花見当日の朝パピリオは寝坊した。
横島の来訪がよほど嬉しいのか、昨晩は目が冴えて寝つけなかったらしい。
パピリオは一週間も前からはしゃいでいたが、それは他の神魔の面々も程度の差こそあれ同じである。
普段は静謐かつ清浄な空気に満たされている妙神山も、ここ数日はやや浮ついた雰囲気だった。
小竜姫は上機嫌で数日前から料理の準備をしていたし、斉天大聖でさえ何所かそわそわしていた。
ジークは魔界にベスパとワルキューレを迎えに行ったから今朝はいないが、ヒャクメは普段通り寝ぼけ眼を擦っている。
やがてバタバタ起き出したパピリオは、朝食を取りながらハタと気づいた。
「横島達は何時に来ると言ってまちたか?」
パピリオのほっぺのご飯粒を取ってやりながら、小竜姫は首を傾げた。
「どんなに早くてもお昼過ぎになると思いますよ」
「違うのねー」
トロンとした目のまま千里眼で見通したのか、ヒャクメは口を挟んだ。
「朝から押しかけて、一日中どんちゃん騒ぎするつもりだからすぐ来るのねー」
「……そうなのですか?」
小竜姫が笑顔を引きつらせていると、ヒャクメはこっくり頷いた。
「お酒やカラオケとか、色々積みこんだ六道家の大型輸送ヘリで来るのねー」
大抵食事中は寡黙な斉天大聖も珍しく興味を引かれたらしく口を挟む。
「ほう。唐桶とはどんな桶だ?」
「色んな歌の伴奏をしてくれる機械の事なのね」
ヒャクメが説明していると、バラバラと騒音を撒き散らす大型ヘリが空の一角に現れる。
千里眼のヒャクメには、小指を立てたエミと美神が機内でマイクの取り合いをするのがはっきり見えた。
『わぁたーしのコレは〜♪「ちょっとエミ!?順番無視して歌うんじゃないわよっ!」
訂正。
騒音を撒き散らしているのはヘリだけではなかった。
「……もう宴を始めているようじゃな」
老師が呆れて嘆息すると妙神山の面々は取りあえず朝食を取る事にした。
だが、朝の静謐な空気は、もう何所にも残っていなかったとか。
リレーss「お花見をしようっ」(第7話)作者 初投稿の新人infarm
朝食を終えた妙神山の面々がヘリが着陸した裏庭に行くと、既にそこはちょっとしたガーデンパーティ会場になっていた。
魔鈴の魔法により、桜吹雪の舞い散る中庭をテーブルや料理を盛った皿が踊るように自ら配置についていく。
「うわあ……」
幻想的な光景にパピリオは思わず感嘆の吐息を漏らした。
「ほう。失われた西洋の白魔術か」
斉天大聖が声をかけると、忙しく働いていた魔鈴も気づいた。
慌ててエプロンを外して一礼する。
「お初におめもじします、斉天大聖老師様。白魔女の魔鈴めぐみと申します」
「神界拠点妙神山修行場責任者の斉天大聖だ。堅苦しい挨拶は抜きに願いたい。今日は無礼講なのでな」
ポンとパピリオの頭を一つ撫でると老師は僅かに顔を綻ばせた。
見上げたパピリオも笑顔になる。
「小僧達はどこだ?」
傍らで小鳩と盛りつけを手伝っていたおキヌは、会場の一角を指差した。
「横島さんならさっき……」
そこでは主に男連中が大画面テレビやカラオケなどの設営にあたっていた。
ドライバー片手に土偶羅へにじりよるカオス。未だにエミとマイクの奪い合いをしている美神。何故か血の海に沈んでいる横島。
ピートと大画面テレビの上で何やらしていた雪之丞は、目敏く妙神山の面々を見つけると声を張り上げた。
「老師!お邪魔してるぜっ!格闘ゲームはもうちょっと待ってくれ!すぐ終わらせるからよ!」
斉天大聖が苦笑して頷くと、雪之丞はすぐさま作業に戻った。
「小竜姫。お前はお嬢ちゃん達を手伝ってやれ。こいつらは馬車馬の如く飲み食いするからな」
「はい」
「パピや。ワシは横島に用がある。悪いが暫く小竜姫を手伝ってくれるか?」
パピリオは内心少し不満だったが、斉天大聖に温かい眼差しを向けられると渋々頷いた。
「解ったでちゅ。でも、後でいっぱい遊びまちゅからね」
パピリオが行ってしまうと老師は横島を肩に担ぎ上げた。
「意識がないのは僥倖だったな。成功しても一時の逢瀬でしか報いてやれんが……」
僅かに嘆息すると老いた武神は歩き出した。
「あれ?」
横島が目覚めると妙神山での宴は既に始っていた。
美神と魔鈴が何時の間にか格闘ゲームで勝負しているし、土偶羅は何故か大画面テレビに組みこまれてる。
小鳩とおキヌは横島の傍らで談笑しているが、小竜姫と冥子が何やら話しこんでいるのは意外な組合わせだ。
問題はタイガーが魔理を、雪之丞が弓を侍らせ(横島の主観で)イチャついていやがる事くらいだろうか。
「ぴぃとぉん♪く・ち・う・つ・し♪」
「ちょ、ちょ、ちょっとエミさん……」
エミに至ってはピートを押し倒し情熱的に迫っていた。
少し離れた場所で唐巣神父が老師など神族・魔族連中と酒を酌み交わしているので、横島は声をかけようと身を起こした。
「老師。さっき俺に何か……」
だが、立ち上がろうとして、横島は腰にパピリオが抱きついている事に気づいた。
パピリオは拗ねているらしく、頬を膨らませて睨んでいる。
「あー、その…何だ」
何とはなしに頭をゴシゴシ擦ると、横島はジト目で見上げるパピリオを抱き上げた。
「取りあえずカラオケでデュエットだ!」
「……誤魔化ちまちたね」
パピリオは不機嫌を装うとしたが果せず、すぐに声を上げて笑い出した。
結局何の挨拶や音頭も取らず、なし崩しで宴会に突入してしまう一同だった。
カラオケセットやゲーム機から伸びたコードは、迸る念や霊力を誘導し淡い輝きを放っていた。
後書き
皆さん初めまして。Night Talker初投稿なので新人のinfarmです。
私は以前余所で投稿していた事がありますが、久しぶりに書いたので多少お見苦しい点もあったかもしれません。どうかご容赦のほどを。m(_ _)m
業務連絡です。
次回執筆予定だった皇月さんとその次の仙台人さんの順番が、事情により入れ替わる事になりました。
次回以降の順番は 8話目 仙台人さん 9話目 皇月さん 10話目 豪さん となります。
では、次回の仙台人さん、頑張って下さいませ。