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「心眼は眠らない その68(GS)」

hanlucky (2005-05-11 21:51/2005-05-11 23:27)
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コスモ・プロセッサ全体が輝きだす。

「一体何が起きたんだ!?」

ピートとおキヌが病院に向かった後、すぐに魔神の下に向かおうとした瞬間の出来事だった。

「何だ何だ!? 辺りの霊波が乱れていっ――!? 皆、ヤバイ!!」

横島がいち早く何かに気付くが、もう遅い。
ヘリに乗っているため、逃げ場が見当たらない。

    ザン ザン  
   ザン  ザン
ザン
    ザン   ザン
ザン

「これは!? シロ!! お前、八房は!?」
「拙者じゃないでござるよ!! ほら、ここに!!」

だが、今の閃光は確かに八房であった。
横島達は、閃光が飛んできた方向を見る。
其処に居たのは――

「犬飼ポチ!? 一体、どうして!?」

それは以前、フェンリルと化して横島達を全滅寸前まで追い詰めた誇り高き人狼。
だが、犬飼はあの時死んだはずだ!? と皆が驚愕する。
しかし、その中でたった一人。

「はっ!? シロ!! よせ!!」
「うぉぉぉぉぉおおおお!!!」

重力なんて関係ござらんと、壊れたヘリの足場を巧みに使い、犬飼が待つビルの屋上に跳躍する。

「……? 犬塚と思いきや、その小娘か……まぁ、かまわん。その刀を継承したというのなら、その力、拙者に――」
「望む所だ!! あの頃と一緒だと――」

二つの八房が交差する。

「――示せ!!」
「――思うな!!」


――心眼は眠らない その68――


「くそっ!? シロの大馬鹿野郎!! たった一人で、あの化け物に勝てるわけがねえだろうが!!」

墜落していくヘリの中、横島が叫ぶ。

「落ち着くたまえ、横島クン。君は知らないだろうが、今のシロ君の実力ならば、我々が知っている犬飼相手なら十分勝てるはずだ!」

確かに、あの事件から父である犬塚シロガネに鍛え続けられ、その後妙神山で霊能の戦い方を覚えたシロならば、あの犬飼に負けることなどそうはないだろう。

「……いや、そうとは言い切れんぞ。あの様子では、今のシロがどれだけ戦いに集中できるか……しかし――」
「ほら!! だから、今から俺が助けに!!」
「いや、だから横島……あの男だが――」

横島が文珠を取り出そうとするが、それを西条が止める。
悠闇は悠闇で何か、言いたそうだ。
悠闇が気になった事。それは犬飼の目の光が、あの時と違っていた事。
だが、それを伝える間もなく西条が横島を説得している。

「貴重な文珠をこんな所で消費する気か、君は!?……いや、それよりもあの様子では令子ちゃんがどれだけ持つかわからないだろう!? ここは、冥子くんと魔鈴くん、君達が行ってくれ!」
「っ、でも、しか――」

時間もないというのに、横島が未練がましく言うのを止める。

「雪之丞くん、鬼道くん、そして横島クン、悔しいが、君達じゃなければアシュタロスを倒すどころか、傷つける事すら出来ないんだ!! それが何故、分からない!? 何より、君は皆を信じられないのか!?」

もう、ヘリの墜落まで時間がない。
早く脱出しなければ、こんな所で終わってしまう事だってありえる。

「……悪かった。皆、無茶すんなよ。」
「ふん、その言葉はそのままそっくり返してあげよう。」

話が纏まり、空を飛べる者を使って脱出しようとした瞬間――

「皆さん!! 悪霊の霊団が此方に!?」
「まずいっ!! とりあえず、ヘリから飛び降りろ!!」
「うあぁぁぁ!?」

皆はヘリから脱出し、雪之丞が、タイガー、唐巣、カオス、エミ、
魔鈴が、横島とバンダナに戻った悠闇、
冥子とその式神(シンダラ、メキラ)が、鬼道、西条、ヘリの操縦士を救出する。

「魔鈴さん、前!?」
「えっ!?――しっかり捕まってて下さい!!」

迫り来る悪霊を必死に避ける魔鈴。

「お、重い……」
「雪之丞さん!! しっかりするんじゃーー!!」

流石にタイガーを含んだ四人はきつかったようだ。

「冥子はん!! メキラの操作は任し!!」
「は〜〜い。」

そして、確実に西条と操縦士を地上に降ろすことに成功する鬼道達。

「魔鈴さん、次、左!!――左下!!――右後方!!」
「了解!! 信じてますよ、横島さん!!」

こんな時に限って運が悪く、横島の方に悪霊が集中して、雪之丞や鬼道と離される。
いや、鬼道達も地上に着いたはいいが、すぐにその場で悪霊たちに囲まれてしまう。
雪之丞たちに限っては……墜落しました。
タイガーがエミを守っていたのが、健気だったが、今は気に掛けている暇はない。

「くっそ!! これじゃ、合体技が使えん!!」

ようやく地上に降りることに成功し、迫り来る悪霊たちを倒しながら愚痴をたれる横島。

『無駄口を叩いている暇があったら、霊力の温存に努めよ!!』

後手に回り続けている中、何とか攻勢に出るための策を考えている悠闇だが、そう簡単には浮かばない。
あまりにも状況が悪すぎる。
時間もなければ、切り札であった《三》《位》《一》《体》も使う機会がない。

「――!? そうか、地下道だ!! 地下からなら、アシュタロスに近づける!!」

それは以前、天龍童子の事件の際、メドーサの火角結界から逃げるために緊急脱出用シューターを作っていた事があった。
間違いなく今度の自宅にも同じものを作っているはずだと、横島は推測する。
それを使えば、地下道から地上に出る事が可能だと。

『なるほど!? 魔鈴どの!! 無茶を承知で言う。皆に地下道から美神どののマンションの方へ向かうように伝令を頼む!!』
「わかりました!! 行ってきます!!」

時間はない。
魔鈴と同じく、横島もすぐに行動を移そうと、マンホールを探す。


しかし――


「……兄さん。」
「べスパ!?」

これ以上は何もさせないと、べスパが行く手を阻む。

「お願いだから、もうこれ以上は何もしないでよ……私達がアシュ様の味方になったのだって――」


「俺を助けるためってか?」


『なっ!? 一体、どういう事だ!?』
「……やっぱり気付いていたんだ。」

横島はここ数日、何もかも壊したくなる破壊衝動や、血が逆流したかのように暴走一歩手前の感覚に襲われていた。


「何か、俺の体、変だとは思ってたんだが……やっぱりそんなやばい事やったんか。」
『横島!! 何故、黙っていた!?』
「いや、アシュタロスを倒せば元に戻るだろうと思ってたからなんだけど……べスパの様子じゃ、それもないみたいだな。」

三姉妹がアシュタロスの元に戻った理由だった、薄々気付いていた。
――原因は自分だと。

見透かされたと知ったべスパだが、今、一度横島と向き合い、もう何もするなと言う。

「兄さんを治すには、あのコスモ・プロセッサがなければもうダメなんだ。……アシュ様ですら、単独の除去は不可能だと言っていたし……だから、お願いだよ。もう、何もしないで欲しい。私達は……人間達ではなく、兄さんと共に生きたんだ……だから!!」
「…………べスパ。」

それは兄として、べスパに見せる顔。

「俺を舐めんなよ。治せないって勝手に決めんじゃねえよ! 俺は不可能と可能にする横島忠夫様じゃ!! 俺は行く、美神さんを助けるために!! お前達をアシュタロスから解き放つために!!!」
「――!?」

やはり無理かと、絶望するべスパ。
この男は絶対に止まらない。
止まらないからこそ、だからこそ自分達はこの男についていこうと決めたのだ。

『横島……よく言ったぞ。』

しかし……

(兄さんの居ない世界なんて、最早私達には価値がない――だから!!)

魔神の呪いはあまりにも深い。

「無理なんだよ……私を倒せもしないのに――アシュ様を倒せるわけないだろ!!」
「少し、お仕置きが必要みたいだな――べスパ!!」

文珠を掲げる横島。
確かに、べスパは強いが、今の自分が一対一で負ける相手ではない。

自分は――文珠使いなのだから。

「――でも、その文珠が効かないんだよ!!」
[あれっ!?]

文珠に念を籠めた瞬間、その文珠が破裂する。

「これで、わかっただろ? 抵抗しないで……目が覚めれば――全てが終わっているから。」
「ちっ!!」

べスパは毒を含んだ魔力波を横島に浴びせようとする。
しかし、寸でで回避に成功する横島。

「何で文珠が!?」
「コスモ・プロセッサで私達とアシュ様への攻撃は封じられているのよ……わかる? 横島は合体技も使えないって事!!」
「マジっすか!?」
『横島!! 足に霊波を!! 回避に全力を注げ!!』

足に霊波を纏い、べスパの魔力波を避ける。
べスパも手加減しながらの戦いのため、中々うまくいかない。

『なるほど……攻撃に関しては霊力を使えないが、防御や、間接的には使えるというわけか……』

一瞬で横島がどのように能力を制限されたかを見切る悠闇。

『それよりコスモ・プロセッサ……死者を蘇らせたり、横島の能力を制限したり、つまり――』
「無敵ってことよ!!」
「そんな、みえみえの手加減に当たるか!!」

しかし時間は過ぎていく。
美神の魂もそう長くは持たない。
このままべスパに時間を取られていては――負ける。

(くそ!! このままじゃ!!)

あせり、それが横島の判断力を鈍らせた。

『馬鹿者!! 余計な事を考えるな!!』
「もう――遅いよ。」

裏を取られた。

べスパが魔力波を横島にぶつけようとする。
アレに当たれば、死にはしなくても、しばらくの間、目を覚ます事はないだろう。


ゴォォォォォォォンッ!!


そして、目覚めた時には………………全てが終わっている。


ドォォォォォォォンッ!!


相殺。


「何っ!?」


べスパは当然、横島も、悠闇も驚きを隠せない。


「だらしがないね……こりゃ、こっちの味方をしたのは間違いだったかな?」


現れたのは、白き蛇。


「メ、メドーサ!?…………?……? あれ……?」
『はく……じゃ? なぜ……?』

横島としては、メドーサが生きていた事に不思議がるのは当然だが、今はそれ以上に気にしなければいけないことがある。
それは、悠闇としても大問題な事だ。

「なんで……」
『なぜ……』


「若がえっとんねん!?」
『若返っておる!?』

メドーサの体型は、ちょうど女子高生に見えるぐらいにまで若返っていた。

『いや、それより何故おぬしが動ける!? 冥界とのチャンネルはすでに……その妖気は何だ!?』
「あーあー、煩いねぇ。竜気や、魔力が冥界から送られなくなったからね……雪之丞をそっちに送った後、すぐにタマモを使って生まれ変わっただけさ。」

メドーサは、タマモを母体にして生まれ変わったらしい。
そのおかげで、妖気を手に入れることに成功し、竜気、魔力、妖気という三つの力を扱えるようになっていた。

「といっても、今は竜気と魔力は使えないんだけど……まぁ、こんな雑魚には必要ないか。」
「言ってくれるじゃない。まぁ、私の邪魔をするっていうんなら――とっとと消してあげる!」

メドーサは己の武器である刺又を取り出す。

「ほら、事態がどうなってるかよくわかんないけど、急いでるんだろ!? さっさと行きな!!」
「あぁ、ここからだとパンチラというよりパンモロっていうか、あの巨乳が消えたのは悲しいが、あの若さ!? もう、横島感――」

妖気と魔力が飛んでくる。

「ぬおおおおお!? 二人ともアブねえじゃねえか!!」
『いや、今のはどう考えても空気を読まなかったおぬしが悪い。』

冷静なツッコミを入れる悠闇。

『恩に着るぞ、白蛇!!』
「メドーサ!! 頼むからべスパを倒さないでくれ!!」
「倒すなって、それはまた、面倒な注文するね。」

横島は、それだけ言うと地下への入り口を見つける。
足に霊波を纏い、一気に加速する横島。

「――行かせるもの!?」

ガンッ

刺又が、べスパの進路を塞ぐ。

「あの坊や……いつの間にか男の目をしていたじゃないか……仕方ない――」

そのまま刺又を横に振り、べスパと横島の間に割ってはいる。

「来な、お嬢ちゃん――遊んでやるよ。」


/*/


「どうした? 貴様の八房はその程度か!!」

防戦一方。
シロの攻撃は全て防がれ、徐々に追い詰められていく。

「何で!? 拙者は今まで、いっぱい修行を積んできたのに!!」

父との、小竜姫との修行の日々は、なんだったのだろう?

「ふ……所詮、貴様に八房は重すぎる。砕けよ!!」
「あっ!? っ!?」

犬飼の八房は、シロをマンションの柵へ叩きつける。

「……答えよ、犬塚シロ! 貴様は何故、八房を受け継いだ!?」

八房が欲しかった理由。それは……

「え……?」

八房があれば、自分はさらに強くなれる。
八房があれば、横島に少しでも追いつける。
八房があれば、八房があれば、八房があれば……

「あ……!」
「甘えるな!! 我ら狼族の自由と野生を忘れるな!! 我らは何ものにも縛られたりはしない!!」
「――!?」


ようやく分かった。


「さぁ、立ち上がれ!!」


犬飼は望んでいる。


「我ら狼族が秘宝!! その八房の正統後継者の力、今一度、某に示せ!!」


構えを取るシロ。


「誇り!」


これが最後の一撃になる。


「我ら狼族の誇り――」
「はぁぁぁぁぁああああ!!!」


八房は、互いに一つの閃光を創る。


「――此処に示せ!!!」
「くっ! っぅぅううううああああああ!!!」


二つの八房が十字を描く。


「乗り越えよ!! 我が怨念、此処に乗り越えよ!!」
「犬飼ポチ!! 安心なされよ!! 拙者は、拙者が――」


一つの一に切れ目が入る。


「そして、我に見せてくれ!! 狼族の未来<さき>を!!!」
「――道を拓いてみせる!!」


ザザザザザザァァァァアアアアアン!!!


閃光が犬飼を切り裂く。
見なくてもわかる。
あれは助からない。

「ぐはっ!? がっ! はっ、は、は……」

そしてシロには見届ける義務がある。
犬飼から、先人からの思いを受け継ぐために。

「……気付けば、拙者はこの場所に倒れていた。」

目が此方を向いていない。
もう見えていないのだろう。

「そして、感じたのだ。この近くに真なる八房の後継者が居ると!」

それは八房が互いに共鳴したからなのか、それとも犬飼の八房への執念か。

「拙者が選ばれなかった八房の後継者……ならば犬塚か!? と思ったが、其処に居たのは――」
「拙者だったというわけか……」

「ふざけるなと正直思った。こんな小娘が八房に選ばれたなんてな……だが、戦ってみるとどうだ? まだまだ荒削りではあるが、その太刀筋、その躍動感! だが、まだ足りていなかった……」
「それを拙者にわからせるために……犬飼……どの……」

犬飼の体が薄くなってきた。
蘇った死者の最後など、こういうものなのかもしれない。

「人間と群れるな! とはもう言わん。だがな、忘れるな!! 拙者達は誇り高き大神の末裔、その生き方を忘れるな!!」
「……はい。」

消えていく犬飼に礼をするシロ。

「あぁ…犬塚シロ…お前なら、見つけられるはずだ……新たな…狼族…道を……」
「犬飼……」

振り返り、この場から最も近い横島や、その仲間を探す。

「……近いな。」

フェンスを飛び越え、向かいのビルへと移る。
その動きに悪霊がついていけるはずがない。

「道は違えど、目指すものは一緒よ……? 一緒でござるよ。」

山の頂点は一つしかない。
しかし、道は無数に存在する。

「そうでござるな……皆。」


/*/


横島達が自分達とは逆の方向に着地したその時、雪之丞達は……

「てめぇ!! さっさとおりやがれ!!」
「ばかもん!! 年寄りを労わらんか!?」

墜落するも、何とか全員生還する事に成功した。

「やれやれ……囲まれてしまったか。」

唐巣は、周囲の悪霊を悲しげに見つめながら、聖書を掲げる。

「悪いが、俺は横島のところへ行くぜ!! 一人なら、こんなノロマども楽にかわせるしな!!」
「あ、待ちたまえ!!」

雪之丞は唐巣の制止も聞かず、そのまま上空へ飛び立つ。

「ホント、忙しい奴ね。」
「ぐぉぉぉ……あっしはやっぱり無視されるんですのー!」

そんな雪之丞を見つめるエミと、エミを庇った為重傷のタイガーだった。

「邪魔だ! 邪魔だ! 邪魔だっていってんだろうが!!!」

上空を疾走して、横島達の方へ向かう雪之丞。

「……? あれは?」
「雪之丞さん!! ちょうどよかった!!」

此方に跳んできた魔鈴から、横島が地下道から美神のマンションへ向かう事を聞く。

「なるほど……わかったぜ!! それじゃ、俺も地下に行けばいいんだな?」
「はい! 私はこれから鬼道さんの方へ向かいます。」

お互い、最後に軽い挨拶をかわし、各々の目的地に向かう。

「よし、大体の方角も掴んだし、後は――!?」

不意打ち気味の魔力波が雪之丞を襲う。
だが、鍛え抜かれた直感はそれを回避しろと雪之丞の体に伝える。

「誰だ!!……てめえは、横島のところの……」
「ヨコシマと同じくらいの霊圧を上げているかと思えば、あなただったの?」

雪之丞の眼光の先に居る者、それはルシオラ。

「一体どういうつもりだ!? まさか横島を裏切ったのか!!」

そうだとすれば、それは許されない。
苦しんで、苦しんで、苦しみぬいて貫いた横島の道。
それを穢そうというのだから。

「裏切った…か。あなたには分からないわよ。私達だって好きでこんな事しているんじゃないわ!!」
「何、ワケわかんねえ事言ってやがる!!」

ルシオラの魔力は強大。
雪之丞は反撃に移りたいところだが、そうも簡単にはいかない。
友の妹、ルシオラの真意を聞かねばどうしようもない。

「あなた達には!! あなた達には、他にもいるんでしょ!? でも、私達にはヨコシマしか居ないのよ!!」
「だから、何が――」

喋っている暇をくれない。
回避するが精一杯だ。

「だって、このままじゃヨコシマは!!」
「横島!? 横島が一体何だってんだよ!!」

集中しようにも、あのルシオラの今にも泣きそうな顔を見てどうしろと?

「何も知らないあなた達は楽でいいわよ!! 私達は嫌われる覚悟で戦っているっていうのに!!」

だが、横島は分かっている。
何故、ルシオラ達がアシュタロスの下に戻ったか。

「ちくしょう……いったい何がどうなってやがるんだ!?」

雪之丞はらしくなく、一旦距離を取ってリズムを取り戻そうとする。
あのルシオラの不安定さ。事態は自分達の知らない所で相当、危ない事になっているようだ。

「私達は負けるわけにはいかないのよ!! あの装置だけがヨコシマを救える最後の希望なんだから!!」

魔力波が雪之丞を襲う。

「ぐはあぁぁぁぁああああ!!?」

回避しきれず、それを浴びてしまった雪之丞。

「――!? 鈍い!?」
「私はホタルの化身よ――」
「なめんなぁぁぁああ!!!」

だが、雪之丞は最後の力を振り絞りルシオラに霊波砲をぶつける。

「幻影!?」

しかしそのルシオラは、姿を消す。

「――光を操り、獲物に麻酔する!!」

背後から聞こえる声。


「ごめんね……あなたも、生かしてもらうように、アシュタロス様に頼んでみるから。」


これで、止めだ。


ゴォォォォォォオオオオ!!!


「っ!? 炎!?」

だが、それを阻止する妖艶なる炎。


「久しぶりにあったと思ったら、何で負けてんのよ? 情けないわね……」
「て、てめぇこそ……その減らず口は直ってねえな……」

今にも倒れそうになる雪之丞を支える妖孤。

「で、アイツを倒せばいいわけよね?」
「いや、それは待ってくれ。」
「何でよ? 敵なんでしょ?」

この状況を見れば、どう考えたってルシオラが敵に見える。

「アイツ……何かわかんねえけど、横島のために動いてるんだ。だから、すまねえが、殺すのは勘弁してくれ。」
「え〜〜、めんどくさいわね〜。」

状況が世界の危機だとわかっていないのか、やけにノリが軽い。

「まぁ、油揚げ100枚で手をうつわ。この程度の相手――敵じゃないしね。」
「っ!?……(また妖気が強くなってやがる。)」

すでにタマモの強さは全盛期に限りなく近い。
その開放された妖気は、雪之丞を喰らい殺そうとする。

「あ! ごめんね。まぁ、見た感じ、あの変な建物の所に向かってる途中なんでしょ?」

コスモ・プロセッサに向かっていたヘリが墜、落する瞬間を見ていたタマモは、そう推測する。

「あ、あぁ……」
「一人で歩ける?」

ルシオラの麻酔は雪之丞の自由を奪っていた。
この調子では、仮に横島の能力が制限されていなくても合体は出来ないだろう。

「あいつ等は守りたい者のために戦ってるんだろうな……だったら――」

足に力を入れる。
こんな所で止まっていては、アイツに笑われる。

「――俺もアイツのために戦うだけだ!!」
「くっさいわね……まぁ、いいわ。私は油揚げが手に入ればそれでいいだけだし。」

そう言ってタマモは雪之丞の前に出る。
それは、ルシオラにお前の相手は私だと言っている。

「……その妖気……九尾の狐?」
「へ〜……私ってやっぱり有名なんだ?」

タマモは軽いノリでルシオラとの距離を詰める。

「えぇ、知ってるわ――人間に封印された唯の二流妖怪でしょ?」
「そう……」

空気が変わる。
ルシオラもタマモから注意を逸らせない。
一瞬の油断が命取りになる。

「――イジメテあげる。」


/*/


「なんでヨコシマじゃないんでちゅか!」

横島にべスパや、雪之丞にルシオラとくれば、当然鬼道の方にもパピリオが来ていた。
西条は、操縦士が邪魔にならないようメキラを使って、避難させにいったためここには居ない。

「しかしどういう事や? 説明してもらいたいんやけど?」

突然、自分達の前に現れ此処を通さないと言うパピリオ。

「何も知らない……本当にのん気で羨ましいでちゅね、お前達は。」
「なんやと? 何も知らないって、何のことを言ってるんや?」

鬼道はパピリオに問い詰めようと、近づくがパピリオの魔力はそれを阻む。

「お前達が、あれを壊すっていうんなら――絶対にそれはさせないでちゅ!!」
「っ!? だから、一体何なんや!?」

交渉決裂。いや、交渉にすらなっていない。
パピリオは己の頭の中で、自己完結して、コスモ・プロセッサの破壊を目論む鬼道たちに牙を向く。

「あれだけがヨコシマを救える唯一のモノなんでちゅ!! 邪魔するな!!」
「横島はん? 横島はんがいった――っ!? 冥子はん!! とりあえず、黙らせるで!!」
「わかったわ〜」

初めて三姉妹とやりあった時は、すでに冥子が気絶していたため完成形ではなかったが、今回は違う。

「また、あの結界でちゅか!? 何度も同じ手はくらわないでちゅよ!!」
「メキラ!!――はっ!? くそっ、今は居ないんか!!」

タイミングが悪い事に、メキラは西条に貸している最中だ。
仕方なく鬼道は、夜叉丸を憑依させて、その場から離脱を図る。

「あかん!? 悪霊が邪魔や!!」

パピリオから距離を取れば、途端に周囲を徘徊している悪霊たちが襲ってくる。
よく見れば、冥子も己のガードが精一杯で詠唱が全然進んでいない。

「大人しくするでちゅ!! そうすれば、助けてあげまちゅから!!」
「――!? 何が、大人しゅうしとれや!! 今、アシュタロスを止めな世界が終わるんや!! そんな事出来るかいな!!」

メキラのテレポートが使えない今、パピリオの相手をするには、相当厳しい。
そんな中、此方に向かってくる一人の魔女。

「鬼道さん!! 聞こえますかーー!!」
「魔鈴はん!? 横島はんはどうしたんや!!」
「ヨコシマでちゅか!?」

パピリオも手を止め、魔鈴の方を見るが、そこには魔鈴一人。
その魔鈴は、パピリオが味方だと思ったのか、そのまま大声で横島が地下道を伝ってアシュタロスのもとに向かった事を告げる。

「地下でちゅか!? くっ! こうなったら、こんな事してられないでちゅよ!!」

鬼道はこの際、置いておきパピリオはマンションの方へ戻ろうとする。
しかし、それを妨害する鬼道。

「今度は横島はんの邪魔しにいくんか? 何が目的か分からんけど、あの装置は破壊させてもらうで!!」
「だから――」

パピリオが、自分の考えを伝えようとする前に魔鈴が、鬼道はすぐに横島と合流するように言う。

「すでに雪之丞さんも向かっています!! 急いでください!! ここは私達が抑えます!!」
「抑えるって……流石にこのお嬢ちゃん相手にこれだけじゃ……」

いくらなんでも、冥子と魔鈴で抑える事など不可能だ。
だが、魔鈴は素敵な笑顔で頼りになる援軍が来たと言う。

「援軍……?」
「えぇ……ほら、来ましたよ。」

魔鈴が指差した方向、そこには――


「お待たせでござる!! 犬塚シロ、ただいま帰還!!」


――八房の正統後継者。


「シロはん……でも、それでも……いや、僕も信じるで。」

鬼道は、シロを、魔鈴を、そして冥子を信じて、地下に通じる道へ向かう。
もちろん、パピリオがそれを抑えようとするが、それをシロが阻む。

「邪魔するでちゅか!? 犬っこ!!」
「狼でござるよ!!」

八房の閃光とパピリオの魔力がぶつかいあい――

「はぁぁぁああ!!」

――すかさず、シロは、左手で霊波刀を放出してパピリオに迫る。

「――!? まだ!!」
「くっ!? 浅いか!」

だがその攻撃も、パピリオはガードする。
すかさず反撃に出ようとするパピリオだが、それをシンダラが間に飛ぶことで、パピリオの油断を誘う。

「私も忘れないで下さい!!」

一瞬止まったパピリオを今度は魔鈴が、パピリオのさらに上空から霊波を放つ。

「――っ! どこつもこいつも――なめるなーーー!!!」
「八房!!! 拙者の力を刃に変えよ!!」

自分の計画が狂っていく事に怒ったパピリオは、何も考えずただ感情に任せて全力で魔力波を放つ。
対してシロは、己の全霊力を八房に喰らわせ、一つの刃に変える。

「冥子どの!! 魔鈴どの!!」
「りょう〜かい〜」
「はい!!」

魔鈴と冥子は、シロに自分の霊力を渡す。
だが、それでもパピリオの方が僅かに上だ。

「くっ!……お、さ、れる…………だが!!」

だが、最後まで諦めるわけにはいかない。
先ほど、横島は言ったではないか!

―――もう、諦めない。


「先生が……だから、拙者も!!」


―――最後まで足掻いてやる。


「「魔槍術」」


そんなシロ達を救う二つの槍。
パピリオは流石に、その攻撃を喰らってはそれなりのダメージを受けると悟り、回避に専念する。


がっはっは!! 少女のピンチに現れるヒーローとは俺様の事だぜ!!!…………こっそり隠れていて正解だったな。」
「なにを言ってるの、陰念? あたし達はたった今、到着してこの子達のピンチを救っただけよ? これで、この後、忠夫ちゃんにご褒美をもらおうなんて、そんなセコイ事ちっとも考えてなんていないわよ?」

それはチンピラ、オカマ。
どうやら、シロ達がピンチになるのを待っていたようだ。
この非常時にのん気な事だ。

「……さっきから近くに何か居るとは思ったが、おぬしらだったのか?」
「――!? おい、勘九朗!! ばれてるじゃねえか!?」
「し、知らないわよ!? 私達はたった今、この場に到着したんだから!!」

あたふたする、凸凹コンビ。
だがシロは、どんな理由があるにしろ助けてくれた二人に助力を申し込む。

「……今の行動から、拙者たちの味方をしてくるのというのなら、かたじけない。恩にきるでござるよ。」
「へ、へっ! そ、それでいいんだよ!!」
「そ、そうよ! 私達が助けてあげるから、この事はしっかり後で、大人の人たちに報告しといてね?」

この世界の窮地に、活躍すれば、自分達のブラックリスト入りを消してもらえるのでは? と姑息な事を考えている凸凹コンビ。

「……話は終わったでちゅか? 雑魚が一人や二人、増えた所で意味がないって事――わからしてあげるでちゅ!!」
「あら、失礼ね? これでも、雪之丞の兄弟子よ、私は……」
「伊達どののか!? それは心強い!!」
「おう! 昔は、俺様が雪之丞に基本を教えてやったもんだ!!」

ここぞとばかりにシロに、自分の偉大さをアピールする陰念。
それが嘘か本当かは分からないが、今の実力差は言う必要もないだろう。
先ほどの魔槍術も、勘九朗はともかく陰念は、雪之丞のレベルから三つか四つは下。
だが、勘違いはしてはいけない。
それは雪之丞が凄すぎるだけであって、陰念も魔槍を使えるだけで、十分過ぎるほどの才能を持っているという事を。

「それでは――いくぞ!!」

シロ、冥子、魔鈴、勘九朗、陰念は、パピリオに向きかえる。

「あの二人〜〜何処かで〜見たような〜〜…………気のせいよね〜〜」

完全に、冥子の記憶から消されていた勘九朗と陰念だった。


/*/


「……流石、美神さん。自宅だけあって、遠慮という事を知らんな。」
『というより、こういう事をしても……いや、最早いうまい。』

下水道を全力で、突っ走ってきた横島。
目の前には明らかに、美神が作ったと思われる非常出口。
そのゴージャスさは、流石としかいいようがない。

『……横島よ。アシュタロスに文珠は通じんとなると《模》もまず無理だろう……策はあるのか?』
「ん? 策か……まぁ、それなりにな。」

息を整えながら、悠闇の質問に答える横島。

「攻撃系統がダメなだけだろ? だったら、問題ない。これなら、うまく行くさ!」
『ほう、えらく自信ありではないか? ならば、ここは、おぬしに任せよう。』

息は整ったと横島は、地上への道を睨みつける。
其処に居るはずだ。
魔神アシュタロスが。

「あぁ、まかせてくれ……それじゃ――行くか!!」

一気にテンションを高めて、地上へと上がる。

「――後は、この階段を上がれば!!」

サイキックソーサーで、壁を破壊する。


バァァァァン!


其処から漏れる、コスモ・プロセッサという幾万の魂の輝き。


「――!? 何!?」
「流石、美神さんだ!!」

幾らなんでも、地下から現れるとは思っていなかったのか、アシュタロスの顔が僅かに驚いている。

「どうやってルシオラ達を撒いたかは知らないが……」
「アシュタロス!! そろそろ決着つけようぜ!!」

横島は二つの文珠を取り出して、念を籠め始める。
それを見たアシュタロスは、愚かなと呟く。

「俺の攻撃はお前には通じないんだってな!!」
「ほう? 霊波がジャミングされているって事を知りながら、何をしようというのだ?」

アシュタロスには読めないのだろう。
横島がこれから行おうとする事を。
故に、今から起きる事は、アシュタロスにとって誤算となる。

「でも、文珠は使える!! だから思いついちまった!!」

余裕。
圧倒的有利な立場に居るからこそ、普通に考えればもう覆る事などない勝負だからこそ、アシュタロスは横島が何をするつもりなのかと、様子を見る。


そして、横島は文珠をサイキックブレットに乗せて、発射する。


「おらよ!!」


その方向、それは……


「――その機械って何でも願いを叶えるんだろ?」
「――!? まさか!?」


コスモ・プロセッサ


「油断しすぎなんだよ、お前は!!」


文珠に刻まれた文字を見たアシュタロスは、すぐに動くがもう遅い。
横島はギリギリまで、アシュタロスから文字が見えないように調節して撃ったのだ。


「や、やめろーー!!!」


文珠はちょうど、鍵盤にぶつかりコスモ・プロセッサは、横島の願いを叶えようとする。
複雑なものではない。
願いはシンプル。


――ただ、呼ぶだけだ。


「さぁ、出て来い!!」


最強の味方を……


《猿》《神》


瞬間、アシュタロスと横島の中間地点が輝きだし、その中からソイツは現る。


「――!? なんじゃ!? いった――アシュタロス!!?」


現れた猿神。
流石に驚いているようだが、すぐに冷静になってコスモ・プロセッサを眺めて、これで自分を呼んだのかと推測する。

『横島!! あの中に入るぞ!!』
「じじぃ!! この場は任せたぞ!!」

足に霊波を纏い、宇宙のタマゴまで跳躍する横島。


「バカな!? こ、こんな!?」


ズゥゥゥゥウウウンッ!!!


如意棒が伸び、アシュタロスの頭を叩き壊そうとする。


「まぁ、そうあせるな……この年寄りの相手をしてくれんかの?」
「斉天大聖!!」


余所見をするな。
すれば死ぬぞ。


「折角、諸悪の根源がいるんじゃ……ここで終わらせようではないか……のう……恐怖公よ。」


――心眼は眠らない その68・完――


あとがき

何か、五月中のつもりが……うそは吐いてませんよね?(えぇ、唯、休講が重なったりバイトが早上がりになったりしただけで、ちょっと暇が出来ただけです。)

それは兎も角、

さぁ、物語がラストに向けて一気に加速し出しました。
犬飼との決着をつけたシロ。
メドーサVSべスパ、
タマモVSルシオラ、
冥子、魔鈴、勘九朗、陰念、シロVSパピリオ、
何より猿神VSアシュタロス。
さぁ、どうなることやら……

次回の更新は……いつだろう?(早いような、遅いような……)

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