むかしむかし
ルシフェルという大天使がいました。
彼は大阪弁でしたが、天界で最も美しく、そして最も神に愛された者でした。
またあまりの美しさから、彼は『明けの明星』や『光をもたらすもの』とさえ言われたほどでした。
そんな神に一番近い彼は、ある日思いました。
こんな地位にいるのだから一度は謀反ネタをしなければいけないんじゃないか、と。
彼はなぜか思考方法まで大阪人そっくりでした。
お約束は必ずしなければといけないと思っているのです。
ですが当然、謀反ネタなんて誰もわかりません。
「ドッキリ」と書かれたプラカードも一応持っていましたが、そんな物出す暇がないほど大人数でフクロにされ、地獄に堕とされてしまいました。
ネタも分からんやつらとはもう付き合われへん、と彼は怒り、堕天使ルシファーとなり、いつの間にか悪魔の支配者であるサタンと呼ばれ、最高指導者になっていました。
フクロにされたことはどうでもいいのか、と他の悪魔達は思いましたが、そんなことを彼につっこめる者は誰もいませんでした。
ですがもちろん彼がツッコミ待ちだったことは言うまでもありません。
そして誰もつっこまないことに対するイライラが、いい具合に人界への災厄となって振りまかれたのでした。
また他人にまでネタの理解を求めたことから、彼の罪は『傲慢』とされました……。
世界はそこにあるか 第3話
横島とルーくんと呼ばれた者により、かなり場違いなフレンドリーな空気が漂う。
だが、当然ずっこけていた者達もそのままでいるわけがない。
「あの、横島さん……。どうゆうことなのか説明してもらえませんか?」
小竜姫が横島に説明を求める。
「ええそうですね。是非説明していただけませんか? ねぇ……、『ルーくん』!!」
二人組みのもう一人もルーくんを睨みながら、二人に説明を求める。
「え、えっと……。少し前に会ったんすよ。それで、いろいろ話したりなんかして……。そんだけ、何すけど……」
周りの気迫に押され、横島がしどろもどろに説明する。
ルーくんは、うんうんその通り、といった感じで頷いているが、こんな説明で周りが納得するはずはない。
「もう少し詳しく説明してくれんか? 他のみんなも気になっておるようじゃしな」
老師の言葉にパピリオは、自分は違う、ということを言いそうになるが、小竜姫にすぐさま押さえつけられる。
彼女が早くみんなでご飯を食べて、横島とゲームをして遊びたい、というのは老師も小竜姫も分かっていたが、こんなところで話の腰をおられるわけにはいかない。
「あんまり面白い話じゃないんですけど、いいすか?」
横島の問いに、老師、小竜姫、そして二人組みのもう一人が頷く。
それから話された横島の話はこんなところであった……。
今から一月ほど前
横島がバイトを終え、彼の住むアパートへと帰ってくると、アパートの前に誰か倒れているのを見つけた。
「おい! 大丈夫か!」
呼びかけても返事はなく、しょうがないので彼は自分の部屋へ運び込む。
しばらくすると、倒れていた者も目を覚ました。
「ここはどこ? 私は誰?」
「いきなり記憶喪失ネタかよ! それに今の流行りは、『知らない天井だ……』だ!」
それが流行りなのかは疑問だが、雰囲気からネタだと分かり、すぐさまツッコミを入れる。
すると彼はやたら嬉しそうな顔で横島に握手を求め、横島も何がなんだか分からなかったがその握手に応じた。
「ところであんた名前は? 見たところ魔族みたいだけど」
「ありがとう、浜村淳です」
「分かりにく! そのネタ分かりにく!」
「福井敏夫でございます、の方がよかった?」
「それも分かりにくいわ! その人最近お亡くなりになられたし! じゃなくて、あんたの名前はなんなんだよ」
彼は満足したように、ルーくんと呼んだって、と伝えた。
「どうする? 水でも飲むか? それともカップうどんでも食うか? 幸いうちにはとある事情からカップうどんだけはたくさんあってな。ちなみにカップうどんっていうのは、お湯を入れて数分待つだけで食べられる、人間の発明した至高品だ」
浜村淳や福井敏夫をネタにするやつに説明が必要か、とも思ったが相手は魔族なので律儀に説明する。
するとルーくんが両方欲しいと言うので用意し、横島も自分の分のカップうどんを用意する。
彼らはお互いカップうどんをすすりながら、最近の世界情勢やら最近のお笑いブームやら最近の仕事のことを話している。
知っている人が見ればかなりシュールな光景だが、もちろん二人にはそんのことは関係ない。
「ところでええんか? 魔族なんか助けてもうて? あんたGSなんやろ?」
「きゅ、急にまじめな話になったな……。でもまあそんなことは気にすんな。困ったときはお互い様って言うだろ。それにあんたあんま悪そうじゃないしな」
横島はそう言うと、にかっと不気味なほどの笑顔でサムズアップする。
そしてルーくんもサムズアップを返す。
その後しばらく話をした後、ルーくんは去っていった。
結局横島は彼の名前しか知ることはなかったが、彼の心には確かに友情の気配が残っていたのだった……。
この説明を聞いて、全員――もちろんパピリオ除く――唖然としていた。
話の内容もそうだが、老師と小竜姫にとっては横島の方が常識人に見える、というのも十分驚くべき内容だった。
横島にしてみれば失礼以外の何物でもない……。
さっきまであんなにシリアスなやり取りをしていたのに。
「あの、しばらくそこで待っていてくださいませんか? お時間は取らせません。もうすぐヒャクメやワルキューレ達もやってくると思いますんで、そのころには帰ってきますから」
二人組みのもう一人が申し訳なさそうに言う。
だが彼らも特に急いでるわけではないので了承する。
もっとも二人のことを知っている、老師と小竜姫には断れるはずもないのだが。
彼はありがとうございますと言い、二人は空間に溶けるように消えていった。
「どういうことですか?」
二人組みのもう一人があきれたように尋ねる。
「どういうことって、横っちが説明した通りやけど? それにしてもさっきのあんたのずっこけ良かったなー。ますます気に入ったで!」
ルーくんは自分に対してしっかりツッコミを入れてくれる彼を、神族ではあるが気に入っていた。
「私が聞きたいのはそんなことではありません! この忙しい時期になぜ行ったんですか? それにどうやって!? あなたほどの人が人界に行けば誰か気付くはずでしょう!」
「天使のような清らかさと、悪魔のごとき狡猾さをあわせ持つわしにとっては軽いことやで」
「どんな方法なんですか……。それに悪魔の如きってあなた悪魔でしょう……。まあ方法はいいです。それよりも理由を教えてください」
彼ほどの者が行ったと言うのだから、何かしら特別な方法があったのだろうが、今それは重要ではない。
どんな方法にしろ彼が行った、という結果には変わりない。
「横っちに早く妙神山に行ってもらわなあかんかったしな。そのための細工や」
「なっ! まさか! あなた彼を洗脳したんですか!? こ、この腐れ外道の悪魔がーーー!!!」
そう言って、もう一人がルーくんの首を絞め上げ、前後に大きく揺さぶる。
「ちょ、ちょっ待っ……、確かに悪魔やけど!」
さすがルーくん。首を絞められていても相手に対するツッコミは忘れない。
しばらく絞め上げ続けた後、ようやく彼を放した。
「はぁ…はぁ……。危うくこんな所で死ぬとこやったわ。あれは指向を妙神山に向けただけやねん。 洗脳してたらもっと早く来てるはずやん。それに自分がやらなあかんことはちゃんとやってるし」
「まあいいでしょう……。それより分かっていますね?」
「当たり前やん。あとは時間との勝負やな……」
「ええ。では戻りましょうか」
二人が再び横島たちの前に姿を現す。
そこには新たにヒャクメ、ワルキューレ、ジーク、ベスパがいたが、彼らの驚きは想像して余りあるだろう。
だがこれで神界、魔界の横島忠夫の関係者がほとんど揃ったことになる。
「では改めて自己紹介しましょうか。私は神族の最高指導者のキーやんです」
「そしてわしが魔族の最高指導者のサッちゃんや。よろしゅう」
二人組みのもう一人改めキーやんと、ルーくん改めサッちゃんが挨拶する。
「何ー!? あんたがそうやったんかーーー!!!」
横島が叫ぶが、彼が分かっていないことは全員分かっていたので、特に何も言わない。ぶっちゃければ流した。
「じゃあ私達がここに来た理由を説明しましょうか」
「そうやな。そこの狐さんもどうや?」
サッちゃんの見ている方に視線を向けると、門が少し開いており、その隙間からタマモがぴょこんと顔だけ覗かせている。
かなり可愛らしい感じである。
「タマモ! 何でこんなところに!? それにしてもあの二人組みといい、タマモといい、急に登場するのが流行ってんのか?」
「鬼門は何をしているんです? 誰か来れば彼らが知らせるはずなのに」
「幻術で黙らせてる」
タマモがぶっきらぼうに呟く。
すると小竜姫は大きく肩を落として溜息を吐き、彼らへのおしおきを考え始めた。
あとがき
最初のところのは流してくださって結構ですw。彼の堕天をこんなあほな理由にした方は他にもいるんでしょうか?
それとついに! 二人組みの正体が明らかに!
前回の横島のルーくん発言ですが、彼は皆さんの予想の斜め上(下?)をいったと思うんですが、どうでしょう?
そしてタマモも登場だけしました。シロはどうしたんだって方も居られるでしょうが、彼女は逆行後の登場になります。すいません。
今回も読んでいただきありがとうございました。
そして愛すべきお天気おじさんである福井敏夫さんのご冥福を祈ります。
>3×3EVILさん
そうらしいですね。「時間旅行者のための基礎知識」か。
有名な本なんで知ってはいるんですが、
……正直未読ですw 勉強しときます……。
>桜葉さん
結局彼は全く何も知らなかった。ということでしたがどうですか。
彼らしいとは思うんですけどね。
プロローグのときに続き、過分な評価ありがとうございました。
>之さん
大暴走篇(とも言えないかな)はどうだったでしょうか。
期待に応えていればいいんですが。
>通りすがりさん
正直誰をヒロインにするか考えてないんですよ。
ルシオラは当然(だと思う)として他は……。彼女出てくるの遅いですから。
小竜姫は好きですし、タマモも……。この二人が主かなぁ……。
>ルーさん
分かってくれますか! 私は量は大したことないけど、精神的にきました。
しかも下書きしてないから、思い出しながらなんでさらに時間がかかります。何と書いたか忘れてしまった表現がかなりに出てきましたし。
前回スルーされた人は今回も扱い悪いですw
>Mさん
ありがとうございます。
楽しみにしていただけるような文章を心がけたいと思います。
>これって「見目麗しい」の間違い?
こっちが正しいんですね。直しときました。
では。
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