第5話 「策士が策に溺れると」
表面上はにこやかにモフモフと食事をする一同。
水面下では色々とあるのだろうが、本能的に失血した分を取り戻そうと食いまくる横島にはそんなことを気にしている余裕は無い。
なんといっても魔鈴の料理は流石に美味い。
勿論、小鳩や愛子の料理も美味いのであるがやはりプロと家庭料理の差だろう。
小鳩たちもそれを認めているのか真剣に料理を口にしている。
味とは盗むもの!と心で叫びながら。
やがて食事も終わり魔鈴の煎れたアップルティーを皆に振舞われた。
リンゴの酸味が喉に優しい。
一息ついて横島が小鳩に話しかけた。
「そういや小鳩ちゃん。」
「はい?なんですか?」
「今日の地雷の時にさ…霊と話したんだって?」
言われて小鳩は「うーん」と考え込んだ。やがて思い当たったかプルンと乳を揺らして頷く。収納したもののノーブラなのはそのままだったようだ。
「ええ。わたしが魔鈴さんに貰った地雷…じゃなくて魔法を設置していたらいきなり後ろから話しかけてきたんです。」
「なんて?」
紅茶を飲みながら聞いてくる愛子にまたまた乳を揺らして小鳩は先を続けた。
「えーとですね。『そんなんだったら引っかからんぞ。俺の言うとおりやってみろ!』だったかな?」
「で、どうしたんですか?」
「はい。その通りにやってみたらキレイに引っかかってくれましたっ!!」
またまたガッツポーズをする小鳩。人を罠に嵌める快感に目覚めたんじゃなければいいなぁ~と揺れる乳に目を奪われながらも横島は考える。
横島の視線の先を伺って、ちょびっとだけおでこに井桁を浮かべながらも魔鈴は小鳩に詳しい設置方法を聞いてみた。
やがて「へー。」と感心したかのように一人頷く。
「どうしたんすか?」
「え?ああ、ごく初歩のブービートラップですけど的確だなぁと思って。」
ニッコリ笑う魔女に横島はこの前から疑問に思っていたことを聞いてみた。
「魔鈴さんって武器の扱いをどこで覚えたんすか?」
「魔法の勉強でイギリスに居たときに知り合った考古学の先生に一通りレクチャーを受けました。」
「そっすか…」
魔法と考古学は関係あるかもしれないなとあっさり納得する横島。考古学と武器の関連がわからないけど…もしかしたら必要なのかも知れない。
魔法じゃなくて武器だと認めたことに魔鈴さん気づいてない。
どうも心ここにあらずって感じである。
横島の隣に座っているせいだろうか?
「でも…変ですね?」とそれでも魔鈴の声に不審な響きが混じった。
「何がですか?」
「ええ。実はここに来る前に美神隊長さんとお話したんですけど…。その時に美神隊長さんが「地下の霊は完璧に封じてある」っておっしゃっていたんですよね。」
「漏れたのかしら…」と小首を傾げる魔鈴に愛子が遠慮がちに告げた。
「でもアレって霊って感じなかったですよ。」
横島も頷く。彼の霊視能力は決して高くないが霊は見慣れている。
だがどうにも今日見た人影には霊と言うには違和感があった。
「ああ、実は俺もさ今日似たようなモノ見たんだけど…霊って感じじゃなかったよなぁ~。小鳩ちゃんはどう思った?」
「そうですねえ~。そういえば私って幽霊さんってよく見えないですし…」
貧が居なければ霊能のかけらもない小鳩なのだから見える方が不思議だろう。
素質はあるのかも知れないが、いきなり会話できるようになると言うのは無理だ。
「霊じゃないとすれば残留思念みたいなものかしら?」
「残留思念っすか?」
よくわかっていない横島の疑問に「ええ」と軽く返事をして魔鈴は説明を始めた。
「強い思念はその場に留まったり物に憑依したりすることがあります。まれに妖怪化することもありますし…。」
「妖怪化?」
「はい。例えば『小袖の手』と言う妖怪がいます。一種の付喪神ですけど…」
そして魔鈴は『小袖の手』にまつわる話を語りだした。
神妙な面持ちで聞く少年少女たちの姿に
(ああっ…今の私って学校の先生みたい…こ、これはやみつきになりそうな快感だわ♪)
などと考えている魔鈴さん。どうやら別なシチュが胸の奥でムラムラとこみ上げてきたのか、何となく息が荒くなってきた気もする。
「へー。すると死んだお母さんの娘を守りたいと言う念が小袖に宿ったということですか?」
感心する小鳩に「そうね」と頷いて魔女はもう一人の少女の方を向いた。
「愛子さんもそういう感じじゃなかったんですか?」
「え?…ええ…多分そうだと…」
何となく歯切れの悪い愛子の言葉に横島が気遣わしげに話しかけた。
「ん?どうした愛子?」
「あー。あのね…私…よく覚えてないの。机として意識を持ったのはずっと前だったんだけど…」
そう言うと立ち上がりクルリと回って見せた。
「この姿になった時のことって記憶が無いのよ。何か大事なことがあったような…」
顔を曇らせる愛子を訝しく思いながらも横島はいつもの通り話しかけた。
「ふーん。でも今は今なんだからあんまし気にするなや。」
「うん…」と頷く愛子の頬は赤く染まっている。
こうなると何となく面白くないのが乙女心というものなのだろうか?魔鈴が会話に加わってきた。
「仮に残留思念だとしても変なことがありますね。」
「へ?なんすか?」
「場所に憑くにしても物に憑くにしても目的がハッキリしません。例えば…」
横島が見たのは野球をしている思念と授業を受けている思念。
小鳩が見たのは軍人の思念。
共通項が無さ過ぎる。それ以前にそれほど大量の思念がいきなり湧き出てくるのも妙な話だ。
魔鈴の説明に頷く一同である。
「ふーむ」と考え込むが、愛子が首を振りながら言った「やっぱりあの兵器のせいかしら…」と言う仮説しか今のところは予想がつかなかった。
何となく暗くなった場を和ませるかのように小鳩が笑顔で横島に話しかける。
「そういえば横島さん。今日は早いんですね。バイトは無かったんですか?」
「あ、ああ…それがなぁ。美神さんが入院しちゃったんだわ。」
「「「え?」」」
驚く少女たちと魔女に心配ないと慌ててパタパタと手を振りながら横島は今日の出来事を説明した。
…
「はあ…盲腸ですか…。」
何となく美神には合わない気もするが…誰も選んで病気になるわけじゃないだろうと小鳩は思い直した。彼女自身は赤貧にも関わらず健康優良児であるのでいまいちピンと来てない。自分の母も病人の割には元気だし…(そういえばお母さんの病気って何かしら?)なんて今更考える小鳩である。
「それって痛いの?」
妖怪の愛子も病気には縁が無い。
「ああ。あの美神さんが涙ぐんだくらいだから相当痛いんじゃないか?」
言っている横島もその手の病気はしたことがないから想像でしか語れない。
つくづく常識とはかけ離れた連中である。
「つーわけで…しばらくはバイトが休みなんすよ魔鈴さ…ん…」
横島の言葉は途中で凍りついた。
だってそこに居たのは「ニヤリ」と不気味な笑みを浮かべる魔女そのものだったからである。
その晩、横島はなかなか寝付けなかった。
どうして置いていったの…
君が行けと言った…
どうして助けてくれなかったの…
大丈夫だと思った…
私のこと忘れたの…
忘れていない…忘れられるわけが無い…
夢にうなされガバッと飛び起きる。
その勢いに薄い布団は足元まで飛んでいった。
起こしに来た妖怪が驚いた様子でこちらを見ていた。
今日もいつもの一日が始まる。
けれど…少しずつ…何かが変わり始めていた…
いつも通りの朝の大騒動の後で、これまたいつも通りの登校風景。
ちょっと違うのは昨日忙しかったか、午前様になった唯が歩きながら寝ていることだろうか。
彼らが学校に着くと、そこに待ち構えていたのは天本先生…いや今の格好からすれば氏神博士と呼ぶべきだろう。
黒いマントに白いスーツ。
ダンディと言えばダンディと言えるかも知れない。
足元にでっけーバケツが無ければの話だが。
横島たちを認めたか氏神博士はマントを翻し、しわがれた声で高笑いを始める。
「くははははははは。待っていたぞ除霊部員ども!今日こそ決着をつけてやるわ!!」
「決着ってなんやっ?!」
「知れたことよ。悪の組織の幹部としてやっと日の目を見られのだ。貴様ら正義の味方を倒して『勇気凛々クラブ』の名を町内に広めるのだ!」
「正義の味方扱いされてる?」
「すぴー…それって美味しいですかぁ?…」
驚く小鳩と寝ボケている唯。周りの学生も何事か立ち止まって見ている。
そんな喧騒の中で愛子は本体から白いハンカチの包まった何かを取り出すと氏神博士に近寄った。
「あの…天本先生…」
「今は氏神博士じゃと言うに…何じゃ?」
「あの…お話が…」
「ふむ…授業の質問なら後にしてくれんか。今はわしの見せ場なのでな…行けっバケモン!」
何事か言い募ろうとする愛子を押し止めて氏神博士がひっくり返したバケツからのそのそと現れるのは珍妙な生き物。
例えて言えば「えびの天ぷらにちょっとプリティな四足を生やして頭に目鼻をくりぬいたスイカをつけたもの」としか表現できない。例えていないと言われればその通りである。
唖然とする生徒たちに氏神博士はますます得意そうに笑う。
「くははははは。どうだ。わしが海で「ナンパしたオナゴと仲良くスイカ割りするために持っていったものの、ナンパに失敗して腹いせに割られたスイカにこもったモテナイ男の念」と「弁当のおかずの天ぷら」を掛け合わせて作り出した妖怪…その名も『スイカテンプラ』!!」
「「「そのまんまじゃん!!」」」
周りの学生さん総突っ込み。
除霊部員たちは慣れたのか比較的冷静だったりする。
「またよりによってなんてレアな怨念を…」
「へう~。なんで天ぷらなんでしょうかぁ?」
呆れる愛子と唯だったが小鳩は何かを考え込んでおり、横島はと言えばやりづらそうにスイカテンプラを見ているだけ。
「どうしたの?横島君…」と聞く愛子に横島は小さく息を吐いてゆっくりと顔を向けた。その目が何となく潤んでいる。
「…すっげー戦いづれえ…」
スイカテンプラに込められた怨念に何となくシンパシーを感じちゃったんだろう。
そんな横島にお構いなく氏神博士はスイカテンプラに指示を出した。
「スイカテンプラ!タネマシンガンじゃ!!」
「はい!主さま!!」
スイカテンプラの真っ赤な口がクワッと開かれる。
だが…いつまでたっても攻撃を開始する気配が無い。
それどころかプルプルと弱々しく震え始めていた。
「ど…どうしたんじゃ?スイカテンプラ!!」
「主さま…腹が痛いです…」
「まさかお前も盲腸なんかっ?!!」
弱々しいスイカテンプラの訴えに驚く横島君。
盲腸ってうつるんだっけなんて考えていると小鳩のおずおずとした声が聞こえてきた。
「あの…スイカと天ぷらって食い合わせじゃ…」
「「「へ?」」」
顔を見合わせる一同…やがて氏神博士が叫ぶ。
「しまったあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「「アホかあぁぁぁぁぁ!!!!」」」」
その場に居た全ての人間の突っ込みを受けて「スイカテンプラ」はバケツに戻っていった。
がっくりと肩を落とす氏神博士。
「むう…どうにも胃腸の弱い奴だと思っていたがそんな致命的な欠点があったとは…」
「胃腸が弱いって…あるんか胃腸…」
「さあ?…じゃがそういうことって一緒に暮らしているとわかるもんじゃろ?」
「一緒に暮らしているんですかぁ?」
「うむ、わしは天涯孤独の身でな。こいつらと暮らしておっても誰も文句を言わん。」
「だったらおしり机もか?」
「そうじゃよ…お主らに倒されたがの…じゃがそれもモンスターの宿命じゃろ。」
「あの…先生。そのおしり机さんのことなんだけど…」
そうして愛子はハンカチから取り出した木切れを氏神博士に渡すと語りだした。
彼らを庇って散ったおしり机のことを。
全てを聞いた天本だったがその顔には落胆の表情はあるものの怒りはない。
かわりにどこか羨望めいた表情を浮かべて彼は嘆息した。
「なるほど…奴はお主らを庇って果てたか…。うらやましいことじゃ…」
「へ?」
「なんでもないぞ…それよりそれは愛子君、君が持っていてくれたまえ。」
「いいんですか?」
「ああ、わしはもう少しすればまた奴に会えるでなぁ。君ならずっと持っていてくれるじゃろ。」
「かっかっかっ」と天を仰いで愉快そうに笑う氏神博士。
その言葉の意味するところには気づいたけど、あんまりあっさり言われたもんだから特に暗い空気にはならない。
それでもこの何となく憎めない老人に横島は笑いかけた。
「まあ…長生きしろや。爺さん。」
「教師を爺さんよばわりするでないっ!!」
天本の声に重なるように予鈴がなった。
昼休み。
天気も良いので除霊部員たちは外で食事をすることにした。
米に梅干だけを持ってきているタイガーも皆からおかずを一品ずつ貰えば幕の内弁当みたくなるもので、季節の花をお弁当にするピートともども昼食会に参加している。
話題は美神の入院のことだった。
「けど美神さんが病気で入院なんて珍しいですよね。」
「じゃノー」
まさに鬼の霍乱かと考える吸血鬼と虎である。間違ってはいないけど本人に聞かれたら命の保証は無い。
「そうよねぇ」と愛子が横島のコップに冷えた麦茶を注ぎながら頷く。
「へう、だったら今日の放課後、皆でお見舞いに行きましょうか?」
「でも手術とかあるんじゃないですか?」
小鳩の台詞に重なるようにして横島の携帯が鳴った。
発信者は美智恵である。
「もしもし…」
(あ、横島君?…令子の手術だけど朝一番でチャッチャッとやっちゃったから…)
通話を終えた横島を見守る一同に彼は笑って見せた。
「美神さんの手術無事に終わったってさ。」
あからさまではないがホッとして見える彼の様子に微笑む一同。
「えう?じゃあ美神さん剃ったんですねぇ…」
「そりゃ剃るでしょ。」
「えう…チクチクしそうですねぇ…」
「え?唯さんって夏場のお手入れとかしないんですか?」
「へうっ!し、してますっ!!けど端っこのほうをチャッチャッと…」
「はあ~。いいなぁ唯さん。」
「う?小鳩ちゃんって大変なの?」
「いいえ。わたしって皮膚が弱くてカミソリとか使うとまけちゃうんですよ…」
「えう~。じゃあ抜くしかないんですねぇ…」
「はい…。」
「あんたたちねぇ…」と呆れたように呟く愛子に唯と小鳩が我に返ってみれば…何やら赤い顔でえびのように体を丸めて蹲っている三人の少年が居たりして。
「あれ?どうしたんですか?」と自覚の無い小鳩の台詞に「なんともない」と体を起こす横島。垣間見た少女たちの秘密に何気に霊力も上がっている。
記憶に残る小鳩の乙女の秘密がそれに拍車をかけているのだろう。
愛子から渡されたティッシユで鼻を押さえる横島に不意に声がかけられる。
振り向けば幾人かの生徒たちだった。中には見知った顔もある。だが男の学生の名前なぞ端から覚える気の無い横島である。
そんな彼らに学生達の一人が話しかけてきた。
「なあ、最近、学校の中に霊がいないか?除霊部で何か掴んでないか?」
「え?あなたたちにも見えるの?」
「ああ、俺たちだけじゃなくて結構色んなところで目撃されているんだけど…」
「どんな霊ですかぁ?」
「ほとんどが軍人らしい。」
「「「やっぱり漏れている?」」」
顔を見合わせる除霊部員たち。
「何か知っているのか?」
「あー。すまん。それは言えないんだが何か支障があるか?」
「特に無いなぁ。ただそこに居たり一緒に授業を受けてたり…そんな感じか。」
「うーむ。詳しくは言えないが近々、大規模な浄霊をするからそれで納まるんじゃないか?」
「そっか…特に危険もないしプロのお前らが言うんならそうだろ。任せるわ。」
そして彼らは去っていった。
「やっぱり調べた方がいいわね。」
自分が部長であることを思い出したのか愛子が言えばピートも頷く。
「では僕とタイガーが学校内の聞き込みにまわります。横島さんたちは美神さんのお見舞いもあるでしょうから報告は明日の魔鈴コーチが来てからということで。」
「ああ、そうだな。」
その日は結局、放課後まで特に何も無かった。
白井総合病院へ向かう横島、愛子、小鳩と唯。
お見舞い品は何にしようか?と考えたが今日はひとまず顔見世ということで特に持って行かないことにした。短期だとしたら退院するとき荷物になっても大変だし…このあたりは唯の知恵である。
こういう分別がなぜに日常生活で出ないのか…と見舞いに行くのに元気いっぱいの唯を見て溜め息をつく愛子の視線に見知った顔が飛び込んできた。
「あれ?魔鈴さん?」
「あ、横島さん!」
(((なんかナチュラルに無視された?)))
ちょびっとビックリする少女たち。
そんな彼女らの感情に気がついたか一拍遅れて挨拶してくる魔鈴である。
別に昨晩のことを根に持っているというわけではない…はずだ。
そんな微妙な空気に気がつかず「どうしたんすか?」と横島が聞いた。
魔鈴の服装はいつもの魔女ルック、所謂仕事着ではなく五分袖の少しゆったりとした白いカットソーに花をあしらったスカートである。
幅広の帽子が大人と少女の中間のようでマッチしていた。
「お仕事はどうしたんすか?」
「ええ。仕込みとか終わったんで、ちょこっとだけお店を閉めて美神さんのお見舞いに…横島さんたちは?」
「私たちもお見舞いですぅ!」
横島の前に壁のように進み出る三人の少女に対して魔鈴はニッコリと微笑むと「じゃあ一緒に行きましょう。」と告げた。
さりげなく歩き出す横島の横に並ぶ魔鈴。
その自然な動きはとても10代の少女たちのかなうところではない。
魔鈴から漂う花の香りに横島の頬も思わず緩む。
そういえば学校での霊たちの活動のことを話そうと彼女を見た横島の顔から一瞬だけ表情が消え、すぐに彼の頬はますます緩んだ。
「あ…あの…魔鈴さん…」
「はい?」
言っていいものかどうかと迷ったが、もし本人が気づいていなければ大変だろうと変な気を回した横島君がポツリと呟く。
「もしかしてノーブラっすか?」
「え?あら、わたしったらシャワーのあとでブラするのわすれてましたわどうしましょう。」
まるっきり棒読みである。演技力は皆無らしい。
「あら。恥ずかしいわ。そうだ!」
棒読みのまま叫ぶと横島の腕にすがりついてその胸に抱く。
「これで他の人にはわかりませんよね♪」
腕から伝わる柔らかい感触と年上の美女の突然の大胆行動に脳内パニックになった横島に返事が出来るわけもない。
かわりに抗議の声はほったらかしにされた少女たちから上がる。
「魔鈴さん!…うー…」
唸るしかない机妖怪。
「くっ!制服で無ければ小鳩だって!!」
妙な闘争心を燃やす小鳩。昨晩、片方とはいえ生乳見せたんだから良いじゃん。と言いたげな通りすがりの犬をキッと睨みつける。
愛子が何とか抗議しようと口を開きかけたとき、忘れられていた貧乳の魂の叫びが通行人を驚かせた。
「わ、私だってノーブラですっ!!」
「唯ちゃんの場合、ノーブラでも変わらないし…「えうっ!!」…」
思わず唯の方に突っ込んじゃう愛子の台詞に通行人さんたちも「ウンウン」と頷く。
「えうぅぅぅぅぅぅぅぅ」
壮絶な自爆をかまして灰になった唯を、風に飛ばされないように注意深く小鳩が引き摺ってなんとか白井総合病院についた一同。
一応、ナースセンターで面会の確認を得て美神の個室へとたどり着いた。
流石に魔鈴も院内では腕を組んだりしない。なんだかんだと言って常識人である。
「ちーっす。どうっすか美神さん。」
「あ、横島君。お見舞いに来てくれたの?」
挨拶しながら入ってきた横島に笑顔を向ける美神。
流石に病人であるからいつもの覇気がないのは仕方ない。
(え?これがあの美神さん?結構可愛い…」
「ば、バカっ!何を言っているのよ!!」
「「「ふーん…」」」
やっちまいました煩悩少年。謀らずもツンデレ属性?を発揮した美神の様子にうっかり漏れた言葉に彼の後ろのプレッシャーが高まる。
「あ、みんなもわざわざ来てくれたんだ。…ってあんたは何しに来たの?」
唯や愛子たちに向けた前半と魔鈴に向けた後半は明らかに声のトーンが違うが魔鈴はそれを気にした様子は無い。
「ええ。『除霊部のコーチ』として付き添いに。」
「ふーん…コーチねぇ…まあいいわ。」
コーチを強調する彼女の言葉にひくつきながらも、あっさりと流すかと思いきや…
「私が居ないからって人の丁稚をたらしこんだりしないでよね。」
駄目でした。
なんとなく温度が下がった病室の空気を換えようと唯がワタワタと手を振って話を向ける。
「え、えう…美神さんはいつ退院ですかぁ?」
「たかが盲腸だからね。傷が開かなければ3日程度で退院らしいわ。」
穿孔していなかったのが幸いである。
「良かったですね。」と笑う小鳩に「ありがと」と美神も笑顔を見せた。
「んじゃ仕事はどうなるんすか?」
「そうねぇ…退院してもすぐに仕事できないだろうし…お医者さんに聞いてみないとわからないけど当分休みね。当然バイト料はなしよ。」
「あはは…わかってますよ。」
「あ、でしたら横島さん!美神さんが入院している間は私のお店でバイトしませんか?」
「え?いいんすか?」
「はい。美神さんよりお安いですけど時給1000円出しちゃいます!」
ニッコリと笑う魔鈴とは対照的に苦虫を噛み潰した表情の美神。
オロオロと見ている少女たちにはその理由はわかるのだが、命がけではない高額時給につられた横島にはそんなことを気にする思考は無かった。
「お願いします」と開きかけた横島の口を愛子が塞ぐ。
剣呑な空気の中、唯がとってつけたような笑顔で今やハッキリと井桁を浮かべた美神にペコリと頭を下げた。
「じ、じゃあまた来ますですぅ~お大事に~。」
ワタワタと少女たちが出て行くのを確認した魔鈴の顔に昨夜の邪笑が浮かぶ。
「あの美神さん。」
「何よ!」と不機嫌さを隠そうともしない美神がジロリと魔鈴を睨んだ瞬間、恐怖の罠が作動した。
「えい!」
小さい掛け声をあげてカットソーをシバッとたくし上げる魔鈴。
それを見た美神の目が点になる。
次の瞬間…
「プハハハハハハハハハハハ!!何よそれぇぇぇ!!」
ベッドの上で凄まじい笑いの発作に襲われてのた打ち回る美神だったが…
「アハハハハハ。お、お腹が痛い!…って傷が開いたぁぁぁぁ!!!」
笑い転げながら必死にナースコールを探す美神を満足げに見て魔鈴は静かに病室を出て行った。
どうやら美神の入院期間は延びそうである。
魔鈴と別れての病院から帰り道、商店街に寄って買い物を済ませた横島たちがアパートの前に着くと、そこには古い毛布に包まった何かがモゾモゾと動いている。
「またアリエスちゃんか?」
「そうですね…おかず足りるかな?」
横島と小鳩の会話が聞こえたのか毛布がカバッと跳ね上がった。
中から飛び出してきたのは金髪をツインテールにした中学生ぐらいの少女。
その少女は横島を見るなりビシッと指を突きつけて叫ぶ。
その声には紛れもない怒りが含まれていた。
「やっと見つけた…」
「へ?」
見知らぬ少女に睨まれて戸惑う横島。
「あなただけは…あなただけは許さないんだから!!」
そう叫ぶと少女は呆気に取られる少年たちの前でパタリと倒れて意識を失った。
その晩、異界にある一軒家のバスルームでぐすぐす泣く美女が一人。
「ぐすっ…落ちない…まさか油性マジックだったなんて…」
お腹にマジックででっかく書かれた愉快な顔を必死にスポンジで擦りながら泣く魔鈴さん。
もうお腹は擦りすぎて真っ赤っかである…。
策士の策はマヌケな自爆を誘ったらしい。
使い魔の黒猫が泣きそうな顔でその様子を見守っていた。
後書き
ども。犬雀です。
雪も薄れて久々に山に行こうと思っていたら雪ですよ。ほんとにもう!
つーことで折角とった代休もすることがない…。
そんな悔しさを込めたらこんな話になっちゃいました…すんません。
さてさて今回のモンスターはあのお医者さん漫画から頂きました。ちょこっと変えてますけど。
古すぎですか?でも黒べ〇を知っている皆さんなら大丈夫。…ですよね?
(微妙に弱気)
まあ犬は意識的に古いネタを引っ張ってきますのでその辺はご容赦ください。
えー。最後に登場したゲストキャラですが…実は本編に一度登場してます。
ということで狐の少女ではありません。さて彼女の正体は?おキヌに出番はあるのか?
美神は退院できるのか?
それ以前にこの話は完結するのか?(汗
ではでは…
1>オロチ様
ですね。鉄の蛇は列車です。けどもう一ひねりしたいと思いますです。
2>之様
ダシですか。うーむ…犬はカツオと舞茸のダシが…(オイ
列車…繋がるんでしょうか?
3>紫苑様
はいです。小鳩には色気の道を突き進んでもらいます。
4>法師陰陽師様
魔鈴さん壊してみると面白いキャラです。もっと壊せるように頑張りますです。
5>ATS様
はいです。前にも書きましたがアリエスはパタリロがキューティハニーだったら?って感じで創作したキャラです。でも最近は勝手に動き回ってますけど…(汗
6>通りすがり様
今回は魔鈴さんとおキヌの話のつもりなんですが…おキヌちゃん影薄い…(泣
でもどうなるかまだわからんです。何しろ見切り発車で書いてますので…(汗
7>炎様
やはり美神は下ネタに弱いのでは?と犬、勝手に設定してますです。
8>闇色の騎士様
犬も貴殿のSSは楽しみに読ませていただいております。
美神が経験者ってのはどうにも想像つかんのです(笑
とっか初心ですし。
9>ジェミナス様
すたーかっぱーはまた出るかも知れません。その時は時を止めれるかも…でもきっとマヌケなんだろうなぁ。
10>シシン様
スターカッパーレギュラー入りですか…うーん。実は今回の話でレギュラーキャラ(女性)を増やそうとしてるんですよね。どうなりますか…
11>ヒロヒロ様
アリエスが人望の無い理由は…そのうちに明かされると思いますです。
12>なまけもの様
剃毛プレイ…うーむ…書けませんでした。
だって横島君だったらそれだけで済みそうも無いですし~。
もうちょっと筆力が上がったらまた18禁に挑戦するかも…今はまだヘタレであります。
13>AC04アタッカー様
魔鈴さん。武器オタと言う方向とは別な形で壊してみました。
彼女に武器の扱いをレクチャーしたのは…元軍曹さんの大学講師です。
ちなみに今回の話に例の「90度」を絡めてみますのでお待ちください。