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▽レス始

「世界はそこにあるか  第8話 (GS)」

仁成 (2005-05-21 13:27/2005-05-22 08:33)
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暗闇の中


とはいっても完全な闇ではなく、

空には星々が瞬いているし、月が煌々と光っている。


無駄に広い空間であるにも拘らず、

あるのは僅かな森と、その中心にある透き通るような水を湛えた小さな池。


そして池には一羽の真白い白鳥。


青年はその池に佇む白鳥をじっと眺めていた。


周りはあまりにも静かで音も無く、ただその青年と白鳥だけが存在しているだけだ。


「……よう」


静寂が破られる。


青年が後ろを振り向くと、一人の女性が立っていた。


背が高く――おそらく180センチ以上、烏の濡れ羽色とでも形容すべき艶やかな黒髪が腰まで伸びている。

薄桃色の着流しを着て、顔にはシニカルな笑みを浮かべている。

間違いなく美人、いやそんな言葉で飾ること自体おこがましいほどである。


「……ども。えぇっと……どちら様でしたっけ?」


突然の登場。

そしてこの空間において、間違いなく異分子たる存在にも、青年は顔色一つ変えることはなかった。


「おいおい。おいおいおいおい。
なんだぁ、あたしの名前を忘れたっつうのかぁ……!?
あたしは“ジュンさん”って前に名乗っただろうが!」


ジュンさんと名乗った女性は口調に反して、顔から笑みが消えることはなかった。

どこか楽しげである。


「あっ、そうでしたね……ジュンさん」


この青年が女性の名前を忘れるなど、珍しいこともあるものである。


「ところで……何でお前こんなところにいるんだ?」

「おかしいっすか? ジュンさんがここにいるよりは自然だと思うんすけど」

「はっ! ってことはお前、あたしがいることが出来ない場所、存在が許されない空間なんてもんがあるとでも思ってんのか?」

「そういうことじゃないっすよ……」


青年はそう言うと、肩を竦めて黙り込む。


「まあ、気持ちは分からんでもないか」


彼の様子を見てそう言うと、彼女は今まで以上にシニカルな笑みを浮かべ、

まるで最初からそこに存在しなかったように消え去った。


女性がいなくなると、青年は何事もなかったかのように、再び月明かりの下で静かに白鳥を眺め続ける。


彼女が何をしに来たのか、なんてことを考えることもない。


じっと……ただひたすらに。


今は夜ではない。

なぜならここには対となる昼が存在しないのだから……。


世界はそこにあるか  第8話


横島は目を覚ます。

そこは今までいた妙神山ではなく、高校三年間を過ごしてきたアパートの、せんべい布団の上だった。

それを認識したとたん、ひどく懐かしさを感じた。

時計を見ると、短針は4を指している。

窓の外を見ると真っ暗なことから、今は午前四時のようだ。

「本当に戻ってきたのか……? なら、今は一体いつなんだ?」

『GS試験の最中だ』

横島の頭の中に声が聞こえる。

それはひどく懐かしい声。

彼の最初の師匠にして、最後は彼を守って逝った存在。

「…心眼……か……?」

横島はなぜか今まで寝ていたにも拘らず、バンダナを巻いている自分に気付く。
そういえば試験の最中は四六時中バンダナをつけていたな、などと思い出して当時の自分に苦笑する。

『正確には一次試験と一回戦を終えたところだ』

彼の言葉を半ば無視して説明を続けた。

『こんなことになるとは……。運命とは残酷で皮肉なものだな』

「お前、今俺がどういう状態か分かるのか!!?」

『当然であろう。ワレはお主と同一存在のようなものとでも言えるものだからな。
今のお主のことは、お主が逆行してきた瞬間すべて入ってきたわ。
もっとも分かっているのは客観的事実だけだが』

横島はそっか、とだけ呟いて黙り込む。

心眼もなんと言えばいいのか分からず口を閉ざした。

彼の今の気持ちが分かるから。

今の彼の中には、未来を変えてやるというような気概だけではなく、過去へのもっと複雑な思いがあるのだ。
それはもちろん自分に対しても、ということが心眼には伝わっている。

「それにしても何でこの時期なんだろうな?」

横島が先に口を開いた。

『うむ……。お主に霊能があると、周りに違和感なく認識させるのによい時期というのは大きく二つある。
美神令子に出会う以前か、この時期かだ。
前者になると彼女との接触を考えなければならんし、“ズレ”が生じた場合それが大きくなってしまうことを考えて、後者にしたのだろう」

前者では最初から彼に霊能があると認識させることが出来るし、後者では多少無茶をしても小竜姫とバンダナのおかげ、と言うことが出来る。

過去でもこの時期に多少であっても目覚めたのだし。

そしてこれより後の時期にしなかったのは彼のため。

心眼が自分をかばって死んだことは、実は少なからず彼の心に影を落としていたのだ。

もちろんあの時期の彼は自分でもそのことをうまく認識できておらず、周りもそのことに気付いてはいなかったが。

この世に自分ほど信用できない人間がいるかっ!

彼の言葉であるが、それも当然だろう。

自分は他人に――例えバンダナであっても――命を捨てさせて、今ここに立っているのだから。

『それでこれからどうするのだ?』

今は四時半になろうかという時刻。

試験に行くにはかなり早いが、かといってまた眠るのもどうかという時間だ。

「んー……とりあえず少し体動かすか。
ってお前少し機嫌悪くねえか?」

『……機嫌が悪いというよりは寂しいのだろうよ。
昨日まで美神の太ももで霊力を集中させておった様な奴が、文珠を会得し、さらに人間を超えるような実力になってしまったのだからな』

不肖の弟子。だが出来が悪いほどかわいいのは世の常である。

だが今の彼は昨日までと違い、もう自分など必要とはしていない。

彼を成長させることが存在意義だと言っても、寂しさを感じてしまうのはしょうがないことだろう。

「そう言うな。
今の俺がどうであれ、お前が俺の最初の師匠であることに変わりねぇよ」

横島が心眼の内面を見透かしたように言う。

『そうか……そうだな。
それに師が弟子に心配されるようではおしまいだな』

横島はその瞬間、心眼がフッと笑ったような気がした。


アパートの近くの公園

そこで横島は体を動かしていた。

いくら霊力が過去よりあり、その使い方を分かっているといっても、体が動かなければどうしようもない。

たかが数時間で、未来の水準まで体を持っていけるとは当然思っていないが、それでも一度動かしているかそうでないかは全く違う。

「それにしても思った以上に体が動くな……。
確実にこの頃の俺にできる動きじゃねえぞ、こりゃ」

この頃の彼は荷物持ちで培った足腰だけしか鍛えられていない。

格闘で必要なところは人並みである。

だが今の自分は想像以上に自分が思った通りに体が動いている。

もっともそれは未来とは比べ物にもならないほどのレベルであり、あくまでも“想像以上”ではあったが。

『うむ……おそらくお主の魂の影響を肉体が多少なり受けているのだろう。
肉体と魂は表裏一体だからな』

「へー……」

やはり彼がどうであっても、彼の師匠のようだ。

「だが一人で続けるのはそろそろきついかも。
元々体を使うことに関しては老師と小竜姫様がほとんど付きっ切りでしてくれてたし、一人稽古には慣れてねえんだよなぁ」

『まあ仕方あるまい』

「だな」

そうあきらめるように呟き、また体を動かし始める。

あたりはもう陽が差しており、すっかり明るくなってきていた。

「……なら、私が手伝おうか?」

その声に横島が振り返る。

「タマモ…か……?」

そこには初めて会った頃より、少し幼く見える狐娘が立っていた。

顔にはかなり汗がにじんでおり、肩で息をしている。

「お前なんでこんなとこにいんだよっ! それにその姿!」

「………」

「………」

「…………えへっ♪」

「えへっじゃねえ! えへっじゃ!
誤魔化してないで、とりあえずどういうことなのか説明してくれ」

横島が逆行してからのことを話した。

他にも逆行してきている者がいることだ。

姿は憶測であるが、前回よりも早く目覚めた影響であるらしい。
妖力も修業後のそれより衰えている。

「全くなんでそんなことを……」

みんなにそう言いたかったが、特にタマモは元々は何の係わり合いもない。

「だってこれから横島が傷つくかもしれないのに、黙ってられないじゃない。
今までだって、ずっと傷ついてきたんでしょ。
……それなら今度は私が横島を守る盾になる」

もう彼にこれ以上傷ついて欲しくないから。
そんなところ、絶対に見たくない。

彼女の目がそう言っていた。

それを見て横島は彼女を軽く抱きしめる。

「お前が俺に傷ついて欲しくないと願うなら、俺は全力で傷を拒否しよう。
どんな状況でも、傷つかないよう努力しよう。
だが誰かが傷つかないといけない時、そのとき傷つくのは俺だ。
お前でも、他の誰でもなく……、俺が傷つく。
俺でなければ駄目なんだ……」


なんて―――なんて身勝手ッ!


そう思いながらもタマモは、彼の腰に回す自分の腕に、自然と今まで以上の力を込められていくのを感じる。

これが“横島忠夫”、というものだから。

自分が追いかけてきたほどの存在。


しかしだからこそ……!


彼女にも彼女の『覚悟』があった。


部屋に戻ってきた三人。

タマモは殺生石から急いできたらしく、ひどく疲れていたし、もうそろそろ行ったとしても早すぎることはないだろう、ということである。

「なあ、試験ではどの程度の力まで出すべきかな?」

『サイキックソーサーのみを使い、霊圧は50マイト程度しておけ。
だが勘九郎と戦うようなときは全力でいこう。
だがもちろん霊波刀と文珠は出すなよ』

「それで勘九郎に勝てるか? 
美神さんたちが束になってやっと腕一本だったんだぜ」

勘九郎はGSバスターとしての訓練を受けている。

確かに格闘に関して素人の美神よりは善戦できるだろうが、相手は剣を持っているので、霊波刀無しでは確実とは言えない。

『たわけ! その程度の差を埋めれんでどうする。
それに今日殺す必要はないのだ。
それならいくらでも戦いようがあるであろう』

戦いでは『勝つ』ではなく、『負けなければいい』という考えで戦う者に勝つのは、よほど実力差がない限りひどく難しいものである。

なかなか勝てずに焦れてきた、相手の隙をつくこともできる。

「そうだな……。うっしゃっ!」

横島が気合を入れる。

「ねえ、私は今日どうすればいいの?」

横島の隣に座っていたタマモが尋ねた。

「うーん……タマモは家にいたほうがいいんだが。
妖狐が会場にいるのも問題だし、俺が連れて行ったとしても美神さんに説明出来ん」

ちなみに過去とは違い、金毛白面九尾の狐が転生していることを政府関係者に全く気付かれていない。

姿こそ幼いが、実力は過去とは比べ物にならない。
たとえ修業後のレベルより落ちているとしてもだ。

“欺く”ことに長けた彼女がその程度のことが出来ないはずがない。

「じゃあそうするわ。小竜姫もいるみたいだし大丈夫よね」

驚くほどあっさり納得した。

彼女であれば、妖狐と気付かれずにに会場にいることも可能である。

確かに小竜姫を信頼しているということもあるのだろうが。

「いってらっしゃい。私は疲れたから寝るわね……」

と言って布団の上で横になり、本当に寝だした。

「じゃあ行くか?」

『……うむ』

こうして二人はGS試験二次試験会場に向かうのだった。


あとがき
少し短いですが、流れと内容からあえてここまでにしました。
心眼は小竜姫の竜気と横島の意識をもとに生まれたと解釈(と設定)
同一存在云々はそういうことで。(当然ですか横島と心眼は個体としては完全に別です)
逆行時期に関しては作中で説明を入れたんですがどうでしょう。
またか……、と思われる方もいるかもしれませんがこういうことなんでご容赦を。

意外かもしれませんが、小竜姫様は出さずタマモのみの登場です。
小竜姫様には次回たっぷり出てもらうつもりですが。

レス返しは多少説明も入れたんで、前回の記事につけました。

今回も読んでいただきありがとうございます。


では。

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