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「世界はそこにあるか  第4話 (GS)」

仁成 (2005-05-04 21:22/2005-05-04 22:54)
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タマモは考えていた。

なぜ自分は横島のあとを追っているのだろうか、と


彼が仕事をやめたことは、彼の給料と扱いを考えれば簡単に予測できたことだ。
むしろ今までよく持ったものだといえるだろう。

だが彼が事務所を出た瞬間、何か嫌な、というよりは奇妙は予感がして、気が付いたら彼を追っていた。


自分は彼のことをどう思っているのだろうか。

彼は殺されそうだった自分を助けてくれた存在であり、今自分が人間の中で平穏に過ごせているのも彼のおかげだろう。

ならば彼が好きなのだろうか。

好きというと首を捻らざるをえない。

だが嫌いかと問われれば、即座に首を横に振るだろう。


事務所での彼は、あけすけで、バカで、スケベ。

だがそれだけでないことは、しばらくしたらすぐに気付いた。

彼の瞳は、本当の悲しみを知る者だけの優しさがあったから。


懐いている?

それはシロだ。


頼っている?

確かにそうだ。事務所の人間は全員そうだろう。


惹かれている?

彼の魂に?

なるほど、これが一番しっくり来るような気がする。


それは彼が好きという事とは違うのか、と思うがやはり違う。

だってこれは好きなんかより……


そこまで考えてタマモは思考を中断する。

馬鹿馬鹿しい。

そんなことより今は彼を見失わないことのほうが重要だ。


自分の気持ちはひとまず置いておき、タマモは彼を追いかけるのだった……。


世界はそこにあるか  第4話


小竜姫は困惑していた。

いやそこにいるほとんどの者がそうであろう。

突然上官から命令として、妙神山に行けということを言われ、何のことか分からぬうちにやってきたワルキューレ、ジーク、ベスパ然り。
ちなみにジークはこのとき妙神山を離れており、魔界で留学生としてのレポートの作成と、書類整理をしていた。

ヒャクメも同じようなものである。

小竜姫は早く説明してもらいたかった。

いくら妙神山が人界では最高クラスの霊山とはいっても、神魔の最高指導者である二人がいるのは場違いすぎる。

キーやんが説明すると言ったとき、彼女はすぐに説明があると思っていたが、すぐには行われず、なぜか今全員でコタツに入っている。

そして目の前には鍋。

中身はてっちり。

サッちゃんが鍋といえばてっちりやろ、といった結果である。

確かに今は12月。鍋には最適の時期だ。

妙神山でも鍋を食べることはあったが、こんな状況は異質もいいところだ。

普段とさほど変わらないのは、いつも自然体の横島。

鍋にお揚げさえ入っていれば満足のタマモ。

みんなで楽しく食事ができればそれでいいパピリオ。さらに今は横島だけでなく、べスパもいるので彼女の機嫌は最高にいい状態である。

あとは年の功か、あまり動じていない老師。確かに最初に二人を見たときは驚いていたようだが、もう慣れてしまったようだ。

「では説明しましょうか。あっ、皆さん、鍋食べながらで結構ですよ」

キーやんはこう言ったが、普通の者に最高指導者の言葉を、鍋をつつきながらなど聞けるはずがない。
もっとも、もうすでに食べ始めているものもいたが。

「はよ食べないいとこ全部なくなってしまうで。見てみぃ、あの食べっぷり。ほれぼれすると思わんへんか?」

「しょうがねーだろ……。ふぐなんて久しぶりなんだからさ。大阪にいた頃はよく食べてたけどな」

サッちゃんが周りに問いかけると、すぐに横島が反論する。

だがこのやり取りで周りの空気が少し軽くなり、他の者も少しづつ箸を伸ばし始める。

「じゃあ、改めて説明しよか。今日ここに来たのは横っちのためやねん」

「そうです。前の戦いから少し時間は経ってしまいましたが、この宇宙崩壊の危機を未然に防いでくれたお礼と、我々の問題であったのに何もできず、貴方に辛い思いをさせたお詫びに来ました」

「具体的には直接の過去に行く権利やな。これで歴史が変えられるから」

これを聞いてほとんどの者が驚愕していた。

神魔の最高指導者が時間移動を、歴史を変えることを認めるなど考えられることではない。
横島も箸が止まっていた。

「ちょ…ちょっと待ってくれよ。確かに直接の過去に行くことは可能だろう。俺の文殊や美神さんでもできると思う。俺達ではそれを確認できないが、あんたらなら間違いなく送ってくれるんだろう」

そこで横島はいったん言葉を切り、周りを見回す。

「だが俺が過去を変えれば、いや俺が過去に行った瞬間からそこは平行世界になるはずだ。確かに俺の知っている歴史とは違う道を行くかもしれないが、それじゃ意味がない」

これならその宇宙では、自分はルシオラと幸せに暮らすことができるかもしれない。

だがそんなものは欺瞞にすぎない。

自分の欺瞞の中で笑うルシオラ。

それを想像し、彼は悲しくなった。

その宇宙の彼女は欺瞞でもなんでもないのに、自分がそうさせているのだ。

「おぉ、なんか賢そうなキャラになってるやん。あかんなー、自分のキャラは大事にせなあかんで。大丈夫、そこらへんはちゃんと考えてんねん」

サッちゃんが冗談混じりに言う。

もちろん横島の今の気持ちを理解し、場を和ませるためだ。

そんな彼の思いやりが横島にはありがたかった。

「まぁ、そうでなくてもするつもりはないさ。俺の中にルシオラがいるように、俺の周りの人たちの中にも大なり小なり俺がいると思うからな。俺が時間移動するってことはみんなからそれを奪うってことだ。俺はもう何も奪わない、奪わせない、そう決めてんだ……」

横島の言葉に周りも何も言えない。

だが彼女らは横島が自分達のことをそこまで想ってくれている、ということが分かり嬉しかった。

「大丈夫です。その辺りもちゃんと考えています」

沈黙を破り、キーやんが平然と言ってのける。

「そ、それはちょっと御都合主義すぎないか? それに考えてるっていうのはみんなの記憶を消すってことじゃないだろうな?」

「そんなことしませんよ。それに御都合主義は我々の専売特許です。神話や聖書なんて御都合主義だらけですから」

「まあこんな話いきなり信じられへんのも分かるけどな。でも信じたってくれへんか? わしら…友達やん……?」

サッちゃんが不気味なほどの笑顔でサムズアップする。

あの時の再現だ。

数秒間見つめあう二人。

「な…なぜだ…………。彼の言うことを信じたくなる……。彼の目が離せない。胸が高まる……。まさか……これが恋……!!!?」

「横島さんっ!」

横島は後頭部に鋭い痛みを感じる。

小竜姫がハリセンで横島の頭をはたいたのだ。

何でそんな物がここにあるのか、いつの間にそのハリセンを出したのか、聞きたかったが、誰も聞かなかった。

もしかしたら小竜姫が横島が来たときのために自分で作っておいたのかもしれない。

横島が来ることを想い、部屋で一人、ハリセンを作る小竜姫……。

おそらくないだろう。

「うーん……。じゃああんたらを信じてしてみようかな。もしそれができるんなら願ったりかなったりだし」

横島が深く考えながらそう言うと、

「いいんでちゅか、ヨコシマ……」

パピリオが心配そうに声をかける。

彼が時間移動する理由の大部分は自分の姉、ルシオラのためであろう。

彼女もルシオラがいれば嬉しい。
だがそのために横島に自分を曲げて欲しくなかった。彼に犠牲になって欲しくはなかった。

他のみんなも彼を心配そうに見つめている。

「大丈夫だって! さっきの言葉の割にあっさりしてるかもしれないけど、条件さえクリアされるなら言うことはないし。まぁどうやってかは分からんけど。みんながもっと幸せになれるようにがんばるさ」

横島は分かっていた。

みんながみんな今より幸せになることなんてない。

世界はそんなに都合よくできていないことも……分かっている。

だが少なくともルシオラは……、彼女は幸せになってもいいんじゃないか、なれるんじゃないか、とだけは思っていた。

「じゃあ、話が纏まったとこで横っちには修業でもしてもらおか」

「はぁっ!?」

突拍子もない意見。

彼には修業と時間移動がどう結びつくのか分からなかった。

「今のままで行っても、貴方ルシオラさんたちにすら勝てませんよ。それに過去に送るのは貴方の精神ですからね。時間移動で魂が目減りするかもしれないんです。ですから修業して鍛えてください」

キーやんとサッちゃんが立ち上がり横に並ぶと、その間に黒い空間の割れ目ができる。

「ここが私達で作り上げた空間『精神と時間の空間』です。ここでは一年がこちらの時間で一時間ですから老師や小竜姫さんと存分に修業してください。おそらく十年ほど修業すれば大丈夫だと思います」

「何だよそのぎりぎりのネーミングは……」

そう呟いて、横島は考え込んだ。

確かに今のままではメドーサに勝てるかどうかも分からない。五分五分といったところだ。過去に彼女に勝っているのは竜神の装備あってのものだ。

だがこの展開。

また『都合がいい』……。

まるで誰か、目の前にいる二人以上の誰かに仕組まれたような……。

ここまで考えて横島は深く思考するのをやめた。

どちらにせよこれから修業をするということは無駄になることはないだろう。終わってから止めると言ってもいいはずだ。

そう思って横島は立ち上がる。

老師や小竜姫も同じだ。

「ねぇ、私もそこに入っていい?」

とつぜんタマモが言い出した。

「貴方も修業したいんですか?」

「うーん……、まあそんなところ」

タマモはキーやんの言葉を曖昧に誤魔化す。

「ええんちゃう。中の居住スペースはあんま広ないけど、狐さんぐらいやったら大丈夫やろ」

横島はじゃあ頑張ってくるわ、とだけ言い、四人は空間の中に入っていった。

「じゃあ私達は彼らが出てくるまで、席をはずします」

「あんたらにも後で言いたいことあるからしばらくそこにおってな」

そう言うとこの二人もさっきの四人と同じように消えていった。


「わ、我々は今から何をすればいいんでしょうか……?」

「知るか! 私に聞くな!」

「暇なのねー」

「まずは鍋を食べるでちゅ! それからみんなでゲームをしてればすぐでちゅよ!」

「まあとりあえず、鍋を食おうか……」

最高指導者に言われてはそこを動くこともできず、残された五人は、とりあえず残された鍋をつつくのだった……。


「なあ、時間移動で魂が目減りするってほんまなん?」

「さあ? 分かりませんが、おそらくそんなことにはならないでしょう」

「………」

「………」

「嘘も…」
「方便」

サッちゃんはニヤリと口元を歪めるとそこから消える。

「ちっ、違……。私は貴方に乗せられただけで、嘘などついてはっ! ただ本当のことを言っていないだけで!!」

ひとしきり誰かに言い訳すると、彼もまたどこかに消えていった。


あとがき
今回はいるにも拘らず、ほとんど喋っていない人多数!
まあタマモは最初のところで割と心理描写してますが。
あまり喋る必要がないというか、今回重要なのはそこじゃないでご容赦を。
次回はほとんど修業かな?
ちなみに大阪で鍋といえば、ふぐとカニが二大派閥だと思います。
冬休み帰ったときそんな番組してたし。

今回も読んでいただきありがとうございました。

レス返しは、ルーくんの予想以上の人気で、レスをたくさんいただいたため、第3話の記事に付けさせていただきました。
ありがたいことです。


では。

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