世界の霊的拠点が残り一つになる、三日前の事。
最後の砦であるここ妙神山では、小竜姫が今日まで鍛えてきたシロに、修行の終わりを告げていた。
「小竜姫どの……今日まで拙者に稽古をつけて頂き、まことに感謝するでござる。」
小竜姫は頷き、後の事はヒャクメに任せると言い、生き残った神魔と作戦について話し合いに行く。
「そうだ! ヒャクメ、これを美神さんに……」
「私からもだ。」
小竜姫は『竜の牙』を、ワルキューレは『ニーベルンゲンの指輪』を美神に渡して欲しいと、ヒャクメに託す。
自分たちが行う策が、必ず成功するとは限らない。もし、失敗すれば自分の身は自分で守ってくれという事なのだろう。
「わかったのね。……それじゃ、私はこれから美神さんのもとに……皆、また会いましょうね。」
小竜姫も、ワルキューレも、その他の神魔もヒャクメに頷く。
また、会おう。それは作戦の成功を祈るという事であった。
――心眼は眠らない その58――
シロとヒャクメは、妙神山から下山すると、すぐに美神除霊事務所に向かったが、すでに美神は、ヒャクメも知らない都庁の地下にあるアジトに避難していたため、向かいにあるGメンの事務所でその場所を知り、ようやく美神達と再会する事が出来た。
時間もないため、互いに自己紹介を済ませると、すぐにヒャクメは妙神山で小竜姫たちがどう戦うかや、横島の状況等について説明する。
なお現在、このアジトには、雪之丞、横島を除くGSチームが集まっていった。
皆は横島が生きている事に安堵し、同時に横島が記憶を失いアシュタロスの手駒になっている事に憤りを隠せない。
「でも、それなら横島さんの記憶が戻れば、横島さんは帰ってこれるんですよね!」
おキヌは兎に角、横島が生きていた事を喜ぶ。
だが、美智恵、西条、美神といった知識も豊富な一流のGSは、横島が操られている状況であれ、横島が多くの和平派の神魔を倒してしまった事が気になっていた。
ヒャクメはその事は、全てが終わった後に上が判断する事だと説明する。
「問題は、どうやって記憶を取り戻す事か…よね。」
美智恵が何とか、最強のカードである横島をどうすれば取り戻せるのか考える。
ヒャクメは、多少の説明しただけで横島が頭痛に襲われた事から、美神たちなら何とか記憶を取り戻す事も出来るのではないか? と説明する。
だが、
「ここで問題なのが、記憶を取り戻した横島さんが、自分が倒してしまった神魔の事を受け入れられるかという事なのね。下手すれば、横島さんの心が耐えられない可能性もあるし……」
いくら能天気でお気楽な横島でも、急に記憶が戻り、その各シーンを一気に見せられたらどうなるか分からない。
唯一の救いは、動機が三姉妹を救うためにやったという事だろう。
「……ようは、あのバカを何とかすればいいんでしょ。それに……」
「令子ちゃん、何処に行くんだい?」
大体の話は終わったと、美神は竜の牙、ニーベルンゲンの指輪を持って部屋から出ようとする。
どうやら訓練に戻るらしい。
「どうにもならないなら……私がアイツに引導を渡さなくちゃね。それが、せめてもの……ね。」
その言葉にどのような思いが籠められていたかは、本人である美神にしか分からない。
ただその日、美神が100人抜きを達成した事が、その思いの強さを示していた。
/*/
「そこの彼女、可愛いねーーー!! どう、今から一緒にお茶でも?」
久しぶりに、一人で人間界を歩き回る機会が出来た横島は、ナンパに励んでいた。
自分では素敵だと思っている笑顔で、何人もの女性に声をかけ続けているのであったが、
「え〜〜? なんか〜〜?」
「イケてない?……ってゆ〜か〜?」
微妙呼ばわり、
「ぷはははははっ!! ば〜〜〜か!!」
物凄く、アホに見られたり、
「………………」
完全に無視されたりと、散々な結果に終わってしまう。
当然、怒り狂う横島であったが、喚き散らす事しか出来ずストレス解消のはずが、溜まる一方であった。
「ぢぐじょ〜〜〜!!! 覚えとけよ、近い将来、この国を支配者になるこの俺に向かってーーー!!!」
つい最近、土偶羅から、全ての事が終わったら、この国の支配者にしてやると言われて、今まで以上にやる気に満ち溢れていた横島。
そして自称ナンパ師の名にかけて、このままで終わるわけにはいかず、再び活動を再開するのであった。
「ね〜〜〜!! そこの―――!?」
何処かで霊力と魔力がぶつかり合っている事を感じる。
分かっているのは、この魔力は三姉妹の誰かという事だ。
「……嫌な予感がするな。」
ナンパを切り上げ、戦場に向かう横島。
/*/
高層ビル屋上にて佇む少女、もちろん普通の人間ではなく、パピリオである。
すでに残す拠点は妙神山のみになった横島達は、そろそろエネルギー結晶を含んだ魂を持つメフィストの生まれ変わりを探す必要があった。
「メフィストの生まれ変わりは日本にいる可能性が高い……んでちゅけど、そんな簡単に見つかるわけないってルシオラちゃんは、何で分からないんでちゅかね?」
そんなわけで、あまりやる気がなかったパピリオであった。
遊び相手の横島も、ルシオラやべスパがのんびりさせる必要があると言っていたので、一人ポツンと、結晶探しをせずに集合場所で姉達が来るのを待っている。
「全く、ヨコシマもこんなか弱い少女を放っておいて何処行ってるんでちゅか!」
そんなパピリオに愚痴られている横島は、ナンパ中アンド撃沈中。
パピリオはやれやれと、街を見下ろしていると、霊力の強い二人組みを発見する。
「……暇でちゅしね」
少しばかりやる気を取り戻したパピリオは地上へと降りていく。
パピリオが地上に降り立ったよりも早く、長髪の男の方はこちらに気づいたようだ。
パピリオはそんな男に、警戒しても無駄なのにと思いながら、前進して行く。
ドン
「おっと、悪い――」
「どけ。」
二人組みを見ていたため、通行人にぶつかってしまう。
気分を害したパピリオは、ゴミを払うかのようにその通行人を手で弾き飛ばした。
「マーくん……もしかして、このコ……」
「そやな。でも安心し、冥子はん……大丈夫や。確かに相手の実力は桁違いやけど、僕らを侮っている今なら、どうにでもなる。」
鬼道と冥子は、もうすぐ起こる戦いのため、最後の骨休めに買い物に出かけている最中、パピリオと遭遇してしまう。
自分達は相手の実力をヒャクメから知らされている。そして、向こうはこちらの切り札を知らない。
敵が油断している今が、倒す絶好のチャンスであった。
鬼道は、とりあえず冥子を落ち着かせて、相手の出方をうかがう。
「こわくないでちゅよ〜〜。すぐ終わるから!」
パピリオはくすくすと笑いながら、鬼道と冥子に迫ってきて、冥子を指差し――
「冥子はん!!――夜叉丸!!」
――指輪ほどの大きさのリングが冥子を迫る。
冥子はポカンとしているが、鬼道はすぐに自分に夜叉丸を憑依させて、リングを叩き落そうとする。
「落ちろ!!――何やと!?」
線の動きを捉える事など造作もない。鬼道の放った矢は、見事にリングに直撃するコースであったが、当たる直前、リングは巨大化して矢を弾く。
それはそのまま冥子を囲い、リングの飾りであるドクロの目が光り、冥子に光を浴びせる。
「キャアアアアア!?」
「冥子はん!?」
リングは冥子から離れて、小さくなりパピリオのもとに戻る。
倒れこむ冥子を鬼道は支えて、冥子に話しかけるが、冥子は気を失って返事はない。
『―――結晶存在せず。』
パピリオはリングが取得した冥子の情報を聞いていた。
どうやら、あのリングでエネルギー結晶の有無が判別できるようだ。
(……冷静に考えるんや。冥子はんがいいひん今、あの術は不完全にしか使えん。)
鬼道が初代鬼道から教えてもらった、二つ目の術、それは六道家と鬼道家の者が協力して、初めて完成するモノだった。
(だから、メキラの力で逃げるのが、ベストのはずや……そのはず、そのはずなんやけど!!)
鬼道はテレポートが使用できるメキラ(トラ)を使用してパピリオから逃げる事が最も、正しい考えだと判断する。
なお、鬼道が十二神将を使えるのは、六道女史、冥子二人の許可があって、なおかつ、十二神将に心を許されているからであった。
伊達に、月での事件から毎日、冥子と一緒にいたわけではない。それなりに十二神将に懐かれている鬼道であった。
もちろん夜叉丸のように呼べばいつでも使えるわけではない。十二神将は全てにおいて、冥子を優先するのだから。
余程の事がない限り、十二神将は鬼道の言う事は聞かない。
だが今回は、借りなければ命にかかわる危険性があるのだから、力を貸してくれるだろう。
「好きなおなご傷つけられて、黙っていられるほど大人しいないで!!」
「へ〜〜、やるでちゅか?」
パピリオは少しは面白くなると、言いながらも完全に鬼道を舐めている。
対する鬼道は、まだ動かない。いや、動いていないように見せかけている。
ギリギリまで自分がしている事を悟られるわけにはいかない。
子<シ>
「どうしたんでちゅか? こないのなら――」
「何処行っているのよ、パピリオ!」
たんかを切っておきながら攻めてこない鬼道に、ならばこちらからとパピリオが攻めようとした時――上空からルシオラとべスパが現れた。
丑<チュウ>
ルシオラが集合場所に居なかったパピリオを叱りながら地上に降りる。
敵が増えて焦る所なのかもしれないが、焦った所で仕方ないのも事実。
ならば少しでも早く完成させる。
寅<イン>
「霊力の強めのがいたんでちゅ。だから調べようと思って……」
パピリオが自分が、集合場所に居なかった説明をしている。
ルシオラもべスパもその説明を聞いて、納得しながら鬼道を見つめる。
鬼道は三姉妹を睨み返しながら、出方を窺う。あのリングなら気をつければ、かわす事は容易だ。
卯<ボウ>
「とりあえず、後はあの突っ立っている男だけでちゅね。」
パピリオは先ほど、冥子に放ったリングを同じモノを鬼道に放つ。
「メキラ。」
シュンッ
メキラのテレポートで、冥子を抱きかかえながら三姉妹の後ろ側に移動する。
三姉妹はテレポートした鬼道に多少驚くが、移動手段を持っていたところでそれだけでは自分達に敵うわけがないと、まだ鬼道を舐めている。
やはり、三人全員居るというのが、油断を生んでいるのだろう。
辰<シン>
「面倒だね――少し、痛い目にあいな!!」
べスパが鬼道に向けて突っ込んでくる。
だが、鬼道は構えようとしない。それは当然の選択だ。
自分が特大の矢を放ったところで、真正面からでは相手が受けるダメージはせいぜいジャブをもらった程度だろう。
ならば、逃げに徹して術の完成を急ぐのが吉。
巳<シ>
「メキラ!」
「――またか!? 今度は何処に!?」
シュン
移動するしか能がない?
十分ではないか。現に、メキラのテレポートは三姉妹をかく乱している。
中途半端な強さは、相手の怒りを買うだけだ。
必要なのは圧倒的な強さ。それは手に入れるために、今、逃げ続ける。
午<ゴ>
すでに工程は折り返し地点を越している。
鬼道の現在の状況は、夜叉丸を含み、8体の式神を使用しているような状況であった。
だが、まだ僅かではあるが余裕はある。冥子と戦った時からは考えられない進歩であった。
未<ビ>
妙神山での二度の命をかけた修行。
フェンリル戦での死闘。
月でのタマモとの決戦。
(……何か、負けてばかりやな〜〜。)
だが、負ければ負けるほど強くなれた。
生死の境をさ迷うほど、強くなれた。
申<シン>
「ぐっ!?」
一気に負担が掛かってくる。
すでに10体の式神を使役している鬼道。
鬼道の霊力は確かに格段に多くなっていたが、それでも二倍になっているわけではないし、なるわけでもない。
量が足りないのなら、ならば、式神一体に使う霊力の消費量を限界まで無駄なく削っていったのであった。
だが、それでも鬼道が十二神将を全て扱うのは難しい。
「くっ、また!!――べスパ、パピリオ!! こうなったら三人でかかるわよ。」
これで何度目だろうか、三姉妹の誰か鬼道に迫ったは、冥子と共にテレポートで距離をとる。
またもや鬼道に逃げられたルシオラは、三人がかりで鬼道を仕留める事に決定したようだ。
確かにテレポートもそう何度も連発できる状況ではない。
テレポートした先に待ち構えられたら、お仕舞いだろう。
酉<ユウ>
「ぐぅぅぅ!!」
強くなりたかった理由は?
初めは、六道家への復讐であった。
だがそれは、父に復讐の道具とされていたに過ぎなかった。
「冥子はん、今、終わらすからな……」
復讐心が消えた時、次に思った事。それは横島に勝ちたいという事であった。
霊能に目覚めてから、僅かな期間で自分を倒した横島に嫉妬しながらも、横島のその成長振りを見るのが、楽しくしょうがなかった。
だから自分も、横島に追いつき、肩を並べ、そして追い越したいと思うようになった。
「我ら三家に伝わりし秘術、その身に刻め!!」
そして、今、鬼道は――
子
丑
寅
酉 夜 卯
申 辰
未 巳
午
「退魔結界――夜叉十二神将――」<未完>
――横島と肩を並べる。
鬼道を中心に、三姉妹を巨大な結界で包囲する。
わかったはずだ。この空間は、魔を滅すために創られた結界だということが。
「な、なに?……まるで力が吸い取られている感じ……」
「これは……まずいわね。ずっと攻めてこなかったのはこれを発動させるわけね。」
三姉妹は、結界発動と同時に体が重くなったような感覚に襲われる。
それは気のせいではない。鬼道の顔が発動前と違い、落ち着いているのは、三姉妹の魔力を結界である十二神将が吸収しているからであった。
つまり、鬼道が十二神将を維持するための霊力を支払う必要がないという事である。
「さ、こっちは準備OKや。いきましょか。」
三姉妹が動揺している間に、冥子を結界の外に出した鬼道。
後は、目の前の敵を倒すだけ。
「……べスパ、パピリオ。時間が経つほど、こちらが不利になるわ。一気に勝負を決めるわよ!!」
その声を合図に鬼道が、三姉妹が動く。
鬼道は三姉妹の動きを窺いながら、矢を放つ構えを取る。
べスパは右、パピリオは左、ルシオラは、上空から攻めてくる。
(甘いで!!)
シュン
「テレポート!?」
この結界内ならば、メキラのテレポート、クビラの霊視、シンダラの飛行能力を夜叉丸は使用する事が出来る。
そしてそれは、夜叉丸を憑依させている鬼道も同じである。
(まずは、一発目!!)
ドォォォォォン
「くっ!? やったでちゅね!!」
テレポートでパピリオの背後を取った鬼道は、そのまま矢を放つ。
しかし予想通り、強烈な一撃を放ったというのに、まだまだ元気を残している。
バァァァン
ドォォォン
べスパとルシオラの魔力の波動が迫っている。
すかさずテレポートを使用して、その場を逃れる事に成功する。
が、
「その手はもう見飽きたでちゅよ!!」
テレポートした瞬間、パピリオの魔力砲が迫ってくる。
別に読まれていたわけではない。テレポートしたその先での、空間のずれから鬼道を見つけたのであった。
鬼道は、その攻撃を喰らってしまうが、追撃される前に、大量の矢を射って牽制する。
いくら弱いといっても、目に直撃すれば別だ。そのため徹底的に相手の目を狙い続ける鬼道であった。
「うっとうしいな!! ほら、これでどうだい!!」
ドォォォン
ドォォォン
ドォォォン
波動の威力を落とし、かわせなくなった鬼道にテレポートをさせ、その先に渾身の一撃を放つつもりなだろう。
だがそれが分かっている以上、そう簡単にテレポートをするわけには――
「ほら、後ろが隙だらけよ!!」
「上もでちゅ!!」
前後、そして上。追い詰められる鬼道ではあるが、そう簡単に終わってしまっては折角創った結界が泣いてしまう。
ゴゴォォォン
鬼道は、地面に向かって強大な矢を放つ。
アスファルトは、衝撃で砕け、砂煙が舞う。
「小ざかしいでちゅ!!」
パピリオが砂煙の中心に居ると思われる鬼道に魔力の波動を放つ。
(……ヒャクメはんの言う通り、戦い方が荒いわ。)
鬼道は、自分の式神を煙の外に放ってから、テレポートをする。
三姉妹は砂煙から出た、鬼道の式神に注目してしまい、その瞬間に――
(受け取り……これならどうや!!」
「えっ!?」
べスパの背後を取った鬼道は、わざと声を出して、こちらを振り向かせる。
もちろん、鬼道に気づいたべスパは鬼道に一撃を入れることに成功するが、
「――!? これも偽者!?」
その鬼道も唯の紙へと戻ってしまう。
と同時に、
ドォォォォォォン
「きゃああああああ!?」
「べスパ!?」
「べスパちゃん!?」
そして、その式神の後ろにしゃがんで隠れていた鬼道が、攻撃に集中していたため、全く無防備なべスパに今日一番の矢を直撃させる事に成功する。
人間が攻撃するときは、防御の方の霊波がおろそかになるのと同じで、攻撃に魔力を籠めていたべスパは、その一撃をもろに喰らってしまう。
鬼道自身、今の一撃はかなりの手応えがあったと確信し、止めの一撃を放とうとしたその時――
ゾクッ
――結界に誰か侵入する。
その者の存在に思わず、鳥肌が立ってしまう鬼道。
それほどまでに侵入者は歪なオーラを放っていたのであった。
「よ…こ、しまはん?」
現れた者は鬼道の問いかけに答えず、べスパに駆け寄る。
その速さは、疾風の如く。
「べスパ……大丈夫か!?…………ふ〜〜、よかった。」
直撃はしたが、命に別状はない事は知り、横島が発するオーラも多少は収まる。
だが、怒りが消えたわけではない。そのまま感情を力に変換していると、
「ヨコシマ、駄目よ! 怒りに身を委ねちゃ……」
ルシオラが危ない状態になりかけていた横島に声を掛け、我を取り戻させる。
どうやら、横島もいつもの調子に戻ったようだ。
「……アンタも俺を知っているのか?」
あの時のヒャクメと同じで、またしても自分を知る者に興味を示す横島。
でなければ、すでに戦いは再開されていただろう。
鬼道は横島の記憶を取り戻すチャンスと、大声で話そうとするが、
「知ってるも何も!! 横島はんが記憶を失って――」
「黙りなさい!!……ヨコシマ、敵の言葉なんて聞いても仕方ないでしょ? さっさとこの結界潰して、逆天号に戻りましょ!」
鬼道が横島を説得するのを邪魔するルシオラ。
だが結界を潰すといっても、鬼道を倒すか、周囲に広がっている十二神将を攻撃するのどちらかなのだが、前者は鬼道を未だに倒せていない。後者は攻撃する前に鬼道に邪魔されたり、式神がテレポートをしたりして、出来ないでいた。
「……まぁ、とりあえずアンタを倒せばそれですむんだろ?」
「やる気かいな?……横島はん、この結界内で僕に勝てるか?」
説得は三姉妹が居ては無理だと判断した鬼道は、横島を倒す事に決める。
三姉妹も、魔力を吸収され続け、大分疲れているはずだが、それでも横島と一対一をした方がいいと判断する。
三姉妹も横島の強さを信頼しているのか、特に手を出そうという気配はない。
「勝てる?……楽勝だろ。この二つで勝負を決めてやるよ。」
文珠を二つ出した横島は、そのまま念を籠める。
「ええやろ……あの時の借り――今、返すで!!」
鬼道の言葉を合図に、文珠二つが鬼道に向かってくる。
「そんなあからさ――!?」
その文字が見えた瞬間、テレポートで横島の右側に移動する。
その鬼道の表情から、先ほどの三姉妹との戦いからは考えられない焦りが浮かんでいた。
「なんちゅー事すんねん!!」
横島に矢を放つが、横島はサイキックソーサーと栄光の手を盾にしてそれを防ぐ。どうやら、サイキックモードを使用しているようだ。
そして、その間にも、すごい勢いで鬼道に再び迫ってくる二つの文珠。
「な、なんで!?」
横島がしているのは、単純にサイキックソーサーを曲げたりしている事を同じ事である。
そして、それプラス文珠に単純なイメージを念じる事によって、セミオートで追跡する事を可能にしたのであった。
「やっかいな――なら、先に横島はんを――」
一対一の状況のはずなのに、横島と二つの文珠があるため、さきほどと同じように三対一の状況になってしまう。
あの冷静な鬼道が何故、ここまで焦っているのか?
それは文珠に書かれていた文字が、男として焦るしかないものであった。
《金》《的》
恐ろしく危険な文珠である。
しかも追尾速度も、半端じゃないので当たれば……
(ふざけた事してくれるやんけ!! だけど――)
シュン
一気に勝負を決めに行った鬼道。今までは横島の背後や横にしかテレポートをしなかったので、突然、真正面に来られて、横島も動揺してしまう。
「――喰らいや!!」
シュゥゥゥゥン
「きっっっ!?」
強大な矢が横島に迫り、横島は栄光の手とサイキックソーサーを重ねてその一撃を耐える事に全神経を注ぐ。
だが、衝撃を殺せず、そのまま後ろに倒れそうになる。
「ヨコシマ、危ない!?」
「これで決めや!!」
鬼道はそのまま距離を詰めて、止めの一撃を放とうとする。
当たれば、死にはしないが、あの横島でも全治一ヶ月はかたいだろう。
だが、
「――罠か!?」
「!? 今のをかわすか!?」
横島はワザと後ろに倒れて、鬼道が迫ってきた瞬間、足に纏った霊波の刃で勝負を決めようとしたのだが、寸前でかわされてしまう。
だが鬼道のミスはここで後ろに下がってしまった事だろう。
ゴツ
ゴンッ
待っていましたと、文珠コンビ。
鬼道を左右の死角から回り込んで直撃。
「%&*+##$%&+*$#+」
前屈みになって、悶える鬼道。簡単に冷静さを失わない鬼道であったが、これは流石に無理なようだ。
全く持って何を言っているのか分からない。
一言、
痛い
同じ男としてちょっと悪い事をしたかな〜と、思いつつも、結界が消えた事で勝利を確信する横島。
「……我ながら恐ろしい技を開発してしまった。」
止めの一撃として、リングで鬼道を検査した後、疲労していた事もあって逆天号へ帰還した一同。
三姉妹の呆れ顔が印象的であった。
――心眼は眠らない その58・完――
あとがき
鬼道は前半はシリアス、後半はギャグ扱いになってしまいました。
まぁ、おかげで病院で鉢合わせはなくなりましたけど。
しかし4月の新生活に向けて、忙しい今日この頃。
更新速度が下がる一方ですが、最後までよろしくお願いします