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▽レス始

「狐ノ妹 その4(GS)」

桜華 (2005-03-20 19:38)
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 見知らぬ部屋で、タマモは目を覚ました。

(ここ、は……?)

 あたりを見まわす。
 鼻を利かせると、そこかしこに横島の匂いが感じられた。
 理解した。ここは、横島の部屋だ。

(私は―――)

 思い出す。
 あのあと、泣くタマモに見かねて、横島は自分のマンションへ彼女を連れてきた。
 事務所でないのは、自分の家のほうが近かったからだ。
 雨に濡れたタマモを、彼は早く暖めてやりたかった。

(そうだ。横島の家に入って、シャワーを浴びて……)

 狐うどんを食べて。
 そこからの記憶がない。どうやらそこで、自分は眠ってしまったらしい。
 時計を見ると、もう、夜の10時だった。4時間近く眠ったことになる。
 のろのろと起きて、部屋を出ようとすると、廊下の向こうから横島の声が聞こえた。

「ええ、そうです。はい。タマモはうちに居ます。今は寝てますから―――手ぇ出したりなんかしませんよ! ケダモノですか、俺は」

 どうやら電話をしてるらしい。会話内容から察するに、相手は美神だろう。

「停学、ですか。はい。わかりました。伝えておきます。
 …………そのことなんスけど、美神さん。タマモは、うちで預かりますんで」

 聞き耳を立てるタマモは、驚愕の表情を浮かべる。
 タマモは、うちで預かります。
 嬉しかった。事務所へは戻りたくなかった。あそこにはシロが居る。

「ちぃがぁいますって! だから、そういうんじゃなくって!
 なんつーか、その……あいつ、かなり参ってるんですよ。追い詰められてるっつーか。シロとも顔、合わせづらいだろうし。
 つらいときに逃げ込める場所ってのは、必要だと思います。ここなら、あいつも遠慮しなくていいですし。俺も気にしませんし。
 仕事も、できればキャンセルさせてあげてください。今は何もさせないほうがいいです。ええ」

 横島は言った。
 つらいときに、逃げ込める。
 自分が、タマモの避難所になると明言した。
 タマモはそれが、たまらなく嬉しくて。
 受話器を置いた横島の背中に、小走りに駆けて抱きついた。

「おわ! タマモ? 起きてたのか」

 こぉんと、タマモは鳴いた。甘えの声を出した。

「電話聞いてたのか? 退学にはならなかったってさ。あと、ここ、使っていいから。シロとは顔合わせられないだろ? ほとぼり冷めるまで、好きなだけ居なよ」

 こぉんと、タマモは鳴いた。感謝して甘えた。

「………タマモ」

 頭に乗せられたては、温かで。とてもとても温かで。

「もう、無理すんな。な?」

 こぉんと、甘えた声で、タマモは鳴いた。
 自分の帰る場所。その腕の中で。
 こぉん。
 その温かさに、抱かれながら。


  狐ノ妹
  その終


 よく晴れた寒空の下、タマモは一人、校舎の屋上で弁当を食べていた。
 中身は、ご飯とおかずが6:4。平々凡々とした内容だ。いつもはもっと、油揚げがふんだんに使われているのだが。
 しかしタマモは、笑顔で箸をつける。
 昼食に油揚げがない。そのこと自体は悲しい。しかしそういう日は、決まって夕食に油揚げが出てくるのだ。
 つまり、お弁当に油揚げが入っていない=今日の夕飯は油揚げを使うからね、というケイの意思表示なのだ。
 昼食か夕食か。ふたを取るまでドキドキし、油揚げが入っていたら楽しい昼食、入っていなくでも夕飯に期待を寄せて、やはり楽しい昼食というわけだ。
 はてさて、今日の夕飯はなんじゃらほい? なんて考えながら、タマモはおかずをぱくついた。
 校庭では、食の早い生徒たちがちらほら遊びに出ている。隣のクラスのシロもその一人。自分の倍はある弁当を、どうしてこんなに早く食べきれるのか。不思議だが、まぁ、シロだし、とタマモは納得している。
 対してタマモはといえば、食べるのが遅い。というより、早く食べるつもりがまったくない。
 箸を少し進めては手を止め、校庭のシロを眺めたり。少し食べては、小鳥に目をやり呆、としたり。
 その繰り返しで、彼女が昼食を食べる頃には、校庭は喧騒に包まれているのが常だった。
 食べ終わると、特にすることもない彼女は昼寝をする。昼間の屋上での日向ぼっこは、彼女を容易に夢の世界に連れていってくれるのだ。
 そのまま午後の授業をサボってしまうこともあり、まぁ、出席率はちょっと悪かったりする。
 横になる前に、タマモは隣にある中等部の校庭へと目をやった。
 そこではケイが、級友とバレーボールにいそしんでいた。
 その様子はとても楽しそうで、タマモは心地よく微笑した。
 よかった。楽しくやってるみたいだ。
 ケイがこちらに気付き、大きく手を振ってくる。小さく振り返すタマモ。それに気をよくし、ケイがさらに大きく手を振って―――

「あっ」

 彼女の顔面に、バレーボールがヒットした。
 うずくまるケイを、あるいは心配し、あるいは呆れ、級友たちが取り囲む。
 立ち上がったケイは平気みたいで、すぐにボールが回されたした。

(………いいなぁ)

 その光景を、タマモはうらやむ。
 自分が得ることの出来なかった級友たちを、ケイは得た。それを嬉しく思い、同時に軽い嫉妬を感じる。
 空を仰ぐと、太陽が目に入る。眩しくて、目を細めた。
 いい天気だ。でも、ちょっと空気が重い。これは夕方以降、雨が降るに違いない。
 そういえば、あの日も、こんなにいい天気だった。やっぱり、夕方から雨が降ったっけ。
 思い出すのは、6月のあの日。雨の降る公園。彼の部屋。
 一緒に暮らした三ヶ月。その前の、つらかった2ヶ月。なにも信じられなくなった一日。信じられた唯一の人。
 貰ったネックレス。なくした時の恐怖。見つけた時の絶望。取り返した時の放心。そして、怒り。

 今はもう、思い出の彼方だ。

 停学期間が過ぎても、タマモは不登校だった。
 登校するようになったのは9月。二学期が始まってからだ。
 今でも、学校はあまり好きじゃない。イジメはなくなったが、その代わり、恐れられるようになった。友達は、やはりいない。
 それでいいと、タマモは思う。
 自分には横島がいればいい。横島と共にあれればいい。
 ただ、それだけが許されるのなら。
 ほかはどうなろうと構わない。何だって我慢できる。耐えていける。
 誰とも話さない学校も。ここで得た知識で、あいつの役に立てると思えば苦にならない。
 だけど、他の人までそうであってほしいわけじゃない。
 だから、ケイの光景を、素直に嬉しく思う。自分が送れなかった学校生活を、彼女には送ってほしいから。
 弁当を食べ終わり、伸びをする。
 気持ちのよい空だ。こんなときは昼寝が一番。チャイムが鳴るまで、少し、眠るとしよう。
 さて、と。

「今日のおかずは、なんじゃらほい、と」

 心地よい日差しの中、そうして、タマモは眠りについた。


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 これにて、狐ノ妹は終了となります。最後まで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。

 最後には、時間軸を『猫ノ妹』まで戻しました。
 この時点のタマモは、雨の日の公園のときとは違います。少なからず自立しようとがんばっています。美神女霊事務所に戻りました。シロとも仲直りしました。サボりがちだけど、学校にも通ってます。
 相変わらず、横島は大好きで。優先順位としては最高位だけれど。
 だけれども、彼女は歩いているのです。横島にもたれかからずに、自分の足で。
 ただ、支えられるのではなく。いつか、その隣に立ちたいと願いながら。
 それでも、横島に対して甘えん坊なのは、まぁ、乙女心の表れってことで(^^;

 さて。かねてより申しましたとおり、狐が終われば、次は犬(めきょ!)……狼です。こちらは多分、今までで一番短くなるんじゃないかなと思います。多分、章を分けることもないかと。春休み中には書きたいと思ってます。

 最後に。
 添付はしておりませんが、公園のシーンを描いてくださったたかすさまに多大な感謝を。おかげでイメージが沸きました。ありがとうございます。

 ではまた、次の妹でお会いしましょう。
 桜華でした。


 PS.
 おまけというのもなんですが、下に、私の妹シリーズのノートより、タマモの設定を抜き出してみました。楽しんでいただけたら幸いです。

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 名前:タマモ
 性別:女
 年齢:16(肉体年齢)
 種別:妖孤

 備考:
 金毛白面九尾の狐の生まれ変わり。生まれ変わってまだ2年。
 六道女学院高等部一年。シロとはクラスが異なる。
 美神親子と六道理事長の特別な計らいにより、さしたる困難もなく入学。本人は人間社会を知る一環といってるが、それなりに楽しんでいるようである。
 入学当初、妖怪ということで周囲からいじめを受けており、そのせいで再び人間不信がぶり返し、ストレスで発火能力を制御しきれなくなった時期があった。
 そんなタマモにもっとも真剣に取り組んだのは横島だった.自身、関西から転向してきたときに、軽くいじめられたことがあったらしい。タマモもまた、横島を頼った。
 いじめがなくなり、タマモの横島に対する思慕の念は飛躍的に上昇した。
 追い詰められて一時期は横島宅に泊り込んだことがあり、今でも、何かにつけて横島の家に泊まりに来る。
 『猫ノ妹』初登場時において、タマモはすでに攻略済み、好感度マックスな状態。そのため、役割的にはケイに対する同姓の上位者、すなわち姉、よきアドバイザーを担う。
 妹たちの手前しっかりしているように見せるが、その実1、2を争う甘えん坊。二人きりのときは遠慮なしに横島に甘える。が、それは依存ではない。彼女は横島が好きだが、無条件に従うことはない。意見も言うし、それが己の考えに反すれば逆らうこともある。その辺の地に付いた考え方から、横島に対して最もパートナー的存在となり、長女(暫定)としての地位を築く。
 お気に入りは、横島の背から首に腕を回すこと。横島の顔がすぐ側にあり、また、横島と同じ視界を持つことが嬉しいらしい。

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