横島が目を覚ますとそこは妙神山の茶の間だった。愉快な音楽に気付き、自分の寝かされている横を見ると、パピリオがTVゲームをやっていた。
画面では、ピンク色の丸いキャラクターが敵を飲み込んで敵が使っていた技を自分の物にしている。
「気がついたんですね横島さん、大丈夫ですか?」
横島が反対側に顔をやると小竜姫が優しい顔で見ていた。
「お久しぶりです小竜姫様。すんませんなんかいきなりお世話になっちゃって…」
体の状態を確認し起こしながら返事を返す。横島の声に気付いたパピリオもこっちにやって来た。
「そんな事ないですよ?ほらパピリオっ!横島さんに謝りなさい!」
小竜姫が叱るとパピリオは顔をうつむかせ謝罪してきた。横島がそれを笑って許すと、すぐにまた元気を取り戻す。
「…でも、すごかったでちよ!ヨコチマの頭からピンク色の綺麗なぷるぷるが――」
「うぐっ!…パピリオ?俺はそんな話聞きたくないぞ!」
そんな会話のあと、横島が小竜姫に今回の来訪の理由を伝え、誰か良い対戦相手はいないか?と聞くと…
「俺しかいねぇだろ?」
聞き覚えのある声にふすまの方に視線をやると、探していた野良猫がいた。
「てめ雪之丞!ここにいやがったか!」
「なんだ俺を探してたのか?――まぁでも会えたんだしいいじゃねぇか。対戦相手探してんだろ?いいぜ、俺も新技試したかったとこなんだ!」
どうやら雪之丞もここで何日か修業していたらしい。
(力を試しに来たつもりだったが…こりゃ試されるのこっちかもなー)
◆
異次元空間。小竜姫とパピリオが見守るなか、雪之丞と横島はお互いを見据えながら準備運動をしている。雪之丞は早くどつき合いたいとうずうず顔。横島もいつもとは違い少し好戦的な顔をしている。
(どうしたんでしょう横島さん、何か…変わった?)
そんな横島を見て小竜姫は不思議に思う。そう彼の顔からどことなく自信を感じるのだ。今までのおどおどした感はまるでなく、高みを目指す男の顔だ。
「いい顔つきだな」
いつの間にやってきたのか、ワルキューレが横に来ていた。その後ろにはジークも見える。
「ええ…やっぱり彼女との事が関係あるのでしょうか」
「だろうな、だが心配はいるまい?あれは前向きだ」
そうですね、と返事を返すと目の前の二人を改めて見なおす。試合は今にも始まりそうだ。
先に動いたのはやはり雪之丞。牽制の霊波砲を数発撃つと共に横島に迫りながら魔装術を纏う。
横島は飛んでくる霊波砲を両手に出した霊波の盾サイキックソーサーで弾くと肉弾戦の構えをとる。
接近した雪之丞の拳が迫る。横島は熟練した動きでそれを受ける。或いは捌く。
小竜姫達はその横島ではありえない動きに驚く。だが雪之丞も負けてはいない。だんだん拳のスピードを上げていく。
防戦一方になってしまった横島のボディーにとうとう拳がめり込んだ。
ぐうっ、と横島はなんとか堪えると雪之丞の胸に両手を当てそのまま霊波砲を放った。
「ぐおっ!」
たまらず吹き飛ぶ雪之丞。追撃を避けるため、すぐに立ち上がる。だが
「…何してんだ?お前」
立ち上がった雪之丞が横島に目をやると、地面に両手をつき何やらブツブツ言っている。
「もう終わりか?隙だらけだぞ?」
「…よしできた!いいぞかかってこい!…動けたらな?」
そう言うと横島はニヤリと不敵に笑うと術を発動した。
「土角陣っ!雪之丞の動きを奪え!」
すると雪之丞の足元から岩がせり上がりあっと言う間に顔以外の体全体が飲み込まれてしまった。横島のこの術はアシュタロスの記憶海で自分のものにした土角結界の簡易術だ。
「なっ!?横島何しやがった!?」
「あれは―…魔術か!?」
何が起きたか解らない雪之丞。ワルキューレは横島が魔術を使ったことが信じられない。
横島は動きのとれない雪之丞に近寄り、頬をぺちぺち叩きながら勝ったとばかりに高らかに笑う。
「どーだ雪之丞動けまい!ぬははははっ!」
「く、くそっ…ぬおおおおっ!!」
雪之丞は悔しさを力に変えなんとか脱出しようと全身に力を込めた。
すると岩はめきめきと音を立てて崩れ始めた。
「ま、マジか!?覚えたばっかなのにぃー!」
横島は雪之丞から距離をとると、せっかく覚えた術があっさり破られて落ち込む。見ると雪之丞はもうほとんど岩から抜け出していた。
「ぜぇーぜぇー今のがお前の新技か?ククッじゃあ今度は俺の新技を見せてやるぜっ!」
雪之丞は低くうなり力を集めると、右手の魔装術を強化する。すると右拳に10センチ程の一本の鋭いトゲが表れた。
「な、なんだそりゃ!そんなんで殴られたら体貫通するやんけ!もうちょい丸くならんのか?丸く!」
「なんだ余裕じゃねぇか、じゃあ遠慮いらねぇよな?これが俺の新技、魔装角だ!いっくぜぇーっ!!」
横島の本気の説得を冗談と勘違いした雪之丞は魔装角をスピードに乗せて凄まじい速さで横島に突っ込んでゆく。
「早っ!」
横島は両手を前に突き出し大きめのソーサーを出すと突っ込んで来た雪之丞をなんとか止める。スピードは殺せたが、ぐいぐいと押され始める。
(こいつの盾は今にも破れそうだ…あとひといきっ!)
そう思い雪之丞は魔装角に捻りを加える。とたんに破れる横島のソーサー。
「ぐはぁー!」
まともに食らった横島は後ろに吹っ飛んでいった。
「…なんだ?まだ立てるのか?思い出すぜ、お前と試験会場で初めて戦った時をよぉ」
「ぐっ…ぬかせボケナス、死ぬとこだったじゃねぇか」
その後、なんとか立ち上がった横島だがもう霊力は残っていない。文珠一個だせるのが精一杯だ。対して雪之丞はまだ少し余裕がありそうだ。『治』癒したところでもう先程の魔装角は防げそうにない。
「死合だろ?」
「試合じゃボケぇーっ!」
(…くっ、何かないか?何か!こいつも修業したんだろーが俺だってやったんだ!)
「負けは認めないんだな?じゃあいくぜ!」
怪我しても死ぬなよ!と無茶を言いながら迫ってくる雪之丞。その時横島が、ある必勝策を閃いた。
「パピリオ見てろ!」
「え!?なんでちか?」
「星野カビィーだ!!」
意味の解らない事をほざく横島にとどめを叩き込む雪之丞。だか当たる瞬間、文珠を体に当てられた事に気付く。
(何しやがったか知らねぇがもう遅え!このまま一気にっ!)
あれ?おかしい、目の前にいるのは横島のはずなのに、自分の魔装術が見える。そして自分の体の異変に気付く。魔装術が消えている事に。
何度か魔装術を使おうとするが鎧は一向にでてこない。その内、自分と同じ鎧を着た横島が笑いだし種明かしをする。
「ふはは!どーだ!『奪』わせてもらったぜお前の魔装術!どうやら俺の勝ちのようだな!」
聞かされた事実に雪之丞は地面に膝をつき愕然とした。
悔しかった。今まで自分の人生は戦いの連続だった。力を求め、強敵と出会い、そして友と出会った。
魔装術は自分の人生そのものだったのだ。
それが今無くなった。こんなに悲しいのは母を失って以来だ。
勝利を確信し笑っていた横島だったが、ふと雪之丞の異変に気付く、なんとゆうか…
今にも泣き出しそうな顔をしている。
下唇を噛み締め、目にはいっぱいの涙を溜めて両膝をつきこっちをじっと見ている。
「ゆ、雪之丞?」
そして横島は気付く。自分がやってはならない事をしたと…
「雪之丞?…す、すまん悪かった!すぐ返す!すぐ返すから…だから泣くな、な?」
「………ほ、本当に?」
小首を傾げ泣きべそかきながら尋ねてくる雪之丞。あまりにショックだったのか、幼児退行しているようだ。
「あ、ああ当たり前だろ?と、友達じゃないか!ほら立てよ」
「…う、うん!」
よろよろと立ち上がる雪之丞に魔装術を『返』す横島。そして悪かったな?と雪之丞の膝の砂を払ってやる。
あまりにも意外なその死闘の行方に小竜姫、パピリオ、ワルキューレ、ジークは呆気にとられてなんとも言えない顔で二人を見ていた…
そして空間を歪めそれを見ていた斉天大聖。
「…ア、アホじゃこやつら、稀に見るアホじゃ!!」
こんなアホ共見たことがない!と…のたまった。
あとがき
どーもねずみ男です。戦闘シーンで横島らしさをだすのはかなり難しい事に気付きました。だって原作ではいつも逃げてるだけだし。
あと雪之丞ですが、横島一人最強というのもアレなんでゆっきーにも頑張ってもらいました。そしてたぶん原作でも魔装術を奪われちゃったら、やっぱり死ぬほどショックを受けてしまうんじゃないかと思います。
当然ながら次回には雪之丞は元に戻します。幼児退行ゆっきー萌の人いたらレスください。またするかも…
D,様へ
どうですか?自分的にはいいんじゃないかと思ってます。記憶については次回詳しく説明入れたいと思います
ジェミナス様へ
パピ出番少なくてすいません!次回期待してください。
瀾帝様へ
俺も動物好きです。ミイやケイもその内出します!
TK-PO様へ
おお仲間が!ですよね!作品内ではおキヌにはなるだけ天然になってもらうつもりです。
みなさんレスありがとうございます。末長くお付き合いをよろしくお願いします。 柳野雫様、教えて下さって本当にありがとうございます。修正させていただきました。ああ、雪乃丞を連発して恥ずかしい。
他の皆様も誤字脱字あったらレスして欲しいです。
BACK< >NEXT