ビルの並ぶ都心。美神除霊事務所の隣に、オカルトGメンのビルがある。
その建物の一室に、一組の男女がいる。
美神・美智恵と、西条・輝彦だ。
「そう。結局手がかりはないのね」
「ええ……、あの二人に匂いを追ってもらったのですが、途中で不自然に断絶していた、と」
「犬神二人の追跡を逃れるのは至難の技よ。身体を機械化していたんですって?」
「はい。見たことのない型です」
「米軍辺りが機械化歩兵の開発をしているというのは聞いた事があるけど……」
美智恵は提出された報告書に目を通し、胸中で結論づける。
……神魔族ではない、か。
報告書のシロとタマモのコメントに書いてある。
“人間に近い。だが少し違う”
神魔や妖怪が人間の姿を取ることは多々ある。だが、太古の神を憑依させた事もある人狼と、大陸にその名を広く知られる金毛白面九尾狐。高位の犬神二人の嗅覚を騙せるものはそうそういないはずだ。彼女らはただの匂いではなく、魂の発する霊波の匂いを嗅ぎ取っているのだから。
……人でもない、はず。
神にも魔にも出来ないことが、人に出来る分けがない。
だとすれば、
「――異世界」
「は?」
「……なんでもないわ。引き続き調査を続けて」
美智恵はかぶりを振り、西条に指示を伝える。
「まったく痕跡を残さずに襲撃するのは不可能よ。絶対に何か残っているはず……」
美智恵は口元に手をやり、中指を噛む。西条が軽く眉をしかめた。
あら、と視線に気付いた美智恵は手を隠し、
「ごめんなさいね、人前で」
「いえ。無くて七癖、といいますし」
「クセじゃないのだけれど……」
美智恵は苦笑。
「どうも最近、面倒ごとが多くて」
「“彼”が帰ってきて以来、いろいろとありましたからね」
「そうね」
美智恵は立ち上がり、窓を開いた。
青く広がる空は快晴。まばらに見える白雲がビルの並ぶ街中に陰りを生んでいる。
下を見ると、隣の建造物の前に見知った顔を見つけた。
既に少年の域を脱し、青年となっている“彼”。成長した体躯はしかし“彼”であると判り、何よりトレードマークの赤いバンダナが“彼”が横島・忠夫であると示している。
美智恵はそんな横島が美神除霊事務所に入っていくのを見送りながら、呟いた。
「また何か、面倒なことを持ち込んできたのかしら……?」
○
横島は夢を見ていた。
夢の舞台は、夕の朱空をバックにする鉄の巨塔。
東京タワーだ。
なぜ夢だと判るかといえば、
「わたしがいると夢なの?」
「いや、だって」
目の前になぜか居る女の問いに、言葉を返す。
「お前は、――死んじまったじゃないか」
女は微笑を浮かべた。
黒のボディスーツを身に付けた女はふわりと浮き上がる。
「ヨコシマの中で生き続けてるのよ――、って言ったら信じる?」
鬼火のような小さな光を幾つも周囲に浮かべながら、
「わたしの霊基構造はヨコシマにあげたから。魂の縁で繋がってるの」
蛍の光を乱舞させる彼女に、横島は手を伸ばした。
「……でも、今まで夢に出てきたことは――」
彼女は伸ばされた手から逃げるように宙を踊り、微笑む。
「エネルギー結晶と触れたでしょう? 波動を受けて残ってた魂の残滓が活性化したのよ」
「じゃあ、これからはずっと」
「あ、それは無理」
首を横に振られ、大げさにコケる。
しかしすぐに復活し、
「なんでやー!?」
「毎夜毎夜夢想領域に意識発現するのなんて無理よ。それでなくても今のわたしは霊基構造の記憶していた劣化情報に過ぎないんだから。常自我だって持ってなくて共通の記憶から作為的に見せた夢で被再生してもらってるだけだし」
「そ、――そうなんかあ。そりゃーしかたないなー」
「――ヨコシマ」
と、彼女は笑みを浮かべた。
負けずにこちらも笑みを返し、微笑みあうこと数秒。
「理解できてないでしょ?」
「うん。さっぱり」
はあ、と彼女は溜息を一つ。
「ヨコシマだもんね……」
「溜息ついてそーゆーこと言われると泣きたくなる」
「簡単に言えば、夢で会えるのは多分これで最後ってこと」
「…………」
横島は無言で、彼女を抱きしめた。
しかし、
「…………?」
両の腕で確かに抱きしめたつもりだったが、感触がない。
だが目で見れば、確かに腕の中に彼女がいる。
「夢じゃ触感はないでしょう?」
彼女はくすりと笑い、
「触ったりするから夢が終わっちゃうわ。――そろそろさよならね、ヨコシマ」
「――待っててくれ。絶対、絶対に蘇えらせる」
「……しなくていいわ」
彼女がいい、腕の中からすり抜けた。
完全に朱に染まった空、沈み始めた太陽をバックにして、彼女が言う。
「同化って究極の愛情だと思わない?」
夕焼けの中、彼女の体が無数の白光に分解していく。
「わたしはそれで満足。だからもう、危ないことに首を突っ込んだりしないで欲しいの」
「……概念戦争ってのは、そんなに危険なのか?」
「アシュ様に少し聞いただけだから、詳しくは知らない。でも」
光の分解は止めようも無く続き、もはや彼女は輪郭がおぼろに見えるだけだ。
「――“覚悟”がないのなら、関わらない方がいいわ」
陽が沈んだ。
暗くなり始めた空を、白の光群が上天へと昇って行く。
「さようなら、ヨコシマ。――大好きよ」
蛍光の中に彼女の顔が見えた。
笑みだ。
目を弓のように弧にした、快い笑み。
それを目に焼きつけ、横島は彼女の名を叫んだ。
「――ルシオラ…………!!」
○
打ち切ってないって言ったら打ち切ってないんです。
と、いうわけでまたもや大幅に間を開けて伏兵です。
日刊とかやれる皆様が異常に見える昨今、皆様どうお過ごしでしょうか。伏兵は思いつきで行動しています。ルシオラとか出すつもりなかったのに出てきました。獏が居ない代わりの夢イベントです。
実を言うと、特にルシオラさんが好きってわけじゃない伏兵です。というかいい加減ルシオラ夕焼けネタはマンネリが過ぎるんじゃないかと思いますがそこら辺どうなんでしょう。伏兵はもうどうでもいいから行き当たりばったりで行きたいと思ってます。
早くワルキューレ&ジークvs横島・忠夫、1st-G概念空間内森林ブービートラップ大作戦、とかやりたいものです。
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