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「世界はそこにあるか  第2話 (GS)」

仁成 (2005-04-30 16:53/2005-05-03 11:12)
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妙神山


世界でも有数に霊格の高い山で知られるそこは、霊能を志すものにとって、最高の、そして最後の修業場である。


『この門をくぐるもの 汝一切の望みを捨てよ 管理人』


という言葉が示すように、強くなるためには命が対価となるのが当然の場所であり、当然その『覚悟』ができているものが訪れる地である。


また一部では、見目麗しい竜神の姫が管理人をしていることでも有名である。


世界はそこにあるか  第2話


彼女の後ろから付いて行くのではなく、隣に立ち、共に戦いたかった。
彼女の背中を守りたかった。

それがきっかけ。

だが彼は恐怖がいやだった。痛苦がいやだった。
命を懸けるなんてもってのほか。

半ば成り行きのように修業を受け、結果としては彼は強くなった。

『覚悟』なんてさらさらなかったが、それでも彼は戦場に出続けた。

そしてその戦場で出会ってしまった。

一人の女性に。

彼女は心から彼を愛した。

そして彼も始めて『覚悟』した。命など惜しくないと思った。

だが結局、彼は生き残った。彼女の命を「対価」として。

対価は自分の命のはずだった……。


世界は再び戦場から日常へ。

強くなる以前から、霊能に目覚める以前から続く日常。

確かに彼は変わってしまった。心は変質してしまった。

だが彼はこの日常の永遠を信じた。こんな生活がずっと続くと思った。
だから彼は道化を演じた。
以前と同じような自分を。

しかしこんな幻想も長く続かなかった。

彼の体に起きた異変。内側からの力。

放置すれば死ぬ。
本能的にそう覚った彼はそれを抑えるため、仕事が休みの日などに独り、山奥などで修業を始めた。

基礎すらできていない彼にはかなりの労力だったが、修業の末、何とか自分を食い破ろうとする力を、抑えることができるようになっていた。

だがその後、彼を襲ってきたのは凄まじいほどの孤独感と喪失感だった。

はみ出してしまった自分。

確かに自分の中にはルシオラがいる。独りではない。

だが彼女は何の言ってはくれないし、触れることもできない。
微笑んでもくれない。

自分はもう他人と交わって生きていくことはできないんじゃないか、という恐怖。そして自分はもう他人と交わって生きていかないほうがいいんじゃないか、という疑問。

普通の人のように、普通に将来を考える中で、人類の限界云々という考えが出てきたのもそこからだった。

彼の中ではもうすでに、恐怖に関する感情はほとんど払拭されていたが、いきなり就職活動に失敗したあの状況では弱気になるのも仕方ないであろう。


過去の自分と訣別する。

そんなことを思って妙神山に来た横島は、今までのとりとめもないようなこと考えていた。

もうすでに誰が出てきたとしても、シミュレーションは万全である。

もっともそれは、まずきちんと挨拶して、それからは今の自分のあるがままを見せよう、という流れに任せたお粗末なものであったが。

「久しぶりだな、鬼門」

「おぉ……、横島か。久しぶりだな」

鬼門達の言葉が素っ気ない。

いや、というよりも若干怒っているようにも見える。

これからほかのみんなの様子が安易に想像でき、横島は軽く心の中で嘆息していると、


バンッ!


妙神山の門が勢いよく開いた。

そこには小竜姫が立っている。

「小竜姫…様……」

挨拶しようとした彼は驚きで口を閉じる。

目の前の小竜姫がいきなり涙を流し始めたからだ。

小竜姫はゆっくりとした足取りで彼に近づくと、不意に彼の胸に顔を沈める。

「うぅ……。もう…嫌われて…いると思ってました…。怨まれているんだって…、もう見放されたんだって……。で…でも、また来て下さって…………」

小竜姫が涙声でたどたどしく語る。

だがついに感極まったかのように大声で泣き始めた。

「うわぁぁぁ!!!!! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」

謝り続ける。ただひたすら。

そんな彼女を見た横島は、すんませんでした、とだけ呟いて彼女を軽く抱きしめ続けた。


小竜姫は横島の霊能を見出したのが自分だ、という自負があった。それは彼女にとって誇りですらあった。

だが彼が戦場に立つきっかけを作ったのも自分。

そして何より彼が本当に苦しいとき、本当に辛いとき何もできなかった、何もしなかったのも自分と思っていた。

彼女は戦い以来、自分を責め続けた。

彼が妙神山に来ないのも自分のせいだと思っていた。
そして彼のことを考える中で、自分が彼に嫌われたくない、彼の側にいたい、彼が堪らなく愛おしい、そんなことを考えている自分に気付く。

彼女はそんな自分を、身の毛がよだつほど、浅ましく、醜く感じていた。


そんな彼女をさらに追い詰めることが起きる。

横島の体に異変が表れたことだ。
それを聞いた彼女は少し救われる思いだった。

そういうことならば彼はきっとここに来てくれる。

確かに原因は自分の不甲斐なさかもしれないが、やっと彼の役に立てる。彼を助けることができる。もしかしたら自分を許してくれるかもしれない。

そう思っていた。

だが実際には彼は自分ひとりで修業を始めてしまった。

それを彼の不幸に少しでも喜びを感じてしまった自分のせいとし、さらに自分を責め続けた。


そして今日、妙神山に来る彼の霊気を感じた時、彼女はどうしていいのか分からなかった。

とにかく謝ろう。それで許されるとは思わないが、今の自分のあるがままの気持ちを知ってもらおう、と考えていた。

だが、実際彼の顔を見ると、そんなことはすっかり忘れてしまい、ただ泣き、ただ喚いてしまったのだ。

彼が自分を責めてなどいないと、嫌ってなどいないと分かったから……。


しばらく横島が小竜姫を抱きしめ続けると、彼女もやっと落ち着いたようだ。

するとタイミングを計ったかのように、老師とパピリオが現れる。

「久しぶりじゃな、小僧」

「そうでちゅ! 何でずっと来なかったんでちゅか! さみしかったんでちゅよ! あっ、小竜姫。もうそろそろ離れるでちゅ。次はパピの番でちゅよ!」

そういってパピリオが小竜姫を引き剥がそうとするが、彼女はずっと横島に抱きついたままである。

「落ち着け二人とも! それと小僧、お主に少し聞きたいことがある」

老師の威圧のこもった真剣な言葉に、パピリオも動きを止める。

「お主、なぜ体に異変が起こったとき、魔族化が始まったとき、一人で解決しようとした? なぜ我々を頼ろうとしなかった?」

「知ってたんすか……。それにしてもあれってやっぱ魔族化だったんやなー」

「正確には半魔化だがな。一つ断っておくが、お主を監視などはしておらんかったからな。まあ意識の内側には置かれていたようじゃが。一瞬とはいえ、あれだけの波動が出ればいやでも気付くわい。それにあれは予測の範囲内だったらしいからな」

「どうゆうことっすか」

「簡単な話じゃ。因果律、この世の絶対法則とも呼べるもんじゃが、それで考えると、ルシオラの霊波片を取り込んだ、という原因から、お主が半魔化する、という結果が生まれることはほぼ必然じゃ。まあそれはおいといて、もう一度聞くぞ。……何故じゃ?」

しばらく場が沈黙する。

横島は俯いたまま何も答えない。

だがもう一度老師が尋ねようとした瞬間、彼は意を決したように顔を上げ、口を開いた。

「何もせずにルシオラのことを他人に任せるなんてできなかったんです。自分にそれだけの価値があると証明したかった。それに……あの頃は、神族のことを完璧には信じれなかったからかもしれません」

最後の言葉に、小竜姫の顔が陰る。

「あの頃はっすよ。今はそんなこと全然ありませんから。今日も就職と修業の相談に乗ってもらおうと思って来ましたし」

横島があわてて弁解する。

「馬鹿もん……。お主はわしの弟子で、わしはお主の師じゃ。そして妙神山はお主の家族同然。確かに他人任せにしたくないという気持ちは分からんでもないが、相談ぐらいしてもばちは当たらんかったはずじゃぞ」

横島は申し訳なさとともに、かなり驚いていた。

老師がこんなに自分のことを思ってくれているとは思わなかったのである。

だが老師からしてみれば、管理人である小竜姫ですら暇になる妙神山で、数百年ぶりに現れた自分の弟子である。付き合いは短くとも、思い入れが強くなるのも当然だろう。

「まあよい。それより飯にでもしようか。その後、小僧の話でも聞くとしよう」


「えぇ、そうですね」
「そうやな」

彼らにとって聞きなれない声が突然混ざった。

「あ、あなた方は……!」

声のほうに振り向き、声の主達を見た小竜姫は驚きのあまりそれ以上喋ることができない。

時が止まったような感覚……。

だがその「時」は唐突に動き出した。

「よう、ルーくんじゃん! 何やってんだよ、こんなとこで」

横島が二人組みの一人を指差して言った。

「よう、横っち! 久しぶりやな」

「おいおい、いいのか。こんなとこにいて。あんた一応魔族だろ?」

「フフフ……、それは企業秘密やな」

「なんだよそりゃ」


時は動き出したが、余りにもあんまりなやり取りに、残りはパピリオ以外全員ずっこけていた……。


あとがき

今回は昨日出すはずだったんですが終盤で全部消える、という惨事に見舞われ今日になりました。それにしても小竜姫様ヒロインフラグ立ってますかねー。書き直してるときに思ったんすけど……。横島とシンクロしてるし。

それと今回出てきました、魔族化。
SS界では当たり前ともいえるありきたりですね。だからこそ、これには大きな理由を付けていません。
デタント崩壊(プロローグでも、寸前なだけでしてたわけじゃないんだけど。言ってみれば事実上の崩壊)も同じように特に特別な理由があって起こったことじゃありません。すごい理由を期待してくださった方、すいません。
でもこれはあえてなんで、後々「あっ、だからか」と思っていただけると思います。
……思ってもらえればいいなぁー。

次回は二人組みのことと、タマモン登場(?)を予定してます。

今回も読んでいただきありがとうございました。


>エイシャさん
分かりにくかったですかね(汗) 途中まで読んでいただければ分かったと思うんですけど……。精進しますんでこれからもよろしくお願いします。

>3×3EVILさん
痛いところ突かれましたねーw。
まああれは、
シュレジンガーの猫→多元宇宙論、多世界解釈→こいつ平行世界のことどうするつもりやろー(読んでくださった方)
と想起していただく装飾程度の役割だと今は思ってください。

>ルーさん
さすがに学生なんで(大学生だから余裕はあるけど)毎日はちょっと無理ですw。残念ながら。
まあ量には余りこだわらず、できるだけ頻繁に出したいと思います。
4について・右のと左の→鬼門 概念的に門→門
としました。その方がわかりやすいかなと思いまして。

>通りすがりさん
彼女にしてみれば、彼を失った理由を自分だけにしてしまっては耐えられなかったんでしょうね。それだけの存在だったということです。
 彼が将来をきちんと考え出したら、こういうことにもなるんじゃないかなー、と思いまして。
デタントに関しては今回あとがきで少し書きましたが、頑張りますんで期待してください、としかw


では。

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