第11話 「鉄の騎兵」(後編)
パチパチと木が爆ぜる音がする。
焚き火の炎というのは存外に人を落ち着かせるものだ。
焚き火の側には4人の男女がそれぞれ毛布に包まって座っている。
いくら南洋とはいえ日の差さない密林の夜は冷え込むこともある。
「夜露は体に毒ですからノー」と言うタイガーの忠告は正しかったようだ。
実際、毛布は湿気を吸ってじっとりし始めていた。
「愛子は寝なくてもいいんか?」
「うん…私って学校に居た頃は寝てなかったし。」
「寝てないで何してたんだ?」
「色々よ。」と笑う愛子は少し寂しそうに見えた。
それ以上聞くのも悪い気がして横島はピートに話を向ける。
「ピートは寝なくても良いけど…」
「ははは。僕は半分吸血鬼ですからね。夜は得意です。」
「なるほど…」と頷く横島にタイガーが気を使ってみせた。
「ワッシも一晩くらいは大丈夫ですしノー。それより横島さんは大丈夫ですかいノー?」
「まあ美神さんのところで鍛えているからな。」
「あ、でも少しは寝たほうがいいわよ。私の膝貸して上げるからちょっと横になれば?」
「いやいいって…」
「駄目よ!横島君疲れているんだし!あの蛇が出たときに困るでしょ!」
強引に横島の手を取って横たえる愛子の姿にピートとタイガーは切ない思いを抱く。
「「ワッシ(僕)らは無視ですか…」」
「平気だ」と言ったもののちょっとぐらいは気にかけてもらいたい男たちであった。
慈母の表情を浮かべて自分の膝に眠る横島を見守る愛子。
ピートもタイガーもなにやら居心地の悪さを感じる。
((もしかして俺たち邪魔?))
はっきり言えば邪魔だろう。だがここはジャングルの中である。気を効かせてやるわけにもいかない。一刻も早く横島が起きるか夜が明けることを祈るしかないのだ。
知らず知らずに緊張感が高まる。
だがそれが幸いした。
「ピートさん…」
「ええ。タイガー…何か来ます…」
頷きあう二人の様子に愛子が危険が迫っているの察して横島の頬を軽く叩く。
それだけで少年は目覚めた。自分の膝を枕にしたままの少年の霊力が戦闘用のそれに高まっていくのが感じられる。
横島は愛子にだけ聞こえるような声でそっと告げた。
「愛子…シロたちを起こしてくれ。そしてお前は下がっていろ。」
「わかったわ…。」
愛子が頷いた瞬間に横島は彼女の膝から一挙動で跳ね起きる。
同時にタイガーが愛子の前に立ちふさがり、ピートが愛子の背後を守れる位置へと移動した。
その瞬間、ジャングルの影から飛び出す数体の妖魔。
手には細い筒や山刀を握っている。
横島にはその妖魔に見覚えがあった。
「邪妖精!」
かつて美神を苦戦させたジャングルの邪妖精が周囲の草叢から飛び出してくる。
どうやらこの辺りが彼らのテリトリーなのかも知れない。
横島が霊波の矢を放つと同時に机の中からシロタマと魔鈴が飛び出してきた。
「先生!大丈夫でこざるか?」
「おう!お前達は愛子を頼む!行くぞタイガー!!」
「わかったわ!」、「合点ジャー」
タマモの返事とともにタイガーは霊圧を上げ霊気を纏った拳を構えながら密林へと飛び込んだ。
ピートも霧化して闇に溶ける。
自分も続こうとして横島は魔鈴の手に握られているやたらとゴッツイ銃みたいなものに気がついた。
「あの…魔鈴さんそれは…」
「これですか?おキヌさんが美神さんの事務所から持ってきてくれたリボルバー式のグレネードランチャーです。」
「あの人はそんなもんまで持ってたんかぁぁぁ!」
思わず絶叫する横島に魔鈴は銃口を向けた。
「ひっ!」と怯んだ瞬間、ボスっと重い音とともに耳の横を何かが通り過ぎ、彼の後ろで「グゲッ」と妖魔が悲鳴を上げて吹っ飛ぶと木にぶつかって爆発音とともに四散する。
「ふう…まだ腕は落ちてませんね…衝撃の魔法…」
「まだそれを魔法と言い張りますか…」
どうやらさっき自分でグレネードランチャーと言ったことはすっぱりと忘れたらしい。
「さあ横島さん。皆さんを守らなきゃ!」
何となく楽しげに見える魔鈴に多少ビビリつつも横島は脳を戦闘モードに切り替えた。
「愛子たちを頼みます。」
そう言い残して密林に消える横島に魔鈴やシロタマは力強く頷いた。
密林の戦いはタイガーにとってはホームグラウンドのようなものである。
だがそれは敵も同じ。
相手の特性を正確に理解したタイガーは精神感応をフルに使い密林に溶け込みながら、不意をついて邪妖精のそばに出現し霊波を纏った拳を叩きつけると敵の消滅も確認せずに再び森に溶けた。
数の多い敵に対してはヒットアンドアウェイがゲリラ戦の基本である。
虎は今、本来の力を発揮しつつあった。
闇から突然現れた虎爪に邪妖精がまた一匹引き裂かれて消えた。
ピートはこのような密林での戦いには慣れていない。
だが彼には彼の戦い方がある。
ジャングルの霧に紛れて移動し、霧となった自分の体に触れる敵を感知すると実体化しては霊波砲の一撃を放って消える。
元々吹き矢の持つ特殊能力に気をつければそれほど強い相手ではない。威力を絞った霊波砲の一撃で邪妖精は誰にやられたかも自覚できずに消滅していく。
再び霧に戻った彼の体の中に居る敵の数は徐々に減っていった。
霊波刀を構えるシロと狐火を展開して身構えるタマモ。
その前で衝撃の魔法発射装置を構える魔鈴の前に五体ほどの邪妖精が草を割って出現する。
すかさず放たれた擲弾の直撃を受け吹っ飛ぶ一体の脇をすり抜けた邪妖精はタマモの矢を胸に受けて消滅した。
突然、頭上の木の枝がザワッとなると、そこからさらに数体の妖魔が吹き矢を放ちつつ飛び降りてくる。
横に飛んでかわす魔鈴とタマモ。シロは半身に軸をずらすと落下してきた一体を空中で切り捨て、返す刀でもう一体を真横になぎ払う。
だが三体ほどの妖魔が愛子とシロの間に着地した。
端から犠牲は覚悟の陽動だったのだろう。
「しまったでござる!」
愛子に向けて山刀を振りかぶった一体を切り倒そうとダッシュするシロ。
だが他の二体も愛子を串刺しにすべく粗末な木の槍を突き出そうとする。
青ざめた愛子の顔が目に入り、自身最大の速度で突っ込むシロだったが目の前の一体を切り倒すので精一杯。
今や無情にも愛子に向けて繰り出された死の槍に「くそぉぉ!」と怒りの絶叫を上げた時、愛子の本体が夥しく発光し中から現れるは身長3メートルほどの鉄の兵士。
木の槍はその兵士の体にあたってあっさり折れた。
「ギエッ?」
驚いた邪妖精に向けて鉄の兵士は持っていた機関銃を向けると一掃射する。
タタタタタタタタ
軽快なリズムとともに銃口から放たれたのは銃弾ではなく水である。
水の弾丸を受けた邪妖精からシュウシュウと煙が上がる。
聖水だったのか相当のダメージを受け、グズリと溶け落ちる相方の邪妖精の姿に驚いたか逃げようときびすを返したもう一体は周りの木や地面から放たれた幾条もの銀の水流に貫かれてバラバラに切断された。
いつの間かに出てきていたアリエスの「魚手烈闘」だろう。
「大丈夫?!」、「愛子殿!無事でこざるか?!」
愛子に駆け寄ったシロがタマモの狐火の光の下に見たものは…
全高3メートルほどの、丸い頭に三つの目を持つ鉄の兵士。
カメラなのか時折クルリクルリと回転する三つ目は左右に動いて辺りを伺っている。
手にしたのは大型の機関銃。右肩には四角い箱が乗っており、左肩には鉄の筒が三本ほどついている。
「これは…」と見上げたシロの前で鉄の兵士の胸がパカンと開き、中からヌペッと顔を出すのは唯だった。
「唯殿…これはいったい何でござるか?」
アングリと口を開けたシロに唯はニパッと笑う。
「これは赤城先輩が作ってくれた新型兵器。『アーマーノ・トルーパー』その名も『スクラップ=ドッグ』ですっ!」
なるほどいわれて見れば頭部はお釜だし、胴体は業務用の冷蔵庫っぽいし、肩についている箱はビールケースである。手にした機関銃には唯の字だろうか?丸まっちい字で「20みりすいあつきかんほう」と白く書かれていた。
「この間のロボはどうしたのよ…」
「えう。ロボは蛇さんとの戦いでのメンテ中だったし、密林とか市街戦なら小回りの効くこっちが良いって赤城先輩が…」
実は科学部で密かに進行していた「天野唯強化計画」の一環で開発された新機体だったらしい。そういえば前回の戦いでも新形態「唯キャノン」が確認されている。
科学部、まだまだ奥が深そうな組織である。
「とにかくこの場に留まるのは得策ではないですね。せめて開けたところに移動しましょう。唯さん。そのメカに愛子さん乗せれますか?」
「えうっ!大丈夫ですっ!!」
「ではすぐに移動しましょう。でも横島さんたちにどうやって伝えましょうか。」
「まかせて!」
魔鈴に答えたのはタマモであった。
すぐに天に向けて狐火の矢を放つ。
光に特化した矢は天空で複雑に動き回ると花火が闇に字を描くかのように星空に「撤退」の二文字を浮かび上がらせた。
横ではシロが霊波を込めた遠吠えを放っている。
さらに着替えが遅れたのか乱れた巫女服のまま愛子から飛び出してきたおキヌの笛の音が闇の中に響き渡った。
ほどなくしてタイガーたちが戻ってくる。
だが横島だけがいつまで待っても帰ってこない。
「まさかやられた?」と口に出しかけギロリと女性陣に睨まれ、再びガグガクブルブルと震えだすピート。
吸血鬼の威厳もどこへやら穴でも掘って隠れようかと下を見てそれに気がついた。
「唯さん…」
「う?何ですが?ピートくん。」
「そのロボットの足を持ち上げてみてください。」
「えう?」と言われるままに持ち上げてみれば、ロボの足に踏まれて土の中に半分めり込んでいる横島が発見された。
「な、な、な、なんでこんなとこにぃぃぃ!!」
慌てておキヌとシロタマが横島発掘にかかる。
「あー、おそらく気配を消したままここに戻ってきて唯さんに踏まれたんでしょうねぇ…」
「横島さんの隠行は凄いからノー…それが裏目に出たんじゃなー」
アリエスと愛子に怒られている唯を見ながら男たち二人は嘆息した。
それでも相変わらずの人外ぶりを発揮してすぐに気がついた横島を筆頭に、全員怪我も無いのを確認して一行は敵の襲撃が一瞬止まった今のうちにと移動を開始した。
闇の中の行軍は難行かと思いきや、タマモの狐火と「スクラップ=ドッグ」の前照灯などで意外に明るい。
再び愛子の中に戻った少女たちごと愛子の本体をスクラップ=ドッグに積み、さらに肩にタマモが乗り、横島たちが周囲を警戒しながら進むうちにタマモが霊臭を感じたか鼻をヒクヒクと動かし始めた。
「ヨコシマこっち!」
「おう!」
タマモの狐火の誘導に従って進んでいくと、一行はいつの間にかジャングルを抜け開けた草原に出る。
辺りには妖かしの気配も無い。あの妖魔たちは密林から出るつもりはないようだった。
バタンとスクラップ=ドッグのハッチが開いてまたまた唯がヌペッと顔を出すと、それに応ずるかのように愛子が本体ごと飛び降りてその本体から少女たちを光と共に吐き出した。
タマモが狐火を消してみれば天空に光り輝く無数の星々の下、腰ぐらいまでの高さの草の生い茂った草原がある。
夜露を含んだ風が草を揺らす光景にしばし見とれる一同。
おキヌが横島の横につと立つと恥ずかしげな仕草で彼の手をとった。
「ロマンチックですね…横島さん…」
うっとりした様子で彼の手を取り夜空を見上げるおキヌに思わず顔を赤らめる横島である。
まさかおキヌがこんな積極的な行動に出るとは思わなかったか慌てる少女たち。
なんとか邪魔しようと魔鈴が一歩踏み出して何かに躓いて顔面から盛大に地面にこけた。
「魔鈴さん大丈夫ですか?」
駆け寄ったピートに鼻を押さえながら大丈夫と答えて足元を見れば草が結んである。
「え?」と思って見上げてみれば「ニヤリ」と笑うおキヌと目があった。
(む…宣戦布告ですねおキヌさん…それにしても私ともあろうものがこんな初歩のトラップに…)
見えない火花がパチパチと散る。
その闘気に反応したか草がザワザワとざわめき出し、あちこちから光の粒子がカゲロウのように舞い上がり始めた。
「これは…」
蛍の乱舞とも見える小さな光の群れを見る横島の声におキヌの体がピクッと震える。
だが握る横島の手には変化が無いのことが彼女を安堵させた。
「戦場で死んだ人たちの魂のかけらね…」
カトちゃんの声にハッと我に返る。
「魂のかけら?」
「そうよ。魂そのものはすでにここには無いわ。ここに在るのはわずかな想いだけ。」
「するとここは戦場だったんですかいノー?」
「そのようですね。」
魔鈴が指差した場所には草に埋もれて今まで気がつかなかったが、一際淡い光を放つ鉄の塊があった。
「アレが目的なんでしょうか?」
「行って見よう。」
ピートの声に頷いて横島はおキヌの手を握ったままソレに近づいていく。
草を掻き分けて彼らが見つけたのは、一台のサイドカーだった。
赤く錆びた車体のあちこちは銃弾で穿たれた穴が開いている。
その穴から夜露なのか錆を含んだ赤い水が流れ出していた。
「これが…あの地図の示したもの?」
横島の問いにタイガーは地図と星を見て何かを考えていたが、やがて静かに首を振る。
どうやら地図に示された場所はこの辺りだが、コレが目的のものかは彼にも自信がないようだった。
「でも何かの手がかりですわよね。」
「私が聞いて見ましょうかぁ?」
頷く横島に笑顔を向けると唯はその錆だらけの車体に跨った。
やがて彼女の体から発する光とサイドカーの光が一つに溶け合う。
閉じられた唯の目からぽろぽろと涙が零れはじめ、慌てた横島を魔鈴がおキヌとは反対の手を握って止めた。
どれほどの時間が経ったかはわからないが、唯の体から光が消え、少女は悲しげな息を吐くと皆に振り返って言った。
「この子は泣いてます。60年間ずっとここで一人で泣いていたんです。」
「泣いている?なんて?」
不思議そうな愛子に唯はコクリと頭を下げ目をゴシゴシと拭うとタイガーに向き直った。
「タイガーくん。前みたいにこの子が覚えていることをみんなに見せてくれますか?」
そして唯とタイガーは手をつなぎ、鉄の竜騎兵の叫びを、彼の語る物語を皆に伝えた。
そのエンジンは語る…彼が運んだ二人の男の物語を。
その車軸はすすり泣く…敵に奪われた飛行場に死を覚悟で伝令に戻った男たちの物語に。
その機銃は風に叫ぶ…目的地の飛行場間際、敵の銃弾を浴びて散って行った男たちのかわりに。
そしてその車体は穿たれた穴から赤い錆の涙を流すのだ…死ななくてもいい男たちがなぜ死んだのだと…。
鉄の竜騎兵の語る話に登場した髭面の男に横島たちは見覚えがあった。
それは小鳩に地雷の使い方を教えたあの男。
やがて唯とタイガーの見せる物語は終わる。
声も無く立ち尽くす彼らに唯はもう一度、服の袖で目をこするとはっきりと言った。
「でもこの子は今、行きたい場所があるそうです。ついてきてくれと言ってます。」
「頼めるか?」
横島の言葉に唯はニパッと赤い目のまま笑う。彼女はサイドカーに近づくとその能力を開放した。
今はただの錆の塊だったその車体に光が宿り、彼はゆっくりと草原を進み出す。
その後を無言でついていく一同。
そして草原の反対側、窪地の手前で鉄の竜騎兵は動きを止め、一瞬だけ淡く光るとゴールについて満足したかのように崩れ去っていった。
「ここが目的地のようですノー」
「何かあるのか?」
「横島さんこれ!」
おキヌが草叢に淡く輝く光を見つけた。
警戒しながら近づいてみるとそれは紙を束ねたもの。
手にとって見るとそれは昨日捨てられたかのように痛んでいない五線紙の束。
「戦場交響曲」と書かれたそれを魔鈴に手渡すと彼女はそれを暫く観察していたが、そこに作曲者の名前を見つける。
「砂津川良助…この譜面の持ち主の方でしょうか?」
「それにしてもよく60年もこんな場所で朽ちなかったものですね。」
「ええ。半分だけですけど付喪神みたいになってます。よほど大事にされたんですね。」
不思議そうなピートの言葉に魔鈴が答える。
「また私が聞いて見ましょうか?」
「頼む…けど大丈夫か?」
「疲れたら帰りはおんぶしてください!」
何となく企んでいそうな唯にタマモが先手を打って釘を刺した。
「あんたにはあのロボがあるでしょ…」
「えうぅぅ。わかりました一応聞いてみます。」
そして唯は先ほどのように譜面を抱いて光り出す。
やがて光がおさまり、唯は紙の束の想いを皆に告げた。
「この子は持ち主さんのところに帰りたがってます。」
「持ち主って言うと砂津川って人でこざるか?」
「でも生きているのか死んでいるのか…」
「それは日本に帰れば調べられます。もし亡くなっておられたとしてもご遺族の方に届ければよろしいのでは?」
おキヌの台詞に魔鈴は解決策を示した。遺族会などをあたれば彼の消息がわかるかも知れない。
「そうですね。どうやらコレが目的のものらしいっすね。」
横島の言葉に皆は頷いた。確信は無いがあのサイドカーが彼らをコレに導いたのは間違いない。
いつしか草原を朝日が照らし始めた。
轟沈へと戻る一行は開けた川辺で小休止して食事にすることにする。
さすがに一晩歩き詰めとなれば男たちも疲れるだろう。
しかもジャングルを避けて遠回りしたのだから尚更だ。
幸いにも邪妖精の攻撃は無く、持ってきた食料で簡単な食事を済ませることが出来た。
一息ついて焚き火の上に吊るしたパーコレーターのコーヒーを飲んでいた横島がおキヌの様子に気がつく。
なにやら顔を赤らめてモジモジしているのだが、その様子にふと思い当たるものがあった。
「おキヌちゃん?」
「はい?」
「もしかして…我慢してない?」
「うっ!」
途端に火が出るくらいに顔を赤く染めるおキヌである。
元々、昔の人間だったとはいえ今は現代に生きる女子高生の乙女。
外で…まあ「花摘み」とかは抵抗があったようだ。
そんな彼女をシロタマが同情の目で見つめる。特にタマモは何かを思い出したか深刻そうな顔色でおキヌを見やっている。
「我慢は体に良くないわよ」
愛子の言葉におキヌは頷いた。
赤い顔のまますっと立ち上がり、茂みの奥に消えていことうするおキヌにタマモが緊迫した声音で叫ぶ。
「おキヌちゃん紙持った?!!」
「持ってますっ!!」
思わず怒鳴り返してますます顔を赤らめ、おキヌは茂みに姿を消した。
ちなみに男性陣は魔鈴に睨まれて耳を塞いでいた。
当然のマナーである。もっとも聞こえる場所でするほどおキヌも切羽詰っては居なかったようだったが…。
さすがにもう終わったかいな〜と耳から手を放した時、茂みの奥から「きゃっ」とおキヌの悲鳴が聞こえてきた。
慌てて飛び出す横島である。こんな危険な場所に彼女を一人にするのではなかったかと後悔の念を抱きながら茂みを突き進んだ横島が見たのは、迷彩服のズボンを膝下まで下げたまま尻餅をついているおキヌの姿。
その白く健康的な太股の半ばあたりに緑色の小さな蛇が食いついている。
残像でも残りそうな速度で横島はおキヌに噛み付いている蛇を捕まえ引き剥がすと近くの木に叩きつけた。
「大丈夫か?おキヌちゃ…ぬおおっ!!」
青ざめた顔で座り込むおキヌの太股から一筋の鮮血が流れている様とその上の白い魅惑の布着れが目に入って鼻から盛大に出血する横島。
すでに終わった後だったのか下着はきちんと履かれていたのが残念と心の中で思ったのは漢の秘密という奴だ。
それでも相手が毒蛇ならこのままにしておくわけにはいかないとは思うが、何しろ衝撃の光景に脳がうまく働かない。
だが「うっ…」と苦しげに傷を押さえるおキヌを見て彼の体は考えるより前に動いていた。
バッとおキヌに飛びつくとその白い太股に刻まれた小さな傷跡に口をつけ、一気に毒を吸い出すべく肺機能をフルに使う横島。
「あっ!よ、横島さん…うっ…あっ…そんな…」
苦痛のためかはたまたまそれ以外の理由か声が震えるおキヌ。
顔色も赤くなっている。
応急セットとともにやってきた少女たちもどうしていいのかわからないのかパニック状態。
でも理由はきっと別なところにあるだろう。
だって魔鈴はポイズンリムーバーを手に持ったままオロオロしているのだから…。
その表情は使い方がわからないというものではなさそうだ。
そんな中でタイガーは横島が投げ捨てた緑色の蛇を手にとって一人悩んでいた。
(コレは毒蛇じゃないんですがノー…今は言わないほうがいいじゃろうなぁ…)
だが轟沈に戻ってもまだ心配する横島に真実を告げ、他の少女たちから「なんでその時言わなかったぁぁぁ」と拳で責められることまでは考えの回らなかった彼である。
彼にとってこのイベントはどっちにしてもバッドエンドしか用意されていなかったのだ。
後書き
ども。犬雀です。
えと今回は「鉄の竜騎兵」と「戦場交響曲」の二本からネタを頂きました。
知らない人置いてきぼりのネタ…ちょっと反省。(ちょっとかい!)
そしてもちろんアレからも…。
犬、パクリ作家の名をほしいままにしてますです。
さて…一応次回の予定では最後の目的地に向かいますつもりですが…皆様のレスを見ているうちに気が変わりました。
ですよね。やっぱドリル戦艦は蛇と戦わなきゃ!ってんで次回は「轟沈」対「蛇」戦であります。
では…
1>AC04アタッカー様
レイテ編はこういう展開になりましたです。
2>之様
ピート君ちゃんと現世に戻ってきました。w
3>NK様
鉄の蛇の正体はマンダ…げふんふげふん…嘘です。まだ謎にしておきますです。
4>紫苑様
マヌケ空間は侵食力が強いのであります。
5>オロチ様
むふふ…今回は美少女の毒吸いというシチュでありました。三人目になりますでしょうか?
6>法師陰陽師様
ピートは更生しましたが…別なトラウマが…
7>ATS様
です。サッパリ妖精がモチーフであります。
空は飛ばせたいですねぇ…でもきっとマヌケであります。
8>ncro様
マヌケに戦うと強い、シリアスだと弱い…犬の理想かも知れませんw
9>ヴァイゼ様
魔鈴さんはもう抜けられないかも…。次あたりは美智恵さんに染まってもらいましょうかねぇw
10>柳野雫様
実際にはやりますがあくまで応急です。舐めるというより目に刺激を与えて涙を流させるのが本来の目的であります。下手にいじると眼球を傷つけたりしますし感染症もありますので…近くに病院が無ければという感じで。
綺麗な水があればそれで洗うのが正解であります。
11>シシン様
犬もやられました。痛かった記憶があります。
12>20face様
フクロ…隠語のままだったようですなぁ(怖っ)
13>鳥人様
初めましてです。今回はお楽しみいただけましたか?
14>ザビンガ様
しかし魔法は尻から…魔鈴さんの尻から出しますと犬が砂にされそうであります。w
15>ジェミナス様
人に会うと密入国がバレちゃいますので隠密行動であります。ちなみに裏設定としてアリエスは数ヶ国語を話せるかも…なんて考えてたりします。
16>狛犬様
惜しい。太股でした。蛇の毒吸い…漢の浪漫ではないでしょうか?(大間違い
前編分であります
1>オロチ様
犬のイメージは蛇に絡まれる方であります。やはり最後はドリルですよ。ドリルw
2>法師陰陽師様
実は神宮寺さんにはまだ秘密が…。それは次回で
3>AC04アタッカー様
バレてましたか?鉄の竜騎兵であります。好きな話なんですよね。
4>シシン様
まあアリエスですからエロは基本仕様かとw
5>NK様
犬も同様であります。冷凍砲…さあどうでしょう?
6>黒川様
ギクッ…ふふふ…なかなか鋭いですな。何に驚いたかは内緒であります。
7>ヴァイゼ様
そですね。あの契約書の時から魚の世話係は考えてました。
いつかはカッパ城とヤ〇トを戦わせたくて…。
8>柳野雫様
神宮寺さんはかなり満足してます…今のところはですけど…w
9>とろもろ様
水生生物マスター…ヒルやヤツメウナギを自在に操る女…なんて恐ろしいw
といいつつメモメモ。
10>ジェミナス様
轟沈は次回で活躍…すればいいなぁ。
11>ザビンガ様
轟沈はまあ思いつきで…後は適当に陸水両用スーツの新型も考えてますが、ちと苦しいので出しそびれてます。
12>之様
ふふふ…パクれるものは何でもパクるのが犬の生きる道です!
13>紫苑様
はい。働いてました。もっと働いてもらいますw
14>狛犬様
愛子の母艦機能(マテ)は便利であります。でもトイレの問題が…そういえば以前に閉じ込められていた人たちはどうしていたのかなぁ…なんて考えがネタ元です。