第12話 「水中軍艦」
水の亜空間内を行く水中戦艦「轟沈」。
その艦内食堂にて顔を突き合わせている横島たち。
その中心に置かれたのはレイテの草原から持ち帰った譜面である。
「どんな曲なんですかねぇ…」
小首を傾げる唯だが彼女に譜面を読めるはずも無い。
笛を操るおキヌにしてもこれほど複雑な曲は無理なのか無言で横島に首を振った。
それじゃあと魔鈴に聞いてみても「私も音楽はちょっと…」と首を振る。
それがちょっと意外な気がして横島は何気なく口に出した。
「へー。魔鈴さんって何でも出来そうな気がするんすけどねー。」
そんな少年の言葉に魔鈴はポッと頬を染め照れたのかぱたぱたと手を振った。
その少女じみた仕草は割と彼女に似合っていて何となく横島も顔を赤くする。
「そ、そんなことありませんよ。私なんか魔法オタクで、あとちょっと料理が出来て、ゲリラ戦とか得意で、意外に床上手ぐらいなもんで…」
……だけど言っていることはとんでもなかった…。
さり気無くないアピールにオタオタとする少女たち。
なんとか話題を変えようとした時、天の助けか艦内放送がなる。
『これより次元跳躍に入ります。各要員は所定の位置にて待機してください。』
跳躍といってもすでに経験済みのこと。最初は慌てた魔鈴も今は落ち着いている。
実際に来るときの次元跳躍も開始時に多少のショックは感じたものの、それ以外は安定したものだった。
もっとも感覚の鋭いシロタマは酔ってしまって大変だったらしく今も船室でグロッキーである。
跳躍開始から数分ほど経過したとき、緊迫した警報が艦内に響き渡った。
『所属不明の物体、前方より接近中!艦長は艦橋へいらしてください!』
「何事ですか?」
「さあ…でもただごとではありませんわピート様。わたくしたちも艦橋に急ぎましょう忠夫様。」
そう言ってアリエスは役得とばかりに横島の手を握って走り出した。
慌てて続く少女たちと男たち。
狭い艦内を走りぬけて艦橋にたどり着いてみれば、制服を着た女官たちがコンソールやパネルに向かって忙しく作業をしている。
そのうちの一人がこちらを見るとパシッと敬礼した。
制服からして副長なのだろうと何となく思う横島である。
「お待ちしてました。艦長。」
「えーと。どんな状況ですか?」
「はい。未確認の大型物体が接近中です。」
「じゃあ…どうすれば…。」
「一応、戦闘待機を命じてください。」
「んじゃそれお願いします。」
「待て…」
艦長と副官の会話にジト目で突っ込むのはやっぱり横島君。
「何か?」とこちらを見る副官に「コホン」と咳払いしつつ艦長を指差した。
「なんで神宮寺さんが艦長なんや…」
「ああ、それはですね。アリエス様がお決めに…」
「アリエスちゃん…」
ジトっとした目で見つめる横島にアリエスは額に汗をかきながらも言い訳する。
「だ…だって…艦長になりたいって人が居なかったから…それに名前を聞いたときにピンと来まして…」
そりゃ「轟沈」なんて不吉な名前の艦の責任者になるのはイヤだろう。
だからと言って…
「バイトの女子高生がメイド服着て艦長やってる戦艦がどこあるかぁぁぁ!!」
「ひえっ!で、でも…斬新でしょ?」
「斬新っつーか意表を突かれまくったわい!!」
「て、敵の意表を突くのも兵法ですわ…」
「味方の意表を突いてどうするんやぁぁぁぁ!!」
「敵を欺くには味方からと申しますし…」
「今考え付いただろそれ…」
「うっ!…そ、そ、そんなことはないですわにょ…」
だんだん語尾が怪しくなっているし…。なんだか疲れちゃった横島は神宮寺に向き直る。
「神宮寺さんは艦長なんか出来るの?」
「できない♪」
「そんなに明るく否定されてもノー」
「あ、でも肝心なことは副長がみんなやってくれるから。ね♪」
神宮寺に話しかけられて副長は無表情に頷いた。
「艦長には艦長にしか出来ない仕事をして頂きますので。」
「そうよ!私にしか出来ない仕事があるのよ!!その分バイト代も加算されるし!!」
エッヘンと胸を張る神宮寺。
彼女を感心した目で見ていたおキヌが副長に聞く。
「神宮寺さんにしか出来ない仕事って何ですか?」
副長は重々しく頷くともう一度ピシッと神宮寺に敬礼しあっさりと言い放つ。
「万が一のとき艦と運命を共にして頂きます。」
「ああ…なるほど…って…えぇぇぇぇぇぇ!!」
「いざと言うときは…任せましたよ艦長…」
ニヤリ…なんだが邪な笑いを浮かべて副長は自分の席に戻って行った。
後に残されたのは呆然とする神宮寺とあさっての方向を見ながら出もしない口笛を吹いているアリエス、そして神宮寺を痛ましい目で見つめる除霊部員その他である。
そんな中でただ一人、カトちゃんだけはウキウキとしていた。
ニコニコと懐から紙を取り出し赤ペンでゴソゴソと書き込むと、神宮寺にペタリと貼り付ける。
「え?…何…」と貼られた紙を見れば意外と達筆な文字で「予約済」と書かれている。
「え?え?この人なんなの?」
わけがわからんと言った神宮寺におキヌが悲しげな表情で「彼女は死神さんなんです」と教えてあげた。
「へ?………てことは…私って死亡確定?!い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!まだハワイ行ってないのにぃぃぃ!!」
泣きじゃくる神宮寺の肩を抱くおキヌ。
なんとか慰めようとして「んとんと…」と考えて思いついたのは自分の過去だった。
「大丈夫ですよ神宮寺さん。死んでも生きられますっ!」
「私は死なないで生きていたいぃぃぃ!!」
横島の非難の視線に晒されてさすがにまずいと思ったか、アリエスが神宮寺の肩をポンと叩くとその耳に囁いた。
「危険手当とハワイのチケットつけますわ…」
「やるっ!!」
「「「それでいいんかぁぁぁぁ!!!」」」
思わず突っ込む一同を遮るかのように副長の冷静な声が響いた。
「敵接近してます。モニターに出します。」
マイペースなカッパではあるがそれが軍人には求められる資質かも知れない。
やがてメインモニターに現れたのは黒く細長い影。
「マン〇?…「どこを伏字にしとるかっ!!」…おごっ!!」
危険ともとれる発言をかまして横島に目一杯突っ込まれる唯が頭から煙を上げて蹲る。
「横島さん…アレは…」
魔鈴に「ええ」と頷いて横島はモニターを睨みつけた。
それは紛れもなくあの時、ノイエ・汁をくらって次元の狭間に逃げた鉄の蛇だった。
「なんでこんなとこに来るんですかいノー」
「ここは次元の狭間ですから。蛇のテリトリーかも知れません。」
パラパラと「轟沈」の操作マニュアルに目を通しながら魔鈴がタイガーの疑問に答える。
「とりあえず迎撃しましょう。艦長。迎撃許可を。」
「やっちゃって!私のハワイのチケットのために!!」
(((命はどうでもいいんかい…)))
著しく士気の下がる神宮寺の命令にもかかわらず艦橋要員はてきぱきと作業を進めていく。やがて迎撃準備が完了したとの報告がなされ副長は頷くと迎撃を指示した。
「前部霊能砲発射!」
号令とともに前部の砲塔から二条の霊波砲に良く似た光が放たれ蛇を直撃した。
だが蛇は怯んだ様子も見せずにこちらに突っ込んでくる。
「やはり我々の霊波では出力が足りないか…」
「霊波?」
「はい。霊能砲は砲手の霊力を弾にして放つ砲です。」
副長は魔鈴の問いに重々しく頷く。
「ああ、霊波砲と同じ理屈ですね。」
「ですが我々カッパ族は霊波のコントロールなどしたことがないので…」
「今まで平和でしたからねぇ…」
ピートに答えた副長の台詞のあとをアリエスが補足した。
確かに以前もカワ太郎が似たようなことを言っていた。
魚と戦うぐらいであれほどの大戦艦を用意するってのは平和の表れだったのかも知れない。
「じゃあ横島さんたちが砲手を務めれば。」
「威力はあがりますね。」
おキヌの言葉に当然といったように副長が答えた時、オペレーターの一人が申し訳なさそうに話に割り込んできた。
「あの…副長…」
「何ですか?」
「敵はすでにこの艦に巻きついてますが…」
「あらそれはいけないわね」
「ちょっと!落ち着いている場合っすか?」
「ですがすでに近すぎて主砲とか使えませんし…」
「大丈夫ですわ!」
そう言うとアリエスは艦長席の横のボタンを押した。
「ヌメヌメコーティング作動!」
「了解!ヌメヌメコーティング作動!!」
オペレーターの復唱と同時に艦が緑色の光に包まれ、光がおさまるとその表面になにやら川魚のような光沢が生まれる。
「あの…アリエスちゃん。今の何?」
なんだか嫌な予感を感じて恐る恐る聞く愛子にアリエスはエッヘンと胸を張って答えた。
「これはわたくしが開発したヌメヌメカッパ液ですわ。摩擦力を極端に少なく出来ますのよ。」
「なんでそんなものが戦艦についているんですか!」
いつものこととは言え突っ込むピートにアリエスはまたまた胸を張る。
「水中をいく船はヌルヌルしている方が速いと前に見たアニメでやってましたっ!」
「あーはいはい…」
疲れたように頭を振る愛子を無視してアリエスは副長に命令を下す。
「機関後進最大出力!」
「了解!甲板構造物格納!後進最大出力!!」
蛇に巻きつかれ軋んでいた轟沈の艦橋だとか砲塔が艦内に格納され、今や一本の槍のようになった艦体が振動し後進しだす。
蛇は逃がさないように巻き付けを強めるがヌメヌメカッパ液のせいで上手く締め付けることが出来ず苛立たしげに口を開き艦体に噛みつこうとした瞬間、「ヌポン」とマヌケな音とともに轟沈がすっぽ抜けた。
モニターに映る慌てふためく蛇の後姿を見ていたアリエスの顔に会心の笑みが浮かぶ。
彼女は副長に鋭い視線を向けると命令を下した。
どうでもいいが命令系統が無茶苦茶の戦艦である。
「アス・ロック発射!」
「アス・ロック発射します!」
復唱と同時に轟沈の船首ドリルの先端から緑色の光線が放たれ蛇を直撃する。
蛇は全身に紫電を走らせながら感電したかのように硬直した。
「あれ?」と小首を傾げる魔鈴。
「どうしたんすか?」
「あ、いえ細かいことなんですけど…アスロックって対潜魚雷のことだったような…すいません。大型兵器はあまり詳しくないもので…」
「普通の女性は携帯兵器も詳しくないと思うんですけど…ひいっ!」
いらんことをほざいたピートを目だけで黙らせて魔鈴は画面に視線を戻した。
そんなこととは関係無しに得意絶頂と言った感じで腰に手をあて高笑いするアリエスは次の命令を下す。
「今です!アス・クラッシャー始動!」
「了解!アス・クラッシャー始動!機関最大戦速前進!!」
副長の声の下、轟沈は一本矢のとなって紫電の網に捕まってもがく蛇に向かって突き進む!
「総員対ショック!いきます!!」
副長の声が終わると同時に轟沈はズブン!と蛇の尻尾の付け根に突き刺さった。
「「う゛っ!!!」」
凄まじい一撃を受けた蛇の体が一本の棒のように真っ直ぐになる。
「今ですわ!アス・クラッシャー!!」
「了解!艦首ドリル最大回転!!」
蛇の尻尾の付け根に刺さったドリルが唸りを上げて回転し始めると、蛇の口から魂を凍らせるような絶叫が上がった。
「「あ゛あ゛あ゛あ゛~あ゛ぅあ゛あぁぁ゛うあ゛ぁぁぁあぁぁぁ!!」」
「うわぁ…」
その悲鳴の痛ましさに何だか蛇に同情したくなる横島たち。
そっと涙を拭うおキヌはやっぱり優しい子。
愛子と唯が複雑な顔を見合わせたときオペレーターの絶叫が上がる。
「副長!ドリルのエネルギーが!!」
「何!」
驚く副長の声と同時にドリルか回転を止めた。
「あーやっぱり単三電池じゃ持ちませんでしたわね…」
「「「電池かいっ?!!」」」
思わず皆がアリエスに突っ込んだ瞬間、ぐったりしていた蛇が今しかないとばかりに身を翻すとドリルからヌポンと抜けた。
「しまった!」と艦橋内が緊張するが、蛇は口から再び黒煙を吐くと煙に紛れ一目散に逃げ出していく。
その目から糸を引いて流れる涙がなんだか乙女チックだったりした。
「そう…そんなことが…」
白井総合病院の一室で横島たちの報告を聞き深刻な顔で頷く美智恵である。
さすがの彼女の頭脳でも謎の少女が示した場所にあった譜面からは何もわからない。
いかんせん材料が少なすぎるのだ。
兎に角、横島の申し出に従って枕もとの電話から西条に連絡をとる。
今のところこの譜面しか手がかりはないのだ。
「すぐに持ち主のことは調べてくれるそうよ。」
「すんません」
ペコリと頭を下げる横島に「いいのよ」と手を振って美智恵はピシリと硬直した。
「隊長さん?」
不思議そうな顔をするおキヌに弱々しい笑顔を見せる美智恵。
「腰がまだちょっと…ね。困ったわ、小鳩ちゃんにも迷惑かけちゃっているし」
「あのアリエスさん。カッパ軟膏はギックリ腰に効かないんですか?」
「さあ…まだ臨床試験はしてませんけど使ってみますか?」
「遠慮するわ………そうだ横島君。文珠で治せない?」
「へ?文珠っすか?『治』で傷とか治したことはあるっすけど…」
「ものは試しよ。やってみてくれる?」
「ちょっとママ!それは「私の文珠とか言い出すんじゃないでしょうね…」…いい考えだと思うわ。うん!」
「そう。だったら横島君文珠一個貰える?」
「いいっすよ」と横島が文珠を出した時、突然天井から「待てい!」と声がかけられる。
「ぬおっ!」と驚く横島の前に天井に開いた穴からシタッと降り立つのは白井医師その人だった。
「現代医学に身を捧げたものとしてそのような怪しげなものに頼るのを見過ごすわけにはいかんぞ!」
「あの…霊的なヒーリングと一緒ですから…」
遠慮がちなおキヌの言葉に頷くも白井医師も頑固だった。
「うむ…だがこの人は私の患者でもある。主治医として私も立ち合わせてもらうぞ。こればかりは我が同志タイガー君の友達だったとしても譲れん。」
「まあ良いわ。じゃあ横島君お願い。」
「はあ…」と毒気を抜かれた気がして美智恵に文珠を渡そうとする横島に白井医師からまたまたクレームが入る。
「馬鹿者!医療者が患者に薬を渡してそれっきりということがあるか!」
「え?んじゃどうするんすか?」
「まかせたまえ。奥さん。患部を出して貰えますかな?」
「え゛…患部って腰?」
「その通り。私も診察しながらということですからな。」
「でも…流石に…」とためらう美智恵。そりゃ当然である。
「む?男どもは出ていなさい!!」
白井医師の毅然とした声にピートとタイガーは「「はいっ!」」と敬礼して一目散に病室を出た。
その様子を確認した白井は横島の手に握られた文珠に興味深げな視線を向ける。
「さて煩悩少年。その珠が薬かね?」
「薬じゃないっすけど…」
「そうか。ならば存分にやるがよい!!」
「どうすりゃいいんすか!」
「こうだ!」
ペロンと擬音とともに美智恵の、子供を二人産んだとは思えぬハリのある白いお尻が半分ほど露になるまでパジャマが下げられる。
「きゃっ!」
「うほっ!」
「ちょっとぉぉ!私のママになんてことを!」
だが白井医師はそんな抗議はどこ吹く風で美智恵の腰を指差すと横島に指示した。
「さあ!ここが患部だ!その薬を使ってみたまえ!」
「あの…隊長」
「いいわ…もうここまでされたら失うものなんかないわ…ぐっすん…」
「すんません!」と頭を下げ横島は手を美智恵の腰に当てて文珠を発動させた。
「治す」、「癒す」の思いを込めた霊力が横島の触れている美智恵の腰から全身に広がっていく。
「ん…」
枕に顔を埋める美智恵の声を聞きとがめた白井医師が横島の頭をスパーンと叩いた。
「馬鹿者!患者さんに苦痛を与える奴があるか!」
「は、はい!!」
(痛くないように…ってどうすりゃいいんや!「痛い」の逆?!)
慌てた横島は『治』の文珠が放つ霊波に干渉し霊波の質を変えちゃった。
今更のことであるがなかなか器用な奴である。
「んー…んー…んー!」
枕に顔を埋めた美智恵の体が赤く染まると悩ましげにくねり出し、ついに文珠の光が消えると同時にクタリと弛緩した。
「ふむ…どれ。診察してみよう。どうですかな?美神さん」
白井が聞いても美智恵は枕から顔を上げない。それどころか微妙に小刻みに震えている気もする。
「む?まさか悪化した?大丈夫ですか!」
訝る白井医師に対してやっとと言った様子で枕から顔を上げた美智恵。
その目がすっかり潤んでいてしかも目元がほんのりと赤い。
「奥さん?」
「うにょ?」
心ここらあらずと言った風情で返事をする美智恵さん。
その様子に心当たりがあるのは勿論愛子たち除霊部員女子一同と特にコーチさん。
皆で「やっちまったよオイ…」と頭を抱えた。
とにかく再診察と白井医師が横島たちを追い出し、しばらくして病室から出てくる。
その顔には軽い驚きと尊敬の表情が浮かんでいた。
「どうすか?まさか悪化したって…」と心配そうな横島。怪我はともかく病気の類に文珠を使ったことがないから心配なのだ。
「治っているから心配するな煩悩少年。一応、きちんと検査してからだが明日には退院できるだろう。」
「良かった」と白井医師に頭を下げ横島たちは彼とともに再び病室に戻った。
病室の中は微妙な空気が満ちている。
今はベッドに半身起こしている美智恵と令子だが、一方はなんだか幸せそうな表情だし、もう一方は憮然として毛布の端っこをガジガジと齧っていた。
「大丈夫っすか隊長?」
「え?あ、うん。大丈夫よ。」
どことなくボンヤリとした様子の美智恵を不思議に思いながらも横島は安堵の息を漏らした。
「良かったっす。」
「あのね…横島君」
「何すか?」
「美智恵お願いがあるんだけどな♪」
「ママっ!なに年甲斐もないこと…ごめんなさいなんでもないです…」
両手の拳を口に当てて上目遣いに横島を見る母親に突っ込みいれた令子は美智恵の視線の前に粉砕される。
そんな親子の姿に((((キターーーーーーーーーーー))))と慌てふためき右往左往する除霊部員女子メンバー。
だけど美智恵のお願いとは彼女らの予想とは違っていた。
「俺でできることなら…」
「んとね。令子にも治療してあげて欲しいな♪」
「へ?美神さんすか?」
「な、なんてこと言うのよママ!!」
「あら…でもあなた「早く退院したい!」って騒いでいたじゃない。」
「そ、それはそうだけど…」
「長引けば収入も減るわね~♪」
「………わかったわ!やってちょうだい横島君!!」
「ついに俺の愛を受け入れる気になってくれたんすね!!「調子にのるな!!」…うごおっ!!」
壁に吹き飛ばされた横島を鼻息荒く睨みつけて令子は地の底から響くような声で宣言する。
「いい。変な気を起こしたら…骨も残さないわよ…」
「り、了解っす…」
「ふむ…ならば私も手伝おう。ささ横になりたまえ。」
「う…」
退院したいという思いと羞恥心とが葛藤していたようだが令子は顔を赤くしながらも横になる。
すかさず白井医師が令子のパジャマを捲り上げた。
「な?!」と驚くも「静かに!」と白井に医者の顔で言われては抵抗も出来ずに顔を背けて目を閉じる令子。
「さあ煩悩少年!さっきの珠を!」
白井に促され「はあ…」と近寄ってきた横島の前で白井はパジャマのズボンもスペッと下げる。
「むっはあ!」、「きゃっ!!」
盲腸の傷ってのはかなり微妙な位置にあるもので、令子の白い肌に刻まれたソレを見て高まる煩悩が口から飛び出した横島と羞恥の悲鳴をあげる美神。
そんなことには委細構わず白井医師は横島の手をとって令子の患部に導いた。
どうやら治療となると他のことが頭に入らなくなるタイプらしい。
期せずして((これは医療行為…医療行為…))と二人の考えがシンクロする。
そしてついに文珠が発動した。
「あ…結構気持ちいいわねコレ。」
「そうすか?痛くないすか?」
「ん。大丈夫。」
顔を赤らめながらも令子の様子には特に変わったところはない。その姿をみて美智恵は確信した。
(やっぱ鈍いわ…この娘…)
やがて文珠の光が消え令子の下腹部の傷は綺麗に消えた。
彼女の様子も特に変化がない。多少顔が赤いがそれは仕方ないだろう。
だがホッとする少女たちの顔に安堵の色が浮かんだとき、それは起きちゃった。
プウ…
「う?」
「え?」
「は?」
「へ?」
………しばしの静寂……
「「「屁?!」」」と声を合わせて一斉に令子を見る一同。
「ち、違うわよ!わ、わ、わ私じゃないわよ…この美神令子ともあろうものが横島君の前でおならなんかするわけないじゃない!!」
先ほどよりも顔を赤く染めワタワタと慌てて否定する令子。微妙に本心が覗いているのにも気づかないほど慌てている。
だが白井医師はそんな彼女のことを気にもせず愉快そうに笑った。
「がっはっは。虫垂炎の患者が放屁するのはよいことですよ。」
「違う!違うってば!!…私じゃないのよ!!」
「まあまあ美神さん…」
「違うの…本当の私はお家で寝ているの…これは悪い夢なの…」
「あああ…美神さんが壊れていく…横島さぁぁん!」
「俺にどうしろと…」
狼狽するおキヌに言われても壊れ始めた令子の様子に途方にくれるのは横島も同じだ。
だがその背後から決然とした声が上がる。
「今のおならは私よ!」
「「「え?」」」と振り向けば拳を握ってベッドに立ち上がり高らかに宣言する美神美智恵さん。
その言葉を聞いた令子の目に正気の光が戻る。
「ママ…」
「いいのよ令子…。私、あなたには何も母親らしいことしてあげられなかった…娘の変わりに「屁こき女」の汚名を被るぐらいはなんでもないわ!」
「ううっ…ありがとうママ…」
ダクダクと滂沱の涙を流す令子をベッドから降りた美智恵は優しく抱きしめた。
「結局アレって…自分じゃないって言っているよなぁ…」
「えう…それどころか「屁こき女」とかとんでもない呼び方してますねぇ…」
「まあ…気づかなければ幸せですわね…」
病室に満ちた不思議な空気は西条から電話が入るまで続いた。
後書き
ども。犬雀です。
あー。んー。えーと…まあ轟沈対蛇戦はこんな感じで一つ。
気がつけばすでに12話。なんとか今月中にまとめたい…目標はあと3話です。
さて今回の犠牲者は美智恵さんですが…惚れませんよ~。とあらかじめ言っておきますです。なんでって?だって耐性がある…げふんげふん…。
次回…最後の目的地に向かいます。
では…
1>ヒロヒロ様
天野キックいいですねぇ。とりあえず追加兵装は考えてますです。
2>菅根様
肩は赤く塗られてます。描写し忘れましたorz
3>オロチ様
実は三人目ではないであります。ザビンガ様の言うとおり毒吸いって痛いんですわ。
犬も経験ありますです。
ちなみに三人目は今回でしたw
4>AC04アタッカー様
はいです。二股でした。
>盾装備…ぬ?ベルゼルガ?
5>黒川様
やはりマンダと戦うのがセオリーかと…とんでもないことになりましたが…
はいです。艦長さん正解でありましたw
6>ザビンガ様
なのです。アレは痛いのです。リムーバーも結構きます。
ではなんであんなシーンを…実は伏線のつもりであります。ただ回収できるかどうか…(オイオイ
7>NK様
良いですねぇ。特に「鉄の~」は好きでした。
>精密射撃…魔鈴さんの腕が尋常ではないということでw
8>法師陰陽師様
おキヌちゃんはもっと張り切ってもらいたいですな…でも何となく影が薄い。
頑張ってみますです。
9>紫苑様
タイガーは裏目キャラかも…
10>柳野雫様
パワーアップなんでしょうかねぇ?小回り効くし確かに強いかも。
11>MAGIふぁ様
あははは。普通に活躍するタイガーは犬も違和感がありましたですw
12>龍神 狐獅狼様
作った人がいるんですねぇ。
13>ヴァイゼ様
ふふふ…おキヌちゃんはもっと別な場面で…。
轟沈戦…下ネタでした。すんませんorz
14>ジェミナス様
はい。ギャグであります。つーかギャグしか書けないですorz
15>とろもろ様
はいです。水生マスターはいつか使わせていただきますです。
科学部はまだ何やら作っているとの噂が…