「お、俺の手が!?足が勝手にっ!?」
「ふははははー!踊れ!踊るんジャー!!」
神通棍を持ち、自分の方に突撃しようとしながらも、そのたびにカクカクと奇妙な動きであさっての方向にずれて行ったり、転んだりして混乱する相手を見下し、タイガーは笑った。
GS資格試験、2次試験会場。その第3回戦目の相手を文字通り意のままに動かし、この時タイガーは得意の絶頂にあった。
そう。これはすでに3回戦目。つまりは、もうGS資格は取得している。
今までの辛く、長かった、しかもほぼ報われなかった下積み時代。
それでも積み上げ、手が届いた必殺技を封印された理不尽。
周りの友人全てが、しかも一度はブラックリストに載ってGS協会から追放された友人までも先にGS資格を取得し、高校卒業後の進路を楽しげに話し合い、計画しているのに、自分だけ取り残されている寂しさ。
ひょっとしたら付き合っている(?)魔理の方が先にGS資格を取得してしまうかもしれないという不安。
そんなこんなのプレッシャーや悩みから開放され、タイガーは今、この上なくハイな気分を味わっていた。
「くそっ…なんなんだよ、これはっ!!」
「くくく……知りたいですかノー?」
そしてつい、気持ちよさのあまりに禁断の『戦っている最中に自分の能力全部喋ったぞ、あいつ』というフラグを立ててしまうタイガー。
「人間の体は脳からの命令で動いとりますジャー。そしてその命令は、電気信号でだされとります。そしてワッシは、その電気信号を強制的に送り込む事が出来るようになったんジャアー!!」
タイガーが立ててしまったこのフラグ。一方的な強さを誇る強敵が立てちゃった場合、そこからヒントを得て倒されてしまうのがお約束。
そしてタイガーほどお約束に忠実な結果を出す男は、GS美神のSSでもそうはいない。
「ふん、そーいう事かよ!」
対戦相手はそう言って、これ見よがしに懐に左手を突っ込んだ。
「おっと。そうはいきませんケー」
それを反射的に防ごうと、左手を上に上げさせる命令を送信するタイガー。
対戦相手の左手はタイガーの命令に従って上を向き…
DoN!!
「グ…」
対戦相手の右手は、握っていた神通棍のスイッチを押していた。
「効いたか?スペツナズナイフみたく、先が強力なバネ仕掛けで飛んでくように改造したんだ」
「ぐ…ワッシは…」
今度は逆に種明かしをしながら、タイガーに向かって走る対戦者。
タイガーもみぞおちにくらったダメージにくらくらしながらも、立ち向かう。
結果、勝ったのは……
「勝者、対戦者A!」
「せ、せめて名のあるキャラに負けたかったですジャー…」
ガクッ
お前はその力にまだ慣れてないだろう?全身に命令を出して動けなくしたりは出来ずに、手足の一本一本に大雑把な命令を出すのがせいぜいだ。その証拠に……とか。
そもそも懐に突っ込んだ左手はフェイントだ。持ち込める道具は一個だけ。神通棍を持ち込んでいる以上、他に道具があるわけが……とか。
勝って、安全になってから心行くまで種明かしと解説をするという、勝者の特権を嬉しそうに行使する対戦者の声を聞きつつ、タイガーは意識を失った。
その数日後。
除霊に使えそうにないんで、やっぱきみ、GS資格取得なしね。という通知と…
でも3回戦までは勝ち進んだし、精神感応は除霊に使えるんで、今度作る特別枠のGS資格をあげるね。という通知を受け取り、落ち込んでいいのか、喜んでいいのかタイガーは悩んだという。
ま、それでもGS資格は一応取得できそうなので。
めでたしめでたし。
<完>
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