キィコ…キィコ…
GS試験に失格した後、タイガーは事務所にまっすぐ帰ることも出来ず、ふと目に入った小さな公園に立ち寄り、ブランコに座ってたそがれていた。
大男が窮屈そうにブランコにすわり、小さく前後に揺らしながらうつむいているその光景は、誰が見ても寂しそうだった。
そんな近寄りがたい彼に、声をかける人物がいた。
「なにやってんだ?タイガー」
「魔理さん…」
一文字魔理。名前からして、親もヤンキーだったんだろうなぁ…と何となく連想させる女性で、現在六道女学園霊能科に通う女子高生である。
「ワッシは…今度こそ、今度こそ…強くなれたと思ったんですがノー…」
どこか遠くを見ながらそう呟くタイガー。その視線の先にあるのは、友人か上司か。
彼にしてみれば、考えうる全ての手段を取り、作戦も立て、本当に命をかけた修行をして………そして、それでも勝てなかったのだ。ヘコみもするだろう。
自分には、ムリなのでは?GSに向いていないのでは?
そんな事すらも考えていた。
だが、そんなうじうじしている彼を魔理は許せないと感じた。
「試合、見てたよ。タイガー、あんたは強くなってたよ!」
「ジャが負けてしもーて…」
「ああ、負けたさ!でもそれは仕方が無いだろう!?時の運ってやつじゃないのかい?負けたんなら、次にもっと強くなってチャレンジすればいいじゃないか!!」
叱咤する魔理。しかし、今の傷付いたタイガーにその言葉はすぐには受け入れられない。
出番、じゃなかった光溢れる場所に届かなかったタイガーに、そのあまりに前向きな言葉はまぶしすぎる。
「修行なら、もうこれ以上はない。というものをやりましたジャー…その結果が固有○界。ジャがそれすら、幻覚をその場に作り出す事で誰にでも強制的に見せる、というだけのシロモノ…霊力を消費する割には使えんですケェ」
「う…、で、でもさ!MD!そう、MDはいいアイディアだったじゃないか!壊されないように気を付ければイケるって!」
一瞬タイガーのもつ宿命に引きそうになったが、持ちこたえて説得を続行する魔理。流石にいい根性である。
「ジャが、それも今回のよーに全方位に攻撃できるヤツと当たったらそれまでですケン。そしてわっしは………………そんなヤツと絶対に当たる自信がありますジャ……」
「タ、タイガー…」
情けなさになのか、同情なのか、溢れてきた涙をぬぐって、それでも魔理はタイガーを叱咤し続けた。
彼に、このまま引き下がって欲しくなかった。このまま、いじけたままでいて欲しくは無かった。
自分が見込んだ男に、そんなヤツになって欲しくはなかったのだ。
しかしそれでもタイガーはうつむいたままだった。
「………ぅ…ぅぅ……」
「…?魔理さん?」
そんな彼の頭を上げさせたのは、彼女の泣き声。
「な、ちょ……魔理しゃん!?お、落ち着いてツカサイ!」
それまでの落ち込みはどこへやら、オロオロしてあたふたと手を意味も無く振り回し、魔理を泣き止ませようと必死になるタイガー。
その甲斐あってか、ほどなくして魔理は泣き止んでくれた。
「ご、ごめん…なんか、泣いちゃって…」
「い、いいいいいやいや、悪いのはワッシですケン!スマンかったですじゃ!この通り!」
何か普段の雰囲気と違ってしおらしい魔理にどぎまぎしつつも、泣かした罪悪感から土下座での謝罪を敢行するタイガー。
そして続けて、力強く宣言する。
「ワッシは…!ワッシはもう!立ち止まりませんケエ!!負けても!なにがあっても!前へ進みますケン!!」
「…そっか…ガンバレよ、タイガー」
「はい!見ていてツカサイ、魔理さんっ!!」
タイガーも、魔理も、爽やかな笑みを浮かべていた。
そして、その笑みを凍らせる使者がやってくる。
「あ〜、いたいた。君、タイガー寅吉くん?」
そう言って公園に入ってきたのは、さきほどGS試験会場で審判をしていた男。
「そーですが、何かありましたカイノー?」
「うん、あのね?きみさっき試合で固○結界を使っただろう?」
「え、ええ、使いましたが…」
「そっかー。…あのね?固有○界ってさー、色んな意味で危ないから封印指定なんだよ」
「は?」
「ほら、良く見て。ずっと伏字になってるだろ?○有結界ってさ。そういうわけで、今後は使っちゃダメだよー?」
じゃあ。そういうことで。
そう言い残して、審判は去っていった。
取り残された2人が、しばらくの間思考を停止して立ち止まっていたのは、言うまでも無い。
<完>
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