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▽レス始

「心眼は眠らない その63(GS)」

hanlucky (2005-03-29 20:08)
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今回の話で途中’□’が続いている部分がありますが、意図的です。
次の話で分かりますのでその部分はスルーしてもらっても大丈夫です。
***


「……ここは何処だ?」

悠闇が起き上がろうとすると、

ゴンッ

「っ!……ガラスか?」

透明なガラスに気づかず頭を打ってしまう。
悠闇は額を撫でながら、自分が何かの装置に入れられている事に気づく。
どうやら、この装置はアジトの霊的エネルギーを、入っている者に供給する装置らしい。

(とりあえず、落ち着こう。ワレはアシュタロスに捕まり、牢獄に入れられていたはず。しかし、この待遇から考えるのは……助けられたのか?)

アシュタロスに牢屋に入れられてからは、生きる事に全力でいなければならなかった。
兎に角、生きるのに不必要な機能を低下させ、必要な機能に力を注いでいた。

(……ワレが目覚めたという事は横島も生きているという事だが……さて、どうしたものか。)

今の悠闇の源は横島の霊力が主であって、この装置で供給されるエネルギーでは、雀の涙といったところだろう。
横島が生きている事は間違いないが、自分がこんな場所で眠っているという事から横島は未だに敵に捕まっていると推測する悠闇。

(――? 誰か、来たみたいだな。)

人の気配がする。
どうやら、悠闇が目覚めた事が分かったらしい。

「やっと起きたようね。早速だけど、あなたの話を聞かせてくれない?」
「美神どの……随分、逞しくなったではないか。」

美神と悠闇、およそ二ヶ月ぶりの再会だった。


――心眼は眠らない その63――


会議室に集まる一同。
メンバーは、横島を除くGSチームと小竜姫、ワルキューレ、ヒャクメ。
嬉しい事に鬼道はようやく復活し、小竜姫達は神魔達の半数が眠りにつく中、代表でこの場に居た。
なお、小竜姫は先の戦いで消耗し、ワルキューレもジークに力を渡したため、すでに戦闘力はないようだ。

軽い自己紹介が終わった後、現在、作戦会議を行う部屋では神魔混成チームが南米でのアシュタロスのアジトを攻めている映像が流れていた。
この時、事前に悠闇には何も話さず、予備知識無しでどうように感じるのかを知りたかったらしい。

「こ、これが横島…なのか?」

傷つけられようが、自滅するような戦いをしようが全く止まらない。
目の前の敵を殲滅する事のみに特化した狂戦士。
己の衝動を満たすために全てを壊す破壊者。
アレは、例え自分が死んでも、その事に気づかず戦い続けるだろう。

「馬鹿げている!! アレではいつ死んでもおかしくないぞ!!」

敵の攻撃を喰らいながらも、同時に反撃する横島。
確実に神魔の霊的防御が薄いところを狙っている。神魔は横島を攻撃しているのでかわしようがない。

全滅させた後、ヒャクメ狙いを定めた所で映像は終了する。

「……次は妙神山での出来事を見て欲しいのね。」

映像が流れていていく。
小竜姫はべスパの不意打ちを喰らい、その後はルシオラに押され続ける。
味方が少なくなっていく中、小竜姫は超加速を使用したのか、姿を消して、次の瞬間には画面に大量の血を流した横島が現れる。

「――っ!」

小竜姫の顔色が変わる。
皆からは小竜姫が悪いわけではないと言われたが、気にしないわけがなかった。

その後、ヨコシマが目覚め、小竜姫と話し合っているが、音声がないのでどのような内容かは分からない。

(なるほど、小竜姫にわざと剣を持たせたな。)

いい判断だと、思わずヨコシマに感心してしまう。
おかげで小竜姫は、超接近戦を仕掛けてくるヨコシマ相手に、完全に後手に回り続けている。
そして、小竜姫を追い詰めたヨコシマが止めの一撃を決めようとした時、横島が目覚める。
残念な事に後ろ姿しか見えないので、横島の表情が分からない。

「……少し気になった事がある。横島が斬られて、次に目覚める時、アレは記憶が戻っているように見えたのだが……?」

ヨコシマが小竜姫に剣を渡した事で勝負を有利に進めていく。
それは小竜姫の性格を知っていなければ、出来ない事だった。

「横島さんが言うには、自分の中にもう一人の自分が居るそうです。」

小竜姫がその時のヨコシマ、横島との会話の内容を話す。
”よこしま”が神魔を倒していくうちに神魔の天敵になりつつある事や、ヨコシマが横島の体を奪った事等。

「……まだ、何とも言えないな。もう、映像は終わりなのか?」
「まだあるわ。これが、最後の……」

ヒャクメは二日前の空母での戦闘を流す。
美知恵が時間移動能力を利用して、逆天号を後少しの所まで追い詰めていっている。

(――!? 美智恵どのは、横島ごと沈めるつもりだったのか……)

その行動が間違っているとは言わない。
世界を守るため、娘を守るためだったら、さほど知らない横島を犠牲にするのは当然なのだから。
悠闇だってフェンリル戦のグレイプニルが解かれた時、横島を生かすためならば、何でもしようした。
人間、神魔問わず、大切な何かを守るためならば、その他を捨てる諦めるという行為は当然だ。

(まぁ、それで納得できるかどうかは別だがな。)

画面ではグラムによって魔法陣が破壊され、ヨコシマが登場する。
この時の会話の内容を、美智恵が実況してくれるが、どうやら交渉決裂したようだ。

「……見事にヨコシマのペースに乗せられているな。」
「面目ねえ。」
「あの時は……反省するわ。」

ヨコシマは雪之丞を挑発して、そのまま顔面に一撃入れ、美智恵への挑発に成功して腹に一撃入れる。
最後のジークも、ヨコシマのペースに乗せられ自滅する。

「生け捕りにする事は、殺す事より遥かに難しいからな……って本気で殺す気か?」
「いや、少しムキになっちまって……」

美智恵、ジークは当たっても死なない程度の攻撃でヨコシマと戦っていたが、魔槍術を使用した雪之丞の攻撃はかなり危険だった。

結局、途中でヨコシマが引き返し、空母での戦闘は痛み分けで終わる。
その後は、細かな補足をしてもらったり、鬼道の戦闘や、アジトが襲撃された時の事も教えてもらう。

「整理していいだろうか? アシュタロスは横島の記憶を消し、横島に神魔を倒させていき、神魔の天敵に育てようとした。そして、途中で目覚めたヨコシマだが……こやつが何を考えているかが分からぬ。小竜姫を殺そうとしたと思えば、空母での戦闘は殺意があまり感じられなかった。むしろ、あれは……自分が我々の味方にはならないというのを主張しているように見える。」

美智恵も、それに同意する。
あの時、ヨコシマがその気になっていれば美智恵を殺す事も出来たはずだった。
だが、そうはしなかった。

「つまり、その横島クンは完全にアシュタロスの支配下に置かれていないって事だろうか?」
「でも、それなら小竜姫の場合はどうなるのよ?」

西条が話しに入り込み、美神がそれに対しておかしな所を述べる。

「……どの道、何を考えた所で全て憶測に過ぎぬな。問題はどうすれば、横島が元に戻るのか? という事だが――」
「それについては、心眼、あなた、確か横島クンとテレパシーで会話出来たわよね! 私達が悩んでるより、ダメもとで本人と話してみない?」

確かにザンス国王来日の際、それで空港の事件を防いだ事があった。
しかし、悠闇は出来ないと答える。

「すでに試したのだが、全く繋がらないのだ。理由は分からぬが、多分、横島は人間界は居るが、何処かの結界の中に入っているのかもしれぬな……力になれなくて、すまない。」

皆が悠闇の復活で期待していた事は、この事を期待していたからであって皆の落胆振りは相当なものであった。

「まぁ、仕方ないわね。どの道、横島クンが操られていたとしたら、ニセの情報をもらってしまう事もあるのだから……」

確かにその可能性も大いにある。
美智恵はその事を皆に指摘して、一先ず解散する。

「それじゃ、一先ず解散にしましょうか。あ、西条クンと悠闇さんと神族の皆さんは残ってね。」

皆が部屋から出て行く。
美智恵がこの面子に共通する事は美神暗殺の件である。小竜姫とワルキューレは、事に気付いたヒャクメからすでに話が通っていた。

「まだ美神どのには言っていなかったのか?」

すでに世界GS本部では、美神暗殺は決定している。
それなのに実行に移っていないのは、美智恵が一定期間の猶予をもらったにすぎなかった。
その猶予も残す所、後一週間ほど。その期間内に、アシュタロスを倒さなければ、美神は、本来味方である連中からも命を狙われてしまう。

「……踏ん切りがつかなくてね。明日にでも話そうと思っているわ。」
「そうか……ところで美智恵どのに聞きたいのだが――」

悠闇はアシュタロスが美神の暗殺を防ぐために、どのような手段を取って来るかという事、人の視点でならばどのような事を考え付くかを知りたかった。

「考えられるは、美神どのが殺されない状況、美神どのを殺してはいけない状況を作る事なのだが……」

アシュタロスの妨害電波も無限に続くはずがない。
ヒャクメの計算では、長くても数年で消えると判断された。
美神が死ねばその期間の間は魂が行方不明になり、アシュタロスの野望は潰える事になる。

「そうね……もし、令子がなくなればアシュタロスに後はなくなる……そうなると、自暴自棄になってしまい暴走する可能性があるんだけど……それじゃ、あまりにも弱いわね。」

しかし、それではアシュタロスを追い込む事になってしまう。
追い込まれたアシュタロスが、人間達を道連れにという可能性はあるが、それだけでは本部の人間達を説得するには難しい。
たった一柱の魔神がどうやって世界を破壊するんだ? とその光景が頭に浮かばないのだろう。

「そうだろうな。どんな人間にもよく分かる脅しでなければ、あまり意味はない。第一、美神どのが死ねば、世界を破壊するなぞ、そんなまぬけな脅しをアシュタロスがするとは考えらぬ。」

だが、そんな消極的な考えをアシュタロスがするわけがない。
これだけ大胆な計画を立てる魔神ならば、もっと何かを考えるはずだ。

「分かりやすい形、世界を破壊できる力…………西条クン、何か浮かんだかしら?」
「そうですね……まぁ、パッと思いつくといったら核ですか。」

こういう場合、深く考えず頭を空っぽにして、西条が思いついた事を述べる。
悠闇や小竜姫は核の存在をよく知らないため、あまり分かっていないのだった。
ヒャクメとワルキューレはそこそこ知識があるらしい。

「少し待ってくれぬか。すまぬが、核の事を詳しく教えて欲しい。」

西条が簡単に核について説明をする。
悠闇は、人間が自分で自分達を滅ぼす兵器を作っていた事に驚きを隠せないようだ。

「核……ありえない事じゃないわね。どちらにしろ、その可能性がある以上は放って置く訳にはいかないし……」

とりあえず可能性がゼロではない以上、核が奪われたと仮定して話を進める。
まず、核といっても様々な場所に存在している。そのため、全ての場所を守る事など不可能だ。
しかし、核を奪った所でその場所が特定されれば、こちらでも対処は容易になる。

「――となると、基地とかではなく、飛行機は……追尾は容易ね。となると空がダメなら――海中、潜水艦かしら?」
「可能性の高いものに絞るしかしかないのだ。どの道、基地や飛行機では途中で気付けるのだろう?」

兎に角、核が奪われるとしたら最も可能性が高いのは、奪われてから人間が最も対処し辛いと思われる核ミサイル搭載の潜水艦に絞る。

「しかし、これでも数が多すぎるわ。」

だが、潜水艦に絞った所で世界中にそれは存在する。
考えれば考えるほど、アシュタロスがその気になれば核を奪うことを阻止する事など不可能に思えてくる。
だが、ここで逆の発想をしてみればどうだろうか?
守る事が出来ないのならば、守らなければいい。奪われるならば、奪わせればいい。

「……ならば逆に奪わせてみるのはどうでしょうか?」

この西条のセリフが鍵となる。


/*/


会議も解散して、悠闇は一人指定された部屋に入る。
すぐに辺りを見渡して、部屋に盗聴器や、監視カメラが仕掛けてあるかどうかを探す。
何故、このような事をしているかというと、自分の衣服に発信機が仕掛けられていたからであった。
どうやら寝ている間に美智恵達に仕掛けられたらしい。

(ワレは一度捕まった身。何か仕掛けてあると疑うのは当然だな。)

悠闇が解放されたのは敵の策略ではないのか? と警戒するのは正しい。

(まぁ、多少、不愉快にはなるがな……)

しばらく部屋を見渡した後、流石に監視カメラや盗聴器は見当たらなかった。
もちろん悠闇が見つけられなかった可能性もある。
だが少なくとも、霊的な機械は見つかなかった。ならば問題ない。

(……ヒャクメが寝た後はベストだな。)

ヒャクメが寝た後に何かをするつもりなのか、悠闇はそれまでアジト内を見物する。
ヒャクメが小休止でもいいので、仮眠についた時を狙わねばならない。

「――心眼、こんな時間にどうしたのよ?」
「美神どのか……そちらこそ、今まで何を……?」

大分霊力を消耗している美神に出会う。
どうやら先ほどまで、シミュレーションで特訓をしていたらしい。

「知らぬ間に随分と特訓していたようだな。霊力、霊圧こそ大して変わっていないが、前よりも霊波が凄く綺麗だ。」
「そ、そう?……あなたにそう言われると嬉しいわね。」

二人は、廊下の壁にもたれながら、雑談をする。
美神の愚痴を聞いたり、横島やおキヌの事について話したりと、本当に下らなくとも楽しい雑談。
そんな雑談に花を咲かせていると、美神の顔が神妙になる。

「――勝つわよ。」
「え?」
「勝つわよ、心眼。勝ってとっととあの馬鹿連れ戻して、商売再開して、ぼろ儲けしなくちゃ、ね。」

その顔は不安など全く感じさせない。
唯、前だけを、唯、未来だけを見つめる。
アシュタロスなど、通過点に過ぎないと。

「あぁ、そうだな……本当にそなたらしい。」
「当然よ! 私は美神令子よ!! 世界が滅んでも、生き残る女なんだから!!」

悠闇は美神と別れた後、ヒャクメの様子を確認しに行く。
二日前から逆天号を探し続けているヒャクメだが、何ら成果は上がっていない。
必死でモニターの前に座り続けているのだが、どうやら今は、仮眠を取っているようだ。
すぐに破壊された一階に上がり外に出てから、発信機を取り外す。
これで、問題はない。

(……横島、横島、聞こえるか?)

悠闇は嘘を吐いた。
それはテレパシーでヨコシマと連絡を取る事は可能な事。
この外でならば、テレパシー程度の微弱な霊波を感知できる者はいない。

(横島、そちらに声が届いているのは分かっている。返事をしてくれないか?)

声が向こうに届いているのは分かっている。
だが、横島からの返事はない。いや、正確には返事をしてくれない。
それでも辛抱強く、悠闇は横島に、ヨコシマに語りかける。

そして――

(……聞こえてるって……心眼。今なら、俺以外居ないぞ。)

どうやら、ヨコシマは三姉妹から距離を取ったらしい。
そして、ヨコシマのセリフからは、こちらにテレポートしてもいいと言っているようなものだった。
悠闇から言うつもりだったのが、手間が省ける。

(分かった。今からそちらに行く。)

一方通行のテレポート。また、この場に帰ってくるのに自らの足を使う必要がある。
そして、ヨコシマが嘘を吐いていて、周りに三姉妹が居れば、悠闇の命は消える。
危険度の高い再会。だが、会わずにはいられない。
ヒャクメが寝るのを待っていたのもこのためなのだから。

悠闇はテレパシーの先に意識を集中させる。

そして、空間転移。

「よっ! 久しぶりだな。」

ひどく懐かしい。
その顔、その声、その口調、確かに横島のものだった。
思わず、目頭が熱くなる。
だが、まず、しなくてはいけない事があった。

―霊視―

伊達に邪眼竜と呼ばれてきたわけではない。
そして、横島の霊視の師匠なのだ。

この眼で横島とヨコシマの違いなど、見極めて見せよう。


「(くっ!!)………………なるほど。確かにお前は横島ではないな。」


/*/


逆天号を撃沈寸前まで追い詰められたヨコシマ達であったが、妙神山の時は、被害がそこまで大きくなかったので異界でルシオラがのんびりと修理していたが、今回はそうもいかず逆天号の自己修復機能に任せるしかなかった。
そのため、ヒャクメが外国の何処かに逃げたと思っているとは裏腹に、ヨコシマ達は逆天号から降りて、日本にある安い別荘でのんびりと身を隠している最中だった。
なお、巨大な逆天号がヒャクメに見つからないのは、逆天号は兵鬼のため大きさをカブトムシと同じぐらいに縮める事が可能だったからである。

始めは世界征服を狙っている連中がこんな安い別荘を基地にしている事に呆れたヨコシマだったが、一日も住めば、確かにこの別荘は良いと納得する。

「明日で、こっちに居られるのも最後か……」

三姉妹に拉致されてからは、異界での生活が長かったため人間界に丸一日居る事など殆どなかったヨコシマ。
悠闇が眠り続けていたのも、それが原因であった。

「ヨコシマ、明日は出発の日なんだから、早く寝なさいね。」
「ん、わかった。」

窓から外を眺めていたヨコシマに、ルシオラが声をかける。
夕食も済ませ、後は寝るだけなのだが、何かを感じたヨコシマはルシオラがリビングから出て行った後も、一人何かを待つように時を過ごしていた。

「――!? 感じた予感て、これかよ…………」

何かが聞こえてくる。
だが、ここにはヨコシマしか居ない。三姉妹も土偶羅もすでに眠りについているだろう。

「……擬態、己自身を消すのではなく、周りの環境の合わす…か。」

ヨコシマは、気配遮断を使用して外へ出る。
何処か邪魔にならない所がいい。ある程度、別荘から距離を取った所で立ち止まる。

「……聞こえてるって……心眼。今なら、俺以外居ないぞ。」

ヨコシマがそう言った後、目の前に悠闇が現れる。
どうやら、テレポートして来たらしい。

「よっ! 久しぶりだな。」
「………………なるほど。確かにお前は横島ではないな。」
「はぁ〜〜…会ってそうそうそれかよ。じゃあ、俺は誰なんだ?」

軽いノリで挨拶するヨコシマだが、悠闇はそれに答えず、すぐにヨコシマを霊視する。
その態度に少しムッとするよこしまだが、とりあえず悠闇が自分の正体に何処まで近づいたか尋ねる。

「考えてみれば、いくらアシュタロスに技術力があろうと、人間に新たな人格など、簡単に作れるわけがないのだ。洗脳とはレベルが違う。元の人格を残しておきながら、新たな人格を作るなど…特別な何かを必要とする。」
「前置きはいいぞ、と言いたいんだが、それじゃ俺にはその特別な何かがあったっていうのか?」

ヨコシマは、悠闇を試すような物言いで続きを待つ。
悠闇は、最初の霊視で答えには到達している。
後はヨコシマの反応を見て、それが正しいかどうかを確かめるだけであった。


「この世界において、同じ魂と同期した者など横島以外に誰が居る? 違うか――


 ――高島の魂よ?」


平安京で、横島は一時的に高島の魂と合体した事があった。
そして戦国時代に飛んでからは、吸収しかけてしまう。
その時、唯、ポツンと意味もなく残った僅かな、本当に僅かな魂の欠片が横島の魂に残ってしまった。
全くの無害の魂の欠片。本来なら意味を持たず、横島の死と共に消え去る運命だったはず。
それが今、ヨコシマの人格を形成するためのベースとなり、横島を支配する存在となっている。
悠闇が気付く事が出来たのは、高島の体に一度、憑依した事があったからであって、でなければこの些細な違いを気付く事は難しかっただろう。

「すごいな! 一目で横島と高島の違いを見極められるか!? まぁ、その通りで俺は高島の魂を基盤にされた存在だ。といっても俺は高島じゃないぞ。あくまでもベースが高島の魂なだけだ。まぁ、横島の心と高島の心が合体した存在だと思ってくれたらいい。あぁ、勘違いはするなよ。俺は横島の思い、高島の思いにも縛られたりはしない。俺は俺の思うがままに動く!」

高島の魂を基盤にして、横島の魂を調味料のように使って出来たヨコシマの心。
横島の心が壊れるのを防ぐために、ヨコシマの心を使って崩壊を防いでいく。
そうやって横島は自分が気付かない内に、ヨコシマに支配されていった。

「待てよ? まさか、おぬし……」

そして、妙神山でのヨコシマの覚醒。

「まさか、わざと横島に力を使わせたのか!?」

あの小竜姫を殺そうとしたのは、横島の残った力を全て使用させ、完全に乗っ取るためだったと推測する悠闇。

「んーーー、どうなんだろうな? 俺が全力出せるためにも、横島の存在は邪魔だったからな。あぁすりゃ、俺の邪魔するのは、ほぼ間違いないと思っていたのは確かだけど。」

ヨコシマは、横島が予定通りに動いてくれた事に感謝する。

「なぁ、心眼。俺はお前らにとって横島じゃないんだよな?」
「っ!?」
「俺は横島でも、高島でもない。お前らはそう言うんだろ? じゃあ、教えてくれ? 俺は誰だ?」

その視線は悠闇を貫く。
俺は誰だ?
答えられない。
横島ではない。高島でもない。横島の一部? 高島の一部?……分からない。
目の前の男は誰なのだろうか?

悠闇が答えられず、黙っていると先にヨコシマがこの沈黙を破る。

「なんつって!……安心してくれよ。全部終わったら、ちゃんと返すからさ……横島なら妹達も任せられる……多分。つーか手を出そうとしたら、心眼、お前の手で止めてくれ。お願いします!」
「全部? 妹?」

ヨコシマは三姉妹の事を悠闇に伝える。

「横島は返す。交換条件といったらなんだけど、その代わり、ルシオラ、べスパ、パピリオ、あいつ等を助けてくれ。……もちろん、そっちが俺たちに勝ったらな」

ヨコシマが頭を下げる。
悠闇はまさかこんな取引をするために、横島を支配したのだろうかと思ってしまう。

「横島は、横島は本当に元に戻るのか?」
「………………」

黙り込むヨコシマ。
だがその顔は、別に教えてもいいかな〜と言ったものであった。
しばらくして、ヨコシマの口が開かれる。

「元に戻す方法は簡単。必要なのは、□□□□□□□□□□□□□□□□。しかも横島の□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□必要がある。」
「そんな□□□□□□……!? そうか!! □□□□□□――」
「そう、一つだけある。□□□□□□□――」

それは□□□□□□□□□□□、□□□□□□□、□□□□□□□□□□。

「「□」」

その□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□いるだろう。
そこにさらに□□□□□□□□。

「いっとくがな、俺が使う…ちょっと違うな。俺が了解する必要があるんだしな! □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□。俺が横島に譲るという意志があって、初めて意味があるって事は忘れんなよ!……あ、それとこの事は皆に内緒な。理由は何となくわかるだろ?」
「あぁ、分かった。大丈夫だ………………ありがとう。」

ヨコシマが何をしようとしているかが分かってきた。
そのためには横島が復活できる事を、皆が知らない方がアシュタロスの目を欺きやすいのだろう。
あのアシュタロスのことだ。些細な変化も見逃さない可能性がある。
よく考えれば、そうだったのだ。
”よこしま”の体には霊体ゲノムや、その中に監視ウィルスが組み込まれている。
そして、このヨコシマはそれを知っているのだ。

だが、この男は、この大馬鹿者は、

その状態でまだ、足掻こうとしている。

「――だ。」

一つの可能性に掛けて……

「――横島だ。」
「何? どうしたんだ?」

そうだった。
この男は欲張りだったのだ。
三姉妹達ではなく、美神達でもなく、その両方を掴む為に……

その強情な一途な思い。
あのフェンリル戦の時と全く変わらない。

「お前は横島だ。ワレが保障しよう。」
「えっ……? そっか……俺も…横島でいいんか。」

ヨコシマは、本当に嬉しそうに喜ぶ。

「今一度、此処に誓おう!…………例え世界が敵になろうが……我が主はお前達、横島忠夫だと。」
「……おう。」

ヨコシマは、悠闇の言葉を自分に、そしてもう一人の自分に刻み付けるように、胸に刻む。
そして、悠闇の方に手を差し出す。
別に握手がしたいわけではない。自分の霊力を悠闇に渡すだけだ。

「…………ありがとう。これで、大分、楽になった。」

ヨコシマは、別荘の方に帰ろうとする。
話は終わったという事だ。

だが、まだ言いたい事がある。

「聞け、ヨコシマ!! 横島が返ってきても、おぬしが消えたりするわけではないのだろ? だったら、たまには出て来い!! いつでも、ワレは歓迎する!!」

ヨコシマは一瞬、立ち止まったかと思えば、右手を上げてそのまま暗闇の中に消えていった。


/*/


悠闇はヨコシマと出会ってから、此処が何処か把握して、アジトに帰るまでに1日の時間を要した。
普通の人間ならばヒッチハイク等をしても二日は掛かる所を一日、正確には半日半で帰ってこれたのは流石は、封印されても神族といったところだろう。
もちろん、封印されていなければ一時間もせずに帰ってこれた距離ではあるが。

「……黙って行った事に関しては謝罪するつもりはない。」

現在、悠闇は皆に昨日と同じメンバーに囲まれて、尋問を受けている真っ最中であった。
どうして、嘘をついたのか?
どうして勝手にヨコシマのもとに向かったのか?
どうして、その基地の場所を教えないのか?

答えは一つ。
基地さえわければ、勝つために、ヨコシマごと精霊石弾頭ミサイルで仕留めるからだ。
いや、下手すれば多少の犠牲は止むを得ずと、その周辺に核を使用するかもしれない。
だから、テレポートした瞬間を見られ、ヒャクメにバレるのだけは避けたのだ。

「……わかったわ。あなたが言いたがらない理由が分かった以上、聞いても無駄ね。」
「ありがとう。」

美智恵も悠闇の考えが読めたらしい。
横島を犠牲にという前提条件は悠闇にはない。
横島が生きている事が前提条件なのだから。
何より、そしてヨコシマの信頼を裏切るわけにはいかなかった。
ヨコシマが、悠闇と会おうとしたのは、悠闇なら会ってもいいかと思ってくれたのだから。

「それじゃ、結局、何も分からなかったっていうの?」
「それに関してはすまない。アヤツの霊力を奪う事しか出来なかった。」

ヨコシマが内緒にしてくれといったのに理由がある。
悠闇に話したのも、保険なのだろう。ギリギリの譲歩であり、最後の切り札。


それが――

 ――横島の復活。


だが皆がガッカリしている中、美智恵はとく落ち込んだ様子を見せない。

(流石は……という所か……)

悠闇が何かを隠している事に薄々気付いているのだろう。
美智恵は横島と特に感情を持っていないから、冷静に悠闇を見る事が出来る。
横島第一の悠闇が何の手土産も持たず、帰って来るわけがない。
必ず、何かを掴んでいる。そう、勘が告げていた。
だが、それでも何も言ってこないのは、こちらを信頼してくれているのかもしれない。

(美智恵どのは少し間違っているようだな……ワレを信じるのではなく、ヨコシマを、横島を信じなければ……)

しかし美神の調子を見た所、まだ美智恵は暗殺の件を話していないらしい。
ヒャクメもその事を思ったのか、美智恵をけしかける。

「先せ……隊長、僕も言うべきかと……」

美知恵は、少し黙ってから覚悟が決まったのか、顔を上げる。

「……令子、よく聞きなさい。」
「え? 何?」

美知恵は宣告する。
世界GS本部の決定、美神令子の暗殺を。
もう、タイムリミットは一週間ないという事を。

だが、一つ失敗だった事がある。

おキヌが怒って制服を脱ぎ捨てようとしている事?
違う。
シロや雪之丞、鬼道、ピート、唐巣達が怒っている事。
惜しい。

正解は……


「れ、れいこちゃんが……死ぬ死んじゃう……何で? 何で?……」


冥子の暴走。
気付くのが遅かった。
鬼道が駆け寄って、宥めようとするが、時既に遅し。

「ふえ〜〜〜〜〜〜ん!!!」
「ああ!! ママ、何で冥子の前で言うのよ!? 冥子、ほら!! 大丈夫だから!!」

美神が自分が暗殺されそうな事にキレる前に、先を越されてしまった。
美智恵もこんな事になろうとは思ってなかったので、暴れている式神を回避するのが精一杯。

「――!?」

鬼道が必死に冥子を宥めている最中、雪之丞が何かに気付く。
手馴れてもので、鬼道は冥子を宥める事に成功する。

「……おい、ちょっといいか。」
「どうしたの?」

雪之丞が、何もない所に歩いていき、そこで床を睨みながらしゃがむ。

「コイツは――」

右手を魔装で覆い、床を破壊する。

「――何者だ?」

煙が立ち込め、その中から気絶した覆面の男が引きずり出される。

「後、そこに二人、天井に一人……何だこりゃ?」
「え、え、え、え?」

ヒャクメは雪之丞が示した天井には誰か居るのはわかっていたが、壁の方には何がなんだかといった具合。

「出て来いよ……さっきの騒動で、えらく動揺してたからな。今はてめえらが何処に隠れているか、よくわかるぜ。」

勘九朗との特訓は伊達ではなかった。
その気配を察知する力は、横島の気配遮断を上回るだろう。
相手は様子を見ているのか、出てこない。先の事で居場所はバレているかもしれないが、こちらにも事情があるといった所か。

「ヒャクメ、この連中は何なの?」

美神がヒャクメに尋ねると、どうやら数日前から潜入していたらしく、美神の態度次第でいつでも殺せるようにとの事だ。

「なるほど……というと、てめえらはぶっ飛ばしていいって事か?」
「許可するわ、雪之丞。任せたわよ!」

西条たちは暗殺部隊から美神を守るように陣形を組み、攻めは雪之丞一人に任したらしい。
しかし、相手も実力の差がわかったのかすぐに出て来て投降する。
ヒャクメが暗殺部隊の一人にしか気付かなかったのは、どうやら霊波迷彩服を一人を除き着用していたようだ。
ヒャクメは、霊波にピントを合わせて見ているで、霊波を消されると何も分からなくなる。

「しかし連中もやってくれるわね……これじゃアシュタロス一派よりよっぽど性質が悪いじゃない!」

暗殺部隊を簀巻きにしながら、憤慨する美神。
確かにアシュタロスは美神を捕らえる事をしなければならないので、暗殺といった事はない。


「――では、素直に私のもとに来てほしいものだ。」


ドアが開き、その奥から聞こえる魂が凍るような声。
そこに立つのは、悪魔の中の悪魔。

「何者!?」
「お、おまえは!?」
「なっ!?」

美智恵たちはGS特有の何かを感じたのか、一斉に構える。
美神、悠闇、小竜姫、ワルキューレは相手の正体に気付くが、流石はヒャクメ、何がいるかよくわかっていない。

「あぁ――これで、見えるだろ?」

霊波を放出する魔神――


「あ……あ……アシュタロス!?」
「な、何ーーーー!?」

アシュタロスを知らない者は大慌て。

「わ、私って、もしかしてものすごい役立たず!?」

ヒャクメもテンパって、ある事に気付かない。
しかし小竜姫、ワルキューレ、悠闇はある事に気付く。
確かにアシュタロスの登場には驚いたが、それで我を忘れるようでは今まで生きていない。
だが、小竜姫もワルキューレもすでに戦闘を行える力は残っていない。
悠闇も、少ない霊力をこんな事で使用するわけにはいかない。

「美智恵どの!! 結界を!! ヤツは偽者だ!!」
「――!? 令子、西条クン!! 結界の準備!! 他の皆もすぐにフォロー!!」

美智恵はアシュタロスを銃で撃ちながら、指示を出す。
悠闇の言葉を聞いてからの迅速な行動は流石としか言いようがない。
美神と西条が結界でアシュタロスを囲い、唐巣、エミ、魔鈴、鬼道が結界を強化する。

「ふむ、素晴らしいな。たった一言でこうまで迅速に対応するとは……部下が苦戦したのも頷ける。」

アシュタロスの偽者は結界の中で首だけになってしまう。
どうやら、首のパーツが人間の死体を操っていたようだ。
アシュタロスは話し合いに来たといっているが、美智恵はだったら最初から手の内を見せろと切り返す。

「とりあえず、出前でもとろっか!」

美智恵がこれで大丈夫だと言うと、美神がペースを戻そうと、出前を取り始める。
アシュタロスは確認事項のように、自分が欲しいのは美神の魂に含まれているエネルギー結晶だと言う。
だが、神魔の牽制に思ったより、魔力を使いすぎたようで直接襲うのが難しいとの事。

「……部下も見事にヨコシマの足を引っ張るばかり……残り時間も少ないし、そこでお願いがあるんだ。」

皆がヨコシマという単語に反応を示すが、今はアシュタロスの話を聞くのが先だと我慢する。

「私の居場所を教えるから、そこへ来てくれないか?」
「なっ!?」

ふざけたお願いだ。
敵の本拠地に来てくれと、敵が最も有利な場所に来てくれと言っているのだから。
当然、美智恵はそのような誘いに乗るつもりはない。アシュタロスの口から残り時間は少ないと聞いた以上尚更だ。

「――何故、私達が危険を冒す必要が――」
「必要はあるさ――」

アシュタロスは美智恵の言葉を遮って、美智恵と眼をあわす。

「母親の命を――」
「なんだ、こりゃ?」

雪之丞が動く。
ちょうど、美智恵の近くに大きな蜂がいたのでそれを摘む。

「……………………」
「――!? なるほどね……それで? 母親の命がどうしたの?」

雪之丞はとりあえず、美智恵に言われたとおり、その蜂、べスパの眷属である妖蜂を潰す。
同時にカオスが適当に入れ物を取り出して、その死骸をそこに入れる。

「伊達クン、お手柄よ。確かに今のに刺されていたら、大変な事になったわ。」

どうやら、アシュタロスの狙いは今の妖蜂で美智恵を刺して、その毒を血清が欲しければ自分のもとに来いという事だったらしい。
しかし、恐るべし勘九朗センサー……ではなくほんの僅かな気配すら察知する雪之丞の鋭さ。
暗殺や奇襲といったものは、最早この男には通用しないだろう。

「……なるほど、では仕方がない。君達が私のもとに来ないというのなら、核を使わせてもらおうか。」
「「「「「――!?」」」」」

”核”

それはあまりのも暴力的な兵器。
だが、いきなり口に出されたからといってなんじゃそりゃ? と言った所だろう。
だが、アシュタロスはある地域に存在する核ミサイル搭載の原子力潜水艦が数隻、行方不明になっているはずだ言う。

「西条クン、確認して!」

西条は室内にある電話から、本部の方に繋ぐ。
行方不明になった潜水艦と連絡がつくかどうかを知るだけなので、時間はかからない。

「……どうやら、本当のようです。」

それは核がアシュタロスの手に渡ったという事になる。

「さて、これで分かったかね? 道案内を置いておくので、迷いはしない。それでは――」
「待ちなさい!!」

消えようとするアシュタロスを止める美神。

「何かね?」
「あの馬鹿に伝えておいて!! アンタ、当分時給250円!! ってね。」

その一言に、内心かなり凹んだ者がいたが、それが誰かは言うまでもないだろう。

「……いいだろう。では、直に会えることを楽しみにしてるよ。美神令子君。」
「アンタこそ、首を洗って待ってなさいよ!!」

アシュタロスの首が消滅する。
それと同時に一同は、はぁ〜と安堵の息を吐く。
やはり皆、相当緊張していたようだ。

「先生!!」
「西条クン!!」

美智恵は西条が言いたい事がわかったのか、それを止める。
ここに道案内と称された一匹のホタルがいるのだが、これが盗聴器のような役割を果たしている可能性を考慮したのだ。

「で、場所は何処を示しているの?」

ホタルは机に描かれている大きな世界地図のある地点で止まっている。


「アシュタロスが居る場所、それは――南極大陸!!」


そこがホタルが示した場所だった。


――心眼は眠らない その63・完――


あとがき

一週間ぶりの更新です。

ヨコシマ、その正体は高島の魂が基盤となった存在でした。
そして、勘九朗センサー恐るべしといった雪之丞。
兎に角これで美智恵も南極大陸に参加になります。

え〜と次回の話ですが、すでに書きあがっているのですぐに更新できますので、’□’で隠されていた所もすぐにわかります。
つまり、次回どうやったら横島が復活するかわかるのですが、もう分かってしまった方は内緒でお願いします。

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