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「繋がりの年代記 十一話(GS+終わりのクロニクル)」

伏兵 (2005-04-16 22:05)
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 ワルキューレは寮を出て、空を見た。
 鮮血を思わせる月が真円を描き、微弱な魔力を放射している。
 満月だ。
 紅の月光を照射する月に頷きを一つ。
 翼を伸ばした。背伸びをするのと同じ感覚で黒の両翼を伸ばし、調子を見る。
 異常なし。
 よし、と胸中で呟き、気配を感じて後ろを振り返った。
 赤闇の空を、こちらに飛んでくる者がいる。
 ジークだ。

「来たか……」
「来ました」

 ジークは頷く。

「本当にいいのか? 付き合う義務などないのだぞ」
「姉上だってそうでしょう。――覚悟は決めました」
「そうか……」

 弟の答えを聞き、ワルキューレは再び空を見上げた。
 ジークも、同じく空を見る。
 そして、

「!」
「!?」

 同時にあるものを見つけた。
 一匹の、妖蜂だ。
 声が響く。

「……ようやく気付いたのかい?」
「べスパ!?」

 ジークに名を呼ばれ。
 馴染みの蜂魔が、二人の横手の空間から歩み出てきた。

 ……軍装備の……隠形結界か。

「何を警戒してるのさ」

 ベスパは憮然とした表情をつくり、右手で髪をかきあげた。
 そこで、彼女が左手に何かを持っている事に気付く。
 長方形のバッグだ。目を凝らすと、それが夜刀の竜革で出来ていると判る。
 それの意味するところは、

 ……中身は魔剣の類か。

 夜刀の竜革は耐魔耐刃性に優れているため、魔剣の類の梱包に良く使われる。
 視線に気付いたのか、ベスパがバッグを持ち上げた。

「ああ、これ? 餞別」
「餞別……?」
「軍研の方から試験名目でガメてきたんだ」

 言い、ベスパがバッグの留め金を外し、中身を取り出す。
 取り出されたのは、一振りの大剣だ。
 それを見て、ジークが呻いた。
 両刃の刀身は長大で、およそ技を見せるのには向かない超重兵器。
 刀身の中央には翠緑の色を持つ珠が、縦に三つほど等間隔で埋め込まれている。
 その刃に瞳を映し、ジークが呟く。

「……バルムンク」
「何?」
「1st-Gの概念技術を用い、僕の所持していた魔剣バルムンクを元に設計された魔界初のカウリングソードです。もう完成していたのか……」

 聞こえた言葉を反芻して、ワルキューレはベスパに向き直った。

「――ベスパ、なぜ私達にこんなものを渡す?」
「要らなかったら向こうに返してといて」
「な・ぜ・だ。――答えろ」

 問いに、ベスパは溜息で答えた。
 あー、と前置きし、

「――何か、厄介事に首を突っ込むんだろう?」
「……そうだ」
「だから餞別だよ。あんたら姉弟には何かと世話になってるし」

 ベスパの答えにワルキューレは押し黙った。
 しかし、口を開く。

「――その厄介事が、人界と敵対するようなものでもか?」
「……?」

 首を傾げるベスパに、ジークが答えた。バルムンクをバッグに入れなおしながら、

「この剣を持ってきたのなら、概念戦争について少しは知ってるんでしょう? ベスパ」
「ああ。……でもそれはもう終わってるんだろう?」
「概念戦争自体は確かに終結している。Low-G……人界の勝利で。――しかし戦後交渉が残っている」

 言いながら、ワルキューレは右手を月にかざした。
 中指にはまっている指輪を見て、

「……私とジークは、1st-Gの民の血を継いでいる」
「え――」
「概念戦争中、魔界に来た1st-Gの女が居るんです。騒乱の最中、事故で魔界に落ちた彼女はとある魔族の男に拾われ――しかし元の世界へ戻ることは叶わず、そのまま男と契って子を成した」
「その1st-Gの女と魔族の男が、――私達の母と父だ」

 言い、ワルキューレは拳を握る。

「……親との、誓い?」
「強制されたわけではないが……」
「生みの親ですから」

 返って来た言葉に、ベスパが軽く目を伏せた。
 親。彼女にとっての親とは、魂の牢獄を拒み、死という名の解放に身を任せた魔神だ。
 追想を、しかしベスパは髪をかきあげることで振り払う。
 魔神・アシュタロスは滅びた。魂は牢獄から解き放たれた。
 だから哀しまないと決めた。そう、ベスパは言っていた。
 月が、三人を照らしている。


                  ○


 横島は事務所のドアを開く前に、まず自身の状態を確認した。
 体調――問題なし
 霊力――万全。
 文珠――OK。
 よし、と軽く呟き、横島はドアを開いた。同時、声が響く。

《おはようございます、横島さん》
「よ、人工幽霊一号」

 建物それ自体から響く声に、軽く片手をあげて挨拶を返す。

「美神さん、起きてるか?」
《はい。……また挑むんですか?》
「まあな。そろそろ自分を取り戻したいとゆーか」
《構いませんが、私を壊さないようにしてください。――最低限、文珠は使わない方向で》
「了ー解」

 ひらひらと手を振り、横島は戦闘態勢をとった。
 集中する。
 霊力の量でも手数の多さでも勝る自分が、何故か負けてしまうのは何故か。

 ……油断だろうな。

 勝ったと思い、気を抜いた瞬間。そこで彼女は反撃に出る。
 もはや油断はしない。
 手を抜かず、本気で、全力をもって、

「美神さんのチチを揉む――――!」


                    ○


 聞こえた叫びに、美神は頭をかかえた。

 ……何叫んでるのよ。

 まったく、と呟き、テーブルの対面に座するマリアが立ち上がるのを制すると、神通棍を手にする。
 妙神山での修行も、彼の性格を変えることは出来なかったらしい。
 嘆く一方で、変わらないでいてくれてよかったという思いが、

「今日こそはー!」

 叫びに邪魔された。
 廊下を駆ける音が聞こえ、次にドアを開く音が続く。
 現れた彼は両手に“栄光の手”を纏い、ルパンダイブで飛び掛ってくる。

「もらったああああ!」
「うるさいっ!」

 対して、美神は神通棍で刺突を放つ。
 外しようの無い慣れたタイミング。必中するはずだ。
 そう思った瞬間、横島が声を張り上げた。

「テェ――ック!」
「あっ!?」

 ――横島・体術/回避技能・ひねり・重複発動・成功!

 技能――テック。横島が妙神山で猿神から習ったという、身体制御技法だ。
 かわしようの無い攻撃を、横島は無理矢理に体をひねって避ける。
 しかし代償に跳躍力を殺され、美神から数歩離れた位置に着地した。
 真正面から向き合い、美神は神通棍を横島に向けて威嚇する。

「今日こそ、そのチチがシリコンかどうか確かめてみせる……!」
「悪質なデマを流すんじゃないわよっ!」
「なら確かめさせてもらいまっす!」
「やらせるかぁっ!」

 横島が“栄光の手”の手指を伸ばした。両手の十指が生き物の様に伸びうねり、絡み付こうと迫る。
 神通棍では切り払え切れない。そう判断し、美神は声を出した。

「ア――」

 音はア、という単音。
 自身の存在を強く強く意識し、美神・令子という存在に宿る言霊を、ア、という単音に凝縮する。
 あとは神通棍に乗せて放つだけだ。
 美神は言霊の乗った神通棍に霊力をこめ、振りかぶり、

「――アアアアァァァァッ!!」

 振り下ろす。
 放たれた光が伸び来る十指を破砕した。
 五行――バストと呼ばれる最新の除霊技術。己を形作る言霊を霊力に乗せて放ち、対象の霊基構造を打ち砕く荒技だ。
 “栄光の手”の手指の破砕を目にし、しかし横島は笑みをつくって言う。

「――もらった!」
「っ! 足!?」

 足元、床を這うように何かが伸びて来ていた。先程と同じ、霊力の指だ。
 それの元を辿れば、横島の足がある。

「足に“栄光の手”を出して――」
「両手両脚に“栄光の手”を出せるようになった俺は、美神さんという難峰を極めんとする超一流のロッククライマー! 山を目指すのはそこに山があるからだぁーっ!!」
「このバカ……!」

 怒りを攻撃衝動へ変え、それを霊力へと昇華させて、美神は神通棍を振るった。
 もはや足は完全に絡め取られている。が、構わない。
 棍から伸びた霊力の鞭が、横島を打撃しようと身をくゆらせる。

「だが甘い!」

 霊鞭の打撃は、霊盾の防御によって弾かれた。
 もはや手がなくなったと見た横島が、手をわきわきとさせながらこちらに迫る。

「苦節――何年か忘れたが……その胸、揉ませてもらいます!」
「まったく……」

 溜息をついて、美神は自分の耳に耳栓を装着した。
 そして胸元に手を入れ、一つのものを取り出す。
 それを目にして、横島が硬直した。脂汗を滲ませ、視線を彷徨わせ、そして、

「……今日も俺の負けっスか?」
「当然でしょ」

 微笑んで言って。
 美神は目を瞑り、スタン・グレネードのピンを抜いた。


              ○


 打ち切ったと思っていた方、甘いですよ。
 一ヶ月ぶりの投稿でごめんなさい伏兵です。いや、某所のロワ企画とか某SRCとかFateで何か書こうかとか棄てプリのエロ書こうと妄想したりとか、そういうのに手を出していてですね、なんといいますかごめんなさい。でも後半は五時間程度で書けました。
 とりあえず技能と五行出してみました。風水は魔鈴あたりでどうかと思いましたが、魔鈴さん出てくるのいつでしょう。謎です。
 横島が全然成長してませんが、原作未来横島見る限り人の本性は変わらないものだという真理が発見できます。ってか頭撫でるより乳を揉むのがヨコシマイズムだと思うのですがどうでしょう。性犯罪者? うわ確かに。

 さて、そろそろ日常とか戦いに至るまでの道筋とか全部ほっといて最終決戦シーンだけ書きたくなりましたが、そうもいかないののでとにかく頑張ろうと思います。

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