――ぼんやりとした視界と、さらに胡乱な思考。
うう、と呻きが口から漏れた。
ゆらゆらと持って体は動かされ、それが気持ちいい。
実は立って歩くことは(一応)出来たが、
『…横島さんに、抱かれている…』
と言う訳で、安寧の中に居るのであった。
――第6話
壊れる前まで[戻]したソファーに人工幽霊壱号(in偽美神ぼでぃ)を寝かせ、横島は携帯電話を手にする。
美神の居る筈の事務所に連絡を入れる為だ。
…微妙に残念そうにしている表情に全く気づかず、ボタンをプッシュ――する前に、電話が鳴った。
通話ボタンを押す。
《横島さん?ヒャクメなのねー》
「ヒャクメか、どうしたんだ?」
《事務所と連絡ができなくなったのね、何か心当たりある?》
「…在ると言えば」
《ふーん…》
「って言うかお前ヒャクメだろうが、自分で見ろ」
《あ》
深いため息と共に。横島は、電話を置いた。
雪之丞は、一度アジ…隠れ家に戻り、いつもの黒いコートに着替えてから白井病院に来ていた。
現在、白衣の天使と会話中である。
「だからね、あんたみたいな怪しい人相風体の人しかも親戚でもなんでもない人と会わせるわけには行かないと言う訳でさっさと帰りなさいと言うかもう面会時間は普通に過ぎてます」
長めの台詞を一言ですっぱりと言い切る、白衣の………言葉を選ぶと…いや…選びたくとも、選んだら選んだで失礼な体型のお方が雪之丞の前に立ちふさがっていた。
雪之丞、不覚と言うかなんと言うか、せっかく取ったGS免許を家に忘れてきたのである。
当然、1978年の唐巣がやったようなGS免許を見せて信用させるなんて手は使えない。
院長とは顔見知りだが、今日はなんと日本医師学会とか言う所に出張中らしい。
弓が見たらバカ、と思いっきり言うだろうなと思いつつ、一回おとなしく外に出る。
気配を消しつつ裏手に回り、すでに南中しかけている月を見上げながらフリーウォールクライング。
屋上に普通にたどり着いた雪之丞は、病室を抜け出している患者たち(銀河鉄道の夜を読んでいる長髪の美少女と少年だ)に笑顔で挨拶する。
流石に先ほどの漢護夫(違)さんに見つかってはまずいので、コートを脱いでサングラスをかける。コートの中はアロハシャツと短パンサンダルだ。
絶句している二人を尻目に、雪之丞は院内に入っていった。
暫く歩き着いたのは、4階にある一般病室(個室)である。
ちなみにここに来るまでに白衣の天使に尋問4回外国人のおっちゃんに質問2回爺さんに昔話3回子供に纏わりつかれてサングラスその他を取られる事5回をされている。
一応ノックしてから、その病室に押し入る。
ベッドの上に居たのは妙齢の女性だ。
――美神たちの行った除霊、ナイトメアに取り憑かれていた女性。
彼女は眠っていた。
雪之丞は必死でお約束セリフ――「ママに似ている」を押さえ込み、文珠を発動させた。
「何かあるならこの中だ…[夢/中]」
一瞬、何か膜を破るような感触がした後、雪之丞が立っていたのは森の中だ。
「弓の話と同じか…」
雪之丞は、くすねて来た文珠を玩びながら言った。
アレクソウルとか言う奴らの隠蔽技術は文珠ですら察知できないほどだ。
閃きも無いので、とにかく歩き回ってみる事にした。
雪之丞が、女性の夢の中に入った数分後。
病室のドアが開いた。
そこに居たのは、唐巣。
手に持った花を生け、女性の隣に跪いた。
同様に、西条、魔理、キヌ、シロ、タマモ――GSレギュラーメンバーと言っても過言ではない面々。
彼らは病室に入り、跪いた。
全員の背中から、霧が立ち上る。
ゆらゆらとソレは漂い、壁を抜け――病院を覆っていき、そして、外界から遮断した。
『…あれ?』
『どうしたんですかー?』
妙神山修行所、母屋。
その居間で、ヒャクメが変な声を上げた。
『美神さんの事務所が…』
『さっきの電話と関係あるんですかー?』
『荒されて、誰も居ないのね…!』
『できれば質問に答えて欲しいんですがー』
『…横島さんに連絡しなきゃ!』
『質問に答えるですー!』
…連続霊波砲の光と轟音が、母屋を食い破った。
ちなみに、横島の動向にはまったく関係が無かったりする。
女性の夢の中を歩くうち。
雪之丞は、洞窟を発見していた。中には松明がかかり、床も極端に歩きにくくはならない様一応の整備はしてある。
明らかに人、もしくはそれに類する者の手がかかっていると思われた。
三点リーダをセリフにしつつ、中に入っていく。服装が服装なので全然緊張感が無いが。
中はたまにかけられている松明の明かりの中途半端な光しかない。
諸所にできる影の中には北○の拳に出てくる雑魚キャラですら隠れることができそうな影まであり、しかも相手は黒い霧になれる能力を持つ。
雪之丞の図太い神経は、徐々に、しかし確実に削れていった。
と、そのとき。
曲がり角の向こうから、人影が現れた。
「ッ!」
短い呼気を吐き、魔装術を展開する。
そこに居たのは、長髪を翻した、雪之丞が少し前にプレゼントしたブランド品のコート(日本円換算12万円+送料)を着た弓。
「ゆ、弓!?大丈夫かって言うか本物か!?」
「黙りなさいっ、偽者ッ!!」
弓は問答無用で襲い掛かってきた。
雪之丞もソレを受けるだけに留めておく。
「くっ!俺は本物だっ!」
「証拠は…」
弓が低くしゃがみ、素早い水面蹴り。雪之丞の足が払われた。
弓は低い体勢のまま左手で右手を押さえ、霊気を溜める。
それを宙に浮く形となった雪之丞に向け、
「やばっ…!!」「ありますのっ!?」
解き放った。
雪之丞は腕で防ぐが、支えも何にも無いため、軽く吹っ飛ばされる。
ドギャ、と天井にぶつかり、しかし砕けたのは天井と魔装の背中部分だ。
リアクティブアーマー魔装術。
魔装術の上にサイキックソーサーともう一層の魔装術を重ねた鎧だ。
物理的霊的に拘らず、圧力でサイキックソーサーが爆発、ダメージを抑えると言うアンチ必殺技だ。たとえ戦闘機が真正面から飛び込んできても、雪之丞はそれに耐えうる。
「くっ…そんな所まで真似して!」
「いやお前は俺が本物だと言うことを考え至りもしないのか!?」
「…本物という可能性があるあるだけですから、偽者という可能性も捨てきれません…って言うか私の雪之丞はそんな格好はしないはずです!」
ちなみに魔装術の上に未だにサングラスがかかってたりする。
「いやコレは万が一のための変装で変装というのは特徴を隠せば結構ソレでOKな場合が――」
「問答無用ッ!!」
…ズドギャッ♪
さて、こちらは美神除霊事務所。
横島は人口幽霊一号(in偽美神ぼでぃ顔改造済み)を館に移し、黙々と調べ物をしていた。
「――あった」
地下資料室。
美神が妙神山のとある神にゲームその他を持っていって入手した神族目録(04・パソコン版)。
横島は、事務所に残されていた残存神気(家のはぶっ飛ばしすぎて確認できず)を元に、アレクソウルの身元を確認したのだ。
「…アレクソウル。西洋邪教取締役。齢<よわい>2118…人間から神に上がった。人形作りの達人、分身能力(時間はかかるがほぼ無制限に増やすことが可能)、憑依能力(霊派防壁が低いか虚を突く事で可能)。神魔が争っていた時代には戦闘能力弱く若輩ながらも手柄を上げる、か…」
栄光に満ち溢れているとは言わずとも、かなり良い道を歩んでいると言ってもいい内容だ。
読み上げた内容以外にも零基構造や最大霊圧等もデータにある。
そして、いくら隠蔽しているとは言え――ここまで条件が揃えば。
「[探]」
――たとえ一文字でも、探査が可能。
「さ、待ってろよ皆…!」
横島は、似合わぬ獰猛な笑いを浮かべた。
<その頃の…>
唐巣神父の教会。
その中央に、青年が大の字に倒れていた。
「神父~…」
顔色は青く、声にすらその色が滲み出るかのよう。
「花くらい買ってきてあげるよと…言ったじゃ…無いですか…」
現在、餓死寸前。
――打ち切ってませんよ。
ええ、素晴らしく凹みましたけど。
レス零はキツイっす。自業自得とは思っていますが。
次回は弓さん脱出パートと横島突入・合流の予定。
後2、3話ぐらいで終わる予定です。
たとえ来るなとかと思っている方が沢山いらっしゃっても投稿します。
斧でした。