「エミさん!お願いします!お願いしますジャー!!」
必死の形相で土下座をして頼み込むタイガー。
しかしその相手は机の向こうで椅子に座り、長い剥き出しの足を組んで若干不満そう。
「ん〜…でもね〜…」
「わっしにはどうしても…どうしても…お願いしまっす!一分だけでもいいですケー!!」
「………………ま、仕方ない、か…気が進まないけど…」
「あ、ありがとう!ありがとうございますジャー、エミさんっ!!」
タイガーが頼み込んでいた相手は、彼の上司小笠原エミ。彼をセクハラの虎から社会復帰(?)させた恩人である。
しぶしぶながらエミはタイガーの頼みを聞き入れ、マイクを握った。
その翌日。
タイガーはエミに頼んだ秘策を持って、GS試験会場に立っていた。
「道具は一つまでなら何でもアリ!で、君たちそれぞれ、それでいいのかね?」
「はい!」
「勿論ですジャ」
GS資格試験の2次試験。それは128名まで絞られた受験者をトーナメントで戦わせ、2回勝ち抜いたら合格という過酷なものである。
どう過酷なのかといえば、運が無かったり、実は対人戦闘に向いてなかったりするどこぞの大男とかには特に。
そこをカバーするべく、道具を何か一つだけ持ち込んでもOKというルールがある。これは道具を使って自分の能力を引き出すタイプの術者もいるから当然といえば当然だが。
そして、今回タイガーが持ち込んだのはポータブルMDプレーヤー。ちなみに対戦相手は腰ミノである。審判がそれでいいのか?と聞き返すのも当たり前だろう。
「試合始めっ!」
「精神感応全開ー!!」
開始の合図と同時に精神感応で試験場をジャングルに変えるタイガー。しかし対戦相手はうろたえもせず、落ち着いたままこう言った。
「ふん!俺もジャングルは嫌いじゃない。それにお前の精神感応は、長時間持たないってのは調査済みだっ!!」
確かにその通り、タイガーの精神感応は妙神山の修行で多少は使用可能時間が伸びたものの、まだ欠点自体が無くなったわけではない。だってタイガーだし。
しかしタイガーは不敵な笑みと声でこう返す。
「ふふん。それはどーですかノー?」
その後、10分が経過した。
「何故だ!?何故解けない!?ちくしょうどこだ!」
姿を見せずに殴りかかってくるタイガーの攻撃を、防御に集中して何とかしのいでいた対戦相手が叫んだ。
目論見と違って、一向にタイガーの精神感応が衰えずにいるからだ。このままでは反撃できずに負けてしまう…
焦る彼に、タイガーは余裕たっぷりに種明かしをして見せた。
「ふっふ……わっしが何を試合に持ち込んだのか、覚えとりますカイノー?」
「え、MDだろ!?それがどうしたっ!」
「そう。MDですジャ。そのMDに……何が録音されていたとおもーとったんですカノー?」
「!!、そうか…そういう事かっ!」
正解を思いついたらしい対戦相手に、タイガーは勝ち誇って言った。
「そうジャッ!エミさんに吹き込んでもらった、笛の音が録音されとりますケン!これさえあれば、ワッシの精神感応は長時間使えますケエノー!!」
かつてセイレーンと海の上でカラオケで戦った時。他のGS連中と違って、美神は一回歌ったものを録音して流し、あとは口パクで相手のスタミナと魔力切れを狙って見事除霊に成功した事があった。
カラオケの席で横島にそれを聞いたタイガーは、エミの笛の音を録音しておく事を思いついたのだ。美神がやった手口をマネるというあたりで少しエミの説得に手間取ったが、その効果は絶大。
しかし、勝ち誇るのは少しばかり早かった。
「ならばそのMDを壊せばいい!!」
「はっ!見えもせんのに、そんな事ができますカイノー!」
かつてない一方的な展開に、思わず調子に乗って挑発するタイガー。
だが、彼のキャラでそんな事をしてしまえば…
「全方位に攻撃すれば、避けられまい!MDを壊すだけなら……風のあるところ神あり!神のあるところ力あり!」
グシャッ
「ああっ!?そんなアッサリと!?」
お約束のようにMDが壊されてしまったわけで。
その後、固有○界を使用して何とか一回戦は突破する物の…
霊力切れで、二回戦ではあっさりと敗北。GS資格取得は次回へと持ち越されたらしい…
そしてこの後、無理を言って録音してもらったのに合格できなかったため、上司の折檻が待っていたりもする。
固○結界という新たな戦法を確立し、MDを使う事でエミの手を煩わさないようになり、霊能者として、助手として腕を上げたタイガー。
しかしそれでもまだ、届かなかった。
彼が光り輝く出番、もとい場所へと立つ事が出来るのは――
出来るのは――――
………………………………
きっと、もう少し先のお話。
……たぶん、きっと。
<完>
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