「それじゃタイガー、ご苦労だったワケ!」
「おつかれさまですジャー、エミさん。では、ワッシはこれで」
いつものようにエミの除霊のアシストを勤め、事務所に帰ってミーティングをこなした後に家路へつくタイガー。
その顔は、さっきまでとは違って明らかに沈んだ表情を浮かべていた。
「……ふぅ……」
ふと立ち止まりため息をつくと、彼はサイフから一ヶ月前にようやく手に入れたGS免許を取り出して手にとった。
特別枠のGS免許という制度が立ち上がるのを待っての発行だったため、実際に手に入ったのはGS試験から2ヶ月後。その間は本当に待ち遠しかった。
いつものように何かが起こって、手に入らないのではないか?
何度そう疑った事だろう。しかし今回は何事もなく、とうとうこの手に収まった。
しかし今、そのGS免許証を眺めつつも、タイガーの表情は曇ったままだ。
「ワッシは…」
このプラスチックのカードを手にするために、正に心血を注いで修行をした。必死に色々と考え、実行した。一度は命だって賭けて修行した。
「ワッシは…これからどーすればいいんですカノー…」
そうまでして取得したGS免許。だがそれは彼に、何ももたらしはしなかった。強いて言えばエミが給料を上げてくれたが、それだけだ。
いや、それはそれで嬉しいのだが、そのために頑張っていたわけではない。何かもっと、他のもののために頑張っていたはずなのだ。
それが一体なんだったのか……
目に見えた変化のない、免許取得前と変わらずにエミの助手をする日々にタイガーは疑問を覚えていた。
手にすれば、自分も何かになれると思っていた。
上司や友人たちのように、出番、じゃなかった光溢れる場所が待っている、と単純に信じていた。
しかし、待っていたのは相変わらずな日々で。
「ワッシは…タイガーはしょせん、タイガーということなんですカイノー…」
そんな真理を悟り、受け入れたその時、彼の前に一人の女性が現れた。
「何言ってんだよ。タイガーがタイガーだってのは、当たり前だろ?」
「魔理さん…」
タイガーは苦笑した。彼女が言ったのは、おそらく単純にそのままの意味だろう。自分が言ったのは、タイガー寅吉は『タイガーというキャラ』から逃れられないのか、という自嘲だったのだが。
まぁ、どちらにせよ同じ事か。タイガーは苦笑した。
「どうしたんですジャ?こんな時間に」
今は除霊が終わった後、帰宅するような時間。霊が活発に活動する時間よりもなお遅い、深夜である。
「あんたを待ってたんだよ、タイガー」
そう言って、どこかはにかむように笑う魔理。
その笑みを見て、タイガーはようやく悟った。
そうか。
自分の光溢れる場所とは、ここだったのか。
この少女の傍こそが、そうだったのか。
「あ……ありがとうございますジャー、魔理しゃん…」
「お、大袈裟だな。なにも涙ぐむこたーないだろ?」
これからは魔理のために生きよう。手に入れた力も、GS免許もそのために使おう。
タイガーは内心でそう決意する。
しかし、結果から言えば………その決意だけではまだ、彼女には足りなかったりする。
なぜなら…
「それで魔理さん、何か急な用でもあるんですカノー?」
「えっと、その、ね………………できちゃった♪」
「はいーー!?」
心当たりがバリバリにあったため、うろたえるタイガー。
GS試験に受かった後、彼女がごほうびと言って、その、なんだ。いたしちゃったわけで。
そして一回しちゃったら、若い男女の常としてのめり込んじゃったわけで。
「ほ………………」
「ホントだよ。あ、先に言っておくけど、産むから、わたし」
すでに確定ディスカー!?
「無いとは思うけど、堕ろせとか言ったら殺すからなー♪」
そんな明るく言われても!?
「あ、それと明日、うちの両親揃って家にいるから、お昼でよろしくな!」
ご挨拶!?しかも明日!!?
「じゃあタイガー。また明日なー」
嵐のように現れて去っていく魔理の背中を見ながら、タイガーは悟った。
「なるほど……出番が増えるとゆーのは、こーしてトラブルも増えるって事なんですノー…」
まぁ、間違ってはいない。
<完>
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