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「歩む道(第六話――横島の弐)(GS)」

テイル (2005-05-17 02:40)
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 シロとタマモが昨夜の夢を語り終わると、重い沈黙がずしりと美神除霊事務所の一室にのしかかった。
 美智恵も令子もおキヌも、何故タマモとシロが悲しそうな顔をしていたのか、痛いほどに理解した。彼女達にもわかったのだ。自分たちが見た夢がなんなのか。あの悪夢が、何を示していたのか。
 タマモとシロが語った夢の中で、特に重要と思われる点は二つだ。
 一つは二人の夢の中で、おキヌの悪夢の内容が現実にあったこととして述べられていること。
 そしてもう一つは、タマモの言葉。『もう、人間でもないのだから』という言葉だ。
 この二つはそれぞれ令子とおキヌの夢にリンクする。そして相互にリンクしあった夢は一つの物語を紡ぐ。
 おキヌの夢。シロとタマモの夢。そして美神令子の夢。三つの夢は、順々に物語を紡ぐ。
 それは、一人の青年の物語。
 心が砕かれるような絶望と、世界が紅に染まるほどの憤怒……そして全てを凍り付かせる憎悪の物語。明けない夜の世界に身を委ねた、心優しい青年の物語。それは……横島忠夫が、破滅する過程を語った物語だ。
 もちろんこれがただの夢の筈がなかった。単なる夢を、こんな手間をかけて送るはずがない。そもそも忘れてはいけないことがある。
 おキヌは、自分を襲った男達が殺されたニュースを見て倒れたのだ。それはすなわち、おキヌが見た夢と現実はしっかりとつながっていることを意味する。そこから考えられることは一つ。
 みんなが見た夢。あれは、予知夢なのではないか。
 その考えに至ったとき、令子は昨日横島が似たような夢を見ていたことを思い出した。その夢の内容は、令子達が見たものとはリンクしていないように思える。しかし共通点はあった。昨夜令子はそのことを浴室で思い悩んだのだから。
 昨夜令子は、横島が見ていた夢を予知夢ではないかと考えた。その時は否定したが、この期に及んでは是非もない。令子達が見たものとは未来が異なることになってしまうが、もう一つの可能性としての未来と解釈すれば理解できなくもない。確かなのは、どちらの夢も横島がろくでもないことになるということだった。
 ここまでくればタマモの言うとおり、令子達に悪夢を見せた存在の目的が何となくわかる。
 つまりその存在は、知らせたかったのではないか。警告したかったのではないか。危機感をあおり、絶望的な未来を回避して欲しかったのではないのか。
 横島を助けろと、そう言っているのではないのか。
 その結論に達した瞬間、令子達に放たれていた精神波が消え去った。まるでこの考えに至るのを待っていたかのように、霧散した。
 令子達は、自分たちの考えが正しいことを確信した。


 世界でも有数の式神使いの屋敷で電話が鳴ったのは、午後七時になろうかというときだった。
 今時珍しいベルの音をさせながら鳴り響く電話に、すぐさまメイドの一人が駆け寄る。受話器を取ったメイドは、電話口の相手と少々のやりとりの後、彼女の主人に受話器を渡した。
「ご友人です」
「ありがとう、さえちゃん〜」
 六道冥子は礼を言うと、受話器を受け取り耳に当てた。
『もしもしっ、冥子っ!?』
 聞こえてきたのは、よく知る声だった。彼女のもっとも大切な友人の一人。美神令子だ。なにやらせっぱ詰まったような口調だったが、冥子は満面の笑みを浮かべながら、ゆるんだ声で応えた。
「あー、令子ちゃんだー」
『悪いけどすぐにうちの事務所に来てくれない!? 今すぐよ。力を貸して欲しいの!』
「ほえー?」
 いきなりのことに、冥子は怪訝な声を上げた。珍しい事もあるものだ。よほど慌てているのか、令子が最低限のことしか言わないとは。普段の令子はこれほど唐突に用件には入らない。いつもなら、もっとわかりやすく用件にはいる。
 当然、何を言っているのか冥子にはわからなかった。
 しかし。
「うん、わかったー」
 よくわからないが、令子の頼みなら二つ返事だ。
『助かるわ。どうしてもハイラの力がいるのよ』
「ハイラちゃん?」
 ハイラとは彼女が有する式神の一つだ。
『そうよ。ハイラなら、夢を通じて心の中に入ることができる。それが必要なの』
 冥子は以前令子と共同で除霊した馬面の悪魔を思い出した。確か夢魔だったような気がする。あのときは令子が夢魔の夢に取り込まれて大変だった。
 ハイラの力を必要とするならば、似たような悪魔が現れたのだろうか。
「だれか霊傷にかかったのー?」
『違うわ。そうじゃない。そうじゃないけど……』
 令子が珍しく口ごもる。どうやら言いづらいことのようだった。何か正当な理由があるのか、それとも後ろめたいことでもあるのか……。
『本来なら、こんな方法を採るべきではないと思う。でも……時間がないのよ』
 後者、かもしれない。
 ともあれ、冥子はそんな細かいことはどうでも良かった。親友が困っている。そしてこの親友はお金にがめついところはあっても、決して私利私欲のために他人を傷つけて、平然としていられるような類の人間ではない。そのこともよくわかっている。
「……えーと〜、とにかく、令子ちゃんの事務所に行けばいいのね〜」
 なにをするつもりか、そんなことはわからない。しかし自分を頼ってくれたのは嬉いし、自分にできることはしてあげたい。
 だからのほほんと、おっとりとして言った。
「すぐ行く〜」


 夕日が世界を茜色に染め上げていく。
 とてもとても奇麗な世界。同時に、とてもとてももの悲しくなる世界。……短い間しか存在できないからこその、儚い美しさがそこにはあった。
 横島忠夫は東京タワーの展望台、そのさらに上部の屋外にいた。彼はあぐらを組んで座り込み、ぼうっとした様子で夕日を眺めていた。ここからは夕日がよく見える。夕日に照らされる世界がよく見える。
 その光景に何を見ているのか、横島の顔には憂いが浮かんでいた。
「ルシオラ……」
 呟くように言葉を紡ぐ。
「俺はどうしちまったんだろう……?」
 夕日は何も応えない。呟く本人も、応えを求めてのものではない。
 それでも何かを求めて、彼はここにいる。
 昨夜、夢を見た。悪夢だった。一昨日見た、事務所で令子に語ったものとは全く違う。目覚めた瞬間、恐ろしさに身が震えるような夢だったのだから。
「なんであんな夢を見たんだろう」
 自身が殺される夢。それよりも遙かに恐ろしい夢。
「美神さんを、殺す夢なんて……」
 夢とは、潜在的な願望が現れるといわれる。もちろん夢で見たものが全てそうだというわけではない。それでも横島は、夢の中とはいえ美神令子を殺したという事実に、大きなショックを受けていた。例え天地がひっくり返っても、自分が彼女の敵になることはありえない。密かにそう自負していたが故に。
 夕日が沈んでいく。茜色の世界が、藍色に飲まれて消えていく。やがて日が完全に落ち、世界に夜が訪れた。
 吹きすさぶ風が冷たい。腰を下ろした部分から、金属特有の冷たさがしみてくる。
 ぼうっと座り込んでいた横島は、ふと我に返った。いつまでもここにいるわけにはいかない。依頼がないとはいえ、待機も仕事のうちだ。事務所に行かなくてはならない。
 そこで横島は気づく。腕時計に目をやった。日が落ちる時間だ。当然時計はそれなりの時刻を指し示している。
 だんだんと、横島の顔から血の気が引いていく。
「えーと」
 確か今日は昼頃から事務所に行くことになっていたのではなかったか。だというのに、今日悪夢に起こされてから半日近くここで過ごして、既に六時間以上の遅刻だ。
 激怒する令子の顔が浮かんだ。
「あは、は。……やばい」
 横島は傍らに置いてある『隠』という文字の浮いた文殊を拾うと、『浮』という文字に入れ替え、そしてその場からおもむろに飛び降りた。
 美神除霊事務所まで、ここから一時間弱。
(死ぬかもしれん)
 自身の命の危機を、嫌というほど感じていた。


 美神除霊事務所に到着したとき、時刻は午後八時を回っていた。
(この時間なら、ぎりぎり死なんで済むかもしれん)
 GSの仕事は大体夜に集中する。よほどの力を持っていない限り、霊達は日中その力を出せないからだ。だから例え横島が不在の間に依頼があったにしても、この時刻なら本格的な仕事には間に合うはずだった。……とはいえ、やはり無断で遅刻したことに変わりはない。
 ごくりとつばを飲み込むと、かなりびくびくしながら、横島は事務所の扉をくぐった。
(影から美神さん達の様子を見て、そして機を見て出ていこう。……なんとかダメージが最小限になるようなタイミングで)
 姑息にもそんなこと考えつつ、横島は静かに、静かに……気づかれないよう、気づかれないように、廊下を進む。
 しかし横島のこの姑息な手段は、すぐさま潰された。
(横島さんが、いらっしゃいました)
 不意に聞こえた人工幽霊壱号の声に、横島は大いに慌てた。
「ああ、しまった!! 人工幽霊のこと忘れてた!!」
 隠密行動をとるならば、この屋敷そのものとも言える人工幽霊壱号を味方にするのがまず第一手だ。間抜けだった。
 人工幽霊壱号の言葉に、事務所のメンバーはすぐさま集まってきた。その中に美智恵と冥子の姿が何故かあったが、横島はそのことを気にかけている余裕はない。
「えーと、その、ですね」
 びくびく言い訳をしようとする横島を、一同はほっとした目で見た。そのことに本人は気づいていない。
「横島くん」
「はいぃ!」
 令子に呼ばれて、直立不動で固まる横島。
「来なさい」
「はひ」
 令子に促されついていくと、応接間に着いた。
「座って」
「は、はい」
 言われるがままに腰を下ろす。そんな横島に追随するように、他のみんなも腰を下ろした。なぜか令子だけは座らなかったが。
 ここに至って、やっと横島は何かがおかしいことに気づいた。
 本来ならば既に自分は血塗れの筈。そもそも何故応接間に通されるのだろう。そういや隊長と冥子ちゃんは何故いるんだ? 一番気になるのは、全員の顔に浮かんでいる真剣みをおびた表情だ。
 自然、横島の顔も引き締まった。
「あ、あの……何かありました?」
 自分が遅刻して不在の間に何かが起こったのだろうか。自分がいれば何とかなったような……それでいて既に手遅れになってしまっているような。だとしたら悔やんでも悔やみきれない。
 恐る恐るという具合に口から出た問いに、笑みを浮かべたのは美智恵だ。
「いいえ、大丈夫よ。ただ連絡すら取れなかったから、心配しただけ」
「電話しても出ないし、アパートにもいなかったでしょ」
 続けて令子が軽く睨む。
「あ、それは……すいません」
 大事ではなかったことにほっとしつつ、横島は頭を下げた。
「でも、珍しいわね。横島くんって、遅刻はしない方でしょ。何をしていたのかしら?」
 令子の言葉に横島は視線が集中するのを感じた。しかしいくら何でも、東京タワーの屋上で丸半日近く放心していたとはさすがに言えない。
「えっと」
 言い淀んでいると、おキヌが口を開いた。
「夢、のせいですか?」
 驚きに横島が目を見開いた。昨夜見た夢のことを言われたのかと思ったからだ。
「な、なんで?」
「美神さんから聞いたんですけど、横島さん、変な夢を見たそうじゃないですか」
「……あ、そっちか」
 失言である。そっちがあるならば、こっちもあるということになる。
「それ、どういう意味? 昨日も何か見たわけ?」
 これでもかと言うほど真剣な目で見られ、横島は動揺した。その相手が令子だということがなおさら横島の心を揺らす。
 夢の光景が、フラッシュバックした。


 涙を流しながら、しかし柔らかな微笑みを浮かべている令子。首だけの姿でも、彼女は美しい……。


「っ!!」
 横島は慌ててその光景を振り払った。縁起でもない。あんなこと、実際に起こるはずがない。どれほどリアルな夢であろうとも、夢は夢なのだから。
 うつむくと、横島はぎゅっと目を閉じた。
 その様子を黙ってみていた美智恵が口を開く。
「横島くん。聞いていい?」
「……なんすか?」
「昨日も、夢を見たのね?」
「ええ」
「その夢はとてもリアルで、とても縁起が悪い悪夢……ね?」
 横島が顔を上げた。
「どうして……?」
「そう、やっぱりね」
 時間がないわね。美智恵が小さく呟く。
「先生」
 シロが横島の元に跪いた。ややためらった後、彼の手をその小さな手で取る。
「シロ?」
 人浪の少女は、大好きな先生の手に頬ずりした。慈しむように。大切な何かを、大事に大事に扱うように。
 そして横島には聞こえないほどの、小さな呟き。
「……赤くないでござる」
「……馬鹿犬。離れなさい」
 唯一シロのつぶやきが聞こえたであろうタマモは、乱暴な言葉を使いながら優しくシロを引き離した。その空いた場所に、今度は美智恵が跪く。
 美智恵は横島の膝にその手を置いた。じんわりと体温を感じさせながら、横島の目を見上げた。
「横島くん」
「は、はい」
「ごめんね?」
「は?」
 いきなりといえばいきなりの言葉に、横島は戸惑った。
 美智恵は真剣な表情を浮かべ、続ける。
「ごめんね、横島くん。でも、必要なことなの。本当はこんな方法は誉められたことじゃない。少しずつ少しずつ地道に、力を合わせて乗り越えるべき事よ。お互い痛みを覚えながら、それでも向き合って行くべき事なの。でも……ごめんなさい。おそらくだとは思うけど……時間が、ないのよ。きっと、時間がないの。そうでなければ、あんな警告なんて来なかっただろうから」
 真剣に話す美智恵の言葉は、もちろん横島には意味不明だ。
「何を言って――」
 そう口を開いた瞬間、後頭部に激しい衝撃。
「……ぶっ!」
 完全無防備な状態での不意打ち。意識が遠くなる。それでも意識を失わなかった横島は、ふらふらとした状態で背後を振り向く。
「相変わらずしぶといわね……」
 そこには、いつの間にか令子が立っていた。いつからそこにいたのかはわからなかったが。
(あ。だから、美神さん座らなかったのか)
 そんな理解が脳裏に広がった瞬間、令子の第二撃が脳天に突き刺さる。
 今度こそ横島の意識は、完全に刈り取られた。
「ごめんなさいね。本当に、必要なことなの」
 完全に気を失った横島に、美智恵は呟くように言った。


あとがき
 さて、後半に突入でございます。


お返事でし

>通りすわり様
 人助け。そうですね。
 縁をもってしまったために、手をさしのべてくれています。 

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