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「心眼は眠らない その65(GS)」

hanlucky (2005-04-27 23:25/2005-04-28 00:10)
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魔神アシュタロス。
その頭脳は全ての神魔を超越し、その魔力は果てが見えない。
正に完成形である。

「アシュタロス!!」

対するは、皆の思いを受け継ぎ、《三》《位》《一》《体》を発動させ、人間の可能性を示した横島たち。
それは未完ではあるが、無限の可能性を秘めた者達。

「……下らない……実に下らない……」

未来に絶望した存在と、未来を、自分達の歩んできた道を信じる者達。

「今までの借り!! ここで百万倍にして返してやらぁー!!」

世界に呪われた存在と、世界に祝福されし者達。

「……横島……違うのだよ……それは、私が求めている答えではない……故に――」

故にアシュタロスは今、世界に戦いを挑んでいる。
この世界は、己の求めし場所はないのだから……

「――君は私に勝つことは出来ない……」

ならば、創るだけだ……どのような事をしてでも……


――心眼は眠らない その65――


「うっとちーでちゅね!!」

美神が門を潜ってから、西条たちは美智恵を前衛にパピリオと戦闘を開始した。
無論、まともな方法では、力だけならば上級魔神に匹敵するパピリオに勝てるわけがない。
そこで西条たちが取った方法は、サンチラの電撃を己の力に変えている美智恵を前衛にし、そこにマリアをフォローに入れる。
また、うまく連携を取るためにタイガーの精神感応力を応用させ、皆の意識を一つにしていた。
後は、おキヌがヒャクメに鍛えられた心眼を情報を得て、美智恵は独自で動くがマリアには西条がもっとも美智恵をフォローできるような指示を転送する。
後衛が魔力波で狙われても大丈夫なように冥子、エミ、唐巣、魔鈴達がそれぞれが持つ属性のバリアを張る事によって防いでいた。

「子供のおいたはそれまでよ!!」

美智恵は竜の牙を剣に変えて、パピリオを攻め続ける。
空母の時と違い、一対一ならばパピリオに勝つことは出来ない。
だが西条の指示を受け取っているマリアが、絶妙なフォローをしてくれるため、先ほどからパピリオを押し続けていた。

「パピリオ!?――っ!? 邪魔よ!!」

ルシオラの方は、パピリオと違い悠闇、シロ、ピートの三者を相手にしても互角以上の戦いを演じている。
そのためルシオラはパピリオのフォローに向かおうとするが、それだけはさせないと、三者も必死にルシオラとパピリオとの合流を防いでいた。
ルシオラは幾度も幻術を発動させていたが、その都度、悠闇が幻術に気付き、ピートにはエビル・アイの使用、シロには目を閉じて嗅覚を頼りにするように指示をする。

「いいのか? あせると碌な事はないとおもうのだが?」
「だまりなさい!!」
「全く……(こちらは横島に頼まれて、おぬしらに倒す事が出来ないと言うのに…………まぁ、かまわんがな。)」

百戦錬磨というは伊達ではない。
相手を巧みに挑発し、集中力を乱す。
心理戦で悠闇とタメを張れるのは、この場では美智恵ぐらいだろう。

「甘いです!!」
「くっ!? また!!」

それでもやっとルシオラが悠闇を追い詰めたと思うと、今度はピートがそこに割り込んでくる。
そしてピートを向き合おうとすると今度は、

「唸れ――八房!!」

シロが放つ、八房の閃光が飛んでくる。
悠闇、シロ、ピートがチームを組んで戦うのは初めてだが、ピートと悠闇は協力しながら戦うのは得意なため、思った以上の成果を出していた。
でなければ、すでにルシオラに負けていただろう。

そして、パピリオの方も限界が近づいてくる。
本来、マリアは兎も角、美智恵には霊力の限界があるはずだがそれを冥子の式神で補っていたため、常に全力で攻め続けられたのだ。
もし、パピリオが横島と一緒に拠点潰しで神魔と戦っていなかったら、すぐに決着はついていた可能性もある。

「なんで……? なんで私が負けているんでちゅか!?」

すでにふらふらのパピリオ。
そこにドクターカオスが何処から取り出したのか? 大きな注射器を抱え近づいてくる。

「そこが人間の恐ろしいところでな!! しかしもう大丈夫!! ここらで一発で楽にしてやるぞ!!」

カオスが注射器でパピリオを刺そうとした時――

「パピリオ!! 私達が遣られたら、ヨコシマがどうなるか分かってるでしょ!!」

今まで数知れず起きた”よこしま”の暴走。
負の感情の爆発。それが横島に何を及ぼすかは分からないが、何か恐ろしい事が訪れるだろう。
もし、三姉妹が死ねば今までで、最悪の暴走が起こるだろう。

「――!? そう――でちゅ!!!」
「ぬおっ!?」

パピリオはカオスに微弱な魔力波を放ち、その場から脱出する。
パピリオの力が弱っていたためか、カオスは魔力波を受けても意識を失っていない。

「――っ!?」
「今よ!!」
「まずい!?」

カオスが吹き飛ばされ、ピートに油断が生じる。
悠闇とシロはすぐにフォローに走ったが、時既に遅くルシオラはピートを吹き飛ばし、パピリオのもとに向かう事に成功する。

「大丈夫、パピリオ?」
「……流石にこのまま続行するのは危険でちゅね。」

ルシオラの一言で、この場で無理をする事をダメだと判断したのだろう。
パピリオは素直に引く事を選択する。

「……このまま逃がすと思って?」

美智恵が剣を構え、ルシオラを睨みつける。
三姉妹を殺すつもりはないが、だからといってこのまま逃がすつもりもない。

「あなた達の中で空を飛べる者が何人いるかしら?」
「なっ!?」

ルシオラがそう言うと、美智恵が何かを言う前にバベルの塔の上の階の方にパピリオを連れて逃げていく。

「……確か、ここに……」

ルシオラは下から、敵が来ていないか確認した後、ゲート近くに設置されているチャイムの役割をしているボタンを押す。
これによって土偶羅に連絡がいくようになっている。
思った以上に時間が経った後、ゲートが開き、ルシオラとパピリオが中に入った後、ゲートは閉じられる。
そこで、土偶羅から妙に焦った連絡が入る。

『――そこで待機しておれ!!』
「えっ!? 一体何があったのですか!? 何が――もしかしてヨコシマ!? 一体何があったのですか!?」

嫌な予感がする。

「……一体何があったっていうのよ!? 美神令子一人で何か出来るわけがないじゃない!!……ヨコシマ、あなたはいったい……」

ルシオラはすぐにアシュタロスが居る間に向かおうとしたが、どうやら通路が閉じられているようだ。これでは何処にもいけない。
完全にこの場に閉じ込められた格好になる。

「ヨコシマ……」
「だ、大丈夫でちゅよ! そうでちゅ……絶対……ヨコシマが私達を見捨てるはずがないでちゅ!」

”よこしま”が選んだ道は本当にわがままな道である。

三姉妹だけ……人間達だけ……そんな選択は選ばない。

選ぶ道は一つ……両方。

それはわがままであったが、実に横島らしかった。


/*/


「盲点だったわね……」

空に逃げられ、そのままルシオラ達には逃げられてしまった。
確かに上空に逃げられれば、空を飛べるのは、マリア、魔鈴、悠闇、ピート、冥子とこれではルシオラ達と対抗するのは到底無理である。

「まぁ、終わった事は仕方ない。それよりも悠闇君、先ほどの中から感じた強烈な霊圧は……」

西条は戦闘中、塔の中からでも感じられた霊圧について悠闇に尋ねる。

「……あぁ、《三》《位》《一》《体》……ここまで感じられる霊圧ということはそれしかあるまい……」
「そうか……しかし、成功したのなら何で嬉しそうな顔をしないんだい?」

悠闇の予想通り、横島は《三》《位》《一》《体》を成功させた。
だが、悠闇の顔は晴れない。むしろ暗くなっている。
理由は、

「悠闇さん……という事は《心》の文珠で横島さんは元に戻ったんですよね!?」

《心》の文珠、悠闇はそれを借りるため、おキヌにだけは《心》があれば横島を救えると、ある程度の事を話していた。

「あぁ……そうだな、おキヌどの……」

気が晴れない理由は一つ。

ヨコシマが負けた。

だから横島が現れ、《三》《位》《一》《体》が発動したのだ。

(ヨコシマ……おぬしの策は通用しなかったのか……)

ヨコシマも横島だった。
思いは同じだった。

(だがな……思いは受け継がれたぞ……)

そう、思いは伝わった。
そして今、思いを受け継いだ者は、魔神と戦っている。

「まぁ、なんだ。僕達はやれるだけの事はやったんだ。後は、彼らにまかせようじゃないか!」
「そうですよ! 横島さんが元に戻ったなら、きっとやってくれますよ!」

西条や魔鈴が場の空気を和らげようとする。
その思いは皆に伝わったのか、それに賛同する者が現れ始め、悠闇も信じようとしたその時――


「そうだな……ワレが信じないでどうする……横島な――!? なんだ!?」


一斉に皆は塔の方を見つめる。
《三》《位》《一》《体》によって立ち上った霊圧が光というのならば、今、塔から感じる霊圧は、その対極に存在する闇だ。

「一体、どうしたっていうの!?」

美智恵も何が起こったのか分からない。

「……横島……何が起きたのだ……」

結界が張られテレポートをすることも出来ない。

「頼む……無事でいてくれ……」

待つことしか出来ない。
それがこれほどまでに歯がゆいとは思わなかった。


/*/


数十枚のサイキックソーサーがアシュタロスを襲う。

「おらぁぁぁぁああ!!!」
「ぐっ!?」

その突撃力はアシュタロスに何もさせない。
この場は人間界、横島が多くの神魔を倒すことによって手に入れた神魔に対する耐性、平安京の時とは違い弱りきったアシュタロス。
アシュタロスにとっては不利な要素がありすぎた。
そして、今の横島は人間最強クラスの突撃力を誇る雪之丞の力がある。
その力は、空母での戦闘ではヨコシマに文珠の使用を封じたほど。

「どうした、アシュタロス!!」

アシュタロスと距離が離れるとすかさず矢のように鋭い霊波を放つ。
一瞬たりとも休ませるつもりはない。
霊気の矢はアシュタロスに直撃し、僅かな硬直を誘う。
その操作性、正確性は鬼道が誇るモノ。

「あまり図に乗るな……」

アシュタロスが両手から魔力波を放つ――

「そらよ!!」

――前に横島は先ほど、放ったが当たらなかったサイキックソーサーをアシュタロスに後方からぶつかるように仕掛ける。
それは横島が持つ意外性。言わば奇想天外、トリックスター。

何より、超加速を使用できる事もあってアシュタロス以上のスピードを手に入れることに成功していた。
これがアシュタロスとの戦いで大きな力となっている。

対するアシュタロスは弱体化している。
ヨコシマを騙すために製作したニセの自分。
冥界とのチャンネルを遮断するために消費し続けている魔力。
他にも多くの要素がアシュタロスから力を削っていった。

もし、横島の合体が二人ならば大したこともなく倒せたが、三人ではそうもいかない。

二人と三人の同期では大きく桁が違っていた。

いや、それだけではない。

現在、横島たちが行っている。三人での同期だが、これは二人の時より強さが上がると同時に同期によって起こる吸収現象の危険も減らす事が出来るのだった。
二人の場合、ベースになっている者がサブに回っている者を吸収しようとするが、三人の場合、三すくみの状況を作り、互いに牽制しあうため滅多な事では吸収事故が起こるようにはなっていなかった。
それどころか、互いにベースになろうと競う合い、凄まじい出力を出す事が可能。
その強さは今の弱りきったアシュタロスに迫っていたほど。


「全く……大したものだ……この私がな……」


だが……


「……まぁ、いい。そろそろ茶番も終わらせよう。」


アシュタロスはここで、最悪の行為を仕出かす。


「隙だらけだぜ!!」


立ち止まったアシュタロスに止めの一撃と、最大出力の霊波砲を放とうとする。


「これで――終わりだ!!」


これが決まれば、アシュタロスとて致命傷だろう。


そう……


横島が、非情であれば……


「――さぁ、君はどうするのかね?」


アシュタロスが反撃の態勢をとるが、もう遅い。


「この塔は私の世界なのだよ。」


シュンッ


それはアシュタロスと横島の中間に現れた。

横島がそれごと攻撃すれば、横島の勝利だっただろう。

アシュタロスが横島をそれごと攻撃しなければ、負けることはなかっただろう。


「――べスパ!?」


「え?」


横島を邪魔するかのように、アシュタロスの盾になるかのようにべスパがその場に瞬間転移してきた。
いや、させられた。

そして、その後方にはアシュタロスがべスパごと横島に向けて魔力波を放とうとしている。

(どうすれば!? このままじゃ!!!)

霊波砲を放てば、こちらの勝ち。
だが、引き換えにべスパの命を奪ってしまう。
この超スピードバトルでは発動まで時間のかかる文珠は役に立たない。


「くそーーーーーーーーーー!!!」


もう悩んでいる時間はない。


「――忘れてはいけない……ここは魔神の住処だということを……」


ゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!


それはヨコシマが《模》を使用して放った魔力波が霞むほどであった。


「そ、そんな……アシュ様が……」


べスパの表情が酷く悲しかった……


「っ――!! みんな、すんません!!」


横島がとった行動は一つ。
それは攻撃を止め、アシュタロスの魔力波からべスパを守る事。
アシュタロスを倒す絶好の機会を捨て、べスパを守った。

それはヨコシマの感情がそうさせたわけではない。

横島の感情がそうさせた。

ただ、自分の妹を助けたかっただけだ。


「うるぁぁぁぁああああああああああ!!!」


恐ろしい威力を誇る魔力波を耐える。
後ろにはべスパがいるのだ。
倒れるわけにはいかない。


「ぐっ!? まだ……まだ……まだ!!!


魔力波が止む。


ゴォォンッ!!


――と、同時に右横からハンマーのような一撃が横島を襲う。


「がはっ!?」
「兄さん!?」
「気を抜くのが早いな……」

どうやら、左フックをもらったらしい。
魔力波を防ぎ、気が抜けた一瞬にもらった一撃で《三》《位》《一》《体》が解除されてしまう。

「ぐっ!?」
「うぉっ!?」
「っ!?」

横島、雪之丞、鬼道が吹き飛ばされながら現れる。
そしてべスパは横島のもとに向かう。
何とか受身を取ることに成功する雪之丞と鬼道だが、そのまま倒れこむ。

「ぐっ!……てめぇ……」

そして横島は受身を取れなかったがすぐに立ち上がる。

「ほう……元気だけは残っているようだな……」

その霊圧はいつものものではない。

「てめぇ……今、自分が何したかわかってんのか……?」
「何……? 君を倒そうとしただけだが……?」

わかっていて言ってるのだろう。
だが今の横島の冷静とは無縁の状態だ。
アシュタロスの声を聞いているだけで、どうにかなりそうだ。

「兄さん、私は大丈夫だから!! だか…ら……」

それは今までに何度も見たことがあるもの。
だがべスパは、横島は人間だというのに、目が合っただけで声が…何も言えなくなる。
横島は一言、べスパに下がっていろと言い、アシュタロスに殺意を籠めた目で睨みつける。

「お前は今、べスパを盾にして、べスパごと殺そうとしたんだ……わかってんのか……?」
「横島……君が何を言いたいのか、私にはよく分からないな。」

アシュタロスの声を聞くだけで、アシュタロスの顔を見るだけで、アシュタロスが生きているだけで、どうにかなりそうだ。

「お前は……お前はべスパを……自分の娘をなんだと思ってんだよ!!!」

これが最後だ。
半端は返答は――


「……娘……? それは道具だ。道具をどう使おうと私の勝手だろう……あぁ、たった今、役に立ったのだから、優秀な道具かもしれないな。」
「あ……アシュタロス…様……」

アシュタロスはべスパを道具を見るかのように見つめ、横島に向きなおす。


「………………道具?」


闇が横島を喰らう――


「そうか……そうか……」


そして闇を受け入れる横島――


「そうか――」


なんと心地よい闇か――


「――殺してやる。」


それは《三》《位》《一》《体》の時に発した霊圧が光だというのなら、これは深淵なる闇。

「そ、そんな……なんでや……」
「あ、ありえねえぞ……」

ありえない。
人間が出せる出力ではない。

「だめ……」

べスパも震えが止まらない。
今までも”よこしま”が暴走した事はあったが、これは桁違いだ。

「殺してやる…ころしてやる…コロシテヤル…………」

一歩踏み出す。
アシュタロスとの距離が縮まる。
そのアシュタロスだが――笑っている。
その笑みは、嬉しくて仕方がないといった具合だ。

「あ、アシュタロス様!! お願いします!! どうか、どうか兄さんを元に戻して――」
「馬鹿を言うな、べスパよ…………素晴らしい……実に素晴らしいぞ、横島!!」

あの声が横島の頭で響く。
それは初めて《狂》《戦》《士》と使用した時に聞こえた声。


己に力をくれる声。


力が欲しい。


あの魔神を、


あの化け物を倒せるというのなら――


「ダメ!! 兄さん、止まって!!」


――悪魔にだって魂をくれてやる。


「くっくっく!! いいぞ、横島!! 《三》《位》《一》《体》? それがなんだというのだ!! 力の使い方ならばすでにわかってるいるはずだ!! 私を憎め!! 恨め!! 殺したいと願え!! さすれば、さらなる力が舞い降りよう!!」

饒舌なアシュタロス。

手には三つの文珠、籠められた念は《狂》《戦》《士》。

この後、どうなったってかまわない。

あの魔神が、アシュタロスが生きている事が我慢ならない。


「まだだ!! お前の力はその程度ではないぞ!!! その先を!! その先を私に見せろ!!!」


黙れ。

言われなくても見せてやる。


横島が文珠を発動させようとした瞬間――


「横島ーーーー!!!」


「――!?」


――美神の声が場に響き渡る。


反応する横島。

「なに、やってんのよアンタは!!」

ヨコシマにやられた腹を押さえながら、大声で横島に叫ぶ。

「アンタみたいな馬鹿が何、シリアスきどってんのよ!! 自分ってものを分かってんの!?」

少し腹に響いたのか、顔を歪ませるも続ける。

「せいぜい、場を引っ掻き回しなさいよ……それがあなたの役割でしょ?」
「……………………あ。」

横島の瞳の色が元に戻る。

「メフィストめ……余計な事を……」
「何が余計よ……姑息な事ばっかりやってんじゃないわよ!!」

魔神が相手だろうが、そんな事で怯む美神ではない。

パシッ! パシッ!

横島は両手で頬を叩く。

「おっしゃーーー!!!」

アシュタロスのあの状況を見れば、横島が暴走しなくて正解だという事がよくわかる。
べスパは本当によかったと思い、横島を見つめる。

「さっきのは無しだ……こうなった以上、もう一つの策を使わせてもらうぜ!」
「ほう……まだあるのかね?」

横島は自信満々の顔をして、文珠を一つ取り出す。


《模》


その姿は先ほどヨコシマがなったように、首から下がアシュタロスと全く同じものであった。

「……横島……どうやら君は私が思った以上に頭がよくないようだな……それは不意打ちでしか効果を発揮しないものだ……一対一でそれを使うなど――」

ヨコシマから受け継いだのは思いだけではない。
万が一の時を考え、第二プランも教えられていた。

「舐めんなよ! 俺は――場を引っ掻き回すだけだ!!」

アシュタロスの言葉を遮り、横島は全力で魔力波を放つ。


「何処を狙っているの…か…ね……まさか!?」


この部屋の至る所に……


「――この塔はてめえのエネルギーで出来てんだろ?」
「貴様ーーーー!!!」


横島の狙いは、この塔。
横島は霊視で塔のもろいところを魔力波で狙っていく。

ぐにゃ……

空間が揺らいでいく。

「やっぱりな!! 今のお前の考えが手に取るように読める!! この塔を修復するために多くの魔力を消費してるだろ!! この塔が崩壊すれば、かなりやっかいな事になるしな!!」

《模》状態のためアシュタロスの状態や、考えがよく分かる。
この塔は異界空間に強引に作られている。
もし、塔が崩壊すれば、そのまま一時的にしろ異界から身動きが出来なくなる可能性が高い。
そうなれば、冥界のチャンネルは回復しアシュタロスの計画は潰れてしまう。
もちろん、横島達も無事ではすまないが、どうやら賭けには勝った様でアシュタロスは現在、必死に塔を修復するのに魔力を回していた。


そして、次にすることは――


「戦術的撤退!!」


雪之丞、鬼道を適当に担ぎ、美神を優しく抱きかかえて、美神とべスパが来たゲートから逃げる。

「べスパもこっち!! 雪之丞、鬼道、お前らは振り落とされんなよ!!」
「えっ!?」

先ほど、アシュタロスがやったようにべスパをテレポートさせ、右手に美神、左手にべスパ、そして雪之丞と鬼道を背中に担でいる。

「ちょちょっ!? 横島くん!!」
「ちょっと待って下さい!!」

横島は逃げながら、塔に向かって魔力波を放つ。
すると横島の頭にアシュタロスが語りかけてくる。

(横島……もし君が逃げるというのなら私にも考えがあるのだが……)

考え……それは今では全く意味のないものだ。


「馬鹿言ってんじゃねえ!! 核ならとっくに解決しとるわ!!」


大声で叫べば、アシュタロスにも届くだろう。
ここは言わばアシュタロスの胃の中と同じようなものなのだから。


(なっ!?……いいだろう、ならば試してみようではないか!!)


横島は《心》の文珠によって核対策についても知っている。
いけ好かないが、このような事をやらしたら西条は超一流なのだ。
西条の策は成功していると確信している。


(土偶羅魔具羅!! 一体どういう事だ!?)


やはり不発だったようだ。
横島は確信はしていたが、それでもホッと息をつき安心する。


(眷属が全滅しているだと!? 一体何を!?)


西条の策、それはシンプルなものだ。
アシュタロスはたった今、自分の魔力波を飛ばして潜水艦を支配していたパピリオの眷属に核発射の命令を送るつもりだった。
それと同じように西条たちも霊波を送ってある仕掛けを発動させる事にした。

その仕掛けとは妙神山の宝物庫にあった魔族コロリを、潜水艦中に広がるようにする仕掛け。
バルサ○のように潜水艦を魔族を殺すガスで埋め尽くす。
べスパの妖蜂みたいな眷属ならば、一発で殺せる殺傷力を持っている。

アシュタロスが潜水艦を支配するとしたら、三姉妹の誰かの眷属を使うだろうと推測していた。
あの妖蜂がべスパの眷属のように、パピリオかルシオラの眷属の能力を使用してと推測する事は、アシュタロスの戦力を考えれば容易である。
もし、アシュタロスがここにきて戦力を残しているという考えは、はなから捨てている。
なぜなら、そんな事を考えていてはきりがないからだ。

問題は、どうやって仕掛けを発動させるために霊波を送るかであったが、世界は広い。
今回、南極に集結した殆どの者が戦闘に特化している者であった。
だが、オカルトGメンには戦闘力こそ無いものの、エミと互角以上に呪術に特化した者、タイガーのように精神感応力を持った者。
そして、テレパシーや、ダウンジングのように何かを探す事に特化した者もいる。

かといって人材はもちろん、魔族コロリも無限にあるわけではない。
そのため西条は、ある区画の警備を薄くし、意図的に核を盗みやすくする事にした。
そうする事によって、アシュタロスを誘導したのだ。
結果は見事成功し、アシュタロスに数少ない仕掛けが施された潜水艦を盗ませる事に成功する。

後は、仕掛けが施されている潜水艦に魔方陣のようなモノを描いておき、捜索部隊に最低でも潜水艦がある方角や、大体の位置を把握させる。
そうすれば、仕掛けの発動の際、テレパシーの要領で、その方角に仕掛けが発動するように霊波を送るだけであった。
他にも第二プランとして、時限式のような装置も考えられてはいたが、それではタイミングを誤るとアシュタロスにパピリオの眷属が殺されている事を知られる可能性があるため、タイミングがとりやすい手動式を選ぶことにした。
発動させた時期は、美神達が塔に着いたその直前、その時に発動させれば、三姉妹もこちらに集中するため、気付く可能性を減らす事が出来るからであった。

「人間様を舐めんなよ!!」

策は成った。
核という、最も恐ろしい手段を封じ、そして今、塔を破壊する事によってアシュタロスを追い詰めていく。

「あそこを通り抜ければ外のはず!!」

横島は、破壊活動続けながら、外への道を駆けていた。


/*/


「なるほど……見事にしてやられたというところかな……」
「アシュタロス様!! 脱出の準備が出来ましたぞ!!」

横島の攻撃によって、塔は崩壊を避けられなくなった。

「全く……メフィスト…いや、美神令子も余計な事をしてくれたよ……」

あの時に美神が目覚めなければ、こんな結果にはならなかった。

「まぁ、いい。鍵は解除され、たった今、扉は開かれた……これで、万が一が起ころうと、私の目的は達成されるだろう……」

塔が崩壊していく。
アシュタロスは横島達がこの空間から脱出した事を感じた後、自らも、土偶羅を連れて脱出し始めた。

「人間達よ……束の間の勝利を味わうがいい……そして――」

アシュタロスは脱出するための装置の場所に空間転移する。

「横島よ……君に未来があるとすれば――」

アシュタロスの呟きは、塔の崩壊によって遮られた。


/*/


「よっしゃ!! 後は門を開くだけ!!」

塔の入り口にたどり着き、雪之丞と鬼道を適当に下ろし、美神をゆっくり下ろす。
横島が微妙に美神に対してビビッているのは、ヨコシマがやった事とはいえ、先どの戦闘で美神をぶっ倒してしまったからだろう。
だが今の美神は、そんな事は忘れている。
ようやく事務所のメンバーがそろったのだ。顔には出さないが、横島の今のノリに対してホッとしている。

「だが、その前に――ルシオラ!! パピリオ!!」

シュンッ!

  シュンッ!

「――!? ヨコシマ!!」
「ヨコシマ!! 一体、どうなってるんでちゅか!?」

逃げている途中に、ルシオラとパピリオの位置を把握しておいて、この場に召還する。

時間がない。
早くしなければ、《模》の効果が切れてしまう。

横島は、美神の方を見ると、美神も首を縦に振る。
それは”早くしなさい!”という合図だ。

「ルシオラ、パピリオ……よく聞いてくれ。俺は――」
「そう、アシュタロス様を裏切ったのね。」

横島が最後まで言う前に、ルシオラが答えを言う。
今のこの状況を見れば、予想はつくのだろう。

「――!? あぁ、そうだ。俺は元からアシュタロスを倒すつもりだった。」
「「………………」」

沈黙が場を支配する。

「約束……」
「えっ?」
「約束だったよな……」

横島は三姉妹に向けて手を翳す。

「アシュタロスの名において命ずる!! 10の指令<テン・コマンド>を解除……除去、及び、限定条件の制限解除……除去!」

三姉妹はオーラに包まれ、寿命の制限や、アシュタロスが霊波を送るだけで死ぬようなシステム、自滅機能が除去される。
これもまたヨコシマが、自分の策が失敗し、横島達の策すら通用しなかった時のために取っておいた策である。
カオスに、頼むという手もあったが、それではあまり信頼性にかけているため、この方法が最も優れているだろう。

「一緒に……俺と一緒に来て欲しい、俺はお前らと一緒に生きたい!」

真剣な目をして、ルシオラ、べスパ、パピリオを見つめる。
困惑するルシオラとパピリオ……そしてべスパは――

「姉さん、パピリオ……私は兄さんについていくよ。」
「えっ!?」
「べスパちゃん!? どうしてでちゅか!?」

べスパは先ほどの出来事を、ルシオラとパピリオに伝える。
分かっていた事ではあった。自分達が”道具”だという事は……

「私……兄さんと一緒に生きてみるよ……だって、兄さんなら私達を……」

泣きたいのを必死に我慢する。
自分達が道具だという事はわかっていた。

だからといって、道具にも心はあるのだ。

「ありがとうな、べスパ…………もう時間もない。なぁ、頼む!! 俺を信じて一緒に来てくれ!! 絶対、俺がお前らを幸せにするから……な!!」

大体の感覚でわかる。もうじき文珠の効果が切れる。そうなれば、門を開く事は出来なくなる。
横島の必死の頼みと、べスパの答え、そしてアシュタロスの行動。

ルシオラとパピリオが選んだ道は――


「わかったわよ。ヨコシマは約束を守ってくれたわ……そんなあなたなら信じられる。」
「そうでちゅね……アシュ様がそんな事やってるんじゃ、もう、ついて行けないでちゅよ。」


――横島と共に生きる道。


「あ、よっしゃーーーー!!! 今のは嘘なんて無しだかんな!! それじゃ、早速、門を――」
「ヨコシマ!!」

横島が門の方で向かう前に、ルシオラが止める。

「ヨコシマ……あなた、一つ勘違いしてるわ。」
「勘違い……?」

ルシオラはくすりと笑った後、告げる。

「私達、既に幸せよ……こんなに大切にしてくれる兄さんがいるんだからね。」
「お、おぅ……」

顔を真っ赤にした横島は再び、門の方を向かい、門を開く。

「我が名はアシュタロス!! 封を解け!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!

門の向こうの方が騒がしい。
扉は上の方へ上がっていき、皆の姿が見えてくる。

「横島!!」

悠闇がその場で大声を上げる。

「横島さん!!」

おキヌはその場で、涙を拭いている。

「先生〜〜!!」

シロが尻尾を元気に振りながら近づいてくる。

「どうやら皆、無事のようね。」

美智恵は娘の無事を喜んでいる。

「思ったとおり、元気そうじゃないか。」

西条は、憎まれ口を叩きながらも、安堵の笑みを浮かべる。
皆が皆、横島の無事を祈っていた。
後ろから現れた三姉妹も、横島だから”やっぱりな”と納得してしまう。

「ちょっと待ってくれ!!」

全員が門を潜った後、横島は皆を制して、塔の方へ向く。

「アシュタロス!! これはおまけだーーーー!!!」

強烈な魔力波を塔へ放つ。
狙った場所は、最も脆く見える箇所。


ゴォォォォォォォオオオン!!!


見事直撃し、空間が大きく歪みだす。
それと同時に《模》の効果が切れ、横島は元の姿に戻る。

「皆!! 空間が閉じようとしているわ!! 脱出するわよ!!」

現在、この場で最も冷静だった美智恵がいち早く異変に気付く。
皆はすぐに美智恵の言葉に従って、異界空間から離れる。


ヴィーヴィーヴィィィィィィィィイイイン!!!


空間が閉じられる。

「皆、大丈夫ね!!」

負傷していた者は、無事な者がしっかり肩を貸したりして脱出している。
どうやら、全員脱出に成功したようだ。

「ふ〜〜……空間を維持できなくなったのかしら?」

美神も一先ず戦いが終わったと感じて、一息つく。


「あ、あの〜〜……」
「何よ?」


皆は何か言いたそうな横島に注目する。


「え〜とっすね……」


何から言ったらいいか分からないらしい。


「あ、そうだ!」


だから、とりあえず……


「ただいまっす!」


――心眼は眠らない その65・完――


あとがき

遅れて申し訳ないです。
何とか四月中にUPする事が出来ました。

ここまできたら、必ず完結させますので、その点につきましてはご安心ください。(一応、プロットは最後まで出来ていますので……)

次の更新は、GW中に出来たらいいな〜と思っています。

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