第3話 「魔女とカッパと絹のパンツ」
放課後、迎えに来た小鳩を伴って帰宅しようと玄関に来た除霊部員たち。
それぞれの表情は何かを考え込むかのようだ。
ふと校庭の隅、裏の旧校舎跡地に続く場所を見れば立入禁止のテープの前でGメンの職員だろうか、制服を来た男が二人立っていた。
あの地下の霊たちに関しては彼らに任せたのだからと校門に向かう横島たちに上から声がかけられる。
見上げると箒に乗った魔鈴が降りてくるところだった。
慣れた動作で箒を操ると横島たちの前に、スタッと軽やかに飛び降りてくる現代の魔女にちょっとだけ見惚れる横島である。
魔鈴はパタパタとスカートの裾を叩くと彼らに向き合ってとびっきりの笑顔を見せた。
「こんにちは皆さん。さあ、今日も部活頑張りましょう!!」
「えいえいおー」と手を上げる魔鈴に申し訳なさそうな一同。
「すまんですノー。ワッシは今日はバイトなんじゃ~」とタイガー。
「僕も先生のお供で…」とピート。
何となく巨体を縮こめるタイガーと少し項垂れた感じのするピートに魔鈴は「お仕事ですものね。」と笑顔を向けた。
さすがにこの若さで店を一人で切り盛りしているだけあって、鼎の軽重を取り違えたりはしない。
「ささ、では横島さんはきっちりしゃっきりと部活動に勤しみましょう!」
「あ、すんません。俺も今日はバイトっす。」
「ふえ?…あ、で、でもバイトって夜からですよね?」
「ね?ね?」と詰め寄ってくる魔鈴に横島君は心底すまないとばかりに頭を下げる。
「それがっすね。美神さんが「火曜日、木曜日はミーティングするから学校が終わったら速攻で事務所に来なさい!!」って言うんですよ…。」
「え゛…火曜木曜って言ったら私がコーチの日じゃないですかぁ~。」
「何で突然そんなことに…」としょんぼりと俯く魔鈴の目の端にこっそりと逃げようとする少女の姿が映った。
「唯さん…」
「へあうっ!」
「なぜ逃げようとしてますか?」
「に、に、に、逃げるなんてとんでもないっ!!わ、私はちょっと雉を撃ちにっ!」
「それは殿方の台詞ですし、往来ですれば軽犯罪ですよ…」
「うえっ!…んとんと…じゃあ…」
「話してくれますね…」
「わ、わ、私は何も知らないですぅぅぅぅ!」
「正直に言ってくれないとマジックミサイルの魔法を使いますよ?」
「あの魔鈴さん…そのマジックミサイルって有線っすか無線っすか?」
「有線です。」
キッパリと言い切った魔鈴さん。その口調にはこれっぽっちも迷いが無い。
さすがに装甲の厚い唯でも対戦車ミサイルくらっては一たまりも無いだろう。
軍事知識は乏しいものの本能的にそれを悟ってガクガクと震えだす。
「ひあぅぅぅぅ。ごめんなさいですぅ~。この間、美神さんのところに行った時に喋っちゃいましたぁ~。」
「そうですか…。なるほど…」
「う?怒ってない?」
「ええ。どうせいずれはわかることですし…。ふふふ…なるほどそう来ましたか…」
「あの…魔鈴さん?」
「ふふふ…」と含み笑いを漏らす魔鈴に恐る恐る話しかける横島に彼女はアッサリと雰囲気を変えにっこりと笑って見せた。
「そういえば除霊部って部室無いんですよね。どうでしょぅか。とりあえず部室が出来るまで学校と異界をつなげてみませんか?」
「え?んなこと出来るんすか?」
「はい。簡単ではないですけど可能です。そうすれば私もお店が暇なときとか直行できますし…それに異界なら魔法の練習とかしても官憲のお世話にはなりませんし…」
(そりゃあ手榴弾とかは非合法だろうなぁ…)
でかかった言葉をかろうじて飲み込んで横島は魔鈴に別な話題を向けた。
「あ、あの魔鈴さん実はそのことなんすけど…」
「はい?」
不思議そうに首を傾げる魔鈴の表情に言っていいものか悪いものかとしばし逡巡して横島は口を開いた。
「いえ、小鳩ちゃんに魔法?を教えるのは止めてもらえんかなぁ…と」
「なんで疑問形かすっごく気になりますけど、何故ですか?」
「そうです!小鳩だって皆さんのお役に立ちたいです!!」
突然、自分のことを話題にされてちょっと驚いた小鳩だったが、横島の台詞に彼女には珍しく色をなして反論した。
「けどさ、皆が皆戦う必要って無いと思うんだよ。ピートとかタイガーとかはそれなりの訓練を受けているし覚悟もあるし…そうだよな?…って居ねえぇぇぇ!!」
同意を求めて振り向けばとっくに消えている虎と吸血鬼。
危機回避能力は高いらしい。
「でも横島さんたちが怖い思いして戦っているのに…私は何も出来ないでいるなんて…」
「これは部活だろ?本当なら戦う必要は無いんだしさ。それに小鳩ちゃんもプロのGSになるつもりは無いだろ?」
「それはそうですけど…」
横島の言うこともわかるのか小鳩の声は尻すぼみになっていく。
見る見る萎れていく彼女の様子に横島君は焦っちゃう。
慌ててフォローしようとするが要領を得ない台詞しか出てこない。
「運動部にだってマネージャーってのがいるじゃん。小鳩ちゃんってそっちの方が似合っていると思うんだよね。なんかお母さんチックでさ!」
「え?」
「いや…お母さんってのは失礼か…んー。年下の子にお姉さんってのも変だし…家庭を守っていそうなタイプって感じ?」
ますます泥沼にはまる少年の言葉は一撃で小鳩を夢の世界に案内してしまいましたとさ。
「家庭って…そんな…それはもしかして遠まわしなプロポーズ?!!」
「いや…プロポーズって言うんじゃなくて…」
「ふーん…そうなんだ横島君…」
本体の机に手をかけながら愛子ちゃん。
「えうー!えうー!!えうっ?えううう!!」
ショックのあまり人語を忘れたか天野唯。
「…ふっ…」
口元だけで冷たく笑うともともと美人なだけにすっげー怖い魔鈴さん。
たちまち沸き起こるプレッシャーに横島君は汗をたらしつつ二、三歩後退して脱兎のごとく逃げ出すという最悪の選択をしてしまう。
「いかん!バイトに遅れてしまうっ!!んじゃまたなぁ~!!」
「「逃げるなぁぁぁぁ!!」」
追っかける唯と愛子。
残るのはなにやら不敵な笑みを浮かべている魔鈴とトリップから帰還した小鳩である。
「さて…どうしましょうか?」
小鳩だけでもコーチする?との意味で聞いた魔鈴に小鳩はちょっとだけ俯いていたが、何かを決心したのか真っ直ぐに彼女の目を見つめた。
「あの…魔鈴さん…魔鈴さんって横島さんのこと好きなんですか?」
「え?」
「あの…なんか見ていたらそんな気がして…」
「んー。好きって言うのが「男女の恋愛」って意味なら違うかも…」
「え?」
ハッキリ言って意外な言葉に驚く小鳩に魔鈴は先を続ける。
「私って女子高出身なんです。でも学生時代から魔法に興味を持ったりしてたもんですから友達も少なかったし、高校生活にあまり思い出が無いんですよ。」
少し寂しげな彼女の言葉に小鳩は黙って頷いた。
自分も貧がまだ貧乏神で学校に行くのも不自由していた頃はあまり良い思い出が無かったことを思い出す。
「それで日本を離れて本格的に魔法の勉強をして…でも魔法って意外に地味なんですよ。だからやっぱりお友達も出来なくて…そんな時に西条先輩が色々と気にかけてくれたんですよね~。」
何かを懐かしむかのように空を見上げる魔鈴。
そんな彼女に小鳩は遠慮がちに聞いてみた。
「西条さんとお付き合いなさっていたんですか?」
「え?それは無いです。西条先輩も素敵な人だと思いますけど、どこか恋愛の対象にならなかったんですよ。」
いつの間にか歩き出しながら会話を続ける二人。
「それはなぜ?」と言いたげな小鳩の表情を察したか魔女は小さく溜め息をついた。
「チェスってゲームがありますよね。前にテレビで見たんですけどコンピューターと人間が戦うんですよ。でも…」
「?」
「もし毎日…コンピューターと対戦していたらチェスが面白くなくなっちゃう気がしません?」
「え?ええ…」
自分の言いたいことがよく解らないのか曖昧に頷く小鳩に魔鈴は微笑みかけた。
「次に何をするか予想が出来ない…物事の本質を理論ではなく直感で見抜ける人…魔法ってのは理論よりそっちのほうが重要な時があるんです。そしてそれって私にとって憧れなんですよ。」
いつからそう感じたかわからない。
最初は煩悩の塊に見えた。
だから自分の能力で消してあげようとした。
今から思えばそれは大きな間違い。
究極の魔体との戦いのとき、自分の前で変化した蜂の妖魔の変身を一目で見破ったあの少年の直感こそが大事なものなのではないかと感じた。
魔女とか妖魔とかのカテゴリーではなく、魂のレベルで人と関わってくれるのでは?…その可能性を彼に感じた。
「横島さんって例え私と小鳩さんの魂が入れ替わったとしても、一目で見分けてくれそうに思いませんか?」
「そうですね。」
全面同意の小鳩である。
なにしろ彼女は本人いわく「将来の赤貧より目先のねーちゃん」と言いながら、正しい解答を導き出した横島を見ていたのだ。否定できるはずもない。
「そんな人って凄いと思いませんか?」
ウキウキとした様子で語る魔鈴に小鳩は心の中でそっと呟いた。
(それってきっと恋だと思いますよ…)
逃走に成功した横島が電車に飛び乗ったころ、カッパの城の地下牢では奇妙な光景を前にカワ太郎が立ち尽くしていた。
彼の目の前に居るのは自分の女王、器量は良いが人望なしのアリエスである。
それは間違いないんだが…なんていうか格好がいつもと違うっていうか違いすぎる。
白いTシャツは良いとして、そのゴテゴテと飾りのついた長い学ランは何だ?
金色の絹にも似た美髪はいいとして、その半分裂けたような学帽はなんだ?
声を大にして言いたいカワ太郎である。
そんな彼を牢の中のアリエスはジロリと睨んだ。
何となく牢内の空気が震えたような気がする。
「何か用か?カワ太郎…」
口調も変わっているし…もうこのまま地下牢ごと埋めちゃおうかなぁ…と考えちゃうカワ太郎。
「姫様…そのお姿は…」
「寄るな!」
近寄ろうとするカワ太郎にアリエスの叱責が飛ぶ。思わず立ち止まった彼にアリエスはとんでもないことを言い出した。
「寄ると命の保障はできないぜ…ですわ。わたくしには悪霊がついてますのよ…。」
「はぁ?」とマヌケな声を上げるカワ太郎が見守る中、牢の中のアリエスの後ろに緑色のオーラが立ち上ると人の形をとり出した。
呆気に取られるカワ太郎の前でオーラは口ばしもプリティな河童の姿に変化する。
だがその体は鍛えられた筋肉に覆われ、眉も太くキッチリと精悍な顔をしている。
割れた腹筋と筋張った指がパワーを感じさせる。
水かきはちょっと愛嬌があるけど…。
「ひ、姫様…それは…」
「ふふふ…前に唯様との争いの時にその場のノリで発現した「すたー・かっぱー」ですわ…。この機械より正確で素早く、しかもパワーのある「すたー・かっぱー」の力を持ってすれば…」
「くくく…」と笑うアリエスと、後ろでぴちぴちと指もとい水かきを鳴らす「すたー・かっぱー」の迫力にカワ太郎も緊張する。
「豆腐ハンバーグの中のひじきだけを取り出すなど造作も無いことっ!!」
「そっちですかぁぁぁ!!」
コケながらも突っ込むカワ太郎。
アリエスの後ろで「すたー・かっぱー」もコケている。こいつも意外にノリがいい奴かも知れない。
「へ?」
「普通は脱走とかそういうことを考えるでしょうがっ!!」
「おおっ!」
納得したかポンと手を打つ主君の姿にカワ太郎が涙目になるのは仕方ないだろう。
「すたー・かっぱー」もウンウンと頷いているし…。
「ですが…脱走させませんよ。書類が片付いてませんから…」
何とか声を振り絞るカワ太郎にアリエスは挑戦的な目を向ける。
「わたくしと戦うというのですか?」
「必要とあれば…ところで姫様?」
「何ですの?」
「その「すたー・かっぱー」とやらが機械よりも正確に動けるならば、彼にサインさせればよろしいのでは?」
「あ、なるほど~。カワ太郎って賢い♪」
「あんたがアホウなだけです…」
「…カワ太郎…仮にも主君に対してその言い草…」
「心の声に突っ込まないで下さい。」
「しっかり口に出てましたわよっ!!」
冷たい空気を漂わせる主従に挟まれてオロオロしている「すたー・かっぱー」に「コホン」と咳払いしてアリエスは指示を出した。
どうやらここで争うことは時間の無駄と判断したらしい。
「んじゃ「すたー・かっぱー」サインお願い♪」
にっこり笑うアリエスにコクリと頷くと書類の山に向き直った「すたー・かっぱー」は大きく息を吸い込んでその実力を発揮する。
『ウラウラウラウラウラ!!』
「「おおっ~」」
凄まじい勢いで吹き飛ばされる書類に驚く主従の前で「すたー・かっぱー」はますますギアを上げる。
『ウ~ラ、ウラウラウラウラ~ベッカンコー!!』
「「黒○え?!!」」
ズッコケるアリエスとカワ太郎の前にヒラヒラと落ちてくる書類。
何気なくそれを手に取ったカワ太郎の顔色が変わった。
「姫様…」
「はい?なんですのカワ太郎?」
コケたままキョトンとしているアリエスの前にズズイと突き出された書類には…どこにもサインなんかしてなかったりして…。
「え゛…な、なんでですのっ?ちょっと「すたー・かっぱー」、あなたは何をしてらっしゃるのっ!!」
アリエスの言葉にビクっと引きつってゆっくりと振り返った「すたー・かっぱー」の目には涙が滲んでいる。
「はえ?」と疑問符を浮かべるアリエスにカワ太郎の疲れまくった声が聞こえてきた。
「あ~。きっと彼は水かきが邪魔でペンを持てないんじゃないでしょうか…」
「そ、そうなの?」
アリエスに向かってこっくりと頷く彼の目からとうとう真珠のような涙が一粒零れ落ちて床を濡らした。
「そ、そんなっ!それじゃあひじきも取れないじゃないっ!!」
アリエスの悲鳴にますます縮こまる「すたー・かっぱー」を見ていたカワ太郎がポツリと呟く。
「うわ…本体ともども役に立たねぇ…」
彼の苦難はまだまだ続くようだった。
『いらっしゃい横島さん』
「お、人工幽霊壱号。みんな集まっているか?」
『はい。おキヌ様は先ほど帰宅なさいました。」
「そっか」と一言だけ言って横島は美神が居るであろう部屋に向かった。
「ちーっす!」といつもの軽い挨拶とともに部屋に入ると美神がマホガニーの机に腰掛けて何処かと電話をしているところだった。
シロタマもソファーに並んで座って日本茶だろうか「鱈」とか「鯔」とかが書かれた湯のみを啜っている。
「よっこいせ」と年寄り臭い台詞とともに向かいに腰掛けた彼にタマモが不思議そうに尋ねた。
「あれ?ヨコシマってばいつもの格好と違うわね。」
「ん、ああこれか?だって美神さんが学校が終わったら直行しろって言っていたからな着替える暇もなかったんだ。」
「ふーん…そんな格好ってあんまり見たこと無いからちょっと新鮮ね。」
「そうでござるな。学生服の先生を見るのはあまりないでござる。」
「そうだっけか?」
「学校って面白いの?」
「うーん…他はどうか知らんがうちの学校はかなり変だぞ…」
「「変?」」
「ああ、俺も最近まで知らなかったんだけどなぁ…」
「どんな風に変なのでござるか?」
「そうだな~マッチョのコスプレが居たり、象やライオン飼っていたり…それになんかますます変なんだよなぁ…」
「ますますって?」
「んー。それは美神さんの用事が済んでからにしようや…」と言ったところでおキヌが横島の分のお茶を持って入ってきた。
「はい。横島さん」
笑顔とともに渡された湯飲みに口をつけようとして戸惑う横島。
大き目の湯飲みには江戸勘亭流ででっかく「絹」と書かれている。
実は反対側はこれまたでっかく「忠」と書かれていたりするんだが、横島から見えないのだ。
どこかワクワクした口調で「どうしました?」と聞くおキヌに横島は小さく頭を振って「いや何でもない…」と答える。
目に見えてしょんぼりしたおキヌを不思議に思いながらもぬる目のお茶を一飲みする少年だった。
(これっておキヌちゃんの湯飲みじゃないのか?いやそれにしてはデカイか?…)
実は完璧に飲み干すと湯飲みの底に描かれたハートマークが見えてくる趣向だったりしたのだが…おキヌの策はちょっと遠回り過ぎたようだ。
お茶を半分ほど飲んだところで美神が電話を終えて近づいてくると横島に向かって笑いかける。
「んで…色々と聞きたいことがあるんだけど…」
ニヤリ…
その笑顔には色んな意味があるんだろうなぁ~とビビリながらもコクコクと頷く横島に美神はまたまた笑いかける。
「さて…まずは何で魔鈴が部活のコーチって話になっているのかしら…」
「あああ…やっぱりそれっすかぁ…」
「キリキリ白状なさいっ!!」
「実はですね…」と横島は除霊部が出来た経緯と魔鈴とともにとある事件にかかわったことを話し出した。
「…つーわけで気がついてみれば魔鈴さんがコーチって話になってました…」
「ふーん…それでどうしてその事件の時に私に相談しようと思わなかったわけ?」
「だって美神さんに言ったら金取られそう…ぐぼう!」
フリッカー気味に放たれたジャブで仰け反る横島に美神は笑顔を向けた。
「そんだけ?」
「…は…はいぃぃぃ…」
「ふーん。ならいいわ。」
「え?いいんでござるか?」
「別にいいわよ。実際、私のところに来たら料金とったし…」
(((鬼や…)))
心の中では思うが誰も口に出すなんて無謀な真似はしないものだ。
「それより…ママから聞いたけど何か美味しい仕事をしてきたようねぇ~♪」
「へ?」
「横島君の学校の地下の話よ。」
「知っているんすか?」
「ええ。」
「口外するなって言われていたんですけど…」
「大変だったらしいわね。」
「そうなんすよ。まさか地下にあんな化け物が…」
「ほほう…化け物ね。手強かった?」
「はい。すっげー手強かったです。」
「ちなみにどんな化け物だったの?」
「何でも大戦中の兵器で霊を喰ってエネルギーにするって言ってました…」
「ふーん…」
何かを考えるような美神のそぶりに流石の横島も「これは変かも?」と気がつく。
「あ…あの…美神さん?」
「何?横島君」
「知っているんすよね…」
「ええ…学校の地下に封じられた霊を除霊してくれってことまではね…」
「へ?」
「ふふふ…なるほど。つまり政府はなんとしても秘密裏に除霊して欲しいってことね。くくく…これは口止め料こみでボレるわよぉぉぉ!!」
「あの…美神さん…今の電話って隊長じゃなかったんすか?」
「ん?ああ、今のは依頼の電話よ。…政府からのね。ママから聞いたのは横島君たちが学校の地下で霊障にあったって話だけ。」
(嵌められた…)
まあ引っかかるほうがバカな誘導尋問なわけだが、横島君にこの手の隠し事が出来るなら彼の境遇も少しはよくなると言うものだ。いまさら言っても仕方ないことだろう。
これ以上、この件で下手なことを言ったら美智恵に折檻されるかも…と考えちゃった横島は必死で話題を変えようと脳内を検索する。
何とか引っ張り出した話題は…実は最悪のものだった。
「あ、そういえばおキヌちゃん。」
「はい?」
「あのさ…パンツなんだけど。洗って返すからさ。もう少し待ってて。」
「洗ってって…まさか…使ったんですかぁぁぁ!!」
『「「「何いぃぃぃぃ!!!」」」』
事務所内に絶叫が響き渡る。
事務所そのものも絶叫していた気がするが…まあ気にしないでおこう。
どうやら自分が致命的な地雷を踏んだことを自覚した横島の口からは魂が抜けかけていた。
「先生っ!!使ったってかぶったのでござるか?!!」
被せたのはおキヌちゃんなんだよ…シロ。
「ヨコシマ!もしかして…嗅いだ?!!」
命がかかっていたんだよ…タマモ。
『履いたんですかっ?!』
あんな小さいの俺が履いたら伸びちゃって返せなくなるだろ…人工幽霊壱号よ。
心の中で投げやりな反論をするしかない横島君だったが、おキヌの一言には流石に吹っ飛んだ。
「ま、まさか…しゃぶったりもしたんですか?!!」
「それはしてないっ!!おキヌちゃんのパンツにそんなことしたらマジで変態やんけぇぇぇぇ!!!…ひっ!」
「イヤンイヤン」と口では言いながらそれほど嫌がっているように見えないのは何でだろう…とボンヤリ考える横島の後ろに沸きあがる般若の気配に彼は自分の死を覚悟した。
「被ったり嗅いだりした時点で充分変態よ!!!」
「くぼうおぇっ!!!」
美神令子渾身の神通棍の一撃で壁まで吹き飛ばされた横島にトドメを刺そうとマホガニーの机を持ち上げる。もう完全に殺す気だ。
『ああっ!美神オーナーっ!!それをされたら私の体にまで穴がっ!!穴がっ!!』
「五月蝿いっ!!」
横島を助けようというのか必死に止めようとする人工幽霊壱号を一言の元に撥ね付け狙いを定める美神。
『あ、そ、そうですっ!お客様が玄関にっ!!ね、ね、部屋を散らかすのまずいですよっ!やるなら外でっ!!』
どうやら自己保身が優先したらしい人工幽霊壱号は必死に外での折檻続行を勧める。ずいぶん人間臭くなってきたものだ。
「お客さん?…政府の人かしら?」
それでも何とか説得に成功したのだから我ながら大したものだと胸?を撫で下ろすと人工幽霊壱号はゼーゼーと呼吸を整えている美神に告げた。
『いえ…美神美智恵様です…』
壁の中で遠ざかる意識をつなぎ止めていた横島には突然訪ねてきた美智恵が「救いの綱」か「断罪の剣」のどちらを持ってきたのか判断することは出来なかった。
後書き
ども。犬雀です。
あうー。眠いよう…。犬の部屋の窓の外に雀が巣を作りまして…すっげー五月蝿いです。雀を虐めすぎた罰でしょぅか?
さてさて、そろそろ事態を動かしましょうか。と思っていたら画像投稿板の方にたかす様の素晴らしき作品が…。こりゃもう犬の作品の中でおキヌちゃん出番を増やしましょ!そうしましょったらそうしましょ!!ってな按配でプロットが変わりまくりです。
すんません…犬、今ナチュラルハイです…。
追記、メールの調子が悪いです。もし犬からの返信が届いてない方がおられましたらご連絡下さいませです。
では…
1>法師陰陽師様
小鳩ちゃんは別な方向に壊れてもらいたいので今回で軌道修正であります。
2>AC04アタッカー様
地雷の隠し場所は…やっぱり谷間でしょうかねぇ。
3>紫苑様
坂上さんはやり手です。これからどう活かせていけるでしょうか。
4>柳野雫様
小鳩ちゃんは黒というより…ピンク方面に壊してみたいなぁと…いやどうなるか解りませんけど(笑
5>龍神 孤獅狼様
鋭いですな。はいです。胴太貫はあの人の愛刀でしたね。
うーむ…知っている人がいたとは…犬感激であります。
6>ザビンガ様
そうですねぇ。坂上氏の過去はシリーズ最終回で明かしたいと…プロットはあるんですが。そこに行くまでの寄り道が多すぎなもんで。
修学旅行編とかも書きたいし…。
7>なまけもの様
どんどん突っ込んであげてくださいませ。なにしろ唯嬢は突っ込まれなきゃ生きていけないキャラですので(笑
8>通りすがり様
魔鈴さん分の補給はいかがでしたでしょうか?まだ足りないですよね。
後半では活躍してくれると思います…(自信なさげに
9>めそ様
実戦刀…その通りです。彼はキャリアでありながら実戦部隊でもあったようです。
10>炎様
さてさて兵隊さんは悪霊なんでしょうか?次の話あたりでヒントが出せればいいなぁ~。