「……これで、準備は整ったわ。」
ルシオラが見据える先は、美神が住んでいる高級マンション。
「ルシオラちゃん……仕方ないんでちゅよ。あの増幅器を一刻も早くヨコシマから駆除しないと……」
ルシオラの後ろに控えていたパピリオが、ルシオラを気遣うように声を掛ける。
横島の体内に埋め込まれた増幅器。
それは、横島の霊波を神魔と対等に戦えるほど爆発的に高める装置だが、その代償は横島の肉体は徐々蝕んでいっていた。
「早く戻ろう。ルシオラの幻術もそう長く効いているわけじゃないんだから。」
べスパが、自分達の監視にかけた幻術が解ける前に、家に戻ろうとルシオラとパピリオに呼びかける。
三姉妹はマンションを背に家に帰り始める。
「? どうしたんでちゅか?」
パピリオが足を止めたルシオラに話しかける。
「何でもないわ。さぁ、帰りましょう。」
準備は整った。
アシュタロスの『真の計画』の準備は整った。
(……これでよかったのよ……そう、これで……)
皆が踊らされている。
魔神の掌の上で……
――心眼は眠らない その67――
南極の出来事から、すでに数ヶ月の月日が流れていた。
その間に、ルシオラとべスパはバイトを始め、パピリオは力の制御の仕方を覚えるための特訓を行っていた。
最も印象的だったのは、横島が悠闇と三姉妹の目を盗み、文珠を大量消費して、悠闇の怒りを買い、再びあの悲劇が訪れた事だろう。
「……美神さん、ちょっといいっすか?」
「な、何よ……?」
今日の除霊も終了し、車で事務所に帰宅している最中、隣に座っている横島が真剣な目で美神に話があると言う。
最近の横島は何か、おかしい。
よく美神の顔を見たら、顔を真っ赤にして逃げるし、セクハラもない。
そんな横島から話があるといわれて、緊張を隠しきれない美神。
「で、話って何?」
車を路上の横に止め、美神は横島の言葉を待つ。
横島は、緊張でもしているのか、深呼吸をして美神と向き合う。
「俺、わかったんすよ。」
「だ、だから、何よ?」
このために、予め横島は悠闇に席を外してもらった。
よってこの場には、横島と美神、二つの存在しか居ない。
「南極で、俺が我を失った時、もう全てがどうでもいいと思ったんすよ。あのクソ野郎を倒せるなら、戻れなくてもいいって……」
「でも、美神さんが、俺の名を呼んでくれた時、何やってんだろって、こんなの俺じゃないよなって……え〜と、あ、あ〜、俺って馬鹿だから、うまく言えないんすけど、だから………………ありがとうございました。」
「そう。」
美神の態度はそっけない。
横島の顔も見ない。
今、見てしまったら、顔が真っ赤になるからだ。
「えっと、それでなんすけど……美神さん、俺、確かにガキだし、頼りないし、アホだし、スケベでいい所なんて殆どないんすけど……」
ゴクッと唾を飲んで、美神を今までにないくらい真剣な目で見つめる。
これには流石に美神も逃れられない。
南極の時から、時間をかけて覚悟を決めたのだ。
今、自分の思いを言葉に乗せて伝える。
「それでも、俺、美神さんが好きです。」
「――っ!? ななななななな、何、言ってんのよ!?」
もう止まれない。
なんとかペースを掴もうと、横島を殴ろうとするが、横島の瞳がそれを許さない。
「俺、マジっすよ。あの時、わかったんすよ。俺、この人が、美神さんが本当に好きなんだなって……」
「だからって! 何、いきなり、あ、あんたなんか、10年早いんだから!!」
必死に自分の気持ちを誤魔化そうとする。
頼りない?
散々、人の命を救っておいて何を言っているのだろうか。
「それじゃあ、10年経ったら、俺と付き合ってくれますか?」
今更10年の年月が、何だというのだ?
やっと出会えた。
1000年の時を経て、やっと出会えたのだ。
それに比べれば10年など、無きに等しい。
「なっ!?」
離れ離れの10年ではない。
一緒に居られる。
もう、逃がさない。
「美神さん……俺……」
「ダメ……」
横島は、美神の左手を取る。
「俺、美神さんに相応しい男になります。だから――」
それ以上、言葉を発する必要はない。
瞳が言葉以上に伝えてくれるはずだ。
「………………バカね。」
二つの影が重なる。
ゾクッ!?
「っまさか!?」
美神は、目の前の男を突き飛ばして、距離を取る。
が、
それを許すわけがない。
「さすがにキスで気付いたか。だが、もう遅い。」
男は、美神が逃げる以上の速さでそのまま右手を突き出し――
「やっと手に入れたぞ! メフィスト、お前の魂をな!!」
――魂を手に入れる。
横島の顔は、魔神の顔へと変わる。
アシュタロスの右手は、美神の腹から侵食し、魂を掴んでいる。
今、下手に動けば魂が崩れ、美神は絶命するだろう。
いや、その心配もいらない。美神はアシュタロスの魔力によってまともに動く事すら許されないのだから。
「いったいどうやって!? 横島クンは!?」
「まぁ、落ち着きたまえ。今の君の状況を教えてあげよう。」
アシュタロスは、今、美神がいるこの空間が『宇宙のタマゴ』の中だと告げる。
つまり此処はアシュタロスによって創られた並行世界であって、実際は数ヶ月も経っていず、元の世界では、南極での出来事から、三週間経ったか経っていないかだと。
「何故、私がこんなまどろっこしい事をしたかわかるかい?」
魂の加工は非常に難しい。
強引に奪い取ろうとすれば、結晶が崩壊する恐れもある。
そのため、アシュタロスは、美神が心を許す瞬間を待ち、今、ようやくその時が来た。
「よくもやってくれたじゃない!! ここまで性質の悪い男は初めてよ!!」
「ふん、純情が踏みにじられたのがそんなに頭にきたのかい?」
「っ!?」
図星だったのかもしれない。
あの瞬間、横島なら、横島忠夫ならばそれもいいかと、思った矢先にこれだ。
「安心したまえ。横島に細工を施した時に分かった事だが、彼は君の事を好意以上の対象で見ているよ。君から迫れば、どうにかなったかもしれないな。」
「あ、あんたって奴は!!!」
下劣。
憎くて仕方がない。
目の前の魔神が、そして、そんな魔神に言いようにされた自分が。
「覚えてなさい!! このままじゃすまさないわよ!! 後で必ず――」
美神の肉体から、魂が抜けて、地面には抜け殻が横たわる。
アシュタロスは、美神の抜け殻にも一仕事してもらうのか、抱き上げ宇宙のタマゴから出ようとする。
「さぁ、創めよう――今宵、世界に、新たな王が生誕す。」
/*/
「はぁ! はぁ!」
先ほど、胸騒ぎがした横島は自転車に乗って、美神が住んでいるマンションに向かっていた。
「――!? 西条!? 一体、どうしたんだ!!」
マンションに着いた早々、玄関で西条が倒れているのを発見する。
「おい、西条!! 生きてるか!?」
「く、横島クンか……」
『横島、周囲を警戒せよ!!』
西条が生きている事を確認すると、次に周囲を霊視してマンションに結界が張ってあるの見つける。
西条が倒れていたのは、この結界に気付かずに触れてしまったからのようだ。
「一体!? くそ!! 何処か脆い所は!!」
横島は、結界の弱い所を探して中に入ろうと試みようとするが――
「やめて、ヨコシマ。」
初めて出会ったとき同じように上空から聞こえる声。
横島は上を見上げる必要もなく、声でこれはルシオラ達がやったんだと理解する。
「お前ら……一体何をしたんだ。」
静かな、しかし、虚偽も黙秘も許さぬ声。
「兄さん……ごめん。でも、これは――」
「べスパ!!」
べスパが思わず言ってしまいそうになるのを止める。
言うわけにはいかない。
言ってしまえば、自分達は楽になるが横島が……
「ヨコシマ、私達は、結局アシュ様からは逃れる事は出来ないんでちゅよ……」
「パピリオ……くっ! 何が!? 何が、逃れられないって!! バカ言ってんじゃねえ!! あんな奴、一人や二人、この俺が――」
怒りで、拳が震える。
そして、その怒りの矛先が現れる。
「それは威勢がいいな。横島よ……」
「アシュタ――!? 美神さん!?」
アシュタロスが、轟音を轟かせ、内側からマンションの壁を破壊しながら現れる。
その腕の中にはすでに魂の抜け殻である美神。
その後ろには、土偶羅が宇宙のタマゴと連結している姿がある。
「少し遅かったようだね――受け取りたまえ。」
アシュタロスは、ゴミを捨てるかのように美神をマンションの屋上から地面に向かって放り投げる。
「美神さん!!」
『走れ、横島!!』
そのまま地面激突など許すわけにはいかない。
足に霊波を纏い、万全の態勢で美神の落下を防ぐ。
「よしっ!………………?」
危なげなく、美神をキャッチする横島。と、
――――同時に何かが壊れようとする。
「み……みか…みさん……?」
動かない。
「美神さ〜ん。寝たふりしてると、胸を揉んじゃいますよ〜。」
『止めろ、横島。』
分かっているのだ。
理解はしている。だけど、この状況をどう納得しろと!?
「美神さん! ほれ、今、起きてくれた時給250円でいいっすから……ね?」
『横島!! 気をしっかり持て!!』
心が痛い。
横島の嘆きが、悠闇には直に伝わってくる。
「………………」
黙り込む横島。
溜めているのだ。
横島の心の奥底に潜む化け物を目覚めさせるために、怒りを。
「……けんなよ。」
「――!? まずいわ!! ヨコシマ、ダメよ!」
ルシオラが異変に気付く。
この異変、それはあれが訪れる兆候。
『ぐっ!? な、なにが…一体……!?』
悠闇は、ヒャクメが持ち帰った映像でしか知らない。
よって知らない。
これが、発動までのプロセスだと。
「……ふざけんなよ。」
「アシュ様!! 早く!! 早く、宇宙処理装置<コスモ・プロセッサ>の発動を!!」
べスパも焦っている。
今の横島は感情の制御が殆ど出来ない。
些細なきっかけですら暴走するほどなのだ。
なのに、突きつけられた美神の……
『これでは……ぐっ、横島!! ならば、強引に奪わせてもらうぞ!!』
もう説得は不可能と判断したのか、平安京でもやったように横島の霊力を奪い始める。
『くそ!! これほどとは!!』
だが、奪いきれない。
当然だ。
門はすでに開いている。
強烈な感情は横島に無限の力を与え続ける……命を代償として。
「ふざけんな!!! アシュタロス!!!」
『くっ! 弾かれる!?』
バンダナから、結晶が弾かれ悠闇が現れる。
悠闇が竜神化する時、式神などを媒体にしていたのは、極端すぎる霊力の消耗を抑えるためであって、現在のように、満タンの霊力ならば、僅かな時間ではあるが、竜神化する事も可能。
「ヨコシマ!! やめるでちゅよ!!」
パピリオが横島を止めるべく、向かおうとするが――
「――邪魔すんな。」
「ヒッ!?」
魔眼、邪眼でも持っているとでもいうのか、一睨みで、パピリオを動けなくさせる。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
「………………狂戦士<ベルセルク>。」
西条は、ただ頭に浮かんだ単語を発する。
今の横島にこれほど相応しいものがあるだろうか。
「くっくっく……横島、威勢が言いのは口だけかい? もったいぶらずにさっさと来たまえ。」
目の前は暗く、もう陽は見えない。
「黙れ。今――殺してやるから。」
しかし横島がアシュタロスのもとに、向かおうとした瞬間、間に一つの影が舞う。
「――止めよ。帰れなくなるぞ。」
悠闇の強烈な右ハイキックをガードする横島。
だが、その勢いは凄まじく後ろに弾かれる。
「心眼……邪魔する気か!!」
(くっ!? 体が震えている。これほどとは!!)
横島のオーラが空間を支配する。
それに思わず飲まれそうになる悠闇だったが、何とか踏みとどまり己に喝を入れる。
「横し――!?」
「そこを――どけ!!」
激突。
「速いっ!? だが、その程度!!」
先ほどのお返しと言わんばかりに、横島は勢いに任した蹴りを放つ。
それに洗練された技術など全くない。
それもそうだ。横島は、霊能の修行こそしていたが、身体的な修行など敵の攻撃をうまく避けるために身の動かし方を習っただけなのだから。
「――ぬるい――!? そ、そんな!?」
「あぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
所詮、精巧な技術など、暴力的なまでの力の前では無力だとでもいうのか?
横島の蹴りは、悠闇のガードを弾きそのままマンションの壁へとぶっ飛ばす。
「がはっ!? 力を出し切れん!? まさか、これが横島の――」
「そう、横島が持つ神魔耐性。」
「アシュタロス!?」
悠闇が頭上を見上げると、そこには怨敵アシュタロスが悠闇を見下すように佇んでいる。
お前には既に興味はない。肝心なのは横島のほうだと。
「アシュタロス!!!」
視界にアシュタロスが入った瞬間、横島の憎悪はさらに悪魔と化す。
今、この空間は横島が支配していた。
「さぁ、来い。お前の相手は私がしてやろう。それとも何か? 美神令子だけでは足りないというのなら、そこの神族崩れもお前の目の前で消してやろうではないか。」
「て、てめえってやつは……どこまで、俺を……」
「南極ではいらぬ邪魔が入ったしな……解き放て。全てを解放し、此方へ来い!!」
横島はアシュタロスの言われたとおりに、ただアシュタロスを倒すために、残っていた僅かな理性を捨て去ろうとする。
(くっ、何か方法はないか!? まずい、このままでは……このままでは横島が帰って来れなくなる。)
踏み越えてはならない境界線。
今、横島はそれを越えようとしている。
一度超えれば、二度と戻る事の出来ないライン。
「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」
「とうとう来たか!! 抑止りょ――何だ!?」
アシュタロスが狂喜した瞬間、手に持っていたエネルギー結晶体が暗闇の夜に光り輝く。
「……美神…どの?」
「――え……?」
その輝きは、伝えようとしている。
まだ自分は終わっていない。
まだ自分は諦めていない。
まだ自分は――――生きている。
「横島、諦めるな!! あの輝きを見よ!! 美神どのはまだ、諦めていない!! それなのにおぬしが先に諦めるとでもいうのか!?」
「っ!!」
今がチャンスと悠闇は、横島を連れ戻そうと、最後の説得をする。
そして、その言葉が横島に突き刺さる。
「アシュタロスを倒し、美神どのを救う。そのためにはおぬしの力が必要不可欠だという事が何故わからぬ!!」
何故、諦めなければならない。
今まで、数多くの困難が訪れた。
「それとも何か? もう、美神どのは助からないとでもいうのか、おぬしは!?」
横島の瞳の色が元に戻る。
「ふざけんな!! あの女がそう簡単にくたばるわけがねえ!! そんな事、俺が一番知っている!!」
例え、世界中の人々が信じなくても、自分だけは信じている。
美神令子がそう簡単にくたばるわけがないと。
「何で、俺が諦めなきゃならんのだ!! まだ、あの女にはたっぷり借りがあるんだぞ!!」
だったらすべき事は決まっている。
「だったら、やる事など決まっているだろうが!!」
「当然じゃーー!!」
何とか帰ってこれた横島。
危なかったが、危なかったからこそ、今、目覚めたのは大きい。
「此処に来て、メフィストめが……中々、うまくいかないものだな。いや、横島を堕とす事自体が不可能とでもいうのか……? ならば仕方あるまい……」
アシュタロスは、横島が目覚めたのを見るや、コスモ・プロセッサと向き合い、再び輝きを失ったエネルギー結晶体をセットする。
「土偶羅、コスモ・プロセッサ起動。」
「了解!!」
マンションが崩壊していき、コスモ・プロセッサは、その真の姿を現していく。
「あの野郎――はっ!? 美神さん!!」
「西条どの、美神どのを!!」
瓦礫が動かぬ美神に襲い掛かる。
横島が文珠を使おうとするが、その前に西条が間に合い、美神を運びながら避難する。
「くそ! まず――来たか!!」
「大丈夫ですか!?」
逃げ道がなくなる寸前に、ピートが西条、マリアが美神を、冥子の式神であるメキラが横島、魔鈴が悠闇を避難させる。
横島がたどり着いた先は、上空を飛んでいたヘリ。
「横島、無事か!?」
其処には、美智恵を除いた南極メンバーが勢ぞろいしていた。
司令官である美智恵は、この異常事態にGS本部でGメンと連携を取っている。
「結界に気付いた後、非常召集をかけてきてもらったんだが……くそ!」
西条はこちらに向かってくるマリアの腕の中に居る生きていない美神を見て、歯を噛み締める。
「兎に角、このままじゃ医学的にすら死んでしまう。マリアはそのまま病院に向かってくれ! ピートもおキヌちゃんを連れて、病院に!!」
カオスから奪い取った通信機で、マリアに命令しておキヌには美神の体に乗り移ってもらうために病院に行って貰う。
おキヌが行く理由は、美神の体に憑依してもらう事で、美神の肉体を死なせないため。
おキヌは美神と違い、長い年月の間、肉体と幽体が離れていたので、適切な処置を施していれば長い時間、幽体離脱する事が可能からだ。
(とりあえず応急処置はこれでいいが……次に一体何をすれば!?)
アシュタロスは、エネルギー結晶体を手に入れて何かを始めた。
それを止めなければいけないのはわかっているが、うまく頭が回らない。
西条だけではない。多くのものが、美神の様子を知り、意気消沈する。
冥子に限っては、暴走する一歩手前だ。
「……皆、よく聞いてくれ。」
―――だがその中で、目覚めた者もいた。
「どうしたんだね、横島クン。」
皆が横島に注目する中、横島は覚悟を決める。
それは、もう諦めないという覚悟。
「――美神さんはまだ終わっちゃいない。だから、俺ももう諦めたりはしない。」
いい加減、目は覚めた。
「やけになるのは止めた。俺は最後まで足掻いてやる。ぜってーあの野郎の思い通りにはなってやんねえ。」
「横島……」
これは誓いだ。
「美神さんを助ける。あの野郎をぶっ殺す。ルシオラ達を取り戻す。だから――俺に力を貸しくれ。」
頭を下げる横島。
下げる必要なんてないのに。
思いは皆、一緒なのだから。
「……おっしゃ! それじゃ、一気に《三》《位》《一》《体》で決着でもつけるか!!」
雪之丞は、右拳を左手に撃ちつけ、気合を入れる。
「冥子はん、最後まで諦めない。僕がこの数ヶ月で学んだ事や。だから、今は気をしっかり持とうや。」
「マーくん……」
鬼道は、その姿こそ自分が追い求めてきたものだと、目標の再確認をする。
「やれやれ、さっきまであれだけ暴れていたというのに、現金な男だね、君は。」
口ではそういいながらも、ロンドンで横島と一緒に戦った時のような高揚感に包まれる西条。
「それじゃ行くか。いい加減、あの野郎の顔も見飽きたしな。」
皆の思いを一つにし、夜に輝く摩天楼に向かう。
「――待ってろよ。」
そこには魔神が、そして大切な美神と家族が待っているだろう。
/*/
「これが、コスモ・プロセッサ……」
発動したコスモ・プロセッサを見上げるルシオラ。
横島が暴走し掛けて悠闇と戦っていた際、ルシオラ達はその戦いを見続けていた。
それは今までの暴走と違い、横島が理性を持っていたからであった。
(美神さん……悠闇さん……やはり、この二人が居たからなの……?)
最も横島と一緒に居たこの二人が、横島をこの世界と繋ぎ止めているのだろう。
(でも、もう関係ないわ。これでヨコシマを助ける事が出来るんだから。)
エネルギー結晶体は、アシュタロスの手の元にいき、これでコスモ・プロセッサを発動させれば、それでアシュタロスの勝利なのだから。
(約束通り、ヨコシマは自由になる。アシュタロス様がそう約束してくれたんですから……)
もちろんアシュタロスが反故する可能性もある。
だが、従うざるを得なかった。従わなければ、横島を助けられないのだから。
ルシオラはアシュタロスの方を見つめる。
宇宙処理装置<コスモ・プロセッサ>。
それは宇宙の構成を部分的にだが、組み替える事が出来る装置。
これを使えば、死者を蘇らす事も、神を殺す事も容易。
つまり、横島の異変も直すことも簡単だという事になる。
今の横島を治すには、コスモ・プロセッサを使用するしか道はなかったのだ。
(アシュタロス様……あなたは何を考えているのですか?)
考えてみれば、おかしなことだらけだ。
横島をあれほど警戒しておきながら、生かし続けている。
いや、それどころか、リスクこそあれど横島に力を与えている。
今戦えば、三姉妹は横島に勝つことは不可能になっているだろう。
(……力を与える? 何故? べスパの話では、アシュタロス様は自分を憎めとすら言っていた。一体、どうして?)
ルシオラが考えにふけていると、アシュタロスがコスモ・プロセッサの試運転を始める。
「祝杯を新規出力。」
コスモ・プロセッサのコントロール装置である鍵盤をたたき、すぐ近くに机と、その上にワインが現れる。
「成功のようだな……」
そのワインをグラスに注ぎ、一口飲む。
「アシュ様、ヨコシマが……ヘリが向かってきます……」
べスパが、やはり来るのかと諦めた表情でアシュタロスに報告する。
「落ち着きたまえ。折角なのだから、彼ら人間どもに、この力の素晴らしさを見せてやろうではないか。」
鍵盤の前にあるイスに腰掛けて、アシュタロスは、世界を創造し出す。
「創造と――破壊――」
コスモ・プロセッサが輝き出す。
宇宙のシステムが壊される。
「さぁ、私の僕とし蘇るがいい……殉教者達よ……」
東京で、日本で、世界中でかって横島達、世界中のGS達が倒した妖怪や魔族達が蘇る。
それはこの世界への冒涜。
「さぁ、来たまえ……いい加減待つのも飽きた。私を見過ごすつもりはないのだろう―――」
それは世界が崩壊するのを防ぐために現れる絶対的な力。
「―――抑止力よ。」
これより、戦場は摩天楼へと移ろうとする。
そして――
「あら、派手にやってるわね〜。」
「全く、アンタが遅いから始まってるじゃないのよ!」
「うるせえ! 間に合ったんだからいいじゃねえか!!」
そんな三者の後ろから、圧倒的な妖気を秘めた存在が現れる。
その姿は、横島が知っている姿とは多少異なり、小さく見える。
「さぁ……行くよ。」
「「「はいっ!!」」」
――役者も揃い始めた。
――心眼は眠らない その67・完――
あとがき
有言実行できず……
原作のようにコスモ・プロセッサを発動させる事に成功したアシュタロス。
だが、まだ何かあるようです。
役者も揃ってきましたし、いよいよ終幕が近くなってきました。
次回の更新は……目標は五月中です。(今月忙しいので期待はしないで下さい。)