洞窟に、水音が響いた。
天井のから滴り落ちる水。それが、女性のカタチを持ったモノに滴り落ちている。
水角結界。それが、彼女を捕えている結界の名。
彼女の名は、美神令子と言った。
――第5話
虚ろな表情を水で作る彼女の眼前に、2体のアレクソウルが浮いていた。
片方が霧と化し、美神令子を包む。
水に霧が黒く染みて行き――そして、吹き飛ばされた。
同時に発散されたのは、人としては在りえない霊力――横島が魔族に成りかけた前夜、煩悩炉心メルトダウン並みの出力だった。
『…いかんな、このままでは…』
目の前でまったく同じ存在が消滅しても、アレクソウルは気にも留めなかった。
徒労に終わった結果を想うのみ。
いくらでも【自分】は複製できるからだ。
ぷつり、と自らの下半身に当たる霧を切り離し、分身を作り出す。
ぷつり、ぷつり、とさらにソレは分かたれて行く。
『行け』
数十分かけて元の大きさに育った分身達は、次々に周囲の岩影へと散って行く。
駒を手駒とする為に。
地中。
モグラさんとかミミズさんとかが蠢く場所に、蛍のごとき光を放つ霊体があった。
横島である。
『死ぬかと思った…久しぶりに本気で』
実は先ほど、折檻最初にぶっ飛ばされた時にわざと[死]に、ちょいと地面の中を土公孫。そのまま地中で色んな霊たちと語らいながら、被害を避けたというわけである。
というわけで、肉体自体は死んでいるわけなのだが。
とりあえず、地上に向かう。
地中から気配を探り、近くに誰も居ないことを確認。魂の緒を[繋]ぎ[直]して…戻る前に、体を折檻前まで[戻]しておく。
赤いナニカが、きちんと人の形をとった。
ゆっくりとそれに重なり、腹筋を使って起き上がる。
…あぁ、と口から言葉が漏れた。
最近の趣味だった庭の芝生いじり(高さを揃えると美しい気が)。昨日手入れしたばかりのソレが、切れて斬られて焦げて抉れて枯れて消えて蒸発して破裂して、見る影もなかった。しかも誰も居ない。
…とりあえずキーやんを心中で呪い、ゆっくりと立ち上がる。
「横島君?」
玄関から、美神が出てきた。
「…美神さんっすか。」
周囲に誰も居ない事、その原因を作ったということで、声には険悪が多分に含まれている。
「ええ、横島君――駄目じゃない、もう少し死んでなくちゃ?」
へ、と言う前に斬撃が来た。
「まったく、最初は折檻させて――」
横島は衝撃波をブリッジで避け、右手に霊波刀を形成した。
凄まじい速度で踏み込んできた美神と切り結ぶ。
伸びた美神の爪との接触部で、凄まじいスパークが吹き荒れる。
「――その弱った状態で捕まえる予定だったのだけどね?皆を捕まえるのに手間取っちゃったわ」
ギシ、と霊波刀が軋んだ。精神集中が乱れた為か、綻びてきている。
「くっ!」
一歩引き、霊波刀を手甲のカタチに。
爪を握り、足に実に下手ではあるが魔装術のような物を纏わせ、
「せいッ!!」
蹴り上げる!
青い光が美神の右頬から額までを裂く。
声ならぬ叫びと共に飛沫いたのは、血ではなかった。
「――!!!!」
黒い霧が、ぼふっ、と傷口から吹き出る。
ぐら、と似非美神の足元が揺らいだ。
横島は右手を握り締め、光り輝く拳によるアッパーを――
『横島…さ…』
――思わず、動きが止まった。
似非美神が、右手の爪を振るう。
咄嗟に作ったサイキックソーサは破れ、ザク、と右肩を深く抉られた。
「がっ!」
横島は下がった。
似非美神も、ソレを追わない。
右目を手で押さえながら、似非美神は体勢を取り直す。
「…知ってるわよね、この霊波?」
似非美神は、口の端だけをきゅっ、と上げて笑って見せた。
右目に、女性の顔が浮かんでいた。その霊波は、人工幽霊一号の物で――
横島は、瞬時に文珠を発動した。
[離]の文字が光り輝き、似非美神に向かう。
似非美神はただ哂うのみだ。避けようともしない。
光が当たる。
『キャアァアアアアアアアアアーッ!!!!』
悲鳴が、横島の文珠コントロールを乱した。
似非美神の左腕が人形のように[離]れる。
「アハハ…無理よ、無理。彼女の霊体には、私が食いついてるんだからね?」
左腕を、拾い上げた。
「彼女を放そうとしたら、引き千切るしかないわねぇ?」
「随分と話し方も変わったじゃないか…」
似非美神は左腕を元の場所にくっつける。
「アハハハハ、私は人形だもの?人形は人と一緒じゃ駄目でしょう?それが我が主の趣味だもの…まぁ、とりあえず」
伸びた爪を、右目の位置にある女性に突きつけた。
「――死んでもらうわ」
…その言葉と同時。
雪之丞が素敵にぶっ飛んだ。
素晴らしいまでの放物線を描き、見事に窓に延長線。当然の如く開いていた窓からE.Tの如く月をバックに…落っこちた。酷く鈍い音付随で。
「…鬼ですケンノー」
「本気でやるとは」
「文珠、半分以上蒸発したでござるからな…美神殿に染まってきたのでござろうか」
「あほらし」
「…ヒーリングはしてあげた方が良いんでしょうか…」
殴った当人の弓は、窓へと飛び込み飛び出でて、回転の後雪之丞に凶悪ストンピング。2階分の重力加速でユッキーボロクソである。
ドカとかバキとかボグとか油断するんじゃないですわーとか色々聞こえてくるが、魔理が窓を閉めて遮断した。英断、とシロとタマモが心中でサムズアップした。
「あー…とりあえず、帰るかタイガー!」
「了解ジャー」
無理に明るく魔理が叫ぶ。
一際強いダレカの悲鳴をスルーし、玄関から出て行った(ワッシはコンドルジャー!!)。
数時間後。
「嗚呼、久しぶりにすっきりした気分ですわ…」
ごきゅ、とシャンパンを飲んで、弓はそのキラキラ目(現在普段の約三倍の輝きを)を細めた。
「…さすがに死んだと思うけど」
タマモが夜食の稲荷寿司(おキヌちゃんが寝る前に作ってくれたのだ)をちびちびと食べながら言う。
「大丈夫ですわ、痛めつけたのは肉体だけですから。戦いには影響しませんわ」
グラスにまた注ぎ、飲み干す。弓は一応仏教系GSだが、その辺どーなんだろうとタマモは思う。
仏教、でタマモの頭に閃く物があった。
「神族って名乗ってたわね」
タマモが携帯電話を取り出した。
狐の鳴き声のようなプッシュ音とともに押したその番号は妙神山。
神族――ヒャクメ宛の電話であった。
スーパーファミコンの名作RPGF○5の八手の男の戦闘テーマ、あるいはデカイ橋の死闘が妙神算の番台並びに脱衣所に響いた。
ヒャクメの(衛星)携帯電話の着メロである。
それを聞いていた人物約1名。
更なる成長を見せるアレコレを持つ中学生程度の美少女だ。
「ヒャクメの電話ですねー」
まったく、と彼女――パピリオは電話を手に取った。
「はいこちら妙神山管理人代理ヒャクメ所要の為代理で出ました魔界軍留学生パピリオですよー?」
[ああ、パピリオ?タマモだけどヒャクメは――?]
「えーと、今の所全身の目にシャンプーやら何やらを誤って入れまくって転げ回ってるですー。ちょっぴり怪光線なんかも出てたりしするですよー?」
[うーん…あ、サルは居る?]
「ああ、サルなら今加速空間内でゲーム作ってるですー。なんでもサイコ【□】ガンダムVSサイコガ【ソ】ダムMkⅢVSド【ツ】ゴーラVS【工】ビルドーガVSラビアン【□】ーズVSディビ【二】ダドVSアクシ【ヌ゛】の同時対戦が可能とか…地球がリングらしいですー」
[何なのよその微妙な名前の違いはと言うかパクリ?]
「あくまでオリジナルって言い張ってましたねー」
[…]
タマモは呆れて物も言えない状態らしい。
[また後で、かけなおすわ]
その後、暫く電話がかかって来る事は無かった。
「くそっ…!!!」
ギリ、と横島は歯を食いしばる。
右肩が上がらない。
血は当然ながら大量に滴り落ち、横島の意識を奪いかけていた。
「ほらっ、ほらほらっ?」
月下の下、哂いながら似非美神は爪を突き出す。
「美神さんの顔で、そんなことするなよ…!」
横島は、覚悟を決めた。これが最善と信じて。失敗する可能性を切り捨てて。
「[同/化]!!」
「え――」
似非美神の動きは、横島より遥かに下だ。
横島は突き出された爪をあっさりと避けると、左手で文珠を叩きつけた。発動し、似非美神が震える。
もう一個が横島と似非美神の間で作られ、さらに発動。似非美神と人口幽霊一号を[分/離]した。
ばつん、と似非美神から霧が弾かれた。
醜悪、しかし何処か美神の面影を残した霧を、横島は睨む。
「誰だか知らんが――」
サイキックソーサーが、横島の体から浮いていく。
それは凝縮され、煌きとなった。
煌きはひゅっ、と金鎖のように黒い霧へと巻きつき、
「小竜姫様達に手を出したのは、許さん」
炸裂した。
――暗い洞窟の中で、嗄れた声が反響した。
『失敗したようだの』
訂正。渋いけど間が抜けてる声もした。
『アレは必要な要素』
『やはり人形<ヒトガタ>等では捕獲は不可能』
『ならば此方に引き込むとしよう』
『それが最善か』
『我が主の為に…』
(チャージ中)
(対ショック対閃光防御)
(エネルギー充填128%)
受かったー!!!!
えー、乱文失礼いたしました、斧です。
改定前は本当に滅茶苦茶な文で…
読み返して本当になんでこんな事書いたんだろうか、と。大して変わってない気もしますが。
それと、実は高校の関係で4月から5年間寮に入ることになりまして。
それまでにこの話を終わらせたいなぁ、と思っております。
受験も終わったことですし、気長に待っててください。
次回は突入ユッキーと移動横島の予定。
サブタイトルは何か色々と無理があるので廃止。
某総金属狂乱の短編集の如き苦しみです。