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「心眼は眠らない その64(GS)」

hanlucky (2005-03-30 01:01/2005-03-30 04:08)
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南極といっても様々なものがある。
地理学的な極点、<南極点>。
地磁気分布から、みて伏角が90度になる、<南磁極>
地球磁場を地球中心の時期双極子で近似した場合の、<地磁気南極>

そして、南緯82度、東経75度
 南極大陸の全海岸から最も遠い内陸にある<到達不能極>

ホタルが示した場所は到達不能極であった。
南極大陸の中心であるそこは霊的に特殊な地点で、地球上の地脈が最後にたどり着く地点。
正に地球の霊的中枢<チャクラ>
考えれば考えるほど、アシュタロスのアジトに相応しい。


アシュタロスに核を盗まれてからの人間側の対処は、美神をアシュタロスの要求通りに南極に行かせるしかなく、GS本部は美智恵達に全面的に協力する事になった。
南極に行くための船や、到達不能極に行くためのヘリ。その全てを用意してもらいGS一同は向かう。

”皆さん、申し訳ありません……後の事は…よろしくお願いします。”

GS一同といったのはヒャクメ、ワルキューレ、小竜姫の力がギリギリまで下がってしまい、行った所で足手まといになるのは確実なので、不参加だからだ。
特に小竜姫は血が出るくらい、手を握っていた。

「予定では、もうすぐのようね……」

核が盗まれてしまったのは仕方がない。それは想定内なのだから。
肝心なのは西条の狙い通りにいくかどうかだ。

(例の件、結局間に合わなかったか……)

例の件、それは悠闇が西条を通してカオス達に作らせていたある物だった。
しかし、あと2,3日もあれば完成というところで南極行きが決定したので、結局意味はなくなってしまう。
多分、生きて帰ってこれたなら完成しているだろう。

「(どの道、横島があのような状態では使えないな……)そういえば美智恵どの。牙の調子はどうなのだ?」
「え? 悪くはないわよ、それがどうかしたの?」

空母の時は、非常時という事で勝手に悠闇の竜の牙を借りた美智恵だったが、今回はしっかり許可を取っている。

「いやなに、ワレが心眼に戻れば、それも消えると思うのでな。それだけ忠告しておこうと……」
「それじゃ、あなたにはしばらくその格好でいてもらうしかないわね……」

確かになと、賛同する悠闇。

「……この戦いで決着をつけたいわね。」
「そうだな。」

やれるだけの事はやった。
限られて時間、限られた人材、限られた選択肢。
その選択が、その方法が正しかったかはまだわからない。
正しいかどうかは今から、ハッキリするのだ。

「……着いたようね。」

ここまで道案内してくれたホタルが外で元気よく飛び回っている。
今までと違うのはホタルがその場から動かない事だ。
つまり、それは到着を表す。

「行くわよ、皆。これを最後の戦いにしましょ!!」

南極に降り立つ14の存在。
美神、美智恵、おキヌ、悠闇、西条、シロ、冥子、
エミ、タイガー、ピート、唐巣、カオス、マリア、魔鈴。

彼らの目の前に異界が広がっていく。

「これは!? バベルの塔!?」

さぁ、ここが魔神の住処だ。


――心眼は眠らない その64――


ここまで道案内してくれたホタルが、先の異界に入る。
すると、先ほどまでホタルだったというのに三姉妹の長女、ルシオラの姿になる。
ルシオラは、この塔がアシュタロスの精神エネルギーで作られている事を説明する。
ルシオラが説明しているうちに、塔の方から蝶と蜂が現れべスパとパピリオの姿に変わる。

「皆、入るわよ。」

美智恵を先頭に異界に入っていく。
入って気付けたが、中はかなりあったかい。
皆はそろって防寒着を脱ぎ捨てる。

「美神どの、髪に雪がついているぞ。」
「あ、ありがと。」

悠闇は美神の髪を触って、雪を落とすような動作をする。
そして、髪が少し乱れたのか、美神の髪を撫でておく。

「も、もういいわよ! 助かったわ。」
「別に気にする必要はない。」
「それじゃあ、もう、いいかしら?」

ルシオラ達はご丁寧に待ってくれているようだ。
美神たちも全員、準備できたようで大丈夫と返事をする。

ゴォォォォン

門が開き、三姉妹は門の方に向かっていく。
皆は三姉妹の後ろを歩いていく。

「止まれ! この先は美神令子一人だ!」

べスパはそう言って、美神の腕を引っ張る。

「美神どの!! 横島の事、任せたぞ!!」
「わかって――」

美神が喋り終わる前に、べスパと美神は門の向こうへと消えた。
そして、同時に門が閉じる。

残ったのは、ルシオラとパピリオ、そしてGSチーム。

「悪いけど、私達も通してくれるかしら?」
「ダメでちゅ! お前達の相手はルシオラちゃんと私がするでちゅ!」

予想通りの展開だと美智恵は内心思う。
どの道、いつかは衝突するのだから、ちょうどいい。

「冥子ちゃん、お願いね!!」
「は〜〜い。」

冥子はサンチラを美智恵の肩に乗せて、放電を開始する。
空母でやった事と同じ事だ。この電撃をコントロールして美智恵は力に変える。
そしてその力を竜の牙に乗せる。


「では、我らはこちらを叩くか。」
「まかせるでござるよ!!」
「わかりました。」

悠闇、シロ、ピートはルシオラと立ち会う。
この人選は、ピートのエビル・アイ、シロの人狼族が持つ驚異的な嗅覚、そして幻術には滅法強い悠闇というルシオラの幻術対策で組まれたチームのようだ。

「ヨコシマは、渡さないわ……ヨコシマは私達の家族なんだから……」

互いに引けない理由がある。


/*/


「何なの、これは?」

門の中に入った美神の一言目はそれだった。
両方の壁に数えられないくらいのなにかの装置が置いてある。

「宇宙のタマゴさ、あぁ、あのタマゴは新しい宇宙のひな形で……下手に近づくと中に吸い込まれるから、気をつけなよ!」
「新しい宇宙って――これ全てが!?」

貴重なエネルギーをこのような物を作る事で費やしている事に疑問を感じる美神。

(アシュタロスは魔族が世界を支配するために事件を起こしたのかと思ってたけど……)

まだ何かあるのかもしれない。
何が目的か考えていると、目の前に何処かへ通じるワープ装置が現れる。

「ほら、さっさと入れ!」
「分かってるわよ!!」

その空間を抜けた先には――


「――!?……横島クン、久しぶりね。」


あのヨコシマが立っていた。


/*/


「来たみたいっすね。」
「そのようだな。」

ヨコシマと土偶羅がバベルの塔の中から、鏡のような物を通して、外の様子を窺う。

「……嬉しそうだな、ヨコシマ。」

階段の上、ヨコシマの後ろから声が聞こえる。
誰かなんて、わかっている。その声の主はアシュタロス。

「そりゃ、嬉しくないなんて言ったら嘘になるっすよ。でも――」
「我が娘に手を出すというのなら、黙ってはいない。」
「……そういう事っすね。」

アシュタロスはヨコシマの答えに満足したのか機嫌がよくなる。

「それはそうだろうな。ヨコシマ……その思いがお前の核となっているのだから。」
「――!? どういう事っすか?」

今、聞き捨てならない事を聞いた。
それではまるで、この思いは始めから決まっていたもの。
アシュタロスによって設定されていた事になるのだ。

「そう怒るな。例え作られた思いだとしても……その思いは間違ってはおるまい。私は、お前に娘達を守ってもらいたかったのだ。」
「っ!」

何とも言えない。何て言ったらいいか分からない。

「いいではないか……ヨコシマ。もうじきここに美神令子がやってくる。」
「…………」

揺さぶりに耐え、ヨコシマは、何とか感情を顔に出さない事に成功する。

「ヨコシマ、お前の手で――美神令子を倒せ……出来るはずだ、お前なら。」

魂の加工が難しい。
強引に魂を奪いとろうとすれば、結晶が崩壊する恐れもある。
だから、ヨコシマの手で美神を死なない程度に、つまり動けないようにする必要がある。

「……でも、アシュタロス様、自らやったほうが早いんじゃないっすか?」

ヨコシマは当然の質問をする。

「手加減が難しいのだよ。人間とは脆い、ちょっとした弾みで美神令子を殺しては笑い話にもならん。」

嘘だ。
唯、アシュタロスにとってヨコシマと美神の戦いなど余興に過ぎない。
それとも何か、目的があるというのか?
だが、ここは乗ってやる必要がある。

「やりますよ。俺が美神さんを倒せば――あいつ等の寿命、何とかしてくれますよね。」
「こ、これ!! ヨコシマ、何をあつかま――」
「いいだろう!…………ヨコシマ、私を楽しませてくれよ。」

アシュタロスの顔を見れば分かる。
ヨコシマは模範回答をしたようだ。アシュタロスにとってこれ以上にないくらい回答だったようだ。

本当に予定通り。
手の平の上で踊っている。
だが、どちらが手の平? どちらが踊り子?
それは最後まで、分からない。

今は待つのみ。
もうじき来るだろう。
ヨコシマはその相手を倒さなければならない。

「……来た。」

思わず口に出してしまう。
喉が渇く。だが、何かを飲みたいとは思わない。

この感情は何だ?

恐怖? 憤怒? 悲哀? 

この感情は誰に向けている?

己自身? 目の前の敵? それとも後ろの味方?


(落ち着け……ようやく、ここまで来たんだ……)


ここまで長かった。小竜姫を殺そうとしたのも、空母で美智恵達を分かりやすい形で倒したのも、全ては最後に勝つため。


「……横島クン、久しぶりね。」


本当に久しぶりだ。
目の前に居るのは自分の上司であり、セクハラ対象の美神令子。
服装は黒のハイネックに、白のミニスカート、そして腰にはウエストポーチ。
その隣には美神を案内してきたべスパの姿がある。

「っ!?――ア、アシュタロス!?」


美神が後ろに居たアシュタロスに気付く。
だが今のヨコシマには関係ない。
ヨコシマは、一瞬に全てをかけるために集中しなければならないのだから。

「よく戻ってきてくれた、我が娘よ……信じないかもしれないが――愛しているよ。」

アシュタロスの波動が美神を襲う。
美神の様子が可笑しい。全身が震えている。

「お前は私の作品だ。私は道具を作ってきたつもりだが、お前は作品なのだよ……この違いがわかるか?」

アシュタロスが階段を降りて来る。
その途中にも作品と道具についての違いを解説する。
道具とは、ある目的のために必要な機能を備えているだけの代物。
作品とは作者の心が反映されている代物。
アシュタロスはメフィストを意図せず作った作品だと告げる。

「――嬉しかったよ。お前が私に反旗を翻したように、私もまた創物主に反旗を翻す者。」

アシュタロスは言う。
メフィストは自分の分身だと。
メフィストの存在がアシュタロスの孤独を和らげた。
自分が反旗を翻したように、娘も自分に対して反旗を翻してくれたのだから。
ならが、自分は独りではない。自分のほかにも同じような存在がいるのだから。

「戻って来い、メフィスト!! 私の愛が理解できるな!!」

アシュタロスはヨコシマと同じ所まで、降りて美神に手を差し出す。
この手を取れ。この手を取り、再び我がもとに戻れと。

「アシュ様……」

今のアシュタロスの行為で、美神はメフィストだった時の記憶を思い出す。
目が虚ろになりながらもアシュタロスに近づいていく。
今の美神は美神令子でありながら、メフィスト・フェレスでもあるようだ。

「お前の裏切りを私は許そう……おいで、我が娘よ。」

アシュタロスと美神の距離が近づいていく。


しかし――


両者の間にヨコシマが割り込む。

「こ、こらーー!! 何をやっとるか!?」
「どういうつもりだ? ヨコシマ?」
「兄さん!?」

ヨコシマは、その三者に答えず美神の方を向き、

「無駄っすよ。美神さん……実は――振りでしょ?」

サイキックソーサーを投げつける。
美神はすぐにニーベルンゲンの指輪を盾にしてそれを防ぐ。

「ちっ! 横島!! バラすんじゃないわよ!! 折角洗脳された振りしてヘッドバットお見舞いしてやろうと思ったのに!!」
「へ、ヘッドバットだと!?」

べスパが美神の一言に呆れる。
人間である美神が魔神であるアシュタロスにヘッドバットをしようというのだから。
だが、アシュタロスは今の美神の行動も気に入っているようだ。

「美神さんの行動は横島が一番よく知ってますからね!!」

美神の反則振りは”よこしま”が一番知っている。
あの美神令子がアシュ様なんぞ言うわけがないと決め付ける。

「それじゃ、アシュタロス様。さっきの件、お忘れなく……」
「え? もしかして、兄さんが戦うのか?」

いつの間にか、ヨコシマの隣にはべスパが居た。
べスパはヨコシマに声をかけるが、大丈夫の一言で美神に向き直る。

「あぁそうだ、横島クン。あの伝言、聞いてくれた?」
「聞きましたよ。幾ら何でも酷くないっすか?」

時給250円。
大分前のように感じる。
考えれば考えるほど、ありえない。
払う人間<美神>も、これで生きている人間<横島>も本当にありえない。

「まぁ、それはさて置き……横島!! さっさと戻って来なさい!! 今なら255円にしてあげてもいいわよ!!
「う〜〜ん。5円のUPは嬉しいんすけど……やっぱりそれは――出来ないんすよ。」

まぁ、そうだろう。
美神も何となく分かっていた。唯、場の空気をこちらにもってきたかっただけだ。

(あ、そっか。ようやく、分かった。)

横島を支配した感情、それは喜懼。喜びと恐怖。
美神に会えた喜びと同時に、これからの出来事に恐怖を感じる。

「んじゃ、美神さ――」
「おしゃべりタイムはすでに終了よ!!」
「っ!?」

巧い。
やはり場の主導権争いでは、美神が一枚上手のようだ。
竜の牙を剣にして、ヨコシマに斬りかかる。
もちろん、そんな単調な攻撃があたるわけがない。
気をつけなければいけないのは二撃目。

「忘れないでね!! 反則技の師匠は私なのよ!!」
「自慢にならんすよ。」

美神は何処から取り出したのか、数枚の紙のような物を左手に持っていた。

「それっ!!」

それをヨコシマに向かって、投げつける。
どうやら、紙ではなく写真のようだ。


ブーーーー


鮮血が舞う。
といってもカッコいいものではない。
唯の鼻血である。

「こ、これは小竜姫さまの下着姿!! こっちはワルキューレ!! ああ、こっちはエミさん!! ぬおっ!? 魔鈴さんまで!!」

こんな事もあろうかと、ヒャクメと手を組んだ美神は女性の下着姿の写真をとりまくっていた。

そして、煩悩パワーで霊圧は上がっているが完全に隙だらけのヨコシマ。


バチィィィィィン


「うぎょーーーー!?」


竜の牙を鞭に変形させて、ヨコシマを思い切り叩く。
その勢いにヨコシマは、反対側の壁まで飛んでいってしまう。
だが、写真を手放していないのは、漢として尊敬するべきかしないべきか。

そんな戦いを見物するアシュタロス、土偶羅、べスパ。
アシュタロスが何を考えているかは分からないが、土偶羅は情けないと、そしてべスパはかなり怒っていた。

「さ、流石は美神さん……まさかこんな手で……本当にありがとうございます!!」

戦闘中だというのに写真を眺めなおして、お辞儀をするヨコシマ。
完全に美神のペースのようだ。

「もっと、お礼してほしいわね。ほら、これとか――」

また、写真を数枚横島に投げつける。
べスパがヨコシマを蹴りに行こうとするのをアシュタロスが止めている。

「もう、ヨコシマ感激!! こん…ど………………………」
「もらったわ!!」

数枚の写真。
ヨコシマが固まった事から、その写真が何だったのか想像つくだろう。
美神はその隙を逃さず、もう一発鞭で叩きつける。

「ぶほっ!?」

直撃してしまうヨコシマ。
いつの間にか、先ほどの写真が手元から消えているのだが、どうやらポケットに仕舞い込んだらしい。
そんな事はさて置き、美神の鞭はヨコシマの後頭部に直撃し、その場で顔面を地面に打ち付けてしまう。

「き…きっ…けど、俺もそう簡単にはいかないっすよ。」

鞭を掴む事に成功するヨコシマ。
本当に美神のあの攻撃は予想外だったが、これで結果は変わらない。

《引》

文珠の発動と同時に、鞭は引っ張られるように美神の手からヨコシマのもとに向かう。
美神はすぐに竜の牙に戻そうとしたが遅い。

「――これで、後はその指輪だけっすね。」

竜の牙は始めの状態になりながら、ヨコシマの手に渡ってしまう。
ヒーリングをかけながら、美神と睨みあう。
あの指輪は先ほど盾になっていた。竜の牙同様、どんな形状にでもなるかもしれないが、ならないかもしれない。

(後は神通棍と精霊石が何個……いや、他にも何か隠しているかも……)

美神の残りの装備を予測する。
竜の牙を手に入れたからといって、こちらの勝利が確定したわけではない。
まだ、油断は出来ない。それにあの写真が残っていたら、分かっていても本能で飛びついてしまう。

「どうしたの? 来ないなら――こっちから行くわよ!!」
(堪えろ!! あと少しで……充電が――)

やはり予備の神通棍を隠し持っていた。
美神はそれを鞭状にして、ヨコシマに迫る。


「――美神さん、俺の勝ちっすよ!」


右手に栄光の手、左手にサイキックソーサー。
その二つの威力を出来る限り高め――


「奥義、サイキック花火。」


――叩く。

サイキック花火。
ようはサイキック猫だましの範囲を広めただけ。
だが、奥義と調子乗るだけあってその範囲は広く、半径数メートルに及ぶ。
それは文珠でいえば《閃》に匹敵する。
ここまで強烈なサイキック花火が出来たのは、もちろん写真を使って妄想していたからだ。

(っ!? でも、それじゃアンタも身動き出来ないはず!!)

サングラスでもかけていないかぎり、こんな状況ではヨコシマも美神の居場所を掴むのは難しい。
美神は斜め後ろに下がって、この光りの中から出ようとする。


だが――


ゴスッ


「え、そ、そんな……?」
「知る必要はないんすよ……勝手に追ってくれますしね。」

いきなりヨコシマは美神の前に現れて、強烈なサイキックスマッシュを腹に決める。
それは奇しくも空母で、美智恵を倒した時と同じような状態であった。
倒れこむ美神。骨が内臓に突き刺さってはいないだろが、今の一撃は美智恵の意識も奪ったのだ。
美神も完全に気絶している。

何故、ヨコシマは美神の居場所が分かったのか?
実はヨコシマも美神に居場所なんて全く分かっていない。

最初の文珠に使った《引》。
これによって鞭となっている竜の牙を引っ張り、美神の手から離すことに成功する。
そしてヨコシマここで、一つの伏線を張っていた。
次にサイキック花火(煩悩強化)によって、《閃》と同等の効果を生み出し、自分と美神の視界を奪う。
《閃》を使わなかったのは、文珠の節約や、発動までの時間を考えての事だろう。

後は先ほど張った伏線である《引》をうまく利用する。

光に包まれる中、ヨコシマが使った文珠。

それは《返》。


《引》で始まって《返》で終わる。


つまり、《引》き《返》すという事。


竜の牙は元に場所、《引》が発動した時の場所、美神に向かい始める。
後は竜の牙が引っ張られながらダッシュしていき、そのまま攻撃する。
この光の中では、まともに五感は作用しない。
いきなり現れたヨコシマに対応できず、そのまま攻撃を喰らってしまった美神だった。

「さて……アシュタロス様。これで、文句ないっすね。」

ヨコシマは階段の方に居るアシュタロスに向かって問いかける。
アシュタロスもどうやら満足してくれたらしい。
ヨコシマは、美神を抱きかかえてアシュタロスのもとに向かう。

気絶した美神を階段に座らせてから、ヨコシマはアシュタロスと美神が重なっていない所に移動する。

これで準備は整った。
これでようやく全てが終わる。

「アシュタロス様、これで約束通り、べスパやルシオラ達の寿命何とかしてくれますよね?」
「当然だ……約束は守る。だが、今はそれよりも……」

美神の前に立つアシュタロス。

「今は結晶を取り出さねば、な。」

アシュタロスは右手を美神の腹付近に入れる。
どうやら、魂を取り出す作業を始めたようだ。


そして、次の瞬間――


《模》


ゴォォォォォォォォォォオオオオン!!!


美神にはギリギリ当たらないような波動砲が、アシュタロスを襲う。
その破壊力は、間違いなくアシュタロスを滅ぼせる。

「――魂が言ってんだよ!! 1000年前の借り、今、返してやるってな!!」
「兄さん!?」

波動砲を撃ったのはヨコシマ。
しかし、それではこの威力はおかしい。
どうあがいてもヨコシマが出せる出力を遥かに超えている。
だが、それを可能にしたのが《模》。文珠は事前に美神を殴った時に生成していた。
アシュタロスの能力を完全コピー。

この一瞬を待っていた。
アシュタロスが油断する一瞬。
ではその一瞬はどうやって作ればいいか。
それは、アシュタロスが結晶を手に入る時しかない。

全てのこの一瞬のためだった。
この一瞬を作るためには、アシュタロスの信頼を勝ち取る必要がある。
ではアシュタロスの信頼を勝ち取るにはというと、土偶羅の目の前で神魔や美智恵達を分かりやすいように倒せばよかった。
だが、まだ関門は残っている。それは横島の存在。横島が居ては女を、最終的に戦う事になる美神を殴る事が出来ない。
しかし、それも小竜姫を本気で殺すように見せかけて横島の力を使わせる事に成功した。

案を思いついたのは、横島が自分が狂戦士化することに悩んでいる時であった。
横島の記憶、高島の記憶、二つの記憶をフル活用して考え付いた策。
確かに三姉妹を助ける事が仕組まれていた事には、多少ショックを受けたが、そんな事はどうだっていい。
例え、その思いが作られたものだとしても、別にかまわないのだから。

「くたばれ、アシュタロス!!」

アシュタロスは結晶を壊さないように右腕を慎重に抜いている。
それも見越して、この一瞬を狙ったのだ。

「き、貴様ーーーーーーー!!!」

ヨコシマはすぐに《模》を解除する。
それはアシュタロスの能力をコピーする代わりに、アシュタロスが受けた傷は少しの時間を置いて自分にも返ってくるからであった。
そして、《模》状態のヨコシマが怪我をした所でアシュタロスには傷は返らない。


「ぬおおおおおおおおおおおおお!!!」


その波動砲はアシュタロスを包み込む。
断末魔の声が聞こえる。

「かっ…た………………」

ヨコシマはその場で座り込もうとしたが、美神のヒーリングが先だと美神のところへ向かう。
思えば本当に長かった。この一瞬のためにとはいえ、美神にはとんでもない事をしてしまったし。
だが、アシュタロスを倒したのだから、何とか帳消しにしてもらおうと思うヨコシマ。

しばらくした後、アシュタロスが居た場所には何もなかった。
べスパも呆然としている。当然だろう。この土壇場で兄であるヨコシマが父であるアシュタロスを裏切ったのだから。


そして、土偶羅は………………笑ってる。


何故だろうか。


倒したはずだ。


間違いなくアシュタロスは、倒したはずだ。


なのに、この付き纏う不安感はなんだ?


土偶羅はヨコシマを視界から外し、自分の後ろのほうを向く。


「本当に反抗しましたな――アシュタロス様。」
「なっ!?」

その暗闇の奥から現れたのは……たった今、倒したのはずのアシュタロス。

「いや……ここまで思い通りにいくと楽しいというより、恐ろしい気分になるな。」

アシュタロスは階段を降りる手前で止まる。
ちょうど、ヨコシマと美神を見下ろすような感じだ。

「何故と思っているようだね……いいだろう。今まで、味方である人間達に恨まれながら頑張ってきたご褒美だ。そうだな……一言で済ますと今、君が倒したのは偽者だよ。」
「ふ、ふざけんな!! 間違いなく、てめえは本物だったはずだ!! 美神さんの過去の記憶を呼び覚ました時だって、しっかり確認はした!!」

アシュタロスはとりあえずヨコシマを落ち着かせようとする。
完全に余裕を見せている。だが、今のヨコシマはそこを付くしかない。

「さて、偽者、といったが、本当に偽者なのだよ……まぁ、君が気付かなかったのも仕方あるまい……君と初めて会った時から私は分身の体を使っていたのだから。」
「そっ!? そ、んな…………」

始めから偽者と出会ったいた以上、それが本物だと思っても仕方がなかった。

アシュタロスは始めから体を複数、用意しておき、その分身に意識を乗り換える事が可能だったというわけだ。
美神達のアジトに現れたアシュタロスもそれの一部分に過ぎない。
何かの術式を予めしておき、後はその体が壊れたら自動的に本体に意識が移動する。

(それじゃアシュタロスの偽者は滅んで……!? まさか!?)
「その顔は気付いたようだね。その通りだよ。この肉体が正真正銘の本体だ……次は何を見せてくれる? まだ手段はあるか?」

残っているわけがない。
あの一瞬に全てにかけたのだ。

「……いつからだよ。いつから、俺があんたらを倒すって分かっていたんだよ!!!
「……はぁ〜〜……ヨコシマ、もう一度言わなければダメか?」

何が言いたいのだろうか?
だがアシュタロスのヨコシマを見る目が、急に冷めたようになったのは失望の表れだったのかもしれない。

「始めからだよ……横島と、もう一つ高島だったかな? この二つの魂を使い、新たな人格を生み出した時からだよ……理由かい? 私らしいのか、らしくないのか、この魂を持つものは必ず私に牙を剥く。そのような予感があったのだよ……」

だったら、何故そんな者をここまで生かしていたんだと叫びたくなる。

「しかし、今回はおいたが過ぎたな――消えるか?」

背筋が凍る。
今、美神を抱えているはずなのにその感触も分からなくなっている。

そして、ヨコシマは思い出した。自分には監視ウィルスが仕掛けられているという事を。
これでは逃げた所で意味はない。アシュタロスがヨコシマに霊波を送るだけで、それでヨコシマの命は――消える。

「安心したまえ。横島が死ぬのではなく、ヨコシマ、君が消えるのだ。私が横島の体内に埋め込んだ霊体ゲノムや監視ウィルスで、消せるのはお前だけだ――ヨコシマ。」

アシュタロスは横島の最大の武器である文珠が使えなくなるのを恐れて、最小限の霊体ゲノムを埋め込むことしか出来なかった。
そして、その効果はアシュタロスが作り出したヨコシマを消す事。
となると、壊れた心を持つ横島とヨコシマが出来るだけ横島は植物人間と全く同じになってしまう。

「なっ!? それじゃ、土偶羅から聞いた情報は!?」
「私が予め教えておいた嘘の情報だよ。」

ヨコシマは自分にどのようなものが仕掛けられてあるか、それを知るために土偶羅を酔わして聞き出すことに成功していた。
曰く、”よこしま”はいつでも殺す事が可能。
だからヨコシマも迂闊な行動は出来なかった。
だが、それも偽の情報。完全に相手に上を行かれている。

「結局、お前は分からなかったようだな……横島を蝕んでいる存在、それがお前だという事が!!」
「――!?」
「お前の存在自体が横島にとってウィルスなのだよ!! お前が横島を堕とす存在なのだよ!!」
「ま、待ってください!! アシュ様!!」

早い展開についていけてなかったべスパも、ヨコシマがこのままでは殺される事がわかったらしい。
何とかアシュタロスを止めようとするが、全く聞くつもりはない。

「やめて下さい!!」
「まぁ、いい。もう一度作り直せばいいだけだ――消えろ。」

右手をこちらに向けて、霊波を飛ばす。

これでヨコシマは終わるだろう。

景色がスローモーションのように感じる。知らず知らずの内にサイキックモードを発動させたのかもしれない。

アシュタロスが笑っている。

もう勝負はついたと思っているのだろうか?

「――まだだ。」

いや、まだ終わらせるわけにはいかない。

「確かに俺では、本物を引きずり出す事しか出来なかったようだけど……」

こちらには最後の切り札が残っている。

思い出せ。

「まだ、俺たちは終わっちゃいない――」

あの夜、悠闇と何があったのか思い出せ。


/*/


「元に戻す方法は簡単。必要なのは、俺じゃなくて横島が生み出した文珠。しかも横島の心を直せるような文字や念が籠められている必要がある。」
「そんな文珠あるわけ……!? そうか!! おキヌどのの――」
「そう、一つだけある。おキヌちゃんの――」

それは死津喪比女との戦いの際、横島が美神に渡し、おキヌの手に渡った文珠。


「「《心》」」


その文珠にはおキヌの思いが長い時間を掛けて籠められているだろう。
そこにさらに皆の思いを籠める。

「いっとくがな、俺が使う…ちょっと違うな。俺が了解する必要があるんだしな! 《心》を俺にぶつけただけじゃ意味はないからな。俺が横島に譲るという意志があって、初めて意味があるって事は忘れんなよ!……あ、それとこの事は皆に内緒な。理由は何となくわかるだろ?」
「あぁ、分かった。大丈夫だ………………ありがとう。」


/*/


美神が《心》を持っているのは、戦う前から霊視で分かっている。
だが美神自身、気付いていないのは悠闇がギリギリになってこっそり渡しておいたのだろう。
どうやら美神の髪の毛の中に括り付けていたらしい。
美神のこの長い髪には多くの霊力が籠められているため、ヨコシマでなければ気付く事はなかっただろう。

「ぐっ!?」

心が壊れていくのが分かる。
だが、自分にはしなくてはいけない事がある。
だからまだ終わるわけにはいかない。
このままアイツの思い通りにいかすわけにはいかない。

(横島は俺のせいで……だが後悔している暇はねえ!!)

後少し、後少し、ようやく本体を引きずり出したのだ。


(残す力で俺がすべき事、それは――)


それは横島にバトンを渡す事。


自分は偽者に騙されたが、今度こそ本物なのだ。
《心》の文珠を美神の髪ごと持つ、最後の念を籠める。


なにがいいだろうか?


(そうだな……やっぱり――)


いざとなると、中々カッコいいセリフが浮かんでこないものだ。
だからヨコシマは、一言、念を籠め《心》を発動させる。
思いはシンプルなほど伝わりやすい。


「――後は任した。」


《心》


再生。


男は立ち上がる。
その光景はアシュタロスは、初めて驚愕の表情を浮かべる。
ありえない事なのだ。横島の心は崩壊している。ヨコシマの心もたった今、壊した。
動けるわけがないのだ。

「――任せろ。」

男は顔を上げ、アシュタロスと目を合わせる。
その瞳は活力が生命力が満ち溢れている事を証明する。

まだ、やれる。まだ、これからだと。

「アシュタロス!!! ラウンド2だ!!!」
「信じがたいごとだが……ヨコシマめ……最後の最後で悪あがきをしてくれる。」
「兄さん!!」
「そ、そんな馬鹿な!?」

皆の思いは伝わった。

皆の思いが心を蘇らせた。

皆のそしてヨコシマの思いが、横島を目覚めさせた。

「だが、貴様一人で何が出来るというのだ?」

アシュタロスは余裕の構えを崩さない。
不意打ちじゃない以上、《模》を使われた所で怖くもなんともない。


「一人? 何言ってんだよ?」


《心》は横島の心を再生させただけではない。
何かのメッセージを込める事も出来る。そして、そのメッセージとは――


――アシュタロスを倒す策。


「お前ら、よく我慢したな!! 出て来ていいぞ!!!」


横島は美神がしているウエストポーチの中から一つの箱を取り出す。
これが活躍したのは香港の事件の際、いつの間にか現れたエミ、冥子、唐巣、カオスにマリア。
聞いた話によると、鬼門が宅配と称して箱の中にGS達を入れて届けてきたという事。
どうやら、この箱に入ると体が縮み、外に出ると同時に元の大きさに戻るようだ。

「横島、準備はいいんだろうな!!」

べスパは美神だけをここに連れてきたと思っているのだが、そうではない。
べスパは三人のGSをここに連れてきてしまった。

「ホンマ、美神はんが倒された時はどうしようかと思ったで!」

美神と、ウエストポーチに入った箱の中に潜んでいた雪之丞と鬼道。
潜むタイミングは、案内役のルシオラの目をうまく盗んだ時だった。
どうやらウエストポーチ自体にも霊的な結界のような細工がされているようで、これでべスパ達の目を欺いていたらしい。
なお、横島はよく我慢したなといったが、実はウエストポートが邪魔になって、出たくても出られなかったのは内緒にしているようだ。
でなければ、声が聞こえてくるので美神がピンチだと分かった瞬間に飛び出していただろう。

「そ、そんな!?」

べスパも驚いている。
美神だけだと思ったのに、他に二人も居たのだから当然だろう。


だが、本当に驚くのはこれからだ。


「俺とヨコシマが、この戦いでやってきた事、全部償ってやるさ!! だがな!! その前にてめえをぶっ潰す!!!」


雪之丞に一つ、鬼道に一つ、自分に一つ、そして三人の中心に一つと合計4つの文珠を制御する。


「見とけよ、ヨコシマ!! 俺、受け取ったからな!!」


バトンは今、ヨコシマから横島へ手渡された。


(イメージしろ!! アイツを倒せる力を!!)


4つの文珠は輝き始め、今、ヒトリの戦士を生み出す。


《三》《位》《一》《体》


三人は中心の文珠に吸い寄せられ、一人のニンゲンへと合体する。


「くっ!? これが……本当に人間の力!?」


その霊圧は、べスパも後退を余儀なくされる。

だが、俺たちの敵はべスパではない。


「ほぅ……」


上で佇む魔神アシュタロスだ。


「――いくぜ、アシュタロス!!」


今、魔神 と 人を超えしヒト の戦いの幕が上がる。


――心眼は眠らない その64・完――


あとがき

ようやく”横島”復活です!!

《心》、正直、この伏線を使えるまで、連載が続けられるとは思っていませんでした。
それもこれも皆様のレスのおかげです。

そして《三》《位》《一》《体》

鬼道の退魔結界も雪之丞の魔槍術もこの横島と対等だぞ! って言いたいがための過程でした。
戦いを見ると、雪之丞はともかく鬼道はあっさりやられましたが、それは相性の問題だと思って下さい。お願いします。

そして横島に全てを託したヨコシマ。
彼はどうなったのでしょうか?

アシュタロスの意識を変えるってヤツはアジトに現れた時と、究極の魔体が発動するシーンから考えました。

結構前に言っていた引越しですが、いよいよ決行されるので今度の更新は正直、いつになるかはわかりません。
早いとこリズムを作って4月中に投稿出来たらいいな〜と思っています。

長いあとがきになりましたが、最後に一言、更新速度は遅くなりますが、どうか最後までよろしくお願いします。

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