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!警告!壊れキャラ有り

「除霊部員と秘密の部屋  第9話  (GS+色々)」

犬雀 (2005-03-21 22:30)
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第9話   「伝説 大地に立つ」


場内に流れる「スカイハイ」のテーマは観客たちの心を鷲掴みにした。
闘場に倒れる芹沢と御神楽が介護班に搬送されていくのを見届けるとミル・マス唐巣は観客に向かって大きく両手を上げる。
歓声に包まれる観客たち。

横島側でも魔鈴と唯がキャーキャーと黄色い声援を上げている。

それに応えるかのようにミル・マス唐巣は年甲斐もなく華麗にバック転を決めると再び両手を挙げた。

湧きまくる観客たちに指を立てて合図すると覆面に手をかけてすっぽりと脱ぎ捨てる。
その下から現れた顔は…

やっぱりメキシカンな覆面だった。

上にかぶっていた覆面を魔鈴目掛けて放るミル・マス唐巣。所謂、オーバーマスクという奴だったのだろう。

「キャーキャー!マスカラスのマスクだぁー!!」

「えうぅぅぅぅ。いいなぁ〜。」

子供のように喜ぶ魔鈴と悔しがる唯になんとなく引いてしまう一同だったが、中でも横島の落ち込みようは際立っている。

気遣わしげに小鳩が話しかけると、涙で濡れた顔を上げて少年が答えた。

「どうしたんですか。横島さん?」

「ううっ…何が悲しくておっさんとプロレスせにゃならんのやぁぁぁ。」

どう返答していいやらと迷う小鳩が「だったら今度、小鳩とプロレスしませんか?」と口に出したものかどうか?と悩む内気な彼女の後ろでは、赤城が首を傾げ、何かを考え込む仕草を見せて、摩耶に指示を出していた。

ダクダクと涙を流す横島をおキヌがまあまあと宥める。

「でも、横島さんの戦いってみんなの参考になると思うんですよ。」

「ううっ…おキヌちゃん。おキヌちゃんはあのおっさんとプロレスしたい?」

「あ、あはは…それはちょっと…」

汗を流して引きつった笑いを浮かべるおキヌちゃん。
彼女は格闘技にはさほど興味がないらしい。

だが観客たちも今時の女子高生がK1とかプライドならいざ知らず、プロレスに対して歓声を送るというのも奇妙な話である。
それだけ往年のマスクマンは存在感があるということだろうか?

闘場が整備されパフォーマンスをやりつくしたマス唐巣がマイクを手に横島に「さあ来たまえ!」と挑発する。

顔色を青ざめさせイヤンイヤンと首をふる横島に対して巻き起こるは「タダオコール」。

「「「「ターダーオ!ターダーオ!ターダーオ!」」」

その声は段々に大きくなり、やがて観客だけではなく両校の教職員、はたまた貴賓席の六道側理事たちまでもが立ち上がって熱心に叫び出していた。
ちなみに三千院はとっくに逃げ出したのか、すでにその姿はないが今の横島はそんなことを構っている余裕は無い。
彼の心の中は「おっさんと組み合うのはイヤやぁぁぁ」という本能の叫びと「これは?注目されている?」って言う関西人の血とがせめぎ会っている。

そんな少年の肩を押すかのように場内に流れるテーマ曲。
会場が一つになって唱和する。

♪タダオボンバイエ! タダオボンバイエ! タダオボンバイエ!!

否が応でも燃える闘魂を燃え上がらせるテーマ曲についに少年の闘魂に火が付いた。
ジャージを脱ぎ捨てTシャツ短パンの姿で闘場に駆け上がると、いつの間に身につけたか赤いスポーツタオルを放り投げ、拳を天に突き上げる。

「ダーッ!!」

「「「「ダーッ!!!」」」」

こうしてついに世紀の一戦『ミル・マス唐巣VSアントニオ・横島』の戦いの幕が切って落とされたのだ。

いつの間にか黒のタキシードに着替えた鬼道がマイクを片手に闘場に進み出ると両選手をコールする。

「赤コーナー!メキシコの英雄、「千の顔を持つ男」、ミル・マス唐巣〜!!」

場内の大声援に両手を上げて応えるマスクマン。
深々と観客たちに一礼する。紳士の名は伊達じゃないということか。

「続いて青コーナー!東京の種馬、「萌える闘魂」、アントニオ・横島〜!!」

「ダーッ!!」と再び拳を突き上げれば観客たちも呼応する。

その歓声が一段落したのを見計らって鬼道がペコリと頭を下げた。

「レフェリーは私、鬼道政樹〜」

リングアナ兼レフリーの紹介も終わり、両選手に六女側の美少女たちによる花束贈呈が行われ、それぞれの位置につく両選手。

二人がガッチリと握手を交わした瞬間、ゴングがカーンと鳴り響いた。

ゴングとともにがっちりと組み合う二人、プロレス界のお約束、力比べである。
ギリギリとマス唐巣が押し込めば、押されて体を弓なりにそらせ、ブリッジで耐える横島。
その体勢からどうやっても一人じゃ起き上がれないんじゃ?とも思える異様な腹筋の力で逆にマス唐巣を押し返す。
今度はマス唐巣が横島のパワープレッシャーに押され、ブリッジをして堪える。

「忠夫様〜頑張ってぇ!」とのアリエスの声に応えるかのごとく横島が力を込めようとした瞬間、地につけていた頭頂部を中心にグルリと回転すると横捨て身気味に横島を投げとばすマス唐巣。
どう見ても頭頂部に多大な負荷を与える投げ技に、失われたであろう師の頭髪を思ってピートが涙する。

投げられた横島が立ち上がった瞬間、マス唐巣必殺のドロップキックが炸裂した。

「グハッ」と口から何やらキラキラと輝く液体をまきらかして吹っ飛ぶ横島。
それでも何とか受身を取って立ち上がろうとする少年にタイミングを合わせてドロップキックの連発を食らわせるマス唐巣に観客たちの興奮もヒートアップしていく。

五発目の連続ドロップキックが炸裂したのを見て悲鳴を上げる除霊部員たち。

「えうぅぅぅぅ〜タダオく〜ん!!」

「横島さん!!ああっ私はどっちを応援したら!」

マス唐巣と横島のどっちにつくかのジレンマに悩まされる唯と魔鈴。
その後ろで手に汗を握る他のメンバーだったが、加藤が疑問の声を上げる。

「むう…妙だ。」と首を傾げる加藤にかすみが不思議そうに目を向けた。
その視線に気づいたかおもむろに語り出す加藤。

「横島殿は何ゆえ剣の技を出さぬのだ?それに以前見せた無拍子も使っておらぬ。」

「あ、そういえば…」と愛子も思い至る。今の少年の戦いはあまりにも彼らしくない。
文珠を使うなと言われているわけでも無いのに、使おうとせず、今はドロップキックの集中砲火でフラフラになったところを攻め込まれサーフボードストレッチを食らっている。

「それはこの空間のせいよ!」と彼女の背後からヌペっと現れた赤城が誇らしげに叫んだ。

「「「え?」」」と振り向く一同に重々しく頷くとノーパソに向かってなにやら作業している摩耶に「出せる?」と聞く。

「はい!」と摩耶がノーパソの画面をみんなに示す。

そこに映し出されたのは画面一面を埋めた赤一色。いや、よく見れば画面の左隅、小指の先ほどの一区画が青く点滅している。

「これは何ですか?」とのピートの問いにエッヘンと胸を張る赤城。

「これはね。私が開発した『マヌケ時空感知プログラム』よ。」

「「「はあ?」」」と呆気にとられる一同に向けて赤城さん説明開始。

「この青い部分が今現在この場にあるマヌケ空間よ。見ての通り少ないわ。」

「この赤い部分はなんですかいノー?」

「それはね。言ってみれば「戦いのワンダーランド」よ。」

「それって何ですか?」と戦いとは無縁な小鳩が口を挟む。

「つまり…空間内に居るものを知らずにプロレスの世界に誘うエナジー。それが今、この場を占めているわ。」

「じゃあ何で横島さんは技を使えないんですか?」

「だってプロレスで道具は凶器扱いでしょ。」とピートの問いに当然と言いたげに答える赤城さん。

「う、確かにそうですジャー…」と妙神山での戦いを思い出すタイガー。

「けど、あんなにマスカラスさんの攻撃を受けまくるなんてタダオくんらしくないんですけどぉ…」


「それはね『風車の理論』があるからよ。」と唯に意味不明の言葉を返す赤城に加藤が納得したとばかりに頷いた。

「おおっ。敵の技をあえて受け、見せ場を作ってから逆転するというあの闘魂理論!!」

「ええ。でもプロレスに不慣れな横島君が逆転できる可能性は…0に近いわ。」

「えうぅぅ。マスカラスさんズルイですう…」

唯の泣き言に横島をスリーパーホールドで悶絶させつつマス唐巣がにこやかに答えた。

「天野さんだったね。それは違うよ。」

「へう?」

「私と横島君の力の差は数字で言えば8:10と言ったところだろう。いやもっと差があるかも知れない。そんな相手と戦うためには相手の力を落とすか自分の力を上げるしかない。相手が苦手とし、そして自分が得意とする戦場を設定する。それが戦略というものだよ。」

「うむ!道理である!!」

「闇雲に全力で突っ込むのは戦術とは言わない。それは無謀と呼ばれるものだ。そして様々な戦術を駆使することこそが真に全力を尽くすということなのだよ。」

今度のマス唐巣の言葉は六女側に向けられた。
その真意を汲んで頷く少女たち。その中には一文字の姿もある。

けど…

言っていることは正論なんだが、ロメロスペシャル(吊り天井)をかましながらだから何となく説得力が無い気もする。
マス唐巣の上で「ぐえぇぇぇぇ」とわめいている少年の姿もそれに拍車をかけているし。

「では…どうすれば横島君が勝てるの?」との愛子に今度は自信なさげに赤城が答えた。

「戦場を自分の有利な場に設定する…つまり闘魂空間を消してマヌケ時空を作り出せれば…」

「えう〜。どうやってですかぁ〜。」

「そうね…ここに居るみんなが「突っ込む」ようなマヌケなことが起きれば、そのエネルギーで空間が揺らぐわ。その一瞬に横島君が呼応してくれれば…。」

「どうやって突っ込みを?」とピート。なんかもう色々と悟ったのか声に元気が無い。

「それは…わからないわ…」

そんな会話とは関係なく着々と横島を追い詰めるマス唐巣。
フラフラと足元もおぼつかない横島から数歩離れると霊圧を上げ始める。

「我が右手には全てを許す「主の愛」!!」

ブオンとマス唐巣の右手に青い光が。

「我が左手には敵を焼き尽くす「熱き闘魂」!!」

メラメラと左手に赤い霊気の炎が。

「行くよ。横島君。愛と闘魂を宿した神の十字架!!」

ダッシュとともに飛び上がり交差した腕を横島に叩きつけるマス唐巣。
どうみてもフライングクロスチョップなんだが、相反した?エネルギーのスパークゆえか真正面から受けたはずの衝撃にも関わらず垂直に飛んで顔から場外に落ちる横島。

地面にうつ伏せに横たわり顔の辺りからトロリと赤い液体を広げ始め、ピクピクと痙攣する横島におキヌが泣きついた。

「ひーん!!横島さはぁん!!」

ゆすってみても少年から返事が無い。
パニックに陥ったおキヌの耳に無常にも鬼道の唱えるカウントが響く。
とりあえず仰向けにしてみれば額からダクダクと流血しつつ白目を剥く少年の顔。

完全にパニックになったおキヌの脳内に様々な言葉が脈絡無く飛び交う。

(横島さんが死んじゃうぅぅ!)
(血を止めなきゃ!)
(このままじゃ負けちゃう!)
(プロレス?プロレスなら!!)
(覆面さえあれば横島さんもレスラーに!)
(マヌケ…突っ込み…勝ち!)

そしてパニックに陥ったおキヌは突拍子も無い名案を生み出した。


リングに落ちた横島を余裕の笑みで見つめていたマス唐巣はカウントが10を超えたあたりで勝利を確信した。
おキヌが少年を揺さぶっているがピクリともしない。
あと10にも満たない間に意識を取り戻すのは彼の経験から言っても無理だと思えた。
やれやれと息を吐きつつ覆面を脱ぐ唐巣。
蒸れた頭髪に外気が優しい。
だが…横島側から「きゃぁぁあ!!」と魂消るような悲鳴があがる。

そちらを見れば信じられないと言いたげに自分を見つめて両手で口を押さえて立ち尽くす魔鈴の姿。

「ど、どうしたのかね。魔鈴君」

「酷いです!本物のミル・マスカラスさんだと思っていたのにっ!だから横島さんとどっちを応援しようかってあんなに悩んだのに!私を騙したんですねっ!!」

(((まさか!気づいてなかった?!!)))と心の中で声を合わせる除霊部員たち。
摩耶の見ているノーパソの画面で青の部分がちょびっと増えた。

「いや…騙すも何も…」

「酷い酷い〜!!」

聞く耳持ちませんとばかりに身をよじって涙を飛ばす魔鈴さんに唐巣神父も鬼道も固まってしまう。その一瞬の隙に奇跡が起きた!!

ビカリと横島の倒れていたあたりから光が発するともに野獣の雄叫びがあがる。

「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

何が?とそちらを見れば、光の中、覆面をかぶって立つ少年の姿。
その筋肉が膨れ上がり上半身を覆っていたTシャツがはじけ飛ぶと「とうっ!」と叫びをあげて闘場に降り立つ白覆面の少年。

呆気にとられた場内全ての人の前にその雄姿を晒す。

無数の戦歴に彩られた肉体はどういう理屈かパンパンに膨れ上がった筋肉の鎧に覆われ、爛々と輝く目以外を隠すレースの白い覆面?

その姿にその場に居た全ての人々が声をそろえて突っ込んだ!

「「「「「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」


ゲシュタルト崩壊と言う言葉がある。全体性を見失い小さなことのみ認識することであるが、平たく言えばウロが来るということであろう。

実は天然系少女おキヌちゃんの得意技だったりする。
横島を勝たせたい一心でミカ・レイをひん剥いたり、記憶を取り戻させたい一心で後先考えず美神が使用中のシャワールームに横島を導いたりしているのだ。

その彼女が導き出した結論…それはどういう思考回路か彼女しかわからんが、自分の履いていた乙女の秘密を包む神秘の三角布を少年にかぶせることであった。

そりゃあまあ血止めにもなるかもしんないけど…。

とにかく伝説の覆面ヒーローが今降臨した!!

呆然と見守る赤城に摩耶の驚愕に満ちた声が聞こえる。

「これは!赤いところが無くなりましたっ!」

「何ですって!!」とノーパソを覗き込めば確かに画面は青一色。
弾んだ摩耶の声が高らかに響き渡る。

「パターン青!『マヌケ』です!!」

「勝ったわね…」とニヤリと笑う赤城だが…事態はとっくに勝ち負けを超越した方向に流れている。

やたらと逞しい体格には似合わわぬポーズ、セクシーアイドルのように頭で手を組みシャナリシャナリと腰をくねらせながら近づいてくる伝説のヒーローに怯える唐巣と鬼道。もう戦意なんかカケラも無い。

「ふん!」と一声、恐怖のあまり動くことも出来なくなった唐巣の体を捕まえるとボディスラムの体勢に持ち上げる。

「嫌あぁぁぁぁぁ!!」と逆さまになったまま子供のように泣き叫ぶ唐巣の頭をグッと掴むと伝説のヒーローはその頭を「ふんぬ!」とばかりに短パンに突っ込んだ。
考えたくも無いが…多分、その下にも突っ込んでいる気がする…。ジョリとかいったし…。

「むがぁぁぁぁぁ!!」とくぐもった叫びを上げてジタバタと暴れる唐巣をがっちりと抱え込みジャンプ一番!地面に叩きつける仮面ヒーロー。
所謂、ツームストン・ドライバー…墓石落としである。かなり凶悪だけど…。

ドズンと言う重い音とペチと言う軽い音の微妙なハーモニーが静まり返った会場に流れ…ピクピクと痙攣していた唐巣は横島が手を離すとそのままドウと倒れた。

慌てて駆け寄った鬼道が唐巣の顔を覗きこみ、介護テントに向けて大声で「ドクター!!」と叫び世紀の一戦は横島のTKO勝ちで幕を閉じた。


「六道女学院最大のマヌケな日」と後々伝えられることになった一日はこうして終わりを告げたのであった。


戦い終わり、後片付けも済んだ校庭を見つめる六道理事長。
帰宅する生徒の中に代表選手たちの笑顔を見つけてホッと一息つく彼女の顔にはいつもののほほんとした色は無い。

佇む彼女の背後から静かな足音が近づいてきた。

「…理事長…」

振り向いて寂しげに微笑む彼女の前に立つのは相沢の嫁の一人、川澄舞である。

「川澄先生。今日は色々とご苦労様でした。」

「…かまわない…生徒達のためにもなること…」

学校内に巣食っていた忌まわしい空気はこれで晴れていくいくことだろう。
首謀者の三千院はおそらく次の理事会で解任されるだろう。
生き延びたとしても影響力はほとんど無くなったはずだ。
何しろ他校の生徒や教師の目の前で芹沢が無様な自白を晒したのだ。
学内だけならいざ知らずこうなっては、いかに狡猾な男とはいえもみ消すことは不可能である。

「あの子達は?」

誰とは言わないし舞も聞かない。だがそれが誰のことを指しているか舞にはわかる。

「明日の職員会議で処分が決まる。」

「そう…。でも反省しているなら穏便にね。」

理事長の言葉に舞は黙って頷いた。
騙されていたとは言え罪は罪。それに対する処罰はしなければならない。
だが、彼女にも成長の機会は与えられた。
人と人外を平気で受け入れる同い年の少年少女たち。
そしてそれを許す学校の存在。
本来、理事長が目指した理想の一端がそこにある。
それを知った彼女たちがどう行動すべきか?
まずは去った生徒たちに一人一人に謝罪させることから始めよう。
舞はそう思った。

「ところで何か御用?」

「…一番最初の判定…理事長らしくない…」

「ああ、あれね。ちょっと知りたいことがあってね。」

「…何?」

舞の問いに理事長は再び窓の外を見る。
返答は無かった。かわりに返ってきたのは一見当たり障りの無い言葉。

「ところで旦那様は天野さんのこと何か言ってました?」

「…遅刻魔…けど最近は友達と暮らしているから減ったらしい…」

「友達と?」

「はちみつくまさん…あの机の娘…」

「そうでしたか。きっと楽しいんでしょうね。」

背中を向けたままの理事長の声が寂しげなのに気がつく。

「…理事長…あの娘と知り合い?」

「…昔の教え子ですよ…。」

「…昔?」

「ええ…ずっと昔…あの事件が起きる前まで…」

「…事件?」

だが六道理事長がそれに答えることは無かった。


夕焼けの学校前にバスが止まる。
なんだか色々と突っ込みがいのあるイベントを堪能した生徒達は皆、満足そうな顔で三々五々に帰途に付く。

だが除霊部員たちは中々リムジンバスから降りてこない。
なぜなら…

「ううっ…俺はっ!俺はなんちゅーことをしてしまったんやぁぁ」と泣きじゃくる少年を宥めるのに必死だったから…。

ちなみにピートは病院送りになった唐巣の付き添いとやらで先に帰宅している。
愛子は再び自分に収納を命じられた「唯ちゃんパーツ」を吐き出しに摩耶と一緒に科学部部室に向かった。

バスの中に残っているアリエスと小鳩と唯が慰めようとするが、おキヌが回収し忘れた魅惑の布切れを手にグジグジと泣く少年には聞こえないようだ。

「勝ちは勝ちとは言え…」

「オナゴの前であんな勝ち方はムゴイですからノー」

加藤とタイガーが顔を見合わせて溜め息をつくが無理も無いだろう。

顧問の相沢は毒の余波で弱りきっているし、コーチの魔鈴もオーバーマスクを手にしょんぼりとしている。

その様子はとても凱旋とは言えない。

間に立ってオロオロとしている佐祐理がこの状況を打破しようと「あはは〜。皆さんでご飯でも〜」と口を開きかけた時、血相を変えた愛子が女教師と一緒にバスに飛び込んできた。

「相沢先生!!」、「祐一くん!!」

「ん?どうした愛子君とあゆ…って学校で祐一って呼ぶな!」

「そんなことはどうでもいいんだよっ!名ゆ…水瀬先生が大変なんだよっ!」

「何っ!いったいどうしたっ!!」

「うぐぅ…水瀬先生がまた例の病気を起こして〜」と言いにくそうな月宮先生。これでも相沢と同い年。

「猫か…」と疲れきった様子の相沢。

「うん。それで猫を追っかけてって旧校舎の跡地に行ったっきり帰ってこないんだよっ!!」

「あの猫マニアがぁぁ!!」

「早く探しに行かないとっ!」

「旧校舎跡地って撤去工事中に下に空洞があるって立ち入り禁止になった場所ですよ!」

愛子の言葉に真顔に戻る相沢先生。なんだかんだ行っても愛する妻?が心配なのだ。

「そうだったな!よし行くぞあゆ!」と意気込んで駆け出そうとする相沢に背後からの声。

「待てや…おっさん…」

「俺はおっさんじゃ…ってどうした横島…」

「もしかしてその人も…」と月宮先生をプルプルと震える指で指す横島から目線を逸らす相沢先生。

「う…まあ色々とな…」

「おっさんは一体何人の嫁さんがいるんじゃぁぁぁ!!!」

「まて!苦情はここにいる月宮先生が受け付ける!今は水瀬先生を探しに行かせてくれ!!」

「うぐぅ!酷いよ!…って祐一くん?」

相沢の勝手な言い草に抗議しようとした月宮先生の顔が曇る。
彼女の前にはがっくりと膝をつくダーリンがいるんだから無理も無い。

「くっ…まだシビレが…」とジタバタもがく相沢を見ていた横島が溜め息をついた。

「ちっ…しゃあないなぁ…俺が行くよ。愛子。旧校舎だったよな。」

「うん…でも大丈夫?」

「嫌なことは体を動かして忘れるのが一番さ!」

ハッハッハッと嘘っぽく笑う横島。だがそれは現実逃避とも言う。
少年の後ろで魔鈴が「私も行きます…」とどんよりした声音で言った。
現実逃避二人目らしい。

それでもグシグシと泣く少年の姿よりはマシだろう。
どう慰めればよいものかと途方にくれていた少女たちの顔にも笑みが戻り始めた。

「確か旧校舎って霊が出るって噂だったわよね。」

「ああ…でもそれはあの爺さんが作ったおしり「言わないでっ!!」…へ?」

「なんにしても危険かも知れないわ!行くなら急がないと!!」と横島の言葉を遮って愛子。色々とトラウマらしい。

「うむ。私も行くぞ!」
「ワッシもですジャー」
「わたくしも行きますわ」
「へう!当然私もですっ!」

一斉に声を上げる除霊部員だったが…

「小鳩も…「小鳩ちゃんはここに残ってくれないか?」…え?」

「ほら…相沢先生がまた痙攣し始めているし…見てやっててくれない?」


「頼むよ」と少年に言われて頬を染めて頷く小鳩。
実のところ一緒に行けないのは寂しいけど、彼女にとって横島の頼みは何よりも優先するのだ。
ちなみに加害者の魔女はとっくにバスから降りていたりする。
本来、優しい彼女が相沢のことを忘れるとは…偽マスカラス・ショックは相当に強烈だったらしい。しばらく唐巣神父は魔鈴の店に出入り禁止となるだろう。

なにやら立ち直った少年の周りに集う少女たち。

いざ行かん。と旧校舎の方に向かおうとした彼らの前に摩耶が息を切らせて走ってきた。

「どうしたの摩耶ちゃん。」

「大変です!旧校舎跡地の方から何か大きな音が!!」


除霊部員達は心配そうに見守る相沢たちを残して一斉に走り出した。


後書き
ども。犬雀です。

唐巣神父対横島戦…こんな感じで一つ。

あれ?予定では最後に唐巣が理事長と会話するはずで、横島君の凄さに六女の生徒が感心してってはずだったのに…どこで間違ったんだろ?
つらつら考えるに…カゴメあたりから微妙に狂い始めていたような…。
アレってまったくのイレギュラーだったし…。
本当なら唐巣さんが病院送りになるのは学校に戻ってからだったのに…犬、ダメダメでありますな。
さて次話から懐かしのゲームネタっぽくなりますです。
目標は愛子ちゃん救済…でも…またどっかで狂うかも知れませぬ。

では…


1>wey様
ピート君はここで一回休みとなりますです。
彼の能力だと次の話があっさりと終わっちゃいますんで。

2>法師陰陽師様
あのまま横島と戦っていたら神父の勝ちでした。
んで、神父は最悪の相手と戦ってしまった…と。合掌であります。

3>シシン様
あの台詞はアリエスお得意の屁理屈でありますので…(汗
三千院は失脚ですが…あえてちゃんとは書きません。なんとなくあとで小悪党として使えそうな気がするもんですから、しばらくは飼い殺しにさせていただきます。

4>かれな様
いえいえ。どんどん感想や苦言を頂きたく、犬はその一つ一つを力とさせていただきますです。
外伝とこちらでは意識して文体を変えようとは思うのですが…まだ無理でした。
なんとかマジとマヌケの両立で行きたいと思いますです。

5>wata様
そうですね。ダ・バはあっても最後に救いを残したいですね。
ちなみにカノンキャラがそれに巻き込まれることはないんですが、犬はオリキャラを虐めたがる癖が…。

6>義王様
禿…あまりに気の毒で使えませんでした…ってもっと気の毒?

7>ジェミナス様
世界レベル…の変態的な戦いになってまいましたぁ…(大汗
ご飯は…やめたほうが…。

8>黒川様
はいです。理事長の思惑はまさに横島たちを利用した大掃除でありました。
でも…最後の最後であてが外れたような。
策士策に…というやつですか。

ドス唐巣さん…候補はいますよ。弟子のパンパイア…げふんげふん。

9>ncro様
きっちりマヌケに決まりましたでしょうか?w

10>通りすがり様
最初は格好よかったマス唐巣…最後は悲惨な終わりとなりました。
犬のSSでももっとも悲惨な負け方をしたかも知れませぬ。

いや…唐巣神父は好きですよ。

11>なまけもの様
理事長の最後の思惑は今回の会話の中にありますです。でもまだ秘密ということで…。
相沢先生のほかの奥さんたちが動き出しました…でもあくまで狂言回しということになりますです。犬には多人数を一気に動かす筆力がありませぬので。
でも最初はピートVS舞戦を考えていたんですけどね。どこで狂ったやら…。


12>柳野雫様
六道理事長は基本的に生徒第一主義であると犬は勝手に設定しております。
それ故に御神楽に対する処分も甘くなるかと…後でピートあたりと絡めると面白いキャラですし。

13>紫苑様
六女は色々と変わっていきます。その仮定でまた横島たちと絡むかも…って言うか絡めたいです。

14>AC04アタッカー様
うわぁ…ダーティハリーのネタだとバレましたか…。犬ビックリであります。実は古い映画とか好きなんですよね。
この間はキスカを借りてきて見ましたです。(古すぎ?)

PS 例の場所なんですが何度か送信しても弾かれます。
なんでかなぁ…後でもう一回挑戦してみます。

15>MAGIふぁ様
ごめんなさい〜。レアどころかとんでもない話にぃぃぃ。Orz

16>hiro様
えー。犬の筆力不足で書ききれませんでした。
元ネタはあのおばあちゃんのスタンド能力、傷つけた場所を自在に操る、をピートの新しい能力に加えたかったんですぅ…。尋問とかに便利そうなものですから後の事件物につかえないかなぁと…。
意識を操るはあっても意識はそのままに部位だけ操るは無かったと思ってましたので〜(平謝り

17>ミーティア様
すんません!マヌケどころか別な妖しい空間に取り込まれましたぁorz

18>クロス様
はいです。三千院はそこに気がつかない愚か者。言ってしまえば今の金さえあれば後の生徒がどうなろうと知ったこっちゃ無いと言うタイプです。
だから理事長とは和解出来ません。ただ、そういう人の方が経営的にはアピールが強いのも事実でありますので、そこんところを上手く話しに出来ないかなぁと考え中であります。

19>炎様
お待たせしました。次話で炎様の分身キャラ「炎(ほむら)式」が登場しますです。(でもさわりだけかも…)扱いの方は…ご容赦くださいませ。

20>古人様
理事長と横島が戦うと…横島くん負けます。
だって理事長ってマヌケにも強そうだし〜。
というか。実際どうなるかはわからんです。
理事長が複数の式神を同時にコントロールすれば犬の横島君はかなり苦戦するでしょう。でも自然の多いところでは横島君が有利かも。

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