ドンドンドンドン
「せんせー! 朝でござる散歩に行くでござるよー」
朝も早よから横島の部屋のドアを叩くシロ。
ガチャ
いつもからすれば思いのほか早く扉が開く。
「せんせー、おはようでござる。」
「おう、おはようシロ。」
「それでは早速散歩に行くでござるよ。」
尻尾をブンブン振りながら笑顔でそう言うシロ。
「ああ、行くとするか。」
そう言いながら階段を下りていく横島、シロも後に続く。
「それでは。」
そう言いながら横島の乗る自転車に自分が引くロープを括り付けていく。
「ああ、それはしなくていいぞシロ。今日からは俺も走るから。」
「ほっ、本当でござるか!」
横島の発言に驚き、横島の方を向くシロ。
「ああ! 俺も少しは体を鍛えなくちゃな。さあ行くぞ。」
そう言い、走り始める横島。それを見たシロも、
「はいでござる。」
そう言って走り始める。
早朝の澄んだ空気の中、二人の走る音が徐々に遠離っていった。
「ぜーぜーぜーぜー・・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫でござるか先生?」
路上で大の字に倒れ込んだ横島の横にしゃがみ込んだシロが心配そうに話し掛けている。
「ぜーぜーぜーぜー・・・・・・・・・・・・・」
横島は何とか返事をしようとするが、呼吸が苦しくて声が出せない。
除霊の時には大荷物を背負って行動する横島ではあるが、流石に人狼の体力には及ぶべくもなくシロのペースに無理に合わせた事もあり、いつものコースの5分の1ほどの距離を走ったところで敢え無くダウンとなった。
「み・・・・・・み・・・ず・・・を。」
息も絶え絶えに何とか話す横島。
「水でござるな、しばしお待ち下され。」
そう言って駆けだしていくシロ。
やっぱり、シロのペースに合わせるのは無理だったか。
今更ながらに後悔する横島だった。
「せんせー、着いたでござるよ。」
結局横島がダウンしたところで散歩はお流れとなり、帰りはずっとシロに背負われてきた横島。
「悪かったなシロ、俺は師匠なのに弟子に背負われてしまうなんて。」
少々気落ちしている横島、でもシロは笑顔で、
「気にする事はないでござる! それに先生と一緒に走れて拙者楽しかったでござるよ。」
そう返事をする。
「そうか、明日はもっと頑張るからな!」
「はいでござる! それでは拙者帰るでござるよ。」
そう言い手と尻尾をブンブンと振りながらものすごい勢いで走り去るシロ。
もっと頑張らなきゃな
心の中でそう誓う横島だった。
ズズー、ズズー
「えーと、標識の種類は規制標識と案内標識と・・・・・・・」
ツルツル、チュルン
「補助標識には・・・・・・・うーん・・・・・・」
コトン
「あのねー横島。」
「うん? 何だよタマモ。」
「せっかく美味しいうどん屋に来て大好物のきつねうどんを食べるという至福の時間を過ごしているのに、その正面でなにブツブツと呟いているのよ。せっかくのうどんの味が落ちちゃうじゃない!」
あまりのタマモの剣幕に背筋に冷たいものが流れる横島。
「わっ、悪かった。もうしないから勘弁してくれよタマモ。」
「ふん! いいけどここは横島のおごりね。」
「(ボソッ)元々そのつもりだったくせに。」
タマモの発言に俯きながらそう返す横島。
「(ピクッ)なんか言ったかしら? よ・こ・し・ま!!」
こめかみをひくつかせながら笑顔のタマモ。
「何でもありません! タマモさん!!。」
背筋を伸ばしそう返す横島。
「・・・・・まあいいわ。すいませーん! きつねうどん一つといなり寿司二つ追加ー。」
ここぞとばかりに追加注文をするタマモ。
「(ボソッ)なんか美神さんに似てきた。」
ボヒュ!!!
タマモの発した狐火が横島に襲いかかる。
「あちゃー!!」
ゴロゴロと転げ回る横島。横島はローストされているもののテーブルや壁には全く被害が無い、タマモの技術も向上しているようだ。
「口は災いの元よ、横島。」
ぷすぷす
「りょーかいしましたタマモ様。」
こんがり焼かれて床にうつぶせになりながらも返事だけは返す横島。女性に勝てないのは相変わらずである。
「ほい! 天ざるセットにきつねうどん、いなり寿司二つお待ち!!」
床に転がっている横島を気にもせず店主が注文の品をテーブルに並べる。どうやらこの光景も見慣れているようだ。
「ありがと。ほら横島! 注文したものが来たわよ。」
「りょーかい」
タマモが声を掛けると無傷の横島が立ち上がり椅子に座る。
「ほんと頑丈よね・・・・・。じゃあ横島! 食事は楽しく味わって食べるのよ。」
「わかったよタマモ。」
タマモの発言に苦笑する横島。何とかその後は二人おとなしく食事をした。
令子は椅子に座り考え込んでいた。
考えているのは最近の横島のことである。
まぁったく、この間職員として契約してから全然らしくないんだから。
シロに聞いた話によると朝の散歩を一緒に走って毎回ダウンしているって言うし、タマモから聞いた話じゃ外食している時も色々な本を読んだりして心ここにあらずだって言うし。
昨日の除霊なんておキヌちゃんがちょっと悪霊に襲われそうになっただけで顔色を変えて突出して突っ走るし、私達のフォローがなかったらあいつ危なかったわよ。
一生懸命になるのは良いけど今のあいつは単にがむしゃらになっているだけね。どこにも余裕が無くて全然周りが見えていない。今のままじゃ危ないわね。
もう少し様子を見てだめだったら、横島君にはきーっちりと話をしなくちゃ。
ほんと世話が焼けるわね、出来の悪い弟を持ったみたいよ。
ため息を吐く令子であったが、その顔はどこか嬉しそうでもある。
「よう横島、久しぶりだな。」
「雪之丞じゃねーか、どうしたんだ?」
突然現れた雪之丞に驚く横島。
「いや、なんかGメンの隊長さんに呼び出されてよ。」
「へーお前が! ・・・・・・今度は何をした?」
「てーめー! 俺をそんな目で見てたんか!!」
「いや、だってよ他に何か考えられるか?」
「きっ、貴様ー!!」
横島のあまりの発言に怒りで全身が震える雪之丞。
「あー、悪かった悪かった。まああがれや、話は部屋の中で聞くからさ。」
「・・・・・・・・いいだろう。飯も付けろよ。」
「・・・分かったよ。・・・カップ麺と白飯にソーセージでどうだ?」
「もう一声!」
「・・・・・・卵も付けよう。」
「オッケー、あがらせてもらうぜ。」
「はー・・・・・・」
雪之丞とのあまりに低次元な会話に少々疲れ気味の横島だった。
「・・・・・落ち着いたか? まったく、買いだめしていた物全部食いやがって。」
「ふー、ああ何とかな。」
テーブルの横にはカップ麺の空き容器やら何やらが小山を作っている。
「まあいいさ。じゃあ話に戻るか、急にどうしたんだ?」
「ああ、Gメンの隊長さんに急に呼び出されてよ、それで行ってみたらGSのライセンスを発行する手続きのための書類を色々と書かされたのさ。」
「へーそうか。じゃあお前も正式にライセンスを貰えるんだな。にしても急だな。」
「俺もそう思ってさ、隊長さんに聞いてみたんだよ。そしたら何でもこの間の海外での作戦を教訓にして能力のある人間を早急に必要としているんだとさ。」
「ふーん、なるほどね。それなら雪之丞が選ばれるのも当然だな。こと1対1の戦いじゃあお前の右に出る奴は少ないだろうしな。」
「おかげで助かるぜ。やばい仕事ばかりしなくても良くなったからな。」
「まあ、何にせよ良かったじゃねぇか。」
「まあな。」
横島と雪之丞は顔を見合わせてニヤっと笑った。
「で横島よ、お前の方はなんか変わった事はあるか?」
「ああ、実はな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
横島は雪之丞に美神除霊事務所の正式な職員になった事、給料が上がった事などを話す。
「お前なー、給料が上がったくせに俺に食わせるのがカップ麺とはどういうこった?」
詰め寄る雪之丞に横島は、
「・・・・・・・・・・・金が有ったって料理ができねぇんだからしょうーがねーだろうが。」
と肩をすくめて答えた。
「ちっ、じゃあ晩飯はお前のおごりで外食な。」
「晩飯までたかる気かよまったく。」
雪之丞の発言に呆れる横島。
「でもよ雪之丞、Gメンの話だけなら事務所の方に来ても良かったんじゃないか? 何でわざわざ俺のアパートに?」
横島の質問に雪之丞はニヤっと笑いながら、
「ああ、今までの修行の成果をお前で試してみたくてな。」
「ったく、このバトルジャンキーが。」
「で、どうよ横島。」
「・・・・・・・・分かった、いいぜ。」
「ほう! まさか一回でそんな色よい返事を聞けるとはな。」
「俺ももっと強くなりたいのさ。」
感心する雪之丞に横島はそう返した。
近所の公園に移動し、文珠で結界を張る。
「じゃあ行くぜ横島!!」
ウォーミングアップが終わったところでそう告げる雪之丞。
「おう! 来い!!」
右手に霊波刀を出し、そう返す横島。
「うぉりゃあぁぁぁ!!!」
魔装術を発動しながらものすごい勢いで近づいてくる雪之丞。
「たあぁぁぁぁー」
霊波刀で迎え撃つ横島。
ギィンンンンン
「どうしたんだ、おめぇー?」
地面に倒れている横島に向かい話し掛ける雪之丞。
「前のお前だったらあんな力押し一辺倒な戦いはしなかっただろうがよ?」
「はぁはぁ・・・・・・るせー・・・・・・元祖力押し野郎に・・・・・・い・・・・・・言われたかぁーねーや・・・・・・・」
かなり苦しそうではあるが、それでも言い返す横島。
「ったくよ。今のお前じゃ戦い方に変化が無い分、前より簡単に倒せるぜ。らしくねぇことしやがって。」
「ちっくしょー・・・・・はぁはぁ・・・・・・・好き勝手言いやがって・・・・・」
何とか上半身を起こす横島。
「俺も強くなりたいんだ・・・・・・はぁはぁ・・・・・・・文珠だけに頼らずにな・・・・・・じ・・・・実力を付けたいんだ・・・・・・・・・・守れる力が欲しいんだ。」
「はー、この馬鹿が。」
横島の言葉に心底呆れたような雪之丞。
「おい横島! 勘違いすんな。強くなる方法なら力押しだけじゃねーだろうが、おめーの咄嗟の閃きや何でそんなとこまで見てんだみたいな視野の広さ、どんな状況になってもどっか余裕を持って対応するところ、そして何だかんだ言いながらも絶対にあきらめてないところ。
そんな長所を切って捨ててまで力押しに拘る必要なんてあんのか?」
「元祖力押し野郎が言ってくれるじゃねえかよ。」
横島の恨みがましい発言に雪之丞は笑いながら、
「俺は不器用でな。お前みたいな臨機応変さは持ち合わせていない。だから単純な力押しに徹底してんのさ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その言葉に何も言えない横島。
「まあ、もうちっとやり方を考えてみろや。そうそう、晩飯おごってもらうのは今度にするわ。」
そう言って立ち去る雪之丞。残された横島は、
「野郎、言いたい放題しやがって。
・・・・・・・・・・・・・・・俺の良いところか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
地面に座り込んだまま思考の海に沈んでいく横島だった。
ドンドンドンドン
「せんせー! 朝でござるよー、散歩の時間でござるよー」
今日も元気いっぱいで部屋のドアを叩くシロ。
ガチャ
「おう、おはようシロ。今日も元気だな。」
「おはようでござる。もちろん元気でござるよ。」
横島から声を掛けられ、尻尾をブンブン振るシロ。
「じゃあ、行くとするか。」
「はいでござる。」
階段を下り軽く準備運動をしていると、
「なあ、シロ。」
「なんでござるか?」
「俺さー、ここんとこ毎回ダウンしてお前に負ぶって来てもらってたろ。実際のところまだお前ほど速く走れないんだわ。だからさ、俺が慣れるまではペースを落として一緒に走ってくれないかな?」
少し照れながらそう言う横島。その発言にシロは少し驚くが次の瞬間には笑顔で、
「わかったでござる。先生と一緒に走るでござるよ。」
そう言った。
「おっ、サンキューなシロ。そのうちちゃんとお前のペースで走れるようになるからさ。」
「楽しみにしているでござるよ。」
「じゃあ行くか。」
「はいでござる。」
横島とシロはいつもよりかなりゆっくりとしたペースではあるが、少し会話を交わしたりしながら楽しく散歩(?)に出掛けた。
横島君が元に戻った、ううんやっぱり変わったのかしら。
この間までの独り相撲や空回りしていたところが消えて、なんかのびのびやっている。
私や、おキヌちゃん、シロ、タマモ。誰とペアを組ませても前よりも更にきっちり息を合わせてくれる。
私が横島君とペアを組んで除霊すると、本当に息の合ったサポートをしてくれる。こっちがしてもらいたい事を絶妙のタイミングでやってくれる。
おかげでとても動きやすい。おキヌちゃんやシロ、タマモもその動きやすさに驚いていた。
ただそれを見ている方は、あまりに息の合った二人の動きに焼き餅を焼いちゃうんだけど。
でも不思議だ。普通一人前になったGSには、その人特有の得意な分野やスタイルというものがある。それがあるからその人に向いている除霊や向かない除霊がある。
私だってスタイルはあるし、苦手な部分は豊富な道具を駆使する事で補っている。
なのに横島君にはそれが無い。相手によってスタイルを変えるし、状況に対する適応力には私だって舌を巻く。
掴みどころの無い空気か水みたい。
いったい何が切っ掛けになったんだろう?
自分の知らないところで変わった横島に色々考える令子だった。
その日、令子におキヌ、横島の3人は除霊の報告書を作成していた。
所員になった横島は、書類業務にも参加するようになったのだ。(もっとも会計業務だけは令子が一人でやっているが。)
「えーと、この漢字はどう書くんだっけ。辞典辞典と。」
「ああ、それはこう書くんだよおキヌちゃん。」
「えっ、ありがとうございます横島さん。」
「へー、あんた漢字って得意だったっけ?」
「いやー、俺の文珠って字が一文字しか入らないじゃないですか。なもんで込める漢字にもっと有効な物はないのかなと思って、それで前に『おもしろ漢字大辞てーん』っていう本を古本屋で買って読みふけったんですよ。そのおかげで漢字にはだいぶ詳しくなったんす。」
「ふーん、あんたも少しは努力してんのね。」
感心したように令子は話すが、
「なんか誉められてる気がしないんですけど。」
横島は素直に喜べない。
「やーねー。誉めてる誉めてる。」
手をピラピラと振りながら令子は話した。
実際横島君があんなに漢字に詳しくなっているなんて知らなかった。
横島君にちょっと聞いてみただけだが、学校の勉強も愛子とピート君のおかげでクラスでも中程の成績を維持しているらしい。
「別に進学する訳じゃないし、充分っすよ。」
そう横島君は言っていたが、真剣に勉強すれば学業でもかなりの成績を残せるのかもしれない。何てったって“あの”両親の子供だし。
自動車教習所の方ももうすぐ路上に出ると言っていたし、船舶免許の勉強もしているらしい。
偶に見せる真剣な顔には、私でも“ドキッ”っとしてしまうことがある。まっ・・・・・・まあ笑顔にも“ドキッ”っとするんだけどさ。
給料が上がったから食べるのには困らないはずなのに、前よりも頻繁におキヌちゃんは料理を作りに行くし、給料が上がったせいでシロやタマモがまとわりついて食べ物をせがむし。
横島君も何だかんだ言いながらも二人を連れて行っちゃうし。・・・・・・・・・何だか面白くないわね。
私ももう少し積極的に行かないとまずいかな? でもまだ学生の横島君を飲みに連れ回すわけにも行かないし・・・・・・・・・・・卒業したら覚えてなさいよ(お酒は二十歳になってから)
少々理不尽な焼き餅を焼く令子だった。
「よう雪之丞。」
「なんだ横島じゃねーか、どうした?」
「ああ、約束していた晩飯をおごりにな・・・・・・。そういやあライセンスはどうなった?」
「この間隊長さんから貰ったぜ。ランクCのやつをな。」
「そうか、じゃあ今日はお祝いだな。」
「それはいいが、晩飯喰うにはちょっと早すぎないか?」
時計を見てそう言う雪之丞。
「いいんだよ。その間にやる事があるからな。」
「やる事だー?」
横島はニヤっと笑って、
「この間の借りを返そうと思ってなバトルジャンキー。」
「けっ、その俺に喧嘩を売るてめーもその素質充分だってーの。」
雪之丞もニヤっと笑う。
「それは嫌だな。」
心底嫌そうに顔をゆがめる横島。
「てめー!!」
「まあまあ、じゃあ行くか。」
「ふん、良いだろう。」
この間と同じ公園に移動し、文珠で結界を張る。
「行くぜ!!」
魔装術を発動してからそう告げる雪之丞。
「おう! 来い!! この間とはひと味違うぜ。」
右手に栄光の手、左手にソーサーを出し、そう言う横島。
「返り討ちだってーの。うぉりゃあぁぁぁ!!!」
叫びながら突っ込んでいく雪之丞。
「おーい、生きてるかー?」
地面に倒れたままの雪之丞に向かい話し掛ける横島。
「ちっくしょー、何なんだよてめぇは。この間と全然違うじゃねぇか。」
「はは、お前のこの間の意見を参考にしてな、俺なりに考えた戦法さ。」
「こっちの攻撃は全て交わすわ流すわで一発もまともに当たらなかったぞ。」
「まあそれが俺本来の戦い方だからな。」
「それに最後の技は何だありゃー、止めたと思った霊波刀がガードをすり抜けてきたじゃねーかよ。」
倒れ込んでいる雪之丞の横に腰を下ろして話し始める横島。
「ああ、あれはさ霊波刀をもっと収束させようとして色々やってみたんだけどさ、なかなか上手くいかなくてな。だから逆の事を考えたのさ。
同じ相手に何度も使える技じゃないが、何回か相手の攻撃を霊波刀で弾いて相手に硬い物だという印象を与えておいて、こっちから攻撃する時に相手のガードに当たる一瞬だけ霊力を弱めてすり抜けさせてから再び硬くして攻撃する。
引っかかっただろ。」
ニヤニヤ笑いながら雪之丞にそう聞く。
「くっ! ああ、まんまとやられたよ。だが今度は通じないからな。」
そう返す雪之丞だが横島は、
「いいのいいの、今回だけ通用すれば。それに・・・・・・・次からは受けないで逃げるから。」
そう応えた。
「てめー! きったねぇぞー!!! いてて・・・いてて。」
横島の答えに怒った雪之丞が体を起こすがダメージの為に痛みが走る。
「まあ落ち着け。今文珠で治療するから。」
そう言うと横島は文珠を取り出し、雪之丞の怪我を治療する。
「さあて、借りも返せて気分も良いし、パーっと焼き肉でも食いに行くか。」
ズボンをはたきながら立ち上がった横島はそう雪之丞に話し掛ける。
「くそっ! まあいい、行こうぜ。」
雪之丞も立ち上がりそう言う。
「だが、戦いはまた受けて貰うからな。」
「やなこった。」
「なら、闇討ちをしてでも受けさせてやる。」
「おいおい、物騒な事を言うなよ。」
「てめぇが逃げようとするからだろうが。」
そんな会話を交わしながら焼き肉屋へと向かう二人だった。
「美神さん、教習所の卒検受かりました。今度免許センターへ行ってきます。」
「あら、思ったよりも早かったわね。」
「ええ、延長無しで卒業しましたから。まあまだ自動二輪の免許を取りに教習所には通うんですけど。」
「へえ、やるじゃない。」
横島へ笑顔を向けて話す令子。
「じゃあ、試験に受かったら車が必要になるわね。せっかくの感覚を忘れないうちに運転に慣れなくちゃ。私の車は・・・・・・・・新米ドライバーにはちょっとね。」
少し苦笑いの令子。
「はい。まあそれで今中古車情報誌を見ながら買えそうな車を探して・・・・・・・・・って何で美神さん睨むんすか?」
「中古車ー! あんたね、車の歴史に名を残すようなビィンテージものの名車なら新車で買えないから仕方ないにしても、美神除霊事務所の仕事で使う車に中古車ですってー。」
そう叫びながら立ち上がる令子。横島は少したじろぎながら、
「いや、だって新車を買う金なんてとてもとても・・・・・・」
「だーかーらー、事務所の仕事で使う車だって言ってんでしょうが! こっちで準備したげるからあんたは早く車を選べばいいのよ。」
令子の言葉に驚く横島。
「えっ! そこまでしてくれるんですか美神さん。」
「いいの! 仕事で使う車なんだから。」
そう言いプイと横を向く令子、でもその頬は少し赤い。
「ありがとうございます美神さん。俺今まで以上に頑張ります!」
令子へ頭を下げる横島。
「ふっ、ふん!」
どこまでも素直じゃない令子であった。
横島が免許を取った三日後、横島の(事務所のよ! by 令子)車が納車された。
「へー、これが先生の使う車でござるかー。何という車なのでござるか?」
「ス○ルのフォ○スターさ。」
「へー、フォレ○ターでござるか。」
「ねえ横島、どうしてこの車を選んだの?」
「ああそれはな、除霊で遠出をする時はとんでもない山の中に行く時もあるから車高の高いこいつを選んだのさ。」
「でもおんなじような車ならいくつもあると思うけど?」
「まあ車高が高くても高速での安定性も定評あるし、この車なら事務所のメンバー5人とも乗れるし、あとは俺の好みかな。」
「ふーん」
タマモが納得したところで今度は令子が、
「でもMTを選ぶの今時。」
「せっかくAT限定免許じゃないんだし、感覚を忘れないようにしたいんですよ。それに美神さんが持っている車だって全部MTじゃないですか。」
「まあね。でもNAの140馬力じゃあパワーが足りないわ。」
「それは普段美神さんがコブラなんかに乗っているからですって。それだけあれば充分ですよ。」
「色も横島さんが選んだんですか?」
「そうだよおキヌちゃん。シルバーってさあまり汚れが目立たないんだ。忙しい時にはそうそう洗車も出来ないかもしれないからね。」
「へー、そうなんですか。」
おキヌは感心するが令子は、
「時間がある時はちゃんと洗車しなさいよ。汚れた車で依頼先に行かないようにね。」
「もっ、もちろんすよ美神さん。」
脅すような言い方にすかさず返す横島。
「せんせー、早速先生の運転でどこかに行こうでござる。」
「そうね。ドライブに行きましょうよ横島。」
「えっ!」
「私も行きたいです横島さん。」
「おっ、おキヌちゃんまで。」
横島はチラリと令子を見る。
「まあ、いいでしょう。横島君、私達は準備してくるから操作の勉強でもしておきなさい。」
「マジっすか美神さん!」
怯む横島。
「大マジよ。いいわね。」
「・・・・・・・・はい、分かりました。」
まさか初ドライブで大事な人達を4人も乗せる事になるとは思ってもいなかった横島。顔が少し強ばっていた。
「みんな乗ったわね。じゃあ横島君しゅっぱーつ。」
「・・・・・・・・はい。」
助手席に指導教官の令子、後席におキヌとシロタマを乗せて緊張したまま走り出そうとする横島。
「横島君、体に力が入りすぎているわよ。もっとリラックスしないと的確な操作ができないでしょ。」
走り出す前から令子の指摘が飛ぶ。
「了解しました。」
それを神妙に聞く横島だった。
走り出して4時間、ただ走っているだけなのに後席の3人もやけにテンション高くはしゃいでいる。
「そろそろいいでしょ。じゃあ横島君そこのそば屋に入れて。」
「はい。」
だいぶ運転にも慣れて少し余裕が出てきた横島は、結構スムーズに駐車場へと入れた。
「バックはまだまだね。まあこの車に慣れてくれば大丈夫でしょ。」
「はい。」
「じゃあみんなここでご飯にしましょ。」
「分かりました美神さん。」
「はいでござる。」
「了解っす。」
3人は頷くがタマモは、
「えー、うどん屋さんの方が良いなー。」
そう言った。しかし令子は、
「ふっふっふ、タマモここの名物って知ってる?」
そうタマモに問い掛ける。
「なっ、何よ。」
その言い方に怯むタマモ。
「ここの名物はねー、そば稲荷よ。」
「そば稲荷?」
「そう、ご飯の代わりにそばが入った稲荷よ。そばの香りが良くて美味しいの、しかもこの店は名店中の名店よ。」
「・・・・・・ゴクッ」
つい唾を飲み込むタマモ。令子は笑いながら、
「でもー、タマモが嫌ならしょうがないか。そこいらの立ち食いうどん屋にでも・・・・」
「だ、誰も食べないとは言ってないわよ!!」
令子の戦略にタマモは陥落した。少し恨みがましい目で令子を見るタマモ。
「じゃあ入りましょう。」
そんな視線などまったく気にせず令子は店に入っていった。
「ほら行くぞタマモ。」
じっと令子の背を睨みつけていたタマモに横島が声を掛ける。
「・・・・・・・・・うん。」
横島の袖を掴みトコトコと着いてくるタマモだった。
「おいしーい! あー幸せ。そば稲荷最高ー。」
恍惚の表情でそば稲荷をパクつくタマモ。
「美味いでござる。」
焼いた鴨肉に舌鼓を打つシロ。
「ほんとに香りの良いそば。美味しいですね横島さん。」
「うん、そうだねおキヌちゃん。」
笑顔で話し掛けるおキヌに横島も笑顔で返す。その笑顔に顔を赤らめるおキヌ。
令子はそばをすすりながらもその光景を見て何だか面白くない。
みんなの食事が終わりそば湯を飲みながら一服していると令子が、
「じゃあ横島君、ここまでのあなたの運転で気づいたところを言うわね。
第一にハンドルの修正が小刻みに行われていない。だからいざ修正する時にハンドルを大きく切らないといけなくなるのよ。同乗している人の乗り心地も考えてもっと小刻みに修正する事。」
「はい。」
「第二にミラーを見る時の顔の動きが大きすぎる。教習所ではちゃんと見ているとアピールする為に少し大げさに動かすように教えるけど、実際に運転する時はもっと動きを小さくする。じゃないと視点が安定しないでしょ。」
「はい。」
「第三に目線が近すぎる。だから道路上に落ちている物を避ける時に余裕が無いのよ。速度に合わせてもう少し遠くも見なくちゃ。」
「・・・はい。」
「第四にカーブを走る時に適切なギアに落とすのを忘れているかやっていない。だからカーブの立ち上がりで車がガクガクするのよ。ヒールアンドトゥをしろとは言わないけど、ギアにも気を付けなさい。」
「・・・・・・・・はい。」
「第五に・・・・・・・・・どうしたの横島君?」
立て続けの令子の指摘に段々へこんでいく横島。
「まあまあ美神さん、そのへんにしておいてください。私は横島さんの運転、免許取ったばかりにしては上手だと思いましたけど。」
「うぅー、おキヌちゃんは優しいなー。」
「やっ、やだ(ポッ)」
自分をかばってくれるおキヌについ本音が漏れる横島と、それを聞いて照れるおキヌ。
「(ピクピク)まあいいでしょう。おキヌちゃんに免じて今日のところはこのぐらいにしておいてあげるわ。
でも!!」
令子の機嫌は15度位から60度位まで傾いていった。
「あんたが除霊に行く時はウチのメンバーの誰かを乗せて行くかもしれないんだから、運転技術の向上は必須だからね。」
「はい!!」
この令子の発言には真剣に返事を返す横島。令子の機嫌も直っていく。
「じゃあいいわ。もう一休みしたら帰りましょうか。」
「はい。でも美神さん長距離を運転するって、思ってたよりも疲れるんですね。今までは教習所の講習だけで、長くても一時間弱の運転がいいとこでしたから。」
「まあ最初のうちはそうでしょうね。慣れてくれば疲れない運転の仕方も自然に身に付くわよ。」
「そんなもんでしょうか?」
「そんなもんよ。」
大分機嫌も直り、優しい言葉を横島に掛ける令子だった。
「さて、じゃあ帰りましょう。」
「「「はーい。」」」
元気に返事をする3人。まあシロタマは焼いた鴨肉の折り詰めや、そば稲荷の折り詰めを抱えているために素直になっているのだが。
「じゃあ横島君、安全運転でね。」
「はい。」
「疲れてどうしようもなくなったら私が替わるから。」
「はい、その時はお願いします。」
「ええ、いいわ。」
「それじゃあ出発します。」
横島の運転で帰路につく美神除霊事務所御一行であった。
『あとがき』
どうも「小町の国から」です。
皆様、その4の感想どうもありがとうございます。
今回は難しかったです。
自分で書いた物を自分で読んで「つまんねー」と思い何度も書き直しました。
あとバトルシーンは頑張ってみたのですが、私には上手く書けない事が分かり削ってしまいました。
更に精進したいと思います。
では、その6でお会いしましょう。
「小町の国から」でした。