「ちょ、ちょっと高すぎない、マリア!?」
おキヌ、マリア、ピートの三者は、現在妖怪と悪霊の集団を避けるため、雲の上から横島達と合流を図ろうとしていた。
「……横島さんたち、大丈夫かな。本当に美神さんの魂を取り戻せるのかしら……」
美神の体に憑依しているおキヌが、横島達の心配をする。
「大丈夫ですよ! 今まで、どんな無茶な事もやってきた横島さんだったら、きっと何とかしてくれます!」
マリアのスピードに必死についてきているピートがそう言う。
ピートはおキヌを病院につれていき、おキヌを美神に憑依させるとすぐに、とんぼがえりだったので、少し疲労が見え始めていた。
「――!?」
「どうしたの、マリア?」
マリアのセンサーが何かを感知して、後方から追尾されている事を告げる。
「……あれ……テレサ!?」
「海の底から、戻ってきたわよ、姉さん!」
テレサ、それは厄珍とカオスの共同制作によって生み出されたが、失敗して、人の支配者になろうとしたため、マリアとの戦いによって海の底に沈んだはずだった。
「姉さん?……という事は、彼女はマリアの妹で人造人間という事ですか!?」
「そういう事になるわね!! そして、蘇った私のプログラムはひとつ!! アシュ様の敵を抹殺!!」
テレサの膝付近からミサイルが発射される。
マリアはおキヌを抱えているため、反撃は出来ない。
だが――
「ダンピールフラッシュ!!」
「何っ!?」
ピートが放った、霊波砲のような光線がミサイルを破壊する。
「ここは僕が抑えます!! あなた達は、横島さん達のもとへ!!」
「あなたが? 笑わせないで!!」
今度は、テレサの腕の中から弾丸が飛び出てくる。
しかし――
「僕に物理攻撃は効きません!!」
「えっ!?」
バンパイアミスト。
己の肉体を霧に変えて、テレサの後ろに移動する。
霊的攻撃を持っていないテレサでは、この状態のピートを傷つける事は出来ない。
テレサにとって、最大の誤算は、ここにピートが居た事だろう。
「諦めたほうがいい……君の攻撃は、僕には通じない。」
テレサの天敵、それはピエトロ=ド=ブラドー 。
――心眼は眠らない その69――
「な、なんだ、ここは!?」
横島の目の前に広がる可笑しな空間。
『亜空間迷宮といったところか……なるほど……ようやくこの装置、コスモ・プロセッサといったか? カラクリがわかったぞ。』
アシュタロスは、この装置を使って世界をを自分の望むがままに再構築している。
何故、そんな事が可能というと、どうやらこのコスモ・プロセッサは、ありとあらゆる平行世界に通じていて、そこから現宇宙と部分的に入れ替えているようだ。
『流石は天界の創造などに精通していると言われている事はある……こうも簡単に平行世界を作り、宇宙の改変をするとはな……だがな――』
「ん? なんだありゃ?」
横島が飛んで行く前方に、通路らしきものを発見する。
『とりあえず、ここままできりがない。そこに入ってみよ。』
「了解!!」
横島は掛け声と同時に、六角形の形をしたゲートに飛び込んだ。
(だがな、アシュタロス……世界はお前を認めはしない。)
横島は現れた場所、そこには美神の愛車が路上に止められ、ちょうど街全体が見渡せるような高台だった。
「亜空間から出たんだよな! よし、次はあそこに――!?」
横島が次にゲートを見つけ、そちらに行こうとした瞬間、何かがそのゲートから現われる。
「うわあっ!?」
それは、横島の周りを周回し続る。
「くそっ!? アシュタロスの追跡なのか!?」
『横島、落ち着け!!……これは……美神どのか!?』
動揺している横島と違い、冷静な悠闇はそれの正体を見極める。
と、同時に、それから美神の顔が現れる。
『よ…こし…ま……』
「み、美神さん!? よかった!!――!? やばい!! 魂がもう、もたない!!」
ここまで、魂を維持している事だけで奇跡なのだ。
美神の魂は横島の目の前で、崩れようとする。
横島が文珠で《復》《活》を発動させようとするが、発動しない。
「なんで!? くっそ!! このままじゃ!!」
『まだだ、横島!! 先ほど、己がやった事を思い出せ!!』
「俺がやった事……そうか!! この装置を使えば、美神さんも!!」
死んだ妖魔が、復活しているのだ。
美神の魂を元に戻す事など、コスモ・プロセッサにしたら造作もない事だろう。
「美神さん!? しっかり!! 気をしっかりして!!」
もう、持たない。
今まで、恐ろしい気合で何とかしてきたが、これ以上は無理のようだ。
横島は、涙を浮かべながら最後の賭けにでる。
「だめ、死ぬな!! この――シリコン胸!!」
「――悪質なデマを流すんじゃない!!」
横島を殴りながら復活する美神。
美神の意識は一時的にだが、持ち直したようだ。
『横島!! 後ろ!!』
「分かってる!!」
美神の復活で、ようやく冷静になってきた横島。
視野も広がり、後ろから奇声を発しながら現れた二体の敵を、サイキックソーサーで瞬殺する。
「なんすか、これ?」
「土偶羅が放ったプログラム・ワームよ! 逆操作を何度も試みていたんだけど、こいつらのせいでうまくいかなくて……でも――」
だが、今の流れはこちらに傾いている。
「――逃げるのはもう、終わりよ!! 行くわよ!! やっとあのクソ野郎に一発かますチャンスがきたわ!!」
「はい!!」
向かうは、亜空間迷宮の心臓部。
/*/
大地が震える。
ゴォォォォンッ!!
猿神の口から放たれた気は、アスファルトを抉り、邪魔するもの全て排除する。
「私の邪魔をするな! 斉天大聖!!」
それをアシュタロスは、拳に魔力を集め切り裂く。
が、それは裂かれたと同時に、アシュタロスの拳に絡みつく。
アシュタロスが、それを解こうとしている間に、猿神は次の一手を打つ。
「貴様に倒されるわけにはいかんのだ!!」
アシュタロスが、今回の計画を開始する時、何に注意しなけれならなかったか。
それは、強力な神魔が、極力居ない事。
中でも、猿神だけは、例え代わり千の神が居ようとも人間界に居させてはならなかった。
斉天大聖、天に等しきその存在。
人間界のではない、神界の常識すら通用しない化け物とだけは戦うわけにはいかなかった。
遥か昔、今の自分と同じように単身、神界に牙を剥き、数多の神々をてこずらせたその力、今の自分が抑えられるとは思わない。
「ぐっ! せめて万全であれ…………いや、それでも無理か……」
いや、例えアシュタロスが、全盛期の力を持ってしても、この怪物を倒すことなど――出来やしない。
「喋っている暇はないぞ!! それとも――もう、終わるか!!」
如意棒を伸ばし、上空に恐ろしい速さで移動する。
アシュタロスが、上を見上げようといた瞬間、降り注ぐは、雷の雨。
その全てを回避しきるのは不可能。
よって防御という選択肢しか残されない。
轟音轟かせ、雷鳴が夜を照らす。
魔神はその中、あの化け物がいつ仕掛けてくるかと、神経を研ぎ澄ます。
「――!? 来たか!!」
超加速。
唯でさえ速過ぎる猿神が、時の流れを遅らせている。
それがどれだけ恐ろしい事かわかるだろうか?
一瞬の気の緩みが、己を殺す。
アシュタロスは、超加速に対抗するため、己の全神経を強化しているが、それでもまだ猿神のほうが速い。
その速さ、南極で戦った横島と比較する事すら馬鹿らしい。
アシュタロスは、頭上より神速で振り落とされる如意棒をかわすべく左右にステップを踏み、反撃に移ろうとするが――
「身外身か!?」
足元には、数体の小猿。
陰行によって忍ばせていた小猿は、絶妙なタイミングで足を掴み、行く手を阻む。
グシャッ!?
上半身を捻り、頭への直撃は回避したが、右半身をもっていかれた。
だが、やられっぱなしでは魔神の名がすたる。
回避できないと悟ったアシュタロスは、如意棒が肩に食い込んだ瞬間、全魔力開放で小猿を消し飛ばし、斉天大聖の心の臓を抉ろうとする。
だが、そこまでいけるわけもなく、わき腹を抉る事だけで終わってしまった。
「貴様のようなイレギュラーに……私の全てを潰されて――たまるか!!!」
全力。
「戯言は、閻魔の前で吐け!!」
「うぉぉぉぉおおお!!!」
南極でも、ここまで本気にはならなかった。
全力の中の全力。本気の中の本気。
アシュタロスは、生まれて初めて、『死ぬ気』で抵抗していた。
その力は、残り少ない魔力だというのに、今までにないもの。
「――ぬるい。」
だが、絶対的な力の差は覆す事は出来ない。
アシュタロスが放った最大級の魔力砲は、猿神の防御結界の前に姿を消す。
だが、絶望している暇はない。
神経を研ぎ澄まし、次なる一手を――
「遅いわ!!」
打たしてくれる猿神ではない。
偶然か、それとも最後の意地か?
猿神の一閃を、アシュタロスはガードする事に成功する。
ゴキッ!
「もう、見極める眼ももっておらんのか?」
だが、その如意棒は、腕に当たったと同時に霧散し、
全く逆方向から、本当の如意棒がアシュタロスの脳を揺るがす。
生きていられるのは幸せな事か?
この死神の前では、もう死を選ぶべきではないだろうか?
「――ふざけるな!! ここまで来て!!」
ここまで来て、己の理想を捨てられるか!?
多くの生命を踏みにじり、その命を無駄にするのか!?
「断じて出来ん!! 私は、この世界を――」
これが、最後の一撃だ。
生涯、これ以上の魔力波を出す事はないだろうと、アシュタロスは、異端者に向かって、排除を試みる。
「――認める事は出来ん!!!」
「ぬおっ!?」
先ほどと同じように防御結界によって、今の攻撃を防ごうとする猿神。
しかし、威力が段違いで中々攻勢に出れない。
「そして、この世界を排除し、理想郷を築いてみせる!!」
何処に力が残っていたのか、アシュタロスは連発で、魔力波を猿神に向けて放つ。
これを防げる神など、魔神など居るわけがない。
当然の結果で、猿神が作った防御結界にひびが入り、今にも砕けそうになる。
「そのためには斉天大聖!! 貴様は邪魔なのだよ!! 私の予定に貴様は必要ない!!」
「ぐ、つ、ぬ!? ぐぉぉぉぉおおおおおお!!!」
結界は崩壊し、中に居た猿神はアシュタロスの魔力波に直撃する。
あれでは……?
「ふは、は、は……まさか、この私が、こうも簡単には……」
後ろから感じる威圧感。
「ふむ……この術は、千年振りなのじゃが……中々腕は落ちとらんようじゃな。」
「身代わりの術か……?」
魔力波は防除結界の中にあった石像を包み込む。
理不尽だ。
何時の間に、身代わりの術など使ったというのだ?
「もう十分じゃろ?」
何が十分だというのだ?
確かに今、負けても最低限の目的は達成できるだろう。
だが、それだけで納得できるわけがない。
誇りも捨て、たった一人、孤独と戦い続けてきたというのに、
その最後が、イレギュラーによる妨害だというのか?
そんな事――認めるわけにはいかない。
「中々楽しかったぞ……これだけ体を動かしたのは本当に久しいぞ。」
「……そうか。それはよかった。」
アシュタロスから笑みが零れ落ちる。
「……? 何が可笑しい?」
「いや、なに……楽しみついでに――」
それは、狂喜。
「――最後のこれも受け取ってくれないか?」
「!? いかん!?」
それは、神としての宿命か?
アシュタロスが、放った魔力波は、猿神ではない何処か上空と、横島が出てきた地下への出入口に放たれた。
「な、なんだ!?」
「緊急回避・間に合わない!?」
其処に居たのは、マリアとおキヌ、そして雪之丞と鬼道。
身外身の術では間に合わない。
かといって超加速で救えるのは一組だけ。
「くっ! 誇りを――」
「そんなもの、とうに捨てたさ!」
猿神は、アシュタロスに一撃を加えると同時に、おキヌとマリアの方へ向かう。
雪之丞と鬼道の方には、如意棒を投げつける事で、軌道を逸らす事に成功する。
「どうやら、この世界は、よほど見たいようだな――世界に反逆する者と抑止力との邂逅を!!」
「ほざけ!!」
「きゃーーー!!?」
おキヌたちに当たる寸前、超加速によって現れた猿神がそれを防ぐ。
威力自体はそう大したことはない。
だが、このロスが命取りになる。
「神界に戻れ!! 斉天大聖!!」
コスモ・プロセッサ発動。
猿神が、おキヌ達のもとへ向かった瞬間、アシュタロスは、鍵盤の前に行き、横島が召還したとは反対で、猿神を元の場所へ送り返す。
「……まぁ、よい。」
猿神の体が光に包まれる。
その表情は、勝負に敗北したというのに、悔しさがない。
「所詮、お主の願いなど叶うわけがない。わしは神界から、ゆっくり観戦させてもらおうとするか……おぬしの最後をな。」
「ぬかせ……私は、必ず達成してみせる。貴様こそ見ておけ! 私の野望が達成する瞬間をな!!」
光が弾け、猿神は、神界へと戻る。
時は十分に稼いだはずだ。後、どうするかは人間、横島達次第。
(……見せてもらうぞ……おぬしが見込んだ男が、どれほどの男か……)
猿神の消える間際の、勝利を確信している笑みが印象的であった。
「……横島め……本当にやってくれたよ……」
アシュタロスは既に満身創痍の体。
だが、野望達成まで、休むわけにはいかない。
「それで……君達は、私に何の用があるのかね?」
マリアとおキヌは、雪之丞、鬼道と合流してこちらを睨んでいる。
威勢のいいことだ。
どれだけ死に掛けていようが、あの程度の雑魚、一瞬で滅する事が可能だというのに。
「アシュタロス!! 横島を何処にやりやがった!!」
「あぁ、彼か? 彼なら……!?」
コスモ・プロセッサが輝きだす。
「きゃぁぁあああ!?」
「ミス・おキヌ!?」
おキヌの霊体が、美神の体から弾き出される。
マリアも、雪之丞も、鬼道も驚いているが、この結果に最も驚いているのはアシュタロスだろう。
「もう、心臓部まで到達したか!?」
美神の眼に光が戻る。
「戻った!!」
「美神さん!!」
美神はコスモ・プロセッサの逆操作に成功して復活を果たす。
おキヌが美神に抱きつき喜んでいるが、美神は軽い挨拶を交わして、横島が装置の破壊をするのを待つ。
だが、
「――そう簡単に破壊されては、面白みに欠けはしないかい?」
「えっ!?」
気付けば、美神の後ろに居る魔神。
美神が、ボーっとしている暇もなく、アシュタロスは美神の腕を取り、声高らかに叫ぶ。
「聞こえるか、横島忠夫!! 貴様が、コスモ・プロセッサを使用すれば―――」
「アンタ、まさか!?」
歯をかみ締める美神。
周りの皆も、美神を助けようと動こうとしたが、隙が見えない。
よって、魔神は誰の邪魔も受けず、宣告する。
「――美神令子を殺す!!」
誇りを捨てた魔神は、何を願うのか?
/*/
『――美神令子を殺す!!』
コスモ・プロセッサの心臓部にて、聞かされた最悪の一言。
後少しで、この装置を破壊できたという所で、魔神は誇りを完全に捨て去り、最低の行動に出た。
「美神さん!?」
ご丁寧に、横島の目の前にその中継画面が出てくる。
これによってより横島の怒りを、買おうとでもいうのか。
『貴様が、コスモ・プロセッサを使うのは自由だが、その瞬間、この女の首が飛ぶことも忘れるな!! さぁ、さっさと出てくるんだ!!』
コスモ・プロセッサは、願えばその瞬間に、全ての願いが発動するというものではない。
アシュタロスが、己に反抗する神魔の排除を命令した時は、666秒の時間を必要とした。
例え、コスモ・プロセッサの破壊を願っても、数秒間の時間を必要とするだろう。
アシュタロスが、猿神の死亡ではなく、退去を願ったのもここが関係していたのだった。
仮にアシュタロスの死を願った所で(イメージがわかないため不可能に近いが)、コスモ・プロセッサはアシュタロスが生きている内にしか使用できない事から、その間に美神を殺されれば、美神の復活は不可能になってしまう。
『横島……心を静めるのだ。ここで……? そうか、もう、おぬしに教える事は何も無いのかもしれぬな。』
「そう言うなよ……俺には、お前が居ないと、つまんねえ事で、ドジリそうだしな。」
横島の眼は澄んでいる。
美神が人質に取られているというのにだ。
これは、唯、美神を助ける事が出来るのは自分だけだと、自分がしっかりしなければいけないという思いから来ている。
いや、それだけではない。
誓ったから。
もう、諦めない。
最後まで足掻くと。
『さぁ、忘れてはいけない。此方には、まだ何人もの人質がいるのだ!! それとも何か? まずは、この少女から始めて欲しいのか?』
そんな横島に、もう自分は道しるべの役目が終わった事を悟った悠闇。
此処に来て、横島は、最高の成長を遂げたのだ。
もう満足している。
この男はすでに目覚めている。
「……アホか、アイツは……、なぁ、心眼?」
『そう言うな。向こうも必死なのだから、何をやっておるか自分でもよくわかっておらんのだ。』
今、自分達は、魔神と戦っているというのに普段のように軽い口調で話し合うコンビ。
どちらが欠けても、今はなかっただろう。
二人が揃っていたからこそ、この今がある。
『……で? 策はあるのだろ? 期待している、ワレを楽しませてくれ。』
「別に大した事はないさ。」
この男は、今から行う事を大したことではないと言う。
「ただな……あのくそ野郎に見せつけてやるだけだ。」
それは今まで、人間界に現れた全ての文珠使いが出来なかった事。
それは、横島だから、横島にしか出来ない事。
『さぁ、仲間を犠牲にして、勝利を掴むのか!? 目覚めが悪いぞ!!』
本当に下らない。
アシュタロスのあの行為が時間稼ぎというのは分かっている。
こうしている間にも、大量の土偶羅が放ったワームが近づいてきている。
いくら横島でも、その大量のワームが相手にしていては、逆操作をするのは難しい。
よって、横島がしなくてはいけない事。
それは――『結晶の破壊』と『美神の救出』の同時展開。
だが、どうやって?
「心眼、知っているか? お前に出会う前から、この俺にだって美神さんを超えるモノがあったんだぜ。」
『あぁ、知っている。だからこそ、おぬしにだからこそ、ワレはあの術を教えたのだ……』
それは、横島にしか出来ない。
この地球上で、横島だけが、ある条件を満たしていたからだ。
悠闇も、横島ならば、いずれ文珠を使わずともその境地に達するだろうと思ったからこそあの術を教えたのだ。
「アシュタロス!! 今から出て行ってやるから、待っとけ!!」
『横島クン!? アンタ、何考えてんのよ!?』
だが、横島はやはりというか、悠闇のその予想を上回ろうとしている。
それは――
「それじゃ……見せたるか、俺の――逃げ足ってヤツを。」
横島は、ポケットからカタストロフを一粒取り出し、飲み込む。
同時に溢れる霊力。
その霊力は文珠のストックが、何個か回復するほど。
『横島!? 貴様、何をしている!?』
アシュタロスが喚くが、もう遅い。
コスモ・プロセッサは約束通り使っていない。
お前の言う通り、外に出て行ってやる。
だけど――
「――結晶は破壊する。美神さんは取り戻す。そんでもって――」
《韋》《駄》《天》
「――てめぇをぶっ殺す!!」
―――超加速・瞬間移動―――
猿神の超加速が、目にも止まらぬというのなら、
これは――目にも写らぬというべきか。
「ほいっと。」
気付いた時には、全てが完了していた。
猿神との戦闘で疲労の極致だったアシュタロスに、横島の行動を止める術はなかった。
気付けば、美神は、腕の中から消えていた。
『調子に乗って、映像を見せていたのが仇となったようだな。』
「バカな!? 一体何をやったというのだ!?」
美神も、おキヌも、マリアも、雪之丞も、鬼道も横島の後ろに居る。
そして、手にはエネルギー結晶体。
これで、終わりだ。
「お前の野望も終わりだーーーー!!」
「なっ!?」
結晶に霊力を叩き込む。
「――な、なんだ!?」
結晶は、最後の光を放ち、辺りを照らす。
「横島クン!! ここはヤバイ!!」
『退却だ、横島!! 皆を連れて逃げるぞ!!』
「おう!!」
コスモ・プロセッサを見上げ、動かないアシュタロスを尻目に横島は超加速を使用して脱出する。
がしゃん、がしゃんと音を立て、摩天楼は崩れていく。
だが、魔神は……
「そうか……ふ、韋駄天とはな……」
魔神は、土偶羅に今の出来事を解析させ、横島が何をやったかと突き止めた。
「人の身でありながら、単独で神へと変化し、猿神をも超える超加速……やはり、お前だったのか……」
崩れるゆく摩天楼の下、魔神は最愛の恋人に出会えたような思いで一杯だった。
コスモ・プロセッサはただの餌だ。
問題は、釣れるかであったが、どうやら本命は引っかかったようである。
「では、横島……私が君に送る最後の試練だ。」
魔神は、確信した。
あの男はたった今――
「……期待しているよ。」
――抑止力<世界に選ばれし者>となった。
――心眼は眠らない その69・完――
あとがき
猿神、試合に勝って勝負に負けたといって感じです。
敗因は、アシュタロスからこの出来事について聞き出そうとしたため、油断が生じたという所でしょうか。
猿神の強さですが、斉天大聖というぐらいですし、如来を除けば、神界、魔界の中でも指折りの強さ(神の最高指導者より上)だと思っています。
神の最高指導者は、偉いけど強さはそこまでと考えていて、猿神はその逆で、そこまで偉くないけど、無茶苦茶強いかな〜と。
もちろん魔の最高指導者は、偉くて強いとは思っていますが……
そんなわけで、横島ここにきて《韋》《駄》《天》発動。(しかも瞬間移動のオマケ付き。(笑))
サイキックモード→超加速→韋駄天
といった進化でしたが、どうでしたか?
次回の更新は……目標は5月という事でよろしくお願いします。