霧がたちこめる2メートル程のせまい道筋。そんな妙神山への険しい山道を横島は軽快に登っていく。霊力の在り方をほぼ理解した横島は霊力を使い体力を消費しないで動くことが可能だった。
(体か軽いっ!今なら空でも飛べそうな気分やなー)
なんとなく本気でそう思った横島はノリで飛べたりしてな、とか思いながらそっと崖側に近づく。下を覗くとまさに断崖絶壁。白い霧に覆われてその先に何があるか全くわからない。
「…や、やめとこ」
(じ、冗談じゃねぇ、失敗したら死ぬやんけ)
それが無難だ。
暫らく歩くとようやく目的地の妙神山がが見えてきた。鬼門の二人も相変わらずそうだ。
「うん?おお横島ではないか、久しぶりだのう?」
「よお鬼門、元気そうだな。小竜姫様はいるか?っていうか早く開けてくれ、開門っ!」
「か、開門て…偉そうだなおぬし」
仕方がないの、と鬼門が扉を開いた瞬間中から何かがものすごいスピードで突っ込んでくる。
ぶつかる瞬間、なんとか反応できた横島は体を捻って避けた。時速にして300キロくらいだろうか?それが横島の横を掠め飛んでいく。
その一瞬相手の顔が見えた。
「パ、パピリオっ!」
そう、喜色満面な輝かしい笑顔のパピリオだ。時速300キロの笑顔のパピリオはそのまま何にも当たることなく崖っ淵で姿を消した。
そしてドップラー効果なのか?パピリオが飛んできた鬼門の方から「ヨコチマー!」と声が聞こえた。
横島は焦った。俺が避けた性でパピリオが崖から落ちた…と
「パピリオーーっ!!」
横島はリュックを投げ捨て迷わず崖から飛び降りる。
崖を落下しながらパピリオを探す。どこだ?まだ先か?
「ヨコチマー!わたちは嬉しいでちゅ!」
すぐ近くから聞こえるパピリオの声、横に視線をやると、そこには嬉しそうにちゅうを舞うパピリオさん
「よかったでちゅ!抱きつこうとして避けられたから嫌われたと思ったんでちゅけど…ヨコチマはわたちを助けるために崖から飛び降りてくれたでちゅっ!」
一瞬意味の解らない横島、だがすぐに気付く。
(そうだパピリオ飛べるんじゃん…ホッ…んーっ?)
パピリオが無事だと解り安心する横島だが、すぐに自分の現状を思い出す。
目まぐるしく変わる景色の中えらいスピードで落ちながらパピリオに助けを求める。だが…
「…――──っ!!」
風圧の性で口がうまく廻らない。それでもめげずにジタバタ藻掻く。
「なんでちゅか?ヨコチマもあたちに会えて嬉しいんでちゅね?」
「…―っ!──っ!」
「ベスパちゃんもなかなか来れないし淋しかったんでちよ?」
「…っ!…」
ああ、もう駄目だ。地面がすぐそこに見えてきた。見えてきたんですよ。
「そうでちっ!わたち今ふぁみこん持ってるんでちよ。星野カビィー可愛いでちよ!えーとでちねぇーカビィーはね――」
(そうだよ文珠でっ!)
パピリオの星野カビィー説明など聞いている場合ではない、横島はなんで気付かなかったんだと嘆き、今までで一番早く文珠を手のひらに精製するとそれを――…ぐちゃり。
駄目でした。
パピリオったらお茶目さんだな。そんなことを考えながら横島は意識を失った。右手に光り輝く『治』の文珠を握り締めて。
後編へ続く