。
そんな中で何事かを考えていた横島が影で行われた熾烈なクジ引きの結果、またまた当たりを引いたおキヌに話しかけた。おキヌちゃん日頃の行いかクジ運はいいようだ。

「なあ、おキヌちゃん?美神さんは?」

彼女が退院してから一度も顔をあわせてない横島である。
まだバイトは休みだが、お見舞いにと行ってみても美神は部屋から出てこないのだ。
おキヌの話によれば術後の経過もよく普段は元気にしているらしいが横島が来ると部屋に篭るらしい。

(ううっ…もしかして美神さんに嫌われた?…俺が今更何をしたっちゅうんやぁぁ!)と心で泣く横島。
女性は嫌いなだけでなく恥ずかしくても相手と顔を合わせられないこともある…と言う思考は出来ないのが彼の彼たる所以かも知れない。
原因は勿論…は行え段の文字のせいであろう。

「えーと…美神さんはまだちょっと戦いとか出来ないから足手まといはイヤとか言って…」

おキヌには何となく美神の行動の理由に察しはついていたが言葉を濁した。
嘘は言ってない。確かに今朝の彼女の誘いにも美神はそう答えたのだし。
だがおキヌは知らなかった。
人工幽霊を迎えに来た唯たちとおキヌたちが出かけた後の誰も居ない事務所で令子が厄珍堂へ電話した後、いそいそと出かける仕度をし始めたことを。

やがて準備も終わり、吹奏楽部の音あわせも終了して音楽教師が指揮台に立つと三方に別れた観客席に向けて礼をする。
奇妙なことに吹奏楽部の前にあたる校庭の真ん中に観客席は無い。
そこだけがぽっかりと開いているのは万が一に備えた美智恵の指示によるものだ。

目の前に観客が居ないという状況に不慣れななのか音楽教師は多少ぎこちなく見えた。
そして…彼女の手が動き出し交響曲「戦場」が始めて多くの人の前に公開された。

平和なジャングルでさえずる小鳥を思わせるフルートの音がやがて静かに響き出す太鼓のそれへと取って代わる。
いつしか観客達の前にはジャングルを粛々と行軍する軍隊の姿が現れたかのように見え緊張感を感じた時、突如、激しいシンバルの音とともに様々な打楽器が乱舞をはじめ、戦争を知らない観客でさえ自分が戦場のど真ん中にいるような錯覚に陥っていく。
やがて隣の生徒同士で不安そうに手をつなぐ光景があちこちで見られるようになると、今度は一転して弦楽器を中心とした静かな、そして切々と訴えるかのような流れに変わった。

それは男の魂が歯を食いしばって泣いているような、望郷の念と友の死に血の涙を流しているような曲だった。

観客たちも知らずに涙を流し始めたころ横島たちはその異変に気がついた。
そこだけぽっかりと空白の開いた吹奏楽部の前の校庭に軍服を着た男たちが次々に集まり男泣きに泣いている。
そして指揮をしている音楽教師の横にいつの間にか眼鏡をかけた軍人が立ち、彼女とともに指揮を始めだした。

音楽教師は一瞬だけ驚いた表情を浮かべたがその男に対し一礼すると指揮を彼に譲った。

「兄貴…」

美智恵は砂津川の弟が指揮台に立つ人物に向かって呟いた言葉を聞いたが、特に何も言おうとはしなかった。
この流れの中で砂津川本人が登場するのはむしろ当然だと思っていたのだ。

そして荘厳ともいえる最終楽章を経て交響曲「戦場」は終わりを告げる。

観客たちは涙を流しながらも吹奏楽部とそして途中から指揮を変わった砂津川に向けて万雷の拍手でもって応えた。
砂津川が深々と頭を下げて観客に応えると、今度はその拍手は校庭の中央に集まる軍服姿の人々にも向けられた。
交響曲「戦場」は年若い彼らにも軍人達が戦で失った未来、そして夢と希望の重さと無念さを伝えたのだろう。

未熟な高校生の演奏でありながらその曲はその場に居た全ての人々の心を打ったのだった。

凄い…と美智恵が心からの賞賛を砂津川の弟に伝えようとした時、彼女のインカムに西条からの緊急の連絡が入る。
その声は先ほど校門前で子供のように怯えていた男と同一人物とは思えないほど真剣さに満ちているものであった。

「先生!学校内の霊圧が急速に高まっています!」

「解ったわ!手はず通りお願い!」

この場に居る全ての一般人に避難を命じようとした美智恵の目が隣の天本を見て凍りつく。彼女の視線の先で車イスに座っている天本は空の一点を凝視したまま、やせ衰えたその体から鬼気とも言える霊波を放ちはじめていた。

「天本さん?天本さん!」

白井に揺さぶられながらも天本は返事をしない。
ただ虚空を見つめて小刻みに震えるだけだ。
だが霊能者である美智恵には天本が放つ霊波が異様なまでの霊力の光となって真っ直ぐに天の一角を貫くのが見えた。
そしてついに雷光とともに天の一角が裂けた。


一方、除霊部員たちも異変に気づいていた。
校庭内の霊圧に変化が起き始めたことを察知した魔鈴の指示が「薔薇の園」に伝えられ、事前の打ち合わせの通り安室率いる保安部と加藤率いる戦闘班によって整然と避難が始まる。
その手際の見事さは流石に様々な場数をこなしているせいか手馴れていた。
何しろGメンが突入したときには生徒や教師の大半は校外に避難していたのだ。

残っているのは美智恵と除霊部員たち、奇妙な霊波を放ち続ける天本と医師として責任を果たすべく残った白井、そして校庭に立つ軍人たちの念である。

やがて天の裂け目から雷鳴とともに黒雲が沸き起こり、ついにその中から現れ出でたるは鉄の蛇。
真っ赤に裂けた口の中で先割れした舌が炎のように踊る。

蛇は地響きを上げて地面に降り立つとその鎌首をもたげ憎々しげに除霊部員たちを睨みつけた。

「結界車始動!」

美智恵の命令とともに結界車が学校全域に結界を張る。
前回の戦闘データーから推定された蛇の霊力の軽く三倍はある結界が霊圧となって校内の空気を軋ませた。

「今よ!これで奴は逃げられない。今度こそ決着をつけるわ!」

美智恵の号令とともにGメンたちは破魔札マシンガンを蛇に向けて連射する。
更に持ち込まれた機関銃から放たれる銀の銃弾が雨あられと蛇に叩きつけられた。

「キシャァァァァァ」

銀の雨に体を撃たれながらも蛇は鉄の咆哮を上げて口から黒煙を放つ。
黒煙の作り出す闇に視界を奪われ同士討ちを躊躇するGメン。
火力が弱まった一瞬の隙に蛇は黒煙の中にその巨体を躍らせた。
蛇体のうねりに巻き込まれて吹っ飛ぶGメンたちの姿に美智恵の声にも焦りが滲む。

「くっ!体勢を立て直さなきゃ!」

「隊長!援護します!」

Gメンの苦戦に思わず飛び出したものの蛇は黒煙の中でGメンと乱戦中である、迂闊に光の矢を放つわけにもいかず弓を構えたままうろたえる横島。
スクラップ=ドッグに飛び乗った唯も水圧機関砲を構えたままでどうしたものか?と右往左往している。

戦況は人間側が不利と部下を叱咤し、必死に体勢を整えようと美智恵がインカムのボリュームを上げた時、学校の屋上から校庭にいる横島目掛けて女の声が高らかに響き渡った。

「何をしてるか横島っ!とっとと文珠で『風』を起こしなさいっ!」

「はいっ!美神さん!…って美神さん?」

条件反射的に返事をして振り返った横島が校舎の屋上に見たものは…。

ピンクを基調としたミニスカフリフリ系の衣装を身に纏い、その顔面を蝶のマスクで覆った亜麻色の髪の乙女。
手にしたステッキの先についているハートの飾りがプリティなその様は、どっから見てもアニメの魔法少女といった風情である。
ただその素晴らしいボディラインが魔法少女というにはちょっときついかなー?と思えてしまうのは仕方ない。

「違うわ!私は愛と美と真実の人、その名も『ビューティ・ゴッデス』!」

腰に手を当て高らかに宣言する様はある意味アリエスより女王様っぽかったりする。
もちろんいかに顔を隠そうとも特徴ある髪型とその日本人離れしたスタイルに該当する人物はそういないわけで。

「どうみても美神さんですけど…」

「ち、違うわよっ!」

慌てた様子でパタパタと手にした魔法ステッキもどきを振るビューティ・ゴッデス。
よく見ればそれは神通棍にダンボール製のハートマークを貼り付けたものだった。
そんな謎の魔法少女?をじっと観察していてたスクラップ=ドッグの中から唯が叫んだ。

「えう…ならば調べてみるです。人工幽霊さんスキャン開始!」

『はい!マスター!!行きます!外道照身霊波光線!!』

唯をマスターと呼ぶ人工幽霊に驚く間もなくスクラップ=ドッグのカメラアイから放たれた光線がゴッデスを直撃した。

「ちょっとぉ!何を」

出し抜けに奇怪な光を浴びせられ抗議をしようとするゴッデスを遮って人工幽霊の声が校庭に響き渡る。

『むっ!お前はゼニ・クレージー!!』

人工幽霊が看破したゴッデスの正体にうんうんと頷くと美智恵は両手を胸の前で組み、何かの呪縛から解かれたかのように晴れ晴れとした顔で天を仰いだ。

「令子…あなたそんなものにとり憑かれていたのね…ということはあなたの守銭奴ぶりは私の躾の失敗じゃないってことね!」

「誰がよおぉぉぉぉぉ!!私は美神令……子さんのお友達の『ビューティ・ゴッデス』だってばっ!」

「カネゴンじゃなかったんですノー」

必死に否定するもタイガーの追い討ちについにたまりかねて膝をつく令子…じゃなくてゴッデス。そのマスクの下からダクダクと涙が流れ落ちている。

「ううっ…違うって言っているのに…」

どう慰めたものか、はたまたほっとくべきかと除霊部員が頭を悩ませていた時、遠慮がちに小鳩が美智恵に話しかけた。

「あの…そんなことやっているうちにGメンさん全滅したみたいですけど…」

「「「「え゛…」」」」

確かに小鳩の指差す方を見れば鉄の蛇に弾き飛ばされて倒れ付すGメン隊員の姿。
やはりあの怪物には通常の火器での戦闘は無謀だったのか?と美智恵が歯噛みする。
だがGメンはその身を犠牲にしてついに全校生徒の避難と校庭に集まった霊たちの後退の時間を稼いだ。
彼らの犠牲は無駄ではない。
それは横島たちもわかっている…わかっているが…。つい言ってしまう一言もあるものだ。

「あーあ…マヌケを甘く見るから…」

そう…蛇は度重なる戦いでマヌケに耐性が出来ていた。
尻にドリルを叩き込まれてなおもシリアスな敵をやり続ける根性は無かったようだ。
だがマヌケゆえに不死身。マヌケを倒すのはマヌケのみ。
もっともその空間ゆえにGメンにも死者や重傷者はいないのが幸いである。

Gメンに抵抗するものが居なくなったことを知った蛇はその赤い双眸で横島たちを睨みつけると鎌首を上げて動き出した。

「こっちに来るでござる!」

シロが霊波刀を構え、その横にタマモと横島が展開する。
それは横島たちが編み出した一種のフォーメーションだった。
その背後に進み出るのは唯と人工幽霊のロボコンビ。
そして自信ありげに「ふふふ」と含み笑いを漏らすカッパの女王。

「お任せ下さい!わたくしが緑魔法至高の奥義を使います。忠夫様少しお時間を稼いでいただけますか?」

「わかった!行くぞシロ・タマモ!!」

「私もお手伝いします!」と魔鈴がどこから持ち出したか何やら剣呑な鉄の筒を抱えて続く。
その後ろではスクラップ=ドッグも足元のローラーを全開にして走り出す。

彼らが縦横無尽に展開しつつ牽制の攻撃で蛇の動きを止める隙にアリエスは今まで聴いたことも無い呪文の詠唱を開始した。

「破邪暗黒・天体観測・勇気凛々・四季折々…精力絶倫!来たれ水の龍!いきますわよ緑魔法の最大禁呪!『禁鼓津流龍』!!」

アリエスの呪文の完成とともに大地が裂け、巨大な水柱が吹き上がると蛇の前の空中で渦を巻き一つの形を作り出す。
透き通った細長い体に天を突く二本の角、そして大きく開いた口の横に生えた二本の髭。
巨大な蛇と同等の大きさを持つソレはアリエスの魔法が作り出した水の魔獣である。

「あ、あれは…何ですかいノー!!」

「おーほっほっほっ!水を操りて龍と為す。あまりの危険さゆえにわたくしが使うことを許されなかった禁呪の中の禁呪ですわ!」

水の魔獣を前に得意満面と言ったアリエス。
全身から「誉めて誉めて」とオーラが滲み出ているが、愛子たちのアリエスを目は冷たい。
なぜなら彼女たちの前で蠢く水の魔獣の造詣はとても龍には見えないのだ。

「龍?」

「え?龍ですわよ。ほら!角もあるし髭も…」

「手足は?」

「え?あれ?龍って足とかありましたっけ?」

小竜姫が聞いたら一刀両断されそうなことをサラリと言ってのけるアリエスに小鳩が追い討ちをかけた。

「あの…言いにくいんですけど…あれって「ナメクジ」に見えるんですけど…」

「な?!そんなはずは無いですわ!あれは龍ですっ!ちょっと龍さん黙ってないでなんとか言ってください!」

なんだか切羽詰ったアリエスの台詞に反応するかのように水の魔獣は高らかに吠える。

「なめー!!」

「「「「やっぱナメクジやん!!!」」」

そう。湿った光沢を帯びた鱗の無い体。
天をさす二本の角と口の横から突き出た槍。
それはまさしくでっけーナメクジ。

「そんなぁ…」と皆の視線に晒されて萎れるアリエスにいつの間にか戻ってきた唯が興味津々といった顔で聞いてみる。

「えう…ちなみにアリエスちゃん図工の成績は?」

「えーと…カッパ国立第三小学校時代はよくて「がんばろう」だったでしょうか…」

「あー。多分、アリエスさんが使うことを許されなかった理由はデッサン力の問題ですね…」

やはり戻ってきていた魔鈴がしみじみと頷いた。
何だか戦闘中なのに妙に余裕があるのも当然のこと、鉄の蛇は水のナメクジの前で硬直しダラダラと脂汗を流しているのだから。

その変わりように思わず攻撃を止める横島たちの前で水ナメクジはぬたぬたと蛇に近づいていくと「なめえぇぇぇぇ!」と吠えて蛇にのしかかった。

途端にピンと硬直する鉄の蛇。
その目から怒涛のごとく涙が溢れたかと思うと、もう聞いているだけで哀れを誘うような声で絶叫する。

「イヤあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

あたりに涙を振りまきながら蛇はナメクジを振りほどき無我夢中で天に駆け上がったが、結界車の作り出した結界に頭を打ちつけ頭から星を飛ばしてよろめくとフラフラと落下して轟音とともに校舎に激突した。

その衝撃に本人華麗に登場したつもりが大ナメクジに見せ場を奪われ、一人膝を抱えて泣いていたゴッデスが屋上から転がり落ちた。

「ひぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ベチン…

「あーっ。学校がっ!!アリエスちゃん何してんのよ!」

「え?わたくしのせいですの?!」

「あんたがあんなナメクジを召還したからでしょうが!」

「ぐすっ…龍なのに…」

愛子に責められて涙ぐむアリエス。
それが彼女の集中を解いたのか大ナメクジはドロドロと溶け始めた。

「うわっ!きしょいですうぅぅ。横島さーん。」

「心配しないでおキヌちゃん!俺もきしょい!」

だが天敵ともいえるナメクジが消えたことで蛇が再び活気を取り戻す。
そしてその赤い目で真っ直ぐに横島を睨みつけると口から瘴気を吐きながら彼めがけて突っ込んでくる。

「ヨコシマ!」

少年を守るべくタマモの放った矢は狙い違わず蛇の両眼に突き刺さった。

「ギャアァァァァァァァ!」

目にダメージを受けのたうつ蛇。

「やったでござるな!タマモ!!」

「まだよ!」

駆け寄ってくるシロを右手で制してタマモは蛇をにらみつける。
そう、前回の戦いでわかったことだが蛇は目だけで敵を追うわけではない。
匂い、それに熱を感知して獲物を狙うのだ。
それを思い出したタマモは霊力を数個の火の玉の形にアレンジして蛇の周りを飛ばせた。
鉄の蛇体に火球の効果は薄くても牽制にはなる。そうすればまたヨコシマが何とかしてくれる。ただ問題は匂いだ。自分の幻覚でも匂いまでは…。
思案するタマモに意外なところから援護があがる。
スクラップ=ドッグの唯&人工幽霊コンビである。

「今です。チャフ・グレネード発射!」

『はい。マスター!茶布・グレネード!』

スクラップ=ドッグの左肩に装着されていた鉄の筒からポンポンポンと三本の筒状の弾体が放たれ、それは蛇の鼻づらで炸裂すると辺り一面に小さな茶色みがかった布のようなものを撒き散らす。

「グギャァァァァァ」

たちまち何かを思い出したかのように苦しみ出す鉄の蛇。

「あれはなんですか!」

後方でタイガーとともに美智恵や天本たちを守っていたピートがちゃっかりその場に留まって戦いを見物していた赤城に聞いた。

「ふふふ…あれこそは蛇の嗅覚をかく乱するために科学部が開発した茶布・グレネード!。「ノイエ・汁」を絞り出した後のふんどしを細かく切り刻んだという環境にも優しいリサイクル兵器よ!!それに蛇には手が無いから鼻を押さえるわけにも行かないわ!」

「ちっとも優しくないわぁぁぁぁ!!!」

思わず上げた横島の突っ込みめがけ蛇はメクラ滅法に突っ込んでいく。
それはどことなく助けを求めるかのように見えた。

「危ない横島さん!」

小鳩の悲鳴に突っ込みから我に返った横島が横に飛んで蛇の攻撃をかわす。

「あっぶねー。」と口の中で呟いた横島の脳裏に先ほどの赤城の台詞が蘇った。

目と鼻をやられて舌を使って必死に横島を探す蛇に向かってニヤリと笑うと横島は大声で叫ぶ。

「やーい。やーい。マヌケ蛇〜!」

反応した蛇が横島を飲み込もうと巨大な口を開けた瞬間、横島の放った光の弓が先に文珠を乗せて蛇の口の中に吸い込まれた。

「?」

異物を飲み込み一瞬動きの止まった蛇だったが体内で文珠が発動した途端に激しく苦しみ出した。
戦うことも忘れてゴロゴロと地面を転がりまわる蛇に勝ち誇って高笑いする横島。
そんな彼に魔鈴がトトトと近寄ってきて話しかける。

「横島さん。今の文珠は何ですか?」

「ふふふ…あの文珠に込めた文字は…」

「「「ゴクリ」」」と唾を飲む一同に彼は爽やかに笑って宣言した。

「『痒』です!!」

「「「「へ?」」」」

「わーっはっはっはっ!いかに痒かろうと手の無い蛇の悲しさ!掻くに掻けまい!!その地獄を味わうが良いわ!!」

もうどっちが悪役だかわけわかんねーことになっているし。
確かに痒くても掻けないのは辛い。のたうち転げまわる蛇もそろそろ息絶え絶えである。

蛇がピクピクと苦悶の痙攣を始めたのを見た横島が横で呆然としているシロに頷きかける。

「シロ!アレいくぞ!」

「承知でござる!」

逞しい師匠の台詞に感激の返事を返すシロ。尻尾がピンとそそり立つ。
そんなシロにもう一度力強く頷いて横島はタマモにも元気一杯に話しかけた。

「だから失敗したら助けてくれ!頼む!!」

「先生え〜。」

力いっぱい情けないことを宣言する横島にシロの尻尾がヘニャリと萎れる。
そんなことはお構い無しに横島はすべての決着をつけるべく霊波刀を構えて走り出した。
慌てて後を追うシロとアイコンタクト一閃。両側から蛇を挟むように発動した霊波刀は蛇の直前で共鳴し凄まじい光芒を放ちながら蛇に突き進んだ。

「「絶!!」」

師弟の声がシンクロし共鳴した霊波が蛇に命中した瞬間、凄まじい爆発が巻き起こり辺りは朦々たる土煙に覆われる。

「「「横島さん!!シロちゃん!!」」」
「「タダオくん(様)」」
「「横島君!」」

見守るギャラリーの声が土煙の中に吸いこまれるとそれに答えるかのように横島がシロを抱えて飛び出してきた。

「やったのか?」

「手ごたえはあったでござる…くう〜ん」

しかし今まで爆発したことは無かった。
それゆえに横島の顔から真剣さが消えない。成り行きとは言え彼の胸にお姫様抱っこで抱えられて蕩けているシロとは好対照である。

そして土煙が晴れ、ついに鉄の蛇の正体が明らかになった。


後編に続く

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