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▽レス始

「世界はそこにあるか  第10話 (GS)」

仁成 (2005-05-27 18:27/2005-05-28 06:14)
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一人だけの妙神山


今までは無かった静けさに、自分が戻ってきたことを実感する。


あれはまさに夢のような日々。


彼がこちらを見てくれる。

――嬉しい


彼が話しかけてくれる。

――嬉しい


彼が微笑んでくれる。

――嬉しい。


神族として長くを生きる私の生の中でも、本当に輝いた、宝石のような毎日だった。

永遠に続いて欲しい。

そんなことを想ってしまうほどに。


だからこそ、私は自分に言い聞かせていく。


私は彼の役に立つ。

貴女は彼の役に立つ。


私は彼を助ける。

貴女は彼を助ける。


私は彼を守る。

貴女は彼を守る。


ただ彼のために。


ひたすら言い聞かせていく。

ひたすら。


―――あぁ……、私は…これで大丈夫だ……。


世界はそこにあるか  第10話


横島はそのまま観客席に戻った。

すると興奮した様子で、おキヌとピートが駆け寄ってくる。

「合格しただけでも凄いのに、また勝っちゃうなんて本当に凄いですよ」

「そうです! いつの間にあんなこと出来るようになったんですか!?」

ちなみにタイガーも寄ってきていたのだが、陰念に勝った横島に感動し抱きつこうとしたので、すでに屠られて、床に転がっている。
台詞も割愛。

「実は昨日、ひそかに練習しててな」

得意気に話す。

過去では練習などせず、しかも試合中に意識無しに発現させたのだから、そちらのほうが凄いことなのであるが。

「ちょっと、バンダナ! あんた、なんて技教えてんのよ!?
あれじゃあ霊気を一点に集中してるから、他のところは一般人以下の霊的防御力しかないじゃないの!
下手したら死んでたわよ!」

美神が鬼のような形相でまくし立てる。

その様子に、床で寝ている誰か以外は、かなりの恐怖を感じていた。

『ならば何もせず、ただこやつに負けろと言うのか?
こやつには霊気の収束に才能があるから教えた。それだけだ。
それにどう戦おうと、“下手”をしたら死ぬのは当たり前のことだろう?』

挑発とも取れる発言をする心眼。
そしてさらに横島に多少なり、才能があることもアピールしておく。

だがそれにより美神の怒りのボルテージがさらに上がっていく。

もうおキヌは頭を抱えて小さくなって震えているし、ピートは恐怖からか体が勝手に霧になり消えていった。

「無生物のくせになに生意気言ってんの!
それにこいつが死んだら、誰がうちの荷物持ちすんのよ!」

美神が心眼を睨みつける。

バンダナを睨みつけている彼女の姿は、もの凄くまぬけに見えるが、気のせいだと思いたい。
一応真面目なわけだし。

『こやつの命はワレが保障してやる……。
だからやれるところまでやらせてくれんか……?』

心眼の真剣な言いように、美神も多少怒りが収まってくる。

「…はぁ……。じゃあ勝手にやんなさい。
とりあえずあんたが勝ち進めば、うちの評判は上がるわけだし」

今の鬱憤を晴らすかのようにエミを見る。

資格すら取れずに床に転がってる奴の事務所とは違ってね、という視線で。

美神とエミの小競り合いが始まる中で、横島はその場を後にした。


『……これからどうするのだ?』

「うーん……これから少し寝ようと思うんだけど」

今の横島は当然覗きをしに行き、煩悩で霊力を高める必要は無い。

朝が早かったし、格下ととはいえ試合をして少し疲れていた。

『ピートの試合は見ないのか? かなり見て欲しそうだったが……。
それに勘九郎の小細工は無視しても良いのか?』

ピートの二回戦は小竜姫とともに見ており、試合後には喜び勇んで彼と神父のところに報告に来ていた。

ちなみに三回戦で当たるかもしれなかった二人の試合は見ていない。

「ああ、いいや」

あっさりと言い切る。

勘九郎の小細工でピートは負けてしまったが、その卑怯なやり方のおかげで雪之丞の証言が取れ、勘九郎を失格に出来たのだ。

そして雪之丞はメドーサと袂を分かち、香港ではこちらの味方になったのだ。

単純に変えてしまっていいことか分からない。

と言うか、いろいろ理由を考えているが、彼は単純に眠かった。

『……そうか』

心眼も特に反対はしない。

「…それからな……」

『何だ?』

「他人の命を保証するって言うのは、自分の命を捨ててでも守るってことじゃねえからな。
俺も人のことは言えんかもしれないけど……」

『あぁ……。分かっておる。
そのときはお主が止めてくれ、逆のときはワレが止めてやる……』

「……よし!」

横島はベットを求め、医務室へと向かうのだった。


『おい! そろそろ起きよ!』

その声で横島はベットから、むくりと体を起こす。

「……今どんな感じだ?」

まだ眠そうに目をこすりながら尋ねる。

『ほぼ予定通りに進んでおる。だが急がねば次の試合を失格になるぞ』

「おお、そうか。だがそこまで予定通りにせんでもいいだろ!?」

『お主があまりに気持ち良さそうに寝ておるからだ』

その言葉に横島は苦笑し、四回戦の試合コートへと急いだ。


「横島選手いませんか? 失格になりますよ!」

審判が声高に叫んでいる。

観客席の美神は、偉そうなこと言ってたくせに何してんのよ、といった表情で辺りを見回している。

他の者も心配そうである。

雪之丞に負けたピートもぼろぼろながら観客席に来ていた。
以前より強くなっていたのか、それとも根性で這ってきたのか……。

「すんませーん! 遅れましたー!」

横島が飛び込んでくる。

それを見てみんなは安堵の表情を浮かべた。

「秘密の特訓でもしてきたのか?」

雪之丞は上半身裸である。
白竜会と訣別したと言うことだろう。

「ふっ……、まあな」

さすがに、今まで寝てて遅れそうになりましたとは言えなかった。

「試合開始!」

「おおおっ!」

試合開始の合図とともに、雪之丞は魔装術を発現させる。

陰念をほとんど一方的に倒したからだろう。

最初から本気のようだった。

横島も右手にサイキックソーサーを展開し、それらしい構えを取る。

勘九郎と戦うことになっても、出来るだけ力が出せるように、ここでさらにもう少し、みんなに力を見せておく必要がある。

人間というのは徐々に慣らしていけば、不思議と疑問に思わないものだ。

おそらく試合の中で強くなっていったのだろう、という感想を抱いてもらえばこちらの思惑は成功である。

「虚弱で母親に甘えていた俺が、こんなにカッコ良く強く逞しくなれたのは、霊力に目覚め、それを鍛え抜いてきたからだ……!」

期待と狂気の混じったような顔だ。

『やはり気に入られているようだ。
確かにお主もマザコン気味なところがあるからな……』

「あほっ! 俺はあそこまで病んでへんわ!」

心眼の心外とも言える反応に、横島も言い返す。

「貴様はどことなく俺に似ている! いくぞっ!」

そう言って両手に霊気を溜め始める。

雪之丞にまで言われ、横島は本気でへこんでいた。

「くらえーっ!」

先手必勝と言わんばかりに、両手から霊波砲を放つ。

だが当然横島はサイキックソーサーでそれを弾く。

何も出していなかった前回と違い、すでにサイキックソーサーを出している今回では、この攻撃はまっすぐで単調すぎる。

何かあるのか、と思い精神を張り巡らせる。

案の定と言うべきか、煙が晴れてくると、目の前には雪之丞が迫ってきていた。

接近戦だ。

前回はほとんど霊波砲しか放ってなかったが、こちらの方が雪之丞らしいと言えば雪之丞らしい。

やはり陰念戦で、バトルマニアの本性を前回より刺激したようだ。

目の前に霊力が込められた拳がくるが、爆煙の中でも横島は緊張感を持ち冷静さを保っていた。

「はっ!」

左手の甲で拳をそらしながら半身になり、逆にこちらがカウンターのように相手の鳩尾に攻撃を食らわせる。

「ぐっ……!」

魔装術のおかげか、この一撃のみで倒すことはやはり出来なかったが、予想以上の反撃に雪之丞もすぐさま距離をとる。

彼はバトルマニアとは言っても、接近戦に必要以上にこだわるような、バカな愚直さは持ち合わせていない。

「なかなかやるじゃねえか……! それでこそ俺の見込んだ男だ。
もっと俺を楽しませてくれよっ!」

雪之丞が吼える。

『あともう少しだぞ』

「ああ、分かってる!」

だがそんな彼の様子に反して、実はかなりのダメージであることは分かっていた。

おそらくあと、サイキックソーサーを一回、多くても二回食らわせれば勝てるだろうと二人は踏んでいた。

「くらえぇーッ! 連続霊波砲!」

雪之丞は両手から多量の霊波砲が次々と放たれる。

ピート戦での疲労が大きい彼にとって、これは賭けだ。
これで決めるつもりなのだろう。

だが横島も両手にサイキックソーサーを出し、それを流していく。

前回は一つだったので防ぎきれなかったが、二つとなると余裕こそないものの、何とか防ぐことが出来ていた。

「そこだっ!」

徐々に霊波砲の勢いが衰え、一つでも対処できると判断すると、もう一つを雪之丞目掛けて投げつけた。

「がぁっ!」

攻撃に専念していたために避けられない。

だがとっさに体を捻り、まともに食らうのだけは避けたようだ。
やはりこのあたりが、ザコの陰念とは違う。

肩の辺りが大きく裂け、痛みに一瞬気を取られる。

だが、その一瞬で勝負はついていた。

今度は横島が距離を詰め、相手に最初の一撃と同じものを食らわせる。

「勝者、横島!」

何とか意識はあるものの、もう動けないであろう雪之丞を見て、審判は宣言した。


観客席に戻ると、みんなから賛辞を送られる。

だが横島は憂鬱だった。

今回の試合で、初めて大きく前回とずれてしまった。

もちろん最初から心眼を死なせるつもりはなかったが、問題は雪之丞に勝ってしまい準々決勝に進んでしまったことだ。

相打ちを狙うことも出来た。

だが意識してそんなことをしては、本気で戦っている雪之丞に対して、もう二度と友と呼べない、そんな気がしたのだ。

後悔はないが、この先のことを考えると、心配ではあった。

ちなみに陰念戦のおかげか、この程度の動きでは特に不審には思われなかったようだ。

大した心理作戦と言えるだろう。

最もここまで来て詰めを誤る気は二人にはない。


やはりと言うべきか、変化が生じた。

準決勝の第一試合が、前回決勝だった美神と勘九郎になったのだ。

雪之丞に勝った横島も負けるわけなく、当然準決勝に進んでいる。


試合開始の合図とともに、勘九郎は魔装術に身を包み、攻撃を仕掛けるが、美神はそれをうまくかわしていく。

前回と同じ作戦で、雪之丞から証言を取るまで時間稼ぎするためだ。

キャリアの違いを見せ付けるように華麗に捌いていくが、相手は体力、霊力ともに衰えを見せず、徐々に押されていく。

もう限界かと思われた瞬間、審判長が他のGSとともに入ってきた。

「鎌田選手、術を解きたまえ! 君をGS規約の重大違反のカドで失格とする!」

「証拠は手に入ったワケ!」

エミは得意気に証拠のテープを見せる。

「それが何だって言うの……!」

そう言って勘九郎は全員に向かって霊波砲を放った。


霊波砲を防ぎ全員でかかるが、霊力の違いからか、エミのブーメランも、冥子の式神も通用しない。

美神も扮装を解き、戦おうとするが、先ほどの疲労が激しく思うように動けない。

「何やってんすか、美神さん! そんな奴得意のギャグに落として秒殺して下さいよ!
ギャグなら光速拳が……」

「あんたも戦わんかぁーッ!」

横島の周りに閃光が糸状に走り、宙に舞い上がる。

「ぐっ……。まさかギャグ専用ではなく、俺専用……!?
ヨコシマ専用ライトニングプラズマ……? 何か、いい響きだ……」

専用機は男のロマン
量産機は漢のロマン

ちなみにギャグに落とすと言っても、ここは力におぼれた人間が魔族化するというかなりシリアスで重い場面である。

「あれはいいんすか?」

「放っときなさい! どうせ使いモンにならん!」

横島はある方向に目をやったが、美神の言う通り放っておく事にし、彼女のそばに駆け寄る。

「すんません! 神通棍貸してもらえます? 
向こうは剣持ってるのに、さすがに素手じゃ戦えませんから」

そう言われて素直に渡す。

自分がもう満足に戦えないことが分かっているのだろう。
この辺りはさすがプロだ。

「どっせーいッ!」

サイキックソーサーを小竜姫とメドーサがいるところに放ち、ピートがバンパイアミストで粘っているところに割り込む。

これで向こうは小竜姫がメドーサを抑えることができるだろう。

「ピート、大丈夫か!? 後は任せて下がってろ!」

「横島さん!」

言葉通りにピートが下がる。

「そういえばあんたは雪之丞を倒してたわね。
だけど、私も倒せるなんて思わないほうがいいわよ!」

そう言って勘九郎が攻撃を仕掛けてくるが、次々とそれをかわしていく。

美神が華麗なら、横島は泥臭いとも言える避け方をしているが、全く当てることが出来ない。

痺れを切らし、火角結界を発動させようとする。

「おおおぉ!!」

だがそこに隙ができる。
今まで回避に徹してきた横島は攻撃に転じ、一瞬で勘九郎の両手を切り落とした。
これで火角結界は使えない。

その様子を見たメドーサは引き際と感じたのか、超加速を使い小竜姫の剣から逃れる。

本当はここで超加速を見せたくはなかったのであろうが、やむを得ないだろう。

「ちっ……。あんな男のせいで……!」

メドーサが忌々しげに横島を睨みつける。

だが次の瞬間、小竜姫から凄まじい殺気がメドーサに叩きつけられる。

「『あんな男』とは一体誰のことですか?
よく分かりませんでした……。もう一度言ってください」

こんな殺気、今までの小竜姫からは考えられないこと。

それに戸惑っていると……。


一閃


メドーサの首から大量の鮮血が飛ぶ。

ほとんど不意打ちで、しかもいきなり首を狙うなど、以前の小竜姫では考えられない。
それは良くも悪くも彼女の信条でないからだ。

小竜姫は以前、自分がここで言った言葉を思い返す。


――勇気や愛や思いやりのない力は……

だけど、勇気も、愛も、思いやりも、彼を救うことはなかった……。

勇気や愛や思いやりの力では彼を救うことが出来なかったっ!

なら、自分はいらない。

信念も、理念も、信条も、誇りも

――必要ない。

それが、彼を追いかけ、ここまで来た、私の――『覚悟』


「しょう゛り゛ゅ゛う゛きぃぃーーーー!!!」

あまり怒りにメドーサが絶叫する。

再び超加速を使っていなければ、確実に首が飛んでいただろう。
今でも普通の人間なら、死んでいるような怪我なのだ。

舐めていた相手にコケにされ、彼女の怒りは頂点に達していた。

「メドーサ様! 退きましょう!」

やってきた勘九郎の言葉でほんの僅かに冷静になる。
さすがに横島も空を飛ばれては追撃できない。

「ぐっ……! 小竜姫! お前とあの男は必ず殺してやる!」

小竜姫を狂気と怨念が混じった顔で睨みつけ去っていった。

小竜姫は深追いせず、その様子をじっと見つめる。

なにも彼をバカにされ、忘我状態でメドーサを攻撃したわけではないのだ。

彼女は自らを落ち着けるように大きく息を吐いた。


会場の外にも飛び去っていく二人を見つめる少女がいた。

彼が来ない方がいい、と言うならば行かない。

その代わり彼のために、これからのために、自分が今しなければしなければいけないことをするだけだった。

彼女にも、彼女の『覚悟』がある。


小竜姫と横島は二人だった。

周りは事件の後処理でごたごたしているが、偶々二人になれたのだ。

「……小竜姫様。大丈夫ですか?」

「ええ……。『私は大丈夫』です」

小竜姫がにっこり笑ってそう言う。

不意に横島は彼女を抱きしめた。

その“笑顔”に、抱きしめずにはいられなかった……。


あとがき
何とか原作を絡めつつ、小竜姫様の覚悟がかけたと思います。
他に言うことないです。

あっ、最後に一つ問題です。
最初のほうで気絶した人は一体いつ目覚めたんでしょうか?


>daikyozinさん
>なるわけないか・・・
さあ、どうでしょう……w


>オロチさん
私も好きです。
特にあの列車編はそういう台詞満載ですからねー。


>ヴァイゼさん
ジョジョネタは分からなくても、本当に見て欲しいのは横島と心眼の息のあったコンビです。
だから全く大丈夫だとw


>caseさん
たぶんって……、まだ完全復活じゃないんすかw
あぁ、彼女が百目以上のネタキャラに(涙)


>柳野雫さん
どうなるんでしょう?w
いくつか案はあるんですが。


>なまけものさん
>原作の横島のまま落ち着いた大人になった感じで
この話の彼のコンセプトはまさにそれです。
修業時代などで、精神年齢は上がってるけど、三つ子の魂百までな部分(お約束好き)は変わってないと


>MAGIふぁさん
一応タイガーが孤軍奮闘してるんですが。(この程度は“あの”MAGIふぁさんにとってはデフォですか。そうですか……)
頼みの横島があまり煩悩キャラじゃないし、私の力量でこれ以上となると壊れにするしかないんですが、一応大筋はシリアスなんでそれをすると収拾が難しいんですよ。
今回はその忠告を生かして、前回以上を目指してみました。


>響さん
横島も心眼を死なせるわけにはいきませんからね。
これにより彼はどうなるんでしょうか。


では。

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