横島は跳ね起きていた。
「っ!」
「きゃっ!」
視界が夢の中とは違う風景を見せる。
ベッド。布団。少し古びた感のある部屋。天井には見ようによっては人の顔に見えるシミがある。
そして正面には、朝日が差し込む窓を背後にして女が一人。巫女のような服を着ており、驚きの表情でこちらを見ている。
同居人の月神族、朧だ。
「えー、っと……?」
「おはようございます。横島さんが自分から起きるなんて、珍しい」
「いや、何か変な夢を……?」
答え、夢の内容を口に出そうとして気付く。
首をひねり、
「……どんな夢だったっけ?」
思い出せない。
うっすらと、とても快いものだったという事だけが記憶にある。
「むう。思いだせん……!」
「悪夢だったんですか?」
「いや、どっちかってーとイイ感じの夢で……ああああ! なぜ思いだせん!? ひょっとしたら21禁なステッキードリームかもしれんのにー!」
「横島さん横島さん」
朧が手招きをして、服の胸元をはだけた。
「私でどーです?」
「おおおおっ!?」
思わず身を乗り出した。
その時だ。
「やめいっ!」
「はうっ!」
朧の側頭部に金属製の何かが着弾した。
鈍い音を立てて朧を打撃したそれが、床に転がる。おたま。
打たれた場所をさすりながら、朧はおたまの飛んできた方向を向き、
「か、神無。――おたまは痛いの。金属だから」
「朝から破廉恥な真似をするなと言っている!」
朧の向いた先には、神無が立っていた。
手に包丁を持ち、割烹着姿だ。
……似合ってるなあ。
言い争いを始める二人を眺め、思う。
いい朝だ、と。
「……ほら、神無の欲しがってたチョコエッグ“世界の刀剣”の妖刀八房あげるから。それで手を打たない?」
「む、……そういうことならば」
二人の口論が平和的に解決したところで、横島は一言呟いた。
「平和だなあ」
○
走る風景の中、マリアは居た。
電車内だ。いつもと変わらぬ服装で、マリアは座席に腰掛けている。
普段なら行動を共にするカオスは、今はいない。
単独で行く先は、美神除霊事務所だ。
用件は説明と交渉。
……横島さん、仲間に入れる。
文珠という霊能は、どこの概念空間でも通用する立派な概念兵器だ。
UCATがオカルト関係にうとい事もあり、横島・忠夫という戦力は是が否でも欲しい。
だが、雇用主である美神・令子は手放さないだろう。
だから、
……ミス・美神と交渉する。
横島・忠夫のみならば向こうも渋る。
美神除霊事務所としてUCATと契約させれば、オカルト関係の戦力も手に入り一石二鳥だ。
問題は、
……ミス・美神は、素直じゃない。
美神・令子は筋金入りの天邪鬼だ。自分の意に反した選択は選ぼうとしない。
仮に横島がUCATに協力する旨を説明したとする。その場合、彼女は自分の丁稚が意見して来たことに反発し、交渉は決裂するだろう。
ゆえに、
……横島さんより早く、ミス・美神と交渉する。
そうしろと、カオスに言われた。
カオスの考えは的確だ、とマリアは判断する。
美神・令子と横島・忠夫の交渉をシミュレートすると、高確率で人間関係の破局を迎えるとの結果が出る。
あの二人、いや、あの二人を中心とした繋がりは、非常に……そう、非常に、
……快い。
人造の自分でさえもそう判断できるのだから、それを壊してはならない。
マリアは自分の出した答えに応える。
「Tes.」
言葉と同時、車内アナウンスが入った。駅が近い。
ブレーキ音が響き、電車が揺れる。
しかし、マリアは揺れない。
○
漂ってくる匂いで、タマモは目を覚ました。
油揚げ。
「……食べる」
布団を跳ね飛ばし、起き上がる。
ん、と軽く体を伸ばして、壁にかかった姿見を覗いた。
「うわあ……」
酷い寝癖だ。
昨夜の捜査の後、西条のおごりで飲み明かしたのを思い出した。
西条は適当なところで切り上げたようだが、シロと共に酔いつぶれるまで飲んだ記憶がある。
泥酔状態で帰って来る途中、絡んできた酔っ払いを、
「……二、三人ほどミディアムレアにしたんだっけ?」
シロはシロで、同じく二、三人ほど霊波刀で全裸に切り剥いていた。
「西条にバレたらまたお小言ね……」
はは、と乾いた笑いが口から漏れる。
はあ、と息を吐き、隣のベッドを見た。
シロはまだ寝ている。ぐしゃぐしゃになった掛け布団の横から伸びる脚が、妙に艶かしい。
「この色気が普段出せればね……。横島なんて一発で篭絡できるのに」
苦笑を浮かべ、タマモは着替え始めた。
○
毎度毎度打ち切ってませんよ、と言うのもマンネリなので
続いてますよ。
と、ゆーわけで目下LOVE寄せ中の伏兵です。
とりあえずキャラ付けの為に、神無さんは刀剣マニアにしてみました。チョコエッグとかのオマケ集めるのが趣味ですが、運が悪いので狙ったものが出ません(←萌えポイント)
あと電波受信しました電波。
「横島に技能使わせろ」
「美神に五行使わせろ」
「1st-G概念空間内で神通棍に“陣痛”とか書いて“陣痛棍”」
夜中でテンション上がりつつ次回
『人工幽霊一号、愛に目覚める』
『人工幽霊一号vs横島』
『ジークの恋人はべスパ』
の三本でお送りいたすかもしれません。まる。