パピリオが美神除霊事務所に突撃隣の晩御飯してから6日。いよいよ、花見が明日と迫った日。
ただでさえ騒がしい事務所は、あちらの方へと、物が動いたかと思うと、こちらの方へ、人が動くといった、目の回るような状況。
まるで嵐が吹いているかのような慌ただしさとなっている。
と、言うか
「ふぇぇ〜〜ん!」
今、まさに吹いているのだが。
今現在、何がおきているのかを整理するため、とりあえず、話を今朝に戻そう。
築数十年というアパートの一室、貧乏オーラを出した少年が、朝食をかき込んでいる。
赤いバンダナがトレードマークの赤貧学生、我らが横島忠夫である。
「ごっそさん。う〜……、いまいち、元気が出ないな……。」
彼が元気がでないと言うのも、無理はない。
と言うのも、花見当日、及び、花見で何かあるといけないからと次の日を空けたために、
そこで本来行うべきであった仕事を別の日に移し、それが元で付近の日にしわ寄せが来たのだ。
昨日も、本来よりも数件多い仕事をこなし、さすがの横島でも疲れていた。
しっかりと睡眠をとったのだが、その疲れがいまだ若干癒えていないようだ。
食器を片付け、歯を磨き、そろそろ事務所に出かけようとしたそのとき、
「あの〜」というかわいらしい声とともに、トントンと扉が叩かれる音がした。
「は〜い」と一声かけて、扉を押し開けると、そこには見慣れた赤毛のみつあみ。
隣に住んでいる貧乏神に憑かれた赤貧少女、花戸小鳩である。
貧乏神と言っても、横島らの手伝いにより、福の神へと昇華したのだが、まだ、本人の力が弱い為、いまだ赤貧状態が続いている。
しかし、それでもなんとか、栄養不足だった母親を入院させるくらいの資金が溜まり、その付き添いで行っていたのだった。
「あ、小鳩ちゃんお帰り。どうだった?」
「あ、はい、やっぱり栄養不足だそうで、しばらく入院だそうです」
「そっかぁ。お母さんが近くに居ないのはさびしいと思うけど、我慢だね」
「はい。有難うございます」
と、ここまで話していて、ふいに花見の事が横島の頭を過ぎった。
「あ、そうだ小鳩ちゃん。明日、みんなと花見をすることになったんだけど、よかったら来ない?」
「花見、ですか……?」
ふと考え込む小鳩。
その頭に浮かぶは、いつも、横島のすぐそばに居た、
巫女服を着た黒髪の幽霊と、お金にがめつい除霊事務所の所長。
ちくり、と何かが小さな音をたてた
「い、行きます! 私も行きます!」
「わ、わかったよ。なんか小鳩ちゃん、積極的だね」
「私だって……」
と、呟くと、ハッと何かに気がついたかのような表情を見せ、そして可愛らしい顔を見る見るうちに赤めていった。
「ご、ごめんなさい。ご飯の準備がありますので……」
「あ、ちょ、ちょっと小鳩ちゃん!?」
いまだ昂揚収まらぬ小鳩は、まるで逃げるかのように隣の部屋へと駆け込んでしまった。
「……いっちゃった、なんだったんだろう。取り敢えず、小鳩ちゃんも来る、と。
今日の昼からの買出しの量を追加しないとな」
と、そんないじらしい乙女心を感じることのできぬこの青年は、そんな的外れな台詞を一人吐いていた。
「おはようございまーっす」
「あ、横島さん、おはようございます」
「おはようございます、横島さん」
事務所へと出勤した横島を迎えてくれたのは、おキヌと人口幽霊のみ。美神や、シロタマコンビは居ない。
「あれ? 美神さんや、シロ、タマモは?」
「あ、えっと、早朝から仕事に出かけられてます。私は、他から電話がかかってくるといけないから、と」
「そういえば、まだ仕事があるって言ってたなぁ。きついならキャンセルすればいいのに」
「それが出来たら、美神さんじゃないですよ」
と、クスッと笑いながら、おキヌが相槌を打つ。
「あ、そういえば、今朝電話があったのですが、美智恵さんも花見に来られるそうです。なんか今、九州に居られるそうですけど」
「隊長も来るのかぁ。しかし、なんでまた九州? 仕事かなあ?」
「ですかね? 森以蔵がどうだか言ってましたので、おそらく仕事じゃないでしょうか?」
「森さんかあ。どこかの重役かなあ?」
と、2人でうーんと頭を傾げた。
ちなみに、2人とも勘違いをしているが、森以蔵とは人の名前ではない。
何の名前なのかは、おそらく追々嫌でもわかることとなるだろう。
「とりあえず、日帰りで戻られるそうなので、出席できるそうですよ」
「隊長も忙しいのに大変だなあ」
と、この話には一区切りをつけ、横島もすることがない為、来るかもしれない電話を待ちつつ、おキヌとの雑談に花を咲かせることとなった。
しばらくすると、「ただいま」と美神ら3人も戻ってきた。
「あ、美神さん、おかえr……」
「先生、こんにちはでござる〜〜!」
「どわっぷ!」
上司に挨拶を言おうとした横島は、突然飛んできた喋る犬尻尾の物体に突き飛ばされ、ソファーに後頭部をぶつける破目になってしまった。
「たたた……。シロ、少しは手加減してくれ」
「すまないでござる……。でも、拙者、朝は先生とサンポにいきたかったのでござるよ」
「でもだからと言って……ってて」
「横島さん、大丈夫ですか?」
毎度の事なのではあるが、おキヌが心配そうに見つめる。
「や、大丈夫だよ、おキヌちゃん」
「それなら、いいんですが……」
「あんたたち、仮にもこの事務所の所長を忘れないでくれる?」
声のした方を見ると、仁王立ちにそびえるボディコンスーツの女性、横島が上司、美神令子の姿。
「わ、美神さん、勘弁ッスよ〜」
「……まぁいいわ。怒る気も失せたわ。おキヌちゃん、飲み物何かある?」
「あ、はい、今もって来ますね」
取り敢えず、場も何とか和まって、騒々しいが、温かい空間が広がる。
が、そんな空間がこのGS美神のお話で長く続くはずもなく
「マスター、来客です」
「ん? 今日はもう仕事もないはずだけど。誰が来てるの?」
「それが……」
と、人口幽霊が言うよりも早く、扉が開かれた。
そこに居たのは……
「こんにちは〜、令子ちゃん〜」
「あら、冥子じゃない。どうしたの?」
そこに居たのは六道のお嬢様。黒髪のおかっぱがその幼さを引き立てるが、実は令子よりも年上。
式神使いの泣き虫お嬢様、六道冥子その人である。
「実は〜、明日冥子暇だから〜、令子ちゃんを遊びに誘いにきたの〜。エミちゃんは何かどこかへ行くみたいだし〜」
「え"っ? 冥子、あんた花見に誘われてないの?」
「え〜? 花見ってなんのこと〜?」
と不思議そうに首を傾げる。
おかしいと思った美神は、そっと横島に小声で話しかける。
(ちょ、横島、あんた冥子は誘ったの!?)
(え、ちょ、ちょっと待ってください。えっと……、たしか……)
と、来ることになっている人を最初から振り返ってみる。
元々、この花見は妙神山でやる、だから小竜姫様に、猿神、パピリオは参加。
自分に、美神、おキヌ、シロタマも当然参加。
一番最初に誘いに言った魔鈴も参加。
カオスとマリアに、エミ、タイガー、魔理も参加。
雪之丞、神父、ピート、それに西条に弓も参加は決まっていた。
そして今朝、小鳩に美智恵も参加。今まで決まった面子はこれだけだ。
そして、いくら見返しても、その中に「六道冥子」の名前はない。
(あ……)
そして、そのことに気がついた横島はサーッと血の気が引いていった。
(……あんたもしかして、一番忘れちゃヤバいところを誘い忘れてたの!?)
(そ、そのまさかです……)
(あ、あんたはァ! とりあえず怒るのは後にして、今は冥子を落ち着かせないと!)
と、冥子の方を見返した美神と横島が見たものは、
「もしかして、令子ちゃんも、冥子に内緒でどっかいくの? 冥子だけ置いて行くの? う……、ふぇ……」
今、まさに嵐を吹かせんとする、黒雲であった。
「あ"〜〜〜ッ、す、すと〜っぷ!」
そして、黒雲は本土へと近づき、
「ふぇぇ〜〜ん!」
猛烈な嵐を吹き降ろした。
そして、話は冒頭に戻る。
暴走した式神により、物が吹き飛ばされ、被害を受けないようにと、事務所の面々は逃げ惑い、何とかソファーの陰へと身を潜めていた。
あまり、冥子の暴走に巻き込まれたことのないシロタマなど、ぶるぶる震えてしまっている。
「よ、横島ァ! なんとかしなさいよ、あんたのせいでしょうが!」
「す、すんませーん! なんとかやってみまっす!」
と、ソファーからちょっと身を乗り出してみると、そのすぐ真横を式神の一匹が通り過ぎ、慌てて、ソファーの陰へと舞い戻る。
「ちょ、戻ってどうするのよ!」
「だってぇー、俺だって怖いもんは怖いっすよー!」
「ど、どうするのよお!」
結局、冥子の暴走がとまったのは30分後、時給のカットという人質を出された横島が決死の覚悟で使用した「鎮」の文珠によりだった。
この30分の体験で、シロタマは冥子だけは泣かせてはならないと、深く心に刻んだ。
「え〜、みんなで花見〜。行く〜、冥子も行く〜」
「そ、そう……。」
と、あっさりと冥子の同行も決まった。
さすがに、あの騒ぎの後だけに、美神の顔にも、疲労の色が見え隠れする。
なお、今回の鎮静騒ぎの最高の功労者は、ぼろぼろになり、ソファーでおキヌのヒーリングを受けている真っ最中なので、残念ながら会話に加わることはできない。
「じゃあ、冥子帰るね〜。明日が楽しみ〜」
「また明日……」
と、あっさりと冥子は帰ってしまった。
「さすがに疲れたわ……。ゴメン、おキヌちゃん、ちょっと横になるわね」
「あ、はい、お休みなさい」
騒ぎを起こした張本人が何事もなく帰ってしまい、さすがに疲れたのか、そのまま美神もソファーでごろんと横になってしまう。
そして、夕方に目を覚まし、花見の為の買い物を忘れていたことに気がついて、また一騒ぎあるのだが、また、それは別のお話と言うことで。
何はともあれ、いよいよ、花見開始
果たして彼らの花見にて何が起こるのか、それは神様すらも未だ分からない
あとがき
どうも、へたれSS書きのわがち〜です。
当方の諸事情により、大幅に遅れてしまい、関係者様方、管理人様、及び当リレーSSを期待されていらした方々、真に申し訳ありませんでした。
以後、いろいろな面で、気をつけようと思います。
そんな長くお待たせしてしまったのに、大した内容でなくてごめんなさい……。
次回より、花見が始まります。そんな次回を書くのは、大御所、infarmさんです。
今後の順番は以下のとおりです。
7話目 infarmさん 8話目 皇月さん 9話目 仙台人さん 10話目 豪さん
では……infarmさん、後はお任せしましたッ!