横島の言葉に合わせてその空間は白い光に包まれ、3人もその光に包まれていった。
Legend of Devil Vol.7 Awakening その6
「ここね?」
タマモは桃色の字で『煩悩一番』と書かれた一際大きい左右開きの扉の前に立っていた。
『そうなのね〜。 そこが横島さんの深層心理の入り口なのね〜』
「なんか・・・・・・・・・まんまよね?」
タマモの目の前の扉には、左右共に髪を襟首のところで切り揃えて頭から触覚らしきモノを囃した裸体の女性のレリーフが施されていた。金色のノブにも同じレリーフが施され、悪趣味と言えば悪趣味、横島らしいと言えば横島らしい扉だった。
『まぁ横島さんだし・・・・・・・・・』
「と、取り敢えず入ってみるわ」
ヒャクメの返答に大きな汗を後頭部に張り付けながら少々話題の転換を図るタマモ。現世のヒャクメも後頭部に大きな汗を張り付けていたのは予想通り。
『ここから先は私はサポート出来ないのね〜』
「分かってるわ。 ヨコシマを見つけて起こせばいいのよね?」
『そうなのね〜。 でも気をつけて、何が起こるか分からないのね〜』
「大丈夫よ」
真剣な表情で天井から扉に視線を移しながら言うタマモ。最後の通信はそれで途切れた。
端から見ると1人で天井に向かってデンパ通話していた危ない少女は裸体の女性のレリーフが施されたノブへと手を掛けてその悪趣味?な扉をゆっくりと開けていった。
開けた瞬間タマモの目を襲う眩い光に彼女は目を半開きにしたまま中へと進んでいった。
「な、なに? ・・・・・・・・・ここ?」
タマモは数歩進み出て目が慣れ、瞼を大きく開くとその目を疑った。そこには・・・・・・・・・そこには何もなかったのだ。正確に言えばただただ白い空間が広がっているだけだった。左右の幅は15メートルくらいだろうか、天井と向かいの壁は在るのか無いのかも分からない。より正確に言えば見える範囲に在るのは左右の壁だけだった。
「うそ! ここがヨコシマの深層心理なの!? 何もないじゃない! いったいヨコシマは何処にいるの!?」
(どうしよう、一度戻ってヒャクメに相談しようか? ダメ! 今は時間がないのよ!? 今はヨコシマを捜すことが最優先だもの! 先に進めばヨコシマが居るかも知れないじゃない!)
目を瞑りながら拳を胸に当てて自分に言い聞かせるタマモ。しばらくして一度頷くとそのまま奥へと進んで行った。
暫くそのまま進んで行くと左右の壁に小さい扉が一つずつ見えてきた。
「何これ? なんで深層心理の中に扉があるの? ここが最後の部屋じゃないの?」
右の扉は錆びた鉄のような古びた扉、左はマメに掃除しているかのように輝きを放つ銀色の扉だった。
(・・・・・・・・・迷ってる暇はないのよ! もしかしたらここにヨコシマが居るかも知れない、虱潰しに探すしかないもの!)
フゥーと息を吐くと意を決したように右側の扉へ脚を進めるタマモ。
ゾクゥ!
扉のノブへ手を伸ばそうとしたときタマモの背筋に悪寒が走り、咄嗟に手を引いて飛び退けた。額から凄まじい量の汗が噴き出てくる。その汗は米噛みや頬、顎を蔦って床へと落ちていく。
(イヤだ、この中には入りたくない! ・・・・・・入れない!)
タマモは犬神族の最高峰金毛白面九尾の妖狐としての本能、第六感がその扉の向こうは危険だと訴えかけていた。
「この感じ・・・・・・・・・あの時に似てる」
タマモは自分を助けに来た横島が急変したときのことを思い出していた。メドーサ達を圧倒して自分を襲ってきたときの横島のことを。そのことを感じ取るとこの扉を後に回すほか無かった。その為彼女は銀の扉から捜索を始めることにした。
ガチャ
「え?」
中に入るとそこは深層心理の部屋とさして代わり映えしない20平方メートル程の白い空間だった。そして中心部に俯きながら座る黒い服を着た女性が1人。
「誰?」
その女性はタマモを見ることなく問い掛けてきた。
「アンタこそ誰!? なんでこんなところに居るの!?」
「変な事言うのね? ここは私の部屋よ。 私がここにいるのは当たり前」
そう言いながら振り向く女性。タマモはその女性に見覚えがあった。
「アンタ・・・・・・・・・扉にレリーフしてあった素っ裸の女!!」
「すっぱ・・・・・・何変な事言ってるのよ!? ・・・・・・・・・私はルシオラ」
「ルシオラって、ヨコシマの為に死んだあの魔族!?」
ルシオラの名前を聞いたとき横島の部屋でアシュタロス戦の事を聞いた、その時のことがタマモの頭を過ぎった。 当時横島を尤も愛した女性、そして尤も愛された女性ルシオラ。横島の魔族化に伴って復活出来るかも知れないと聞いていた。
「そう、オマエは知ってるんだあの事・・・・・・・・・オマエはタマモちゃんね?」
「え? な、なんで私のこと」
自分が知らなかった女性が自分のことを知っている事に驚きを隠せないタマモ。横島の心の中に入ってきて驚くことは多かったが今のことが一番驚いたようだ。
「私は見てた。 ヨコシマの目を通して全てが見えてた。 だから知ってる。 いったい何が起きたのかも、ヨコシマが心を閉ざした理由も。 オマエが誰なのかも。 ほらヨコシマ起きて迎えが来たわ」
「え!!? ヨコシマがそこにいるの!?」
先程のように俯き姿勢になって横島の名を呼ぶルシオラに横島の姿を確認出来なかったタマモがルシオラへと駆け寄った。
「えぇ、ほら」
「こ、子供?」
横島の姿は子供同然だった。年で表すならば5・6才程度だった。
「そう、ヨコシマは純心過ぎる。 まるで子供のように。 だからその分傷付きやすい。 この世界のこれがヨコシマの本当の姿・・・・・・・・・ほらヨコシマ起きて」
「・・・・・・・・・ヨコシマ」
ルシオラの声にまったく反応がない横島にタマモの中で不安が大きく膨れあがっていった。このままでは横島は一生目覚めることがないのではないかと。
「ダメみたい、まだ横島はオマエを殺してしまったと思ってるみたい」
「そんな!? 私は生きてる! この命はヨコシマに助けてもらったのに!」
「おそらく今はタマモちゃんの声しかヨコシマには届かないわ、抱いてあげて」
そう言って抱えていた横島をタマモへと引き渡すルシオラ。横島の寝顔を見たタマモはどうしようもなく大粒の涙が溢れ、その涙は頬を蔦って横島の顔に落ちた。
「ヨコシマ・・・・・・・・・私はアナタのお陰で生きてる! だからお願い目を覚まして!!」
「た・・・ま・も?」
「ヨコシマ!!」
「タマモ? お前無事だったんか?」
「うん! ヨコシマのお陰!」
目覚めた横島にタマモは今まで以上の涙が溢れてきた。顔はもうクシャクシャだった。
「でも俺はお前を傷付けちまった」
「そんなこと無い! ヨコシマはちゃんと私を助けてくれたもの! ほらみんな待ってる! ちゃんと帰らなきゃ!」
「俺は生きてて良いのかな?」
横島は視線を天井に移しつつそう呟いた。
「当たり前じゃない! ルシオラを復活させるんでしょ!? それが出来るまでヨコシマは何処にも行っちゃいけないの!」
「ヨコシマ」
精一杯横島の呟きを否定しようとするタマモの言葉と一緒に笑みを浮かべたルシオラが横島の顔を覗き込んだ。
「ルシオラ・・・・・・・・・そうだな、復活させるって決めたんだものな・・・・・・・・・ルシオラ、わりぃ」
「気にしてないわ」
「必ず復活させたるからな」
「待ってるわ、さぁ早く起きなきゃ。 心配してる人がたくさんいるわ」
「あぁ、そうだな」
横島の言葉に合わせてその空間は白い光に包まれ、3人もその光に包まれていった。
つづく
あとがき
こんにちは鱧天です。LoD7−6は如何でしたか? Awakening最終話ということで少し頑張ってみました。大体いつもの倍くらいになりましたかね。
まぁ、頑張ったと言うよりは書きたいことが多くなりすぎたと言うところですかね。それなら分けて書いても良かったんですがどうしても『その6』までに書ききりたかったので無理矢理詰めてみました。
次回は・・・・・・・・・題名未定、内容未定です。・・・・・・情けないOrz そろそろ横島くんの修行始めちゃっても良いかなぁとは考えています。何が出るかは次回のお楽しみと言うことで
レス返しでござい
>sirius様
>心象風景の描写って難しいですね。
そうなんですよぅ、それが一番難しくて時間がかかってます。頭ん中の構想ではかなり鮮明に風景が出来てるんですがそれを文章に起こすことがどうにも・・・・・・・・・誰か私に文章力を分けてください(魂の叫びです)