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「除霊部員と秘密の部屋  第7話  (GS+色々)」

犬雀 (2005-03-13 23:50)
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第7話    「コードネームは「シルク」」


「な、何が起こったんだ?」

アリエスの奇想天外な応援から、闘場に目を戻した除霊部員達が見た異様な光景。

呆然と立ち尽くすおキヌと小刻みに体を震わせている愛子、そして流血の中に倒れる鬼道の姿。
両校の観客も決定的な一瞬を見逃したのか声もない。
横島側の男子の大半は別な理由で声も出せないようだが…それはまあ関係ない。

やがて血の海の中から鬼道がゆっくりと立ち上がると、鼻を押さえつつ両校の代表を見た。

片や俯き肩を震わせている巫女装束の少女、そしてその反対に奇妙な形の笛を持って真っ赤な顔をしているセーラー服の少女がいる。

おキヌをよく知る鬼道には彼女が攻撃手段を失ったことが容易に理解できた。
それでも確認するようにおキヌに近づいた鬼道は彼女の足元にポツリポツリと滴る真珠のような水滴に気がついた。
もはや彼女に戦意がないことは明白だった。

愛子の勝ちを告げる鬼道の宣言が場内に響き渡ると同時に、おキヌはその場から逃げるように走り去った。

「お、おキヌちゃん!」

その只ならぬ様子に後を追おうとした横島の手が掴まれる。
振り返ると微笑を浮かべた魔鈴がいた。

「あの…」なぜかと目で問いかける彼に魔鈴は悪戯っぽい微笑を見せた。

「横島さん。こういうことはね。女同士の方がいいんです。」

今一つ理解しきれず困惑の表情を浮かべる少年の手をとると視線を闘場に向ける。

「今、小鳩さんが後を追いましたから。それより愛子さんの方をお願いしますね。」

見れば全身を真っ赤に染めたままの愛子が勝ち名乗りを受けて、闘場から降りようとしているところである。
その顔に涙の跡を見つけて慌てて駆け寄る横島の胸に愛子がすがり付いてきた。

「ふぇぇぇん。横島く〜ん。」

「あ、愛子!いったいどうしたんだ?」

泣きながらすがり付いてくる少女を抱きとめつつ、何があったかを聞く少年に愛子はキョトンとした顔を向けた。不安げな顔で確認する愛子。

「へ?…もしかして見てないの?」

「すまん。ついあっちに目が…」

ばつの悪い顔の横島が目線で促す先を見れば、横島側観客席の前から乳を放り出したままアリエスがプルンプルンとこちらに戻ってくるところだった。

「あれ…ということは…誰も見てないの?」

もしかしたら?と希望の光が見えた少女の問いに除霊部員の男たちは一人を除き皆頷く。漢の本能は揺れる乳を見逃すなんてことは出来んのだ!と心中で呟きながら。

そんな中で先ほどから一人微動だにしない加藤にかすみが話しかけた。

「加藤さん?…加藤さん!!」

かすみの只ならぬ声に皆がそちらを見れば、鼻から一筋流血しつつクワッと目を見開いて木刀を杖に仁王立ちする加藤の姿。
彼女の呼びかけにも返答せず、誰も居なくなった闘場を睨みつけている。
魔鈴がトトトと加藤の前に近づくと彼の目の前で手をヒラヒラ。
続いて瞳孔、脈拍の確認。
固唾を飲んで見守る一同に向けて振り返ると重々しく言った。

「気絶なさってますね…」

どうやら加藤の処理能力を超えた展開にフリーズしているらしい。

「ううう…他に見ていた人は?」

加藤ならやましい思いは抱くまいとは思っても、見られたことに変わりは無い。
再びべそをかきつつあたりを見回すと

「私は見てましたっ!」
「私も見てましたけど…」

シパッと元気に手を上げる唯と何となく申し訳なさそうな摩耶。
赤城は当然といった感じで頷いている。

「ま、まあ…女の子ならいいかしら…」

それでも不満そうな愛子の様子を訝しく思った横島が唯に聞いた。

「なあ、何があったんだ?」

「タダオくんはすぐ乳に目が行くからダメなんですっ!愛子ちゃんがおし「記憶を失えぇぇ!!」…もぎょえっ!」

「ひぃぃぃぃ!!」

必殺の机突っ込みを受けて頭から煙を出し、白目を剥いて耳や鼻から出しちゃいけないっポイ怪しい液体をこぼしつつ、ヤバめの痙攣をする唯の姿に摩耶も震え上がる。

「あら?どうなさいましたのですか?忠夫様…」

震え上がる一同の前に暢気に戻ってきたアリエス。
その能天気な様子に嫌な予感を覚える横島たちの前でやっぱりやってくれちゃいました。

「愛子様。お見事でしたわ!それにとっても可愛いおし…ひいぃっ!」

ギロリと睨まれてガクガクと震えだす。
後じさりするアリエスに机を振りかぶってジリジリと近寄っていく愛子の周りから立ち上る黒い瘴気に近くの木からセミがポタリと落ちた。

「ア〜リ〜エ〜ス〜ちゃ〜ん…」

「ひぃぃぃぃぃ。あ、愛子様も納得の上でぇぇぇ。」

煉獄の闇の底から響くような声に腰砕けになりながらも反論するアリエスに愛子もたじろいだ。

「そ、そりゃそうだけどっ!」

自分が助かるにはこのチャンスしかないと策士の姫様必死に自己弁護。

「だ、だ、大丈夫ですわっ。他の男どもは皆わたくしの乳を見てましたからぁ…」

言われて初めて衆人環視の前でその豊乳をプルプルとさらけ出している異様さに気づくあたり愛子のテンパリ具合もわかるというものだ。

「え?…そういえば何でアリエスちゃんはおっぱい丸出しなの?」

「ちょっと水芸で人文字をば。」

予想の斜め上から返された珍妙な返答に「へ?」と呆けた顔になる愛子とは裏腹に、あれは血文字だろう…と心の中で突っ込む他の部員達。

「まあ細かいことはよろしいじゃありませんか。それより小鳩様は?」

うやむやにするのは今しかないと心の中に邪笑を浮かべてアリエスは摩耶に矛先を向けた。

「小鳩ちゃんならおキヌちゃんを追いかけて校舎の裏の方に行ったみたいですね。」

「なるほど…確かおキヌ様と言う方は忠夫様の同僚の方ですわね…。」

「そうだけど?」と不思議そうな横島の答えに少しだけ考えたそぶりを見せたアリエスは、地べたに転がってピクピクと痙攣している唯の腕を引っ掴むと一同にペコリと頭を下げる。

「わたくしちょっと席をはずしますわ。さあ唯様もっ!」

「らじゃですっ!」

「「「生き返っとるっ?!」」」

横島君を上回るかのような回復力を見せてアリエスとともに走り去る唯をただ見つめるしかない一同であった。


「うっ…ぐすっ…ひっく…う…」

校舎裏にある一本の樫の木にすがり付いて泣くのはおキヌである。
折角、自分のために魔理や弓や神野が作ってくれた機会を、生かすどころか何も出来ずに終わらせてしまった。
悔しいより情けなさに声を殺して泣くおキヌに後ろから遠慮がちに声がかけられる。
ゆっくりと振り返ってみれば心配そうな顔で佇む小鳩がいた。
無理矢理、笑顔を作ろうとするが後から後からあふれ出す涙を抑えることは出来なかった。

「おキヌさん…?」と心配の気持ちを声に乗せ、そっと自分の肩を抱く小鳩の胸にたまらず飛び込むと、泣き声を押さえることも出来なくなった。
自分の胸で泣き続けるおキヌの頭を慈母の表情を持って撫で続ける小鳩にようやく落ち着いてきたのか泣き声がおさまっていく。
そんなおキヌの心情を察したのか小鳩が話しかける。

「何か悩んでませんか?」

「え?」

「なんとなくですけどそう思って…小鳩じゃ何の役に立てないかも知れないけどお話してくれませんか?」

少女の優しさが傷だらけのおキヌの心に沁みていく。
体の中から沸き起こる衝動に身を任せ、おキヌは今までの思いと悩みを語り始めた。

語り終え多少は落ち着いた感のあるおキヌに小鳩がハンカチを手渡す。
受け取って涙を拭くおキヌを優しく見守る彼女の後ろに立つ人影。

「話は聞きかせてもらいましたわ。」、「へう。」

振り返るとそこには、黒いレザーコートを着てサングラスをかけた怪しい風体の少女が二人。

怪しさ大爆発の少女の姿に涙も引っ込んだおキヌの前にズズイと進み出るとペコリと頭を下げる黒い少女。その背に揺れる金髪とのコントラストが美しい。

「初めましてですわね。わたくし忠夫様の「初めてのお相手」のアリ…「えいっ!」…あ゛う゛っ?!!」

また余計な自己紹介をしようとするアリエスの尻に小学生定番の必殺技をかました唯がその指をアリエスのコートで拭きつつ笑顔でおキヌにペコリと頭を下げた。

「お久しぶりですぅ。」

「あ、はい…」

視界の端に映る、額を地につけ高々と突き出したお尻を押さえつつ悶絶する少女の姿に呆然としつつも挨拶を返す。
はっきり言っておキヌにはこの空間に対する耐性は皆無だった。

「あの…この人は?」

「乳と人望が反比例しているカッパのお姫様でアリエスちゃんですぅ。」

「お待ちなさい!!人望が反比例ってどういう意味ですかっ?!」

「言葉どおりですぅ〜♪」

「おのれ…乙女の尻に指を突っ込んだだけでなくその無礼な言動…」

「やりますかぁ?」

「ふふふ…うきゃ!」、「けけけ…みぎゃ!」

睨みあう二人の後頭部を小鳩の放ったこぶし大の石が直撃した。

「今はそんなことしてる時じゃないと思うんですけど…」

炎を背負って進み出る小鳩の迫力にあたふたと正座する二人。
今まで自分の見たことのない小鳩の姿に声も無く立ち尽くすおキヌだったが、ふと聞き捨てならない単語があったことに気がつく。

「あの…「初めての相手」って何のことですか?」

「言葉通りですわよ。わたくしは忠夫様にこの身を捧げるべく日夜努力してますのよ。…あなたと違ってね…」

「え…」

途中からトーンを変えたアリエスの意味不明な発言におキヌの眉が曇る。
そんな彼女を無視するかのようにアリエスはシバッと立ち上がると黒いコートを脱ぎ捨てた。
その下から現れる豊満な肉体を包む際どいボンテージルック。所謂、違った意味での女王様スタイルである。
その横でヨジヨジとコートを脱ぐ唯は先ほどの小学生スタイル。
さすがに引っかかりの乏しい彼女の肢体では紐系のファッションは無理だった。

赤面するおキヌにビシッとアリエスの指が突きつけられる。

「先ほどから聞いていましたが、「忠夫様と居られる時間が無い」、「置いていかれている気がする。」、「忘れられたらどうしよう?」…ええい、なんてじれったいっ!!愚痴をこぼすより先にあなたは何か一つでも行動なさいましたの?!!」

さも「イライラするわねっ!」とばかりに叩きつけられる言葉に一瞬言われた意味がわからず「え?」と引いてしまうおキヌ。そんな彼女にカッパの姫様の貫禄も露にアリエスはますます非難を続けた。

「少なくともここにいる小鳩様も唯様も愛子様も皆さん忠夫様と一緒に居るために努力してますわよ!わたくしだってカッパの国の仕事をおっぽり出してでも忠夫様と居たいと思っているからこそ、毎朝、追っ手との過酷な戦いの世界に身を置いているんですわっ!!」

「「仕事ホッポリ出すのはマズイと思うんですが…」」

顔を見合わせてボソリと呟く小鳩と唯の言葉に額から一筋汗を流しながらも、聞かないふりをしておキヌに対して言葉を重ねる。

「忠夫様はあなたのことを「人のことを気遣えるとっても優しい人」と言っていましたが、どうやら忠夫様の御眼鏡違いでしたのね…。」

「横島さんが…」

「ええ、確かにおっしゃってました。でも、私から言わせればあなたは単に臆病なだけですわ。変わらない日常をお望みなら、なぜそれを護るという努力をなさらないのですかっ!!」

横島が自分のことをそんな風に言っていてくれた…おキヌの胸に温かな火がともる。
だが、今のおキヌはそれを素直に受け入れることは出来なかった。

「でも…」と言いかける少女の言葉を遮る。

「「でも」だ「だって」だは敗者の台詞!負けを認めるなら愚痴などこぼさずにとっと忠夫様を諦めたらいかがかしら?」

「そんな…そんなの嫌ですっ!!」

突き放すようなアリエスの言葉に彼女の心の奥底で無理矢理に眠らされていた気持ちが動き出した。
心の動揺を目元に表したおキヌの表情にアリエスは心の中だけで微笑する。
しかしそれを表に出すことは無く、ますます追い討ちをかけるようにおキヌに弾劾ともとれる言葉をたたきつけた。

「本当は忠夫様がお嫌いなんでしょう?ですから逃げようとなさっているんですわ!」

「違います!大好きですっ!!」

迷わず出た心の叫びに一瞬のうちに赤面するおキヌに先ほどとは打って変わって優しい声をかける。

「でしたら何を恐れていますの?一度や二度の失敗や恥が何なのかしら?」

「え?」

アリエスの言葉の意味がわからずポカンとするおキヌ。だがそれが例の横島の台詞に対するこだわりのことだと察することが出来た。

「恥と言えば…アリエスちゃんは凄いですもんねぇ。醤油漬けになったり…」

「唯様だって人のことは言えないですわよ…それに小鳩様だって全面開脚フルオープンでしたものねぇ…」

「ええ…そりゃもうパックリと…って何を言わせるんですか!!」

突然始まる暢気な会話。
だがおキヌは微妙に危険な空気を感じた。何か…とんでもない陰謀?があるような…。
迷いの森にいたとはいえ恋する乙女の直感は鋭いのだ。

「あの…何の話ですか?」

「今度、ゆっくりお話しますわ。だってわたくしたちお友達でしょ?」

聞くべきか聞かざるべきか逡巡するも、こと横島に関する話題であるならば聞かねばなるまいと勇気を出したおキヌにアリエスは笑う。
その笑みと「友達」と言う言葉に戸惑う少女の心の中でカチリと何かの枷が外れた音がする。

「え?友達ですか?」

「あら?忠夫様がお嫌いですか?「そんなことないです!!」だったらお友達ですわ。わたくしたちの会員になる資格がおありです。」

「会員…?」

「はいですぅ。「タダオくんをみんなのモノにする会」ですぅ!!」

横島が聞いたら「オレの人権は〜?」と血涙を流してのた打ち回りそうなことをサラリと言う唯。
驚愕の秘密組織の存在に驚くおキヌはあっけらかんと微笑んでいる小鳩に気がついた。

「え゛…あのもしかして小鳩ちゃんも?」

「はい。そうです。」

小鳩ちゃん全面肯定。その表情に一遍の迷いなし。

「どんな活動を…」と恐る恐る聞いてみる。
もしかしたら自分がコンプレックスやら何やらでウジウジしている間に事態はとんでもないレベルに推移していたのかと思い至り手にジットリと汗が滲み始めた。

「名前どおりですわよ?」

「ええぇぇぇぇぇ!!そんなっ!「横島さんをみんな『で』モノにする会」だなんてっ!!」

ここでおキヌちゃん、元祖天然キャラの本領発揮。
痛恨の聞き間違い…いやもしかしたらこっちが正解かも?

(みんなで…嫌がる横島さんを無理矢理…そんな不道徳な…あ、でも前に弓さんに借りた本にそんな話が…アレってどうなるんだっけ?えーと…)

少女の脳内で起きた致命的なボタンの掛け違えは、彼女の妄想をどんどんエスカレートさせていった。
横島が嫌がると決め付けるあたり、何やら特殊な嗜好の本から得た知識が刷り込まれているのかも知れない。

(そ、そうだ!たしか最後はなんだかんだでハッピーエンド!!)

驚愕の叫びの後で何やら妄想し、顔を真っ赤に染めつつ「イヤンイヤン」と身悶えを始めたおキヌをちょっとだけ可哀想な子を見る目で見ていた小鳩たちだが、幕張への巡礼経験豊富なアリエスは正確に少女の妄想の内容を看破する。

ニヤリと笑うと小鳩と唯に素早くアイコンタクトを送る。
以心伝心、それだけで分かり合う少女達。
「馬鹿な!ナンセンスだ!!」と言う無かれ、マヌケ時空は伊達じゃないっ!!

まだ妄想から帰還しないおキヌの周りをグルリと取り囲むと手をつないで歌いだす。

「「「か〜こえ。囲え。籠の中のタダオくん。いーつどーこでヤる。夜明けの晩に鳩と唯が迫った〜。お次の順番、だ〜あれ〜♪」」」


横島が聞いたら恥ずかしさのあまり悶絶すること確実のマヌケな調べに「ふぇ?」と妄想から帰還したおキヌちゃん。
そんな彼女の思考が現実に戻らぬうちに少女たちが止めを刺しに出る。

「おキヌちゃんですぅ〜♪」

「「わーい!次はおキヌちゃんの番だぁ〜♪」」

ビシッとおキヌを指差す唯と楽しげにはやし立てる小鳩とアリエス。
小鳩はちょっとだけ恥ずかしそうだったが…。

「きゃー。嬉しい!」

自らが知らずに作り上げた心の迷宮をマヌケに打ち砕かれ、思わず出たおキヌの魂の声に「勝った!」と目を見合わせるマヌケの戦士たち。
「今だ!チャンスだ!真空飛び膝蹴り!!」とばかりにアリエスが畳み掛ける。

「さあどうです?おキヌ様も会員になりませんか?今なら入会費は無料!特典でわたくし特製「忠夫様お宝画像入りDVDアダルトバージョン」がつきますけど?」

「ど、どんな画像なんですか?」と妄想を引きずったままのおキヌ。目が真剣。

「「「くすくすくす…会員以外の人にはねー♪」」」

「入りますっ!!」

何やら優越感を漂わせつつ笑いあう三人の少女の姿に今までの悩みはどこへやら、すがりつくようにして叫ぶ。
無理もない。
何時までもウジウジしていたらこの奇妙な会にとんでもねー事態を引き起こされ、何もしないでいるうちに致命的な差をつけられたかも知れないのだ。と珍妙な時空の影響を受けた頭で考える。
もう迷いは無い。いや…迷ったり遠慮している場合ではない。

少女の目に決意の炎が宿ったのを確認したアリエスが重々しく頷いた。

「よろしい。では今日からあなたはわたくしたちの仲間、コードネームは「シルク」です。」

「コードネームですか?」

「小鳩は「ピジョン」です。」

「へう。私は「フラット」ですっ!英語で「唯」って意味だそうですぅ。」

騙されているぞ英語赤点・天野唯。帰ったら「平たい」を辞書で引くがいい。

「それに後はわたくし「クイーン」と「デスク」、後は「フォックス」と「ウルフ」、それで全員ですわね。よろしくですわ「シルク」さん。」

にっこり笑って手を差し出してくる少女達。
その笑顔にやはり満面の笑顔で返すおキヌの心にもう迷宮は存在しないようであった。


新メンバーを向かえ活気づく秘密組織の少女達。
そんな彼女らの元に息を切らして走ってくるのは、メンバー入りの可能性が高い摩耶である。

「皆さん大変ですっ!」

どんな時にもノーパソを手放さない彼女が手ぶらで走ってくるからには相当の大事が起きたのかもしれない。

「へう?どうしたんですかぁ。」

「大変なんです!早く来てください!!」

その尋常でない様子に顔を見合わせた少女達は、互いに頷きあうと一目散に走り出した。


彼女達が校庭に戻ってみれば、そこはかなり険悪な空気に満ちていた。

「何があったんですか?」

おキヌの問いに魔鈴が呆れを含んだ声で答える。

「今までの試合にクレームがついたんです…いいえ。ほとんど言いがかりですね。」

「「「はあ?」」」と顔を見合わせる少女達。
ふと見れば六女側の若い男性教師がマイクを片手に横島たちを憎々しげに睨みつけている。

「あの人は誰ですかぁ?」との唯の言葉にかすみが元気のない口調で答えた。

「霊能科の先生よ。名前は芹沢。はっきり言って嫌な奴。」

「あの…クレームってどんな?」との小鳩の声が聞こえたかのように芹沢がマイクに向けて感情むき出しに怒鳴り続けた。

「こんなインチキ試合に何の意味がありますか。だいたいどこが霊能だと言うのです!あなたたちはこの伝統ある六道女学院を馬鹿にするためにわざわざやってきたのですか!!」

顧問の相沢が芹沢とは対照的に冷静な口調で反論する。

「私たちは貴校を馬鹿にしようとは思ってません。勝敗はこうなりましたが良い戦いだったんじゃないですか?」

「どこがですか!ガラクタを振り回してみたり、プロレスだったり、口先三寸で丸め込んだりのどこが良い戦いだとおっしゃるんですか?!」

芹沢の言葉に六女側応援席のあちこちからちらほらと賛同の声が上がる。
呆気にとられる除霊部員たちと横島側観客席。

「かすみ殿…」

「は、はいっ!」

突然、加藤に声をかけられピクッと体を引くつかせるかすみだが、加藤の声音が怒りと呆れを含んでいることに気がついて顔を伏せた。

「六女の教師とはあのような輩でも務まるものなのか?解せぬ話だな。」

「…うん…ごめんなさい…」

「貴公が謝る必要はない。しかし…戦いの意味さえ解せぬ男が教師とは恐れ入る。」

「どういうことですか?」と会話に参加してきた摩耶を軽く一瞥して加藤は話しだす。

「私には霊能のことはわからぬが、霊能以外で決着のついた戦いは私とかすみ殿の一戦だけであろう。その程度はわかる。」

ロボは霊力によって動いている。そうでなければ物理的攻撃を無効化する結界内で戦える道理がない。だいたいどうやれば空き缶が自在に宙を飛ぶと言うのか?

加藤の戦いとて加藤自身に霊能が無くとも、加藤の持つ剣が霊刀ならば問題は無い。
実際、霊力そのものの強さより所持する霊的な武器の力によってプロとして活躍しているGSもいるのだ。

一見マヌケに見えるアリエスの戦いとてそうだ。
心理攻撃を跳ね返されたとしても六女代表たる遙があんな取引に応じたのは彼女の精神防壁が崩されたことも一因である。それにその気になればアリエスは遙を水撃で攻撃することも出来た。

タイガーに関しては言わずもがなであろう。
物理攻撃が効かない結界で膝蹴りが決まったのは、それに霊力が込められていたから、霊力と体術を絡めるのはかなりの技量を要する。霊力を込めたパンチだけで戦いに勝てるならGS試験なぞ楽なものだ。

最後の戦いにしても、実は「先に仕掛けた方が勝つ」というかなり際どいものだったのだ。いや実際のところ距離を取れるおキヌのほうが有利だったろう。

その程度のことも理解できずにぐだぐだと愚にもつかぬ文句を垂れ流す男が教師などとはとうてい信じられぬ加藤である。その意を察してかすみが申し訳なさそうに話し出す。

「あの人は三千院理事のお気に入りの教師なんだけど…はっきり言って嫌われ者なの。除霊理論もなんかいい加減だし…」

「けんど生徒の中にも賛同者がおるようジャガ?」とタイガーが示す方を見れば、確かに六女側の生徒のうち何人かが立って芹沢の抗議に呼応するかのように野次を飛ばしていた。

「文句を言っている人たちも三千院理事が無理矢理入学させた生徒達よ。それぞれ名家の子女らしいけど…。」

「実力は無いということかしら?」と愛子に聞かれかすみはコクリと頷いた。

「ええ。プライドは高いけど実力はそれほどでも無いわ。あれば代表になっているはずだし…」

かすみの言葉に魔鈴は考え込む。
聡明な彼女にはどうにも納得のいかない事態である。
例え芹沢がスカタンでも他の教師陣が彼の的外れな抗議を止めない…と言うのが理解できないのだ。
見れば鬼道は露骨に馬鹿を見る目で芹沢を見ているし、川澄も珍しくあからさまな軽蔑の表情を浮かべている。
にも関わらず理事長からして静観を決め込んでいるのはどうした訳か、と貴賓席を見れば六道理事長に詰め寄る太った男がいた。

「何を話しているか聞けないかしら?」との言葉に唯がへうっと進み出てくる。

「任せてください。ロボ!」と塀際で体育座りしているロボを呼ぶと指示をだした。

「ロボ。集音マイク!」

「ま゛っ!」と良いお返事とともにその手を耳元に当てて聞き耳を立てるそぶりをするロボに「「「そんなもんまで付いてたんかっ!」」」と一斉に突っ込む一同。
どうやらロボは意外に多機能らしい。

「おーほっほっほ。私の設計したロボに不可能はないわ!!さあ摩耶ちゃん。」

何やら勝ち誇る赤城に言われて摩耶はノーパソとロボを接続する。
ノーパソのスピーカーから流れ出す貴賓席の会話。

(あら〜。何かご不満ですかぁ〜)
(ご不満も何もないでしょうが。だいたいですね。代表の決め方がおかしいからあんな馬鹿な負け方をするんです。)
(でも〜。強い人を選んだんですよ〜。)
(どこが強いんですか?そもそもですな。出自の怪しいものや家柄の卑しいものまで当校に入れるからこんな恥知らずなことになるのですぞ。)
(家柄だけでは〜除霊は出来ませんわよ〜。)
(いいえ。やはり代々の名家の子女だけを集めてエリート教育を推し進めるべきです!)


「なるほど…そういう理由でしたか…」

貴賓席の会話を盗み聞いた魔鈴が一人頷くと頬に手を当てて考え始めた。

「となれば…次の展開は…」とブツブツと呟く、どうやら考え事が口に出るタイプらしい。

そんな魔鈴とは関係なく闘場では芹沢の演説が続いていた。

「そもそも除霊や妖怪退治を使命とすべきGSの卵たちが妖怪と共闘するなぞ恥知らずもいいところだ!!」

この一言に横島側のあちこちでプチンと何かがキレるような音がした。

「そちら側の出場選手とやらは何ですか?「獣人」、「カッパ」、「剣士かぶれの素人」、「机妖怪」、あげくに変なロボットを使う「座敷わらし」…」

「誰が座敷わらしですかっ!「天野は座敷わらしじゃありません。ぬらりひょんです!!」…先生えぇぇぇぇ!!」

相沢のフォロー?に絶叫する唯に横島が不思議そうに話しかけた。
妖怪と平気で友達付き合いしている唯にしては珍しい反応だったし。

「妖怪と言われるのが嫌なのか?」

「違います!このナイスバディはどう見ても「サキュバス」ですっ!!」

憤然としつつウッフンとセクシーポーズ?をとる唯に会場の皆さん敵も味方もこの時ばかりは心を一つにして裏手突っ込み。

「「「「それは無理…」」」」

「えうぅぅぅぅぅぅ…」

滝の涙を流して地面に崩れ落ちる唯の姿に我に返ったか、芹沢が再び間の抜けた抗議を続ける。

「とにかく!この試合は無効です!!こんないい加減な試合で六道の名に傷をつけるわけにはいきません!もしどうしてもと言うなら私の推薦する真の代表と戦って見ればいい。もっともそちらに勝ち目はありませんが。」

我田引水も凄まじい六女教師の言い分に相沢も流石に呆れ顔だ。
見渡せば六女側の生徒の大半も相沢と同じような顔をしている。
はっきりと軽蔑の視線を芹沢に向けているものも多い。
その視線は芹沢に賛同する生徒たちにも向けられている。

「言っていることが滅茶苦茶ですね…」

流石に呆れまくった摩耶に顔に静かな怒りを浮かべながら「ああ…」とだけ返す横島。

「真の代表とは?」と聞く相沢に芹沢は鼻で笑って、観客席の最前列で立ち上がっている少女を指差した。

「ほほう。やる気ですか?彼女です。」

真紅の巫女装束に身を包んで横島たちに小馬鹿にしたような視線を向けているその少女の手には朱鞘に収められた短刀が握られている。
今着替えたはずもないのだから、おそらくは何らかの筋書きどおりなのだろう。

「あの子は?」とピートがかすみに聞けば、彼女は申し訳なさそうな顔をして俯いた。

「「御神楽 火之華」さん。代々伝わる炎術師の家系の人らしいです。強いと言えば強いけど…」

「貴公よりは弱いのであろう?「え?」…見ればわかる。」

今度は頬を染めて顔を伏せるかすみ。加藤に認められたのが嬉しい乙女心なのであろう。

「さあ、そちらは誰でもよろしいですよ。もっとも下等な妖怪相手に手加減なぞしない娘ですけどね。」

「それでも宜しければ…」と勝手に話を進める芹沢の不遜な台詞の中に含まれる、聞き捨てならぬ一言にさすがに相沢の顔に怒りが浮かぶ。
その怒りは静かに横島側観客席、そして六女側の観客席へと燃え移っていった。


「しゃあないな…俺が「待って下さい横島さん」…ん?どうしたピート?」

ヤレヤレと進み出ようとする横島の肩をピートが押さえた。

「僕が行きます。」

瞳に静かな怒りを湛え、それでも友に笑顔を向けるバンパイアハーフに少年も笑顔を向ける。
彼が自分のことだけに怒りを感じていないのは、愛子やアリエスにチラリと向けられた視線からもうかがい知れた。
だから彼の肩を強めに叩き返す。

「ああ、行って来いや。」と自分を送り出してくれた友。
その後ろで見守る部員達にも心配そうなそぶりはない。
だからピートは柔らかな笑顔で闘場に向かうことが出来た。

「あ、そうそう。僕もね新しい技を身につけたんですよ。見てくれますか?」

「おうっ!まかせろ!!」

仲間達の静かな声援を背に受けながら…。


後書き
ども。犬雀です。
今回はおキヌちゃん救済?
救済されたのか深みにはまったのか…今ひとつわからん展開になりました。

こういう展開になりましたがハーレムになるかどうかは未定であります。
そもそも「会」の存在自体が横島君の知らないところで起きていることですので…。
だったら女の子同士争う必要ないじゃん。はい。争っているのは「初めて」の権利であります。(マテ
さて…次回は犬の好きなキャラに登場してもらうかなぁ…。

ではでは。

1>義王様
おキヌちゃん救えましたでしょうか?なんか道を誤った気がします。

2>通りすがり様
実は六女で騒いだりしてたのは一部の生徒でした。
抗議の声が大きいからと言って全体の意見とは言えない…って奴ですな。
ピート君に期待しましょう。

3>kurage様
愛子ちゃん救済は後半になる予定…は未定であります。(オイオイ

4>斧様
神野さんですねぇ…なんか勝手に暴走してくれました。
こういうキャラは書いてて楽であります。

5>AC04アタッカー様
視野狭窄ですねぇ。実はもう一つ理由を考えましたが、それは別の話で使おうかと今回はサラリと流しました。

6>ジミナス様
うっ。鋭い読みですな。ギクギクです。

7>wata様
唯よりも最近はアリエスが目立っちゃう状況…生みの親としててこ入れを考えております。ロボもロボの方が目立ちそうだし…。

8>紫苑様
キスまでいくにはもう一段越えてもらおうと思ってます。

9>shin様
こんな風にマヌケに救われ?ました。マヌケは愛を救えるのでしょうか?

10>Dan様
はいです。横島君より前にピート君がGS見習いの実力を見せます。

11>炎様
元々カッパは裸で暮らす妖怪ですので…。
えー。炎様の登場は六女戦が終わりまして旧校舎跡地に戻ってからになります。お時間かけて申し訳ない。

12>ttt様
はいです。何を考えているのか…次あたりで理事長の思惑が出せればと思ってます。

13>うけけ様
マヌケも霊能ということで…(ダメ?と上目遣い

14>十七夜様
了解です。定番技になるかどうか…奇襲には向きますが…。
といいつつ犬は「おしり机」お気に入りです。

15>法師陰陽師様
愛の手というか合いの手になった気が…(汗

16>なまけもの様
大正解でありました。犬、貴殿のレスを読んで「バレた」と冷や汗ものでしたが何とかこういう形にまとまりましたです。
確かにポジになったんだけど…なんか間違っているような…。

17>古人様
黒くはなりませんでした。変わりに形容しがたい色に染まった気もしますが…。この後、どないしませう…。

18>ぽに様
暴走しちゃいました。すんません。
おキヌちゃんを負かす方法が思いつかなかったんです。
(負けは確定でした。)
確かに素に見せかけたものでも良かったと反省しきり。
おしり机に思い入れが過ぎました。
六道理事長の思惑…なにやら企んでいそうです。

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