横島とパピリオが順調に花見のメンツを集めている頃。花見はまだ一週間先だというのに、せっせと会場設営をするモノたちがいた。
「あ〜、そこは方陣の属性を大地から山へ変えてくれ。その後簡易結界で保存を」
ほころび始めた桜の木々の中、何やら大規模な術を組み込む指揮を取るのは土偶羅。わざわざこのためだけに魔界から借り出された、演算ではピカイチの兵鬼である。
「解りました。しかしお花見というのは、ピクニックのようなものなんでしょう?なぜここまで堅固な結界を?まさかどこか、例えば反デタント派による襲撃の情報でも…」
土偶羅の指示に従いながら、そう問いかけたのはジーク。魔界軍情報士官にして、妙神山へ留学中の魔族の青年。
しかしそのジークの懸念を、土偶羅は短い腕をちゃっちゃと横に振って、アッサリと否定する。
「あ〜、違う違う。そんなたいそーなもんじゃない」
「え?じゃあなんでこんなに…」
その質問にどう答えたものか、しばし目を瞑って演算してから土偶羅は逆に聞いた。
「なぁ、ジークフリード。今回花見に来そうなメンツのリストは解るな?」
「ええ」
「それでな?花見というのは、決まって酒が付き物なのだよ」
「は、はぁ…」
「それでだ。あのメンツにだ。酒が入ってしまったらどうなるか……最悪のケースを想定できるか?」
「………………」
ジークの額と背中に、嫌な汗が伝う。
美神令子と横島忠夫を始めとするあの面々が関わっては、正直情報士官とは言えどうなるのか予想がつかない。
しかも、今回はそれにアルコールが入るという……
ますます想像がつかない。というか、想像したくなかった。
「まー、そういうわけだ。備えあれば憂いなしというし、な?このくらいの結界は必要だろう?」
「ええ、よく解りました」
この上なく納得したジークは、素直に頷いた。
しかし、彼はこの時いくつかの点を見逃していた。例えば、この結界の効果が防御や周囲への影響の緩和だけではない事。
例えば、エネルギーは地脈を利用しているが、その力を貯めて何か別の術に使えるようにしている事。
そして舞い散る桜の花を生贄に見立てて、何かを肩代わりさせようとしている事…
「ほんのひと時だけでも……か。叶うといいな、ポチ……」
「え?何ですか?」
「いや、なんでもないよ。それよりそこの術式は…」
一週間後の花見に向けて、術式は書き上げられていく。
そして、その頃…
「どうしまちゅか?コレ…」
「う〜〜む…いっそ亡き者にして弓さんを俺が…」
行き倒れた友人、雪之丞を落ちていた枝でつつきながら、横島とパピリオはその扱いを相談していた。
何気に薄情である。
そして「そんな…雪之丞が死んだなんて…」「弓さんっ!大丈夫…弓さんには俺が付いているじゃないか!」「横島さんっ!」と横島が繰り広げる妄想一人芝居を聞いて、流石に黙っていられなくなったか倒れていた雪之丞がゾンビのように立ち上がる。
「よ〜こ〜し〜まぁぁ〜〜」
「しっかりしろ!雪之丞、傷は浅いぞ!」
「今気を失ったら死ぬでちよ!」
ころっと手の平を返し、それまでの態度と打って変わって雪之丞を介抱する2人。
「お、お前らなぁ………ま、まぁいい。それよりメ…シ…」
ガクッ
そんな2人にそれだけ言い残し、残った力を使い果たしたのか、雪之丞は再び気絶した。
「あ、また気絶しまちたね」
「今度こそ死んだかな?おーい、やっほー」
ぺちぺち
頬をたたき、目を開かせて瞳孔を確認。そして横島はおもむろに文珠を取り出した。
「え?そんなにヤバいんでちゅか?」
文珠を使うと解って、少し慌てるパピリオ。あくまでギャグですむと思ったから、今まで慌てずに雪之丞で遊んでいられたのだ。人間なんて屁とも思っていない(長姉談)彼女だが、さすがに知っている人間なら話は別だ。
横島は少し焦ったその問いに、困ったような顔でこう答えた。
「いや、なんつーか……俺、こいつにメシ食わすような金、持ってないんだよ…」
「へ?………………え〜っと、だから文珠で代用を…?」
「…ああ…」
ひゅ〜〜〜…
春だというのに、肌寒い風が吹き抜けた。みんなビンボが悪いんや。
その後、文珠で腹を“満”たされた雪之丞は横島らに同行し、唐巣神父の教会で家庭菜園の野菜を食いまくったあげくに腹を壊したのだが…
それがあの野菜のせいか、文珠の副作用かは解らない。
なお、花見にはピートも神父も、雪之丞も参加するそうだ。
その理由も、やはり言うまでもないだろう。
やっぱり、みんなビンボが悪いんや…
なお、同じ頃に電話で美神から誘われた西条、そしておキヌと魔理から誘われた弓の参加も決まり、花見のメンツは(諸般の事情で増えるかもしれないが)一応出揃った。
タイガーと違って、彼氏からの誘いではなかった弓が、甲斐性なしの誰かさんに拗ねまくったりもしたが、まぁそれは置いておいて。
花見の席まで、あと一週間。
BACK< >NEXT